夢見町の史
Let’s どんまい!
March 13
クリックで救える命がある。
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読者様から届いたメールには次のようにありました。
「めささん、いつもコメント欄で読者さんの誕生日を祝ってますでしょう? で、自分たち夢見町訪問者もその人たちを祝えるようなコーナーを作っていただけないかなぁ、とか思っちゃったりして」
俺と同じようにコメント欄にお祝いを書くには気恥ずかしさなどあって、抵抗を感じるのでしょうね。
自分も閲覧者仲間として夢見町読者の誕生日を祝いたい!
でもコメントを書くのが1人だと気マズイ!
他にも同じ感覚になっている人、いるんじゃね?
そんな心境みたいです。
俺はそのメールを読んで感動を覚えました。
無から幸せを作り出す素晴らしい発想だ!
みんなでお祝いし合って喜びを倍増させちゃおうじゃないか。
というわけで、俺は新たに「みんなでお誕生日を祝うコーナー」というカテゴリーを設けさせていただきました。
目次や日記よりも目立つよう、上部に位置させてあります。
カテゴリー一覧から、いつでもこのページにジャンプできるようにしておきました。
俺はこれからバースデイを祝うとき、今ご覧のこのページのコメント欄を利用させていただきます。
なので、是非みんなにも続いてもらって、年に1度の特別な日を祝福してあげてください。
誕生日を迎えられた主役からのお礼も、もちろん大歓迎です。
自分の誕生日も祝ってほしいという方も、是非ここで俺やみんなに誕生日を教えてください。
さらに。
俺はみんなからいい人だと思われたいので、クリック募金へのリンクもこのページに貼っておくことにしました。
ケータイやパソコンからクリックをするだけで、スポンサー企業があなたに代わって慈善事業に募金をします。
通信料がかかるのでパケホーダイなどに加入している人向きではありますが、わずかな時間とお手数だけで様々な活動を支援する団体に募金できますので、是非クリックしてみてください。
実際の募金とは異なるので、お金はかかりません。
たぶんここが最も見られるページになるだろうから貼っておきました。
みんなでクリックして自分の善行に酔いましょう。
俺は既に酔ってます。
クリックで救える命がある。
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それでは皆さん、幸せな1年を100回ぐらいお過ごしください。
めさでした。
ハッピーバースデイの始まり始まり。
March 13
will【概要&目次】
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<そこはもう街ではなく・2>
玄関先で大地は目を丸くする。
来訪者は、よく知る人物だった。
「涼、なんだその恰好」
緑色をしたハーフ丈のアーミーコートと、下も同じような色の丈夫そうなアーミーパンツを履き、毛皮の手袋はバールを握りしめている。
悪友ともいえる昔馴染みの、涼だった。
縁取りのしっかりとした赤い眼鏡とはまるで似合っていない恰好だけに、いつもの洒落っ気のある彼とはどこか雰囲気が違って見える。
「お前、戦争にでも行く気?」
大地がそのような軽口を叩くのも無理はない。
見方によっては大地を襲撃しに来た風に、見えなくもない。
ところが涼の表情は真剣そのものだ。
「のん気なこと言ってる場合じゃねえぞ」とブーツを脱ぎ、大地の家に上がり込もうとしている。
その作動から察するに、やはりこの街は異常事態の真っ只中にあるらしい。
大地の部屋で、2人は毛布を肩からかけて座り込んだ。
暖房器具が全く働かず、室内とはいえ冷え込みが著しい。
マンションの4階が大地の自宅で、窓からは冬空公園の野球場とその奥にある数々の住宅が望める。
静まり返った景色は生気を感じさせない。
「見ての通り、誰もいなくなっちまった」
