夢見町の史
Let’s どんまい!
2013
March 12
March 12
「ねえ、得意料理って何?」
女の子が何気なく訊ねた先にいるのは、俺の弟だ。
これは半年ほど前に数人で飲んでいたときのことで、話題は料理について。
弟も毎日自炊をしているので、どういった料理が得意なのかと訊かれたのだ。
「得意料理?」
弟の態度はというと、実に堂々としたものだった。
「チリコンクイーン!」
なんだそれ。
その場に居合わせている者の中には何人か料理を得意としているのだが、誰もが一瞬押し黙る。
チリコンクイーンを知らないのは自分だけなのか、と自分の無知を疑っているのだ。
そのうち、勇気を振り絞った女子が恥を忍び、おずおずと口を開く。
「あのさ、チリコンクイーンって、何…?」
すると、弟の回答は極めて単純なものだった。
「俺が考えたの!」
まさかのオリジナル料理。
そりゃ誰もが知らないわけである。
それにしても弟は、どうして皆が絶対に知らないはずのチリコンクイーンの名を当たり前のように挙げたのだろうか。
「創作料理が得意です」では駄目なのだろうか。
「それってどういう料理?」
別の誰かが訊ねる。
しかし、弟は非常に口が下手で、彼の説明は難解。
その料理が固形物なのか汁物なのかさえはっきりしない。
加えてしまうと、美味いのかどうかさえ判らない。
「チリコンクイーンって名前からするとさ、リゾット系じゃない?」
「そう! リゾット系!」
「へえ、お米使うんだ?」
「使わないよ?」
「リゾット系じゃないじゃん!」
彼のことを生まれたときから知っている兄ですら言ってることが解らない。
だが、チリコンクイーンがどういった料理なのか気になるのはみんなと一緒だ。
せめて甘いのか辛いのかだけでも知りたい。
俺は弟の正面に立った。
「チリコンクイーンのレシピを教えてくれ」
「いいよー。うんとねえ」
ところが弟は酒の勢いも加わってさらに説明が下手くそな状態だ。
「ひき肉に味付けをして」などと言うからうんうんと聞いていれば「それをあらかじめ作っておいた特製のスープで煮てさあ」などと未知の液体を登場させる。
「ちょっと待て! 特製のスープってなんだ!?」
「俺が考えたスープ!」
「だったらまずその特製スープのレシピを先に言え!」
「えっとねえ」
ところがところが、そのスープには弟特製のソースが途中で加わるのである。
なんなんだこいつの伝達能力は。
兄の顔が見たい。
「そのソースってなんだよ!?」
「俺が考えたソース!」
「じゃあ、先にそのソースのレシピをだな…」
かくして3人がかりでチリコンクイーンの作り方を理解しようと努めたが、長時間かけて得られた結果は、弟が残念な子であるという事実だけであった。
半分に割った固形コンソメスープをひき肉に入れて混ぜ、特製スープに固形コンソメスープの半分を入れるのなら、どちらか片方に1個を入れてしまえばいいだろうが弟よ。
この日以来、俺の頭からもやもやが取れない。
チリコンクイーンが気になって気になって仕方がないのだ。
「お前の好きな料理、何でも作ってタッパーに入れて渡す! だから、お前はチリコンクイーンを作って持ってきてくれ!」
そう真剣に頼むために電話も何度かかけた。
そんな時に限って弟は仕事の忙しい時期に差し掛かっていて繋がらない。
クックパッドで調べてもみたが、当然ながら検索結果は0件だ。
もはやオリハルコンに並ぶ伝説の物体である。
かくして月日は流れ、昨日。
ようやく弟と酒を飲むことができた。
こいつが酒に飲まれる前に真相を訊かなければ!
