夢見町の史
Let’s どんまい!
March 08
<めさの視点>
これでも一応は、365日、24時間、常に頭のどこかで作家になることを考えている。
今年は1つの物語を大切に仕上げよう。
そして、いよいよ来年に、具体的な行動を起こそうではないか。
そんな計画を立てた。
親愛なるバー「イージーバレル」では、ちょうど今年の目標は何にするかといった話題になっており、俺は自分の気持ちを抑えず、マスターに告げる。
「2007年は、助走に専念しようと思うんですよ」
自分の表情が輝いているのが、自分でも判る。
しかしマスターは、どういうわけか無言無表情だ。
きっと、俺の情熱に感動でもしているのだろう。
追い討ちをかけるように、俺はさらに饒舌になる。
「来年に、本格的に行動する計画です」
マスターは、やはり黙ったままだ。
「遅咲きってことになるんでしょうけどねー」
ここのところ、才気溢れる若い書き手さんが多いことだし、頑張らなくっちゃ。
負けないぞう、とばかりに、俺はグラスを煽る。
<マスターの視点>
今年の目標は何にするの?
そう訊ねたら、めさ君がまた訳の解らないことを言い出した。
「2007年は、女装に専念しようと思うんですよ」
そうか…。
またやるのか…。
いつも嫌がってる風にしていたのは、ポーズだったんだ。
この人、目覚めちゃってたんだ…。
さすがの私も言葉に詰まる。
女装に専念するってこの人、まさかうちの店でやるんじゃないだろうな…。
だいたい女装なんてして、将来何になりたいんだろうか。
「来年に、本格的に行動する計画です」
手術を受ける宣言されても困る。
瞳が熱く輝いてるところとか、本気で気味が悪い。
だいたい、仕事はどうするの?
「遅咲きってことになるんでしょうけどねー」
30超えてオカマデビューは、確かに遅咲きだ。
私が1歩引いたことに、めさ君は気づいていない。
相変わらず「デビューがどうの」とか「売れっ子になりたい」などと、性転換への夢を語っている。
普通のお客さん、来ないかなあ。