涼は窓から視線を外し、その細目を大地に向ける。
「でも自分が残ってるわけだから、他にも俺と同じような生き残りがいるかも知れないだろ? 色々探し回ってみようと思って、知り合いの家を当たることにしたんだよ。そしたら大地が残ってた」
涼は「最初に訪ねたのがここで、自分にはツキがある」とも言った。
大地は「俺はさっき起きたばっかだけど」と断りを入れてから、さきほど目撃した不気味な少女の話を語る。
「トラウマになるぐらい怖かった。俺の印象だと、あの子は街の住民じゃない」
すると涼は「ちっちゃい女の子? ロボットじゃなくて?」と不思議そうな顔をした。
大地も似たような表情を浮かべる。
「ロボットって? なにそれ?」
「まだ見てないのか?」
すると涼は床のバールを持ち上げる。
「俺がこんな武装してるのも、ロボットが襲ってくるからなんだよ」
「そんなロボいるの!? マジかよ。宇宙人でも攻めてきたのかな」
「そうかもな。腰ぐらいの高さでクリーム色のロボットが、そこら辺うろちょろしてたよ。見つかると攻撃してくる」
「攻撃って、どんな?」
「いや、それほど強くなかったよ。俺、お前や和也と違って頭脳派だろ?」
「自分で言うなよ」
「奴ら単純に正面から突進してきて、殴りかかってくるだけだよ。武器があれば俺でも簡単に壊せる。中には刃物持ってる奴もいたけど、そこは逃げといた」
「ロボなのにビーム出さないのか。そいつらって、動きはぎこちない?」
「いや? スムーズだったよ。突進力もあったし、殴る手のスピードも速かったし」
「ロボットの足は? 2足歩行?」
「そういうやつもいたな。下半身がキャタピラの奴もいたけど」
「ふうん」
大地は不審感を抱く。
実際に自分の目でロボットを見て、観察する必要がありそうだ。
「取り合えず、ここ出ようか」
大地は立ち上がり、修学旅行のときに買った木刀を引っ張り出した。
毛布をベットに返し、涼も腰を上げる。
「そうだな。他の奴らの家にも行ってみよう」
外の冷気はやはり激しく、大地は先ほどよりもさらに肌着を重ね、涼と肩を並べて歩いている。
目指すは中学高校からの同級生、小夜子の家だ。
親密な仲間の1人であることと家の近さから、2人は彼女の家を訪ねることにしていた。
4車線の車道を走る車は一切なくて、大地たちは堂々と道路の中心を歩く。
滅多にできない行動だけに、どこか清々しさを覚えた。
歩道橋をくぐってしばらく行くと、商店街が姿を現す。
24時間営業のショップは電気を消していて、それ以外の店舗はシャッターを下ろし、閉店を示していた。
「おい、あれ」
「ああ」
2人がそれに気づいたのはほぼ同時だった。
止まっている景色の中を動く物は目立つ。
あれが涼の言っていたロボットなのだろう。
白い物体が歩道を動いている。
頭の位置は涼の言う通り、大人の腰ぐらいの高さにあって色はわずかに黄色がかった白だ。
近づいてみるとロボットは人間のようなデザインだが3頭身ほどで、頭部前面にはレンズが1つ付いている。
大地は涼に木刀を預けた。
「これ持ってて。でさ、涼のバール貸して。俺の木刀だと折れちゃうかも知んないから」
「え? ああ」
バールを受け取ると、大地はロボットに向かって歩む。
ロボットは2本の短い足を持っていて、まるで生き物のような滑らかさで歩いている。
足の裏にゴムが付いているらしく、足音は聞こえてこない。
「あの、こんちは」
大地は試しに声をかけ、機械の様子を探った。
会話が可能かどうか検証したいのだ。
ロボットのレンズが大地を発見したようで、白い体をこちらに向ける。
瞬間、ロボットは躊躇する様子もなく、真っ直ぐ大地に突進してきた。
その両腕が握っているものは、ナタのような刃物だ。
大地を殺傷することが目的だと、この時点で理解に及ぶ。
ゴルフのスイングのように、大地はバールを振り上げた。
金属音が大きく響く。
ロボットの片腕を上に弾き、その衝撃で体勢を崩させる。
間髪入れず、大地はバールを今度は横に振った。
