夢見町の史
Let’s どんまい!
August 07
前回の日記でアップした「うろ覚えで語るハイジのあらすじ」をすこぶる気に入った友人が、今度は最後のアダムを語ってくれと頼んできました。
自作品の中でも特に真面目な物語で雰囲気も特殊な最後のアダム。
これを砕けた感じで語るとどうなるのか、やってみました。
雰囲気ぶち壊しですみません。
こんな風になりました。
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なんか地球人たちが滅びかけてから3000年ぐらい経ったあとの話なんだけどね?
その頃の地球はとてもじゃないけど住めない環境だから、みんな地下で暮らしてるわけ。
巨大ダンジョンみたいな?
地下街だ地下街。
文明があった頃に作られたっぽい町だから空調設備とか照明とか整ってんじゃね?
そんな町から誰も出られないから、主人公や町の人たちはぶっちゃけ、生まれてから1回も空とか見たことないの。
日光とか浴びてないから、もうみんな色白。
だから主人公、外にあるってもっぱら噂になってる太陽が見たくてね。
秘密基地的な部屋に篭って、太陽作ろうとすんの。
材料は町の天井から電球をパクるといったわがままっぷり。
主人公の友達でラトってのがいるんだけど、ラトはラトでなんか変なパンみたいのむしゃむしゃ食べてて、全力でゴロゴロしてんの。
主人公がラトに「外を見たい?」って訊くと、ラトは「夜が見たい」とか言い出してさ。
一生懸命に太陽作ってるっつーのに、夜が見たいとかって主人公の努力を全否定。
でも主人公バカだから、友達が「夜が見たい」って言ってんのに、それでも太陽作るの。
太陽っつーか電気スタンド?
売ってねーのかよ、その町。
で、主人公は友達シカトで太陽もどき完成させて、試しに点けてみるのね。
元々は町を照らす用の電球使ってるから、めっちゃ眩しいの。
ラト、目を押さえてのたうち回る。
主人公それ見て何故か高笑いでご満悦。
ちなみにその部屋変だから、床から木が生えてんのね。
ラト、主人公の作った太陽そっちのけで、照らされた木のほうばっか見てんの。
「ねえねえ、みみ、実が成ってる。みみ、実が。ああ、あれ、あれ、食べたい! とと、取って!」
「お前バカじゃん。お前の口調どもりすぎだから読むの面倒臭いし。だいたいなに、お前、感じ悪いんじゃないんですかー。俺がせっかく太陽作ったのに、なんで木の実とかに注目するんですかー。お前は本当に俺の気分を悪くしてくれます」
主人公、めっちゃ器ちっちゃいの。
で、なんかそこで「あー」とか言って落ちる感覚がして、主人公は気を失っちゃうのね。
目が覚めると普通に見たことない世界が広がってんの。
風とか吹いてて、天井がなくって、めちゃめちゃ広いフィールドにいるの。
「意味わかんねえし!」
主人公、即行で大混乱。
なんか上空では太陽が2つもあるし。
「つーかなに、あの光ってる星。あれが本物の太陽なんですかー? じゃあ俺が作ったやつ、スゲー小物じゃん。そんな小物なのに、ラトに『もっと注目しろよ』みたいに怒って俺、マジ恥ずかしいし」
したらめっちゃ綺麗な女の人が主人公のそばにいるのね?
「ここ異世界っす。オメーは何か不思議な現象でこの世界に来ましたよっと」
「マジでー? そかそか異世界かー。外に出ちゃったのかと思ったし。でもそんなわけないもんねー。もしここが外だったら俺、焼け死んでるし。だから異世界って説明のほうが納得ですよ?」
「ちなみにオメーの友達も一緒です。あそこで阿呆みたいに蝶々を追っかけておいでです」
「ホントだー。ラトはホントに能天気屋さん」
女の人はなんか「自分、案内人ですから」とかって適当な理由つけて、主人公たちが元の世界に帰るために一緒に旅するって言って聞かないのね。
それで主人公は「この女ぜってー俺に気があるよー」って思いました。
なんかこの世界、太陽が2つもあるから、なかなか夜にならないんだって。
でも毎日確実に夜になるエリアがあって、そこの塔に登ればいいんだそうです。
女の人が言ってたから間違いない。
旅してると、景色が壮大なのね?
そこは各自想像に励んでください。
あと女の人がめっちゃ物知りで、色々教えてくれるの。
「天使と悪魔は同じ生き物なんですよー。影を刺したら死にますよー」
「普通そんな機会ねえよ」
したらタイミングよく、ラトが短剣とか拾ってくんの。
「けけ、剣もあるよ。けけ、剣。ぼぼ、僕は、ささ、さ、刺さないでね。にー!」
「にーじゃねえよ。にーって一体何なんだよ」
他にも案内人の人、伝説の超デカい樹が1000年に1回だけ実をつけます的なことも言うのね?
「2000年前の実は食べた奴を不老不死にしましたよー。1000年前のは食べた奴の頭を良くしましたよー。その次の実についてはあえてここでは触れません」
「なんなんだよ、オメーはよ」
そうこうしてて、一行はついに夜が来るエリアの塔までたどり着くの。
「この塔登ればクリアっす」
「簡単に言うなよ、バカじゃんオメー。この塔、デカくね?」
その塔、「普通に登ったら高山病になれます」ぐらいスゲー巨大なんだけど、主人公たちは中に入るのね。
で、しばらく登ってたら後ろから着いてきてたはずのラトがいなくなってんの。
主人公がバカみたいに「ラトがいなくなったー。ラトがいなくなったー」ってテンパってんのに、案内人の女、空気読めないから「この扉の向こうが元の世界っす」とか言ってんのね。
「元の世界とかってバカじゃんオメー。ラトが消えましたーって言ってんのー。探さなきゃいけないでしょー?」
「バカじゃんとか言ってお前がバカじゃん。ラトがいないのは、わざとですー。奴がいたらあたしら困るから、魔法的な技使って、わざとラトから逃げたんですー。消えたのはオメーのほうだっつーの」
「はー? 意味わかんねーし! ラトから逃げてどうするんですかー?」
「いいからその扉開けろっつーのー! 展開してけよバーカ!」
ちょっぴり傷ついた主人公が扉を開けると、そこモロに自分らの町なのね?
