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夢見町の史

Let’s どんまい!

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2025
March 12
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2008
March 04

 最後のアダム 1
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/113/



 そこには壁も天井も存在しないし、地面の広さに果てがない。

 旅を続ければ続けるほど、あなたは「つくづく異世界なのだな」と思い知る。

 巨人でさえも手を届かせられないであろう位置にたたずんでいる物が太陽で、その下にある形を変えない真っ白な煙が雲。
 限りなく広がる草木の床が大地で、さらに遠くに見える波のような影が山。
 そして、終わりのない空間が空なのだと、あなたはそれまで全く知らずにいた。

 砂漠を通過して森を抜け、あなた達は今、大草原を進んでいる。

「あそこで休憩しましょうか」

 案内人が泉を見つけ、それを指で差した。
 泉の周囲には、いかにも果実が実っているであろう樹木が生い茂っていて、それを見たラトが歓喜の声を上げる。

「みみ、実ー! 実!」

 友のはしゃぎように、あなたは少し笑った。
 そして、「実」という言葉から、あなたは初めてこの世界に来た日のことを回想する。

 あなたがあの時、どうして気を失ってしまったのかは、未だ自分でも解らない。
 あの落下するような感覚は、何だったのか。
 どうやってこの世界に来たのか。

 あの日、目覚めた瞬間から、あなたにとってはこの現実こそが夢のようだった。

 上半身だけを起こすと、見たこともない壮大な景色が周囲を覆っていて、あなたは未知からくる恐怖のせいで、混乱をした。

「お目覚めになられたようですね」

 すぐそばから発せられた声に、あなたは鋭く振り返る。
 細身の娘がしゃがんでいて、あなたを見つめていた。

 物静かな瞳をしているその娘は、白銀の薄い衣を身にまとっていて、足には皮のサンダルを履いている。
 髪飾りは銀の鎖で編み込まれていて、同じく銀色をした長い髪が、風になびく。
 彼女が身に着けている物のいたるところから、どこか品格を感じさせる細い鎖が伸びていて、それも風に吹かれ、わすかに揺れていた。

 彼女はまるで、いつか絵本で見た精霊のようだった。

「ここは、あなたが住んでいた世界とは、全く別の世界です」

 敵意を感じさせない娘の口調が、あなたにかすかな安らぎを与える。
 彼女の話を聞けば、未知は未知ではなくなり、それで不安や恐怖は拭われるような心地がした。

「ご覧なさい、太陽を」

 言われるがままに見上げると、強い光を発している丸い物体こそが太陽なのだと、あなたは初めて理解する。

「この世界には太陽が2つあります」

 頭上には大きな太陽があって、視線を下げると小さな太陽もまた、地平線の近くで力強く輝いていた。

 本物の太陽は、自分が作った太陽とは比べ物にならないほどに神々しく、眩しくて、あなたは少しばかりの恥を覚える。

「あの2つの太陽のおかげで、この世界には滅多に夜が来ないのです」

 夜。
 その言葉はあなたに、ラトを連想させた。

「ラトは!? 僕の他に、もう1人、近くにいませんでしたか!?」
「彼なら」

 娘は静かにあなたの背後、木が群生している所を手で示す。

「あそこにいますよ」

 目を凝らすと、木と木の間で蝶を追いかけ回している親友がうかがえて、あなたは安堵する。

「この世界には、よく人が迷い込んでくるのです」

 娘に視線を戻すと、彼女は既に立ち上がっていて、うやうやしく頭を下げている。

「私の名はレビト。あなたを導く者です。この世界に来てしまった者を、元の世界に送り届けることを使命としています」
「お聞きしたいことが、山ほどあります」

 あなたはようやく腰を上げ、レビトの前に立つ。
 改めて見ると、彼女は、瞳までもが銀色をしていた。

「お答えします。ただそれは、旅を続けながらにしましょう」
「旅、ですか?」
「この世界には、1ヶ所だけ、『夜がくる場所』があるのです。あなた達は、そこに行かねばなりません。私が案内しましょう」
「よよよ、夜が見れる! 夜!」

 いつの間にかこちらまで来ていたラトが、飛び跳ねながら両手を叩いた。

 あなたには、何もかもが初めてのことだ。
 旅も外気も、景色も、異世界も。

 この外が、自分達の世界の外ではなくて良かったと、あなたは思う。
 もし元の世界の外だったなら、あなたは毒を含んだ空気のせいで死に、砂の中に溶けてしまっていたことだろう。

