夢見町の史
Let’s どんまい!
August 26
ジンがようやく自動車の免許証を取得したので、彼のドライブテクニックを磨くための遠征という大義名分の下、綺麗な海で遊びまくろうといった計画です。
ある日、コンビニでのバイトを終えると、俺はそのまま仕事仲間とカラオケを楽しみ、家路につきました。
時刻は午後11時にもなっていたでしょうか。
歩いていると、俺の家の近くに止めてあった車が急にクラクションを鳴らしました。
明らかに、俺に対しての音攻撃です。
なんで絡んでくるんだよ、もー。
やめてよね~。
俺がちょっと嫌な気持ちになっていると、車のドアが開きました。
「お前、今までどこ行ってたんだよ!」
「ったくよ~、先行くトコだったぜ」
車から出てきたのは、紛れもなくジンとトメでした。
でも、言ってることが解りません。
勝手にどこにでも行ってくださいよ。
お前ら俺を夜中に待ち伏せとかしないでくださいよ。
キモいんですよ。
すると、
「ふざけんな、このクソガキ!」
ジンが真顔で怒ってます。
「白浜行くの今夜って言ったじゃねえか!」
今夜!?
明日じゃねえの!?
「っお~い。なに言ってんだよオメーよぉ」
トメは相変わらずダルそうです。
「今夜だ! って言ってるそばからお前、どこ行ってたんだよ~」
友達とカラオケ唄ってた。
「とっとと仕度してこい!」
どうやら俺は白浜に出発する日を1日ズレて覚えていたようです。
どんまい!
ジンとトメに怒られ、俺はダッシュで海で遊ぶセットをカバンに詰め込み、再び車へ。
出発時刻は俺のせいで予定より大幅に遅れてしまいましたが、気を取り直して白浜に向けて発車します。
車はしばらく、ジンのつたない運転で進むみました。
ジンが不意に、ミラー越しに俺の目を見ます。
「めさ、お前さ、金いくら持ってきた?」
俺は視線を下げました。
なんて嫌な質問をしてくるんだろう。
痛いトコ突いてくるよな~、こいつはいつも。
嘘をついてもどうせバレるから、正直に答えといてやりますかね。
俺はボソリと「700円」と口にしました。
「良く、聞こえなかったよ。いくらだって?」
「だ、か、ら! 700円!」
「車から降りろ」
「やだよバカ! こんなトコで降ろすなよ! しょうがないじゃん! カラオケ行った後なんだから!」
「だからって700円はねえだろ! おい、トメもそう思うだろ!?」
「ん~。んあ? もう着いたの~?」
「寝てたのかよ!?」
トメは車の運転手をフォローするために助手席に座ったにも関わらず、見事にぐっすりと眠っておいででした。
ちなみに俺の全財産700円は、最初に寄ったコンビニで全ておにぎりとお菓子とジュースに化けました。
どんまい!