さらに大きな衝撃音と共に、ロボットは吹っ飛び、靴屋のシャッターに体をぶつける。
変形した中華包丁のような刃物は、1つは大地の足元に落ち、1つはまだロボットによって握り締められている。
大地は残った刃物を持つ腕を目がけ、さらにバールを振るった。
背後から涼の声がする。
「さすがだな」
大地はロボットから目を離さずに「まあね」と返した。
まだ動こうとしている敵らしきロボットをさらに屠り、その機能を完全に停止させる。
「なあ涼、今朝から不思議なことが多すぎるけど、さらに謎が増えたよ」
バールを涼に返しながら、大地は続ける。
「動きから見てもこのロボ、絶対に高級品だ」
「ああ、そうだろうな。普通の人には買えなさそう」
「でしょ? でもこいつ、矛盾してね?」
「矛盾?」
「そう。だってさ、こいつ確実に人を攻撃するようにプログラムされてたじゃん。で、高性能。なのになんで、攻撃手段がめちゃめちゃ原始的なわけ?」
「ああ、言われてみればそうだな。なんでだろう」
「しかもさ、このサイズだろ? 元々人間を攻撃するために作られたんじゃない感じしない?」
「うん、それもそうだ」
「こいつらを操ってる奴がどっかにいるわけで、街から人を消したのも同じ奴っていうか、組織なんだろうけどさ」
「うん」
「その組織の規模がまるで解らない。このロボを見る限り、お手伝い用のロボットを利用したって感じじゃん? それを踏まえると、黒幕は凄い科学力を持ちながらも、兵力が少ない」
「あ、そうかそうか。そうすると今度は『その程度の団体がどうやって住人たちを消したんだ?』って話になるわけか」
「うん。しかもね? このロボと、俺が見た不気味な女の子との繋がりもさっぱり解らない。なんかSF映画に幽霊が出るみたいな違和感があるよ」
「う~ん」
涼は腕を組み、考え事を始めた。
大地は自分の木刀を受け取ると、「まあ行こうぜ」と友を促す。
「まだまだ情報が足りないんだろうね。色々じっくり調べて、キーが揃ってから組み立てよう」
普段から対立している2軒のラーメン屋を通り過ぎてすぐの脇道を行くと、住宅街が展開する。
小夜子の家まであと少しだ。
大地は無意識につぶやく。
「探さなきゃなあ」
「ん? 何を?」
涼が眉を少し吊り上げ、大地の顔を覗き込む。
一瞬だけ呆然としていた大地は我に返り、「え? なにが?」と聞き返した。
「なにがじゃねえよ」と涼。
「お前が今言ったんじゃん」
「あ、ごめん。俺今、なんて言った?」
「探さなきゃって」
「そんなこと言ったんだ? わりぃ、ボーっとしてた。特に意味はない」
「ああそう」
歩きながら、大地は他の謎が残っていたと思い直す。
さっきから俺は一体何を探したがっているんだ?
俺の中の別人格は、何を知っていて、何を考えているんだ?
<万能の銀は1つだけ・2>に続く。
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March 07
2009年元旦。
俺はお世話になっている飲み屋さんのママとマスターから挨拶を受けていた。
律儀なことに、わざわざ電話をかけてきてくれたのだ。
「めさ君、今年もよろしくね」
「いえいえ、こちらこそですよ」
そのような他愛のないやり取りをしていると、ママさんが意外なことを言い出す。
「チーフが何か考えてるみたいだよ? だから近々またねー。チーフとサプライズやるから」
記憶違いでなければ、そのようなセリフだったと思う。
チーフが俺にサプライズ?
言われてみればもうすぐ俺の誕生日だ。
チーフというのは男友達で、考えてみれば以前「誰かにサプライズをやったことはあるけど、されたことはない」なんて話をしたことがある。
間違いない。
チーフは俺のために、バースデイサプライズを企画しているのだ。
カレンダーを見ると誕生日当日は俺が休みの日だし、絶対そうに決まっている。
ママさんはなんだか嬉しそうな声だ。
「だからめさ君、また今度ね」
「え、あ、はい」
サプライズをやるだなんてこと、俺に言ったら駄目じゃないか?
