夢見町の史
Let’s どんまい!
April 09
うちの職場で1番の若手は、フロアレディのHちゃんだ。
俺はHちゃんの言葉を忘れぬよう毎回メモを取り、「日記に書いてもいい?」と彼女に許可を求め、めでたく殴られる。
先日Hちゃんは胸を張って「飛ぶ鳥跡を濁さず」を言い間違えた。
「飛ぶ鳥後を絶たず」と、パニック映画のキャッチコピーみたいなことを口走っていた。
文字的にはもしかしたら「飛ぶ鳥あとを発たず」なのかも知れないけれど、それならそれで、その鳥はもはや飛べてない。
「じゃあなんて言えばいいんスか!? 飛ぶ鳥あとを発つ?」
「なにその普通の現象」
このような調子で俺は毎回、Hちゃんをからかうことでスナックでの仕事を間違った方向で楽しんでしまっている。
そんなHちゃんがふとした瞬間、畳んだ紙をそっと俺の胸ポケットに忍ばせてきた。
前回の手紙にはただ一言、「ばーか」とだけ書かれており、俺は心に著しい傷を負わされてしまったけれど、今回はなんだろう?
自宅で開けるのも面倒なので、俺は陰でこっそりと手紙を開く。
今回は一言ではなく、ちょっとした文が書かれていた。
まず、ひらがなで「ゆいごん」――。
字が解らなかったらしい。
続けて、以下のような文章が添えられていた。
全て、めさのせいです。
ホントにめさのせいです。
私を愛してくれた皆さん、めさを恨んでください。
最後にHちゃんの本名がフルネームで記されており、なんと拇印まで押されていた。
なんだこのこの正式な感じは。
しかも、なんで俺本人に「めさを恨め」なんて遺言を遺すんだ。
俺はその紙片を持ってHちゃんに詰め寄る。
「Hちゃん、さっきの手紙読んだけど」
次の瞬間、俺は自然と申し訳なさそうな表情になっていた。
「これは遺言じゃなくて、遺書だ」
このことも日記に書いていい?
そう訊ねて再度Hちゃんの拳を肝臓に喰らったことは言うまでもない。
April 09
クリックで救える命がある。
http://www.dff.jp/m/(モバイル版)
http://www.dff.jp/index_t.php(PC版)
このページは読者様の誕生日をお祝いするためのコーナー、第2弾目です。
毎度遅ればせながらも俺は皆さんのバースデイをお祝いさせていただいているんですけれど、それは常にブログのコメント蘭を利用させてもらっているんですね。
そこであったご意見の中に、「自分もお祝いしてあげたいです」というものがあり、このようなコーナーを設けさせていただきました。
さらに、「自分のケータイからは文章が途中で途切れてしまってお祝いコメントが書けません」といった声も。
同一の記事にコメントが多数つくと、携帯電話で表示できない長さになってしまうのです。
そこで今ご覧のように、お祝いコーナー第2弾をご用意させていただいたというわけですね。
このハッピーバースデイ専用のページは、年に1回ぐらいの頻度で新しくしていこうと考えています。
皆さんも是非、俺に続いていただいて、誕生日を迎えた方々に「おめでとう」を書き込んでやってくださいませ。
もちろん、「自分の誕生日も祝って!」なんてコメントも大歓迎です。
その際は是非、ご自身の誕生日がいつなのかお知らせください。
当日に間に合わないことのほうが多くて申し訳ないんですけども、毎年ちゃんとお祝いさせていただきます。
さてさて。
ついでなのでクリック募金のURLも貼っておきますね。
これはお金をかけずに、クリックのみで様々な団体に募金できるというサイトです。
偽善ぶったっていいじゃない。
何もしないよりは100万倍良いことでありましょう。
暇つぶしでも何でもいいので、是非クリックしてみてください。
クリックで救える命がある。
