夢見町の史
Let’s どんまい!
January 02
喧騒は賑やかだったけど、俺は静かに、いつものカウンターの椅子に腰を下ろし、口を閉ざした。
このバーに通って、一体何年が経ったのだろう。
親愛なるバー「イージーバレル」の営業は本日、大晦日をもって幕を下ろす。
店内を見渡した。
ここの席で、俺は今までたくさん泣いて、たまに怒って、でもその何万倍も笑った。
あんな会話をした。
こんなことがあった。
色々な人に出逢った。
本当に、本当に、お世話になった。
楽しそうにお客さんと会話をし、カクテルを作っているマスター。
彼は、俺よりもたくさんの思い出を持っているはずだ。
今、マスターはどんな気持ちなんだろう。
色々と回想したり、想像していたら、自然と目頭が熱くなる。
あ、やばい!
今泣くのはマズイ!
思った瞬間、俺は時計に目を走らせる。
まだ閉店まで2時間もあるじゃないか!
今俺が勝手に泣いてたら、間違いなくバカみたいだ!
最も困るのは、他の誰かが俺に釣られてセンチメンタルになることだ!
泣く奴が増えるぞ!
その涙の波動がみんなに広がってもみろ!
軽く通夜だ!
あと2時間、ずっと皆が泣いてたら、何かこう、店の雰囲気的なものが台無しになる!
この日記、せっかくスカした感じで書き出したのに、そっちも台無しだ!
いかん!
涙が止まらん!
蛇口か俺の眼球は!
うおおおおい!
隣に座ってる友人!
俺を見て好ましそうに微笑むな!
孫を見守るおじいちゃんかお前は!
他の人たちに、俺が泣いてるのがバレるだろ!
気づかないフリしろよ!
泣くのはせめて、閉店時間30分前ぐらいが好ましい!
今はまだダメなんだ!
くっそう!
俺には何故、時間を止める能力が無いんだ!
そしたらしばらく時を止め、涙を止めることが出来るのに!
ってゆうかバカか俺は!
時を止める前に涙を止めりゃいいだろうが!
だいたい、なんでイージー最後の夜に、こんな涙目に!
あ、最後だからか。
時計を見ると、2分も経っていない。
あと1時間58分、最後のイージーを楽しめ俺!
December 31
常連のお客様が、嬉しそうに言う。
「つまりな? めさは、それぐらい凄いってことだよ。だってゲームのタイトルに名前が入るんだぜ? スゲー!」
年末ということで、職場のスナックは大賑わいだ。
みんながいい酒を飲んでいるのを見ると、忙しくても幸せな気分になれる。
フロアレディが「そうっすよね!」と、楽しそうに相槌を打った。
「じゃあ、やりましょう! めさゲーム!」
俺は「嫌だー!」と絶叫をした。
説明しよう。
めさゲームとは。
通常、カラオケを利用したゲームの場合だと、歌をワンフレーズだけ唄い、次の人にマイクを渡す。
それを皆で順番に繰り返し、最後に唄った人が負けとなるわけだ。
負けた人は、酒を一気飲みしなくてはならない。
めさゲームの場合だと、歌をワンフレーズだけ唄い、次の人にマイクを渡す。
それを皆で順番に繰り返し、最後に唄った人が負けとなるわけだ。
負けた人が誰であろうと、俺が酒を一気飲みしなくてはならない。
大切なことなのでもう1度書こう。
負けた人が誰であろうと、一気するのは絶対に俺だ。
おかしいだろ、こんな世の中。
差し当たって、ルールがおかしい。
私を酔わせてどうするつもり?
