夢見町の史
Let’s どんまい!
2007
August 21
August 21
滅多にお目にかかれない珍品も、結構あるものだ。
うちはリサイクルの会社だから、今日も続々と産業廃棄物が集まる。
俺の背後では、分別作業を任せておいた後輩たちが、何やら騒ぎ始めていた。
「あはは」
「おい、やめろよー!」
「危ないって!」
「ははははは!」
オメーら仕事中に何やっとんのじゃコラー!
って叫ぼうと思って、振り返る。
「オメーら仕事中だけど、でもなんか楽しそうじゃん。それ、なあに?」
後輩の1人が持っていたスプレー缶に興味をそそられ、怒るの断念。
若き仕事仲間が得意げに笑んだ。
「これ、痴漢撃退スプレー」
「ばっきゃろう! 痴漢撃退スプレーだと!?」
俺は後輩に歩み寄った。
「ちょっと俺に吹きつけてみ?」
いいリアクションを取る自信があったし、何より自分自身の好奇心がうずく。
痴漢はしていないけれど、1度ぐらいは撃退されてみたい。
撃退されちゃう側が、どんな種類の苦痛を味わうのかを知っておきたい。
さあ遠慮なく!
と言うよりも早く、彼はスプレーを俺の顔に向けていた。
のぉーい!
少しは遠慮しろよ!
いきなり目はキツいだろ!
やめてやめて。
必死の抵抗のおかげで、痴漢撃退用スプレーはばっちり発射された。
「ぎゃーす!」
咄嗟にかわしたら、変な液は耳にかかった。
あっぶね。
「マジかよお前ー! 耳だからよかったけど、目に入ったらどうすんだよう! このドSが! 元ヤン!」
文句を言う。
後輩たちは、くすくすと笑ったままだ。
「めささん、その液かかったら、すっげーヒリヒリするよ?」
はん!
お前たちとは鍛え方が違うんです。
ちょっと貸してみ?
後輩の何名かは既に撃退液の餌食になったらしく、腕やら顔を押さえながらひーひー言ってる。
そんな軟弱者たちを尻目にスプレーを受け取ると、俺は自らの腕に吹きつけた。
「な? たいしたことないだろ? 皮膚からして俺は優秀なのおおおおおおォーい!」
だんだんヒリヒリしてきた。
なんだこの時間差は。
どうして遅効性なのだ。
痴漢の人がある程度活躍した後に効いたって駄目じゃないか。
そりゃ廃棄にもなるわ!
スプレーを作った人を呪った。
耳と手が痛い。
「どう? 痛いでしょ?」
「そんな代物で目ェ狙うんじゃねえよーい!」
「しかも臭いが凄いでしょ?」
言われて初めて気がつく。
確かに、自分から喩えようのない異臭がしていた。
全力で科学力を駆使し、極限まで臭くしました。
って感じに酷い。
香り1つ取ってもポイズンだ。
こんなの痴漢の人じゃなく、痴漢の近くにいる人が撃退されてしまう。
皮膚の痛みが、徐々に強まっていく。
重度のヤケドを負ったかのような激痛だ。
だからなんで後から来るんだ。
本来の使い方をしていたら、被害者の人が手遅れになっちゃうじゃないか。
「しかも、めささん」
後輩の1人が心配そうに口を開いた。
「水で洗おうとすると、余計に痛くなりますよ?」
今日みたいな暑い日に汗をかいても、同じような効果が期待できるということか。
だからなんで後々もっと痛いんだ。
瞬間的にアレしろよ!
痴漢の身にもなれ!
いやいやいやいや、痴漢はいけません。
大声出しますよ?
もう傷みのせいで冷静でいられない。
「だいたい俺はなんで痴漢してないのに撃退スプレーやられてんだよ! どうせ撃退されるなら、誰かに痴漢しておけばよかったじゃん! ってゆうか、さっきよりヒリヒリするよう! 浴びたほうの耳が聞こえない!」
そりゃそうだ。
俺は生まれた時から片耳が聞こえない。
でもせっかくだから、変な液のせいにしちゃおうっと。
この時の俺は、その場をのた打ち回るばかりで、リアクションのことしか考えていなかった。
家に帰ってシャワーを浴びると、撃退液が真価を発揮して、俺はとっても苦しむことになる。
「目にも来たーッ!」
痴漢だけは絶対にしないと、したことないのに俺は誓った。
うちはリサイクルの会社だから、今日も続々と産業廃棄物が集まる。
俺の背後では、分別作業を任せておいた後輩たちが、何やら騒ぎ始めていた。
「あはは」
「おい、やめろよー!」
「危ないって!」
「ははははは!」
オメーら仕事中に何やっとんのじゃコラー!