もうすぐ夜が明けます。
そしてこの夜明けが、まさか悪夢のような体験の幕開けになろうとは、ジンだけが何気に気づいていたみたいです。
朝になる頃、俺たちを乗せた車は静岡県の沿岸を走っていました。
トメは相変わらずグースカとうるさい寝息を立てていやがります。
ジンがハンドルを握る力を込めました。
「もうここが白浜海岸だぜ。駐車場を探そう。おい! トメ起きろ! 白浜着いたぞ!」
「ん~。着いたら起こして~」
「だから! 着いたって言ってんじゃねえか!」
おバカは放っといて、まずは車を駐車場に入れてしまいましょう。
駐車場のお姉さんが、俺たちの乗った車を先導してくれます。
その際もジンは頑張ってトメを起こそうと必死でした。
「おい! トメ起きろって! 着いたぞ!」
「うう~ん。ここ、どこ~?」
「だから白浜だっつってんじゃねえか!」
「ぷぷッ!」
反射的に吹き出していた駐車場のお姉さんの可笑しそうな顔が今でも忘れられません。
浜辺に出ると、天気は上々。
夏特有の大晴れで、今日はとても日差しの強い1日になりそうでした。
こんな上天気の中で1日中浜辺にいれば、きっとこんがりと焼けることでしょう。
事実、俺たちの近くにいた20代らしき年頃の男性は、その全身を気の毒なぐらい真っ赤に変色させ、俺たちに無駄な心配をされた挙げ句、「赤鬼」というコードネームまで命名されていました。
赤鬼は楽しそうに遊んでいましたが、絶対に明日は皮膚科のドアを叩くでしょう。
お前は紫外線を浴びすぎです。
さて、俺達は浜辺にビニールシートを広げ、川の字に横になりました。
トメは再び寝てしまいます。
夜に出発し、先程到着した俺たちはつまり、徹夜をしたことになりますから、やはり眠気を感じていました。
では、お休みなさい。
「……」
暑くて眠れぬ。
俺とジンは無言で上半身を起こし、ビニールシートに溜まった汗の水溜まりをバシャバシャと払いました。
「めさ、お前、喉乾かねえ?」
「うん。何か飲みたい」
「飲み物でも買いに行くか」
「行く。でも俺、金ねえぞ」
「家に帰れ」
浜辺の温度と反比例して冷たいジンを拝み倒し、ジュースを買ってもらいます。
暑過ぎて汗がダラダラと滝のように流れるので、何度も売店と浜辺を往復し、その都度俺はジンにジュースを奢ってもらいました。
ついでにヤキソバもねだりました。
だってお腹が減ったんだもん。
仕方なし。
「ところでコイツ、なんで平気で寝てられるんだ?」
ジンの視線を追うと、そこには気持ち良さそうに眠っているトメのだらしない姿が。
確かに。
人が眠れるような気温じゃ決してないのに、こいつは気持ち良さ気だ。
一睡もしてない俺とジンが暑くて眠れないというのに、車の中でも寝ていたトメが何故に1番先に眠れるのだ。
顔面に落書きを施してやりてえ。
「しかもコイツ、あまり汗もかいてねえぞ」
ああ、野生の獣は暑いの平気なんだろ。
「俺さ、前から思ってたんだけどさ」
なに?
「普通の友達が欲しい」
そんな遠い目をするなジン。
やがてトメも起きだします。
3人で海に入りました。
ゴムボートをレンタルし、沖への遠征を試みます。
3人はあっという間に、かなり沖まで来ることができました。
談笑タイムです。
「トメがさっき『あの人ノーブラだ』って言うから、慌てて目を見張ったらさあ」
「ロン毛の兄ちゃんだったんだろ? 俺もさっきやられたよ」
「だってブラしてなかったからよ~」
「男がブラしてるほうがおかしいだろ! 目ざとく普通の人見つけてんじゃねえよ!」
「マジで普通の友達が欲しい」
まあまあ、バカトークはそれぐらいにして、そろそろ陸地に戻りましょうか。
ところが、なんか妙に陸地が近づいてきません。
沖に来る時は早かったのに、おかしいです。
というわけで、俺たちを乗せたボートは、潮に流されていたのでした。
気づくのが遅かった!
しかもオールがねえ!
「急いで戻るぞ!」
ジンが焦った口調で叫びます。
必死に素手で海水をかく3名の若者。
しかし陸地は一向に近づいてはきません。
馬力が足りていないのです。
ジンが、再び怒鳴りました。
「このままじゃ戻れねえ!(日本に)1人だけボートの上で漕いで、あとの2人はボートを外から押そう!」
俺たちはジンの提案に従い、交代でボートに乗り降りしつつ岸を目指しました。
最初は外側の2人がバタ足でボートを押していたのですが、ドロップキックで押し出した方が効率が良いということで、2人が同時にボートを蹴って押し進めます。
グンと進むボートに泳いで追いつき、再びボートを蹴る2人。
この時は俺がボートに乗って、漕ぐ係でした。
ジンとトメが同時にボートを蹴って押します。
蹴り出したボートに泳いで追い付こうとする2人の位置関係はというと、ジンの後ろに、トメがいます。
俺はこの時、大変なものを目撃してしまいました。
ジンの後ろから必死の表情で追いつこうとするトメ。
彼の前髪が、完璧に揃っていたのです。
トメの前髪が大変だ!