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それでは、誕生日のお祝いの始まりです。
April 01
恥ずかしい話だけれど、僕は小学生の頃、女の子を泣かせるのが大好きな子供だった。
今となっては考えられない感覚だ。
スカートをめくったり、筆箱を持って逃げたり。
可愛いと思った女の子には特に意地悪をし、それこそ毎日のように泣かせたものだ。
なのだけど、僕が何をしても平然とし、泣かない女子がうちのクラスに1人だけいた。
今にして思えば、その子は人一倍、根性があるタイプだったように思う。
思いつく限りの悪口を言っても、怖いお面をかぶって驚かせても、彼女は決して涙を見せることをしない。
あたしに意地悪の効果なんてありませんと言わんばかりに、悪戯っ子のようにペロっと舌を出すだけで彼女のリアクションは終わる。
子供ながらに、プライドを傷つけられた心地だ。
僕はいつしか、その島田という女の子を泣かせることだけを考えるようになっていた。
3年生になっても、島田と僕が一緒のクラスになれますようにと、それはそれは強く邪悪に望んでしまったものだ。
彼女に今まで以上の悪さをしようと、僕は身勝手な決意を固めていた。
ところが運命というのは時として無情なもので、島田と一緒に3年生になれないことがすぐに解る。
「ねえねえ、めさ君、聞いて聞いて。あたし、転校するんだ」
彼女の言葉を初めて聞いたときは動揺を隠しきれなかった。
お前の勝ち逃げじゃねえか。
僕は本気でそのように考えてしまっていた。
もう、どんな手段を使っても構わない。
絶対に彼女を泣かせなければ気が済まない。
僕は悪ガキ仲間に集まってもらうことにした。
いや、それだけじゃ足りない。
クラスメイトほぼ全員に、僕は連絡を取る。
「島田を呼び出して泣かせようぜ。ぜってー来いよ」
そして、春休みの4月1日。
親がいない頃を見計らって、僕は再び受話器を手にする。
「もしもし、島田? 今から公園に来いよ。みんなと遊ぼうぜ」
公園では既に、うちのクラスの連中が待機していた。
やがてやって来た島田に、僕は勝ち誇ったように怒鳴りつける。
「誰がテメーなんかと遊ぶかバーカ! 今から全員で、お前が泣くまでぶっとばすからな!」
一瞬にして、皆が島田を取り囲む。
さすがの島田も青ざめていたが、まだまだこんなものじゃ僕の気は収まらなかった。
「目ェつぶれ」
高圧的に、僕は命じる。
「俺がいいって言うまで、目ェつぶってろよ。言うこと聞かねえと、もっと酷い目に合わせるぞ!」
少し震えながら、ゆっくりと島田が目を閉じる。
彼女は下を向き、両手を強く握っていた。
それを確認して、僕は集まってもらった連中に「やれ」と目で合図をする。
次の瞬間、まるで刑事ドラマの撃ち合いのような音。
銃声にも似た数々の破裂音が四方八方から島田に襲いかかる。
突然の大きな音に、島田がビクッと体を緊張させた。
やがて、破裂音が途切れ、消える。
僕は静かに「もう目ェ開けていいぞ」と島田に告げた。
恐る恐るといった風に、島田がゆっくりと目を開ける。
このとき、彼女の目には予想外のものが映ったはずだ。
自分を囲うたくさんの笑顔と、1人1人が手にしているパーティ用のクラッカー。
照れくさそうに花束を持っている僕の姿。
島田はキョトンとしていて、完全に言葉を失っていた。
気恥ずかしい気持ちがあって、僕は島田の目を見ず、ぶっきらぼうに言い捨てる。
「お前をぶっとばすなんて、エイプリルフールの嘘だバーカ。お前が春休みの間に引っ越すって言うから、学校でお別れ会できねえじゃん。だから今日、やることにした」
ほらよ。
と乱暴に、僕は島田に花束を持たせる。
続けて島田と仲の良い女子が皆を代表して、クラスメイト全員で書いた色紙をプレゼントした。