俺は頼んでいないのに、誰かが選曲し、曲が流れ出す。
皆、次々と唄い、次の人へとマイクを回す。
「ウォウォー♪ ウォウォー♪ ウォーウウォウウォウウォウウォー♪」
俺は先ほど、「みんながいい酒を飲んでいるのを見ると、忙しくても幸せな気分になれる」なんて書いたけど、あれ、やっぱ取り消す。
「ウォウォー♪ ウォウォー♪ ウォーウウォウウォウウォウウォー♪」
「いえーい!」
「はい、めささん! いえーい!」
俺に回ってきたのは、マイクではなく、酒だった。
「ウォウォー♪ ウォウォー♪ ウォーウウォウウォウウォウウォー♪」
「どちきしょう!」
曲に合わせて、グラスの中身を空にする。
「はい! ウォウォー♪ ウォウォー♪ ウォーウウォウウォウウォウウォー♪」
「嘘!?」
お代わりは、既に用意されていた。
俺の知らないところでルールが変わっていたようだ。
変わったってゆうか、厳しさがレベルアップしてる。
「ウォウォー♪ ウォウォー♪ ウォーウウォウウォウウォウウォー♪」
続けて飲み下す。
砂漠の旅人だってそこまでガブ飲みしないであろう。
めっちゃゴクゴク飲んだ。
「いえーい! ウォウォー♪ ウォウォー♪ ウォーウウォウウォウウォウウォー♪」
「マジかよ!」
さらなるグラスが再び用意されていて、俺は歌とは関係ないところでシャウトする。
「どこにゴールがあるんだよォーッ!」
すると、誰も俺を見なかった。
心の叫びだったのに、みんな相変わらず「ウォウウォウ」言ってる。
「ウォウォー♪ ウォウォー♪ ウォーウウォウウォウウォウウォー♪」
「そうじゃなくて!」
「ウォウォー♪ ウォウォー♪ ウォーウウォウウォウウォウウォー♪」
「会話になってねえよ!」
「ウォウォー♪ ウォウォー♪ ウォーウウォウウォウウォウウォー♪」
「俺にだって心があるんだよォーッ!」
「ウォウォー♪ ウォウォー♪ ウォーウウォウウォウウォウウォー♪」
「2008年最大の不幸が今ここに!」
「ウォウォー♪ ウォウォー♪ ウォーウウォウウォウウォウウォー♪」
「俺はいつでも大殺界かよ! 解ったよ! 飲んだらいいんだろ、飲んだらよ! まさかお客さんにまでこんな乱暴な口を利くとは思わなかったよ!」
高らかにグラスを掲げ、俺は酒を口へと運んだ。
酔っちゃいました。
December 18
「曲がれんのか、これ?」
皆さん、おはようございます。
めさですよ。
早いもので、もう2008年も終わろうとしていますね。
ちょっと早い気もしますけれど、今のうちに来年の目標や抱負など立ててみましょうかね。
さてさてと。
えっとまず、水なしで生きていける体になりたい。
「意味が解らねえ。水飲めよ」
心の中に悪魔が出現しました。
「サボテンか、テメーは」
「そんなことはありません!」
続いて天使の登場です。
「ただ、こいつが人間じゃないのは確かです」
とても天使とは思えない辛辣な発言に戸惑いの色が隠せません。
悪魔「まともな抱負や目標はねえのか?」
あるよ?
えっとね、みんなもっと俺のことを知ればいいと思う。
悪魔「なんだそりゃ」
俺が命じれば下界の民たちが喜んでピラミッドを建ててくれる。
それぐらいでも充分、俺、幸せを感じるよ。
悪魔「どっちの方向に話を飛躍させてんだテメーは。腹ン中真っ黒じゃねえか」
天使「そんなことはありません!」
いいぞいいぞ。
かばってくれ天使。
天使「めさが本当に腹黒い男なら、来年にやる予定の演劇を成功させるだの、出版される本のことなどを書き、宣伝するはずなのです」
そうだそうだー!
天使「それを私の口から言わせることで、自分のいやらしさを巧みに隠しているのですよ」
ん?
天使「いいんです、めさ。あなたは何も悪くありません。悪いのは、あなたの筆を止められなかった私なんです」
ちょ、え?
