夢見町の史
Let’s どんまい!
2011
October 09
October 09
皆さんは、現役の女子プロレスラーの人にひっぱたかれたことがあるだろうか?
もし「ある」と言う人がいたら、この言葉を捧げよう。
お前は俺か。
職場のスナックにかの有名な女子プロレスラー豊田真奈美さんが手伝ってくれていることは以前に書いた通りだ。
真奈美さんのおかげで、うちの店に女子プロレスラーの面々が飲みに来てくれるようになっている。
先日など、6人もの猛者たちが来店され、山賊の宴を彷彿させる飲み方をされていた。
「お兄ちゃん!」
俺を呼び止めたレスラーの名は、ここでは仮に「ゴンザレス高橋リーサルウェポン」とさせていただこう。
ゴンザレス高橋リーサルウェポンさんに呼び止められた。
「はい?」
返事をしたと同時に俺の顔面を平手が襲う。
バシ!
という炸裂音を近くに聞いた。
なんで殴られたの俺?
後になって思えば、ゴンザレス高橋リーサルウェポンさんはリング上でよく見られる平手の応酬を、何故か店内で再現したくなっちゃったのであろう。
体育会系に酒を飲ませると、星を取ったスーパーマリオのようになるから困ったもんだ。
そんなゴンザレス高橋リーサルウェポンさんに誰かが「めさは空手の有段者で素人じゃないから殴っても大丈夫」などと勝手なことを吹き込んだに違いない。
それにしても、なんの前触れもなく殴られるなんて展開、読るわけがない。
普通、女の人が男をひっぱたくときっていうのは恋が始まるときか終わるときだ。
それがこのゴンザレスのビンタときたら、なんの色気もない。
ゴンザレス高橋リーサルウェポンさんは俺に頬を突き出し、ジェスチャーで「ほら、やり返せ」と示す。
水商売は短くないが、ここまでの無茶振りは初めてだ。
いくら相手が現役のプロレスラーで、しかも本人が「あたしを殴れ」と命じたからといって、女の人をひっぱたけるわけがない。
尚も殴られる体制を取っているゴンザレス高橋リーサルウェポンさんの頬を、俺は「えいっ」と語尾にハートマークを付けながら、指でツンと突ついて誤魔化した。
「そうじゃない!」
ゴンザレス高橋リーサルウェポンが怒り出す。
殴らなかったから怒られるなんて体験、初めてだ。
「そうじゃなくて、こうだぁ!」
バシイ!
と、再び殴られる。
さっさとカウンターの中に逃げ込んでしまいたかったが、あまりにも重い平手打ちに軽い脳震盪を起こし、足にきちゃっているので動けない。
「さあ、こい!」
再び顔を突き出すゴンザレス高橋リーサルウェポンさん。
やはり手を上げられないので指で軽く突く。
そうじゃないとまた殴られる。
そんなループを5回ほど繰り返した。
我ながら思う。
俺、ドMでよかった。
もし「ある」と言う人がいたら、この言葉を捧げよう。
お前は俺か。
職場のスナックにかの有名な女子プロレスラー豊田真奈美さんが手伝ってくれていることは以前に書いた通りだ。
真奈美さんのおかげで、うちの店に女子プロレスラーの面々が飲みに来てくれるようになっている。
先日など、6人もの猛者たちが来店され、山賊の宴を彷彿させる飲み方をされていた。
「お兄ちゃん!」
俺を呼び止めたレスラーの名は、ここでは仮に「ゴンザレス高橋リーサルウェポン」とさせていただこう。
ゴンザレス高橋リーサルウェポンさんに呼び止められた。
「はい?」
返事をしたと同時に俺の顔面を平手が襲う。
バシ!
という炸裂音を近くに聞いた。
なんで殴られたの俺?
後になって思えば、ゴンザレス高橋リーサルウェポンさんはリング上でよく見られる平手の応酬を、何故か店内で再現したくなっちゃったのであろう。
体育会系に酒を飲ませると、星を取ったスーパーマリオのようになるから困ったもんだ。
そんなゴンザレス高橋リーサルウェポンさんに誰かが「めさは空手の有段者で素人じゃないから殴っても大丈夫」などと勝手なことを吹き込んだに違いない。
それにしても、なんの前触れもなく殴られるなんて展開、読るわけがない。
普通、女の人が男をひっぱたくときっていうのは恋が始まるときか終わるときだ。
それがこのゴンザレスのビンタときたら、なんの色気もない。
ゴンザレス高橋リーサルウェポンさんは俺に頬を突き出し、ジェスチャーで「ほら、やり返せ」と示す。
水商売は短くないが、ここまでの無茶振りは初めてだ。
いくら相手が現役のプロレスラーで、しかも本人が「あたしを殴れ」と命じたからといって、女の人をひっぱたけるわけがない。
尚も殴られる体制を取っているゴンザレス高橋リーサルウェポンさんの頬を、俺は「えいっ」と語尾にハートマークを付けながら、指でツンと突ついて誤魔化した。
「そうじゃない!」
ゴンザレス高橋リーサルウェポンが怒り出す。
殴らなかったから怒られるなんて体験、初めてだ。
「そうじゃなくて、こうだぁ!」
バシイ!
