夢見町の史
Let’s どんまい!
2012
October 29
October 29
<真矢>
「あなた、彼の人生を変えることはできる?」
グラスに口もつけず、無表情のまま彼女が視線で示す。
その先にはヘルプで着いている俺の後輩が笑顔を絶やさずにいた。
俺はわざと目を大きく開いて驚きの表情を浮かべる。
「人生を、ですか? 彼の」
若手の後輩と女性議員の顔を交互に眺めてみせた。
「そうよ」
「いやあ」
後輩が清々しく頭をかく。
「真矢さんにはもう既に人生変えさせてもらってますよ。いつも面倒見ていただいてますし」
まだ新入りにもかかわらず、零士のリップサービスは悪くない。
「真矢さんの影響で、人生っていうんでしょうか? いい意味で意識が変わったホストやお客様は少なくないですよ」
「そう」
年齢にしたら50手前だろうか。
ショートカットにした黒髪を耳にかけながら、初見の客は目を鋭く細めて俺を見る。
「なら、私の人生も変えてみなさい」
これには少なからず仰天させられた。
「目黒さんの、ですか?」
「彼の人生を変えられるのなら、私の人生だって変えられるでしょう? 期限は1週間」
最初は暗に恋人になれと命じられたのかとも考えたが、この客は肉体関係に興味がある風ではない。
単なる余興なのだろうか。
「この仕事に就いて短くはありませんけれど、そんな要望は初めてですよ。僕にどこまでできるか分かりませんけれど、精一杯お応えしたいですね」
笑顔を見せてから今日で丁度1週間。
雑踏に紛れ、俺は駅前の喫煙ブースに入る。
ジャケットの内ポケットからシガレットケースを取り出した。
目黒が固定客になったら間違いなく上客に位置づけされることになる。
しかし彼女の目的がまるで解らない。
デートをしようにも側近が常にいるし、店内での会話からもその真意が図れずにいる。
まさか本気で人の人生を1週間で変えろと命じたわけではないだろうし。
吐いた煙をぼんやりと眺める。
今日でラストだ。
何かしら彼女が納得するアクションを起こさなければみすみすデカい魚を逃がすことになるだろう。
目黒とはもう連絡をつけてある。
使いが車を出してくれるとのことだ。
「お待たせしました!」
肩を叩かれて振り向くと俺よりもやや年上といった風の男がにこやかに立っていた。
その風貌は意外なことに古びたジャンパーにジーンズといった完全な私服で、とても議員の使いとは思えない。
「どうぞ! こちらへ!」
どこか嬉しそうに男が車を示すと、それは黒塗りのベンツでも何でもない普通の自家用車。
予想するにこの男、休日のところを急遽呼び出されたのだろう。
「恐れ入ります」
俺も笑顔で応じ、助手席に乗り込む。
小さないびきのような音を立てて車が進んだ。
「いやあ、もう秋も終わりですねえ」
ハンドルを握る男は気さくな人物らしく、よく喋る。
「ここ最近急に冷え込むもんだから、私風邪引いちゃって」
「それは大変でしたね」
相槌も会話も苦痛ではない。
彼も目黒の関係者だ。
愛想よく付き合っても損はないだろう。
男がチラリと横目で俺を見る。
「それにしても、今日はいつもと雰囲気違うんですね」
「そうですか?」
「ええ、なんていうか品があるってゆうかね」
「それはそれは恐縮です」
「言葉遣いも綺麗だ。やっぱアレですか?」
「はい?」
「今日は失敗できないから緊張してるとか?」
「あはは。いつでも緊張していますよ」
談笑していると、見覚えが全くない場所で車が停車する。
古い幼稚園を彷彿させる建物の前だ。
「到着です。お疲れ様でした」
にかっと気持ちのいい笑顔で男が歯を見せた。
頭上にクエスチョンマークを浮かべながら車を降りる。
剥がれかけたペンキ、くたびれたフェンス。
看板には「やすらぎの家」とあった。
児童を預かる施設なのだとしばらくしてから気がつく。
目黒は何のつもりで俺をこんな場所まで案内したのだろうか。
<裕次郎>
今日が駄目だったら僕には才能がない。
だからすっぱり諦めよう!
そうやって心の中で賭けをして、僕は煙草をもみ消す。
喫煙ブースから出た途端、スーツを着たおじさんが品良く「お待たせしました」と僕に頭を下げた。
繁華街は人が多くて今日も雑然としている。
人並みを縫うようにして進むおじさんに着いて歩き、僕は用意してもらった車に乗り込んだ。
なんか黒くて長い高級っぽい車だ。
僕は後部座席に通された。
あの施設のおばあさん、市からの援助金が減ってお金がないなんてぼやいていたけども、この車に予算をかけすぎたからなんじゃないかと思う。
座席はふかふかだ。
「いやあ、いいお車ですねえ」
本番前の緊張を紛らわす効果に期待して、僕は軽口を叩く。
口数の多さが自信のなさを表しているようで我ながらみっともないけれど仕方がない。
「今日がラストチャンスって思うと気合入れなきゃって思います。楽しんでもらえたらいいんですけどね」
「左様ですか。リラックスなさるといいですよ」
「そうですね。なるべくそうしたいです」
「今日はお召し物がフランクなんですね。とても親しみやすいですよ」
「そうですか? でもまあ後でちゃんと別の衣装に着替えますけどね」
肩の高さまで紙袋を持ち上げ、僕はそれをポンポンと軽く叩いてみせた。
一発屋にすらなれない僕からすれば、お笑い芸人として成功している人たちは本当に凄いと思う。
ネタを考える頭の良さと、それを再現するノリの良さ、演技力、トーク力、機転を利かせる能力だって必要だし、もちろんユーモアのセンスだって要る。
そのどれもが充分ではない僕は武者修行の旅に出ることにして、だから今もこうして車に揺られている。
町から町へ。
ジプシーのように旅を続けて、色んな子供たちと触れ合った。
お笑いにシビアな小学生、素直すぎてどこが笑うところなのか解らない幼稚園児、なかなか手厳しいお客さんたちである。
僕が定めた自分への掟は、誰かを笑わせなければ次の町に進めないというもの。
時には病室で、時には体育館で、僕はネタをやらせてもらって、ウケなかったら翌日リベンジ!
笑ってもらうまで何度も挑戦することにしたんだ。
なんだけど、ここ最近の僕は情けないことに自信が全くない。
コントを10回やって1回笑ってもらえるなんてアベレージ、芸人の卵と名乗ることすらおこがましい。
自分を責めて、悩んで、考えて、迷って、それでようやく僕は心を決めた。
やすらぎの家で昨日やったネタは完全に滑った。
もし今日も同じ結果で、誰1人として笑顔にできなかったら、僕は夢を諦める。
諦め、られるだろうか。
いや、諦める!
それぐらいの覚悟で望むんだ!
「ご乗車お疲れ様です」
紳士から穏やかに告げられ、僕はハッと我に帰る。
ご丁寧に車のドアを開けてもらって表に出ると、僕は直立不動のまま口をポカンと開け、紙袋を垂直に落としてしまった。
立派な門構えの向こうには品のいいお庭が広がっていて、池にはカラフルな鯉が泳いでいる。
その脇には竹がカコーンって鳴るやつまであるじゃないか!
どこよここ。
おじさんが僕の前に立った。
「さ、どうぞ」
何をどうぞされたんだ僕は。
「目黒様がお待ちです」
誰よそれ。
防犯カメラがめっちゃあるけど、これってどっきりを撮影しているからってわけじゃ、ないよねえ?
<真矢>
「私の人生を変えろ」とは、もしかしたら親子の復縁だとか、そういったことを期待した上での要望である可能性は充分にあった。
この施設、おそらく彼女と無縁ではあるまい。
実は隠し子がいてここで育てられているとか、何かしらの繋がりがあるに違いない。
俺は今、試されているのだ。
くたびれたスライド式の玄関は立て付けが悪いらしく、細かくガタガタと音を立てる。
「おやまあ、お待ちしていましたよ」
出迎えてくれたのはいかにも人の良さそうな老婆だ。
しわくちゃの顔が満面の笑みを浮かべている。
「始める前にお茶でもいかがですか?」
始める?
