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夢見町の史

Let’s どんまい!

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2017
September 20
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2012
May 19
「ちょっと待ってよ」
 
 珍しく、あたしは彼の話を遮っている。
 
「あの三人のお話をするって、あんた言ったじゃない」
 
 すると彼は「言ったよ」と、相も変わらず涼しげな表情だ。
 その平然とした態度がなんとなく癇に障る。
 
「だったら」
 
 気づけばあたしは目の前の紅茶を飲むことさえ忘れていた。
 
「語り部の女の人、なんで腕が片方ないの? 発見された三体の遺骨は全員腕が二本ずつあるのに」
「まあまあ。今日の君はせっかちだな」
「だってさあ」
 
 あたしは頬を膨らませる。
 
「最初はいきなり関係の無い話とか始められるし、そんなの聞かされたらさ? あたしだって『ちゃんと話してくれるの?』って不安にもなるよ」
「関係ない話?」
「そう。コールセンターの話、いきなり始めたじゃん」
「関係ない話なんて、僕はしてないぞ?」
「え?」
「関係、大いにあるんだ」
「え、ホントに?」
「ホントに」
 
 すると彼は頬杖をついて「聞いていれば解るさ」と自信に満ちた目をあたしに向ける。

------------------------------

   エンジェルコール2
 
 
 
 裁判官のおじちゃんは僕に色んなことを確認してきた。
 彼が特にこだわったのが夢の内容についてだ。
 
「ロウ君、あれは本当に起こる未来なのか?」
「はい、残念ながら事実でございます」
 
 よほど怖い「世界の終末」を見たのだろう。
 
「私に見せたあの夢なんだが、誰の視点かね?」
「視点は何度か変わったかと思うのですが」
「うむ、変わった」
「前半は主に各地で暮らす人々の視点でございますね。後半はより広く被害をご覧いただくため、鳥の目線でお送りさせていただきました」
「君たち天使が私以外の者にこういった大災害の夢を見させる場合なんだが、夢の内容は私と全く同じものになるのかね? それとも人によって内容は微妙に違ったりするのか?」
 
 ん?
 この人、なんでそんなことを気にするんだ?
 まあ、いっか。
 
「夢の内容はですね」
 
 僕は相変わらず丁重さを意識し、また余計な疑惑を持たれないように言葉を選ぶ。
 
「録画のようなものでございます。どなたがご覧になっても夢の内容は細部に置いて全く同じ内容、景色でございます」
「そうか……」
 
 僕らは悪魔なんだけど、基本的に嘘をついちゃいけない決まりになっている。
 だから十六年後に天変地異が起こるっていうのも、魂の調整が取れなくなるっていうのも本当のことだ。
 お客さんに夢を利用して見せる「大災害当事の様子」もだから、全くのホント。
 そうやって顧客の信用を得ることが第一だって、魔王ラト様は判断してる。
 とってもいい営業方針だと、僕も思う。
 最初に「天使だ」って名乗っちゃったけど、天使も悪魔も同じ生き物だもん。
 人間が勝手に呼び分けているだけなのね。
 だからまあ苦しいけど僕が天使だってこともある意味ホント。
 
「気になるシーンがあった」
 
 裁判官のおじちゃんは、あくまで夢にこだわってる。
 
「その人物が誰かなどの詳しい情報を知りたい」
「さようでございますか。ただ、そういった情報の提供でございますと、それは『願いを叶える』の範疇になってしまうんですね。ですので――」
「分かった」
「はい?」
「願いとして君に頼みたい」
「と、いいますと、来世では微生物や虫やプランクトンに生まれ変わってしまっても」
「構わん」
 
 思わぬところで契約取れちゃった。
 こんなオッケーの貰い方、初めてだ。
 でもラッキー。
 これで今月のお給料アップだ。
 
「かしこまりました」
 
 僕は浮ついていることを隠し、穏やかな口調をキープする。
 
「それでは形式的ではありますが、願いのポイントを発行するために、いくつかこちらからご説明させていただきますね」
「うむ」
 
 一つでも納得してもらえなかったら契約破棄って形になっちゃう。
 僕は詰めを誤らないよう、緊張感を高めて色々なことをお話しした。
 
 来世はやっぱり人にしてくれとか、そういった生まれ変わりについてのお願い事はできません、とか。
 それと同じように魂を扱う願い事には応じられない場合がございます、とか。
 ポイントが配布されたら、使い切る前に死んじゃったとしても来世は人にはなれませんよ、とか。
 タイムワープなどの時間操作や死者を生き返らせることは不可能です、とか。
 もちろん「ポイントを増やせ」なんて願い事は論外でございます、とか。
 他、細かいこと色々。
 