地下街だ地下街。
女の人が言うの。
「お前はバカだからー、ずっと地下で住んでるって思っていましたよーっと。ホントはこの通り。ご覧ください。オメーの町は地下じゃなくって、上空にあったのでした。お前は今まで嘘ばっかり教え込まれてきたのー」
「オメーバカじゃん! 俺が住んでいたのは地下なんですぅー! こっちの町が偽物でーす! だって人とか誰もいないし!」
「そろそろ空気を読んでください。いやむしろ空気をご覧ください。お前だけが人間で、ここで飼われていたんですよー。もっと言えばー、この世には人間はもう2人しか残っていませんー。オメーとあたしです。あとはみんなオメーの飼い主が作ったフェイクよフェイク」
「フェイクとか言ってバカじゃん! そんなん証拠とかねーし! 俺そんなん信じねーし!」
「お前は本当にバカなんですねー。いい加減気づけよー。だいたいオメーには名前がありません」
「はうあ! 確かに!」
「バカじゃんとか言って今まで気づかなかったお前がバカじゃん! お前はこの町で最初から1人なのー。ソロ活動だったのー。だから名前なんて要らなかったのー」
「俺、今まで生きてきて『ねえ』とか『おい』としか呼ばれたことないけどー、いえいえそれでも俺はバカじゃありませんー。だいたいなんで異世界と俺の町が繋がっちゃってんですかー。おかしいじゃん」
「おかしいのはオメーですよー。お前が旅したのは異世界じゃなくって、外だもん」
「外とか言ってバカじゃんオメー。オメーは知らないだろうけども、外の世界は暑くてたまらないんですぅー!」
「お前のほうがバカじゃん。3000年も経てば汚染とか普通に直ってるしー」
「そんなん知らないもん。だいたい異世界だって最初に言ったのオメーじゃん! やっぱりバカじゃん」
「オメーのほうがバカだっつーのー! オメーのそばにラトがいたから、あたしは嘘ついたんですぅー。ただでさえ騙されつつ育ってきたのに、その上あたしにまで騙されてバカじゃん。お前どんだけお人好し?」
「もー帰るー!」
「もう帰ってきてるんだっつーの。バカじゃん」
いっぱいバカって言われた主人公はさすがに凹んで、すねててくてくと女の人に着いていってね?
見覚えのある部屋に入るの。
主人公が、ぷぷッ!
しゅ、主人公が「太陽だー」とか言って、ぷぷぷッ!
くすくす。
主人公が「太陽だ」とか言って頑張って電気スタンドを作った部屋に到着ですよ。
ふはははは!
したら、木のそばに赤い実が落ちてんのね。
前にラトが見つけたやつが熟れて落ちてんの。
案内人は大喜びですよ。
「あたしぶっちゃけ、これ食べたくてここまで来たんだよね。やっと神の実食べれるよー」
「はー!? オメーバカじゃん。それ神の実じゃねーし! 普通の木の実だし!」
「あははん。いい? ぼうや。これはね? 神の実なの」
「だってオメー言ってたじゃん。神の実はでっかい木に実るってオメー言ってたじゃん! その木のどこが超デカいんですかー! 何基準でデカいとされているんですかー。こんな普通のサイズの木を『巨木です』って、オメーバカじゃん」
「ウザい死ね。いい、ぼうや? この塔がデカい木を削って作られたんですー。この塔イコール伝説の木! オーケー? したがってこれは、1000年に1度実る神の果実なのでしたー! いえーい!」
「もういいよ、もー! 何言っても綺麗に言い返されるよ、もー」
でもそんとき、女の人がいきなり後ろから銃で撃たれちゃうのね。
バキューン!
「あー!」
撃った奴がラトなわけ。
もうラト、どもってなくって普通に喋るの。
「このアマ、余計なことバラしまくり。ホントやだ。なんか語尾にちっちゃいダブリューいっぱい付いてそうな話し方しちゃってさー」
「ラトお前、マジ?」
「何がだよー。っつーか下界、まだ人間生きてたんだなー。この塔で飼ってた奴以外に人間なんてもういねーって思ってたし」
「お前までアレですか? バカなんですか?」
「バカはオメーだし。ちなみにお前の本当の両親も死んでます。お前を産んですぐにアレしておきました」
「はいはい?」
「どいてどいて。その実は俺が食べたいのです。お前を飼って遊ぶのも、もう終わりっぽいのです」
「なんで敬語?」
そしたら、死んだフリしてた案内人の人が立ち上がってね、主人公が作った、ぷぷッ!
しゅ、主人公が作った超小型ポータブル太陽「庶民型」のスイッチを入れちゃうのー!
したら影とかできるわけ。
ラトってぶっちゃけ悪魔だから、影を刺されたらお亡くなりになるのね。
で、主人公が前にもらった短剣で、ラトの影を刺しちゃうの。
ラト、主人公のことめちゃめちゃバカじゃんバカじゃん言ってたけど、自分で剣とか渡しちゃってて、こいつもバカでしたー!
ぐさ!
「あー!」
でも主人公、自分でやっといて、めっちゃラトに「刺してごめんちょ」って謝る謝る。
だったら最初から刺すなよ、みたいな。
「俺は刺すな的なこと言っといたのにさー」
ラトによる死ぬ前の愚痴。
「その実はな? 食べた奴を死なす効果があるわけ。オメーが食べたって普通に死ぬだけなんですよ。一方俺様は死んでも記憶持ったまま生まれ変わっちゃうから、それが嫌で実を食べたかったんですよ。俺の場合だと実を食べたら無になれちゃいますから」
「なんで敬語!? ラトォーッ!」
はい。
ラト、脱落。
で、主人公はご乱心で実を拾って、がつがつ召し上がっちゃうのね。
女の人は、さすがに気の毒ってゆうか、主人公の乱れっぷりに引いて、黙って見てます。
女の人は昔、不死の実と知恵の実、両方食べてた人なのね。
だから色々知ってるし、撃たれても死なないの。
で、いい加減生きすぎたから「あたしも死ぬ実を超食べてしまいてえ」とか考えてたわけ。
で、科学とか使って、実が落ちたときにキャッチできるように、木の根元に穴を開けたのよ。
そこに実が落ちれば、遠くにいても女の人んとこに実がワープするわけ。
でも落ちてきたのは主人公とラトでしたー。
がっかりですよ。
もう穴とか開けられないっぽいから、女の人は案内するフリして、直接実を食べに来たってわけ。
ちなみに2つあった太陽なんだけど、片方は木星が発熱したものです。
何故かは知りません。
おやおや。
そうこう俺が語ってる間に、主人公が召されましたよ。
女の人も残りの実を拾って食べちゃいます。
と、いう夢をアダムは見ていました。
ここはエデンの園で、アダムがイヴに起こされるの。
イヴの前世はめっちゃ未来人。
軽く時空が乱れてます。
勘のいい人は解るでしょうけれど、案内人の女とイヴは同一人物なのね。
魂的に。
名前がなかった主人公はというと、めっちゃ過去に魂が行って、アダムに生まれ変わっちゃってんの。
「なんかもの凄くバカって言い合う夢を見ていたぜ」
「それよりアダム、あたしは知恵の実食べたから、お前も喰え」
「マジかよオメーよー! それだけは喰うなって神様的な存在から言われてんじゃねえかよー」
「蛇にそそのかされた。お前も喰え」
「その蛇ってぶっちゃけラトだよ、もー! 解った解った、食べるよもー!」
こうして歴史は繰り返されるのでした。
ちゃんちゃん。
…こんな軽い話じゃないはずなんだけど…。
ちなみに本当はこんな雰囲気です。
August 03
ハイジファンの方、ごめんなさい。
何故か友人に「ハイジの話をしてくれ」と頼まれたので無理矢理話をしたら、下記のような感じになってしまいました。
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アルプスのどっか山奥でおじいちゃんと、ハイジって呼ばれる少女と、ヤギと、あとそうだ。
ピーターが住んでいました。
どうしてそんな不便な場所から引っ越さないかというと、確かおじいちゃんの借金が凄い状態だったから町から逃げてきたのです。
おじいちゃんはヤギのミルクとか羊の毛を売って生計を立てていました。
毛を刈るときの羊はまるで断末魔の悲鳴みたいな声を出すので目も当てられません。
「やめてください! やめてください! 乱暴にしないで! えーん、お母さ~ん!」
「ぎゃあぎゃあ喚くんじゃねえ。黙って毛をよこせ、この草食動物が。へっへっへ。こいつァいい毛だ。ウール100%じゃねえか」
羊は泣き寝入りです。
でも町に行くと即行でお金を取られてしまうので、おじいちゃんも泣き寝入りです。
家計はいつでも火の車。
でも、ハイジとピーターとヤギは毎日めっちゃ遊び回りました。
ハイジはもの凄い速度のブランコを乗りこなすまでになっています。
あとベタに草原で追いかけっことかしてたような気がしませんか?
