夢見町の史
Let’s どんまい!
September 25
気持ちとしては、体の倦怠感とは裏腹に「とうとうやっちゃった。大人の階段、登っちゃった」などと高揚している。
初体験は、18歳の頃だった。
相手は年上の、優しい雰囲気のお姉さんだ。
場所はというと、当時にしてはちょっぴり珍しいかもしれない。
通常ならベットの上で行なうのだろうが、俺は車の中で、した。
子供には決してできない行為。
初めてだった俺に対し、お姉さんが何かとリードしてくれる。
「横になって?」
「は、はい」
心の中で、「優しくしてください」とテレパシーを送った。
「もしかして、初めて?」
あまりに俺が切ない表情になっていたからだろう。
お姉さんに見抜かれてしまった。
「はい、実は初めてで…。ちょっと緊張してるみたいです…」
横になりつつ、不安げに応える。
正直、怖い気持ちもあった。
でも、愛がなければ出来ない行為だ。
そして、1人で行なえることでもない。
頑張るぞう。
大人になるぞう。
お姉さん、経験豊富と思われる貴女のテクニックで、あんまり痛くしないでください。
「最初はこれで…」
見ると、お姉さんは見たこともない器具を手にしている。
それを、どうするつもり…?
ひゃ…。
い、たい…。
お姉さん、それは、入れるところが違うんじゃ…?
若かったのだろう。
俺は挿入と同時に、出してしまっていた。
何をかって?
体液だ体液。
俺の液だっつうの。
訊くな。
「じゃあ、いよいよ本番ね」
と、お姉さん。
どうやら、今までのは本番じゃなかったらしい。
初めてだったから知らなかった。
ああッ!
もっと太いの持ってるう!
まさか、ソレも俺に使うんですかッ!?
そんな太いの入れられたら俺、壊れちゃう!
んッ!
…ああ、入ってしまった…。
だんだん大人になってゆく俺。
入れられちゃった瞬間は確かに傷みを感じていたけれど、すぐにそれは気にならなくなった。
ただ、あんなに太いのを入れられるとは思っていなかったので、その点では本当に面喰らった。
恐怖だ、あれは。
俺の体に、太いアレがガッツリ入ってる。
声が漏れそうになる。
でも、聞かれたら恥ずかしくって、意識して黙った。
目を閉じていたかった。
けど、好奇心が勝って、ずっと結合部分を眺めていた。
俺の体内からは、あの液体がドクドクと勢いよく出てゆく。
俺は源泉かっつうの。
うつろな目のまま、自分の体液に触ってみる。
当然ながら、それは暖かかった。
人肌の温度。
いっぱい、出しちゃった。
初めてだったからだろう。
シーツに少し、血が付いてしまっていた。
「お疲れ様」
お姉さんが手渡してくれたジュースが美味かった。
初めての相手が、この人でよかったなあ。
うっとりと、そんなことを思った。
あれから13年。
今となっては何度も経験を重ねているから、すっかり慣れっこである。
基本的に受け身だ。
何人もの女性に手数をかけさせ、出させていただいた。
気持ちいいことだったぜ?
って感じの、終った後の一服がたまらない。
そんな感じ。
未経験者の方は、恐れることなく、是非チャレンジしていただきたいと思う。
痛いのは最初だけだから、大丈夫。
終ったあとも、気分がよろしい。
以上、初めて献血をした時の様子でした。
大人になりました。
September 25
「めささんって、官能小説だけ書いてないですよね」
「え!?」
ネット上にアップするしないにかかわらず、今まで色んなジャンルの文章を書いてはきたけれど、でも確かに、どエッチな内容には手を出したことがない。
恥ずかしいからだ。
どんな顔して書いたらいいのか解らない。
そもそも俺は、周りがエッチい話を始めた途端、無口な男に早変わりしてしまうほど、純情ぶっているのである。
それがいきなりお官能な小説などを書いてしまっては、今日まで培ってきた好感度が台無しだ。
「じゃあ、めささんに新しい日記のお題ね? エッチな小説」
「え!?」
さっきから俺は「え!?」しか言えてない。
マジで困っているのだ。
たまに日記で配信している創作物のだいたいは、ちょっとした企画のために、全て他者から出されたお題に沿って考案したものだったりする。
つまり、今度は官能小説を書かなければいけないというわけだ。
「まさか、めささんともあろうお方が、書けないとでも?」
「ばかじゃん! 書けるさ! 書けるに決まってるじゃんか!」
あーあ~。
言っちゃった。
夜中に1人、ブランコに腰かけたい気分だ。
どう表現しよう。
匿名で書こうか。
それでもなんか、俺のことだ。
赤面しそう。
恥ずかしがるなら最初から引き受けるなと、ついさっきの自分をぶってやりたい。
だいたい、ネット上でアップするのだ。
小学生の人の目に触れちゃうかもしれない。
匿名でめっちゃエロく書けたとしても、めさの作品だってどっかからバレちゃうかもしれない。
いや、恐れていては何も始まらぬ。
そうだ。
創意工夫をもって俺らしさを表現してみよう!