綺麗にビシッと揃ってる!
しかもトメ、真顔!
こんなマジなんだかふざけてんだか解んねー奴、見たことねえ!
普段はいかつい顔面を持つトメの可愛い髪型に、前を泳いでいるジンは気がついていないご様子。
こんなに面白い物は、ジンにも見せてあげなくちゃ!
夢中になって俺は絶叫します。
「ジーン! 後ろだぁ! 振り向けー!」
ジンは一瞬、「はあ?」と言いたげな表情を浮かべました。
が、俺の必死さを悟ったらしく、泳ぎながらも後ろを振り返ります。
そこでジンが見た物は、有り得ないヘアースタイルのまま、必死の形相でジンに近づこうとする、トメの面白い姿。
ジンは、
「ぶべパぁ!」
変な声を出して、溺れていました。
教えて良かった。
ジンはどうにかボートにしがみつくと、息を切らせながら、
「殺す気か!」
マジギレです。
何とか岸に着く頃には、色んな意味でクタクタの3人。
日が落ち始めた頃になると、俺たちはこんがりと焼けた体を車に入れます。
そろそろ帰還の時間となっていました。
「お前焼けたなー」
「いやいや、お前こそ」
遊ぶだけ遊んだ俺たちは口も軽やかに、ジンが車を発車させるのを待ちました。
ジンが色々と運転席をまさぐっています。
そして彼は口を開きました。
「お前ら、金持ってるか?」
なにその質問。
ないに決まってるし。
トメは?
「ねえに決まってんだろ~?」
だよな~。
でもジン、なんで今になってそんなことを?
「俺の金も無い」
ジンはたった一言で、俺とトメを黙らせました。
ちなみにガソリンのメーターは限りなく0に近い数値を示しておいでです。
ガソリンは無い、金も無い、ついでにお腹すいた。
これでは俺たち、かなりの高確率でお家に帰れません。
昼間に飲み物を飲みすぎました。
ご飯もいっぱい食べました。
ゴムボートをわざわざ金出して借りて、勝手にピンチにも陥りました。
そんな俺たち全員の合計所持金額は、1300円。
ジンがハンドルに突っ伏します。
「テメーらといると、いつもこうだよ!」
俺のせいじゃないもん!
車にしまったとか言ってた予備の1000円なくしたの、お前じゃん!
なあトメ!?
「ふわぁ~、俺、ちっと横になるわー」
また寝るのかよ!?
それが何の解決になるんだお前は!
地獄のような人間関係。
しかも帰りの高速道路は渋滞中。
少ししか走らないかも知れないジンの車。
取り合えず1300円の内、1000円はガソリンスタンドで車にエネルギーを補給するために残しておくとします。
さて、渋滞をやり過ごすために時間を稼ごうと、ジンは道路脇の開けた場所に車を停車させました。
そこは海を見渡せる絶好のポイントだったのですが、今の俺たちにそんな余裕はありません。
俺たちは獣を発見したら直ちに捕まえ、その場で焼いて喰ってしまおうと真剣に相談している野蛮人と化し、タヌキやイタチの姿をマジで探していたりしました。
ちなみにトメはというと、車のサンルーフから両足を突き出すという奇怪な格好で眠り、通り過ぎるギャル達が乗った車から、
「車から足が生えてるゥ~! キャハハハハ!」
ドップラー効果つきで笑われていました。
さて、お腹がすき過ぎてテンションが落ち着いてきた俺とジンは、なんとなく夜の海を眺めています。
「ジン、見ろよ。憎らしい程に綺麗な海だぜ」
「おぉ、詩人だな」
「だってこの景色、凄くねえ?」
「ああ、そうだな。満月が海面に映ってやがる」
「波の音といい、綺麗な星空といい」
「ああ。こんな景色は滅多に見れねえだろ。好きな女の子と一緒だったりなんかしたら、スゲーいい思い出になるんだろうなあ」
「ああ、全くだぜ」
次の瞬間、俺とジンは互いの胸倉を掴み合い、「何で隣にいるのがテメーなんだよ!」と同じことを怒鳴っていました。
人間関係激悪です。
トメは相変わらず屋根から足を出したままの変な格好で眠っているし、酷い空腹感は解消されないままだし、獣は歩いてないから捕まえられないし、景色は綺麗なのに隣にいるのがジンだし、色々最悪です。
上天気の夜空に波の音が響いていました。
乳飲み子ぐらいよく眠るトメが、ようやく起きます。
その頃にもなると、いよいよ俺たちの空腹感はピークに。
ジン、トメ。
お前らに言っておきたいことがある。
俺は今な、腹が減って死にそうだ。
「ったくオメーはよー、なんで700円しか持って来ねえンだよ~」
「他県に行くのに700円しか持ってこねえ奴といい、炎天下の中でも車の中でもグースカと寝てる奴といい、なんなんだよ、お前らは!」
ノープロブレム。
「充分問題アリだ、このクソガキ!」
「ジンよ~、この車、喰うモン積んでねえのかよ~?」
「あ」
あ?