「夜がくる場所には」

 レビトはこの世界の様々なことを知っていた。

「砂時計の塔が建っています。あなた達が元の世界に帰るには、その塔に登らなくてはなりません」

 言って、レビトは歩き出す。
 あなたは慌てて親友を呼び寄せ、彼女の後に続いた。

 旅の最初に、あなたの中で大きかった感情は不安だったが、それは次第に好奇心に取って代わられる。

 飛べば、天空を覆い隠すほどに巨大な鳥。
「大地を憎む者」と呼ばれる、大剣で何度も地面を突き刺し続けている鎧。
 連なった山脈にぽっかりと開いた巨大な横穴からは、向こう側の光景さえも望めた。

 夜のない世界では日数の経過が解りにくかったが、数日に渡って旅を続け、気がつけばあなたは次の景色を楽しみに思っている。
 あなた以上に好奇心が強いラトにとっては、さらに胸が躍っているに違いない。

「ねねね、ねえ! れれ、れび、れび、レビト! ここ、この実の他には、どどど、どんな、どんな実がある?」

 泉のほとりで座り、黄色い果実の皮を剥き、喉を潤していると、やはりラトが騒ぎ出した。

「せせせ、世界一、おおお、美味しい実、どど、どこ? どれ?」
「そうですね」

 案内人は静かに微笑んだ。

「この世界には、1000年に1つしか実らないという『神の果実』という実がありますよ」
「そそそ、それ、それ、おお、美味しい?」
「味は、どうでしょう? ただ、その実を口にした者は、ある変化が訪れるとされています」

 その話にあなたは興味を示し、ラトに代わって問う。

「それを食べると、どのように変化するのです?」
「最初の実は」

 レビトの憂うような横顔は、どこか寂しげに見えた。

「口にした者に永遠の命を与えました」

 最初の実、と彼女は言った。
 神の実は、実る毎に違う効果があるということだ。

「では、次の実は?」
「禁断の知恵を」
「では、さらにその次は?」
「そこまでは、あまりよく知られていません。『始まりを終わらせる実』とも、『終わりを始まらせる実』ともいわれています」
「それは、どういうことですか?」
「ねえねえ!」

 興奮を抑えきれないらしいラトが、大きな声であなた達の会話に横槍を入れた。

「どどど、どこにある! そそ、その実! 実! どこ行けば食べれる?」
「ラト、話を聞いていたのか? 1000年に1つしか実らないんだぞ」
「ででで、でも! でも!」
「その果実は、この世界で最も巨大な樹に実ります」

 続けてレビトは、ラトを喜ばせるようなことを告げた。

「その雲よりも高い樹は、もう近く。夜がくる場所に立っていますよ」

 やったー!
 とラトは両手を挙げて、もう既に幻の実を食べられる気になっている。

 夜がくる場所。
 そこには夜があって、元の世界に帰るための巨塔が建っていて、世界最大の樹木が雲を貫いている。
 あなたはその景色を思い浮かべた。

「さあ、行きましょう。もうすぐ、夜がきます」
「よよ、夜!?」

 やったー!
 とラトが、再び両手を挙げた。

 目的地が、いよいよ近いのである。




 最後のアダム3に続く。

拍手[7回]

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2008
March 02

「天使の殺し方を知っていますか?」

 唐突な質問にあなたは、「いえ、知りません。そもそも殺せるのですか?」とわずかにたじろく。

 廃墟となった石の教会は、1枚の壁だけを残してほとんどが朽ちていて、天使と悪魔の戦争をモチーフにした絵画がかろうじて残り、今は日の光に照らされている。

「天使と悪魔は、同じ生き物なのです」

 案内人は眩しそうに目を細め、巨大な壁画を見上げた。

「同じ生き物ですって? これが?」

 あなたも同じく、目線を上げる。
 空と、2つの太陽と、色あせた絵とを同時に眺めて、あなたはどこか懐かしさに似た感覚を覚える。

 白い翼を持った天使は、どちらかというと人間に近いデザインに見えた。
 悪魔はというと、まるで魔物のようで、黒い肌から角やコウモリと同じような羽を生やさせ、残忍そうな笑みを浮かべている。