ここぞとばかりに、何でも書けるアピールをしておこう!
そもそも俺、ウブな坊やって歳じゃないし!
「ようし、やってやる!」
「ホントですか?」
「もちろんさ」
俺は胸を張る。
「文章ってのは、文字だけで読み手のインスピレーションを刺激するものだろ? 文字には匂いも風景もないし、音も聞こえさせない。それにもかかわらず、情景を浮かべさせる」
「ふむふむ」
「今回は、読み手の想像力に重点を置く。大人が読んだらエッチな感じだけど、子供の人が読んでも意味が解らんような、そんな仕掛けを施す!」
「へえ。どんな風に?」
こんな風に。
<めくるめくピンクな雰囲気になってください。読むのはそれからです>
服を着た女の人がいました。
でも、考えられないような驚愕のシチュエーションがあって、結果的には全裸です。
何が起こってそうなったかは、各自で想像してください。
あなたのツボを直撃する状況が好ましいです。
あと、男の人も近くにいます。
性的な意味で。
なんかもう、意欲満々です。
性的な意味で。
それでアレです。
詳しくはいえませんが、男の人がとっても頑張りました。
イエスッ!
おちょめちょめと、けっこうしつこく、色々やっておりますよ。
ひゃおう。
これは凄い。
とても口に出せない。
いや、どこに出すとか、そういうことは置いといて。
ああッ!
そないなことまでアレしますか。
これは作者泣かせです。
でね、もうね、べらぼうですよ。
人類繁栄しちゃう。
詳しくは各自、想像してください。
この好き者が。
さてさてと。
色々ありましたが、男の人は満ち足りた顔して「どないな感じだった?」的な質問をしています。
女の人は、「まずまずでした」って態度でした。
おしまい。
どう?
興奮ものだべ?
このスケベ!
「どこがですか、めささん。これ、読み手の想像力に重点を置くっていうより、読み手の想像力に丸投げしちゃってるじゃないですか」
一生懸命、頑張りました。
でもこれ、よくね?
読み手に想像力があればあるほど、完成度が勝手に高まっていくんだぜ?
「想像力がある人なら、こんな文に頼らないで妄想に励みますよ!」
そうやってすぐに正しいことを言うのは、お前の悪い癖じゃないですか?
「正しくて何が悪い! だいたい、こんな稚拙な文章を読んだのは初めてです!」
フッ!
よせよ。
「褒めてねえよ! なんでちょっと誇らしげなんですか!」
そう怒るなよー。
だいたい官能小説って、作者自身が興奮するぐらいの作品でないと駄目らしいぜ?
俺が書いたこんな文章で、俺が熱を上げると思うか?
なめんなよ?
「うわあ! 自分で書いておいて、全否定~」
とにかく俺には無理!
もう書かないからね!
俺はやる時はやるけど、やらない時は絶対にやらないんだ。
「こんな大人になりたくねえ」
俺も同感だ。
どんまいどんまい。
しっかし、こんなことなら「B'zの稲葉とジャッキー・チェンは不老不死」とか、オリジナル格言集でも書いておくんだったなあ。
それもでもまあ、どんまい!
September 19
バスを待つ合間を利用して、俺は携帯電話を開いた。
友人がすぐに出る。
もっしー。
今、大丈夫?
「大丈夫だよ。何?」
いやね?
今度みんなで海に行こうって話になってさあ。
それでお前も誘おうと思って。
「へえ、いつ行くの?」
来週の土曜。
「来週? 泳ぐには寒いんじゃない?」
釣りでもしようと思ってね。
「釣りかあ。でもさ、せっかく釣っても、誰も魚なんてサバけないんじゃないの?」
キャッチ&リリース!