天使「めさが編集した寝言本の印税は全額、メイクウィッシュという難病に苦しむ子供たちの夢を叶えるための活動をしている慈善事業に寄付されます! めさが脚本を書いた劇団『りんく』の初公演もクオリティを高めつつ費用を抑え、リーズナブルなお値段で観覧できるよう日々努力しています! 皆さん奮ってお楽しみください! ううう」
タチ悪ィよ!
こんなんアップできねえよ!
悪魔「でも、するんだろ? 最低だな」
お前ら2人とも、俺の手から離れすぎだ!
だいたい宣伝したとしても大丈夫な内容じゃん!
俺が儲かるわけじゃないし!
天使「よよよ」
悪魔「よしよし、泣くな」
綺麗にシカトするな!
お前ら天使と悪魔なんだから少しは対立しろよ!
天使「心が、心が、壊れてしまいそうです」
悪魔「弱気になるんじゃねえよ! 気をしっかり持て! ぜってー大丈夫だからな。めさに負けるな!」
俺が何をした!?
真の抱負は、自分の人格を1つにまとめること。
めさでした。
瞬きしなくてもいい眼球も欲しい。
December 14
「お前、クリスマスの予定は?」
「ぶっ殺すぞコラァーッ!」
「暇だってことは充分伝わった」
皆さん、おはようございます。
クリスマスは基本的にソロ活動。
要するに毎年1人ケンタッキー。
好きな言葉は「フリーダム」
めさですよ。
親愛なるバー「イージーバレル」が今年一杯で店仕舞いしてしまうということで、思い出いっぱいのこのお店で、忘年会を兼ねたオフ会を開催することにしたんですよ。
ついでだからクリスマスパーティも。
今回はですね、その告知なわけなんですけれど、募集人数は10名のみなんですね。
なので抽選という形で参加者様を募らせていただこうと思うんですよ。
ある条件を満たした方を優先してお招きしたいと考えていますので、これから始まる告知文をよーく読むんですよ。
読んでないことが解った時点で抽選から漏れちゃう上に、俺から「あちゃー」と思われてしまいます。
では、いきますね。
今回のオフ会は寂しく、12月25日、つまりクリスマス当日に開催させていただきます。
20時から終電の時刻まで。
朝まではやらない予定ですけども、2次会はどっかでアリかも知れません。
って感じで、上記の日程で確実に来られる方、最高です。
来られたら行きたいって方は、気持ちは嬉しいんですけども、もし来られなかった場合、席が空いてしまうことになるでしょ?
そうなると他の来られなかった方が可哀想なことになるので、キャンセルの可能性がある方は、今回は遠慮してやってくださいな。
予定としては25日の夜7時30分に東横線の白楽駅で待ち合わせをしますので、間に合う方を優先させていただきますね。
白楽駅は急行が止まらない駅なので、いらっしゃる際はご注意くーださい。
今回のオフ会はちなみに、会費制ではありません。
各自、ご自分で飲み食いした分をご負担くださいね。
続いて、参加表明の送り方です。
抽選結果は電話にて、俺からご本人に直接連絡を送るといった形で発表させていただきます。
だからもう、画面に穴が開くぐらい、よーく読むんですよ。
いくら見たって視線で画面に穴が開くなんて現象はありませんので、その点はご安心を。
ちなみに、メールでの問い合わせにはまず返信できないので、先にご了承くださいね。
当方、友達にもメールを返せないぐらい、あっという間に受信欄が入れ替わっていくんです。
俺からの電話がない時点で、心苦しいんですけども、抽選から漏れてしまったと解釈してやってくださいませ。
正直、すんません。
さて、メールのタイトルなんですが、これは「クリスマスのオフ会」としてください。
本文にご自分のお名前、出来れば本名が好ましいですね。
お名前とお電話番号を明記してください。
意気込みなどあれば、その心意気を感じ取りますので、抽選確率が上がります。
ヒント:めさは褒められて伸びる子。
※冗談です。
こういったメールに記載された個人情報は悪用しないし誰にも教えないので、ご安心くーださい。
大事なことなので、もう1度明記しますね。
抽選結果は、俺からご本人への電話連絡です。
参加表明を送ってから1週間以内に俺からの電話がない場合は、「思いの他倍率が高かったのだ」と思っていただけると心が軽くなります。
また、俺の直接の知人友人のみんな。
この日はイージー貸切じゃないので、俺に連絡しないで普通に飲みに来るのが良いよ。
巻き込むかも知れないけど、許してちょ。
実はですね、今回、クリスマスにオフ会やるのは人生で2度目なんですよ。
以前はすんごい盛り上がりました。
聖なる夜は、独り身のテンションがとんでもないことになるんですね。
今回のクリスマスオフも、楽しみにしていますよ。
少人数なので、その分濃密に語らいましょう。
皆さんのご参加、心よりお待ち申し上げます。
めさでした。
参加表明のメールはコチラから送ってやってくーださい。
December 05
俺、男のクセにね?