あってなによ。
ジンは何かを思い出したかのような口調でした。
もしかして、ポテトチップスぐらいは車中にあるの?
腹の足しには全然ならないけれど、ないよりマシです。
ポテトプリーズ!
しかし、ジンの車に積まれていた食料はポテトどころではありませんでした。
ジンは次々と、まるで手品のように、トランクから非常食を引っ張り出します。
水、乾パン、インスタントのお米。
なんでこんなにあるのだ。
俺もトメも大喜びです。
「スゲー! 非常食がこんなに!」
「こんなにあンなら、もっと早く思い出せよな~」
「いやしかし助かった~。準備いいじゃねえかよ」
するとジンはどこか言いにくそうにうつむきます。
「いや、コレさあ、俺の親父が『めさとトメとで遠出するなら必要になるはずだ』って、車に積んどいてくれたんだ」
俺もトメも「ああそう」としか返せません。
確かに非常食は3人分。
明らかに俺たち用でした。
友人の親に「奴らは非常食が必要になるレベルのトラブルを絶対に引き起こす」と読まれ、しかも見事に的中している俺たちの人生って一体。
で、3人で均等に非常食を分けたつもりが、俺の取り分だけが何故か目分量を少なく間違えられ、激怒。
その後、ジンがガソリンスタンドで恥ずかしい思いをしながら1000円分のガソリンを入れていました。
それでも、車の燃料は微々たるものです。
しばらくは持つとは思いますが、静岡県内で停車してしまっても不思議ではありません。
あまりにガソリンが足りなさそうなので、道中の交番に入ってお金を借りようかと思い、深夜の交番のドアを叩くと、偉くマッチョな警察官が酷く不機嫌そうに現れたので涙が出そうになりました。
交番には俺が1人で入ったので非常に心細く、自首をしにきたかのような錯覚を覚え、涙が出そうでした。
しかもその挙げ句、「3人もいるのに、どうして誰もお金を持ってないの」と突っ込まれたり、「ガソリンのメーターなんて0になってもしばらく走る」との脅迫めいた口調で説得を受け、俺は無駄に神経をすり減らして交番を後にし、涙が出そうになりました。
ガソリンが足りないと言っているそばから道に迷う3名。
またもや寝て、そのまま起きないトメ。
寝ぼけた運転でサイドミラーを何かにぶつけ、取れたサイドミラーを俺に取りに行かせるジン。
もうこいつらとは遊びに行かん!
バカばっかりだ!
そう思いつつ、俺もいつの間にか寝息を立ててしまいました。
さて、結果を言ってしまうとですね、俺たちは無事に帰ってこれました。
朝方になってはいましたけれど。
後日聞いた話によると、ジンの車の燃料は「あと5キロ走れたかどうか」の量しか残っていなかったのだそうです。
あっぶね。
さて。
トメと一緒になって、ジンの家を訪れたずれたのは、生還を果たしてから3日後のことでした。
インターホンを鳴らすと、しばらくして玄関が開きます。
目を疑いました。
そこには包帯ぐるぐる巻きの、ミイラ男の姿が。
誰この人。
「何だよ、お前らかよ」
お前、もしかしてジンか?