訊ねてどうする。
たまにおじいちゃんの手伝いとかもするのですが、ハイジはおばかさんだからミルクを煮込むだけの作業すらままなりません。
鍋の中を混ぜるだけでいいのに、どうして失敗してしまうのでしょうか。
おじいちゃんに鍋の掃除という過酷な試練を与えたりしていました。
ちなみにロッテンマイヤーさんについては一切触れる予定はありません。
何1つ覚えていないからです。
あとヤギの乳が出なくなって、それでヤギを売り飛ばすって話になって、でもそんなのハイジは嫌だから、ピーターと一緒になって薬草っぽいそこら辺の草とかをヤギに喰わせ、力技でヤギのミルク生産機能を蘇らせたりしていました。
ハイジが下界の町でホームステイをしたときは、部屋のタンスに大量のパンを隠して、それでめちゃくちゃに怒られ、凄い勢いでおじいちゃんの家に戻されたりとトラブルの連続です。
タンスにパンって、ハイジはパンを一体何だと思っているのでしょうか。
アルプスの風習?
でもそのシーンは確かにありました。
ちなみにヤギの名前はユキちゃんです。
そんな折り、車椅子に乗ったセレブっぽい女の子がハイジたちの縄張りに転校してきました。
そこは普通に舗装されていない山の中だから車椅子では大変です。
帰りは下りだから、ブレーキが利かなかったら天に召されます。
そもそもクララはどうやって車椅子で山を登ってきたのでしょうか。
とんでもない腕力です。
「さすがに不便だわ」
そう思ったクララは、車椅子からスッと立ち上がります。
ぱんぱかぱーん。
それを見てクララたちは、じゃないかった。
ハイジたちは大喜び。
「クララが立った! クララが立ったー!」
優勝した球団ぐらいテンションが上がって、みんなもの凄く喜びました。
ちなみにピーターは羊飼いで、様々な羊を自分の意のままに操ります。
しかも複数。
たいしたもんです。
めでたし。
…なんか違う気がする。
※追記。
ピーターじゃなくて、ペーターでした。
July 31
もし前回のラウンド2を読んで「やりすぎじゃね?」と感じられた方は、今回のは読んじゃダメです。
過去最大の、それこそ最終決戦です。
友達からは聖戦扱いをされました。
そもそも俺とトメは互いに腹を立てたわけでもないのに、どうしてマジ決闘などするのでしょうか。
まあ当時は「怪我をするけどゲームと一緒」みたいな感覚ではありました。
だからまあ、読まなくっていいんですけれど、もし読んじゃったら「ギャグ漫画のあらすじか何かだろう」と思ってやってください。
でも実話。
さて、俺もトメも 23歳になりました。
2人で飲んだ後、ラーメン屋で食事をしています。
空手の話題で盛り上がる一時。
「なあトメ。そろそろさ、ホントに決着つけねえ?」
「ん~? いいぜ? まだ寒いから、3ヶ月後にしようぜ~」
「そうだな。それまで走り込んで、体力取り戻しておくか」
夏の対決が決定。
「どこでやる? 学校使わせてもらうと、また先生が危ない危ないってうるさいぜ?」
「どっか別の場所でも借りようぜ~」
こうして俺達は、近所のK公園で対決することにしました。
どこも借りられなかったのです。
この頃になると俺もトメも、もう前回ほどギラギラしてはいません。
「一応、グローブだけ装着しようか」
ちょっと甘いことを言い出す俺。
「おう。いいぜ」
トメは恰好良く即答していました。
どうせどう頑張っても、結果的にトメは倒せないといった嫌な予感が、俺の頭から離れません。
それでも取り合えず、俺はトメの父上に土下座で、「あなたの息子さんを殺したのは俺です!」と謝るイメージトレーニングを無理矢理しておきました。
トメはトメで、前回の勝負がよほどショックだったらしく、
「人間は俺が思っている以上に、倒れねえ生き物なのかも知れねえ」
いくら殴っても倒れない奴と戦う悪夢にうなされたと文句を言っていました。
10年来の友人から、まさかのトラウマ扱いです。
「おう、めさ?」
対決の日取りを決めるために、トメが電話をよこしてきました。
適当にヒマな日を選びます。
「ところでめさ、道着で来る?」
「いや? さすがに場所が公園だから、ジャージ買っといたけど」
「オメー、何考えてんだよ~。俺達の決闘はいつも道着だったじゃねえかよ~。公園だろうが関係ねえ。俺は道着で行くぜ」
男らしいトメの言葉に、俺は熱い男気を感じ、嬉しくなりました。
「そうだな! お前とやる時はいつも道着だったもんな! 確かにそうだ! 目が覚めたよ! 俺も道着で行く!」
決闘当日になると、話を聞きつけた友人らが見物しにK公園に揃います。
最初にやって来たのは、やはり中学からの悪友、ジンでした。
「普通の友達が欲しい」
ジンの第一声がこれです。
「道着姿で公園で待ったりとか、ケンカしてる訳でもないのに友達と本気で殴り合う奴なんかでなくて、俺は普通の友達が欲しい」
「だって、トメも道着で来るって言うんだもん。俺たちの正装は道着なんだよ」
「だからってお前、あれ?」
ジンが駐車場の方角を指差します。
「あのタチ悪そうなの、トメじゃねえ?」
ジンの視線を追うと、そこにはダルそうな歩き方でこっちに近づくトメの姿が。
俺は、見間違いかと思って、何度も何度も目を擦りました。
トメは、白いジャージを着ていました。
「トメお前! 道着じゃ!?」
「あん? おいおい、やンめてくれよな~めさ。公園で変な格好すンなよ~」
ハメられた!
