夢見町の史
Let’s どんまい!
February 03
それは「続・永遠の抱擁が始まる」を書いている途中のことで、確か5話だか6話ぐらいまで話が進んでいた時期だったと思う。
女友達が2人で、うちに遊びにきた。
お酒を作り、それぞれにグラスを渡す。
「じゃあガールズトークしようぜ!」
自分の性別を忘れたかのように、俺は目を輝かせていた。
2名の女子はというと、なかなかどうして辛辣だ。
「うちら勝手に喋ってるから、めさは永遠の抱擁の続き書いてていいよ」
「早く書け。今書け」
なんで俺の家なのに、俺は話に混ぜてもらえないのだろうか。
小説の続きを楽しみにしてくれるのはありがたいが、少しは労わってほしいものである。
「もうあったまきた!」
俺はパソコンに向かう。
「男女が食事してるレストランに隕石を落として話を終わらせてやる!」
作者、まさかの暴挙に出る。
例のレストランか俺の自宅に隕石が降れば、確かにあの話は続かない。
我ながらとんでもない人質を思いついたものである。
「そんなの嫌だけど」
友人は迷いを露にする。
「それはそれで読んでみたいかも」
「じゃあ、いつか強制終了バージョンも書いてみようかな」
夢もへったくれもない悪い冗談みたいなことにしかならないんだろうなあ。
なんてことを俺は考えた。
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小出しに運ばれてくるいくつもの料理に舌鼓を打つ。
キャンドルに灯った小さな炎がわずかになびき、それがあたしには喜びに震えているように見えた。
このような錯覚を起こすあたり、自分は単純なのだろう。
「展開からしてさ」
テーブルの上に指を組んで、あたしはそこに顎を乗せる。
「まだ続くんでしょ? その話」
ワインで少し頬を赤くしながら、彼は頷く。
「もちろん」
次の瞬間、夜空全体が光を放ったように、あたしには見えた。
凄まじい爆発音と同時に店内の照明が消え、瞬時に建物が大きく揺れる。
他の客たちの慌てる声が耳に入ってくる。
「地震!?」
「いや、隕石だ!」
なんでこのタイミングで隕石?
どこに落ちたのだろうか。
「逃げたほうが良さそうだ」
彼の目線を追うと、倒れたキャンドルが早くもテーブルクロスを焦がしている。
「ねえ、話の続きは?」
「そんなのあとだ!」
逃げ惑う人々の列に、あたしたちも混じる。
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なんかもう、書きたくないんですけど。
そう告げると、友人らは勝手に盛り上がっている。
「で、ビルが倒壊してさ、永遠の抱擁が始まる」
「あはははは!」
ブラックすぎるだろ、それは。
最悪な後味じゃないか。
「まあ冗談は置いといてさ、早くちゃんとした続き書いてよ。あたしら飲んでるから」
「早く書け。今書け」
ここが俺の家でなかったら「もう帰る!」といじけてしまうところである。
「もうあったまきた!」
俺はパソコンに向かう。
「男女が食事してるレストランに隕石を落として話を終わらせてやる!」
今にして心から思う。
早まらなくて、本当によかった。
February 02
名前からして勝てる気がしない。
彼の名は悪魔王子。
俺は敬愛の意を込め、兄貴と呼んでいる。
以前1度だけ酒の席にご一緒させていただいたことがあるのだが、彼は雰囲気からして「猛者ですが何か?」といわんばかりのオーラをバリバリ出しておいでだった。
経営者としても生物としても、カースト制度だったら間違いなく上のほうにいる人だ。
兄貴は気さくにも「めさ、敬語だと堅苦しいからタメ口でいきましょうよ」と進言してくれる。
俺が即答で「絶対に無理です」と返したのは言うまでもない。
俺に何かしらの相談事が出来ると、兄貴は親身になって話を聞いてくれるし、普段からメールもくれる。
先日は、画像のみのメールを送ってくれた。
ケータイには「これでもか!」とばかりにオレンジ色が輝くイクラ丼が表示されている。
安直な表現だが、めちゃめちゃ美味そうだ。
テーブルの感じからして、どうやら兄貴はどこかの高級店で食事をしていらっしゃるらしい。
本文に何も書かれていないところも芸が細かくて、正直イラッとくる。
俺は対抗すべく、夕食として用意してあったカップラーメンの画像を送りつけておいた。
「これでも喰らえ! ふはははは!」
やたら勝ち誇ってそのような念を込めていたが、実際にこれを喰らうのは俺である。
次に届いたメールには、やはり本文が何も書かれていない。
さっきのイクラ丼は兄貴の胃袋に綺麗に収まったのだろう。
ケータイには、食後のスイーツが映し出されていた。
デザインの懲りようからして、シェフの優秀さが窺える。
間違いなくコンビニではお目にかかれない一品だ。
見た目よりも味を知りたいところである。
俺は再び携帯電話のカメラを起動させる。
「食事のあとに優雅なデザートを喰うのはあんただけじゃねえんだぜ!?」
おやつとして用意してあったポテトチップスを撮り、返信してやった。
ケータイを閉じると、自室で1人、タバコに火を点ける。
若干の空しさと後悔を覚えた。
水道水の画像をオマケしておけば完璧だったのに…。
January 29
・1人でやるリレー小説みたいな感じ。
・1行毎に他の人格と交代し、続きをその場で考え、すぐに書く。
・恥ずかしさに負けたら負け。
・ドMな自分、ドSな自分、笑いが好きな自分、難しい話が好きな自分など、様々な人格を切り替えながら進める。
・体力の限界を感じた場合、納得いくまで書き終えた場合は終了。
・誤字脱字、打ち間違えがあっても直さない。
・後になって「熱があったんだもん」と言い訳をしない。
それでは、挑戦開始。
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バイオリンの弦がほとばしり、学生たちをがんじがらめに締め上げる。
新手のテロ?