と、再び殴られる。
さっさとカウンターの中に逃げ込んでしまいたかったが、あまりにも重い平手打ちに軽い脳震盪を起こし、足にきちゃっているので動けない。
「さあ、こい!」
再び顔を突き出すゴンザレス高橋リーサルウェポンさん。
やはり手を上げられないので指で軽く突く。
そうじゃないとまた殴られる。
そんなループを5回ほど繰り返した。
我ながら思う。
俺、ドMでよかった。
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2011
September 16
September 16
ハイキングに行ったのだが新鮮味がなかったと、お客さんは言う。
子供の頃から何度も行っている場所がハイキングコースであったため、感動がなかったのだそうだ。
「へえ。ちなみにどこに行かれたんですか?」
訊くと、痩せ型の中年男性がグラスを持ったまま「三渓園」と答えた。
さんけいえんって、どこそれ。
キツい、汚い、危険な炎?
いやちげーよ。
3K炎じゃねえよ。
自問自答するよりも訊ねたほうが早い。
俺はお客さんに恐る恐る疑問を口にした。
「あのう、勉強不足ですみません。さんけいえんって何県ですか?」
この日もスナック「スマイル」は閑散としていて、我ながら職場の行く末が心配になる、そんないつもの夜のことだった。
お客さんは尚もグラスを持ったままで、氷固まる。
「めさ君、横浜出身じゃないの!?」
「ええ。生まれも育ちもこの街ですよ?」
「それで三渓園知らないの!?」
どこに住んでいても知らないものは知らないので、正直に「知らないですね」と胸を張った。
「それは話にならない!」
お客さんの言いようはまるで、「こいつ人知を超えた銀河系馬鹿だ!」とでも言いたそうな様子だ。
だけれども、今までたまたま見聞きしなかったことを知っていることのほうがおかしいじゃないか。
「もの凄い確率で、僕が生まれてから今日までずっと、誰も三渓園については触れてきませんでしたね」
「めさ君、それはね! 横浜に住んでて山下公園を知らないのと一緒だよ!」
要するに、日本に住んでて富士山を知らないのと同じようなものらしい。
でも、知らないもんは知らんもの。
なんで俺が怒られるのよ。
携帯電話を取り出し、密かに「さんけいえんってどんな字?」と、俺は仲間に訊いた。
調べてみると、意外や意外。
すぐにでも行けるような近場にそれはあって、画像には五重の塔やお寺のような日本的な建築物。
それらは自然と調和していて、カメラマンの腕も良いのだろうがすこぶる美しく写っている。
秋には紅葉も楽しめるのだそうだ。
「これはいい! いいこと知った! 俺今度ここ行ってきますよ!」
喜んでいると、お客さんは呆れたように「横浜出身で三渓園知らないなんてありえない」と現実を認めようとしない。
「まあまあお客さん、そう言わずに。僕が三渓園を知らなかったのは過去のことです。でも今はもう知っちゃったもん。なのでなので、この店に三渓園を知らない従業員は1人もいなくなりました」
「そういう問題じゃない!」
「さようなら、三渓園を知らなかった自分。こんにちは、三渓園を知った自分」
「誤魔化せてないよ!」
そうこうしていると、遅出のフロアレディCちゃんが出勤してきて、今日も元気に「おはようございまーす」といい笑顔を見せる。
そんな彼女を、俺は呼び止めた。
「おはようCちゃん。あのさ、Cちゃんもさ、横浜生まれだよね?」
「ええ、そうでーす! 育ちも横浜ー!」
「だよね? でさ、Cちゃん。三渓園って知ってる?」
「知ってますよー。ってゆうか横浜に住んでて三渓園知らない人なんて、いないんじゃないですか?」
「え!? あ、ああ! そ、そそそ、そうだよね!? ですよねえ! あの三渓園を知らない奴なんているわけないよね!? そんなんありえないありえない! 横浜に生まれて三渓園を知らないなんて、山下公園を知らないのと一緒!」
「どうしたんですか? めささん、口数いつもより多い~」
「そんなこたァないっ! でもこれは日記に書くからいずれバレるな…」
「え? 今なんて~?」
「いやこっちの話!」
実に嫌な汗をかいた。
話題は変わり、先ほどのお客さんが気分良さげに言う。
「めさ君はブログとかやってるけど、僕ぁね、検索して調べるためにネットを使うんだよね」
「ネットって便利ですもんね。お客さんほどじゃないですけど、僕もたまに検索しますよ。三渓園とか」
「横浜に生まれて三渓園を知らないなんて本当に信じられない!」
いっけね。
ぶり返しちゃった。
どんまい俺!
三渓園には、今度行ってみようと思います。
子供の頃から何度も行っている場所がハイキングコースであったため、感動がなかったのだそうだ。
「へえ。ちなみにどこに行かれたんですか?」
訊くと、痩せ型の中年男性がグラスを持ったまま「三渓園」と答えた。
さんけいえんって、どこそれ。
キツい、汚い、危険な炎?