なんでもアリのルールとはいえ、いきなり心を傷つけられるとは想定外だ!
つい今しがたの俺のセリフを返せ!
ちょっとカッコつけてジンに放った言葉を取り戻したい!
「俺たちの正装は道着なんだよ」
それがどうだ。
トメ曰く「変な格好すンなよ~」ときた。
トメだって男らしく言ってたじゃん。
「公園だろうが関係ねえ。俺は道着で行くぜ」
果てしなくジャージじゃん。
「果てしなくジャージじゃーん!」
涙目でトメを見ました。
ひとしきり友人たちが笑い転げたあと、俺はいよいよトメにグローブを手渡します。
「ほらよ。お前の分だ」
いよいよ対決の時が迫っている、そんな雰囲気を誰もが感じました。
笑い声が止まります。
しかし、トメの心境はこんな感じです。
「対決はやっぱ今度にしてえなあ。めさが面白い格好してきやがるから、やる気なくしたよ~」
一方、俺の心境はこうです。
「ああ嫌だ。恥ずかしいったらありゃしない。俺だけ道着って、どういうことだ。みんなもいるし、このままカラオケにでも行ってしまいたい」
双方やる気なし。
それでも、集まった友人達は、俺とトメの殺し合いを楽しみにしておいでです。
対決するなんて、こいつらに教えるんじゃなかった…。
そうすれば、トメには「今日はやっぱ飲みに行こうか」って言えたのに…。
お互い、やる気がないのは初めてのことでした。
相手の怖さを、さすがに知ってしまっているからです。
それでも、俺達は公園の特に広いエリアに場所を移しました。
「ここら辺でいいかな」
「あ~。いいんじゃねえ? じゃあやるかあ」
「ズルい! クツを脱げトメ! 俺だって素足なんだから!」
「マジかよ~。今日のために買ったのによ~」
「俺だってジャージを買っといた! 誰かが道着で来るって言わなければ、俺だってジャージで来てた!」
まずは軽く口喧嘩。
気持ちウォーミングアップです。
「じゃあ、いい加減とっとと始めよう。早く終わらせて、ごはん食べたい」
言って、俺はジンに合図を頼みました。
「始め」
ようやく戦闘開始です。
俺のイメージトレーニングの中では、トメは速攻で無残で切ない姿になる予定でした。
ところが、彼の構えを見て全てを悟ります。
「駄目だこりゃ。こんなのすぐに倒せねえや」
ただでさえ隙を見せない上に、いつの間にかガタイが良くなっていらっしゃるトメ。
軽量級の俺とは、およそ10キロの体重差がありました。
足場は雑草だらけ。
凸凹だらけです。
これでは素早い移動が難しく、得意のフットワークも使えません。
「今回はちょっと不利だなあ」
それでも、殺気を放って相手を牽制します。
気圧されたトメは、簡単には攻めてきませんでした。
しばらく、どちらも動けずにいます。
「なんでどっちも動かないの?」
見物していた友人の1人が、そうジンに言ったのだそうです。
「お前はバカだ。動かないんじゃねえ。動けねえンだ。2人を囲む闘気の輪が見えねえのか?」
格闘漫画の解説キャラみたいなセリフを返す、素人のジン。
まるで「今にめさの手からビームが出るぞ」とか言い出しそうです。
恥ずかしい。
けどまあ、闘気の輪というのは間違った表現ではありません。
両者はじりじりと、ほんのわずかにだけしか動かないので、遠目には止まって見えたことでしょう。
俺とトメの間を、犬の散歩をしているおじちゃんが横切りました。
※嘘です。
俺のテリトリーとトメのテリトリーは球状に展開し、その球が相手の球に触れました。
当たり判定は、ミリ単位です。
テリトリーを侵されたトメが、俺に襲いかかりました。
この球同士が触れるかどうかの微妙な距離を、互いはずっと探り合っていたのです。
俺は近眼で、相手のパンチなんて良く見えません。
動体視力も悪いです。
しかし、攻撃をよけられないわけではありません。
相手の雰囲気、わずかな挙動、ちょっとした仕草から、次の攻撃が判るのです。
タイミングを合わせれば、ガードするなりよけるなり、カウンターを取るなり好き放題。
トメが右拳を下げました。
ガードが早過ぎてもいけません。
攻撃を読んでいたことがバレて、警戒されるからです。
今だ!
トメのパンチの軌道を読んで、俺はガードを上げました。
完璧だ!
ズガン!
な?
喰らっただろ?
インパクトの瞬間も判っていたので、俺は咄嗟に顔を回転させ、衝撃を逃しました。
でもおかしいぞ?
どうしてパンチが顔に達した?
思い返せば、トメのパンチはよく、相手のガードをすり抜けて打撃を与えます。
まさか、もしかして…。
トメの再びの攻撃。
タイミングを合わせてガード。
ガードした瞬間に、俺からも突きをカウンターで入れてやる!
ズゴン!
な?
また俺が喰らっただろ?
いや、間違いない。
トメは攻撃の瞬間、全てがスローに見えていやがる!
突きを放つ一瞬でさえ、状況に合わせてパンチの軌道を変えていやがる。
こりゃよける努力も無駄に終わる。
よけても、またパンチの軌道が変わって、結局は顔に入る。
鋭い動作も、この足場だと無理だ。
パンチが届くまでのギリギリまで待ったとしても、
バキッ!
ほーら、間に合わなかっただろ?
さらに、トメが地面を蹴りました。
空中で回転しながら、背面からカカトを放ってきます。
右のソバット!
俺は両腕を揃え、顔の高さまで上げました。
トメのカカトが、その両腕を直撃します。
同時に、その強い衝撃に俺の上半身はのぞけりました。
前回の俺は、こんなん喰らってたのか。
なるほど、俺が倒れないことを不思議に思ってたわけだ。
腕が折れるかと思ったぜ。
俺は体勢をすぐに立て直し、着地した瞬間のトメの顔を蹴りにかかります。
雑草が舞いました。
足には確かな手応えを感じましたが、当たったのは顔ではなく、奴の上げた腕でした。
俺の心境は「ちッ! そう簡単にはいかねえか」
トメの心境は「なんでこいつ、口から血ィ流しながらピンピンしてんだよ~」
ちょっと面倒に思っています。
さて、最初に思った通り、やはりスピードが出せない俺が不利な展開になっています。
この時点で、血とかも結構出ていました。
このままいけば、俺は倒されてしまうでしょう。
しかし、前回の対決の時に、学んだこともありました。
トメは殺気に敏感だ。
これでも喰らいやがれ!