これから何かが始まるのか。
婦人はどこか寂しげににこりと笑うと、パタパタとスリッパを鳴らして奥へと歩いてゆく。
失礼しますと一礼をし、靴を脱いで俺も続いた。
まずは現状を把握しなくてはならない。
世間話から得られる情報は山ほどあるから、お茶を出されるのはそういった意味でありがたかった。
「いただきます」
息を短く2度吐いて湯気を散らせ、湯呑みにそっと口をつける。
やや肌寒い陽気のせいか玉露が身体に染み込んでゆくのが判った。
「子供たちはね、あれでみんな喜んでいたんですよ」
ご婦人はやはりどこか陰を持っていて儚げに見える。
俺は「ええ」と、あえてどうとでも取れる返事をして頷く。
おそらく色んな人に何度も話したであろう、老婆の身の上話が始まる。
「去年ねえ、うちの主人が他界したから、もうここにはサンタクロースが来なくなってしまってねえ。あら、昨日もお話しましたっけ?」
「いえ、僕は伺ってないですよ」
昨日も何も、この婦人と俺とは初対面なのだ。
しっかりしたように見えるご婦人だが、さすがに高齢のせいか物覚えに支障があるのかも知れない。
「うちはねえ、血気盛んな子もいれば難しい年頃の子だっているでしょう?」
「ええ」
俺が目黒から前情報を何1つ聞いていないことを、この婦人は知らされていないのだろう。
その口調は既に事情を知る者に対する言い方だ。
「あたしがねえ、せめて主人の代わりにって思ったんだけど、最近のオモチャは高いし、色んな種類があってねえ。あたしには難しくって。あなたご存知? ミンテンドウ、デーエス?」
「DSですね? 存じています」
「それが解らなくて、あたし違う種類のゲーム機を買っちゃってねえ」
歳のせいだろうか。
彼女の話は長かった。
去年に旦那さんが亡くなり、クリスマスの時期に現れるはずのサンタクロース役がいなくなってしまって、代わりに老婆がその役目に挑んだとの内容だ。
サンタに宛てられた手紙には子供らが欲しい物がそれぞれ書かれていて、彼女は自分の年金でそれらを購入したのだが、どうやら携帯ゲーム機を間違えて、古い機種を買ってしまったらしい。
「あたし、夜中のうちにみんなの部屋にプレゼントを置いたのよ。翌朝、みんなが喜ぶ顔を見るのが楽しみでねえ。でもねえ、ミンテンドウなんちゃらを欲しがってた子がねえ、嬉しそうに包装紙を開けたら今度は泣き出しそうな顔になってねえ、これじゃない! って叫んでねえ、プレゼント投げ捨てちゃったのよ。あたし、駄目ねえ。安くない買い物だったのに、違うの買っちゃって、主人がいないとやっぱり駄目ねえ」
胸の痛む話である。
さらに辛辣なことに、この児童施設、市からの援助金が減らされたこともあって資金が不足し、今月いっぱいで閉鎖してしまうらしい。
「主人もいなくなったし、跡取りもいないしねえ。あたしだっていつまで生きられるか判らない。建物だって、あたしたちが結婚したときからずっと持ちこたえてくれてるけど、もうボロボロでねえ。こないだ役人さんが来て、このままじゃ運営させられませんってはっきり言われちゃってねえ。だから今月いっぱい。11月でもってここは閉鎖します。子供同士で仲良しになった子もいっぱいいるから、みんなが離れ離れになってしまうのが嫌なんだけどねえ、でも仕方ないから」
ご婦人は最後に「やっぱり昨日もお話しませんでしたっけ?」と首を傾げた。
お茶はすっかり冷めてしまって、ぬるい。
俺はそれを一気に流し込んだ。
「お茶、お代わりいかがですか?」
「いえいえ、ご馳走様です。もう結構ですよ」
「そう」
老婆は言って湯呑みを盆に乗せる。
「だからねえ、今日がたぶん最後のイベント。よろしくお願いしますね。昨日はああだったけど、みんなちゃんと楽しんでいましたから」
特に後半のセリフが意味不明だったが、そんなことよりもまず知りたいことがある。
これからここで俺に対する何かが始まるとばかり思っていたのだが、もしかして何かするのは俺のほうなのか?
何をやらされるというのだ。
まさか子供らに楽しい酒を提供するわけにもいくまい。
「準備はよろしいんですか?」
にこやかに婦人は言って、盆を台所まで運ぶ。
こちらに背を向けたままで彼女は続けた。
「子供たちには昨日と同じ時間に集合してもらっています。みんなね、お笑いの舞台を見るのは初めてだったから、今日も楽しみにしているのよ」
「もしや、それってお笑いライブのことですか?」
問うと老婆はころころと笑った。
「そうそう、今時はそう言うのね。舞台じゃなくて、ライブ、ね。失礼しました」
「いえ、そうじゃなくて」
今まで数多くの客から様々な無理難題を押し付けられたことがあるが、ここまで突拍子のない難しい注文は初めてだ。
お笑いライブ?
この俺が?
「少し準備したいのでお時間いただけますか?」
振り絞るように言い、俺はスマホに手を忍ばせる。
<裕次郎>
どうしてこうなった。
この窮地に立たされてしまっていること事態がもはやいいネタになりそうだ。
「あの、あの」と言ってるうちに僕は広い洋室に通されて、そこにはどっかで見たことがあるようなショートカットのおばさんが長椅子にもたれかかって庭を見ている。
おばさんはローブを着ていて、こちらに目もくれない。
「どうも」
沈黙が重たいから出た言葉だ。
なにがどうもなのか自分でも判らない。
この人どなた?
「今日で最後ね」
庭を見たままで、おばさんは鋭い口調で言った。
引退の覚悟を完全に見透かされている。
今日が最後って、この人どこで僕のことを知ったんだろう。
僕は少し下唇を噛んだ。
「今日が駄目だったら、諦めます。夢を捨てる覚悟です」
「大袈裟ね」
クスリと笑って、ようやくおばさんが顔をこちらに向ける。
「あなたを選んだことに深い理由はないのよ。ただそこに居たからってだけ」
え、どういうこと?
つまり僕は着いていく車を間違えていたってこと?
あの喫煙所にたまたまいた人だったら僕じゃなくてもよかったって意味?
となると、酷い話だぞこれは。
あのおじさんは勝手に僕に目をつけて、勝手にここに運んだってわけだ。
そりゃ僕だって迎えのお車なんだって勘違いちゃって、疑いはしなかったけどさ?
でもだからって、あんな普通の感じで案内されたら車に乗るじゃん。
行き先も言わないで、有無を言わせず人を運んじゃうってのは理不尽極まりないことじゃないか?
僕は今日、小さいながらも人生最後になるかもしれないライブがあるのに。
れっきとした用事があるのに。
「それは酷いですよ!」
ふつふつと怒りがこみあげてくる。
妙に迫力のある人だけど、悪いのはそっちっていう大義名分があって、僕は堂々とおばさんに向き直った。
「僕にだってやりたい事があるんです! それなのに、ただそこに居たから僕だなんて!」
「やりたいこと? それは初耳ね」
「そりゃそうですよ! 話す暇なんてなかったですもん! あなた一方的なんですよ!」
「そう、悪かったわね。あなたがやりたいことってのは、なにかしら?」
「僕は、人を笑わせることが夢です。まだまだ未熟だし修行中の身だけど、いつか大勢の人に笑ってもらえるようになりたいんです。そりゃ才能があるなんて思ってないですよ。でも、できそうだからやるとか、できなさそうだからやらないとか、そういうことを考えて決めたんじゃないんです!」
おばさんは無表情のまま僕を見つめている。
沈黙するとまた空気が重たくなりそうで、だから僕は必要以上にまくし立てた。
「今回もし失敗したら夢を諦めようって、そう覚悟して出てきたんです。今日は僕にとってそれだけ大事な日だったんです。それなのに、たまたまそこに居たからって、適当に石を投げたら当たったみたいじゃないですか!」
「そう、そこまで真剣に考えてくれていたのね」
「くれていたってなんですか! あなたのためじゃないですよ!」
「面白いことを言うのね」
おばさんが少し怖い顔になる。
「私のためじゃないのなら、なんのため? お店のためかしら?」
お店というのはきっとやすらぎの家のことだろう。
ああいった児童を育てる施設もお店って言い方をするのか。
「今日はそう、お店のためです」
「意外。正直なところもあるのね」
僕はこんなセレブなおばさん知らないけど、向こうは僕のことを知っているような節がある。
さっきはたまたまランダムに僕を選んだみたいなことを言ってたけど、果たして真相はどっちなんだろう。
「今からでもまだ間に合います」
僕は力強く胸を張った。
「次のステージに進めるかここで夢を諦めるかの瀬戸際なんです! こんなところであなたの余興にお付き合いする暇はないんです! 僕を舞台に立たせてください!」
「あなた、ますます興味深いことを言うのね。そこまで言うのなら私も見届けさせてもらうわよ」
言うとおばさんは立ち上がって室内電話に手をかける。
「車を回しなさい」
手短に言って受話器を置いた。
どうやら会場には行けそうな雰囲気になりはしたけれど、なんでこの人着いてこようとしてるわけ?
<真矢>
「なにか面白い話してよ」
水商売をやっていてよく言われるセリフの1つがこれだ。
大抵のホストはここで言葉に詰まるのだが、場数のある者は違う。
「それ、かなりの無茶振りだよ! なんでそんな酷いことするの!?」
と目を大きく開いて、次に念を押す。
「じゃあ本当に面白い話をするよ。いいんだね? ホント面白いよ?」
このように自らハードルを上げることで相手を油断させ、既に用意してあるいくつかの鉄板エピソードの中から1つを選び、披露するのだ。
しかし店とこことでは雰囲気が違う。
俺は正直、どこか冷めたような目をしている子供たちの前に少なからず戸惑っていた。
小学校低学年から高校生ぐらいまで、ざっと10人ぐらいはいるだろうか。
この子らは、娯楽を何も期待していないような目をしている。
前回のイベントではさぞかし退屈をさせられたのだろう。
腕時計に目をやる。
時間になっても何故だか零士は来なかった。
もう1度電話をかけようにもスマホのバッテリーが上がってしまったし、ここには充電器もない。
つまるところ、俺はこのまま小道具なしに彼らを楽しませなければならないというわけだ。
営業中によくやるとびっきりの笑顔を作り、俺は子供たち全員に行き届くように視線を配った。
「突然こんなこと言うのもなんだけど、なんでみんなこんなに暗いの!? 今日誰か死んだ!?」
アメリカ人顔負けの身振り手振りも交える。
「でね、今日はお笑いライブってことで僕今ここにいさせてもらってるんだけどね、実は今日なんにも用意してないんだよ」
残念でたまらない、そんな表情を作った。
「みんなを笑わせるようなネタなんて僕は持ってないんですねー。だから君たち、僕がなにを言っても笑ったら駄目だよ? いいかい? みんなが笑っちゃったら僕が嘘つきになってしまう」
わずかに空気が和らぐような感があって、俺は内心胸を撫で下ろす。
「僕ね? 弟がいるんだけど、天然っていうのかな。変わっててねー。
工事現場でお仕事してるんだけど、ある日ね? ガス管が破裂しちゃって、その破片が飛んできたんだって! で、それが弟の頭に当たっちゃったんだよ。死ぬとか重症ってわけじゃ全然ないかすり傷なんだけど、頭の怪我だから心配でしょう?