「ああ、最悪だよ。日に焼け過ぎて、全身ヤケドしてた」
そんな痛々しい友人の姿を目にしたトメは心配そうに「お前、その包帯何だよ~。ヨロイのつもり?」などと口走り、俺は呼吸困難に陥って、酷く不機嫌そうなジンはあまり口を利いてはくれませんでした。
「当初の目的だけは見事に達成して、運転上手になったんだからいいじゃない」
「うるせえ!」
ジンの皮膚はちなみに、全治1週間。
海に行っただけなのに、全治1週間。
仮に俺が700円以上持ってたとしても、こればかりはどうにもなりません。
それなのに、ジンはただただ「最悪だ」を10回ぐらい、ブツブツ言ってるだけです。
前向きさが足りてませんでした。
赤鬼の人といいジンといい、海には危険がいっぱいです。
August 16
一体何に注意したらいいのか全く解りませんけれど、なんとなく気をつけてお読みください。
俺は昔、一時だけアダルト専門店に勤めていたことがあります。
エロビデオとかを中心に販売している小売店の、雇われ店長だったのです。
もう店内はですね、生身ではない様々な女性で溢れ返っておりました。
エロビデオ、エロDVD、エロ雑誌にエロコミック、さらには大人のオモチャなどなど。
だいたいの男性の欲望はここで満たせる!
って感じです。
でもなんか、書きたくなくなってきた。
しかしやはり仕事ですから、働く本人はちっとも淫らな気分にならないんですよ。
普通、男だったら良さ気なエロビデオを発見すると、「わお! 見てみてえ!」ってなもんですが、働く側からしてみれば「お! コレは売れそうだ! たくさん仕入れておこう」などと冷静に思うのです。
俺と社長のビジネストークとか、こんな感じでしたもん。
「社長。『ちょこっとファック』なんですけど、この女優は人気があるので今回は多めに仕入れておきました」
「ああ、ご苦労さん。めさ君、『ましゅまろおっぱい』の在庫は?」
「『ましゅまろおっぱい』はまだたくさんありますよ。ただ、『後ろまでヌルヌル』の在庫が切れそうです」
「じゃあ『スチュワーデスはジャンボがお好き』と一緒に注文しないとな」
「あ、注文はもう『こんなところでぶっかけられて』と同時に済ませてありますよ。ただ、到着が2日ほど遅れるそうです」
会話を構成する単語の何割かが既に18禁。
しかも俺たち真顔です。
会話がおかしいといえば、商品の発注の際も異様なものがありました。
ビデオやDVD、アダルトグッズなどはファックスで注文できるからいいのですが、コミックに限っては出版社に直接電話をかけて注文しなくてはいけません。
しかも、電話の先には大抵女性の方が出やがります。
「お電話ありがとうございます。○○出版です」
「お世話になっております。○○店です。コミックの注文なんですが、よろしいでしょうか?」
「はい。受け賜わります」
「『好きもの女子校生』を2冊に、『もっと揉んで』を1冊、あと『幼女のアソコ』を1冊お願いいたします」
「はい、少々お待ち下さい。あ、お客様、申し訳ございません。『もっと揉んで』が既に絶版となっておりまして、再版の予定もないのですが」
「あ、そうですか。では『もっと揉んで』は結構です」
「申し訳ございません。それではご注文を確認致します」
俺が発注した恥ずかしいタイトルの商品名を復唱する受け付け嬢。
なんでしょう、この違和感は。
「もっと揉んで」なんて女の人が言っちゃいけません!