「さて、以上でございます。全てご了承いただけましたら、今すぐに願いを叶えるためのポイントを千点、付与させていただきます」
「解った、了承しよう」
「ありがとうございます。それではですね、願い事ができましたらわたくしまでお電話いただけますとすぐさま対応させていただきますので気軽にご連絡ください」
「分かった」
「さっそく先ほどの願いをお叶えになりますか?」
「ああ、頼む」
「先ほどお客様が口にされた願い事は情報収集に該当しますので、その情報の持つ重要性、情報入手の難易度から消費ポイントを計算いたします。その消費ポイント数に納得のいかない場合は願いをキャンセルさせていただくことも可能ですのでご安心くださいませ」
「分かった」
「それでは、知りたい内容を詳しくお聞かせください」
「あの夢では天変地異の瞬間、抱き合って人生を終える親子らしき三人がいたね。他にも肌が変色する病にかかった若い男女なんてのもいたが」
「はい、おりましたね」
「その親子のほうだ。あの母親の名が知りたい」
「はい、かしこまりました。名前だけでよろしいのですか?」
「ああ、今はな。場合によってはさらに色々と調べてもらうことになるが」
「もちろん構いません。ちなみにですね、それだけの情報でございますと一ポイントのみの消費で叶えさせていただきます。よろしいでしょうか?」
「ああ、頼む」
「了解いたしました。それでは調査いたしますので少々お待ちくださいませ」
 
 挨拶をして電話を切る。
 
 あの女の人の名前が知りたいなんて、なんでだろ?
 ちょっと気になって、僕はモニターに映し出されているお客さんの個人情報に改めて目を通す。
 奥さんとは死別してて、愛人さんは無し。
 妹さんとか娘さんとか、そういう女の人も無し。
 親しい女友達も見当たらない。
 じゃあ、なんでおじちゃんはあの母親のことを気にしてるんだろ。
 気になるなー。
 ま、いっか。
 
 続けて僕は「大破壊の夢」のデータベースに入る。
 あの母親の人は、と。
 あったあった。
 彼女の名前はルイカ、二十六歳か。
 
 一応このルイカさんの個人情報も目を通したけれど、どうも裁判官のおじちゃんとの接点はなさそうだ。
 すっごい不思議。
 昔法廷かどっかで会ったことがあるとか、かなあ。
 
 僕は首を傾げながら再びマイク一体型のヘッドフォンを装着する。
 
「もしもし? ロウでございます」
「ああ、どうだった?」
「はい。例の女性のお名前が判明いたしました。お伝えしますと一ポイント消費されますが、よろしいでしょうか?」
「ああ、構わん」
「それではお伝えいたします。彼女の名はルイカ、と申します」
「そうか、やはりな」
「お知り合いでございますか?」
 
 好奇心から訊いてみた。
 だけどおじちゃんは上の空で、「似ているからもしやと思ったが」とか「ならあの腕は義手か」とか「立派になって」とか、ぶつぶつつぶやいている。
 僕は黙って、おじちゃんが現実に戻ってくるのを待った。
 
「なあ、ロウ君。次の願いなんだが」
「はい、何でございましょう?」
 
 おじちゃんの願いは、僕のオペレーター人生の中で初めてのものだった。
 
「私の懺悔を聞いてほしい。どれぐらいのポイントが必要かね?」
「懺悔? わたくしに、でございますか?」
「そうだ。神父に聴いてもらうより、天使である君に直接告げたほうがいいだろう。どのぐらいかかる?」
 
 意外なことを言い出す人だなあ。
 
 僕は笑顔が伝わるよう、優しく微笑む。
 
「それでは申し上げますね。その願いは、0ポイントでございます」
「本当か」
「ええ、もちろんでございますよ。わたくしでよければ、いくらでもお話しください」
 
 そしたらおじちゃんは心から絞り出すような感じで「ありがとう」って言った。
 とんでもございませんと、僕は見られてもいないのに頭を下げる。
 
 僕ら悪魔の本当の目的は一万ポイントあげる代わりに魂を貰うことだもん。
 そのために来世がどうのこうの言って千ポイント分の願いを叶えさせて「願いが叶う中毒」にしちゃうわけ。
 だから親身にもなるよ。
 話ぐらいタダで聞いて信用を得たほうが後々に本当の取り引きに持っていきやすいじゃん。
 モニターにはない個人情報も手に入るし、一石二鳥だね。
 