会社の人がね、『お前今日は仕事もういいから病院行け』って言ってくれて、車まで出してくれたんだって。
そしたら弟がね?『自分がよく行く病院あるんで、そこまで乗せてもらっていいですか?』って言い出すもんだから、会社の先輩も『いいよー』って。
でね、弟! 頭を怪我してるのにだよ!? 何故か歯医者に行ったんだ!」
ここで幼い何人かが笑い声を立てて、俺は慌てたような表情を浮かべる。
「あ~! 駄目駄目! 笑っちゃ駄目~! 我慢しててよ! いい? いいね? 笑っちゃ駄目だよ~!
でね! 弟なんだけど、受け付けで手続きをして待って! 名前を呼ばれて! 先生にどうしましたか? って訊かれて! 歯医者さんに向かって、頭が痛いんです。…痛いのはお前だよ!」
これで笑い声がさっきの倍になった。
「笑ったら駄目って言ってるでしょ~! 耐えて耐えて!
でさ、先生が言うの。『ここは歯医者なんで頭の怪我は直せないです』
そりゃそうだよ! こんな正しい意見、聞いたことがない!
で、弟が『そうですか』ってやっと病院出たんだけどさ、僕思うんだよ。
会社の先輩! あんたも頭怪我した奴を歯医者の前で降ろすなよ!」
どうにか全員を笑わせることができた。
引き続きハズレのないエピソードをいくつか話し、締めくくる。
「なんだよ、結局みんな笑っちゃったねー。あれほど駄目だって言ったのに、参ったな。ま、今日は僕が負けたってことでいっか。今日はみんなの前でお喋りできて楽しかったよ。ありがとうね。大勝利おめでとう!」
拍手を背に部屋から去る。
腕時計に目をやるともう夕刻。
一旦帰宅して仕事の用意をしなければ。
まだまだ謎が多いがやむを得ない。
運営者の婦人に挨拶をして今日は退散することにする。
背後の拍手はまだ続いていて「楽しかったね」とか「面白かった」などといった声も耳に入ってきた。
心に充実感が残る。
<裕次郎>
謎のおばさんと一緒に、やすらぎの家前で車から降りる。
同時に別の車がこっちに来て、スーツ姿で茶髪のカッコイイお兄さんが運転席から現れた。
「あ、いたいた! お疲れ様です!」
最初はおばさんに対して言ったのかと思ったんだけどそうではなくて、彼は両手で抱えられそうに大きな白い袋を僕に渡そうとしてくる。
「これ、頼まれたやつです」
「え? え?」
「じゃあ僕もお客さんお待たせしてるんで、これで失礼しますね! 夜にまた!」
手短に告げると青年は颯爽と車に乗り込んで走り去ってしまった。
今のお兄さん誰?
この巨大な袋は何?
僕の隣に当然のようにいるこのおばさんだって何者なんだか知らされないままだし、なんだか今日はわけの解らないことばっかりだ。
インターフォンは壊れているので玄関はノックをする。
軽く叩いてもガラス戸はガシャンガシャンと派手な音を立てた。
「あらまあ」
管理者のおばあさんは今日も愛想良くしてくれる。
「これはこれはどうもお疲れ様でした」
深々と頭を下げられ、僕も釣られておじぎで返す。
顔を上げると、おばあさんは嬉しそうに笑った。
「みんなねえ、本当に楽しそうに笑っててねえ。あんなに楽しそうな子供たちは久しぶりですよ」
それは昨日の話をしているのだろうか。
めちゃめちゃ静まり返してしまったのに、実は喜んでもらえてたってこと?
とてもそうは思えなかったけれども。
おばあさんは不思議そうにしている僕の様子に気がついていないらしく、絶賛の嵐だ。
「さすがお話が上手ねえ。もっと聞きたい、またあのお兄さんに来てもらいたい、ってねえ、たった今も子供たちみんな言ってたのよ」
この言葉に背後から謎のおばさんが「へえ、やるじゃない」とつぶやいた。
「それで、あの」
と、おばあさんの言葉を遮る。
「ちょっと遅くなっちゃって申し訳ないんですけど、今からまたやらせてもらってもいいですか?」
するとおばあさん、「え、また!?」とやたら大きく驚いた。
昨日のネタがやっぱり面白くなかったからだろう。
僕は焦って両手をバタバタと左右に振る。
「あ、あ、違うんです! 前回とは全く違う内容なんで、是非やらせてください! こちらの都合でこんな時間になってしまったのでお願いしにくいんですけども、どうかお願いします!」
「いいええ、とんでもないですよ。子供たちも喜びます。じゃあちょっとみんなに声かけてきますね」
「ありがとうございます! あ、どっか着替えるところはありますか?」
こうして僕は再び子供たちの前に立っている。
若いお客さんたちは誰もが目をキラキラと輝かせていて、中には期待感たっぷりといった体で身を乗り出している子までいる。
まるでもう既に会場が温まっているかのような和んだ空気だ。
「みんな、遅くなってごめんね! また来たよ!」
元気よく言うと子供らは歓声を上げ、大きな拍手で迎えてくれた。
なんか僕もの凄く好かれてる。
こんな感じは初めてだ。
めちゃめちゃやりやすい。
僕は自分が着ているサンタの衣装が見えるよう、両手を広げて見せた。
「ご覧の通り、僕ね、実はサンタさんだったんだよ。いやあ、本当に遅くなっちゃった。ねえ君!」
僕から近い席に座っている小学生の女の子に声をかける。
「今ってさ、何月なのかなあ? 判る?」
すると女の子はとても高いテンションで「11月ー!」と大きな声を出した。
「11月ー!?」
僕はわざとらしくびっくりし、その勢いで後ろにひっくり返ってみせる。
途端、数々響く笑いの声。
なんだこの好感触。
めちゃくちゃ楽しいぞ!
こんなにも自分を出しやすいライブは初めてだ!
よろよろと尻をさすりながら立ち上がる。
「いてて…。そっか、11月かあ…。なんてこったい。ってことは僕、11ヶ月も遅れてきちゃったのかあ。みんな本当にごめんね!」
謎のおばさんはというと部屋の奥で腕組みをして黙って見てる。
あの人のことは気にせず楽に続けよう。
今日のネタは、昨日一晩かけて一生懸命考えた。
経営者のおばあさんから聞いた切ないお話をモデルにさせてもらっている。
テーマは、へこたれないサンタさん。
「今転んだお尻がまだ痛い。もうね、僕いつもこうだよ。去年なんてこんな感じだった」
チワワに追われ、噛まれる状況を動作とセリフで表現する。
すると笑い声。
次は煙突を探してうろうろしていたらお巡りさんに見つかってしまうシーン。
常軌を逸した苦しい言い逃れで誤魔化す場面を演じる。
また笑い声。
忍び込んだ家で泥棒と間違われ、通報されるとさっきのお巡りさんにまた出くわしちゃった!
大爆笑!
もう楽しくて楽しくて。
楽しんでもらえてることが最高に楽しくて。
ネタ作りのときには想定していなかったアドリブを調子づいて入り混ぜちゃったりなんかもして。
「サンタクロースはね、人数が少ないからプレゼント配るの大変なんだ。君たちのところにだってそうだし、大勢の子供たちの元に行かなくちゃいけない」
いよいよ締めに取り掛かる。
僕の中で再び緊張感が蘇る。
「僕ぐらいドジなサンタさんは珍しいけれど、それでもね、サンタは全員、みんな頑張っているんだよ。なんだけど、今日みたいに遅れちゃったり、プレゼントを間違えてしまったりすること、これからもたくさんあると思います。ごめんなさい。
でもね! サンタクロースは諦めない! 最近のオモチャのことが判らなくても、1年2年遅くなってしまっても、僕ら一生懸命やるから! みんなが笑顔で過ごせるように頑張るから! だから、たまにしか来てあげられなくて申し訳ないけど、僕たちからのプレゼント、大事に大事に使ってあげてください。貰った物は大切に使ってください」
僕は最後に「物を大切に扱える素敵な大人になってください」と付け加え、その場を後にする。
子供たちはさっきと違って静まり返っていたけれど、やがて誰かがパチパチと手を叩いて、思い出したかのように他の拍手が起こって、やがて音が土砂降りのような音量にまで育って、僕はそれを背中で聞いた。
これで、僕は次の町に旅立てる。
そう思った。
気づけば暖かい涙が頬を伝わっている。
よかった。
本当によかった。
これからも僕は、諦めなくてもいいんだ。
夢を追い続けても、いいんだ。
「見させてもらったわ」
あのおばさんが壁に寄りかかっている。
僕は慌てて涙を拭った。
「はあ。ありがとうございます」
結局この人がどこの誰なのかは判らないままだけど、今更訊くのもおかしい気がするし、もういいやと思う。
「僕、このまま行きますね、おばあさんに挨拶してから」
「そう。あたしはじゃあ、その後にしようかしら」
「え?」
「ちょっとね、ここの運営者に訊きたいことができたのよ」
「はあ、そうですか」
「また会いましょう」
「え、あ、はい」
やすらぎの家を出て、僕は駅へと歩を進める。
近所のおじさんにまた車をお願いするのも悪いから、徒歩だ。
見上げるとすっかり日が暮れていて、星が綺麗に見える。
人は誰でもサンタクロースになれるのだ。
そんな当たり前のことを思って、口に出してみる。
「人は誰でもサンタクロースになれるのだ」
そう。
そして、サンタクロースはへこたれない!
どんなに遅れても、サンタは絶対に諦めないのだ!
僕だってサンタ候補、負けてなんかいられない。
いつか必ずお笑い芸人になってやる!