全くママさんは天然でいらっしゃる。
なんて浮かれたことを思いつつ、通話を終える。
電話を置くと、俺は誕生日当日のことを想像し始めていた。
結果から先にいえば、このときから俺は勘違いをしている。
誰も俺にサプライズなんて用意していなかったのである。
ママさんが何故「サプライズ」なんて言ったのかは未だに解らないが、少なくとも俺の誕生日とは全く関係のないことだったのだろう。
そんなことも露知らず、俺はノリノリで心の準備をしていないフリをするために、心の準備を始めていた。
「えー!? なんでみんな集まってるのー! うっそ! 俺の誕生日!? もー! やめてよー! 俺そういうのホント弱いんだからー!」
弱いのはお前の頭である。
それでも俺は大真面目で、当日の様子を何度も何度も試行錯誤し、シミュレーションを重ねていった。
主役が驚いてあげなくては、せっかくのサプライズが台無しになってしまう。
実は最初からサプライズの計画なんてないわけだから台無し以下なんだけど、この時点ではそんなこと知らない。
俺は演技が下手だから、何も知らないフリを完璧にできるように練習しておかなくちゃ。
それでみんなから「生まれてくれてありがとう」的なことを言ってもらって、俺は俺で「今までで最高の誕生日です」とか言ってわざと泣くのだ。
それぐらい喜んでやれば来年からも祝ってもらえるであろう。
2009年のめさは、腹黒キャラでいかせていただく。
「えええええ!?」って大きく驚くのと、びっくりしすぎて固まってしまうのと、どっちのほうが真に迫っているだろうか。
そのような計算を本気でしながら、1日1日が過ぎていく。
友達からの電話でも、俺の痛々しさは絶好調だ。
「もしもし、めさ? 11日にさ、そっちに2人で遊び行ってもいい?」
「あ、その日はね、俺は大丈夫なんだけど、もしかしたらチーフから呼び出し喰らうかも知れないんだ。そうなった場合、近所の飲み屋さんに行くことになるんだけど、それでもいい?」
「いいよー」
「いやね、実はチーフが俺にサプライズを企画してくれてるみたいでさあ」
可哀想にもほどがある。
存在しない企画を楽しみにしすぎだ。
しかもバースデイ当日、なかなか呼び出しの連絡がないために、俺は自分からチーフにメールまで送っているのである。
「チーフ、今夜は何してるの?」
チーフからの返信は驚くべきことに、たったの2文字だった。
「夜勤」
これ以上のサプライズが他にあるだろうか。
本当にびっくりした。
33歳になった日、俺は静かに泣き寝入る。
March 06
今まで散々お世話になってきたはずの悪魔王子の兄貴に、俺は初めて「死ね!」と言いたい。
最初は何気ないメールがきっかけだった。
「めさ、今夜は家にいる?」
まさか北海道からわざわざ横浜まで遊びにくるわけでもあるまい。
俺は普通に返信をした。
「夜から仕事なんで、21時ぐらいまでなら家にいますよ」
「そっかー。それまで1人?」
「はい、ロンリーウルフです」
「解った。じゃあちょっと面白い話があるから、あとで連絡入れるわ」
どんな話だろうと思いつつ、俺は「お待ちしてます」と返した。
やがて夜になると、再び兄貴からのメールが。
「ちょっとこれ見てみて。1番下まで!」
メールにはURLが記されている。
クリックすると、キャバクラのホームページだった。
兄貴、新しくキャバクラの経営でも始めたのかな。
だとすると、1番下に兄貴の店が紹介されているとか知り合いがキャバ嬢やってるとか、そういうことか。
なんて考えながら、俺はページを下へ下へとスクロールさせる。
「ん?」
おかしなことが起きた。
画面のスクロール速度が、明らかに加速している。
物が落下するかのような不自然な速さだ。
ボタンから手を離しても、画面は勝手に流れてゆく。
「あれ?」
さらにおかしなことが。
画面が逆さまになったのだ。
画像も文字も、上下が逆転してしまった。
スクロールはつまり、俺から見て上に向かって尚も進み続けている。
バグったテレビゲームみたいな現象だ。
「お?」
次の瞬間、何者かが俺に電話をかけてきた。
画面が切り替わって着信を示し、電話本体が一定のリズムで振動している。
黒を背景に090から始まる電話番号が表示されていた。
しかし覚えのない番号だ。
「ンな!」
もう怖くて書きたくない。
黒い背景の奥から浮かび上がるように、変な女の人の顔が浮かび上がってきた。
青白い肌で、女の人は不気味な目つきをこちらに向けている。
電源オフのボタンを連打し、俺は無言でケータイをたたんでおいた。
「兄貴の野郎! そういうことか!」
壊れたっぽいホームページも超怖い着信も、あれは最初からそういう作りになっていたというわけだ。
さすが悪魔で王子だぜ兄貴~!
