夢見町の史
Let’s どんまい!
September 14
オフ会などで知り合って仲良しになった若者たちが、みんなで職場のスナックに飲みに来てくれた。
彼らとは友達になるぐらい一緒に遊んでいるから、もはや顔馴染みだ。
「いらっしゃい。席、用意しといたよ」
ボックス席に案内し、お酒を作って乾杯を済ませる。
誰かが「Hちゃんと話してみたい」と口にした。
「あ、俺もHさんと話してみたい!」
「あたしもー!」
Hちゃん、大人気だ。
さすが俺の日記でちょいちょいネタにされるだけのことはある。
幸い今日はHちゃんの出勤日だ。
せっかくなので、俺はHちゃんに声をかけた。
「Hちゃーん! こっちの席に着いてもらっていい? みんなHちゃんと話したいって」
やがてテーブル席に1名加わって、皆で乾杯を改める。
ただ、みんながHちゃんのことを知っていても、Hちゃんはみんなのことを知らない。
そこで、ちょっとした自己紹介が始まった。
みんなが名乗るのは自分の本名ではなく、呼ばれ慣れたハンドルネームだ。
「かずきです」
「さおりです」
奇遇にも全員、本名と思われてもおかしくないハンドルネームで、聞いていて恥ずかしくない。
しかし、最後に名乗った女の子だけは例外だった。
彼女は名を、わし子と名乗った。
「わし子です」
「ぐぷッ!」
変な声で吹き出すHちゃん。
何1つ前情報のないHちゃんは、まさか「わし子」がハンドルネームとは思うまい。
しかしHちゃん、初対面であろうとなかろうと、人の名前で笑ってはいけないと本気で思っているようで、咳き込んで真顔を保とうと必死になっている。
Hちゃんはマジで笑いをこらえている様子だ。
本気で、全力で笑いをこらえながら、Hちゃんが「わし子」の部分に耳を疑う。
「ぐッ! ごほ! えっと、ごめんなさい、今、なんて?」
「わし子です」
「がふッ!」
仕留められた猛獣みたいな声を、俺は確かに耳にした。
はたから見てて気の毒なほどに、Hちゃんは必死で笑うまいと我慢をしている。
きっとHちゃんの中では次のような葛藤があったに違いない。
「笑うな、あたし! 人様の名前で笑ったら絶対に失礼!」
「わし子って、親は何を考えた!? わし子って、字は鷲子? どんだけ凶暴な子だよ!」
しかし、そこは礼儀を重んじるHちゃん。
表情から察するに、「絶対に笑わん」と自分の中の意見はまとまっているようだ。
そんな最中、スナック「スマイル」のボスであるKちゃんが出勤してきて、こちらに目を向けた。
「おう、わし子! 来たか!」
「ぶぷッ!」
Hちゃんは唐突に、背後からトドメを刺されていた。
あれは本当に苦しそうだった。
ぼんちゅう君が来ていたら、どうなっていたんだろう。
September 14
自分でも驚いたのが、なんと今回、今月初の更新。
前回の日記「そうだ、選挙に行こう」から2週間ぶり?
選挙とっくに終わってるっつーの。
なかなか更新できなくてすみません。
ここ最近、風邪を引いたり忙しかったりで、風邪を引いておりました。
はっくしょん!
あ~、インフルエンザ。
いやインフルエンザじゃなかったんですけれど、バッチリ不調でした。
アレはやばい。
で、まあ微妙にいい感じに戻ってきたので、更新頻度もいい感じに戻していこうかな、と。
これからも、まったりとお付き合いいただけたら嬉しいです。
今日このあとにですね、貯めていたネタを日記にしようと思うんですけれど、せっかくなので今はだらだら綴らせてください。
俺が風邪をお召しになっていた頃、久しぶりにテレビゲームに興じようかとも思ったんですけども、治ったあともハマり続けそうで自重しました。
俺はRPGが好きなので、1度始めると長いんですよ。
なのでマイブームでもあるポイントサイト内でこつこつクリックしたりと、極めて地味なことを夢中に。
でもいいんだ。
いつかまとめて換金するんだ。
ちなみに、今考えている計画は2つ。
友人の中には若い男女が多いので、恋人がいない彼らを引き合わせ、バラエティ色の強い合コンを開催しようと思ってます。
司会進行と悪ふざけ、頑張ります。
あとはですね、ニュースで見たんですけれど、歌手である木村カエラさんの交際が発覚したじゃないですか。
木村さんといえば、友人チーフ。
チーフのことだから、周りの人が軽く引くぐらいに失恋しているんじゃないでしょうか。
さて、何かしら、こう、ねえ?
