夢見町の史
Let’s どんまい!
August 09
ベタ物語「春に包まれて」の音声収録を行います。
CDドラマのように編集し、動画サイトに投稿する予定です。
未経験者大歓迎!
ちょっと青春しようぜ。
たっぷりの収録時間を楽しむ気がある方、男女は問いません。
思い出作りに、ぜひ挑戦してやってください。
ギャラは出ません。
すみません。
募集したいのはヒロインの佐伯優子役。
あと、主人公の春樹と、伊集院君と、美香ちゃん。
番外編に登場する裕也と、ヒロインの息吹。
(収録がめんどいので春樹役と裕也役は俺がやってしまう可能性ありです)
収録はスカイプで行います。
興味がある方はミクシィメッセージ、もしくはメールで、タイトルを「声優希望」とし、本文にお名前、スカイプID、通話できる時間帯、あとなんか適当なことを書いてお送りください。
特にスカイプIDは必須です。
だって収録も面接もスカイプ通話でやるんだもの。
選に漏れちゃった人でも、ちょい役でもいいならやっていただきたいです。
占い師のおばちゃん、警備員のおじさん、男子生徒A、女子生徒Bなどなど。
ちなみに評価基準はテクよりも、時間が合うかどうかと、取り組む姿勢を重視しますよん。
途中で辞められちゃうと最初から全部作り直しなんてことにもなるので、心が折れず、時間を確実に用意できて、尚且つスカイプで通話可能な方はぜひ!
うちのメアドはこちらです。
yumemityounoshi@yahoo.co.jp
「春に包まれて」ってどんなお話?
なんて方はこちらをご覧ください。
もう全話読め。
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/380/
素人のど根性見せてやろうぜ!
August 09
【第1話・出逢い編】
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/380/
【第2話・部活編】
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/381/
【第3話・肝試し編】
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/382/
【第4話・海編】
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/383/
【第5話・無人島編】
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/384/
【第6話・文化祭編】
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/385/
【第7話・恋のライバル編】
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/386/
【第8話・クリスマス編】
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/387/
【第8.5話・恋のライバル編Ⅱ】
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/506/
【第9話・バレンタイン編】
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/388/
【第10話・卒業編】
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/389/
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僕が伸ばした手の先には、息吹があった。
「あたし、息吹。羽山息吹」
彼女はそうやって僕に名乗ってくれたけれど、名前ぐらいならずいぶん前から知っていた。
同じクラスだし、ずっと前から憧れにも似た感情を密かに抱いていたからだ。
なんだけど、今まで機会もなくて、それに僕は緊張しやすいから、今までずっと自分から積極的に話しかけられないでいたのだ。
「僕は山本裕也」
自己紹介をすると、彼女は「知ってるよ」とにこやかに笑った。
その日、僕はある文庫本を求め、書店内をうろうろとしていた。
「お、見つけた」
内心喜んで本棚に手を伸ばす。
ところが僕は小説ではなく、横から忍んできた細い手に触れていた。
「あ」
手の主と僕は同時に目を合わせる。
知っている顔がそこにあって驚いた。
ずっと憧れだった、息吹さんじゃないか!