夜分に1人であることを前もって確認したのは、そういうことだったのか!
俺が怖がりって知ってるクセに!
兄貴にメールを返す。
全部絵文字だけで送信してやった。
とてもじゃないけど日本語を打つ気力がなかったからだ。
絵文字は全て怒りマークと大泣きマークだけで構成した。
「ギャハハハハ!」
兄貴は本当にタチが悪くていらっしゃる。
メールの中から大笑いだ。
「めさ、ちゃんと最後まで見た?」
最後って、どこに最後がありやがるのか、わかんねーですよ!
いきなり超怖い変な女から電話がー!
あんなの普通に出られねーじゃねえですか!
死ね!
逆ギレしねーと自分を保てねえですよ!
「それは出なくていいよ。続きがあるから見てみなって。そこから先が面白いんだから」
みんなが一緒のときじゃなきゃ見られない~。
無理っす無理っすもうホントにマジで無理っす。
「でもあとで見ると恥ずかしいことになるぞ?」
恐怖に耐えるべきか、皆の前で恥ずかしいことになるべきか選びたいんで、しばらく考えさせてください。
「大丈夫だって! 怖い箇所はもうないし、俺が本当に見てもらいたいのはその先にあるんだから」
というわけで、兄貴があまりにもしつこいので俺は観念し、恐る恐る例のURLをクリックする。
先ほどと同じ展開で画面がおかしくなり、続けて着信が。
しばらく見つめてみたが、この女子の顔を直視できるほど俺のハートは強くない。
ケータイの振動が納まると、画面には「着信あり」との文字が残る。
決定キーを押して確認しようとした次の瞬間。
キャーってなって、さっきの女がイーって凄い怖くて、俺はギャーってなった。
もう嫌だ。
要するに、ケータイから耳をつんざく悲鳴が大音量で発生すると同時に、さっきの不気味な女がもの凄い形相でアップになったのである。
危うく己の舌を噛み切るところだった。
このサイトのせいで死人が出たことぐらいあるんじゃね?
マジでそう思った。
俺にとんでもない恐怖体験をさせてくれた兄貴に文句を言うべく、俺は再びケータイを開く。
駄目だ。
手が震えてメールが打てない。
電話して直接文句を言おう。
コールすると、兄貴はすぐに出た。
「ふはははは!」
兄貴ーッ!
喜んでいらっしゃる場合じゃねえですよ!
第一声が大笑いって何事ですか!
も~!
ホントやだ。
「どうだった?」
どうだったもこうだったも、電話かけてきた女が最終形態でギャーって!
窓が開いてたらケータイ投げ捨ててましたよ!
俺の声が震えてるの、解りますか!?
ばか!
「怖かったべ? 俺もかなりビビったよ」
兄貴は人からされて嫌なことは人にしちゃいけませんって教わらなかったんですか!?
「いやいや、そこまでいいリアクションだとこっちも送った甲斐があるってもんだよ」
うるせえ!
「また何か面白いもん見つけたら連絡するよ」
結構です!
「じゃあ、またー。ごめんねー」
ホントですよ!
もっと心から謝ってくださいよ!
電話を切る。
俺の手はまだ震えていた。
夜中じゃなくて、ホントよかった。
以下、追記。
兄貴のご友人の中には素晴らしいリアクションをされた犠牲者が大勢いらっしゃいます。
あまりに見過ごせない反応だったので、ここで1つだけ紹介させていただきますね。
兄貴に届いたメールです。
「犬が吠えました! 解除するにはどうしたらいいんですか!?」
錯乱しすぎです。
犬が吠えるタイミングが良すぎ。
解除って一体なに?