しかも何故かちっとも嬉しくありません。
それにしても、なんていうか、今回の話ってどうなんでしょうか。
男子校でのみ見られるように記事の設定とかってできないのでしょうか。
まあいいや。
ここまで書いたらもうヤケです。
最後に、店で扱っていたアダルトグッズを紹介しようじゃないですか。
早い話が大人のオモチャですね。
男性が1人でアレする時にアレするアレや、女性のアレに男性のアレをしたアレした商品なども販売していました。
そんな人間の欲望渦巻く素敵な商品の中には考えられない物体もあるんですよ。
その名も「貫き」。
これが何かと申しますと、ぶっちゃけた話、あえてストレートに言うならば、アレですよアレ。
うんとね、バイブです。
きゃ。
一体ドコを貫くのかは置いといて、驚くべきはそのサイズ。
とにかく巨大なのです。
「出産!?」って感じにデカいんですよ。
初めて見た時はビックリしました。
確実に俺の手首よりも太かったです。
とても人のモノとは思えません。
人智を超越したサイズです。
武器として使用出来そうなぐらいでした。
昔の海賊が使う望遠鏡かと思ったぐらいです。
こんなの誰も買わねえよ!
誰にも使えねえよ!
馬用かよ!
俺が勤めている間はずっとそのように思っておりました。
しかし、売れたんですよ、1本だけ。
ある冬に、黒いロングコートに身を包んだ長身の男性が購入していきました。
お客様は無言で「貫き」をカウンターに置き、サイフを出します。
その手にはどういう訳か、真っ赤なマニキュアが丁寧に塗られておりました。
何者だあんた!
誰に使う気だ!
ドコを貫くつもりだ!
そんなんまともに使ったら内臓の位置が変わるぞ!
いやーッ!
通常では考えられない想像が駆け巡るも、俺は平静を装ってレジを打ちました。
ある意味、あれは恐怖体験でした。
あ~あ。
書いちゃった。
August 16
空手道部で同期だった仲間が陸上自衛隊に入隊を果たしました。
彼の名は、ここでは仮にピン君としておきましょうか。
酒を飲みながら、ピン君が自衛隊内の話をしてくれます。
「自衛隊の練習の1つでさ、戦争のシュミレーションみたいなこともやるんだ」
「へえ! カッコイイじゃん! 具体的にどんなことすんの?」
彼の説明によると、隊員たちはそれぞれ敵と味方チームに分かれ、本物の火器に光線銃のセンサーを付けた武器を使用し、撃ち合うのだそうです。
引き金を引くと目に見えない光線が発射され、相手に当たったらピコーンとランプが点いて死亡か負傷かをコンピュータが判定してくれるとのことです。
参加人数が多数過ぎて、一体何名が戦地にいるのか、ピン君にも把握できなかったとか。
全く知らない自衛隊の世界の話は新鮮だったので、俺はワクワクしながらピンの話を聞いていました。
「本物の戦場を想定した土地での訓練だから、トイレも無いんだよ。小便だったらどこでもできるからいいんだけどさ、大の時が困るんだ。1回だけ、その用を足している最中に敵のチームに見つかっちゃってさ、撃たれるかと思ったんだけど、『武士の情けだ』って言われて、見逃してもらえた」
ピン君は少し切なさそうでした。
用を足している姿を知らない人に目撃さるぐらいなら、撃たれた方がマシだったのでしょう。
ピン君が女性だったら自殺もんです。
でも、見ちゃった方も嫌だったろうなあ。
で、この戦争のシュミレーション訓練、もの凄いハードだったみたいですね。
重装備を装着したまま全力疾走しなければならない上に、24時間以上のフル活動。
加えてピン君は当時、個人的に重大な悩み事があったために、3日ほど眠っていなかったんですって。
無線の指示にも苛立っていたとか。
「現場の細かい状況も分からねえクセしやがって、偉そうに命令してんじゃねえよ! さっきから黙って聞いてれば、全部くだらん命令ばっかじゃねえか!」
彼はその時、ある決意をしたのだそうです。