僕は動揺してしまって、思わず目を逸らす。
「あ、どうぞ」
「いえ、どうぞ」
どちらともなく譲り合ったけど、結局は僕がその場を逃げるようにして去り、仕方なく別の小説を買って店を出た。
突然の出来事に心臓の鼓動が元の早さに治まらない。
せっかく話しかけるチャンスだったのに、突飛すぎてなにも対応できなかった自分のふがいなさを呪いながら、僕は喫茶店のドアをくぐる。
からんころんとベルの音が響いた。
お気に入りの紅茶を飲みながら、ここで読書をするのが僕の月1の楽しみだ。
本に集中していたから、いつの間にか店内ががやがやとしていることに僕は気がつかないでいた。
「あの、お客様」
ウエイトレスの声に、ふと顔を上げる。
「はい?」
「大変申し訳ございません。店内込み合ってまいりましたので、相席でもよろしいでしょうか?」
落ち着いて本が読めなくなるから正直ちょっと嫌だったけど、仕方ない。
僕は了承の旨をウエイトレスに伝える。
テーブルの真向かいに、コースターが置かれた。
僕は再び文庫本に目を落とす。
「あ」
女の子の声に再び顔を上げる。
「あ!」
書店の紙袋を持った息吹さんが、そこにいた。
「あの作家さん、好きなの?」
「うん、そうなんだ」
内心ドキドキしながらも、僕は普段ならしない紅茶のお代わりを頼む。
これで今月のお小遣いはなくなってしまったけど、やむを得ない。
互いにちょっとした自己紹介を終えると、僕らは今まで知らなかった共通の話題に夢中になる。
「息吹さんは、千年交差はもう読んだ?」
「読んでない! 裕也君は?」
「読んだよ」
「いいなあ。あたしずっと前から読みたかったんだ。どうだった?」
「よかった。凄く面白かったよ」
「あたし、文庫になってから買おうと思ってるんだけど、そんなすぐには出ないよね」
「あ、よかったら貸そうか?」
「本当に!?」
祈るようにして、彼女は胸の前で手を合わせる。
「じゃあ代わりに、さっき裕也君が譲ってくれた本、あたし読み終わったら貸すよ」
「本当!?」
それが僕らの出逢いだった。
それからというもの、僕はなかなか苦労して告白のチャンスを伺ったものだ。
友達のままでも充分幸せだ、なんて最初のほうは思っていたけれど、親密になるにつれ、気持ちが抑えきれなくなってゆく。
ある雨の日。
僕は傘を忘れてしまい、学園の昇降口で立ち往生していたら、息吹さんが傘を差し出してくれた。
1つの傘に2人が入り、並んで一緒に帰ったことは忘れられない思い出だ。
あとで聞いた話によると、この日、お父さんの折り畳み傘を鞄にもう1本入れていたことを、息吹さんは隠していたのだそうだ。
その頃ぐらいだろうか、僕が告白を意識し始めたのは。
なんだけど僕は臆病で、なかなか言い出せない。
どう言ったらいいのか全く解らないし、きっかけもなかった。
やっと想いを口にできたのは、冬になってからだ。
クラスのみんなでスキーをしにいった先でトラブルがあり、僕と息吹さんは2人で宿泊先の部屋に閉じ込められた。
凍死する心配はなかったけど、大雪のせいで電気は止まっていて、心細かった。
「裕也君、あの…」
息吹さんの不安げな顔が暖炉の炎に照らされている。
「暗くて怖いから、そばにいてもいい?」
「え!? あ、うん!」
肩を寄せ合う。
息吹さんのか細い手が、僕の腕に絡みつく。
「嫌じゃ、ない?」
「ももも、もちろん!」
パチパチと木の燃える音。
告白なんてしてる場合じゃないのかも知れない。
でも今しかないと、僕は意を決した。
「息吹さん、あの、実はね、僕はその、あの…」
ごくりと喉が鳴った。
僕はぎゅっと強く目をつぶる。
「実は、ずっと前から、息吹さんのこと、好きだったんだ!」
しかし、息吹さんは何一つとして言葉を発しない。
恐る恐るゆっくりと、僕は目を開ける。
それまで伏せていた顔をゆっくりと上げ、息吹さんを伺った。
「そりゃないよ」
すやすやと寝息を立てている息吹さんを見て、僕は愕然としたものだ。
体中から一気に力が抜けていた。
なんだかんだと、実に様々なことがあったものだ。
卒業式の日。
あの桜の木の下で、僕らはようやく秘めていた想いを打ち明け合う。
息吹さんがまっすぐに僕を見つめた。
「この木の下でキスした2人は、幸せに、永遠に結ばれるんだって」
女の子の唇の感触というものを、僕は初めて知った。
やはりあの大桜は凄い。
言い伝えは本当だった。
僕らが結婚して、もう1年になるだろうか。
僕は今、病院の待合室でただただそわそわと落ち着きなく、貧乏ゆすりをしている。
一生忘れられない記念日が、また1つできようとしていた。
「山本さん! 産まれましたよ!」
駆けつけてきたナースに「本当ですか!?」と返すも、足元がおぼつかない。
あたふたしながら、僕は分娩室に突入する。
「元気な男の子ですよ」
「ありがとうございます!」
担当医に深く一礼をし、僕は一目散に妻の元へ。
「息吹! 頑張ったね!」
息吹は穏やかな笑顔で、産まれ立ての命に手を添え、愛でている。
僕らの結晶はそこに、おぎゃあおぎゃあと確かに存在していた。
「女の子だったら桜って名前にしよう」
そう言い出したのは僕だ。
「あの桜の木にちなんで?」
「うん、そう。あの春の日は僕らにとって特別だったから」
「じゃあ、男の子だったら春樹ってゆうのはどう?」
いいねと、僕は大きくなった息吹のお腹を撫でた。
ナースが僕に振り返る。
「抱いてみますか?」
「あ、はい!」
恐々と両手を差し出す。
大泣きしているせいで、春樹の息がくすぐったい。
僕が伸ばした手の先には、息吹があった。
第1話に続く。
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/380/
August 08
August 08
俺の弟はリアルでもスヴェンと呼ばれているが、日本人だ。
スヴェンが美味そうにお茶割りを口にする。
職場のスナックに弟が飲みにきてくれて、談話に花が咲いていた。
「スヴェンはさ、女の人から言われたい言葉ってなんかある?」
訊くと弟は、
「『ばか』って言われるのいいよね」
と俺のツボを直撃させた。
一瞬にして場面が浮かぶ。
「もう、めさのばか…」
それいい!