「島田、俺たちのこと、ぜってー忘れるなよ! 忘れたら今度は本当にぶっとばすからな!」
僕が本音を言うと、島田は涙でぐしゃぐしゃになりながら「ありがとう」と言ってくれた。
やっとだ。
やっとこの女を泣かせることができたぞ。
僕は満足感でいっぱいになる。
僕や、集まってもらったみんなまで泣いてしまったのは計算外だけれど、まあいいか。
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あれからずいぶんと時が流れ、僕は年齢だけを見れば立派な大人になっている。
恋人にこの話をすると、彼女は「ホント酷い」と言ってコロコロと笑うばかりだ。
「まあ、確かに当時の俺は酷かったけどさ、小学生のやることじゃん。それに、お別れ会のアイデアは悪くなかったと思わない?」
「うん、悪くない。ねえ、覚えてる?」
「何を?」
「めさ、あの時『いつか絶対にまた逢うからな!』って大泣きしてたよねー」
「うおい、恥ずかしいこと思い出すなよ」
「大人になってからでも何でも、いつか絶対また逢うからなー。うえええん」
「うわあ、やめてくれよ、恥ずかしい!」
「子供の頃の仕返し」
悪戯っ子のようにペロっと舌を出す彼女の仕草は、あの頃のままだった。
ちなみに彼女はもうすぐ、島田ではなく、僕と同じ苗字になる予定だ。
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という嘘エピソードを、エイプリルフールにアップしてみる。
皆さん、ハッピーエイプリル!
April 01
自分の誕生日よりもクリスマスよりも、エイプリルフールである今日だけは必ず日記を綴るように心掛けている。
なのだが、毎年のように俺は4月1日が来るという当たり前のことを忘れてしまう。
いつも当日になって初めて気づき、どのような嘘を書くべきかと慌てふためくのだ。
今もそう。
キーボードに手を添えながら、どのような嘘をつくべきかと一生懸命に頭を働かせている。
いや、正確にいえば、実際にキーボードに手を添えているのはうちの執事で、俺が口にした言葉をそのまま文章にしてもらっている。
俺はというと執事の背後でソファに座り、片手でワイングラスを回し、残る手でペルシャ猫を撫でているのだが、今日ばかりはエイプリルフールだからそのような本当のことは書けない。
さて、今年はどのような嘘を披露するべきか。
今回は大急ぎで日記を更新せねば。
早くしないとベガスの会議に遅れてしまう。
あ、いっけね。
ベガスで会議とか、また本当のことを言ってしまった。
えっと、嘘を言わねば。
1本2000円の葉巻しか吸わないとか、そういう本当のことじゃなくって、嘘をつかなければ。
嘘といえば、そうそう。
これは昨日のことなのだが、ちょっと目についた株があったので1億で購入させていただいた。
ふはは。
もちろん嘘だ。
本当は3億で買った。
ぬう、なんか今年の嘘はグダグダだ。
高校時代にちょっとしたショートショートを卒業文集で書いて、それがノーベル文学賞に輝いたエピソードも本当のことだから書けないし、ホント困った。
ねえ、セバスチャン。
なんかいいアイデアない?
って、何やってんのセバスチャン!
今の俺の言葉は打っちゃダメでしょ!?
今のは素の言葉なのであって、文章の内容を喋ったわけじゃないよ。
しっかりしてよねー。
場合によっては、セバスチャンが俺のゴーストライターだってことがバレちゃうかも知れないでしょうが。
今書いちゃったやつ、ちゃんと消しといてね。
消した?
消したのね?
ホント?
じゃあ今回は短いけど、もうアップしちゃっていいよ。
俺もう空港に行くから。
リムジン待たせてるから先に行ってるよ?
しっかり更新しておいてね。
じゃ、あとよろしくー!
行ってきまーす!