焚き火にガソリンを撒いたような勢いで、俺は闘気を放出しました。
温度を出さない、見えない炎に、トメが後ろに下がります。
じり。
半歩にじり寄ると、トメは同じ距離だけ下がりました。
「もう疲れたから、帰ろうぜ~」
トメのアイコンタクトをシカト。
さらに近づきます。
じりじりと移動を繰り返して、トメは広い公園の、端まで追いやられていきます。
俺は内心、にやりと笑みます。
「まだまだイケるぜ!」
さらなる殺気を放ちました。
トメが警戒の表情を濃くします。
今だ!
それまで放っていた殺気を、俺は一瞬でピタリと消し去りました。
そして、右ストレート一閃。
トメの頭部が後ろに吹っ飛びました。
それまでの大量の殺気は威嚇ではなく、全てがこの1発に賭けたフェイントだったのです。
反撃に転じようとしたトメに、俺は再び刺すような殺気を大量に、ド派手に放出しました。
するとトメは嫌な気配を察し、攻撃を思い留まります。
殺気に敏感なトメだからこそ、殺気によってこいつの動きを封じられます。
奴はきっと、「今攻撃したら、なんだか解らんけど、なんかやべえ」とでも思っているのでしょう。
そして殺気を消してやりさえすれば、
ゴッ!
奴の脳からアドレナリンが出ないせいで、俺の突きがスローに見られることもありません。
しかし、お互い1発入れるだけにも結構な苦労をしています。
トメは雑草の根にカカトを乗せて、いつでも動ける体勢を密かに作り、今までにない鋭い突きを俺に喰らわせたりしました。
10分か、もしかしたら15分も経っていたかも知れません。
俺達がやっていた流派の空手は、他の武道よりもさらに腰を落として行動します。
普通に空気椅子みたいな状態で戦うので、体力がなくなりつつある23歳達は、やがて腕さえも上がらない可哀想なことに。
俺は殺気の他にテレパシーも放ちました。
「隊長! 自分は体力がないであります!」
トメの心の声も丸聞こえです。
「これ以上、今の俺達に何ができるんだよ~」
再びトメが「もうどうでも良くねえ?」と、目で言ってきました。
そうだね。
このままやってたら、怪我しちゃうしね。
※もう手遅れです。
「おいトメ、まだ動けるか?」
「おう。もちろん動けねえぜ?」
「やめよっか?」
「おう」
それで2人で、その場に大の字書いて、ばたりと倒れました。
結局、ダメージではなく、体力がないせいで倒れてしまいました。
もちろん勝敗は引き分け。
まんべんなく情けない。
起き上がって、俺はトメに声をかけました。
「メシでも喰いに行こうかー!」
これにて、皆様から引かれることを覚悟してリメイクしたマジ勝負シリーズは完結です。
ラウンド4はありません。
もしかしたらやるかも知れないとか思い、俺は一応抜き手を会得したりもしましたが、やはり両者は戦闘を避けています。
「めさとやると、自信なくすよ~」
「俺だって、もうお前とはやらん! ジャージ着て来るし!」
血だらけのままデニーズ行って、文句を言い合いました。
「見てみろよトメ! 俺の顔、もう腫れてるー! 人間って、こういう色に変色するんだなあ」
「おう、見たことねえ色になってンぞ、オメーよ~」
「あっはっは! ってゆうか、笑うと肋骨に響く! この感じは、ああ。ヒビが入ってるね」
「ンああああッ!」
「どうした?」
「ケチャップが持てねえ!」
「なんで?」
「後輩とやる時のクセで、めさの蹴りを片手で防いだからだよ~。ヒジから変な音聞こえたもんよー」
「だからお前、中盤以降は左手使わなかったんだ!?」
「がはははは!」
「普通の友達が欲しい…」
お客さん達がちらちらと、血に染まった白いジャージと道着の男を見ていました。
後日談。
勝負の夜、布団で横になったら鼻血が出た!
トメからの蹴りをよける際、顔を引いたら鼻だけが間に合わず、かすったからだ!
後から鼻血が出たのは初めてだ!
そして半年後、雨の日に寝ていても鼻血が出た!
後遺症だ間違いない!
他にも色んな細胞が駄目になったのが解る!
頬骨を押したら「ぐじゅ」って変な音がした!
肋骨のヒビのせいでくしゃみも安心してできない、大変な目に!
ホントもう戦いません!
ごめんなさい!
こんなの読んで、楽しんで頂けていれば良いのですが、どうなんだろう、マジで。
「うわあ…!」って思っちゃった方、本当にすみませんでした!
これからは、いつも通りの楽しいエピソードを紹介させて頂きます。
良い子の皆さん、俺とトメの真似はしないで下さいね。
――了――
July 30
回を重ねる毎に戦い、というか怪我が派手になっていくからです。
なんていうか、ある意味18禁です。
最初のエピソードでは奥歯が欠けたぐらいで済みましたけれど、今回は試合終了後、徒歩で移動ができない感じになってしまいます。
一応アップはするけども、忠告したかんね!
さて。
前回のラウンド1からおよそ1年後の夏。
俺とトメは、神奈川県は三浦半島まで来ていました。
夏合宿でコーチをやってくれと、再びK先生が声をかけてくださったのです。
「先生、あのですね、お願いがあるんですけど」
俺の言葉に、K先生は「ん?」という顔をします。
「トメと決着をつけたいんですよ。俺とトメの勝負の時間、作って頂いてもいいですかね?」
もちろんトメも戦う気満々で、必殺技を用意したなどとほざいていやがります。
それを聞いた先生は、「練習時間を割くのは構わない」とおっしゃってくださいました。
「私は審判をやればいいの?」
「いえ、最初のスタートの合図だけお願いします」
「というと、どういうルール?」
「どっちかが倒れるまで、戦い続けるって感じですね」
天下一武道会?
そう言いたげに、先生は目を丸くしました。
「防具は?」
「要りません。そんなのつけてたら、喰らわんでいい攻撃まで喰らってしまいます」
「でもそれだと、さすがに危険でしょ!?」
「できれば、グローブも外したいぐらいです。大丈夫です」
何が大丈夫なのでしょうか。
K先生は、副顧問のS先生と相談し始めました。
「いくらなんでも、危険では」
「いやいや、本人達がやりたがってるんだから、やらせてあげましょうよ」
「じゃあ、せめてラウンド制にして、3ラウンドだけっていう形に」
「そうですね。それでも危ないようだったら、止めに入りましょう」
結果、グローブ着用、防具なしの倒し合い。
時間は2分間の3ラウンド、またはどちらかが倒れるまで。
何をしても反則は取らないという、即興のルールが決定しました。
ルールがある時点で気に入らないけども、とにかくこれでトメと決着がつけられます。
合宿の最終日、試合コートの向こうには、ドス黒いオーラを立ち昇らせるトメの姿がありました。
相変わらず魔王みたいな気配です。
足場は道場のような木の床ではなく、教室などに使われるような固いタイル。
それだけでも、双方が無事には済まない予感がします。
「勝負、始め!」
両者の瞳が熱く、残酷に光りました。
勝負開始早々、またトメが変なことをしました。
何故かジャンプをし、宙に舞ったのです。
はしゃぎたい年頃なのでしょうか。
それでも、あまり良い予感がしなかったので、俺はバックステップで距離を取ります。
ぶおん!