凄くいい!
さすが我が弟だ!
「ばかはいいね!」
「いいよね、ばかは!」
ばか兄弟2人してキュン死にしそうになってると、フロアレディのHちゃんが大きく叫ぶ。
「っこの、バカどもがッ!」
そうじゃなくて…!
そういう本気で見下す感じじゃなくって、もっとこう、愛情のある言い方を…。
なんでニュアンスを解ってもらえなかったのか。
August 06
【第1話・出逢い編】
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/380/
【第2話・部活編】
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/381/
【第3話・肝試し編】
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/382/
【第4話・海編】
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/383/
【第5話・無人島編】
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/384/
【第6話・文化祭編】
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/385/
【第7話・恋のライバル編】
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/386/
【第8話・クリスマス編】
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/387/
【第8.5話・恋のライバル編Ⅱ】
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【第9話・バレンタイン編】
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/388/
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佐伯が転校してきてからの1年は、なんだかあっという間に過ぎ去ったような気がする。
毎日が目まぐるしく、本当に色々なことがあった。
「もう卒業かあ」
俺の横で、佐伯が缶コーヒーから口を離す。
「1年しかいられなかったけど、あたしこの学園に転校してきてよかった」
やはり恥じらいが邪魔をして、「俺も、お前が転校してきてくれてよかったよ」だなんて本音が言い出せない。
ピロティのベンチには暖かな朝日が降り注いでいて、まるで俺たちの卒業を祝福してくれているかのようだ。
風が優しく吹いて、佐伯の髪を撫でている。
「あ、いたいた!」
反射的に声の方向に視線をやると、近藤がこちらへ小走りで近づいてくる。
その隣にいるのは、さっちゃんだ。
「おう」
片手を挙げて挨拶をする。
近藤はどこかもじもじとしながら、「2人に報告したいことがあるんだ」と照れたように笑った。
「報告?」
「うん」
頷くと近藤は、たどたどしくさっちゃんの手をそっと握る。
さっちゃんが赤らめた顔を伏せた。
「え? もしかして…」
と、佐伯。
近藤が照れ隠しのように「あはは」と、自由なほうの手を後頭部に添える。
「そうなんだ。実は僕たち、付き合うことになったんだ」
「マジでかよ!?」
「本当!?」
俺も佐伯も、勢いよくガバッとベンチから立ち上がる。
「よかったな! 近藤!」
「おめでとう! さっちゃん!」
佐伯がさっちゃんの手を、俺は近藤の手を強く握った。
さっちゃんがゆっくりと顔を上げる。
「優子ちゃんと春樹君にだけは、どうしても報告したくて」
その笑顔が幸せそうで、俺はなんだか嬉しくなった。
近藤はいい奴だから、きっと上手くいくだろう。
「あ、そろそろ卒業式だ。僕ら、先に体育館行ってるよ」
「おう! 俺らもコーヒー飲んだら行くわ!」
歩いてゆく2人の背中を見送る。
「あいつらお似合いだなあ」
なんてことを佐伯に言っていたら、近藤とさっちゃんが同時に振り返って俺たちに大きく手を振った。
「春樹ー!」
「おーう、なんだー!?」
「次は、お前らの番だからなー!」