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さて皆さん、改めてご挨拶させていただきます。
普段から、めさ様の代筆を勤めさせていただいております、執事のセバスチャンでございます。
本日は嘘をついてもいい日とのことで、わたくしは今しがた、めさ様に嘘をついてみました。
「ご安心ください、めさ様。今申されました素のお言葉の部分はきちんと削除させていただきましたよ」
めさ様はおバカさんでございますから、わたくしの嘘を信じてしまわれたようです。
実際は皆様にご覧いただいた通り、めさ様のお言葉を消してはおりません。
たまに配信させていただいている創作小説などを考案し、執筆しているのは、実はめさ様ではなく、わたくしなのでございます。
今後とも、わたくしセバスチャンの作品をご覧いただけますよう、どうぞよろしくお願い申し上げます。
めさでした。
じゃなかった。
セバスチャンでした。
March 31
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/207/
<万能の銀は1つだけ・4>
2人の剣士を乗せた船が潮騒を掻き分けて離島を目指している。
向かう先は神殿で、レーテルとガルドはそこの神官に用があった。
彼らが自衛士たちの元を訪れたのは昨日のことだ。
今まで起きた謎の殺人事件の凶器が全てクレア銀である可能性や、ルキア少年が目撃した「クレアの短剣が独りでに動いて母を攻撃した」という供述を、レーテルとガルドは必死になって説明していた。
自衛士の隊長が苦笑を交えて言う。
「今までそのような報告を受けていませんのでね、いきなりは一連の事件とクレア銀とを結びつけて考えることは難しいですな」
その言葉にガルドが「俺の息子の証言だぞ!」と椅子から激しく立ち上がろうとするのを、レーテルは片手で制す。
そのままの姿勢で、レーテルは自衛士隊長を穏やかに見つめた。
「もちろん、今すぐに信じろと言われても難しいでしょう。なので裏づけを取ってもらえませんか? 謎になっている連続殺人事件で、凶器が残っているケースがあるでしょう? それらが全てクレア銀であるのかどうか」
隊長はガルドの気迫に圧されながらも、「いいでしょう」と歯を見せた。
船上では風を頬に受け、レーテルは物思いにふけっている。
ガルドはというと船酔いで、船室で横になったままだ。
意外なことに、ガルドは船に弱い。
「ルキアは船に乗ると大はしゃぎなんだが、俺ァ昔から船が苦手なんだよ。神殿にはオメーだけで行ってこねえか?」
大柄な剣士は出発前にそのようなことをレーテルにぼやいていた。
神殿への用事はレーテルだけでも充分に事足りるものだが、神官の告げる内容によってはガルドをその場で納得させなくてはならない。
今後の行動をどうするべきかを神官に相談することが目的だからだ。
レーテルは連続殺人事件の凶器が全てクレア銀製品なのではないかと考えている。
何者かは解らないが、広範囲に広がっている団体がクレア銀の持ち主を探し出し、対象人物からクレア銀を奪い、そのまま殺害したと考えるのが妥当だろう。
しかしガルドの仮説は非常に乱暴で、「理屈は解らねえがクレア銀が勝手に動く」と息子の目撃談を一身に受け止めてしまっているのだ。
そのような破天荒な力説をされては、昨日の自衛士隊長もさぞかし対応に困ったに違いない。
「まあ落ち着けよガルド」
屯所を出てしばらく後、レーテルは相棒をたしなめにかかった。
「クレアの短剣が勝手に動いたって証言は、恐怖で混乱したルキアの見間違いや白昼夢の可能性だってあるだろう?」
「ンなわきゃねえ」
ガルドは憤然と鼻を鳴らす。
「混乱するぐれえの恐怖ってんなら、それこそ短剣が勝手に襲いかかってきたぐらいでねえと説明つかねえだろうが」
「まあ、そう決めつけるなよ」
「これァ決めつけじゃねえ。俺はルキアを信じてるんだ」
ガルドはそう胸を張った。
レーテルはその様を見て、何故だか微笑ましさのような感情を覚える。