ピン君は無線で「電波の状況が悪いので、そちらの近くに移動したい。居場所を教えて欲しい」と連絡しました。
そして指揮官の近くへ。
ピン側チームのボスがそこにいます。
ちなみに、ピンの役割は狙撃手でした。
スナイパーです。
彼は自衛隊設立以来の素晴らしい快挙を成し遂げました。
味方の指揮官の暗殺です。
ピン君は自分のボスを狙撃しました。
まあ、暗殺と言っても光線だけですから命に別状がなければ怪我もしないのですが、撃たれた者は戦線を離脱しなければなりません。
指揮官が謎の死をとげたピン君のチームはやむなく惨敗。
全てピン君の功績です。
ちなみにこの光線銃の当たり判定は「軽傷」「重傷」「即死」の3パターン。
で、彼に撃たれた指揮官は「即死」でした。
ピン君、素晴らしい腕前だ。
ただお前は撃つ相手を間違っている。
でですね、誰が誰を撃ったのか、自動的に記録が残るのだそうで、結局は暗殺犯がピン君だとバレてしまい、彼はこってり怒られる事に。
それでもピン君は頑張りました。
以下、上官からのお説教の様子です。
「味方を撃つとは何考えてんだ?」
「馬鹿な命令ばかり出して、部下を無駄死にさせた指揮官よりはマシです」
「何が馬鹿な命令だ! 上官が赤と言えば、白い物でも赤になるんだ!」
「赤と白の区別もできない者に、自分の命を預けることはできません」
「物の例えで言ってるんだ!」
「では、もっと感心出来る例えを聞かせてください」
「黙れ!」
「……」
「何か答えろ!」
「命令通り、黙っていた事が不服ですか?」
この場は結局、さらに偉い指揮官が登場し、「それくらいにしなさい。確かに味方を撃つのは重罪だが、部下の心を掴めなかった君も悪い。この件は、運悪く味方の流れ弾が命中した事にしておこう」ということになったそうです。
というわけで、表向きには「事件」は「珍事」に。
ピン君は叱られるだけで済んだのだそうです。
後日、自衛隊員の間での学級新聞的な掲示板の中にはピン君の名が。
ピン君は扱いにくい隊員のナンバー2に、見事に選ばれていました。
彼がこのコーナーに名を載せるのは初めてのことだったそうです。
では、1位から順にコメントを見ていきましょう。
第1位、○○君「綺麗な花にはトゲがある」
第2位、ピン君「汚い花にもトゲがある」
第3位、○○君「トゲは無いけど、花も咲かない」
この記事書いた人、面白い。
しかし、最も面白いのは間違いなく上官を即死させたピン君でしょう。
お前はとんでもありません。
ちなみに2002年にピン君は自衛隊を退隊し、それからはある会社で頑張って働いています。
そこの社長が狙撃されやしないか心配です。
August 16
ばあちゃんっ子だったこともあって、俺としては非常に切ない気持ちに。
ところが。
ばあちゃんの葬式の最中、俺は喪に服すどころか、笑いをこらえる羽目に陥ってしまうのでした。
お焼香って、あるじゃないですか。
地域によっては違うのかも知れませんけれど、ティッシュペーパーの箱ぐらいのサイズの、木箱に乗っているアレです。
左半分にはお灸のように炭が山型に積まれており、炎を出さずに燃えています。
右側にある香料を、その炭にくべてゆくのです。
香料をくべる際、一摘みした香料は己のおでこに一旦近づけてから、木箱左側の炭に落とし、これを場合にもよりますが1回から3回繰り返します。
やがて弟の番が回ってきました。
俺の弟は、前の人の動作を何も見ていなかったのでしょうか。
彼は香料を摘み、おでこに当てると、ちょっと手を伸ばして全然関係のないツボに香料をパラパラと入れていました。
3回も。
たまりません。
ばあちゃん、孫の中に1人、バカがいるよ。
妹もプルプルと震えています。
涙をこらえる感情ではなさそうでした。
弟は無関係のツボに香料をひとしきり投入すると、今度は合掌すべく両手を合わせようとします。
パァン!
パァン!