「どこが同じ生き物なのです?」

 あなたが訊ねると、案内人は静かに目を伏せた。

「この絵は、思い込んだ人間によって描かれたものです。想像の絵なのです」
「あなたは、本当の天使と悪魔を見たことがあるのですか?」

 しかし案内人は、あなたの質問に答えない。

「影を刺すのです。天使も悪魔も、体を攻めても死なせることはできません。影こそが彼らの本体だからです」
「影、が?」

 その時に、親友の明るい声が背後からした。

「みみみ、見て、見て! こんなに、たくたく、たくさん」

 相変わらずの、どもった口調に振り返ると、ホコリにまみれたあなたの友は満面の笑みで、両手には数々のガラクタを抱えている。

「そんな物、どこかに捨ててこい!」
「ででで、でも、でも! けけ、剣も、剣もある!」
「本当か?」

 しかしそれは剣と呼ぶにはあまりに小さく、そしてくたびれている。
 あなたは「ないよりはマシか」と言って短剣を受け取り、親友は「ぼぼぼ、僕は、ささ、さ、刺さないでね」と、にんまりと笑った。
 絵の中にいる悪魔とは対照的な笑顔に、あなたも「にー!」と彼に歯を見せる。

「さあ」

 案内人は、いつの間にかあなた達の背後にいた。

「旅を続けましょう。砂時計の塔は、もうすぐそこです」

 あなたはうなずくと、雑然と散らばった瓦礫を避けて歩き、荒野へと歩を戻す。
 砂漠を振り返ると、数日前に歩いていた草原や森、砂に刻まれた自分達の足跡、様々な景色が1度に見えた。
 遠くの物も、近くの物も。

 空の高さは無限に思えて、どんな鳥も雲も、太陽でさえもその高みには永久に到達できそうにない。
 そのことを、あなたは最近になって初めて知った。

 今日の風は、強い。
 しかしそれが乾いた風なのか、湿気た風なのか、あなたはまだ判断できないでいる。
 風に吹かれることに、まだ慣れていないからだ。

 そもそもあなたは、それまで空を見たことがなかった。
 あなただけではない。
 両親も友人も、学校の先生も、あなたの街の住民は余すことなく、空を知らずに一生を終える予定だった。
 あなたの街には、空がないからだ。

 全てではないにしろ、人類が滅んだのは3000年前だったと、あなたは記憶している。
 歴史によれば、太古の人々は多くいて、偉大な知恵を持っていたという。
 丸い大地の反対側にいる者にも意思を疎通させ、天を刺すかのような巨大な塔を次々と建てて、月の地面にさえも足を踏み入れていた。

 滅びの理由は様々だったのか1つだったのかは、誰もが憶測を口にしていて、あなたにはよく解らない。
 ただ理解できるのは、自分達の暮らす街が、先住民によって作られた地下の都市であるということだけだ。

 あなたの家も、学校も、それぞれの商店も、迷宮の中にある。
 そこには旧人類の英知が未だに生きていて、光の射す頃と、闇の頃があった。
 昼と夜。
 あなた達はそう呼んでいる。

「なあ、ラト。太陽を見たいと思わないか?」

 あなたが親友の名を口にした場所は、お気に入りの「木の部屋」だ。
 殺風景な白い壁に囲まれたその部屋には、レイヤの木が1本だけ立っていて、あなたは自分の家の次に、その部屋が好きだった。

「んん、んー?」

 ラトは大好物のマナをほお張りながら、あなたに澄んだ瞳を向ける。

「んななな、なあに?」
「太陽だよ、ラト。太陽。見てみたいと思わないか?」

 そう言いつつ、あなたはラトに顔を向けてはいなかった。
 ある工作に熱中しているからだ。
 あぐらをかいて、足の上に置いた電球に装飾を施している。

「ぼぼ、僕は、ん僕はね」

 やっと食べ物を飲み込んだ友が言う。

「よよよ、夜。夜がみみみ、見たい。夜」

 外は3000年前からずっと死の世界のままで、その光景は想像に頼るより他はなく、もし仮に人が外気に触れれば、たちまち焼きただれて死に至ると強く教え込まれた。
 砂しかない外の世界はだから、絵でしか見たことがなかった。