いやちげーよ。
3K炎じゃねえよ。
自問自答するよりも訊ねたほうが早い。
俺はお客さんに恐る恐る疑問を口にした。
「あのう、勉強不足ですみません。さんけいえんって何県ですか?」
この日もスナック「スマイル」は閑散としていて、我ながら職場の行く末が心配になる、そんないつもの夜のことだった。
お客さんは尚もグラスを持ったままで、氷固まる。
「めさ君、横浜出身じゃないの!?」
「ええ。生まれも育ちもこの街ですよ?」
「それで三渓園知らないの!?」
どこに住んでいても知らないものは知らないので、正直に「知らないですね」と胸を張った。
「それは話にならない!」
お客さんの言いようはまるで、「こいつ人知を超えた銀河系馬鹿だ!」とでも言いたそうな様子だ。
だけれども、今までたまたま見聞きしなかったことを知っていることのほうがおかしいじゃないか。
「もの凄い確率で、僕が生まれてから今日までずっと、誰も三渓園については触れてきませんでしたね」
「めさ君、それはね! 横浜に住んでて山下公園を知らないのと一緒だよ!」
要するに、日本に住んでて富士山を知らないのと同じようなものらしい。
でも、知らないもんは知らんもの。
なんで俺が怒られるのよ。
携帯電話を取り出し、密かに「さんけいえんってどんな字?」と、俺は仲間に訊いた。
調べてみると、意外や意外。
すぐにでも行けるような近場にそれはあって、画像には五重の塔やお寺のような日本的な建築物。
それらは自然と調和していて、カメラマンの腕も良いのだろうがすこぶる美しく写っている。
秋には紅葉も楽しめるのだそうだ。
「これはいい! いいこと知った! 俺今度ここ行ってきますよ!」
喜んでいると、お客さんは呆れたように「横浜出身で三渓園知らないなんてありえない」と現実を認めようとしない。
「まあまあお客さん、そう言わずに。僕が三渓園を知らなかったのは過去のことです。でも今はもう知っちゃったもん。なのでなので、この店に三渓園を知らない従業員は1人もいなくなりました」
「そういう問題じゃない!」
「さようなら、三渓園を知らなかった自分。こんにちは、三渓園を知った自分」
「誤魔化せてないよ!」
そうこうしていると、遅出のフロアレディCちゃんが出勤してきて、今日も元気に「おはようございまーす」といい笑顔を見せる。
そんな彼女を、俺は呼び止めた。
「おはようCちゃん。あのさ、Cちゃんもさ、横浜生まれだよね?」
「ええ、そうでーす! 育ちも横浜ー!」
「だよね? でさ、Cちゃん。三渓園って知ってる?」
「知ってますよー。ってゆうか横浜に住んでて三渓園知らない人なんて、いないんじゃないですか?」
「え!? あ、ああ! そ、そそそ、そうだよね!? ですよねえ! あの三渓園を知らない奴なんているわけないよね!? そんなんありえないありえない! 横浜に生まれて三渓園を知らないなんて、山下公園を知らないのと一緒!」
「どうしたんですか? めささん、口数いつもより多い~」
「そんなこたァないっ! でもこれは日記に書くからいずれバレるな…」
「え? 今なんて~?」
「いやこっちの話!」
実に嫌な汗をかいた。
話題は変わり、先ほどのお客さんが気分良さげに言う。
「めさ君はブログとかやってるけど、僕ぁね、検索して調べるためにネットを使うんだよね」
「ネットって便利ですもんね。お客さんほどじゃないですけど、僕もたまに検索しますよ。三渓園とか」
「横浜に生まれて三渓園を知らないなんて本当に信じられない!」
いっけね。
ぶり返しちゃった。
どんまい俺!
三渓園には、今度行ってみようと思います。
2011
April 24
April 24
M子がうちのカーテンレールを壊した。
なんでそんな酷いことを。
だいたい「俺は帰る」って何度も、それこそ10回ぐらい主張したのだ。
それなのに帰宅時刻はというと、なんと朝の10時半。
夜から飲んでいたのに帰りは10時半。
考え方によっては、この時刻は昼とも表現できる。
俺もM子もTちゃんもその時間まで飲み続けていたわけだから、3人ともべろんべろんである。
2人の女の子は当然のように、うちに転がり込んできていた。
そもそもこのM子というは俺の元同僚で、職場のスナック「スマイル」で共に働いていたことがある。
なかなかの腐れ縁だ。
そんなM子が、Tちゃんという女の子と一緒にスマイルに飲みに来た。
俺は初対面だったのだが、このTちゃんという大人しげな子も、以前はこのスマイルでフロアレディをやっていたとのこと。
M子と違って物静かな女性である。
スマイルではこの日、俺の弟や妹まで飲みにきていて、それはそれで賑やかだった。
午前4時に終わるはずのスマイルが、気づけばもう5時だ。
俺はお客さんたちや従業員たちを見送ると、そのまま店の後片付けを始めた。
酔ってふらふらになりながらも、お尻のポケットから細かな振動を感じ取る。
携帯電話が鳴っていることに気がついた。
「はいよ、もしもし?」
「めさちゃーん!」
妹からだった。
「めさちゃん! 今どこ!?」
「スマイルで後片付けしてるよ?」
「それ終わったら飲みにおいでよ! みんな次の店にいるから!」
「眠いからやだ」
俺は電話を切った。
すると、また振動。
今度はM子だ。
「あんたなにやってんの。早く来なさいよ」
「やだよ。眠いもん」
「せっかく誘ってやってんのに?」
「どこから目線なんだお前は。なんの立場での物言いだ、それは」
「いいから早く! いつもの店にいるから!」
「嫌だってば! 俺はもう帰るの!」
「もー! いいから来いってば! しつこい!」
「お前がな!」
「うるさい! 早く来な!」
スッポンは、一度獲物に噛み付くと、雷が鳴るまで決して離さないという。
スマイルを出て見上げると、夜空は晴れ渡っていた。
俺は「マジで帰る」と何度も口にしつつ、楽しい仲間がぽぽぽぽ~んな2件目に歩を進める。
で、およそ昼。
そんな時間までやっている店も店だが、変らぬペースで飲み続けられた俺たちも無駄に凄い。
弟と妹は既に限界を向かえ、早朝に帰っていってたし、他のお客さん方もそうだ。
我ながら思うけれど、よくぞまあ、そんな何ガロンも飲めたものである。
歩道で振り返ってみると、M子とTちゃんは帰るためのエネルギーと気力が見事に足りないことが解った。
夢遊病患者のような足取りだが、当たり前のように俺ン家に向かっている。
完全にうちで寝る気だ。
めさ邸に到着すると、短パンとTシャツを2人に与える。
着替え終わった頃に部屋に入ると、そこでM子が悲劇を起こした。
信じられない。
M子は立ち上がろうとする際、カーテンを掴んで、全体重を預けた。
こいつ、自分ン家では絶対そんなことしないクセに、カーテンにぶら下がる格好で立ち上がろうとしやがった!