「恥じらいなどもおありとは思うのですが、わたくしでよろしければ遠慮なさらず気軽にお話しになってください」
 
 僕は再びモニター越しにおじぎをし、にやりと笑む。

------------------------------

 あたしはお酒を止めているから、きっと雰囲気に酔ったのだろう。
 窓から望める夜景がさっきよりも綺麗に思える。
 前菜の効果なのか空腹感が増して、次の料理も楽しみだ。
 
 彼が胸のポケットに手を忍ばせる。
 
「ちょっと煙草、失礼してもいい?」
 
 あたしは笑顔で「駄目」と断言をした。
 
「手厳しいな」
「まあね。でもさ、あんたも相変わらずよく色々と考えるよ」
「そりゃ、ねえ? あそこまで手の込んだプロポーズをしておいて今回何も考えてなかったらよくないと思って」
「ありがと」
「いえいえ。それにしても、今後また抱き合った遺骨が発見されたらと思うと、気が気じゃないよ。また何かと考えなきゃならない」
 
 あはは。
 と、あたしは笑う。
 
「いいじゃない、お話考えたら。ルイカさんみたいにさ」
「ルイカさんみたいに、か」
 
 彼はそこで再びグラスに手を伸ばす。
 
「彼女も僕と同様、話を作るのに苦労した」
「へえ。どんな風に?」
 
 訊ねると彼は一口だけワインを飲み、喉を潤す。

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   阿修羅のように2
 
 
 
 私は、私自身をモデルにすることしか思い浮かばなかった。
 まだ十歳だった当時を思い返す。
 あの頃に失った右腕と、家族の顔。
 そういえば、どことなくこの兄弟は私の妹と弟に似ている。
 
 精神がチクリと痛んだが、あたしは子供たちに笑顔を見せた。
 
「じゃあ、お話始めるね?」
 
 クラーク少年は「すみません」と礼儀正しくペコリと頭を下げ、少女は「やったー!」と万歳をした。
 二人をベンチに座らせ、私は通るように声を張り上げる。
 
「昔々ある町に、十歳の女の子がいました」
 
 大型馬車の事故に遭って、家族と一緒にいたその子は色んな物をいっぺんに失ってしまうの。
 なんて重い話、こんな子供に聞かせてしまって大丈夫だろうか。
 
 片腕を失うほどの重症だったのに、後日になっても痛みを感じなかったことが今でも印象的だ。
 深すぎる傷に痛覚が麻痺したのだろうか。
 
 公園は静かで、私たち三人以外に人影はない。
 たまに吹くささやかな風が涼しく、背まで伸びた私の栗毛をなびかせる。
 
「女の子はね? 何もかも無くすような大きな事故に遭ってしまって、行くところがなくってね。ある教会の、とても親切なシスターに引き取ってもらったの」
 
 マザーと呼ばれていた老齢のシスター。
 現在はもう亡くなっていて、今では私と同い年ぐらいの娘さんがその跡を継いでいる。
 相変わらず身寄りのない子供たちを引き取って暮らしているのだそうだ。
 でもまあ、そんなエピソードは端折って構わない内容だろう。
 
「女の子は本を読んでもらうことが大好きだったから、たくさん勉強して字が読めるようになっていったのね。その教会でもたくさん本を読んで、昔自分がしてもらったように、まだ字が読めない他の子供たちに話をして、色んな物語を聞かせていったの」
 