間違いなく俺の負けです。
なんだろう、この悔しさは。
March 06
will【概要&目次】
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/207/
<巨大な蜂の巣の中で・1>
私はメリアではありませんと、メリアは悲しげにうつむく。
肩まで伸びた黒い髪。
そしてそれをかき上げる仕草。
わずかに青い瞳と悲しげな表情。
どこを見ても彼女はメリアそのものだ。
とてもじゃないが、彼女がロボットだなんて信じられない。
メリアはそれでも「私を調べてください」と哀願の目を私に向け、わずかに震えている。
ある不思議なニュースが報道されていることを私は思い返していた。
事故や災害に巻き込まれて重症を負った者の中に、アンドロイドと思われる被害者が含まれていたというものだ。
アンドロイドはすぐに爆発してしまったので目撃者は少ないが、オカルト誌や都市伝説を扱う番組は喜んで飛びついていた。
事故現場で謎の爆発が起こるといった出来事も他にあって、やはり被害者の中にアンドロイドが含まれていたのではないかと関連づけられている。
CTスキャンを立ち上げて、私はメリアに横になるよう指示を出した。
メリアは既に患者用のローブに着替えていて、言われるがままに機材のベット上で仰向けになる。
私はパネルを操作して、メリアが横たわるベットをスライドさせた。
頭を先にして、メリアの体が徐々に機械へと飲み込まれてゆく。
メリアが私の元を訪れたのは、つい先ほどのことだ。
今日は夜勤で、私は緊急時のために院内で待機していた。
時間にすれば深夜で、仮眠を取るべきかどうか考えを巡らせていると、携帯電話が着信を知らせる。
当病院のナースで、私のフィアンセでもあるメリアからだ。
「もしもし? 珍しいね、メリア。こんな時間に」
「レミットさん」
彼女はこのとき、私を呼び捨てにせずに敬称をつけていた。
その声の暗さが、深刻な知らせを予感させる。
私は電話を持ち直し、「何かあったのか?」と訊ねた。
メリアは困惑しているのか歯切れが悪く、「どう説明したらいいのか」と言葉を選んでいる。
「落ち着いてメリア。結果から先に聞いていいかな? 何がどうしたんだい?」
次の言葉は、私にとって非常に不可解なものだった。
「私はメリアではありません。本物のメリアさんはつい先ほど、死亡しました」
発声の強弱のつけ方や発音は間違いなくメリア本人のものだっただけに、私は混乱をする。
「なに? 君はメリアじゃないのか?」
「はい」
「なら、誰なんだ?」
「メリアさんと同じ記憶をプログラムされたアンドロイドです」
悪戯にしては様子が真剣すぎる。
私はこのとき、彼女の身に重大な不幸が起きて思考が混線しているのだと判断をした。
心の治療は私の専門分野ではないが、ここは医者ではなくフィアンセとして話を聞くべきだろう。
「君がアンドロイドだとして、どうして僕に電話を?」
「私に協力者が必要だからです」
「もちろんだ。君に頼ってもらえて嬉しいよ」
「今日は、まだ病院ですよね?」
「ああ、そうだ。明日の午前中にはマンションに戻れる」
「今からそちらを訪ねてもいいでしょうか?」
「今から!?」
当直室のデジタル時計を見ると、時刻はやはり真夜中だ。
それほどまでに緊急を要するとは思えず、かといって断れば彼女を傷つけかねない。
私は迷った挙句、メリアの来訪を許可していた。
「ただメリア、ここに来てどうするつもりなんだ?」
「あなたを絶望させてしまうでしょう。私がアンドロイドだと解れば、それはメリアさんの死を認めることに繋がってしまいます」
私は黙って聞き入る。
「それでも」
彼女の言葉は決意が宿っているかのような強さがあった。
「私がメリアさんではなく、意思を持ったアンドロイドだということを理解してほしいのです。私がどうして作られたのかも」
こうして私は今、病院の機材を無断で使用してメリアの身体をスキャンしている。
私としては、彼女がロボットではないことを証明する気持ちでいた。