ばり!
「うそー!」
不吉な破壊音と共に、カーテンとM子が畳みに落ちる。
アルミ製のカーテンレールも道連れになっていた。
ささやかなこのアパートに引っ越してきた当時を思い出す。
この部屋の窓にはそもそも、カーテンレールが付いていなかった。
そこをどうにか工夫して、色々と頑張って、やっと装着させたカーテンレールが、取れた。
そういえば昔、このカーテンレールを壊した奴が他にもいたっけ。
思わず遠い目になる。
引っ越し祝いにと飲みに来た妹は、何かにつまずき、カーテンを掴んだまま派手にコケた。
カーテンレールはそのときも、根元から取れていた。
カーテンレールが取れたといってもそれは片側だけで、反対側だけはどうにか壁に付いたまま、ぷらんぷらんと揺れている。
カーテンを掴んだままで、妹が叫んだ。
「あたし直すから!」
人ン家のカーテンを両手で鷲づかみにし、豪快に振り回す妹。
俺も叫んだ。
「それ以上壊さないでくれ!」
後日、泣きそうになりながらカーテンレールを直し、散らかった部屋を片付けた。
一通りの再現シーンを脳内で終え、意識が現実に戻ってくる。
デジャヴかこれは。
M子はカーテンを両手で掴み、ぐりぐりと回転させながら、わずかに付いたままでいるカーテンレールをもぎ取ろうとしていた。
「あたし直すから!」
「それ以上壊さないでくれ!」
どうしてなんでこういうタイプの奴は、こういうことをするのだろうか。
M子と俺の妹は血でも繋がっているのだろうか。
親兄弟の顔が見たい。
その後になっても、M子の大暴走は留まることを知らない。
アウトドアグッズの1つである焼き網をM子に見せると、取っ手の部分を豪快にひん曲げ、「意味わかんない!」と意味の解らないことを言った。
頑張って取っ手を真っ直ぐに直しながら、俺は涙目になってM子を睨む。
「もう寝ろォ!」
数時間ほど眠り、やがて起きる。
M子もTちゃんも、これは俺もそうだが激しい二日酔いのため、すこぶる気分が悪い。
俺はよろよろと台所まで歩くと、味噌汁を3人分作った。
「まな板から包丁の音がする~。あいつは新妻か!」
その一声が、味噌汁を与える気を失くさせる。
それにしても具合が悪い。
もうお酒なんて見るのも嫌な心地だ。
俺はだらだらとベットに潜り込み、再び眠ることにした。
Tちゃんの声が遠くから聞こえる。
「なんかジュース飲みたい。近くに売ってない?」
するとM子は「この家を出て右に真っ直ぐ進むと自動販売機があるよ」と嘘をついた。
誰の家と間違えているのだろうか。
俺ン家を出て右に真っ直ぐ進むと、電柱があるだけだ。
M子がごろりと横になる。
「ねえねえ、めさ~」
「ん~?」
続くM子の言葉は、これを書いている今でも信じられない内容だった。
「あんたン家ってさ、なんでカーテンないの? 眩しいんだけど」
「完全にお前の功績だよ!」
「あたしなんかした~? すぐあたしのせいにする」
「お前みたいな酷い奴を見るのは初めてだ!」
かくして、俺の2度寝は泣き寝入りといった形になった。
夕方に起きると、M子とTちゃんは帰ったらしい。
置手紙と後片付けの痕跡が少しもないところが彼女らしい。
「ったく」
軽く呪いながらベットから起き出す。
焼き網を仕舞おうとアウトドアグッズを拾い上げた。
「あいつ…ッ!」
寝る前に一生懸命に直した取っ手の部分は、再び大きく折り曲げられている。
「M子ォーッ!」
俺の悲痛な叫び声がアパート全体にこだました。
なんでそんな酷いことを。
だいたい「俺は帰る」って何度も、それこそ10回ぐらい主張したのだ。
それなのに帰宅時刻はというと、なんと朝の10時半。
夜から飲んでいたのに帰りは10時半。
考え方によっては、この時刻は昼とも表現できる。
俺もM子もTちゃんもその時間まで飲み続けていたわけだから、3人ともべろんべろんである。
2人の女の子は当然のように、うちに転がり込んできていた。
そもそもこのM子というは俺の元同僚で、職場のスナック「スマイル」で共に働いていたことがある。
なかなかの腐れ縁だ。
そんなM子が、Tちゃんという女の子と一緒にスマイルに飲みに来た。
俺は初対面だったのだが、このTちゃんという大人しげな子も、以前はこのスマイルでフロアレディをやっていたとのこと。
M子と違って物静かな女性である。
スマイルではこの日、俺の弟や妹まで飲みにきていて、それはそれで賑やかだった。
午前4時に終わるはずのスマイルが、気づけばもう5時だ。
俺はお客さんたちや従業員たちを見送ると、そのまま店の後片付けを始めた。
酔ってふらふらになりながらも、お尻のポケットから細かな振動を感じ取る。
携帯電話が鳴っていることに気がついた。
「はいよ、もしもし?」
「めさちゃーん!」
妹からだった。
「めさちゃん! 今どこ!?」
「スマイルで後片付けしてるよ?」
「それ終わったら飲みにおいでよ! みんな次の店にいるから!」
「眠いからやだ」
俺は電話を切った。
すると、また振動。
今度はM子だ。
「あんたなにやってんの。早く来なさいよ」
「やだよ。眠いもん」
「せっかく誘ってやってんのに?」
「どこから目線なんだお前は。なんの立場での物言いだ、それは」