そうでなければこの状況は現代風ファンタジーだ。
と、普通の人なら思うことだろう。
しかし実際は違う。
ただ私も正直、なんで弦楽器がそんな破壊力を持ち合わせているのか皆目見当もつかない。
明らかに1行目を書いた奴のミスである。
いや、そう決め付けるのは早計なことで、私は想像力を駆使させるためにあえて突飛な部分から書き出した。
インパクトのある1行目から始めることもテクニックの1つとはいえ、まともに続けたら日記1回分でまとめられないことも明白であろう。
そもそも本番中に議論を発生させるべきではなく、どんな話であろうと続けることに意義がある。
熱も上がってきていることだし。
しかしルールの中には「熱のせいにしない」と明記されているではないか。
異議あり。
上の奴、1行で交代って書いてあるのにそれでは、どんな異議があるのか解らない。
脱線したので、話を元に戻そう。
バイオリンの意外な攻撃方法について。
ではなく、いや、もはや2行目を見た時点で私は諦めることにしている。
そもそもバイオリン奏者に対して、あまりに無礼ではなかろうか。
もしこの流れを元に戻せる者が存在するならば、私はその人物を神と呼ぶ。
視野を広げて考えてみれば、他人同士のリレー小説のほうがよっぽど息が合っている。
私は理解した。
なにを?
っつーか掲示板みたいなことになってるぞ。
真面目にリレー小説を考えていた私としては、オチなど当然、用意していない。
ならばどう終わらせるか。
わけの解らないことでも叫んでみるか。
「太郎、小太郎、タンジェント」
それはただの1発ギャグである。
もうそろそろ体力の限界である。
おいおい、「である」って同じ語尾で終わってほしくないのである。
眠いけど、楽しくなってきたのである。
でもホントに限界に近いので、あと3行でこの悪ふざけは終わるのである。
つまり、あと2行で終わりである。
かのような無茶振りに、アンカーはどのようなまとめ方をするのか注目が集まる。
続く。
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※続きません!
ホントすみませんでした!
早く寝て明日に備えます。
おやすみなさい。
January 24
夢を見て、俺は酷くうなされる。
俺が格好良く、大魔王を一刀両断するところから、その夢は始まっていた。
勝った…。
いきなり勝ったので苦労した感が全くないが、とにかく大魔王をやっつけた。
これで世界に平和が訪れる!
ってゆうか、俺はこれからは勇者としてチヤホヤされまくるに違いない。
どこに行ってもキャーキャー騒がれ、何を食べても「お代は結構です」とか言われ、若干性格が悪くなるぐらいの暮らしができるであろう。
俺の半生は映画化、書籍化されてロングセラーとなり、俺の誕生日は国民の定休日になって、将来はお札になってしまうに違いない。
勇者の称号、万歳だ。
あとは王様に報告をし、お姫様を嫁に貰って、そしたら感動のスタッフロールだ!
意気揚々と城に引き上げる。
「王様、魔王を倒してまいりました!」
自信満々の笑顔で報告すると、王は予想外の言葉を口にする。
「マジで?」
ええ、マジです。
やっつけましたよ、大魔王。
「本当にお前が?」
ええ、俺がです。
「それ、ホントに? 魔王ってホントに死んだの?」
ホントだってば。
なんで疑うんですか。
「魔王が本当に死んだのかどうか、こっちで確認が取れない。そこを確かめもせずに勇者の称号をあげちゃうのも、なんかねえ?」
魔王がいなくなったのは明らかでしょう!?
外に魔物が出なくなってるんだから、そこは認めましょうよ!
「百歩譲って、魔王が本当に死んだとしよう。だがそれを倒したのがお前かどうかは、また別問題だ」
俺が倒したって言ってるでしょ!?
「誰がそれを見てたのよ」
そりゃ俺と、俺の仲間たちぐらいしかいないけど、でもそんなの普通そうでしょ!?
魔王城にギャラリーいたとしたら、そいつらタダ者じゃねえよ!