自身がアンドロイドであるなどといった記憶が妄想であると、メリアに気づかせるためだ。
しかし、思い知るのは私のほうだった。
彼女の体内の情報はすぐにモニターに表示される。
それを見た瞬間の驚きを、私はどう表現したら良いのかまるで解らない。
表皮部分や骨格は極めて人間に近いのだが、彼女は明らかに人ではなかった。
どう見ても人工物としか思えない塊だけで肉体のほとんどが構成されている。
「謝罪の言葉もありません」
メリアが、いや、メリアと同じ容姿を持つアンドロイドが私の横で口を動かせている。
「私は、メリアさんを守ることができませんでした」
呆然自失となっている私は、何も応えられずにいる。
デスクに腰かけ、祈るかのように両手を組んで口に当てる。
細かく震える膝を止める気力さえなかった。
彼女は申し訳なさそうな表情のままコーヒーを淹れ、私の横にそっと置く。
「レミットさん、これから私がする話は、あなたにとって受け入れがたい内容です」
意識がぼんやりしているからか、彼女の声は遠くから聞こえるかのようだ。
「私が知っていることを全てお話します。ただ私はあなたが混乱していることを知っているので、どこから説明するべきなのか」
「君がロボットだということは理解した」
私は焦点の合わぬ目で宙を眺めたまま言う。
「私の婚約者は実は最初から人ではなかったのか?」
「いえ」
「なら君の言う通り、人間だったメリアは死んでしまったのか?」
「残念ながら」
それ以上のことを、彼女は続けなかった。
当直室に静寂が訪れる。
「私は、メリアさんと入れ替わるために作られました」
彼女はその場で直立したまま、再び語り出す。
「私には、メリアさんと同じ記憶と性格が設定されています。仕草も声も彼女と同じものであるはずです」
「ああ、思わず君をメリアと呼んでしまいそうだよ」
「何故、私にそのような設定がなされているのか? それは私がここでナースの仕事を続けながら、患者を洗脳するためです」
「患者を洗脳?」
「はい。これから様々な要人たちが病気や怪我で、ここに入院することになるでしょう」
「どういうことだ?」
「ソドムという男に心当たりはありませんか?」
唐突に出た男の名に、私は首を振る。
「いや」
「彼は脳研究の第一人者で、世界的にも有名でした。今から21年前に失踪しています。生きていれば、現在は68になっているでしょう」
「その男が、どうしたんだい」
「彼は失踪直前まで、人間の脳を極限まで覚醒させる研究に没頭していました。遺伝子操作や薬物投与などの動物実験を繰り返しながら」
「もしかしてソドムって、ソドム博士のことか?」
片隅にあった記憶が蘇る。
昔、テレビか何かで仮説が報道されていた。
自分自身の脳を強化したために世間に絶望し、自決した博士の名が確かソドムだ。
「彼は死んではいません」
アンドロイドは続ける。
「身を隠し、密かに計画を進めていました」
「計画?」
「はい。このままでは、この星は人類の住めない土地になってしまいます」
環境汚染は深刻化しているから、最近では誰もがそう考えている。
続きを促すと、彼女は「文明を無くすための計画を彼は実行しています」と悲しげな目を伏せた。
「文明を無くすだって?」
「そうです。自然を回復させるために」
「それは突飛すぎる発想じゃないか?」
「ソドムにはそれが可能なのです。彼が得た知恵は想像を絶しています」
「彼が得た知恵?」
「彼は、脳の性能を完璧に目覚めさせる術を作り上げてしまったのです。発表はされなかったのですが、ウイズダムという新薬です。彼はそれを自分に投与しました」
「つまりソドム博士は、簡単にいえば『頭が良くなった』ということか?」
「ええ。ソドムは潜伏し、21年間ずっと準備を進めてきました。文明の破壊と、一部の人間を飼育するためです」
「人間を飼育するとは?」
「限られた地域に人間を残し、増えすぎぬよう管理するという意味です」
「そこに残れない者は滅ぼすってわけか。はは。さすがに信じられないよ」
私は立ち上がり、換気するために窓を開ける。