「夜、か」

 ラトの斬新とも取れる発言に、あなたは「こいつらしい」とある種の感心をする。
 空が見たいという発想ではなく、夜。

「だだ、だってさ、だってさ、夜は、ほほほ、星が見れるから、ほほ、星」
「星? 天空にいくつも浮いているっていう、あの星のことか?」
「そそ、そう! そう! そーう!」
「途方もない遠くで浮いているんだぞ? そんな物が見られるものか」
「み、見れるもん! みみみ、見れる! ほほ、本! 本に! 本にかか、書いてあった。本」
「本当か? もし見られるとしたら、それは明るくないと見られないんじゃないのか? なんで暗い夜だと、星が見られるんだ?」
「そそ、それは、しし、知らない」
「馬鹿だな、お前は。それは本のほうが間違えているんだ。先入観、ってやつだよラト」

 いつしかあなたの工作の手は止まっている。
 再び作業に戻ろうと手元を見ると、部屋が少しずつ薄暗くなってゆくことに気がついた。

「ああ、そろそろ夜か。ラト、お前が好きな夜だよ」
「よよ、夜ー!」

 偽物の夜にさえ喜ぶ親友が好ましく、あなたはラトに「にー!」と笑む。
 ラトも、あなたと同じように顔をしわくちゃにして、「にー!」と大きな声を出した。

「さて、ラト。夜は、光がないから夜なんだ」

 あなたが作った物は、大きな花のような形をしている。
 人目を忍び、街外れの天井から電球を1つ拝借して作った。
 自分の身長ほどもある木の棒にそれを取り付け、地面から伸びた黒い糸と繋がるようにしてある。

 もう少し装飾を懲りたかったのだが、「まあいいか」とあなたは思う。

「今を、昼にしてやるよ」

 あなたは得意げに言って、むき出しになっている電球と糸とを繋げた。

 あなたさえも予想していなかった強烈な光が、部屋中を照らし出す。

「おうおうわー!」

 ラトが両手で目を押さえ、転げまわっている。

「どうだいラト。太陽を作ってみたんだ。みんなには内緒だぞ」
「まぶまぶ! 眩し! まま、眩しい! でででも、すす、凄い!」

 その光は強すぎて、あなたも目を細めている。
 ラトは少しだけ、指の間から目を覗かせた。

「でで、でもでも、ぼぼ、僕は、よよよ、夜が見たい! 夜も作って」
「それは無理だよ、ラト」
「あああ」

 突然、ラトが叫び声を発した。
 あなたはすかさず、何事か、と思う。

 ラトはもう、あなたのことも、小さな太陽のことも、見てはいなかった。
 友は下から照らされたレイヤの木を興味津々に注目していて、どうやら夜を作れという自分の依頼さえも忘れ去ってしまったようだ。

「ああ、あれ! あれあれ! みみ、あれ見て! みみ」

 レイヤの木を見上げると、あなたはそこに赤い木の実があることを知る。
 ラトは、それを見つけて興奮しているのだ。
 苦労して作った太陽よりも、たまたま実っていた実に興味を持っていかれて、あなたはわずかに機嫌を損ねた。

「ねね、ねえ! ねえ! ああ、あれを、あれを、とと、と、取って! あれ!」

 駄目だ。
 そう言うために、あなたは口を開こうとする。

 すると突然、あなたの目は見えなくなった。
 光が消えただけなのだが、あまりにも急だったために、そして闇が完全すぎたために、あなたは自分の目が見えなくなったのだと錯覚を起こしたのだ。
 地面が無くなり、重力から開放されたような浮遊感も同時にあった。

 覚えているのはそれまでで、あなたは意識を失った。

 目が覚めると、最初に風を感じ、次に青い空間が見えた。
 あなたがそれを空だと理解するには、少しばかりの時間が必要だった。



 最後のアダム2に続く。

拍手[28回]

2008
February 29
<かづき君の視点>

 全く土俵の違う3人の表現者。
 役者志望の僕、作家志望のめささん、シンガーソングライターのぴぃちゃん。
 このメンバーで、何かできないだろうか。

 最初に言い出したのは、めささんだった。

「例えばさ、ぴぃちゃんの曲を聴いて、俺がそれをイメージした物語を書くとするじゃん。そうすれば、ぴぃちゃんの曲を主題歌にした、俺による脚本で、かづき君が主役の舞台なんて出来るかなあ、って。もし実現したら素敵じゃない?」

 それ以来、3人でちょくちょく集まっては打ち合わせと称した遊びが繰り広げられている。

 今日も、めささんからの着信があった。

「もしもし、かづき君? ハア、ハア」

 ちょっとした変態である。

 どうしたんですか、めささん。
 なんで息切れてはるんですか。

「今、チャリでさあ。後ろにでっかいテレビを積んで走ってるんだよね」

 それは一体、何故に?