彼の傷心に追撃できないものでしょうか。
色々と考えを巡らせてみた結果、どうやら俺は友人としてマジでチーフを慰めるのが良さげであると判断しました。
チーフに酒を1杯ご馳走し、あとは黙ってグラスを空ける。
木村カエラに彼氏ができたという理由で。
チーフがどんなに面白いことを言っても、俺は優しげに微笑んで友の肩をポンポンと叩く。
木村カエラに彼氏ができたという理由で。
「チーフ、木村さんはシングルだよ。俺たちの心の中で、木村さんはずっとシングルだよ」
死人か。
これは思いの他に激しくチーフから怒られそうです。
どんまい。
そんな感じでこれからも日記ネタ、もちろん創作のネタに関しても事欠きそうもないので、ご覧いただけたらなあ、と思います。
2週間ぶりに、めさでした。
久々にキーボード叩きました。
いえーい。
August 28
「あたし、選挙に行きます!」
声高々に宣言をし、瞳を燃やしているのは仕事仲間のHちゃんだ。
なんだか山1番の大熊を撃ちに出ようとするマタギのような勇ましさである。
まだ20代前半の彼女はこれまで選挙に行ったことがなく、1度でもその空気を肌に感じたいのだそうだ。
好奇心が動機とはいえ、選挙に行く行為は立派としか思えない。
俺なんてもう33なのに恥ずかしながら、まだ投票をしに行ったことがないのだ。
俺は尊敬の眼差しでHちゃんをヒーロー扱いし始める。
「凄いじゃんHちゃん! もう誰に投票するか決めてあんの!?」
すると同僚は自信満々に鼻を鳴らす。
「決めてないっす」
さようでございましたか。
「ポスターとか見て誰に票を入れるか、現地で決めます!」
競馬でいうパドックみたいなものか。
せっかくの1票なのだから事前に候補者を調べ、良いと思う候補者に投票してほしいものである。
とは思いつつ、俺はそれをHちゃんに伝えることが結局はできなかった。
俺だって誰に投票したらいいのかちんぷんかんぷんなのである。
自分の国が良くなったらいいなあとは思うけれど、どの候補者がふさわしいのかさっぱり解らない。
日本が嫌な国になっちゃったら嫌だなあという薄っすらとした不安はあるけれど、候補者の1人1人を調べて吟味するまでの興味がぶっちゃけ俺にはないのである。
なんたる非国民。
あ~あ~。
ちゃんと投票に行かなきゃなあ。
でも誰に投票するのかを考えるためには色々とリサーチしなきゃいけないわけで、そこまでするほどの情熱は素直にないなあ。
そのような考えを持つ俺みたいな人へ。
朗報があるよん。
便利なもので、ネット上でちょっとした質問に応えるだけで、どの政党がどれだけ自分と同じ意見を持っているのかを簡単に判別してくれるサイトがあるのだ。
さっきネット仲間の日記を見て知った。
是非パソコンから下のURLを開いてみてほしい。
http://mainichi.jp/select/seiji/eravote/09votematch/etc/
投票所の雰囲気で決めるよりは有効な1票になるはずだ。
ちなみに自分の選挙区が解らないという人はコチラをどうぞ。
本当はもっとこう、選挙に興味がない人でも興味が湧いてしまうような小話でも考えてアップしようと思ったんだけれども、思いつかなかったからパス。
政治家でもない俺たちが国を動かす裏技、それが選挙。
投票しに行くと吉だ。
August 26
空手道部の顧問でいらっしゃるK先生が俺たちの母校から離任され、他の学校に移ってしまうことになりました。
当時高校生だった俺たちはK先生に幾度となく叱られ、また叱り以上の激励や教えを受けています。
照れくさい言葉になるけれど、K先生は恩師です。
俺たちは空手道部に所属していた卒業生たちをできるだけ呼び集め、皆でK先生の離任式に参加することにしました。
名付けて、K先生を泣かせよう大作戦。
みんなで道着を色紙代わりに寄せ書きをしたり、道場に飾り付けを施しました。
式の後、K先生を道場にお呼びして盛大に盛り上げてやるぜ!