駅についたらコインロッカーに預けた荷物を引き取って、そしたら切符売り場の前でコイントスをしよう。
そうして次の行き先を決めるんだ。
次の町を想い、僕は早くもその景色を想像する。
そうだ。
せっかく用意したんだからサンタの衣装はまた使おうかな。
「あ」
つい口に出る。
サンタの衣装で思い出した。
あの茶髪のお兄さんがくれた白い大袋、やすらぎの家に置いてきちゃった。
あれの中身、一体何だったんだろう。
<真矢>
「いらっしゃいませ。この時間帯にいらっしゃるだなんて珍しいですね。それにお1人だなんて初めてじゃないですか」
「ちょっと色々しててね、遅くなっちゃったのよ」
「いえいえ、嬉しいですよ」
目黒が店にやってきたのは日付が変わる間際の頃だ。
いつものように奥へと通し、ソファに座ってもらう。
スマートに見えるよう、流れるように水割りを作って差し出す。
ご一緒しても良いですかと短く断りを入れ、了承を受けて自分の酒も用意した。
「いただきます。乾杯」
「お疲れ様」
2人同時に酒を口に含んだ。
グラスを置いて、俺はバツが悪そうに顔を歪める。
「僕の負けです」
「やられたわ、あなたには」
ほぼ同じタイミングで目黒も開口していた。
「え?」
驚いて彼女を見る。
目黒は涼しげな調子だ。
「見事にやってくれたわね。私の負けよ」
彼女は何を言っているのだろうか。
1週間で人生を変えろとのお達しは今日が最終日で、俺は何もできなかったではないか。
相変わらず真意が読めず、聞きに徹することしかできない。
「やすらぎの家、っていったかしら?」
やはりあの施設、目黒と関係があったのだ。
俺は「ええ」とだけ返しておいた。
「吉川さんに色々と話を聞いたんだけど」
「吉川?」
「呆れた。あなたあそこの経営者の名前も知らなかったの?」
「ああ、いえ、失礼しました」
「吉川さんから色々と伺ったわ」
どうやら目黒もあのご婦人から長話を聞かされたらしい。
「今の市長は駄目ね。前々から予算の使い方が偏っていたとは感じてた。どう考えても予算の優先順位がおかしいわ」
珍しく感情的になって、目黒は2口目を飲んだ。
「予算の問題、なんとかしましょう。市長に影響力のあるコネぐらい、私にだってあるわ」
その発言に俺は目を丸くした。
「ということは、あの施設、閉鎖しないで済むんですか!?」
「ええ、そういうことにしてみせる」
「老朽化した建物はどうするんです?」
「これね、吉川さんからお借りしてきたの」
言って目黒はボロボロになった大学ノートを鞄から取り出す。
中を拝見すると個人名とその住所、連絡先などが書いてある。
「全部で62人、あの施設から出ているの。みんなそれぞれ仕事をするなり家庭を持ったり、しっかりと暮らしているみたい」
「へえ、いわばあの施設の卒業生ってわけですか」
「全員と連絡を取ったわ」
「え!? 今日ですか!?」
「そう。さすがに誰もが在宅していたわけじゃなかったから全員と話せたわけじゃないけど」
目黒が穏やかに笑んで続ける。
「事情を話したら何人かの主婦が交代交代で手伝いを名乗り出てくれたわ」
「へえ、それはいい。あのおばあさん、助かるでしょうね」
「大工になっている人もいたし、建設業に携わっている人もいた。来月から忙しくなるわよ」
「あ」
目黒が言いたいことが解ったような気がした。
「そう、察しがいいわね。安く請け負うと約束はしてくれたけど、さすがに市から出るお金だけじゃ足りないでしょう。これは私が個人で負担します」
綺麗に建て直されたやすらぎの家がふっと脳裏に浮かんで、思わず鳥肌を立ててしまった。
もしかして俺は今感動しているのか?
「全く」
目黒がふっと息を吐いた。
「あなたにしてやられたわ。まさか若い頃の情熱を蘇らせるなんてね」
「いえ、僕は何もしていません」
これは謙遜しているわけでもなんでもなく、本当に何もしていないから出た言葉だ。
しかし目黒の耳には届いていなかった。
「たまたまとはいえ、あなたに頼んでよかった」
加えて目黒はぼそりと「病気に負けてる場合じゃないわね」とつぶやいた。
寂しさを帯びたその言葉が、あの要望の根源にあるような気がした。
「見届けさせていただきます。最後まで」
言うと目黒は初めて笑顔を見せる。
「お願いするわ。…あ、そうそう」
せかせかとした様子で目黒が再び鞄をまさぐる。
「これ、返品ですって。サンタクロースさん」
差し出された小箱は1度梱包が解かれた形跡があった。
それが再び包み直されている。
なんだろうと開けると、中にはミンテンドウDSが入っているではないか。
どうやら零士の奴、遅刻はしたがちゃんと頼んだ物を持って来ていたらしい。
万が一ウケが悪かったときのため、金に物を言わせて用意した子供たちへのプレゼント。
いわば袖の下ってやつだ。
ご婦人から話を聞いていたから物の1つはDSを選んだのだが、それが返されてしまうとはどういうことだろうか。
他のオモチャはちゃんと全員に行き渡ったとは思うのだが。
「あそこの子から預かってきたの」
首を傾げていると、目黒から水色の封筒を渡された。
「今読んでも?」
「ええ、どうぞ」
「ちょっと失礼」
目を通すと、子供の文字が次のように並んでいる。
サンタさん、ミンテンドウDSをくれて、どうもありがとうございます。
でも、ぼくは、これはいりません。
ぼくはきょねん、ミンテンドウDSをほしいといったのに、ゲームワールドアドバンスが入っていて、そして、それをよしかわママの前ですててしまいました。
あとになって、サンタクロースがだれなのか気がついて、ぼくはゲームワールドアドバンスをひろって、そして、いっしょに入っていたゲームで遊んでみました。
とても面白かったです。
でも、よしかわママにかわいそうなことをしてしまいました。
よしかわママに、いつか、ありがとうとごめんなさいを言いたいです。
ゲームワールドアドバンスでもうれしいです。
だから、ぼくは、ミンテンドウDSはいりません。
サンタさんがせっかくくれたのに、かえしてごめんなさい。
これは、ほかの子供にあげてあげてください。
さっきサンタさんが言っていたように、ぼくは、物を大事にしようと思います。
ゲームワールドアドバンスを大事にして、そして、色んなゲームで遊ぼうと思います。
でも、サンタさんには、また来て、そして、面白いお話をもっとたくさんしてほしいです。
だから、また来てください。
読み終えて、俺はグラスを持ち上げ、中身を少し飲む。
「これは吉川さんに教えてあげたいですね」
「そうね」
「目黒さん」
「なあに?」
俺は改めて目黒と向かい合う。
「僕の名前、真矢ってのは源氏名です」
「ええ、そうでしょね」
「普段隠している本名なんですが、これがその、親には申し訳ないんですが、率直に言いますとダサくてね」
「へえ、なんて名前なの?」
「漢数字の三に太郎の太。三太っていうんですよ」
あはは。
2人で声に出して笑い合う。
「ふう」
俺は背もたれに身を預ける。
そうか。
あの施設、まだこれからも運営を続けられるのか。
「目黒さん、やっぱり負けたのは僕のほうです」
「あら、どうして」
「あなたの人生を変えようと意気込んでみましたが、結果、人生を変えられてしまったのは僕のほうでした」
今度は目黒が目を丸くする。
「どういうこと?」
「やすらぎの家、跡取りがいないとも言ってましたね、吉川さんは」
「ええ、おっしゃっていたわね」
「ホストなんて一生続けられる仕事じゃないです」
「あら」
「ああ、いえ、今日思いついたことなんで、まだ決心はしていないんですよ。でも今、やすらぎの家が無くならないことを伺いましたし、ちょっと腰を据えて考えてみてもいいかな、と」
「いいんじゃない? 向いてるわよ、あなた。子供にウケがいいもの」
「え!? もしかして、見ていらしたんですか!?」
「あら、気づかなかったの? 真正面にいたのよ? 部屋の隅だったけど」
「これはお恥ずかしいところをお見せ致しました」
「いいえ、楽しかったわよ」
再び笑い合う。
まさかこの人とこんなに気安く談笑をすることになるだなんて、昨日までは思いもしなかった。
「目黒さん、もう1度乾杯しませんか?」
「いいわよ。何に?」
「子供たちと吉川さんに」
再度、グラスが小さく音を立てる。
「メリークリスマス」
気取った調子になって、俺は精一杯キザにグラスを掲げた。
――了――
「あなた、彼の人生を変えることはできる?」
グラスに口もつけず、無表情のまま彼女が視線で示す。
その先にはヘルプで着いている俺の後輩が笑顔を絶やさずにいた。
俺はわざと目を大きく開いて驚きの表情を浮かべる。
「人生を、ですか? 彼の」
若手の後輩と女性議員の顔を交互に眺めてみせた。
「そうよ」
「いやあ」
後輩が清々しく頭をかく。
「真矢さんにはもう既に人生変えさせてもらってますよ。いつも面倒見ていただいてますし」
まだ新入りにもかかわらず、零士のリップサービスは悪くない。
「真矢さんの影響で、人生っていうんでしょうか? いい意味で意識が変わったホストやお客様は少なくないですよ」
「そう」
年齢にしたら50手前だろうか。
ショートカットにした黒髪を耳にかけながら、初見の客は目を鋭く細めて俺を見る。
「なら、私の人生も変えてみなさい」
これには少なからず仰天させられた。
「目黒さんの、ですか?」
「彼の人生を変えられるのなら、私の人生だって変えられるでしょう? 期限は1週間」
最初は暗に恋人になれと命じられたのかとも考えたが、この客は肉体関係に興味がある風ではない。
単なる余興なのだろうか。
「この仕事に就いて短くはありませんけれど、そんな要望は初めてですよ。僕にどこまでできるか分かりませんけれど、精一杯お応えしたいですね」
笑顔を見せてから今日で丁度1週間。
雑踏に紛れ、俺は駅前の喫煙ブースに入る。
ジャケットの内ポケットからシガレットケースを取り出した。
目黒が固定客になったら間違いなく上客に位置づけされることになる。
しかし彼女の目的がまるで解らない。
デートをしようにも側近が常にいるし、店内での会話からもその真意が図れずにいる。
まさか本気で人の人生を1週間で変えろと命じたわけではないだろうし。
吐いた煙をぼんやりと眺める。
今日でラストだ。
何かしら彼女が納得するアクションを起こさなければみすみすデカい魚を逃がすことになるだろう。
目黒とはもう連絡をつけてある。
使いが車を出してくれるとのことだ。
「お待たせしました!」
肩を叩かれて振り向くと俺よりもやや年上といった風の男がにこやかに立っていた。
その風貌は意外なことに古びたジャンパーにジーンズといった完全な私服で、とても議員の使いとは思えない。
「どうぞ! こちらへ!」
どこか嬉しそうに男が車を示すと、それは黒塗りのベンツでも何でもない普通の自家用車。
予想するにこの男、休日のところを急遽呼び出されたのだろう。
「恐れ入ります」
俺も笑顔で応じ、助手席に乗り込む。
小さないびきのような音を立てて車が進んだ。
「いやあ、もう秋も終わりですねえ」
ハンドルを握る男は気さくな人物らしく、よく喋る。
「ここ最近急に冷え込むもんだから、私風邪引いちゃって」
「それは大変でしたね」
相槌も会話も苦痛ではない。
彼も目黒の関係者だ。
愛想よく付き合っても損はないだろう。
男がチラリと横目で俺を見る。
「それにしても、今日はいつもと雰囲気違うんですね」
「そうですか?」
「ええ、なんていうか品があるってゆうかね」
「それはそれは恐縮です」
「言葉遣いも綺麗だ。やっぱアレですか?」
「はい?」
「今日は失敗できないから緊張してるとか?」
「あはは。いつでも緊張していますよ」
談笑していると、見覚えが全くない場所で車が停車する。
古い幼稚園を彷彿させる建物の前だ。
「到着です。お疲れ様でした」
にかっと気持ちのいい笑顔で男が歯を見せた。
頭上にクエスチョンマークを浮かべながら車を降りる。
剥がれかけたペンキ、くたびれたフェンス。
看板には「やすらぎの家」とあった。
児童を預かる施設なのだとしばらくしてから気がつく。
目黒は何のつもりで俺をこんな場所まで案内したのだろうか。
<裕次郎>
今日が駄目だったら僕には才能がない。
だからすっぱり諦めよう!