「いいから早く! いつもの店にいるから!」
「嫌だってば! 俺はもう帰るの!」
「もー! いいから来いってば! しつこい!」
「お前がな!」
「うるさい! 早く来な!」
スッポンは、一度獲物に噛み付くと、雷が鳴るまで決して離さないという。
スマイルを出て見上げると、夜空は晴れ渡っていた。
俺は「マジで帰る」と何度も口にしつつ、楽しい仲間がぽぽぽぽ~んな2件目に歩を進める。
で、およそ昼。
そんな時間までやっている店も店だが、変らぬペースで飲み続けられた俺たちも無駄に凄い。
弟と妹は既に限界を向かえ、早朝に帰っていってたし、他のお客さん方もそうだ。
我ながら思うけれど、よくぞまあ、そんな何ガロンも飲めたものである。
歩道で振り返ってみると、M子とTちゃんは帰るためのエネルギーと気力が見事に足りないことが解った。
夢遊病患者のような足取りだが、当たり前のように俺ン家に向かっている。
完全にうちで寝る気だ。
めさ邸に到着すると、短パンとTシャツを2人に与える。
着替え終わった頃に部屋に入ると、そこでM子が悲劇を起こした。
信じられない。
M子は立ち上がろうとする際、カーテンを掴んで、全体重を預けた。
こいつ、自分ン家では絶対そんなことしないクセに、カーテンにぶら下がる格好で立ち上がろうとしやがった!
ばり!
「うそー!」
不吉な破壊音と共に、カーテンとM子が畳みに落ちる。
アルミ製のカーテンレールも道連れになっていた。
ささやかなこのアパートに引っ越してきた当時を思い出す。
この部屋の窓にはそもそも、カーテンレールが付いていなかった。
そこをどうにか工夫して、色々と頑張って、やっと装着させたカーテンレールが、取れた。
そういえば昔、このカーテンレールを壊した奴が他にもいたっけ。
思わず遠い目になる。
引っ越し祝いにと飲みに来た妹は、何かにつまずき、カーテンを掴んだまま派手にコケた。
カーテンレールはそのときも、根元から取れていた。
カーテンレールが取れたといってもそれは片側だけで、反対側だけはどうにか壁に付いたまま、ぷらんぷらんと揺れている。
カーテンを掴んだままで、妹が叫んだ。
「あたし直すから!」
人ン家のカーテンを両手で鷲づかみにし、豪快に振り回す妹。
俺も叫んだ。
「それ以上壊さないでくれ!」
後日、泣きそうになりながらカーテンレールを直し、散らかった部屋を片付けた。
一通りの再現シーンを脳内で終え、意識が現実に戻ってくる。
デジャヴかこれは。
M子はカーテンを両手で掴み、ぐりぐりと回転させながら、わずかに付いたままでいるカーテンレールをもぎ取ろうとしていた。
「あたし直すから!」
「それ以上壊さないでくれ!」
どうしてなんでこういうタイプの奴は、こういうことをするのだろうか。
M子と俺の妹は血でも繋がっているのだろうか。
親兄弟の顔が見たい。
その後になっても、M子の大暴走は留まることを知らない。
アウトドアグッズの1つである焼き網をM子に見せると、取っ手の部分を豪快にひん曲げ、「意味わかんない!」と意味の解らないことを言った。
頑張って取っ手を真っ直ぐに直しながら、俺は涙目になってM子を睨む。
「もう寝ろォ!」
数時間ほど眠り、やがて起きる。
M子もTちゃんも、これは俺もそうだが激しい二日酔いのため、すこぶる気分が悪い。
俺はよろよろと台所まで歩くと、味噌汁を3人分作った。
「まな板から包丁の音がする~。あいつは新妻か!」
その一声が、味噌汁を与える気を失くさせる。
それにしても具合が悪い。
もうお酒なんて見るのも嫌な心地だ。
俺はだらだらとベットに潜り込み、再び眠ることにした。
Tちゃんの声が遠くから聞こえる。
「なんかジュース飲みたい。近くに売ってない?」
するとM子は「この家を出て右に真っ直ぐ進むと自動販売機があるよ」と嘘をついた。
誰の家と間違えているのだろうか。
俺ン家を出て右に真っ直ぐ進むと、電柱があるだけだ。
M子がごろりと横になる。
「ねえねえ、めさ~」
「ん~?」
続くM子の言葉は、これを書いている今でも信じられない内容だった。
「あんたン家ってさ、なんでカーテンないの? 眩しいんだけど」
「完全にお前の功績だよ!」
「あたしなんかした~? すぐあたしのせいにする」
「お前みたいな酷い奴を見るのは初めてだ!」
かくして、俺の2度寝は泣き寝入りといった形になった。
夕方に起きると、M子とTちゃんは帰ったらしい。
置手紙と後片付けの痕跡が少しもないところが彼女らしい。
「ったく」
軽く呪いながらベットから起き出す。
焼き網を仕舞おうとアウトドアグッズを拾い上げた。
「あいつ…ッ!」
寝る前に一生懸命に直した取っ手の部分は、再び大きく折り曲げられている。
「M子ォーッ!」
俺の悲痛な叫び声がアパート全体にこだました。
2011
February 19
February 19
どちらが主なんだか解ったもんじゃねえ。
俺の部屋で悪友が漫画を読んでいる。
ジンと酒を飲んだ翌日のことだ。
2人分の夕食を支度し、部屋に戻ってくるとジンは当たり前のような自然な口調で謎の言葉を口にする。
「なあ、めさ。ここってアレあるっけ?」
アレって?