「貰っちゃったの。しかも今、向かい風で大変苦しいことに」

 そんなタイミングで電話なんかしなきゃいいのに。
 で、どうしはったんです?

「いやあ、次回の打ち合わせなんだけどね? ぴぃちゃんの曲が本当に素晴らしいんだよ。そのCDをかけながら話をしたいからさ、俺ン家で飲みながら打ち合わせるってゆうのはどうよ? と、思ったわけ」

 ああ、なるほど。
 僕は全然OKですよ。

「おー、そっかー。って、ああッ!」

 どうしました、めささん!?

「テレビが! テレビが! あーッ! いや実はテレビ、自転車の後ろにくくりつけてるんだけどね? それでもテレビが重すぎて、今まさに落ちそうなんだ」

 大ピンチじゃないですか。

「しかも今から最大の上り坂だぜ? 俺は家までたどり着けるのでしょうか?」

 すみません、興味がありません。

「ま、いっか。じゃあ、次はぴぃちゃんに電話しておくよ」

 はーい、了解です。

 電話を切っためささんの吐息は、さっきよりも断然に激しい。



<ぴぃちゃんの視点>

 めささんからの電話を、あたしは取るべきじゃなかったのかも知れない。

「ハア、ハア。ぴ、ぴぃちゃん? 今、ハア、電話、ハア、ハア。電話、平気?」

 かなり興奮している様子が手に取るように解る。
 この人、そういうアレだったんだ。

「あのさ、次回、俺ン家で飲まない? ハア、ハア」

 嫌な予感、というか、いやらしい予感が確実にした。
 この男は息をハアハア切らせながら、あたしを部屋に連れ込もうとしている。

 どう返したらいいんだろうか。

「ハア、ハア、実はね? 今、ちょっと上ってて」

 テンションが?

「ああッ!」

 何をしていれば、そんなに切ない声が出せるのだろうか。
 というか、この人は今、何をしていたのだろうか。

「あ! あーッ!」

 もしかして、果てた?

「ハア、ハア。ぴぃちゃん、ごめん、俺、今、ピンチだから、というか、テレビがもう手遅れだから電話を切るね。ハア、ハア。あの、後でかけ直すから」

 結構です。

 なんというか、色々不安になった。

拍手[3回]

2008
February 19

「めささん、帰らないんですか?」
「疲れて立てなぁい」
「電車で帰ったらいいじゃないですか」
「乗り換えとか苦手~」
「じゃあもう好きにしたらいい」
「え? 車でしゃしゃしゃ~って送ってくれる?」
「そんなこと言ってません!」
「ええッ!? 生まれてくれてありがとう、感謝の印に送ります!?」
「もういいや。お疲れさまでーす」
「あ、はい、お疲れさまでした。なんか、すんませんでした」