「だったらお前が魔王を倒したかどうか、こっちとしてはまだ認められないよ」
じゃあ調査団でも組んで、徹底的に調べてくださいよ!
気が済むまで、たっぷりとね!
「うん、解った」
こうして結成された調査団は、屈強な兵士2000名による大組織だ。
こいつら、戦争にでも行く気か?
「こんなに強そうな人がいるなら、わざわざ俺個人に魔王討伐させなくってもいいじゃん! 最初からこいつらに行かせろよ!」
かなりご立腹で目が覚める。
王様、ホントうざい。
January 21
続・永遠の抱擁が始まる 1
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/186/
続・永遠の抱擁が始まる 2
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続・永遠の抱擁が始まる 3
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続・永遠の抱擁が始まる 4
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続・永遠の抱擁が始まる 5
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続・永遠の抱擁が始まる 6
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続・永遠の抱擁が始まる 7
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続・永遠の抱擁が始まる 8
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続・永遠の抱擁が始まる 9
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続・永遠の抱擁が始まる 10
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/195/
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空いたメインディッシュのお皿が下げられ、あたしは紅茶のお替りを頼む。
窓から望める夜景がさらにあたしを優雅な気分にさせた。
「どうだった?」
すっかりワインが回っているのだろう。
彼は上機嫌だ。
「怖くない話でよかった」
と、あたしは下腹部を撫でる。
「でもさ、毎回毎回、よくそんな凝った話、考えるもんだよね」
「僕も語り部になれるかも」
「なれそう」
「真の語り部に必要な条件は、愛する者のために自分で話を作ることなのかも知れないなあ」
「あはは。ありがとう」
新しい紅茶が運ばれ、あたしはウエイターに礼を言う。
カップに注ぐと、ゆるやかに湯気が舞った。
彼はテーブルの上で指を組む。
「今回も、裏設定っていうのかな。あるんだよ」
「へえ。どんな?」
「まずね、僕の中では、5000年前に地震を経験した人はいない」
「へ? なんで?」
「地表が安定していて、プレートが移動していないから」
「難しい話なら結構です」
「手厳しいな。でもまあ、火山の噴火ぐらいはあっただろうから、地震が起こるとしたらそれぐらいかな。だから正確には、少しぐらいなら地震を体験した人、いたかもね」
「あ、もしかして、だから?」
「なにが?」
「地震っていう単語、ルイカさん使わなかったでしょ」
「素晴らしい」
彼が小さく拍手をする。
「地震っていう言葉が発明されてないから、ルイカさんは屋敷が震えたとか地面が揺れたなんて表現をしたんだ」
「凝り性だなあ」
彼はそれを褒め言葉と受け取ったようだ。
当事の電話機は子供が入りそうなぐらい大きいだとか、一部の上流階級の自宅にしか普及されていなかったとか、自分なりに考えた世界観を語っている。
「あたしとしては、ハッピーエンドだったらそれでオッケーだよ」
「君の性格上、そうだろうね」
「ねえ、あたしにプロポーズしたときのこと、覚えてる?」
すると彼は照れたように頭をかく。
「うん、まあ」
「お返し、してもいい?」
「どういうことだい?」
「今度はね、あたしから問題を出すの」
「へえ、興味深い」
紅茶を少しすすり、あたしは「では第一問目」と笑む。
「あたしがお酒をやめたのは何故でしょうか?」
「美容と健康のため」
「ブー! 続けて二問目ね。さっきあんたにタバコを吸わせなかったのは、何故でしょう?」
「煙が嫌いになったから?」
「ハズレ。それでは最終問題」
「もう?」
「うん。あたしは今回、ハッピーエンドで終わる3人の話をどうしても聞きたかったの。それは何故でしょうか?」
「知的好奇心の故」
「もー、鈍いなあ」
彼はさほど問題の答えに気が向いていないようだ。
「なら正解はなんだい?」と涼しげな顔でグラスに口をつけている。
「あんたさあ、いつか酔って『ずっと2人でいたい』みたいなこと、あたしに言ったことあるよね?」
「持ち出さないでくれ。恥ずかしい」
「残念ながら、あたしたちは2人でいられません」
「なんだって? どういうことだい」
「ふふ」
あたしは心の中で「阿修羅のように」とつぶやく。
「2人じゃないの」
「ん?」
「3人になるの」
「え!? ああ!」
あたしは再び下腹部に手を添える。
「ハッピーエンドで、本当によかった。もし後味の悪い話だったら、縁起でもないから」
「もしかして、君」
「今の話、将来また聞かせてね」
お父さん。
と付け加え、あたしは愛しい我が子を腹の上から撫でる。
キャンドルの炎が、また小さく揺れた。
――fin――
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参照リンク。
永遠の抱擁が始まる1
永遠の抱擁が始まる2
永遠の抱擁が始まる3
永遠の抱擁が始まる・番外編