「いや、え!?」
絶句している俺たちに構わず、近藤たちは逃げるようにして体育館へと向かった。
「そ、そろそろ行くか…?」
「そ、そうね」
俺と佐伯は「えい」と空き缶を放る。
2つの缶が、同時にゴミ箱に納まる。
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体育館では生徒代表の伊集院君が卒業証書を受け取って、教室では安田先生がそれを1人1人に手渡してくれた。
あたしは恩師に深々と頭を下げて、その特別な厚紙を譲り受ける。
「じゃ、あとでグランドでな」
先生が短くウインクをしてくれた。
サッカー部の後輩たちが校庭で送別会をしてくれて、あたしたち卒業生は1人1人と握手をしてゆく。
部員たちは男泣きしている人ばっかりで、あたしも釣られて涙が滲んだ。
マネージャーの美香ちゃんも、あたしと似たような表情だ。
「佐伯先輩、あとでお話しさせてください」
握手をしているとき、彼女は声を潜めた。
「体育館の裏で、待ってますから」
「え? あ、うん」
美香ちゃんから優しげな笑顔を見せてもらったのは初めてで、あたしは少し戸惑った。
「話って、なあに?」
体育館の裏まで行くと、美香ちゃんは後ろで手を組んでいて、こちらを背にしている。
くるっと振り返ったかと思うと、美香ちゃんがペコリと頭を下げる。
「今まで意地悪して、すみませんでした!」
「あ、ううん」
顔を上げた美香ちゃんは、どういった理由からか涙を浮かべている。
精一杯の作り笑いが、なんだか痛々しく見えた。
美香ちゃんが再び後ろに手をやると、あまり顔を見られたくないからだろう。
再び、あたしに背中を見せた。
彼女はそのまま、大空を仰ぐ。
「あたし、春樹先輩に告白したんです」
「…え?」
「バレンタインのとき、チョコと一緒に手紙渡して、気持ちを伝えました」
「あ、うん。そう、だったんだ…」
「でも、春樹先輩、好きな人がいるんですって!」
美香ちゃんがくるっと回って、あたしに笑顔を向ける。
「春樹先輩を不幸にしたら、あたし許しませんからね!」
「美香ちゃん…」
「油断しないでくださいよ? あたし、しつこいですから。佐伯先輩が少しでも春樹先輩を傷つけたら、またすぐにアタックしてやるんだから」
顔は笑っているのに、美香ちゃんの目からはぽろぽろと涙がこぼれ落ちている。
「あたしからはそれだけ。卒業、おめでとうございます!」
ガバッとおじぎをすると、美香ちゃんは走り去る。
見えなくなるまで、あたしはその後姿を見送った。
きっと、あたしは気持ちを託されたのだろう。
あたしは髪を束ねているゴムを、そっと外す。
髪が風に揺られ、さらりと広がった。
「卒業、おめでとうございます、か…」
卒業、しなくっちゃな。
あたしは下唇を軽く噛む。
意地を張ることからは、もう卒業しよう。
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「春樹、ちょっといいかい?」
佐伯はどこかと探していたら、近藤から声をかけられた。
「ああ、なんだ?」
「春樹にプレゼントしたいものがあってね」
「俺に? なんでまた」
すると近藤は「親友だからさ」と俺の肩を叩く。
「ただ、そのプレゼント今はないんだ。3時になったら、あそこまで取りに来てくれないか?」
近藤は旧校舎の向こうを指差している。
そこには丘があって、丘のてっぺんには噂名高い大桜がピンク色に染まっている。
その木の前で口付けを交わした2人は永遠に結ばれるなんて言い伝えがあるけど、実は俺もその伝説を信じている1人だったりする。
何を隠そう、うちの両親も桜ヶ丘学園のOBで、あそこでキスしてやがて結婚をし、今も幸せそうにしているからだ。
それにしても近藤の奴、なんだってあんな場所を指定してきたんだろう。
3時になって、俺は緑の坂を登る。
「あれ?」
思わず声が出た。
頂上に待っているのは、佐伯じゃないか。
佐伯は髪を解いていて、それを手櫛で耳にかけている。
「春樹」
「お前、なんでこんなとこに?」
桜の根元にいる佐伯に、俺は近寄った。
「さっき近藤君から頼まれて」
「近藤に?」
「あとで春樹が来るからこの手紙を渡してくれ、だって。はい」
佐伯から手紙を渡される。
なんだろう?