トメは背面からカカトを振り回す形で、空気を混ぜました。
これはソバットという足技です。
空中での、腰を入れた後ろ回し蹴り――。
てめえはテレビゲームか!
どうやら、これがトメの新しい必殺技なのでしょう。
着地したトメが、「どうだ?」というような顔をしました。
どうもこうも、こんな派手な技が通じるか!
素人じゃないんだから!
しかも会得したばかりだからか、どこか不恰好だし、なんかガッカリだ。
なんの工夫もなしに大砲打ちやがって、当たると思っているのでしょうか。
俺は前傾姿勢になり、奴の足をへし折るつもりでローキックを連発します。
高校生の頃は、正式な大会で禁じられているので使えなかったローキック。
この攻撃を受けた経験は、トメにはないはずです。
奴の足を破壊し、動けなくしてしまえば俺の勝ちだ!
ふはははは!
ただ、蹴りで人の足を折るには、自分の足が折れても構わないという覚悟と勢いが必要です。
したがって、俺は自分の足とトメの足を引き替えにするイメージがありました。
今にして思うと、俺もどうかしていました。
トメの足を壊せる頃には、自分の足も駄目になってるに決まってんじゃない。
足を足で狙う俺と、たまに宙に舞うトメは、なんか楽しそうに、それでいてピヨピヨと必死こいておいででした。
「やめ!」
1ラウンド目が終了。
1分の休息の後、2ラウンド目が始まります。
びしびし!
ぶおッ!
殴る蹴るを織り交ぜながらも、基本的な展開は1ラウンド目と同様でした。
俺はトメの太股の、内側も外側も蹴りまくります。
奴はインパクトの瞬間、たまに足に手を沿えて衝撃を和らげていましたが、その程度で防げる程度の打撃ではありません。
トメは相変わらず、たまにぴょんぴょん跳ねて、頑張って空気を蹴っておいででした。
やる気はあるのでしょうか。
この調子なら、3ラウンド目あたりで、トメの足の破壊は完了するな。
そう思って、俺は嬉しくなりました。
※その頃には、めさの足の破滅も完了しています。
大根で大根を折ろうという発想のバカと空気を蹴るのが大好きなバカは、それでも大真面目な形相で頑張っておいででした。
そして、最終ラウンド。
トメに接近した時に何かが起こり、俺は吹っ飛び、体勢を崩しました。
しかし見ると、トメはもっと体勢を崩しています。
奴はこちらに背を向けて、地面に手をついていました。
大チャンス!
よく解らない原因で飛ばされていた体を立て直し、俺はトメに走り寄りました。
拳に全ての気を集結させます。
このまま後頭部を殴りつけ、固い地面に顔面を叩きつけてやる!
本気の下段突きを、それも後頭部に向かって突き下ろしました。
今なら病院で済むぜ!
ズギャッ!
トメは後ろ向きのままなのに、首を傾げるような動作で、俺の突きをよけやがりました。
エスパーかお前は!
同時に、右手の小指に激痛が走ります。
どうやら、トメが動いたせいで、小指だけで頭を殴ってしまったようです。
小指がイッた!
鋭い動作で体勢を整えるトメ。
「やめ!」
しばらくして、先生の声が響きます。
どうやら、また引き分けてしまったようです。
どっちも倒れはしませんでした。
それが悔しくて、さっさと退場しようとすると、
「握手ぐらいしなさい」
K先生が言いました。
コート中央に戻り、トメの右手を握ります。
心の中で、俺は敬語で叫びました。
「おああああ! 小指がッ! 俺の小指がーッ! トメさん、あんまり握らないでください」
試合が終わると、痛みも感じます。
心の中で、密かにのた打ち回りました。
改めて、俺は皆の意見を求めます。
「どっちが勝ってました?」
「引き分けにしか見えん」
「それより、めさ先輩、顎は大丈夫なんですか?」
「そうだ。大丈夫かめさ? 顎は」
小指を自己診察し、骨に異常がないことを確かめながら聞いていると、後輩やら先生やらが心配してくれました。
でも、何故に顎を?
俺は小指が心配なのに。
しかし、さらにトメや皆からの話を聞いて、俺はある事実を知るに至りました。
トメの供述を、次に記しておきます。
勝負が始まったからよ~、苦手な左のソバットを見せて、めさを油断させたんだあ。
おう。
本当は逆回りの、右のソバットが本命だったんだよ~。
※トメのソバットがどこか不恰好に見えたのは、わざと不得手な左回りで蹴っていたからでした。
んでさあ、3ラウンド目が始まったから、そろそろいいかと思ってよ~。
お前が攻めてきた時に、こうフェイントで殴るフリして、お前が顔を引いてよけようとした瞬間に、右のソバットをカウンターで入れてやったんだよ~。
バッチリの手応えだったし、顎に入れてやったからよ~、勝ったと思って、着地に失敗したけど安心してコケてたよ~。
※俺の体が吹っ飛び、トメがしゃがんでいたのは、そのためでした。
あまりに見事にジャストミートしたから、「今頃、めさは泡吹いて倒れてンだろうなあ~」って確信してさあ~、のんびり立ち上がろうと思ってたのによ~。
何故か、今まで感じたことねえぐらいデカい殺気が背後から迫ってきやがるからさあ~、スゲー不思議に思ったよ~。
めさは泡吹いて倒れてるはずだったから、殺気の持ち主が誰だか解らなかったよ~。
※俺です。
で、「なんだか解んねえけど、とにかくやべえ!」って思って、こう首を曲げたらさあ、スゲー勢いの拳が俺の顔の左側から突き出てきやがってよ~。
なんでお前、無事なんだよ~。
※なんでよけれたのかを、逆に問い正したいです。
とにかく話を総合すると、俺はトメの大技をモロに喰らっていたのでした。
あんなに派手な技を喰らう奴は恥ずかしいと思っていながら、ものの見事に喰らっていました。
誰が見ても、「めさが入院する」と思われるほど、その直撃は凄まじかったのだそうです。
「お前、覚えてねえのかよ~?」
トメが不満そうに言いました。
「うん。覚えてないってゆうか、解ってない。今も顎にダメージ感じてないし」
「おかしいと思ってたんだよな~」
「なにが?」
「お前殴っても、いつも痛そうな顔しねえからよ~」
「だって痛くねえんだもん」
「後輩がパタパタ倒れる時の俺の突き、半分程度の力なんだぜ~?」
「後輩は倒すな。ってゆうか、そうだったの? 手加減が下手なだけかと思ってた。俺ン時は?」
「100%だよ~」
自分の取り柄は素早さだと思っていたのに、実は打たれ強さが売りでした。
それはそれでショック。
「そっかあ。俺って鈍感な人だったんだあ。なんか切なくなっちゃったよ。でもお前、後頭部への突き、よくよけたよなあ」
「あれだけの殺気だったら、寝ててもよけるよ~」
「そうか。今度から、ああいう時は殺気を消すように気をつけるよ」
こうして俺達は再び、からからと笑い合いました。
笑っていられなくなるのは、次からです。
合宿も終わり、解散するとき。
整列して正座し、礼を終えた後です。
「それでは、解散!」
K先生が声を張りました。
俺も声を張ります。
「足が痛くて立てなぁい」
トメも騒ぎ始めました。
「あああああッ! 足があッ! 足があッ! なんで俺がこんな目に!」
自分の足を犠牲にする覚悟で、俺はトメの足を狙いました。
おかげで俺のスネの皮膚は潰れ、擦り減って出血し、スネ毛が生えるのに4年ほどかかりました。
その頑張りの甲斐あって、俺達は困ったことに。
歩けない。
でも、トメも歩けてない。
作戦成功だ。
そんな作戦立てたことは失敗だけれども。
「おうトメ、早えよ。もっとゆっくり歩けよ」
「ここまでスローモーションで歩いてんのにかよ~」
そんな俺達を、どっかのおばあちゃんが追い越しました。
帰り道のコンビニに寄る際、車から降りるためにドアを開けたはいいけれど、ちっとも動けないので「車内の空気を全力で入れ替えています」みたいな光景になっていました。
まともに歩けるようになるのに、3日かかりました。
失敗失敗。
ちなみに後日談なんですけれど、俺の小指はやっぱり折れていたみたいです。
骨は大丈夫って勝手に思っていたのですけれど、がっつり折れておいででした。
だけど気づいていなかったので病院には行かず、そのまま骨は変な形のままくっつき、今では右手の小指がおかしな角度です。
失敗失敗。
次回予告。
先生に立ち会い人をやってもらうと、「防具を着けろ」とか「ラウンド制にしろ」とかうるさいから、公園でこそこそやることに!