 というわけで、今回は会社からの更新です。
 只今の時刻は午前2時30分。

 さすがに今日は会社に泊まるわけですが、コーヒーを飲んだばかりに、眠れないことに。
 夜間特有の、変なテンションです。

 じゃあ、自分へのお題。

「ずっと憧れだった女優が、まさかの電撃入籍! 決め手はプロポーズのセリフだったそうですが、さて、どんなプロポーズ?」

 ふむう、そうきたか俺。
 じゃあ、頑張るね。

「あ、ちょっといい? あのさ、暇な時でいいんだけどね? ちょっと俺と結婚してくんない?」

 いっけね、名言。

 しかも俺、1問で飽きた。

 何書こうかなー。

 あ。
 そういえばね?
 こないだ、弟が「仕事の心得10ヶ条」を書いて、会社に貼っていたんですよ。
 目を通すとね、なかなかいいことが書いてあるんです。

「誰も見ていないところでも努力を怠るな」

 とか、

「常に感謝の気持ちを持ち続けるべし」

 みたいな感じで、「10ヶ条」なのに、20個ぐらいの名言。

 弟よ、四天王が10人ぐらいいるみたいなことになっているぞ。

 俺も弟を見習って、「仕事の心得10ヶ条」を作ろうかなあ。

1・眠れなくなるんだから、夜間にコーヒーを飲むな。

2・できる限り、誰か俺を車でしゃしゃしゃ~って送ってあげて。

3・朝は8時に迎えに来てくれてもいいから。

4・何かジュースとか買ってくれたら、たくさん褒めてあげる。

5・お金がない時は、俺のいいところを10個ぐらい言ってくれたら許す。

6・わがまま言うな。

7・最近、後輩が俺に対して使う語尾が、「この、豚野郎!」

8・ゾクゾクくるべからず。

9・八つ裂きにするぞ! ぐらい言ってくれてもいい。

10・眠くなってきたので勘弁すること。

 あ、いつの間にか3時になってる。

 で、読み返してみたんですけど、さすが俺。
 劇的に酷いです。
 これは是非、明日の自分に読ませてやりたい。

 明日は朝1番で恥ずかしいに違いない。

 めさでした。

 この記事が消えていたら、耐えられなくなったのだとお思いください。

 それでは皆さん、おやすみんさい!

拍手[3回]

2008
February 16

 違うんです!
 悪魔王子の兄貴は、そんな人じゃないんです!
 そりゃ確かに兄貴はガラが悪いですよ。
 でも人相も悪いんです。

 そんなことをどっかで書いてから数年経った今でも、悪魔王子の兄貴とはちょくちょく連絡を取り合っている。

 兄貴を一言で表すならば、「食物連鎖の上のほうにいる人」だ。
 オーラだけで人を殺せそうな雰囲気をかもし出す男前である。
 情に厚くて意外に涙もろく、気さくで親しみやすいし、冗談も通じる。
 見た目だって怖い。

 悪魔王子という呼び名にしても、あだ名やハンドルネームなどではない。
 本名だ。

※うそです。

 で、そんな兄貴から届いた久々のメールがこれだった。

「めさ、ホッケって魚、知ってる?」

 1行。

 取り合えず、「知ってるっす」とこちらも淡白に返しておいた。

 以前、居酒屋さんで友達がおつまみとして注文したのを、味見させてもらったことがあるのだ。
 魚介類が苦手な俺でも美味しく頂けたので、印象に残っている。
 クセのない焼き魚だった。
 なかなか美味であったことを覚えている。

 再び、俺のケータイが鳴った。
 北海道から、兄貴がさらに返信してくれたのだ。

「横浜にもホッケあるんだ? そっちのホッケって美味い?」
「俺は美味いと思ったっすよ」

 それにしても、なんで兄貴は前触れなしにホッケのリサーチを俺にしてきているのだろうか。

「めさ、ホッケ焼ける?」
「やったことないっすけど、焼こうと思えば焼けそうな気がしないでもない感じがわずかにイケそうっす」
「よし。つべこべ言わず住所を教えなさい」

 なんだかホッケを送っていただけそうな雰囲気になってしまった。
 よく解らない展開だ。

 昔見た映画の、ある場面が脳裏に浮かぶ。
 どこかのマフィアが、殺人予告として、ターゲットの家に死んだ魚を送りつけていなかったか?

「お前をこの魚みたいにしてやるぜ!」

 そういったメッセージである。

 兄貴は一体、どいういうつもりで俺にホッケを?

 ホッケといえば大抵、開きになっているはずだ。
 ひい!

 ホッケを送る。
 開きになっている。
 さらに焼く。

 つまり、こういうことか!

「お前をこのホッケみたいに体かっさばいて、しかも焼いてやるぜ!」

 なんで俺がそんな目に!

 即行で兄貴にメールする。

「いやいや! そんな! とんでもない! 絶対にとんでもありません! いいっすよ兄貴! 俺、実はホッケなんて焼いたことないですし!」

 兄貴!
 お願いですから命だけは!

「駄目だ。焼けるって。自分を信じろ」

 よっ!
 この人殺し!

 覚悟を決め、俺は生命保険に加入していないことを後悔しつつ、泣きながら兄貴に住所をお教えした。

 数日後。

 俺は最高の笑顔で、ホッケを前にしている。

 あれから兄貴とメールを応酬し、ホッケの真意を知ったのだ。

 兄貴は経営者として優秀な人で、今度はホッケの通信販売を始めることにしたのだそうだ。
 最高級のホッケを商品として扱うので、それを食べた人たちから感想を集めているとのことだった。
 要するに、俺もホッケのモニターとして選んでもらえたわけだ。
 よかった、おマフィアなメッセージじゃなくて。

 そもそも、兄貴は信用できる男なのだ。
 それは、兄貴のハンドルネームにもよく表れている。
 本来なら「悪魔王子」ではなく、「悪魔大元帥」ぐらい名乗ってもいい実力者なのだ。
 それなのに兄貴は謙虚だから、「いやいや、俺が大魔王だなんてとんでもない。俺なんてせいぜい王子止まりですよ」とでも思ったのだろう。
 実に低姿勢である。