「食べ物探すやつ」
食べ物を、なんだって?
「食べ物を探すやつだよ。アレなんて言ったっけなあ。ざっくりした説明で悪いんだけど」
確かに大雑把すぎて通じない。
食べ物を探すやつ。
何かのセンサーだろうか。
L字の棒が2本セットになっていて、食料に向けるとけたたましくブザーがビービー鳴るような見たことのない機械を、つい想像してしまう。
その変なセンサーは冷蔵庫に向かって「ココデス。食料ハココニアリマス」などととっくにご存知な情報をわざわざ大音量で教えてくれる。
「肉バッカデスガ、確カニ食ベラレマス。野菜ガ少ナイケド、デモ間違イナク食料デス。私ガ見ツケマシタ」
「うるせえ!」
そんな妙ちくりんな機械などうちにはない。
その旨を告げると、ジンは違う違うと首を横に振った。
「そういう物理的な物じゃなくて、なんていうの? 主人公が食いしん坊のやつ」
漫画かよ!
最初からそう言えよ!
トリコだろ!?
全巻あるよ!
ほら読め。
こうしてジンはお目当ての漫画を読みながら、うちでご飯を食べて帰りました。
俺の部屋で悪友が漫画を読んでいる。
ジンと酒を飲んだ翌日のことだ。
2人分の夕食を支度し、部屋に戻ってくるとジンは当たり前のような自然な口調で謎の言葉を口にする。
「なあ、めさ。ここってアレあるっけ?」
アレって?
「食べ物探すやつ」
食べ物を、なんだって?
「食べ物を探すやつだよ。アレなんて言ったっけなあ。ざっくりした説明で悪いんだけど」
確かに大雑把すぎて通じない。
食べ物を探すやつ。
何かのセンサーだろうか。
L字の棒が2本セットになっていて、食料に向けるとけたたましくブザーがビービー鳴るような見たことのない機械を、つい想像してしまう。
その変なセンサーは冷蔵庫に向かって「ココデス。食料ハココニアリマス」などととっくにご存知な情報をわざわざ大音量で教えてくれる。
「肉バッカデスガ、確カニ食ベラレマス。野菜ガ少ナイケド、デモ間違イナク食料デス。私ガ見ツケマシタ」
「うるせえ!」
そんな妙ちくりんな機械などうちにはない。
その旨を告げると、ジンは違う違うと首を横に振った。
「そういう物理的な物じゃなくて、なんていうの? 主人公が食いしん坊のやつ」
漫画かよ!
最初からそう言えよ!
トリコだろ!?
全巻あるよ!
ほら読め。
こうしてジンはお目当ての漫画を読みながら、うちでご飯を食べて帰りました。
2011
February 19
February 19
ここ最近アップしている自作動画のせいで、俺が悪魔であるというイメージがすっかり定着しちまったからな。
日記の文体が今までのように人間っぽかったらキャラが不安定になっちまう。
したがって、これからは正体を現し、悪魔ぶって日記などを書いていってやろうと思う。
い や「悪魔ぶって」じゃなくて、俺は完全に悪魔なのであって、今まで人間に化けてただけだがな!
さて。
最近は何かと忙しくて文章を書けなかった。
今回は久々の日記なので、思い出せる限り、書きたくても綴ることができなかった出来事を片っ端から紹介していってやろうと思う。
これらを読んだことを、地獄の底でたっぷりと後悔するんだな!
それでは、いくぞ。
年末のある日。
フロアレディのHちゃんが結婚のため、職場のスナックを辞めることになった。
Hちゃんは律儀にも、従業員1人1人にプレゼントと手書きの手紙を用意していてくれた。
俺の分もあった。
仕事が終わり、家で手紙を開く。
そこには丁寧に書かれたHちゃんの字で、こうあった。
「出逢った頃はめささんのことが苦手でしたが、今も少し苦手です」
最後の最後でそれかよォー!
枕を濡らせてふて寝した。
大晦日。
カウントダウンは行きつけのバーで、と思って飲みに出る。
やがて集まってくる顔馴染みの面々。
しばらくすると、悪友と後輩も姿を現す。
俺の弟と妹も一緒にいた。
長男以上に酒癖が悪かったり飲み方を知らない2人だ。
同席している悪友と後輩も、酔うとしこたまウザい。
絡まれてたまるか。
咄嗟に顔を伏せ、気づかれないよう気配を絶った。
瞬時に空気と同化する。
今俺がここにいることを、これで誰もが気づかないはずだ!
完璧!
そう確信した、その時。
「あー! めさちゃーん!」
妹は既に仕上がっていた。
「あーにき~!」
弟も結構なお手前だ。
なんで俺の存在に気づくんだお前たち。
エスパーか?