でも、この頃になると、そろそろお互い相手が怖い!
本当は決闘なんてやめて、みんなでカラオケにでも行きたい!
今までで1番ボコボコになるから、ホント笑って頂けるのか解りません!
ホントごめんなさい!
もう2度とお前とはやらねえと、お互いが指を差し合ったトメVSめさ・ラウンド3「もうお前とはやりません」カミングスーン!
ホント皆様の反応が心配です。
冒険しようと思ったの。
ごめんなさい。
みんなが引いていませんように!
続く。
July 30
これから始まる3部作は、ぶっちゃけアップするのが怖いです。
何故なら空手のライバルでもある悪友トメと「将棋でも打とうぜ」的なノリでマジ決闘をしたといった内容だからです。
昔、サイトでアップしたことがあるのですが、賛否両論。
女性読者さんの多くはドン引きでした。
でも、友達が「アップしてくれ」ってたくさん言うからリメイクすることに。
内容がマジ決闘なだけに、血が出たりします。
痛々しい描写や暴力シーンのオンパレードです。
そういうのが苦手な方は、今回のお話は華麗にスルーしてください。
いやマジでお願いします。
ちょっと大丈夫であってもスルーしちゃっていいです。
初めてです。
読むなって書いたの。
でもホント痛々しいエピソードですから、今回はお控えください。
ああもう、ここまで言ってるのにまだ読みますか。
どうなっても知らないかんね!
そもそも悪友のトメと俺は高校時代、一緒に空手道部に所属していました。
現役だった当時は黄金期で、俺達の代からポツポツと大会で表彰されるなどし始め、中でもトメと俺は特に優秀な戦績を残すに至っていました。
最初から強かったトメ、コツを知って戦闘に目覚めた俺は、同期の主将を簡単に置き去りにし、他校の空手家からも一目置かれるようになっていたのです。
「おうトメ、組手やろうぜ」
「いいよ俺はよ~。だってお前とやると、本気出さねえといけねンだもんよ~」
※発言だけを見ると強そうですが、どっちも8対2の割合でMです。
そんなトメと俺は「殺すつもりでどつき合う」といった、他ではできないコミュニケーションを定期的に楽しんでいました。
やり合う度に引き分けるので、いい加減どっちが強いのか白黒つけたいといった物騒な願望もありました。
トメのパワーが勝つのか、俺のスピードが勝つのか――。
今回から3部に渡り、彼と俺との格闘の模様を嫌でもお届けしたいと思います。
※何度も言いますが、当シリーズには、グロテスクな描写や暴力シーンが含まれています。
あれは確か、俺達が20歳の頃でした。
「もしもし、めさ? ちょっとお願いがあるんだけど」
前触れなく、空手道部顧問のK先生が電話をくれました。
「はい、どうしたんすか?」
「実はもうすぐ文化祭で、また空手の演舞をやることになってんだけど、イマイチね、今の現役が物足りないのよ」
お!
と思いました。
また空手ができる!
普段はコーチという形で、たまに学校を訪れて練習に励んでいましたけれど、試合をするのは2年振りです。
「そこで悪いとは思うんだけど、めさちょっと、トメと一緒に文化祭に出てくれない? OBが特別参加するって、学校には言っとくから」
「ホントすか! マジモードでやってもいいんですか!?」
「遠慮なくやっちゃいなさい」
「やったー!」
組手とヌンチャクを披露してほしいと依頼された俺は、「トメには俺から電話しときますよ」と告げて、電話を切りました。
ちなみに空手とヌンチャクは関係ありません。
ヌンチャクは少林寺の武器です。
でも何故か、うちでは演舞させられます。
「卒業以来だなあ、お前とやるのは」
文化祭当日。
寝不足の目を擦りながら、俺は運転席のトメに言いました。
わくわくし過ぎて、一睡もできなかったのです。
正式な大会ではなく、演舞という形でしたが、俺もトメも考えることは一緒でした。
今日こそ息の根を止めてやる。
お互いのイメージの中では、相手がかなり可哀想なことになっています。
「ちっとコンビニ寄ってくわ~」
トメが車を停めました。
「おう。あ、そうだトメ! ついでに何か栄養ドリンク買ってきて! 眠気覚ましてえ」
俺はトメに1000円札を手渡しました。
「ほらよ。買ってきたぜ」
濃密で高価な栄養ドリンクが飲みたかったのに、トメは何故かタフマンを5本も買ってきやがりました。
「なんで質より量なんだよ! テメーも飲め!」
タフマンの1番安いやつを2人でガブ飲み。
「お! 効いてきた!」
気のせいを喜びながら、俺達はK高校に向かいました。
演舞は昼にやる予定でしたが、朝方にも出番があります。
朝礼代わりに、各出し物を紹介する時間が割り振られていたのです。
全校生徒の前で、トメと一緒に軽くヌンチャクを振り回して、その後軽く殴り合い――。
前座を頑張った後輩に対して、「私も突いてー!」とか「強そーう!」などとうるさかったギャルたちをオーラで黙らせました。
「いよいよ本番だなあ」
何故か後輩まで黙っていましたが、俺もトメも、もうわくわくです。
「おう。めさオメー、死ぬなよ?」
「それ、これから死ぬ奴のセリフじゃねえぞ」
後輩達が、どっかに行きました。
空手といっても流派がまちまちです。
俺達がやっていた空手は、高校生が部活動をするという名目もあって、寸止めが義務づけられていて、さらに事故を未然に防ぐための防具も着用しなければなりません。
俺とトメは、寸止めも防具も嫌いでした。
でももう卒業しちゃったし、大会に出ることもないから、怪我をしてもいいのだ。
「それでは、本日のメインイベントです。最後に、特別ゲストである卒業生に立ち会って頂きます!」
マイクを通してK先生が宣言し、俺とトメは舞台に立ち、観客達に頭を下げました。
「あれ? あんた達、防具は?」
ナレーションの立場を忘れた先生に、俺達が無言で首を横に振ると、
「血が出るかも知れません」
師は観客達にフォローを入れてくれました。
「勝負、初め!」
掛け声と同時に気合いの大声と、殺気を放出する両者。
俺の心の声は「殺してやるぜ!」
トメの心の声も「殺してやるぜ!」
何か恨みでもあるのでしょうか。
顔が鬼になったり、悪魔になったりしていました。
試合開始から数十秒後。
トメがおかしなことをしました。
バックステップを取り、2人の間合いを広げたのです。
なんだコイツ?