そうやって心の中で賭けをして、僕は煙草をもみ消す。
喫煙ブースから出た途端、スーツを着たおじさんが品良く「お待たせしました」と僕に頭を下げた。
繁華街は人が多くて今日も雑然としている。
人並みを縫うようにして進むおじさんに着いて歩き、僕は用意してもらった車に乗り込んだ。
なんか黒くて長い高級っぽい車だ。
僕は後部座席に通された。
あの施設のおばあさん、市からの援助金が減ってお金がないなんてぼやいていたけども、この車に予算をかけすぎたからなんじゃないかと思う。
座席はふかふかだ。
「いやあ、いいお車ですねえ」
本番前の緊張を紛らわす効果に期待して、僕は軽口を叩く。
口数の多さが自信のなさを表しているようで我ながらみっともないけれど仕方がない。
「今日がラストチャンスって思うと気合入れなきゃって思います。楽しんでもらえたらいいんですけどね」
「左様ですか。リラックスなさるといいですよ」
「そうですね。なるべくそうしたいです」
「今日はお召し物がフランクなんですね。とても親しみやすいですよ」
「そうですか? でもまあ後でちゃんと別の衣装に着替えますけどね」
肩の高さまで紙袋を持ち上げ、僕はそれをポンポンと軽く叩いてみせた。
一発屋にすらなれない僕からすれば、お笑い芸人として成功している人たちは本当に凄いと思う。
ネタを考える頭の良さと、それを再現するノリの良さ、演技力、トーク力、機転を利かせる能力だって必要だし、もちろんユーモアのセンスだって要る。
そのどれもが充分ではない僕は武者修行の旅に出ることにして、だから今もこうして車に揺られている。
町から町へ。
ジプシーのように旅を続けて、色んな子供たちと触れ合った。
お笑いにシビアな小学生、素直すぎてどこが笑うところなのか解らない幼稚園児、なかなか手厳しいお客さんたちである。
僕が定めた自分への掟は、誰かを笑わせなければ次の町に進めないというもの。
時には病室で、時には体育館で、僕はネタをやらせてもらって、ウケなかったら翌日リベンジ!
笑ってもらうまで何度も挑戦することにしたんだ。
なんだけど、ここ最近の僕は情けないことに自信が全くない。
コントを10回やって1回笑ってもらえるなんてアベレージ、芸人の卵と名乗ることすらおこがましい。
自分を責めて、悩んで、考えて、迷って、それでようやく僕は心を決めた。
やすらぎの家で昨日やったネタは完全に滑った。
もし今日も同じ結果で、誰1人として笑顔にできなかったら、僕は夢を諦める。
諦め、られるだろうか。
いや、諦める!
それぐらいの覚悟で望むんだ!
「ご乗車お疲れ様です」
紳士から穏やかに告げられ、僕はハッと我に帰る。
ご丁寧に車のドアを開けてもらって表に出ると、僕は直立不動のまま口をポカンと開け、紙袋を垂直に落としてしまった。
立派な門構えの向こうには品のいいお庭が広がっていて、池にはカラフルな鯉が泳いでいる。
その脇には竹がカコーンって鳴るやつまであるじゃないか!
どこよここ。
おじさんが僕の前に立った。
「さ、どうぞ」
何をどうぞされたんだ僕は。
「目黒様がお待ちです」
誰よそれ。
防犯カメラがめっちゃあるけど、これってどっきりを撮影しているからってわけじゃ、ないよねえ?
<真矢>
「私の人生を変えろ」とは、もしかしたら親子の復縁だとか、そういったことを期待した上での要望である可能性は充分にあった。
この施設、おそらく彼女と無縁ではあるまい。
実は隠し子がいてここで育てられているとか、何かしらの繋がりがあるに違いない。
俺は今、試されているのだ。
くたびれたスライド式の玄関は立て付けが悪いらしく、細かくガタガタと音を立てる。
「おやまあ、お待ちしていましたよ」
出迎えてくれたのはいかにも人の良さそうな老婆だ。
しわくちゃの顔が満面の笑みを浮かべている。
「始める前にお茶でもいかがですか?」
始める?
これから何かが始まるのか。
婦人はどこか寂しげににこりと笑うと、パタパタとスリッパを鳴らして奥へと歩いてゆく。
失礼しますと一礼をし、靴を脱いで俺も続いた。
まずは現状を把握しなくてはならない。
世間話から得られる情報は山ほどあるから、お茶を出されるのはそういった意味でありがたかった。
「いただきます」
息を短く2度吐いて湯気を散らせ、湯呑みにそっと口をつける。
やや肌寒い陽気のせいか玉露が身体に染み込んでゆくのが判った。
「子供たちはね、あれでみんな喜んでいたんですよ」
ご婦人はやはりどこか陰を持っていて儚げに見える。
俺は「ええ」と、あえてどうとでも取れる返事をして頷く。
おそらく色んな人に何度も話したであろう、老婆の身の上話が始まる。
「去年ねえ、うちの主人が他界したから、もうここにはサンタクロースが来なくなってしまってねえ。あら、昨日もお話しましたっけ?」
「いえ、僕は伺ってないですよ」
昨日も何も、この婦人と俺とは初対面なのだ。
しっかりしたように見えるご婦人だが、さすがに高齢のせいか物覚えに支障があるのかも知れない。
「うちはねえ、血気盛んな子もいれば難しい年頃の子だっているでしょう?」
「ええ」
俺が目黒から前情報を何1つ聞いていないことを、この婦人は知らされていないのだろう。
その口調は既に事情を知る者に対する言い方だ。
「あたしがねえ、せめて主人の代わりにって思ったんだけど、最近のオモチャは高いし、色んな種類があってねえ。あたしには難しくって。あなたご存知? ミンテンドウ、デーエス?」
「DSですね? 存じています」
「それが解らなくて、あたし違う種類のゲーム機を買っちゃってねえ」
歳のせいだろうか。
彼女の話は長かった。
去年に旦那さんが亡くなり、クリスマスの時期に現れるはずのサンタクロース役がいなくなってしまって、代わりに老婆がその役目に挑んだとの内容だ。
サンタに宛てられた手紙には子供らが欲しい物がそれぞれ書かれていて、彼女は自分の年金でそれらを購入したのだが、どうやら携帯ゲーム機を間違えて、古い機種を買ってしまったらしい。
「あたし、夜中のうちにみんなの部屋にプレゼントを置いたのよ。翌朝、みんなが喜ぶ顔を見るのが楽しみでねえ。でもねえ、ミンテンドウなんちゃらを欲しがってた子がねえ、嬉しそうに包装紙を開けたら今度は泣き出しそうな顔になってねえ、これじゃない! って叫んでねえ、プレゼント投げ捨てちゃったのよ。あたし、駄目ねえ。安くない買い物だったのに、違うの買っちゃって、主人がいないとやっぱり駄目ねえ」
胸の痛む話である。
さらに辛辣なことに、この児童施設、市からの援助金が減らされたこともあって資金が不足し、今月いっぱいで閉鎖してしまうらしい。
「主人もいなくなったし、跡取りもいないしねえ。あたしだっていつまで生きられるか判らない。建物だって、あたしたちが結婚したときからずっと持ちこたえてくれてるけど、もうボロボロでねえ。こないだ役人さんが来て、このままじゃ運営させられませんってはっきり言われちゃってねえ。だから今月いっぱい。11月でもってここは閉鎖します。子供同士で仲良しになった子もいっぱいいるから、みんなが離れ離れになってしまうのが嫌なんだけどねえ、でも仕方ないから」
ご婦人は最後に「やっぱり昨日もお話しませんでしたっけ?」と首を傾げた。
お茶はすっかり冷めてしまって、ぬるい。
俺はそれを一気に流し込んだ。
「お茶、お代わりいかがですか?」
「いえいえ、ご馳走様です。もう結構ですよ」
「そう」
老婆は言って湯呑みを盆に乗せる。
「だからねえ、今日がたぶん最後のイベント。よろしくお願いしますね。昨日はああだったけど、みんなちゃんと楽しんでいましたから」
特に後半のセリフが意味不明だったが、そんなことよりもまず知りたいことがある。
これからここで俺に対する何かが始まるとばかり思っていたのだが、もしかして何かするのは俺のほうなのか?