乾杯もそこそこに、俺は弟の目を見つめた。
「なあ! チリコンクイーンってなんなの!?」
弟は目を大きく見開くと、驚愕の言葉を放つ。
「何それ!?」
瞬間、俺は膝から崩れ落ち、床の上をごろごろのたうち回って悶絶した。
怒ったらいいのか笑ったらいいのか泣いたらいいのかさっぱり解らない。
チリコンクイーンってなんなんだ。
情報求む。
女の子が何気なく訊ねた先にいるのは、俺の弟だ。
これは半年ほど前に数人で飲んでいたときのことで、話題は料理について。
弟も毎日自炊をしているので、どういった料理が得意なのかと訊かれたのだ。
「得意料理?」
弟の態度はというと、実に堂々としたものだった。
「チリコンクイーン!」
なんだそれ。
その場に居合わせている者の中には何人か料理を得意としているのだが、誰もが一瞬押し黙る。
チリコンクイーンを知らないのは自分だけなのか、と自分の無知を疑っているのだ。
そのうち、勇気を振り絞った女子が恥を忍び、おずおずと口を開く。
「あのさ、チリコンクイーンって、何…?」
すると、弟の回答は極めて単純なものだった。
「俺が考えたの!」
まさかのオリジナル料理。
そりゃ誰もが知らないわけである。
それにしても弟は、どうして皆が絶対に知らないはずのチリコンクイーンの名を当たり前のように挙げたのだろうか。
「創作料理が得意です」では駄目なのだろうか。
「それってどういう料理?」
別の誰かが訊ねる。
しかし、弟は非常に口が下手で、彼の説明は難解。
その料理が固形物なのか汁物なのかさえはっきりしない。
加えてしまうと、美味いのかどうかさえ判らない。
「チリコンクイーンって名前からするとさ、リゾット系じゃない?」
「そう! リゾット系!」
「へえ、お米使うんだ?」
「使わないよ?」
「リゾット系じゃないじゃん!」
彼のことを生まれたときから知っている兄ですら言ってることが解らない。
だが、チリコンクイーンがどういった料理なのか気になるのはみんなと一緒だ。
せめて甘いのか辛いのかだけでも知りたい。
俺は弟の正面に立った。
「チリコンクイーンのレシピを教えてくれ」
「いいよー。うんとねえ」
ところが弟は酒の勢いも加わってさらに説明が下手くそな状態だ。
「ひき肉に味付けをして」などと言うからうんうんと聞いていれば「それをあらかじめ作っておいた特製のスープで煮てさあ」などと未知の液体を登場させる。
「ちょっと待て! 特製のスープってなんだ!?」
「俺が考えたスープ!」
「だったらまずその特製スープのレシピを先に言え!」
「えっとねえ」
ところがところが、そのスープには弟特製のソースが途中で加わるのである。
なんなんだこいつの伝達能力は。
兄の顔が見たい。
「そのソースってなんだよ!?」
「俺が考えたソース!」
「じゃあ、先にそのソースのレシピをだな…」
かくして3人がかりでチリコンクイーンの作り方を理解しようと努めたが、長時間かけて得られた結果は、弟が残念な子であるという事実だけであった。
半分に割った固形コンソメスープをひき肉に入れて混ぜ、特製スープに固形コンソメスープの半分を入れるのなら、どちらか片方に1個を入れてしまえばいいだろうが弟よ。
この日以来、俺の頭からもやもやが取れない。
チリコンクイーンが気になって気になって仕方がないのだ。
「お前の好きな料理、何でも作ってタッパーに入れて渡す! だから、お前はチリコンクイーンを作って持ってきてくれ!」
そう真剣に頼むために電話も何度かかけた。
そんな時に限って弟は仕事の忙しい時期に差し掛かっていて繋がらない。
クックパッドで調べてもみたが、当然ながら検索結果は0件だ。
もはやオリハルコンに並ぶ伝説の物体である。
かくして月日は流れ、昨日。
ようやく弟と酒を飲むことができた。
こいつが酒に飲まれる前に真相を訊かなければ!
乾杯もそこそこに、俺は弟の目を見つめた。
「なあ! チリコンクイーンってなんなの!?」
弟は目を大きく見開くと、驚愕の言葉を放つ。
「何それ!?」
瞬間、俺は膝から崩れ落ち、床の上をごろごろのたうち回って悶絶した。
怒ったらいいのか笑ったらいいのか泣いたらいいのかさっぱり解らない。
チリコンクイーンってなんなんだ。
情報求む。
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