ちょくちょく妊娠や出産する夢を見るんですよ。
自分がお父さんなのかお母さんなのか、なんか立ち位置に困る感じなんですけどね。
結構たくさん産み落としたなあ。
双子も産んだし、プール出産も体験したし。
いや、夢であって、実際の話じゃないですけども。
でね。
そうして産んだ子供って、やっぱり可愛いっていうか、愛しく感じるから不思議なんですよね。
リアルでは俺、子供を授かったことがないんで、そういう我が子への愛情って未経験なはずじゃないですか。
なのに夢の中では、もうめっちゃ愛してるんですよ。
あれが親の愛ってやつなんでしょうかね?
でもね?
実は1つだけ例外があるんです。
あんまし可愛くなかったなあ、あの子は。
その夢の中では、俺はやっぱり妊娠していて、お腹が大きいんですよ。
その俺の膨らんだ腹なんですけどね?
どういうわけか、スケルトンボディなんです。
透けてるの。
自分の体内がめちゃめちゃ見えるんですよ。
だから胎児の状況も一目瞭然で、ありゃレントゲンの立場がありませんでしたね。
しかも。
さらに凄いことに、俺はお腹の赤ちゃんと会話までできるんですよ。
俺がお風呂に入ってると、お腹から声が聞こえてきたりするんです。
「お湯がぬるい」
どこの世界に腹の中からダメ出しされる親がいるでしょうか。
俺は一応「ごめんごめん」なんて謝りながら、お湯の温度を上げたりするんですけどね。
子供は産まれてもいないのに、なんか生意気でした。
で、お風呂から上がると、普通に牛乳を飲むじゃないですか。
俺も腰に手を当てながら、やっぱり牛乳をごくごく飲んでたんです。
「ぷはぁ」
って俺が飲み干すと、お腹の中からも声がするんです。
「ぷはぁ」
何か飲んでる!?
咄嗟にお腹を見ると、赤ちゃんはマックシェイクにストロー差して飲んでました。
俺の体内にマクドナルドは無いはずです。
「お前! それどっから持ち込んだ!?」
そう叫んだところで、目が覚めましたよ。
話し終えると、Fさんは真面目な面持ちで俺の目を見た。
職場のスナックで久々に会う常連さん。
彼との再会を嬉しく思い、つい話が弾んでしまったのだ。
「めさ君」
Fさんがグラスを置いた。
「俺が昔お世話になったお医者さんで、宮島先生っていう人がいるんだ。その人は外科医なんだけど、本当に親切な人でね? 自分の管轄でない症状の患者さんには、優秀なお医者さんを紹介してくれるんだよ。あの人は本当にいい先生だ」
なんのお話?
「宮島先生は本当に素晴らしい先生だよ。めさ君、紹介するから、今度一度会ってくるといいよ」
なんで俺にお医者さんを紹介しようとしてんですか?
「大丈夫。そういう相談するときって、確かに怖いかも知れない。でも宮島先生は本当に優しい人だから」
気ィ遣ってオブラートに包んだ言い回ししなくていいです!
だいたい、俺はただ夢の話をしただけじゃないですか!
「うんうん。そうだね」
優しい眼差しで俺を見るな!
宮島先生は傷ついた心も手術してくれるのでしょうか。