何をやらされるというのだ。
まさか子供らに楽しい酒を提供するわけにもいくまい。
「準備はよろしいんですか?」
にこやかに婦人は言って、盆を台所まで運ぶ。
こちらに背を向けたままで彼女は続けた。
「子供たちには昨日と同じ時間に集合してもらっています。みんなね、お笑いの舞台を見るのは初めてだったから、今日も楽しみにしているのよ」
「もしや、それってお笑いライブのことですか?」
問うと老婆はころころと笑った。
「そうそう、今時はそう言うのね。舞台じゃなくて、ライブ、ね。失礼しました」
「いえ、そうじゃなくて」
今まで数多くの客から様々な無理難題を押し付けられたことがあるが、ここまで突拍子のない難しい注文は初めてだ。
お笑いライブ?
この俺が?
「少し準備したいのでお時間いただけますか?」
振り絞るように言い、俺はスマホに手を忍ばせる。
<裕次郎>
どうしてこうなった。
この窮地に立たされてしまっていること事態がもはやいいネタになりそうだ。
「あの、あの」と言ってるうちに僕は広い洋室に通されて、そこにはどっかで見たことがあるようなショートカットのおばさんが長椅子にもたれかかって庭を見ている。
おばさんはローブを着ていて、こちらに目もくれない。
「どうも」
沈黙が重たいから出た言葉だ。
なにがどうもなのか自分でも判らない。
この人どなた?
「今日で最後ね」
庭を見たままで、おばさんは鋭い口調で言った。
引退の覚悟を完全に見透かされている。
今日が最後って、この人どこで僕のことを知ったんだろう。
僕は少し下唇を噛んだ。
「今日が駄目だったら、諦めます。夢を捨てる覚悟です」
「大袈裟ね」
クスリと笑って、ようやくおばさんが顔をこちらに向ける。
「あなたを選んだことに深い理由はないのよ。ただそこに居たからってだけ」
え、どういうこと?
つまり僕は着いていく車を間違えていたってこと?
あの喫煙所にたまたまいた人だったら僕じゃなくてもよかったって意味?
となると、酷い話だぞこれは。
あのおじさんは勝手に僕に目をつけて、勝手にここに運んだってわけだ。
そりゃ僕だって迎えのお車なんだって勘違いちゃって、疑いはしなかったけどさ?
でもだからって、あんな普通の感じで案内されたら車に乗るじゃん。
行き先も言わないで、有無を言わせず人を運んじゃうってのは理不尽極まりないことじゃないか?
僕は今日、小さいながらも人生最後になるかもしれないライブがあるのに。
れっきとした用事があるのに。
「それは酷いですよ!」
ふつふつと怒りがこみあげてくる。
妙に迫力のある人だけど、悪いのはそっちっていう大義名分があって、僕は堂々とおばさんに向き直った。
「僕にだってやりたい事があるんです! それなのに、ただそこに居たから僕だなんて!」
「やりたいこと? それは初耳ね」
「そりゃそうですよ! 話す暇なんてなかったですもん! あなた一方的なんですよ!」
「そう、悪かったわね。あなたがやりたいことってのは、なにかしら?」
「僕は、人を笑わせることが夢です。まだまだ未熟だし修行中の身だけど、いつか大勢の人に笑ってもらえるようになりたいんです。そりゃ才能があるなんて思ってないですよ。でも、できそうだからやるとか、できなさそうだからやらないとか、そういうことを考えて決めたんじゃないんです!」
おばさんは無表情のまま僕を見つめている。
沈黙するとまた空気が重たくなりそうで、だから僕は必要以上にまくし立てた。
「今回もし失敗したら夢を諦めようって、そう覚悟して出てきたんです。今日は僕にとってそれだけ大事な日だったんです。それなのに、たまたまそこに居たからって、適当に石を投げたら当たったみたいじゃないですか!」
「そう、そこまで真剣に考えてくれていたのね」
「くれていたってなんですか! あなたのためじゃないですよ!」
「面白いことを言うのね」
おばさんが少し怖い顔になる。
「私のためじゃないのなら、なんのため? お店のためかしら?」
お店というのはきっとやすらぎの家のことだろう。
ああいった児童を育てる施設もお店って言い方をするのか。
「今日はそう、お店のためです」
「意外。正直なところもあるのね」
僕はこんなセレブなおばさん知らないけど、向こうは僕のことを知っているような節がある。
さっきはたまたまランダムに僕を選んだみたいなことを言ってたけど、果たして真相はどっちなんだろう。
「今からでもまだ間に合います」
僕は力強く胸を張った。
「次のステージに進めるかここで夢を諦めるかの瀬戸際なんです! こんなところであなたの余興にお付き合いする暇はないんです! 僕を舞台に立たせてください!」
「あなた、ますます興味深いことを言うのね。そこまで言うのなら私も見届けさせてもらうわよ」
言うとおばさんは立ち上がって室内電話に手をかける。
「車を回しなさい」
手短に言って受話器を置いた。
どうやら会場には行けそうな雰囲気になりはしたけれど、なんでこの人着いてこようとしてるわけ?
<真矢>
「なにか面白い話してよ」
水商売をやっていてよく言われるセリフの1つがこれだ。
大抵のホストはここで言葉に詰まるのだが、場数のある者は違う。
「それ、かなりの無茶振りだよ! なんでそんな酷いことするの!?」
と目を大きく開いて、次に念を押す。
「じゃあ本当に面白い話をするよ。いいんだね? ホント面白いよ?」
このように自らハードルを上げることで相手を油断させ、既に用意してあるいくつかの鉄板エピソードの中から1つを選び、披露するのだ。
しかし店とこことでは雰囲気が違う。
俺は正直、どこか冷めたような目をしている子供たちの前に少なからず戸惑っていた。
小学校低学年から高校生ぐらいまで、ざっと10人ぐらいはいるだろうか。
この子らは、娯楽を何も期待していないような目をしている。
前回のイベントではさぞかし退屈をさせられたのだろう。
腕時計に目をやる。
時間になっても何故だか零士は来なかった。
もう1度電話をかけようにもスマホのバッテリーが上がってしまったし、ここには充電器もない。
つまるところ、俺はこのまま小道具なしに彼らを楽しませなければならないというわけだ。
営業中によくやるとびっきりの笑顔を作り、俺は子供たち全員に行き届くように視線を配った。
「突然こんなこと言うのもなんだけど、なんでみんなこんなに暗いの!? 今日誰か死んだ!?」
アメリカ人顔負けの身振り手振りも交える。
「でね、今日はお笑いライブってことで僕今ここにいさせてもらってるんだけどね、実は今日なんにも用意してないんだよ」
残念でたまらない、そんな表情を作った。
「みんなを笑わせるようなネタなんて僕は持ってないんですねー。だから君たち、僕がなにを言っても笑ったら駄目だよ? いいかい? みんなが笑っちゃったら僕が嘘つきになってしまう」
わずかに空気が和らぐような感があって、俺は内心胸を撫で下ろす。
「僕ね? 弟がいるんだけど、天然っていうのかな。変わっててねー。
工事現場でお仕事してるんだけど、ある日ね? ガス管が破裂しちゃって、その破片が飛んできたんだって! で、それが弟の頭に当たっちゃったんだよ。死ぬとか重症ってわけじゃ全然ないかすり傷なんだけど、頭の怪我だから心配でしょう?
会社の人がね、『お前今日は仕事もういいから病院行け』って言ってくれて、車まで出してくれたんだって。
そしたら弟がね?『自分がよく行く病院あるんで、そこまで乗せてもらっていいですか?』って言い出すもんだから、会社の先輩も『いいよー』って。
でね、弟! 頭を怪我してるのにだよ!? 何故か歯医者に行ったんだ!」
ここで幼い何人かが笑い声を立てて、俺は慌てたような表情を浮かべる。
「あ~! 駄目駄目! 笑っちゃ駄目~! 我慢しててよ! いい? いいね? 笑っちゃ駄目だよ~!
でね! 弟なんだけど、受け付けで手続きをして待って! 名前を呼ばれて! 先生にどうしましたか? って訊かれて! 歯医者さんに向かって、頭が痛いんです。…痛いのはお前だよ!」
これで笑い声がさっきの倍になった。
「笑ったら駄目って言ってるでしょ~! 耐えて耐えて!
でさ、先生が言うの。『ここは歯医者なんで頭の怪我は直せないです』
そりゃそうだよ! こんな正しい意見、聞いたことがない!