離任式は母校で行われるのですが、聞いた話によると生徒以外、例えば俺たちのような卒業生でも参加できるとのことだったので、作戦その1実行です。
<ミッション1・「やっぱ基本は花だろ」>
みんなでK先生に花を贈ろうという計画です。
花束をまとめて1回で贈るのではなく、1人1人が花を1本だけ用意し、それぞれが自分の手で花を先生にお渡しすることに話はまとまりました。
離任式当日、空手道部のOB連中はそれぞれが花屋で買ったらしい1輪だけの花を手にしています。
しかしトメだけが、どっかの観葉植物から妙にでっかい葉っぱをもぎ取って来やがっており、1人だけ間違い探しの一部分みたいなことになっています。
トメ、お前が持ってきたそれは花じゃねえ。
葉っぱだ。
離任式が終わると、離任される先生方が体育館を後にします。
俺たち元空手道部のみんなはさっと花道を作り、1人1人がK先生に花を渡しました。
しかしトメだけが「バサッ」という効果音付きでデカい葉っぱを渡したので、K先生は「どうして葉っぱを?」と不思議そうな顔に。
俺は俺で、何故か全く知らない教員の方が俺から花を受け取ろうとしたので、思わず間違えて渡しそうになってしまいました。
さて、後は先生を道場に呼び出すだけです。
<ミッション2・「汗を流したあの場所で」>
俺たちは道場に入ると大急ぎで道着に着替えて整列をし、正座でK先生が来るのを待ちました。
間もなくK先生が到着。
背筋を伸ばし、ビシッと整列している俺たちを見て、恩師は少し照れたように笑いました。
感極まったのか、声を張り上げるK先生。
<ミッション3・「こりゃ計算外」>
「では、これより最終稽古を行います!」
K先生は有無を言わさず、そのように断言しやがりました。
稽古って、引退してからずっとダラダラし、体力の何もかもを失った俺たちが?
本来だったらこの後、1人1人が順々に贈る言葉を述べたりする予定だったのですが、何故か始まる空手の稽古。
みんな結構衰えているので、誰もがヒーヒー言っています。
「じゃあ次はバトルの体勢!」
生き生きした瞳で仕切るK先生。
ちなみにバトルとは「バトルロイヤル」の略です。
1つのコートに全員が入り、みんなで戦うのです。
自分以外の全員が敵なわけですね。
「1番早く負けた者は拳立て180本! その次に負けた者は170本! そういう形で早く負けた者にはぺナルティがつくからね!」
拳立てとは、拳でやる腕立て伏せのことを指します。
これは負けちゃいけません。
「で、優勝者には私からのキーッス!」
K先生は女性ですけれど、どんな方向から眺めても女性には見えない方。
これは勝っちゃいけません。
だいたい、どうして勝った奴が1番手厳しい扱いを受けなければならないのでしょうか。
先生が考えたルールだと、手を抜いても嫌な肉体労働が課せられます。
つまり、丁度良い瞬間に負けるのが丁度良いわけです。
よーし!
頑張って丁度良いところで負けるぞ!
こうしてバトルスタート。
試合用コートの中は修羅場と化しました。
いやしかし、いい空気だなぁ。
俺は組み手が大好きだ。
楽しくなってきた。
ふはは。
楽しくなってきたぜ!
てめェら全員、かかって来ォーい!
もっと全力でぶつかって来い!
以上、めさの心変わりの模様でした。
気がついたら頑張ってしまいました。
俺のバカ。
コートの中はいつの間にか俺と2人の後輩のみ。
片方の後輩は昔から今も道場に通う空手バカ。
もう一方が主将に任命された実力者。
相手に不足はありません。
戦闘シーンは省略しますけれど、俺は先輩の意地と元K高校最速の男としてのプライドで、何とかこの強敵2人に勝利することができました。
いい勝負だったぜ。
久し振りに本気を出したから体力も限界だ。
疲れたー!
K先生が悪魔のような笑みを浮かべます。
「じゃあ、めさが私とキスね」
忘れてたー!
頑張っちゃ駄目だった!
あ、そうだトメは!?
あいつ俺と互角のクセして、何やってんだ!?
瞬時にトメを探すと、彼は一生懸命拳立てに励んでおいででした。
後でトメから聞いた話によると、こいつはどうしても優勝したくなかったのでもの凄く手を抜き、その手の抜き方が思いの他もの凄かったのだそうで、思いの他もの凄い早さで負けてしまったのだそうです。
「拳立てがキツかったよ~」とトメ。
知るかッ!
K先生が俺につま先を向けます。
俺は正々堂々と逃走を試みました。
すると何故か追ってくる負け犬連中。
来るなバカども!
お前らの血は何色だ!