 それにしてもこのホッケ、身が厚い。
 焼く前から食欲をそそってくれる。
 嬉しすぎて死んじゃいそうだ。

 俺はチーフとスー君を自宅に招くことにした。

 チーフは料理人だし、スー君は食事が趣味。
 どちらも舌が肥えているから、人よりも正確に味の判定をしてくれるに違いない。
 俺は俺で、漫画「美味しんぼ」をたくさん読んでいるから、完璧だ。

 たった1枚の貴重なホッケ。
 グリルで簡単に焼くだけなのだが、念には念を入れ、調理はチーフにお願いをした。

 待つこと10数分間。







 焼きあがったホッケは、この世のものとは思えない出来栄えだった。
 まさに魔界のホッケだ。

「いただきます!」

 3人で同時に箸を伸ばす。

「ん! 美味い!」
「これはいい! 市販のホッケより全然いい!」
「嗚呼…」

 魚特有の変なクセや生臭さが一切ない。
 肉汁を彷彿させる油分がジューシーで、身が驚くほどしっかりと締まっている。
 ほどよく効いた塩分が絶妙で、さらにホッケの旨味を引き出している。
 チーフの焼き加減もいい塩梅で、とにかく美味かった。

 過去、食べ物で感動したことが3回あったが、今日ので4度目だ。
 スー君に至っては、美味しすぎて気を失いそうになっている。

 ただ1つだけ、困ったこともあった。
 こんなことを日記に書いたら、ただのグルメ日記になってしまうではないか。
 兄貴、やはり怖い人だ。

 3人とも夢中になって箸と口とを動かし続ける。
 あまりの幸福感に思わず、俺は卒業式の日に告白する乙女のようになってしまった。

「ホッケ、好き…」

 ライクじゃない。
 ラヴだラヴ。

 そうそう。
 せっかくなので、チーフとスー君にも、このホッケのありがたみを教えなくっちゃ。
 兄貴からの受け売りを、俺はまるで自分の知識のように話して聞かせた。

「ホッケの本場って北海道でしょ? でもね、これは北海道でも滅多に食べられない特上物なんだ。通常のホッケの開きって機械で干して加工するんだけどね、それだと肝心な油分がほとんど飛んじゃうし、身も伸びるんだよ。ところがこのホッケは天日干しっていってね、ちゃんと自然に干してあるんだ。しかも、このホッケの仕入れルートは日本で1ヶ所しかないの。そこと兄貴は提携したんだ。この俺の、兄貴がね!」

 俺と兄貴が実の兄弟みたいな嘘アピールも、ついでだからしておいた。

 どうよ?
 と得意げな顔で2人に目をやる。

「身がしっかりしてるよなあ」
「美味しいなあ」

 チーフとスー君は、ホッケに夢中で俺の話を全く聞いていなかった。

 兄貴、この2人にはマフィア的な意味で死んだ魚を送ってください。

 それにしても、俺が知っているホッケよりも数段美味であった。
 今後は自ら注文しようと兄貴に値段を訊いてみる。

「価格? 1枚につき2000円にしたよ。物が極上物だけに、さすがに普通よりちょっと値が張るけどね」

 身代金より安いじゃないですか兄貴。

 自分へのご褒美として注文したら、今度は誰も呼ばず、独り占めすることにした。

 それにしても本当に美味しかったものだから、オチに困る。
 とにかくホッケを発明した人は天才だ。

拍手[3回]

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プロフィール
HN:
めさ
年齢:
49
性別:
男性
誕生日:
1976/01/11
職業:
悪魔
趣味:
アウトドア、料理、格闘技、文章作成、旅行。
自己紹介:
 画像は、自室の天井に設置されたコタツだ。
 友人よ。
 なんで人の留守中に忍び込んで、コタツの熱くなる部分だけを天井に設置して帰るの?

 俺様は悪魔だ。
 ニコニコ動画などに色んな動画を上げてるぜ。

 基本的に、日記のコメントやメールのお返事はできぬ。
 ざまを見よ!
 本当にごめんなさい。
 それでもいいのならコチラをクリックするとメールが送れるぜい。

 当ブログはリンクフリーだ。
 必要なものがあったら遠慮なく気軽に、どこにでも貼ってやって人類を堕落させるといい。
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