で、弟が『そうですか』ってやっと病院出たんだけどさ、僕思うんだよ。
会社の先輩! あんたも頭怪我した奴を歯医者の前で降ろすなよ!」
どうにか全員を笑わせることができた。
引き続きハズレのないエピソードをいくつか話し、締めくくる。
「なんだよ、結局みんな笑っちゃったねー。あれほど駄目だって言ったのに、参ったな。ま、今日は僕が負けたってことでいっか。今日はみんなの前でお喋りできて楽しかったよ。ありがとうね。大勝利おめでとう!」
拍手を背に部屋から去る。
腕時計に目をやるともう夕刻。
一旦帰宅して仕事の用意をしなければ。
まだまだ謎が多いがやむを得ない。
運営者の婦人に挨拶をして今日は退散することにする。
背後の拍手はまだ続いていて「楽しかったね」とか「面白かった」などといった声も耳に入ってきた。
心に充実感が残る。
<裕次郎>
謎のおばさんと一緒に、やすらぎの家前で車から降りる。
同時に別の車がこっちに来て、スーツ姿で茶髪のカッコイイお兄さんが運転席から現れた。
「あ、いたいた! お疲れ様です!」
最初はおばさんに対して言ったのかと思ったんだけどそうではなくて、彼は両手で抱えられそうに大きな白い袋を僕に渡そうとしてくる。
「これ、頼まれたやつです」
「え? え?」
「じゃあ僕もお客さんお待たせしてるんで、これで失礼しますね! 夜にまた!」
手短に告げると青年は颯爽と車に乗り込んで走り去ってしまった。
今のお兄さん誰?
この巨大な袋は何?
僕の隣に当然のようにいるこのおばさんだって何者なんだか知らされないままだし、なんだか今日はわけの解らないことばっかりだ。
インターフォンは壊れているので玄関はノックをする。
軽く叩いてもガラス戸はガシャンガシャンと派手な音を立てた。
「あらまあ」
管理者のおばあさんは今日も愛想良くしてくれる。
「これはこれはどうもお疲れ様でした」
深々と頭を下げられ、僕も釣られておじぎで返す。
顔を上げると、おばあさんは嬉しそうに笑った。
「みんなねえ、本当に楽しそうに笑っててねえ。あんなに楽しそうな子供たちは久しぶりですよ」
それは昨日の話をしているのだろうか。
めちゃめちゃ静まり返してしまったのに、実は喜んでもらえてたってこと?
とてもそうは思えなかったけれども。
おばあさんは不思議そうにしている僕の様子に気がついていないらしく、絶賛の嵐だ。
「さすがお話が上手ねえ。もっと聞きたい、またあのお兄さんに来てもらいたい、ってねえ、たった今も子供たちみんな言ってたのよ」
この言葉に背後から謎のおばさんが「へえ、やるじゃない」とつぶやいた。
「それで、あの」
と、おばあさんの言葉を遮る。
「ちょっと遅くなっちゃって申し訳ないんですけど、今からまたやらせてもらってもいいですか?」
するとおばあさん、「え、また!?」とやたら大きく驚いた。
昨日のネタがやっぱり面白くなかったからだろう。
僕は焦って両手をバタバタと左右に振る。
「あ、あ、違うんです! 前回とは全く違う内容なんで、是非やらせてください! こちらの都合でこんな時間になってしまったのでお願いしにくいんですけども、どうかお願いします!」
「いいええ、とんでもないですよ。子供たちも喜びます。じゃあちょっとみんなに声かけてきますね」
「ありがとうございます! あ、どっか着替えるところはありますか?」
こうして僕は再び子供たちの前に立っている。
若いお客さんたちは誰もが目をキラキラと輝かせていて、中には期待感たっぷりといった体で身を乗り出している子までいる。
まるでもう既に会場が温まっているかのような和んだ空気だ。
「みんな、遅くなってごめんね! また来たよ!」
元気よく言うと子供らは歓声を上げ、大きな拍手で迎えてくれた。
なんか僕もの凄く好かれてる。
こんな感じは初めてだ。
めちゃめちゃやりやすい。
僕は自分が着ているサンタの衣装が見えるよう、両手を広げて見せた。
「ご覧の通り、僕ね、実はサンタさんだったんだよ。いやあ、本当に遅くなっちゃった。ねえ君!」
僕から近い席に座っている小学生の女の子に声をかける。
「今ってさ、何月なのかなあ? 判る?」
すると女の子はとても高いテンションで「11月ー!」と大きな声を出した。
「11月ー!?」
僕はわざとらしくびっくりし、その勢いで後ろにひっくり返ってみせる。
途端、数々響く笑いの声。
なんだこの好感触。
めちゃくちゃ楽しいぞ!
こんなにも自分を出しやすいライブは初めてだ!
よろよろと尻をさすりながら立ち上がる。
「いてて…。そっか、11月かあ…。なんてこったい。ってことは僕、11ヶ月も遅れてきちゃったのかあ。みんな本当にごめんね!」
謎のおばさんはというと部屋の奥で腕組みをして黙って見てる。
あの人のことは気にせず楽に続けよう。
今日のネタは、昨日一晩かけて一生懸命考えた。
経営者のおばあさんから聞いた切ないお話をモデルにさせてもらっている。
テーマは、へこたれないサンタさん。
「今転んだお尻がまだ痛い。もうね、僕いつもこうだよ。去年なんてこんな感じだった」
チワワに追われ、噛まれる状況を動作とセリフで表現する。
すると笑い声。
次は煙突を探してうろうろしていたらお巡りさんに見つかってしまうシーン。
常軌を逸した苦しい言い逃れで誤魔化す場面を演じる。
また笑い声。
忍び込んだ家で泥棒と間違われ、通報されるとさっきのお巡りさんにまた出くわしちゃった!
大爆笑!
もう楽しくて楽しくて。
楽しんでもらえてることが最高に楽しくて。
ネタ作りのときには想定していなかったアドリブを調子づいて入り混ぜちゃったりなんかもして。
「サンタクロースはね、人数が少ないからプレゼント配るの大変なんだ。君たちのところにだってそうだし、大勢の子供たちの元に行かなくちゃいけない」
いよいよ締めに取り掛かる。
僕の中で再び緊張感が蘇る。
「僕ぐらいドジなサンタさんは珍しいけれど、それでもね、サンタは全員、みんな頑張っているんだよ。なんだけど、今日みたいに遅れちゃったり、プレゼントを間違えてしまったりすること、これからもたくさんあると思います。ごめんなさい。
でもね! サンタクロースは諦めない! 最近のオモチャのことが判らなくても、1年2年遅くなってしまっても、僕ら一生懸命やるから! みんなが笑顔で過ごせるように頑張るから! だから、たまにしか来てあげられなくて申し訳ないけど、僕たちからのプレゼント、大事に大事に使ってあげてください。貰った物は大切に使ってください」
僕は最後に「物を大切に扱える素敵な大人になってください」と付け加え、その場を後にする。
子供たちはさっきと違って静まり返っていたけれど、やがて誰かがパチパチと手を叩いて、思い出したかのように他の拍手が起こって、やがて音が土砂降りのような音量にまで育って、僕はそれを背中で聞いた。
これで、僕は次の町に旅立てる。
そう思った。
気づけば暖かい涙が頬を伝わっている。
よかった。
本当によかった。
これからも僕は、諦めなくてもいいんだ。
夢を追い続けても、いいんだ。
「見させてもらったわ」
あのおばさんが壁に寄りかかっている。
僕は慌てて涙を拭った。
「はあ。ありがとうございます」
結局この人がどこの誰なのかは判らないままだけど、今更訊くのもおかしい気がするし、もういいやと思う。
「僕、このまま行きますね、おばあさんに挨拶してから」
「そう。あたしはじゃあ、その後にしようかしら」
「え?」
「ちょっとね、ここの運営者に訊きたいことができたのよ」
「はあ、そうですか」
「また会いましょう」
「え、あ、はい」
やすらぎの家を出て、僕は駅へと歩を進める。
近所のおじさんにまた車をお願いするのも悪いから、徒歩だ。
見上げるとすっかり日が暮れていて、星が綺麗に見える。
人は誰でもサンタクロースになれるのだ。
そんな当たり前のことを思って、口に出してみる。
「人は誰でもサンタクロースになれるのだ」
そう。
そして、サンタクロースはへこたれない!
どんなに遅れても、サンタは絶対に諦めないのだ!
僕だってサンタ候補、負けてなんかいられない。
いつか必ずお笑い芸人になってやる!