封を切って中を取り出し、広げる。
すると、そこにはこう書いてあった。
「言っただろ? 次はお前らの番だからなって。親愛なる友より」
手紙の隅には女の子らしい文字で「がんばって!」ともあった。
「なんて書いてあるの?」
「え、いや」
思い詰めたような佐伯の表情に、胸が大きく脈を打つ。
プレゼントって、こういうことか!
「いや、なんでもねえ、ってゆうか…」
ついもじもじと顔を伏せる。
いや、いかんぞ俺!
それだからいつも同じ展開になるんだ!
そんなんじゃ親友から笑われちまうぞ!
俺はごくりと唾を飲み、胸をさする。
よし、言おう!
言うぞ!
俺はゆっくりと顔を上げた。
「あのさ、佐伯、あの…、俺…」
「春樹、あたしね? ずっと前から好きな人がいるの」
断固とした口調で遮られる。
真剣な表情のまま、佐伯は俺の目をじっと見ている。
「その人はね? ぶっきらぼうで、デリカシーがなくて、無神経で。でも、いつもあたしの横にいて、どんな時でも何かあると走って助けに来てくれるの」
佐伯はゆっくりと反転し、俺に背を向けた。
「悔しいけど、あたし、その人のことが大好き」
「佐伯、俺、セリフを思い出したよ」
ん?
と佐伯が振り返った。
「そっから先は、俺が言う」
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春樹の顔にはもう、緊張感が漂ってはいなかった。
いつになく真面目な表情で、でも目の奥が優しい。
1歩足を踏み出して、春樹があたしの前に。
あたしたちは正面からしっかりと向かい合った。
春樹が、ゆっくりと口を開く。
「長いこと、探していたものがあるんだ」
その出だしには聞き覚えがある。
文化祭のときにやった、劇でのラストシーンだ。
「でもそれは自分で探していたことにさえ気づけないもので、俺はそれを見つけ出していても、見つかったことをずっと知らないままでいた」
懐かしくて、記憶が次々と蘇ってくる。
転校初日から春樹とぶつかって、喧嘩したのが出逢いだった。
さっちゃんと仲良くなって、校舎を案内してもらった。
この桜の話も、そのとき聞いたんだっけ。
あのときの大吾郎はまだ子猫で、小さかったなあ。
サッカー部のマネージャーになって、夏には肝試しをして足をくじいた。
夜の海辺で春樹と大はしゃぎなんかもしたっけ。
無人島で1泊なんてハプニングもあった。
伊集院君に謝りに行ったときは、まさか春樹がピロティまで駆けつけてくれるだなんて思ってもみなかった。
クリスマスには雪が降って、あのときの思い出は一生の宝物だ。
バレンタインのときは無駄に緊張して苦労したなあ。
「気づくまで長かったよ」
あたしもよ。
あたしも、なかなか自分の気持ちに気づけなかった。
素直になれなかったんだ。
「でも、お前はそれでも待ってくれていた」
そう、待ってた。
春樹なかなか言い出してくれないから、待ちくたびれたよ。
「俺が、俺の運命と感情に気がつく今日までの間、待たせたな」
おかげで、待つことに慣れちゃった。
「ずっと前から言わなきゃいけなかった言葉を俺はようやく今、口にできるよ」
はい、聞きます。
「ずっと前から、お前のことが好きだった」
あたしもよ。
そして、しばらくの静寂。
さあっと、桜吹雪が舞った。
あたしは劇の台本通りに、春樹の胸に顔を埋め、そっと抱きつく。
春樹の両腕があたしの背中に回った。
あたしは春樹の胸に頬を寄せたまま、ゆっくりと目を閉じる。
「待たせすぎよ、バカ」
暖かい風が吹いて、あたしたちを包み込んだ。
あたしは春樹に身を任せたまま、言う。
「…本番のときよりも全然自然だったね」
「だろ? 演技じゃねえからな」
「でも、ずるいなあ。劇のセリフ、そのまま使っちゃうなんて」
「あの劇、まだ続きがあるんだ」
「ふうん。どんな?」
「高校生だからって理由で本当のラストシーンは端折られたけど、俺たち卒業したから、もう高校生じゃないだろ?」
「あたしは、どうしたらいい?」
「そのまま目をつぶって、主人公に顔を向ける」
「ふふ。ホントずるいんだから」
笑うと、あたしは目を閉じたまま顎を上げ、つま先立ちをする。
そこにあったのは、春だった。
――fin――
番外編へ。
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