佐々木と鈴木も来るって。
「へえ。あいつらも暇だなあ。あれ? お前今日、店に出るとか言ってなかったっけ?」
俺?
今日バイト休みー。
「あ、そうなんだ。それにしても、海かあ。嫌じゃないんだけど、どうもなあ。いつ行くんだっけ?」
だから来週の土曜日に行く予定だってば。
「来週って、何気にけっこう先のことじゃね? モチベーション下がって行きたくなくなったとか言い出す奴、きっといるぞ。だからどうせ行くならさっさと行こうよ。明日とかさ」
お前ホントせっかちだなあ。
そんなんじゃ、彼女にも逃げられちゃうぜ?
「彼女、か。いたなあ。そんな奴も」
え!?
お前ら、何かあったの?
「メールが返ってこなくなったからさ、毎日家の前で待ち伏せしてたんだ」
そりゃお前、ストーカーだろー。
「だってよう。疑われるような素振りだった彼女のほうが悪いよ。そもそも俺、せいぜいゴミ袋ぐらいしか漁ってないぜ?」
それも駄目だって。
犯罪に近いものがあるもの。
「そういうお前はどうなんだよ? そろそろ彼女に飽きられちゃうんじゃないの?」
え、俺?
俺はうまくやってるもん。
「まあ、そうだろうなあ。ごめんな、変なこと言って。ちょっとナーバスになっててさあ。彼女、まだ怒ってるかなあ? どん底だよ」
とにかくさ、お前から謝ったほうがいいって。
「うん、まあ、タイミング見て、切り出してみるよ」
あ、そうそう。
「ん?」
これから山田にも声かけようと思うんだ。
「げ! 山田!? あいつ、俺が言うのもなんだけど、危ない奴だぜ?」
え!?
山田って、何かやったの?
「見た奴の話なんだけどさ、あいつのケータイ、隠し撮りした画像ばっかりなんだってよ」
えええ!
マジでー!
「俺も、それ聞いたときはびっくりしたよ。真面目そうな奴なのになあ」
でもまあ、あいつも色々あるだろうからさ、しばらくほっといてやろうよ。
「だなあ。あ、話は戻るんだけどさ、海行くの、来月にしねえ? その頃だと俺、好都合なんだ」
ん?
来月?
そりゃ遅いよー。
「俺、極端だけど、明日か来月かの、どっちかがいいんだけどなあ。なかなか忙しい身だもの」
とにかく来週の土曜、空けとけよな。
「ちっ。解ったよ、空けとくよ。お前こそ、誘っておいて忘れるなよ?」
おう、解ってるって。
じゃ、また連絡するよ。
「うん、解った。一応、来週になったら俺からも連絡するよ」
うん、はいよー。
「じゃあなー」
はーい。
ばいばーい。
俺は電話を切った。
<ある刑事の視点>
捜査中のことだ。
胸に忍ばせていた携帯電話が細かく振動する。
着信は、部下からだ。
俺はイヤホンマイクを手早く装着した。
「もしもし先輩! 今、大丈夫っすか!」
今は尾行中だ。
ターゲットが喫茶店に入ったから、多少なら大丈夫だけどな。
どうした?
「連続強盗殺人事件の容疑にかかってる、あいつ、いるじゃないっすか。実はその、さっき取り調べ中にですね? 署から脱走されてしまいまして…」
何!?
取調べ中に容疑者が逃げ出したァ!?
いつの話だ!?
「つい、20分ほど前っす…」
何故すぐに知らせなかった!?
「すんません! なんか、テンパっちゃって…」
なんで逃げられたんだよ!
「俺、みんなに飯休憩を許可したんす。そんでついでに、コンビニで猫のエサを買ってきてくれって頼んでて。ほら、うちの猫、めっちゃ大食いじゃないっすか」
そんなことを聞いているんじゃない!
だいたい、お前は一体、何をやっていたんだ!
「すんません! 徹夜続きだったもんで、仮眠を取ってしまいました!」
ばっきゃろう!
すぐに足取りを追うんだ!
検問の手配もすぐにするんだ!
「え、あ、はい! で、でも、まだ署内にいるかも…。まだ逃げてないのかも…」
とっくに逃げられてるだろうが!
「俺もう、わけ解んないですよ~! 先輩、戻ってきてくださいよ~!」
俺は尾行中だ!
「尾行って、例の放火の容疑者ですか?」
違う!
下着泥棒だ!