深夜の都市は眠ることなく、ネオンや街灯やビルの明かりで、星々の光をかき消している。
「見たまえ。ここから見えるだけでも相当の数だ。これだけの人数を皆殺しなんて可能なのかい? 軍隊でも難しい」
するとメリアは「中性子爆弾」とつぶやく。
「何爆弾だって?」
「衛星ビーム砲の連続暴発、ウイルスの蔓延、人為的な天変地異、人間同士による大暴動、コンピューターの反乱、これらが1度に、世界各地で発生します」
「おいおい」
「計算し尽くされた攻撃です。都心部のみを破壊し、自然の多い地域は無傷で済むでしょう。その後の生態系もソドムによって計算され、既に用意されています」
「ちょっと待ってくれないか」
どこまでが真実であるのか、私は判断をするべきだ。
このロボットが虚言を用いている可能性はあるし、メリアの死を直接確認したわけでもない。
「君の言葉を全て信じるには、僕にも用意が必要だ」
「ええ、そうですよね。私は、どうしたら良いでしょうか?」
「そうだな」
私は腕を組み、部屋の中を行ったり来たりと往復を始める。
「メリアは既に死んだと言っていたね? 僕にとって最も受け入れるわけにはいかない情報だ。彼女の遺体は今、どこにある?」
「ありません」
僕の足元を見つめるかのように、彼女が視線を下げる。
「私は起動時、本物のメリアさんを助けようと思いました。そこで彼女のマンションに急いだのですが」
言い難そうに彼女は「間に合いませんでした」と漏らす。
「人に成り済ましたアンドロイドは私の他にもいるのです」
そこで私は近年のニュースを再び思い出した。
噂されているアンドロイドがつまり、私に名乗り出てきているのだ。
「君がここにいる以上、市民に紛れるアンドロイドの存在は認めなければならないな。続きを」
「はい。ソドムによって開発されたアンドロイドには個別にコードネームが設けられています。メリアさんを殺害したアンドロイドの名は、デリート。人体の細胞を分子分解する機能が備わっています」
「つまりメリアは殺されたあと、死体を塵に変えられてしまったと?」
「はい。正確には気体にまで分解されてしまいました」
すると彼女は両手で顔を覆い、「間に合わなくってごめんなさい。私はデリートを止められませんでした」と声を震わせる。
泣き方までメリアそのものだ。
フィアンセと同じ姿をした彼女を抱きしめてやりたくなる。
しかし、死体がないだけにメリアの死を納得するわけにはいかない。
「他にも疑問があるんだ」
私は頭を撫でてやりたい衝動までも我慢し、問う。
「君は僕に正体を明かしたが、他のアンドロイドもそういった行動を取るものなのか? 何体のアンドロイドが世間に紛れているのか解らないが、全部が君のように名乗っていては派手なニュースになると思うんだが」
「それは私にも解りません。ただ私にはメリアさんと同じ意思が宿っています」
メリアの意思。
そういえば以前、彼女は夢を語っていた。
「レミット先生、私は人を助けたいです」
あれは私との交際が始まる前のことだったか。
医療に携わる者として当たり前の感情のはずが、彼女が言えばシンプルなだけに心に響く。
「そのためだったら、私は解体されても構いません」
今度は回想の中のメリアではなく、目の前のメリアが発言をしていた。
私は冷めかけたコーヒーに初めて口をつける。
「君の言うことを全てを信じるには時間や裏づけが必要だし、1度に色々聞いてしまったので僕が困惑しているのは確かだ」
砂糖の数、ミルクの量。
メリアが淹れるコーヒーと全く同じ味だ。
私はカップを置く。
「君はしばらくメリアと名乗ったほうがよさそうだね。我々は近いうちに長期休暇を取ろう。僕にとっても見過ごせない」
するとメリアは深く頭を下げる。
私は窓を閉めるために、もう1度シティの夜景に近づいた。
この光景が無になってしまうことなど、私には想像できない。
<そこはもう街ではなく・2>に続く。
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