俺はそのまま捕獲され、床に大の字で押さえつけられると、めでたくK先生に唇を奪われてしまったのでした。
これにて俺とK先生の関係は、アルファベットで言うとAです。
教師と生徒の一線、越えちゃった…。
ぐったりと起き上がれない俺から満足気に去っていくK先生と部員達。
俺はその場で「お母さ~ん!」と泣いていました。
主役であるはずの先生ご自身の活躍により、K先生を泣かせよう大作戦は大失敗だったとさ。
俺が泣かされるとは思いませんでした。
August 26
この学校に入学した理由は実をいっちゃうと、「定員割れしているから」とか「履歴書に空欄を作りたくなかったから」などという不純な動機からです。
学費も一切かからない学校でしたしね。
悪友トメとジンと3人で受けに行ったのです。
しかし、いくら定員割れしている学校だからといっても当然試験はあるわけで、今回はこの職業訓練学校の入試試験について触れたいと思います。
国語の試験って大抵の場合、問題用紙に小説か何かの一部分が本文として記載されていますよね。
で、「アンダーライン1の文で、主人公はどのような心境だったのか答えよ」みたいな問題が出てくるじゃないですか。
この「何かの小説の一部分」なんですが、文体その物は純文学風で、難しい言葉使いとか昔の単語とかが出まくりでした。
間違いなく難解な文章です。
俺はビビりつつも、まずは本文に目を通し、ストーリーの理解に努めました。
なになに?
どうやら主人公は若い男の子であるようだな。
近所のお祭りに参加しているらしい。
お!
女の子登場。
ボヘミアンネクタイをした可憐な女子、か。
ボヘミアンネクタイって何じゃろか?
ほう、この主人公、変なネクタイを絞めた見知らぬ女の子のことが気になる様子であるぞ?
顔が見たくて後をつけ出した。
ネクタイが見れて、どうして顔が見れてねえんだ、こいつは。
それと、後をつけるな後を。
そいう行動が犯罪とかに発展するんだぞ。
あ!
こいついきなり女の子を見失いやがった。
尾行の下手クソな人だ。
まあいい。
読み進めてみようか。
何!?
「熊から喰らった一撃のせいで肩が痛む」って書いてある!
この人、一体何者だ。
いつの間に熊と戦ったのだ?
祭りを楽しんだり女の後をつけたりしているところを見ると、怪我はたいしたことがないのか。
すげえ。
読み進めていくと、この主人公は病院にも行かずに頑張って「ボヘミアンネクタイの女の子」を再発見し、再び尾行に励んでいます。
俺はそんな個所より、熊との戦闘シーンが読みたかったです。
主人公が「痛い」で済んでるってことは、熊には勝ったのでしょうか?
まあいいや。
物語をさらに追ってみましょう。
女の子は夜店から離れて、暗い森の道を1人で歩いているみたいです。
無防備だな、この子。
熊が出ても知らんぞ。
あ、 女の子がある家の前に到着したぞ。
熊やストーカーから襲われなくて何より。
おや?
主人公はこの家に見覚えがあるみたいだぞ?
なんでだ?
君は昔、ここに来た経験があるのか?
そう思っていた矢先、俺の目にはとんでもない一言が。
「それは我が家であった」
てめぇン家かよ!?
そりゃ見覚えの1つや2つ、余裕であるだろうよ!
気づくの遅いんだよ!
でも待てよ?
どうしてボヘミアンネクタイの彼女は貴様の自宅に入ってっちゃうのだ?
熊の仇討ち?
で、主人公は不思議がりながらも彼女の後を追って、自宅に入るのですが、俺はもう笑ってしまうかと思いました。
「ボヘミアンネクタイの女子は、彼自身の妹であった」
主人公が怪我の治療よりも優先させたのは、いつでも会える肉親の尾行だったのです。
小説の名は解りませんが、これを書いた方とそのファンの皆様、ごめんなさい。
作者の意図が全く読めません。
それにしてもこんな常軌を逸した問題だらけの問題文を読んで、どうしてみんなは平気で試験に励めるのでしょうか?
これは何?
笑いをこらえるための精神力を見るテスト?
あ!
そうだ!
ジンとトメは!?
俺の席は後ろの方だったので、悪友2人の様子を観察することができます。
彼らは案の定、肩を震わせていました。
よかった!
笑いたいのは俺だけじゃなかった!
奴らのことだ。
主人公が熊に勝っていることまで見抜き、だからこそ笑いたいに違いない。
俺が教員だったらその想像力に敬意を表し、笑いたくてたまらないお前たちをみんな合格にしている。
つまり俺も合格だ!
やったー!
密かに拳を握りました。
ちなみに試験はですね、ピアスを付けたまま面接に望んだジン以外は全員合格しました。
めでたし。