カウントダウンを終え、そそくさと上着を着こむ。
妹が目ざとく俺を呼び止めた。
「どこ行くの!? めさちゃん!」
うっさい。
俺はもう帰る。
帰りたいのだ。
「帰るの!? ダメ! 取り合えずこれ飲んで!」
要らん。
そんな火が点くような酒を飲んでいるから、お前たちには酒席の思い出がなくなるのだ。
「ね~! 帰っちゃダメ~! なんで帰るの~!?」
あーもう!
解った解った!
帰らない帰らない!
「帰ろうとしてるじゃん!」
これは帰ろうとしてるんじゃなくって、ちょっと外の様子を見に行くだけだ。
「なんで~?」
これから行かなきゃいけない場所があるんだよ。
「どこ~?」
俺ン家。
「ダメじゃん!」
ダメなのは泥酔してるお前らだよ!
うちの次男を見ろ!
もう既に喋れない状態になってんじゃねえか!
新年早々、疲れ果てた。
それから2ヶ月後。
Hちゃんの結婚式に参加する。
なのだが、式場がどこにあるのかわかんない。
13時丁度ぐらいになって、俺はツイッターにてこのようにつぶやいていた。
「迷子なう! なんなん。ここどこなん。ちなみに式は13時からです」
仲間が電話で案内してくれなかったら、一生たどり着けなかったに違いない。
エレベーターを降りると、目の前はもう式場だ。
到着した瞬間、俺の目に飛び込んできたのは、新郎新婦の後姿。
入場曲が流れている。
「新郎新婦の入場です! 皆さん、盛大な拍手で迎えてあげてください」
そんなアナウンスも聞こえた。
俺まで一緒に入ってしまうところだった。
ちなみにビデオカメラにはしっかりと、新郎新婦の背後でおどおどしている俺が映っていました。
そして、昨日。
職場のスナックは大盛り上がりだ。
訪ねてくれたブログの読者様とそのご友人は感じのいい好青年で、堕落させ甲斐がありそうだ。
高校時代の同級生も飲みに来たし、悪友のジンも立ち寄ってくれた。
以前ちょくちょく日記に登場していた女友達のM子は遠方に住んでいたのだが再び引っ越し、こっちに戻ってきたらしい。
相変わらずの酔っ払い具合だ。
M子の友達に逢うのも久しぶりで、彼女は小学生の娘を連れていた。
女の子が俺を指差す。
「このめさって人、生意気ー!」
9歳の人に言われるとは思わなかった。
しかし、いくら俺が悪魔とはいえ、相手は子供だ。
ここは大人として余裕を見せつけるべきであろう。
「はいはいはいはい、生意気ですよーっと、ざまを見よ。あーそうですよ? 生意気ですよ? へいへーい! ばーかばーか! お前なんか全ての骨が折れろ」
完璧な対応だ。
飲みに来てくれた読者様はというと、常連客やフロアレディから何かと話しかけられている。
「めさのファンなの? こんな奴のどこがいいの?」
「夢が壊れるから逢わなきゃいいのに」
「めさならもう死んだよ。惜しい人を亡くした」
月並みなツッコミだが、普通に酷いとしか言えぬ。
そういったことは俺がいないところで言ってほしいものだ。
お前らが悪魔でどうする。
朝方になると皆帰り支度をし、ジンも店を後にする。
俺は悪友を追って店の外に出た。
「おうジン、もしかして真っ直ぐ帰る?」
「なわけねえだろ? お前ン家で飲もうぜ」
「オッケー! じゃあ悪いんだけどさ、俺まだ店の片付けあるから、氷だけ買って先にうち行っててくんない? 金あとで払うから」
「おいおい、水臭えこと言うなよ。そんぐれえ俺が出してやるって。俺とお前のな、か、だ、ろ?」
「よ、よせよ。誰かに聞かれちまったらどうすんだ」
「いいから愛してるって言ってみ?」
「あのさ、ジン。なんで俺たち今、誰も見てないのに漫才みたいなことやってんの?」
「見られたら見られてたで取り返しがつかねえけどな」
「全くだ」
あと、実に気持ちが悪い。
と、付け足しておいた。
さて。
日が開けて、今日。
ってゆうか、この日記を綴っている今。
ジンはまだぐーすか寝てる。
こんなに長文書いてるのに、その間に起きようともしてない。
乳飲み子だってここまで寝ないぞ。
しょうがないので、この記事をアップしたらこっそりスーパーに買い物に行き、夕食の準備でもしようと思う。
ハンバーグにしようか。
じゃなかった。
俺は悪魔なんだった。
ふはははは!
ミンチを火あぶりにしてやる!
これでも喰らえー!
ふはははは!
じゃあちっとスーパー行ってくる。
日記の文体が今までのように人間っぽかったらキャラが不安定になっちまう。
したがって、これからは正体を現し、悪魔ぶって日記などを書いていってやろうと思う。
い や「悪魔ぶって」じゃなくて、俺は完全に悪魔なのであって、今まで人間に化けてただけだがな!
さて。
最近は何かと忙しくて文章を書けなかった。
今回は久々の日記なので、思い出せる限り、書きたくても綴ることができなかった出来事を片っ端から紹介していってやろうと思う。
これらを読んだことを、地獄の底でたっぷりと後悔するんだな!
それでは、いくぞ。
年末のある日。
フロアレディのHちゃんが結婚のため、職場のスナックを辞めることになった。
Hちゃんは律儀にも、従業員1人1人にプレゼントと手書きの手紙を用意していてくれた。
俺の分もあった。
仕事が終わり、家で手紙を開く。
そこには丁寧に書かれたHちゃんの字で、こうあった。
「出逢った頃はめささんのことが苦手でしたが、今も少し苦手です」
最後の最後でそれかよォー!