って叫ぼうと思って、振り返る。
「オメーら仕事中だけど、でもなんか楽しそうじゃん。それ、なあに?」
後輩の1人が持っていたスプレー缶に興味をそそられ、怒るの断念。
若き仕事仲間が得意げに笑んだ。
「これ、痴漢撃退スプレー」
「ばっきゃろう! 痴漢撃退スプレーだと!?」
俺は後輩に歩み寄った。
「ちょっと俺に吹きつけてみ?」
いいリアクションを取る自信があったし、何より自分自身の好奇心がうずく。
痴漢はしていないけれど、1度ぐらいは撃退されてみたい。
撃退されちゃう側が、どんな種類の苦痛を味わうのかを知っておきたい。
さあ遠慮なく!
と言うよりも早く、彼はスプレーを俺の顔に向けていた。
のぉーい!
少しは遠慮しろよ!
いきなり目はキツいだろ!
やめてやめて。
必死の抵抗のおかげで、痴漢撃退用スプレーはばっちり発射された。
「ぎゃーす!」
咄嗟にかわしたら、変な液は耳にかかった。
あっぶね。
「マジかよお前ー! 耳だからよかったけど、目に入ったらどうすんだよう! このドSが! 元ヤン!」
文句を言う。
後輩たちは、くすくすと笑ったままだ。
「めささん、その液かかったら、すっげーヒリヒリするよ?」
はん!
お前たちとは鍛え方が違うんです。
ちょっと貸してみ?
後輩の何名かは既に撃退液の餌食になったらしく、腕やら顔を押さえながらひーひー言ってる。
そんな軟弱者たちを尻目にスプレーを受け取ると、俺は自らの腕に吹きつけた。
「な? たいしたことないだろ? 皮膚からして俺は優秀なのおおおおおおォーい!」
だんだんヒリヒリしてきた。
なんだこの時間差は。
どうして遅効性なのだ。
痴漢の人がある程度活躍した後に効いたって駄目じゃないか。
そりゃ廃棄にもなるわ!
スプレーを作った人を呪った。
耳と手が痛い。
「どう? 痛いでしょ?」
「そんな代物で目ェ狙うんじゃねえよーい!」
「しかも臭いが凄いでしょ?」
言われて初めて気がつく。
確かに、自分から喩えようのない異臭がしていた。
全力で科学力を駆使し、極限まで臭くしました。
って感じに酷い。
香り1つ取ってもポイズンだ。
こんなの痴漢の人じゃなく、痴漢の近くにいる人が撃退されてしまう。
皮膚の痛みが、徐々に強まっていく。
重度のヤケドを負ったかのような激痛だ。
だからなんで後から来るんだ。
本来の使い方をしていたら、被害者の人が手遅れになっちゃうじゃないか。
「しかも、めささん」
後輩の1人が心配そうに口を開いた。
「水で洗おうとすると、余計に痛くなりますよ?」
今日みたいな暑い日に汗をかいても、同じような効果が期待できるということか。
だからなんで後々もっと痛いんだ。
瞬間的にアレしろよ!
痴漢の身にもなれ!
いやいやいやいや、痴漢はいけません。
大声出しますよ?
もう傷みのせいで冷静でいられない。
「だいたい俺はなんで痴漢してないのに撃退スプレーやられてんだよ! どうせ撃退されるなら、誰かに痴漢しておけばよかったじゃん! ってゆうか、さっきよりヒリヒリするよう! 浴びたほうの耳が聞こえない!」
そりゃそうだ。
俺は生まれた時から片耳が聞こえない。
でもせっかくだから、変な液のせいにしちゃおうっと。
この時の俺は、その場をのた打ち回るばかりで、リアクションのことしか考えていなかった。
家に帰ってシャワーを浴びると、撃退液が真価を発揮して、俺はとっても苦しむことになる。
「目にも来たーッ!」
痴漢だけは絶対にしないと、したことないのに俺は誓った。
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