 あの頃。
 話を聞いてくれた子が「もっと!」と喜んでくれて、私まで嬉しくなったものだ。
 そこで私は暇さえあれば本を読み、次の話を蓄えていった。
 
 今にして思えば、私が語り部という道を選んだのも皆のおかげだ。
 マザーや教会のみんなに、今でも深く感謝している。
 
「こうして、女の子は大人になる頃、物語を話して聞かせるっていうお仕事を始めていたのね?」
 
 さて、ここからどうしよう。
 この先は自分の想像力に頼らなくてはならない。
 
 気がつけば、もうすぐ夕方なのだろう。
 さっきよりも影が伸びていて、少し肌寒くなっている。
 
 なんだかんだで私は、「魔法使いに出逢って様々な試練をこなし、褒美に新しい右腕を貰う」なんていう陳腐な話を長々と語るといった恥ずべき事態に陥っていた。
 
「ごめんね」
 
 クラーク少年の希望通り、結末は腕が復活するというくだりで締めくくってはみたものの、やはり喋ると同時に物語を想像するなんて私には難しい。
 
「つまらなかったでしょう? 今度時間があるときにあたしまた来るから、そしたらもっと楽しい話、色々してあげる」
 
 もちろんお金は要らないから、今回はこんな話になってしまったことを許してね。
 そう加えようとしたところ、クラーク少年に制される。
 
「いえ、非常に楽しめました」
「はあ」
 
 見た目も声も子供なのに、どうしてこう大人びたことを言うのだろう。
 なんて落ち着いた雰囲気を醸し出すのだ。
 
「ただ、もう一つだけお願いが」
「なあに?」
 
 少年はすると、またもや目を伏せる。
 
「最後、新しい腕が生えるといった部分なのですが、そこの描写をもっと詳しく聞かせていただけませんか?」
 
 私は再び「はあ」と覇気のない返答をする。
 クラーク君は小声で「すみません」と口にした。
 
「腕が蘇る部分ね? こんな感じでいいのかなあ」
 
 私の語りが再び始まる。
 
 よりリアルに話をするため、私はゆっくりと噛み締めるようにイメージを膨らませていった。
 芽が育つかのように腕が生え、あっという間に手の形に形成される感覚。
 出来る限り詳しく話せるように、出来る限り鮮明に、細部に渡って想像を巡らせてゆく。
 
「それはまるで一瞬で育つ樹木のようだったの。見る見るうちにその肌色は伸びていって、だんだんと『動かせること』まではっきり判るようになってね? 肘に当たる部分を曲げたりして感触を確かめているうちに、先端が枝分かれをして指が五本生えて――」
 
 小さな子供に解るような言葉を選べなかったのは、やはりクラーク少年の大人びた気配のせいだろう。
 
「爪が作られ、うっすらと産毛まで生えて、気づけばその女の子は新しい右手で髪をかきあげていたの」
 
 ジェスチャーで示すように、私は右手で実際に髪をかきあげる。
 
 その瞬間、私は「え?」と凍りついてしまった。
 
 腕が、ある。
 無かったはずの右手が確かにある!
 
「どうして!?」
 
 先ほどまでしていた自分のイメージが現実になってしまったかのようだ。
 両手を交互に見比べる。
 どっちも同じ手だ。
 私の手だ。
 
「新しい腕は、楽しい話をしてくださったチップです」
 
 クラーク少年が微笑んでいた。
 初めてみる彼の笑顔だ。
 
 私はあたふたと「え? だって」を何度も言い、混乱を隠せない。
 
「それと、これは正規の報酬です。受け取ってください。もしよければ、その右手で」
「え? ちょ、そんな――」
 
 クラーク君が私の右手に素早く封筒を握らせた。
 
 呆然とする私に、少年はさらに驚くべき提案を始める。
 
「先ほど、僕らに両親はいないと言いましたよね?」
「え? はい」
「実は住み家もないんです」
「あ、そうなの? はい」
「そこでお願いなんですが……」
「ええ」
「僕ら二人をあなたの家に置いていただけませんでしょうか?」
「え?」
「いえ、決して迷惑はかけません。生活に必要な費用はあります」
「ちょ、な……」
 
 姉らしき少女は早くも大はしゃぎで、「二年ぐらいお世話になりまーす!」とそこら辺を飛び跳ねている。
 
 ちょっと落ち着くまで待って。
 気持ちを整えたいから。
 
 たったそれだけがなかなか言えず、私は何度も自分の両手と兄弟を交互に見やる。
 
 空の片隅が少しだけオレンジ色に染まり始めていた。
 優しい日の光は確かに私の右手を照らしている。



 続く。

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HN:
めさ
年齢:
41
性別:
男性
誕生日:
1976/01/11
職業:
悪魔
趣味:
アウトドア、料理、格闘技、文章作成、旅行。
自己紹介:
 画像は、自室の天井に設置されたコタツだ。
 友人よ。
 なんで人の留守中に忍び込んで、コタツの熱くなる部分だけを天井に設置して帰るの?

 俺様は悪魔だ。
 ニコニコ動画などに色んな動画を上げてるぜ。

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 ざまを見よ!
 本当にごめんなさい。
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