枕を濡らせてふて寝した。
大晦日。
カウントダウンは行きつけのバーで、と思って飲みに出る。
やがて集まってくる顔馴染みの面々。
しばらくすると、悪友と後輩も姿を現す。
俺の弟と妹も一緒にいた。
長男以上に酒癖が悪かったり飲み方を知らない2人だ。
同席している悪友と後輩も、酔うとしこたまウザい。
絡まれてたまるか。
咄嗟に顔を伏せ、気づかれないよう気配を絶った。
瞬時に空気と同化する。
今俺がここにいることを、これで誰もが気づかないはずだ!
完璧!
そう確信した、その時。
「あー! めさちゃーん!」
妹は既に仕上がっていた。
「あーにき~!」
弟も結構なお手前だ。
なんで俺の存在に気づくんだお前たち。
エスパーか?
カウントダウンを終え、そそくさと上着を着こむ。
妹が目ざとく俺を呼び止めた。
「どこ行くの!? めさちゃん!」
うっさい。
俺はもう帰る。
帰りたいのだ。
「帰るの!? ダメ! 取り合えずこれ飲んで!」
要らん。
そんな火が点くような酒を飲んでいるから、お前たちには酒席の思い出がなくなるのだ。
「ね~! 帰っちゃダメ~! なんで帰るの~!?」
あーもう!
解った解った!
帰らない帰らない!
「帰ろうとしてるじゃん!」
これは帰ろうとしてるんじゃなくって、ちょっと外の様子を見に行くだけだ。
「なんで~?」
これから行かなきゃいけない場所があるんだよ。
「どこ~?」
俺ン家。
「ダメじゃん!」
ダメなのは泥酔してるお前らだよ!
うちの次男を見ろ!
もう既に喋れない状態になってんじゃねえか!
新年早々、疲れ果てた。
それから2ヶ月後。
Hちゃんの結婚式に参加する。
なのだが、式場がどこにあるのかわかんない。
13時丁度ぐらいになって、俺はツイッターにてこのようにつぶやいていた。
「迷子なう! なんなん。ここどこなん。ちなみに式は13時からです」
仲間が電話で案内してくれなかったら、一生たどり着けなかったに違いない。
エレベーターを降りると、目の前はもう式場だ。
到着した瞬間、俺の目に飛び込んできたのは、新郎新婦の後姿。
入場曲が流れている。
「新郎新婦の入場です! 皆さん、盛大な拍手で迎えてあげてください」
そんなアナウンスも聞こえた。
俺まで一緒に入ってしまうところだった。
ちなみにビデオカメラにはしっかりと、新郎新婦の背後でおどおどしている俺が映っていました。
そして、昨日。
職場のスナックは大盛り上がりだ。
訪ねてくれたブログの読者様とそのご友人は感じのいい好青年で、堕落させ甲斐がありそうだ。
高校時代の同級生も飲みに来たし、悪友のジンも立ち寄ってくれた。
以前ちょくちょく日記に登場していた女友達のM子は遠方に住んでいたのだが再び引っ越し、こっちに戻ってきたらしい。
相変わらずの酔っ払い具合だ。
M子の友達に逢うのも久しぶりで、彼女は小学生の娘を連れていた。
女の子が俺を指差す。
「このめさって人、生意気ー!」
9歳の人に言われるとは思わなかった。
しかし、いくら俺が悪魔とはいえ、相手は子供だ。
ここは大人として余裕を見せつけるべきであろう。
「はいはいはいはい、生意気ですよーっと、ざまを見よ。あーそうですよ? 生意気ですよ? へいへーい! ばーかばーか! お前なんか全ての骨が折れろ」
完璧な対応だ。
飲みに来てくれた読者様はというと、常連客やフロアレディから何かと話しかけられている。
「めさのファンなの? こんな奴のどこがいいの?」
「夢が壊れるから逢わなきゃいいのに」
「めさならもう死んだよ。惜しい人を亡くした」
月並みなツッコミだが、普通に酷いとしか言えぬ。
そういったことは俺がいないところで言ってほしいものだ。
お前らが悪魔でどうする。
朝方になると皆帰り支度をし、ジンも店を後にする。
俺は悪友を追って店の外に出た。
「おうジン、もしかして真っ直ぐ帰る?」
「なわけねえだろ? お前ン家で飲もうぜ」
「オッケー! じゃあ悪いんだけどさ、俺まだ店の片付けあるから、氷だけ買って先にうち行っててくんない? 金あとで払うから」
「おいおい、水臭えこと言うなよ。そんぐれえ俺が出してやるって。俺とお前のな、か、だ、ろ?」
「よ、よせよ。誰かに聞かれちまったらどうすんだ」
「いいから愛してるって言ってみ?」
「あのさ、ジン。なんで俺たち今、誰も見てないのに漫才みたいなことやってんの?」
「見られたら見られてたで取り返しがつかねえけどな」
「全くだ」
あと、実に気持ちが悪い。
と、付け足しておいた。
さて。
日が開けて、今日。
ってゆうか、この日記を綴っている今。
ジンはまだぐーすか寝てる。
こんなに長文書いてるのに、その間に起きようともしてない。
乳飲み子だってここまで寝ないぞ。
しょうがないので、この記事をアップしたらこっそりスーパーに買い物に行き、夕食の準備でもしようと思う。
ハンバーグにしようか。
じゃなかった。
俺は悪魔なんだった。
ふはははは!
ミンチを火あぶりにしてやる!
これでも喰らえー!
ふはははは!
じゃあちっとスーパー行ってくる。