その距離は俺の間合いなのに、なんでわざわざ自分から?
そう思ったのもつかの間、恐ろしく強力な前蹴りが俺の腹部を突き刺し、全てがスローに見えました。
ゆっくりと、ふわりと自分の体が浮いて、俺は色んなことを同時に考えました。
奴のバックステップはこの攻撃のためだった。
トメの前蹴りは、100キロの巨漢もすっ飛ばす威力。
ってゆうか今、俺がすっ飛んどる。
たらふくタフマン飲んでたぷたぷしてる腹に、この攻撃はキツい。
おそらく約4メートルの飛距離を記録するであろう。
体勢的に、綺麗に着地することは無理。
倒れた俺が、トメのトドメをよけるのも無理。
だってトメ、トドメが上手なんだもん。
今どうにかしなきゃ、死ぬんじゃないでしょうか。
どうにかしなきゃ!
空中で、俺は自分の腹に突き刺さったままのトメの足を両手で掴んで持ちこたえ、事無きを得ました。
でも、この後どうしよう。
どうしよう、この掴んだ足。
着地した後、さっきとは違って、今度は何も考えらません。
関節技を知っていれば、手にした足は迷わず折りにかかるのですが、でもご存知ありません。
えい。
他にやりようが思いつかなかったので、取り合えず足は持ち主ごとぶん投げてみました。
今度はトメが空中にほおり出されます。
※CGは一切使用していません。
空中のトメにはさすがに隙ができたので、彼が着地をするより先に、今度は俺が回し蹴りを腹に入れます。
バーカって心の中で言いました。
タフマンをガブ飲みした後に腹を蹴られると効くんだバーカ!
トメの咄嗟のガードは、さすがに勢いづいた足の力には敵わなかったらしく、弾かれます。
「やめ! 赤、技有り!」
生まれて初めて、地面にいない相手から技有りを取りました。
でも、ポイントの有無は関係ありません。
俺は心の中で舌打ちをしていました。
やはりまた互角か。
どっちも腹部に40ポイント前後のダメージ。
※タフマンの功績も含まれています。
その後、先生が「やめ!」と言うまで、トメとの本気のどつき合いは続きました。
演舞が終わり、体育館から道場に戻った空手道部一同は、何故かこっちに近づいてきません。
俺は口に入っていた砂をぺッと吐き出し、
「いやあ、あの中段蹴りの応酬は良かったなあ」
「お~。なかなか面白かったよ~」
「ドラマチックだったしね!」
からからと笑い合いました。
そのとき、砂がもう1つぶ、口に入っていることに気づきます。
ってゆうか俺、校庭とか通ってないのに、おかしいな。
どこで砂が入ったんだ?
あ!
もしかして!
俺は口の中から、砂と思われるそれを慎重に取り出しました。
「おい見ろよトメ! 歯だよ歯! 奥歯が欠けてた! あっはっは!」
「マジ!? お、ホントに歯じゃねえかよ~」
「あの時だ、たぶん!」
俺は拳を頬につけ、トメからの突きを表現しました。
「ああ、あの時かー!」
と、どこか嬉しそうにトメ。
※従来のルールでは、顔を全力で殴っちゃいけません。
「あっはっは! 奥歯が欠けたの、初めてだー!」
「奥歯ってよ~、簡単に欠けるんだなあ」
後輩達が、さらに1歩下がりました。
その場には、俺達よりさらに上のT先輩がいらしていて、そんな現役達を整列させます。
「お前ら、トメとめさの試合の感想を言ってみろ」
皆は口々に、
「凄い迫力でした」
他に良かったところはないのでしょうか。
「だろう?」
とT先輩。
「技がどうとか、ポイントばっかじゃないってことだ。覚えとけ」
実は、それは俺もトメも、K先生も言いたいことでした。
先生も暗に、「わざわざOBに足を運んでもらったのは、あんた達に足りないものがあるからよ」と言いたかったのです。
朝、現役達に、ギャルから愉快ではない声援が贈られました。
でも悪いのは、何もギャル達だけではありません。
本番前、準備体操代わりに後輩と組手をやって、彼らを一蹴したトメはこう言いました。
「テクニック凄えなお前ら。殺気がねえけどよ~」
いくら鍛えて武装しても、実際に戦えないなら意味がないのです。
本物の戦闘は俺も経験がないけれど、おそらく命懸け。
審判もいないし、武器だって使うだろうし、スタートの合図だってないし、多勢に無勢ってことだって有り得えます。
それに比べたら俺達、まだまだ甘いんじゃないかな。
そんな話を後輩たちにしたような記憶があります。
防具やルールに甘えるクセをなくしたら、お前らもっと強くなっちゃうぜ。
ところでお前たち、トメはどうか知らないけど、俺が殺気とマジ攻撃を放つ相手はトメだけだから、そんなに引かないでください。
お願いだから、気さくに話しかけてください。
だいたいこの程度で引いてたら、ラウンド2なんて読めないぜ?
次回予告。
めさとトメによる、さらに大袈裟な戦闘シーンが嫌でもあなたの前に!
それで笑う人がいるのか心配だ!
あと、もっと本格的に格闘技をやっていらっしゃる方は、効率の良い足の折り方を教えてください!
俺の足が折れかけました!
理由は次回!
戦闘終了後に歩けなくなったトメVSめさ・ラウンド2「合宿のついでにいいじゃない」近日大公開!
このシリーズ、誰にも引かれませんように。
続く。