彼の言葉を「女房が命懸けで守った男の言葉を信じているだけだ」と変換できたからだ。
ガルドはおそらく、妻を失った悲しみに沈みそうになることを避けるために、全身全霊を込めて事件に取り組もうとしているのだろう。
レーテルが親友の背を2度、軽く叩く。
「俺もだガルド。俺もルキアが嘘を言ってるなんて少しも思ってない。ただな? クレア銀が勝手に動くのなら、動き出す原因と理由があるだろう?」
「ああ。まあ、そうだろうな」
「魔術師みたいな何者かに操られて動くのか、超常現象のような力が働いているのかは解らんが、クレア銀が事件に何らかの関わりがあるってことは、俺も思う。だから1つ1つ調べていこう」
「調べるって、何をだ?」
「クレア銀がどれだけ事件に関わっているのか、関わっているのなら、それは何故か」
「どうやって調べんだ?」
「お前も少しは考えろよ」
そこで2人は悩んだ末に、神官に助言を請うことにしたのである。
信仰心のないガルドは「神頼みかよ」と不服そうだったが、神官や巫女は代々に渡って人を導くことが宿命とされているし、何より今の神官は頭脳明晰だ。
レーテルはきっと良い指導をしてくれると密かに期待していた。
船の進む方向に目をやると、遥か前方にうっすらと天空山脈が望め、その手前には神殿島がもう近くに見える。
レーテルは船酔いで唸っているであろう友を起こすため、船室へと向かう。
「なるほど、お話は解りました」
神官は安らぎを与えるかのような微笑みを浮かべているが、ガルドの妻が亡くなったとの悪報を知ったせいかどこか表情に影がある。
神官である彼は過去に酷い難産のために妻を失っているので、その辛さが解るのだろうとレーテルは察しをつけた。
久しぶりに訪れた神殿は相変わらず閑静で、人が少ないせいで広く感じる。
均等の間隔で立ち並ぶ円柱の柱や壁に描かれた絵画、そして静寂がレーテルを神聖な気持ちにさせる要因となっていた。
祭壇には優しげな日の光が降り注いでいて、今から天使が降臨しても不思議ではないといった雰囲気をかもし出している。
特別な行事でもない限り普段なら滅多に人が訪ねてくることなどないのに、神官の男はきちんと礼服を着込んでいて、髭の手入れもされているようだった。
おそらく彼は毎日のように、このような正装を心掛けているのだろう。
「実は今日、ガルドと一緒に来ているんですが」
レーテルは神官に対し、申し訳なさそうに眉をひそめる。
「奴は船酔いが酷く、表で休んでいます」
「そうですか」
神官は「無礼だとは思わないので気にしないでください」と言わんばかりに笑み、髭を少しさすった。
その時、視界の狭間で何かが動くように見えてレーテルは反射的に視線を投げる。
祭壇を正面に見て右手には神官の生活空間へと続く扉があり、これが開いたのだ。
神官の娘が、そこには立っていた。
「お父様、お客様ですか?」
まだ幼いこの娘はレーテルの記憶によるとまだ3歳のはずだったが彼女はどこか大人びており、しっかりとした言葉を使った。
「いらっしゃいませ」
彼女も父親と同様、正式な白色の装束を纏っている。
輝かしい銀髪と、ルメリアでは他に類の無い真っ赤な瞳が神秘的で美しい。
神官は娘の登場に驚くでもなく、ただ穏やかに告げた。
「レビア、今は大切な話をしているから、まだお部屋で遊んでおいで」
「私もこの剣士の方に告げたいことがあって伺いました」
この言葉にレーテルはますます幼児にはない知性を感じる。
レビアの母親の魂がそっくりそのまま娘に乗り移ってしまったのかと連想してしまうほどだ。
今は亡き神官の妻、つまり先代の巫女は出産を終えたことで天に召されているから、レーテルはふとそのような想像を浮かべてしまっていた。
歩み寄ってくる娘に、レーテルは視線を合わせるようにしゃがむ。
「僕に告げたいこと?」
「はい」
娘の持つ鮮やかな赤い瞳は真っ直ぐにレーテルを捉えている。
そのままレビアは、レーテルと父親とを同時に驚かせるようなことを口にした。
「あなたのご友人の剣は大丈夫です。しかし、それ以外のクレア銀は全て破壊せねばなりません」
<巨大な蜂の巣の中で・4>に続く。