駅についたらコインロッカーに預けた荷物を引き取って、そしたら切符売り場の前でコイントスをしよう。
そうして次の行き先を決めるんだ。
次の町を想い、僕は早くもその景色を想像する。
そうだ。
せっかく用意したんだからサンタの衣装はまた使おうかな。
「あ」
つい口に出る。
サンタの衣装で思い出した。
あの茶髪のお兄さんがくれた白い大袋、やすらぎの家に置いてきちゃった。
あれの中身、一体何だったんだろう。
<真矢>
「いらっしゃいませ。この時間帯にいらっしゃるだなんて珍しいですね。それにお1人だなんて初めてじゃないですか」
「ちょっと色々しててね、遅くなっちゃったのよ」
「いえいえ、嬉しいですよ」
目黒が店にやってきたのは日付が変わる間際の頃だ。
いつものように奥へと通し、ソファに座ってもらう。
スマートに見えるよう、流れるように水割りを作って差し出す。
ご一緒しても良いですかと短く断りを入れ、了承を受けて自分の酒も用意した。
「いただきます。乾杯」
「お疲れ様」
2人同時に酒を口に含んだ。
グラスを置いて、俺はバツが悪そうに顔を歪める。
「僕の負けです」
「やられたわ、あなたには」
ほぼ同じタイミングで目黒も開口していた。
「え?」
驚いて彼女を見る。
目黒は涼しげな調子だ。
「見事にやってくれたわね。私の負けよ」
彼女は何を言っているのだろうか。
1週間で人生を変えろとのお達しは今日が最終日で、俺は何もできなかったではないか。
相変わらず真意が読めず、聞きに徹することしかできない。
「やすらぎの家、っていったかしら?」
やはりあの施設、目黒と関係があったのだ。
俺は「ええ」とだけ返しておいた。
「吉川さんに色々と話を聞いたんだけど」
「吉川?」
「呆れた。あなたあそこの経営者の名前も知らなかったの?」
「ああ、いえ、失礼しました」
「吉川さんから色々と伺ったわ」
どうやら目黒もあのご婦人から長話を聞かされたらしい。
「今の市長は駄目ね。前々から予算の使い方が偏っていたとは感じてた。どう考えても予算の優先順位がおかしいわ」
珍しく感情的になって、目黒は2口目を飲んだ。
「予算の問題、なんとかしましょう。市長に影響力のあるコネぐらい、私にだってあるわ」
その発言に俺は目を丸くした。
「ということは、あの施設、閉鎖しないで済むんですか!?」
「ええ、そういうことにしてみせる」
「老朽化した建物はどうするんです?」
「これね、吉川さんからお借りしてきたの」
言って目黒はボロボロになった大学ノートを鞄から取り出す。
中を拝見すると個人名とその住所、連絡先などが書いてある。
「全部で62人、あの施設から出ているの。みんなそれぞれ仕事をするなり家庭を持ったり、しっかりと暮らしているみたい」
「へえ、いわばあの施設の卒業生ってわけですか」
「全員と連絡を取ったわ」
「え!? 今日ですか!?」
「そう。さすがに誰もが在宅していたわけじゃなかったから全員と話せたわけじゃないけど」
目黒が穏やかに笑んで続ける。
「事情を話したら何人かの主婦が交代交代で手伝いを名乗り出てくれたわ」
「へえ、それはいい。あのおばあさん、助かるでしょうね」
「大工になっている人もいたし、建設業に携わっている人もいた。来月から忙しくなるわよ」
「あ」
目黒が言いたいことが解ったような気がした。
「そう、察しがいいわね。安く請け負うと約束はしてくれたけど、さすがに市から出るお金だけじゃ足りないでしょう。これは私が個人で負担します」
綺麗に建て直されたやすらぎの家がふっと脳裏に浮かんで、思わず鳥肌を立ててしまった。
もしかして俺は今感動しているのか?
「全く」
目黒がふっと息を吐いた。
「あなたにしてやられたわ。まさか若い頃の情熱を蘇らせるなんてね」
「いえ、僕は何もしていません」
これは謙遜しているわけでもなんでもなく、本当に何もしていないから出た言葉だ。
しかし目黒の耳には届いていなかった。
「たまたまとはいえ、あなたに頼んでよかった」
加えて目黒はぼそりと「病気に負けてる場合じゃないわね」とつぶやいた。
寂しさを帯びたその言葉が、あの要望の根源にあるような気がした。
「見届けさせていただきます。最後まで」
言うと目黒は初めて笑顔を見せる。
「お願いするわ。…あ、そうそう」
せかせかとした様子で目黒が再び鞄をまさぐる。
「これ、返品ですって。サンタクロースさん」
差し出された小箱は1度梱包が解かれた形跡があった。
それが再び包み直されている。
なんだろうと開けると、中にはミンテンドウDSが入っているではないか。
どうやら零士の奴、遅刻はしたがちゃんと頼んだ物を持って来ていたらしい。
万が一ウケが悪かったときのため、金に物を言わせて用意した子供たちへのプレゼント。
いわば袖の下ってやつだ。
ご婦人から話を聞いていたから物の1つはDSを選んだのだが、それが返されてしまうとはどういうことだろうか。
他のオモチャはちゃんと全員に行き渡ったとは思うのだが。
「あそこの子から預かってきたの」
首を傾げていると、目黒から水色の封筒を渡された。
「今読んでも?」
「ええ、どうぞ」
「ちょっと失礼」
目を通すと、子供の文字が次のように並んでいる。
サンタさん、ミンテンドウDSをくれて、どうもありがとうございます。
でも、ぼくは、これはいりません。
ぼくはきょねん、ミンテンドウDSをほしいといったのに、ゲームワールドアドバンスが入っていて、そして、それをよしかわママの前ですててしまいました。
あとになって、サンタクロースがだれなのか気がついて、ぼくはゲームワールドアドバンスをひろって、そして、いっしょに入っていたゲームで遊んでみました。
とても面白かったです。
でも、よしかわママにかわいそうなことをしてしまいました。
よしかわママに、いつか、ありがとうとごめんなさいを言いたいです。
ゲームワールドアドバンスでもうれしいです。
だから、ぼくは、ミンテンドウDSはいりません。
サンタさんがせっかくくれたのに、かえしてごめんなさい。
これは、ほかの子供にあげてあげてください。
さっきサンタさんが言っていたように、ぼくは、物を大事にしようと思います。
ゲームワールドアドバンスを大事にして、そして、色んなゲームで遊ぼうと思います。
でも、サンタさんには、また来て、そして、面白いお話をもっとたくさんしてほしいです。
だから、また来てください。
読み終えて、俺はグラスを持ち上げ、中身を少し飲む。
「これは吉川さんに教えてあげたいですね」
「そうね」
「目黒さん」
「なあに?」
俺は改めて目黒と向かい合う。
「僕の名前、真矢ってのは源氏名です」
「ええ、そうでしょね」
「普段隠している本名なんですが、これがその、親には申し訳ないんですが、率直に言いますとダサくてね」
「へえ、なんて名前なの?」
「漢数字の三に太郎の太。三太っていうんですよ」
あはは。
2人で声に出して笑い合う。
「ふう」
俺は背もたれに身を預ける。
そうか。
あの施設、まだこれからも運営を続けられるのか。
「目黒さん、やっぱり負けたのは僕のほうです」
「あら、どうして」
「あなたの人生を変えようと意気込んでみましたが、結果、人生を変えられてしまったのは僕のほうでした」
今度は目黒が目を丸くする。
「どういうこと?」
「やすらぎの家、跡取りがいないとも言ってましたね、吉川さんは」
「ええ、おっしゃっていたわね」
「ホストなんて一生続けられる仕事じゃないです」
「あら」
「ああ、いえ、今日思いついたことなんで、まだ決心はしていないんですよ。でも今、やすらぎの家が無くならないことを伺いましたし、ちょっと腰を据えて考えてみてもいいかな、と」
「いいんじゃない? 向いてるわよ、あなた。子供にウケがいいもの」
「え!? もしかして、見ていらしたんですか!?」
「あら、気づかなかったの? 真正面にいたのよ? 部屋の隅だったけど」
「これはお恥ずかしいところをお見せ致しました」
「いいえ、楽しかったわよ」
再び笑い合う。
まさかこの人とこんなに気安く談笑をすることになるだなんて、昨日までは思いもしなかった。
「目黒さん、もう1度乾杯しませんか?」
「いいわよ。何に?」
「子供たちと吉川さんに」
再度、グラスが小さく音を立てる。
「メリークリスマス」
気取った調子になって、俺は精一杯キザにグラスを掲げた。
――了――
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無題
---できそうだからやるとか、できなさそうだからやらないとか、そういうことを考えて決めたんじゃないんです!
この言葉が今の私には一番心に響きました。
私も誰かの人生をかえてみたいですね。
いい意味で。
この言葉が今の私には一番心に響きました。
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いい意味で。
無題
初めてコメントさせて頂きます。人生のターニングポイントはふとした瞬間に訪れる。それに気付くかどうかは自分の心次第。思わずそんなことを考えてしまいました。私事ですが最近めささんに憧れてブログを始めてみたのですが、こんな素敵な文章は書けません。やはりめささんは凄いと改めて思っています。お忙しいでしょうがこれからもめささんの文章、動画などの創作活動に期待しています。長文失礼しました。
無題
初めてコメントさせていただきます。
普通に読んでいたはずがいつの間にか世界観に惹き込まれていました。
少しだけ狂った運命の歯車に捲き込まれた、真矢さんと祐二郎さん…何処か複雑に絡んだ、運命の糸は不思議なぐらいに最後には簡単にほどけて…
本当にどこか不思議で(←私の理解能力が低いだけかも…)胸が温かく(熱く?)なるお話でした!!
めささんの小説の世界観すきです!!
では、乱文意味不明文長文失礼しましたm(__)m
普通に読んでいたはずがいつの間にか世界観に惹き込まれていました。
少しだけ狂った運命の歯車に捲き込まれた、真矢さんと祐二郎さん…何処か複雑に絡んだ、運命の糸は不思議なぐらいに最後には簡単にほどけて…
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めささんの小説の世界観すきです!!
では、乱文意味不明文長文失礼しましたm(__)m
読ませて頂きました♪
お笑いライブなかなか面白かったですヾ(・ω・*)ノ
スラスラと詰まることなく面白くて読みやすかったです(*´∇`*)
物も大切に扱わないといけないなぁーと思いましたね。
めささんの作るお話し大好きです!
これからも永遠のファンで居続けますよ
(ノ*´>ω<)ノ
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すごすぎて、よくわからん
おはよう、こんにちわ、こんばんは。
まず、動画から始まって、
夢見町の史に、いって、
ショートショート読んで、
あの、めささんって何者なんですか?
僕には、めささんが多重人格的なものに見えます。
あ、お話、面白かったです。
&動画も面白いです。
だから、早くpart21 うpしてください。
多スペース・イミフ文、許して下さい。
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