手を叩く弟。
誰かこいつを摘まみ出せ。
ばあちゃんに願掛けするな。
ばあちゃん、ごめんな。
弟にはよく言って聞かせておくよ。
今年もちゃんと兄弟で墓参りに行くからね。
取り合えず俺の弟は、よそ様の葬儀に出席させてはマズい人物です。
弟よ、兄貴はツラいですよ。
August 16
R君とはジンのいとこで、俺たちより1つ歳下の男の子です。
どうして横浜在中の俺たちが埼玉県にいるのかというと、釣りの帰りに車で迷子になったから。
「こいつらといると、いつもこうだよ!」
ジンが毒づきました。
「そんなの俺のセリフだよ! R君聞いてくれよ。昔俺、コイツらに散々な事されたんだぜ!」
俺はR君に、ジンとトメからされたイタズラの内容を語り始めました。
さっきまで釣りをしていたので、釣りに関する話題です。
俺らが高一の時にさあ、3人でD埠頭に釣りしに行ったんだよ。
立ち入り禁止だったから忍び込んで。
トメが「前回は仕掛けを間違えた。でも今回は完璧だ。100パー(100%の意)、100パー(100%の意)!」とか言っててさ。
トメが一生懸命釣りしてたんだけど、クラゲしか寄ってこないんだあ。
で、トメがイライラしながら場所とか変えても、何故かクラゲだけが着いて来ンの。
俺とジン、飽きちゃってさあ、団子状の魚のエサあるじゃん?
アレをこねて、人間が食う団子のサイズにして遊んでたんだあ。
「空手部の連中を騙して、喰わせてみようぜ」とか言って。
で、結局1匹も魚が釣れなくってさ、自転車で帰ったんだあ。
帰りに俺、「腹減ったからラーメン食べたい」ってわがまま言ったんだよ。
そしたらこいつら「俺は腹減ってねえ」とか「金が勿体ない」とかわがまま言うんだ。
俺、ホント腹減ってたからさー、メチャメチャしつこくラーメン屋に誘ったんだあ。
したら、こいつら凄えスピードでチャリンコ漕いで、遠くに行っちゃうのね?
なんとか追いつくとジンが、「ラーメン喰いたいの? しょうがねえなあ、付き合ってやるよ」とか言い出してさ。
急に態度が変わったから怪しかったんだけど、そん時は「ラーメン食べれる!」って喜んでたんだよ。
で、3人でラーメン屋に入ったんだ。
そのラーメン屋ってのがさ、水がセルフサービスなんだよ。
ラーメンが届くとこいつらに、「お前がラーメン喰おうって誘ったんだから、水ぐらいお前が持ってこいよ」って言われて、仕方ないから3人分の水持って、テーブルに戻ったのね?
したらこの2人、俺のラーメンを凄い勢いで、めっちゃかき混ぜててさあ。
「ったくガキだなあ、こいつら。ラーメンぐちゃぐちゃにかき回されたって、気にもならねえよ」って思いつつ自分のラーメン見たのね?
そしたらさあ、さっき作った「魚のエサ団子」が俺のラーメンに入ってたわけよ。
いっつもそんなことされてたんだぜ、俺。
長い体験談を聞いたR君が、目を見開きました。
「めさ君それ、食べたの!?」
「喰ったよ、嫌だったけど。せっかく作ったラーメンを取り替えてもらうのはラーメン屋さんに対して失礼だったし、入ってた魚のエサは取り除いたし」
トメが当時を思い返し、にやにやとムカつく笑みを浮かべます。
「でもよう、俺たち3人、同じトンコツラーメン頼んだのに、めさのだけが味噌ラーメンみたいに変色してたよな~」
「うるせえ!」
考えられないイタズラを俺はされたわけですが、こんなふうに談笑できるのは正直楽しいものです。
今となっては良き思い出。
俺はコーヒーを飲みながら、懐かしさに浸っていました。
気のせいか、飲んでいるのはコーヒーなのに、あの時のラーメンの味がしました。
思い出すなあ、リアルに。
そうそう、あの時のラーメンも確か、こんな味だった。
ってゆうか、今日も釣りの帰り。
こいつらはあの時と同様、魚のエサを持っている。
あの時と同様、あの団子状のやつだ。
そして、何故に笑いをこらえているのだ、ジンよ!
「ましゃか!」
舌がもつれましたが、間違いありません。
「俺のコーヒーに、またしても魚のエサがァー!!」
気がついて良かった。
全部飲み干した後だがな!
ゲラゲラと両手を叩き、すこぶる笑いやがるジンとトメ。
絶対殺します、このバカどもを!
こうご期待!
きー!