「そんなのほっといて、こっち来てくださいよ~。そっちの容疑者より、こっちの容疑者のほうがでかいっすよ~」
どっちも同じ犯罪者だろうが!
そういう問題じゃないんだ!
「ふひい! す、すんませんでした!」
ごめんで済んだら警察いらねえだろ!
「ごめんって言ってないっすよ~。すんませんって言ったじゃないっすか」
そんなことはどうでもいい!
相手は全国指名手配犯なんだぞ!
さっさと追え!
「え、いや、でも、先輩がいないと…! だいたい先輩、誰を追ってるんです?」
だから下着泥棒だって言ってんだろ!
とにかく今回、俺は動けない!
お前らだけで何とかしろ!
奴を野放しにするな。
放っておいたら、また犠牲者が出るぞ!
すぐに行け!
「うう、はい…。じゃあ、今から、署を出ますう」
遅いんだよお前は!
む!
ターゲットが喫茶店から出てきた!
切るぞ!
「ふえ!? もう?」
必ず報告しろ!
じゃあな!
俺は電話を切った。
<ある第三者の視点>
街のベンチで一服していると、背後から話声が聞こえてきた。
「もっしー。今、大丈夫?」
「今は尾行中だ。ターゲットが喫茶店に入ったから、多少なら大丈夫だけどな。どうした?」
「いやね? 今度みんなで海に行こうって話になってさあ。それでお前も誘おうと思って」
「何!? 取調べ中に容疑者が逃げ出したァ!? いつの話だ!?」
「来週の土曜」
「何故すぐに知らせなかった!?」
「釣りでもしようと思ってね」
「なんで逃げられたんだよ!」
「キャッチ&リリース! 佐々木と鈴木も来るって」
「そんなことを聞いているんじゃない! だいたい、お前は一体、何をやっていたんだ!」
「俺? 今日バイト休みー」
「ばっきゃろう! すぐに足取りを追うんだ!」
「だから来週の土曜日に行く予定だってば」
「検問の手配もすぐにするんだ!」
「お前ホントせっかちだなあ。そんなんじゃ、彼女にも逃げられちゃうぜ?」
「とっくに逃げられてるだろうが!」
「え!? お前ら、何かあったの?」
「俺は尾行中だ!」
「そりゃお前、ストーカーだろー」
「違う! 下着泥棒だ!」
「それも駄目だって。犯罪に近いものがあるもの」
「どっちも同じ犯罪者だろうが!」
「え、俺? 俺はうまくやってるもん」
「そういう問題じゃないんだ!」
「とにかくさ、お前から謝ったほうがいいって」
「ごめんで済んだら警察いらねえだろ! そんなことはどうでもいい!」
「あ、そうそう。これから山田にも声かけようと思うんだ」
「相手は全国指名手配犯なんだぞ! さっさと追え!」
「え!? 山田って、何かやったの?」
「だから下着泥棒だって言ってんだろ!」
「えええ! マジでー!」
「とにかく今回、俺は動けない! お前らだけで何とかしろ! 奴を野放しにするな」
「でもまあ、あいつも色々あるだろうからさ、しばらくほっといてやろうよ」
「放っておいたら、また犠牲者が出るぞ! すぐに行け!」
「ん? 来月?」
「遅いんだよお前は!」
「そりゃ遅いよー。とにかく来週の土曜、空けとけよな」
「む! ターゲットが喫茶店から出てきた! 切るぞ!」
「おう、解ってるって。じゃ、また連絡するよ」
「必ず報告しろ!」
「うん、はいよー」
「じゃあな!」
「はーい。ばいばーい」
俺は何も聞かなかったことにした。
September 18
「K美ちゃんの結婚式でさ、俺たちも演奏することになったから」
「何故それを2週間前に言うんだ」
曲は決まっているので詞を書いてくれ。
とも言われた。
結婚するK美ちゃんというのは、スナックSの2代目ママのことだ。
つまり、俺の以前の上司ということになる。
思えばなかなか長い縁が、彼女とはある。
散々飲んで
朝日を眺めたり
品の無いジョーク
飛ばし合ったり
恋愛の話で盛り上がったり
柄になく夢をマジで語って泣いたり
K美ちゃん自身、バンドを組んで長いので、式場は彼女が慣れ親しんだライブハウスだ。
関内のCLUB24。
メジャーデビューしているアーティストがちょくちょく出入りしているような会場のステージに、まさか自分たちが立つことになるとは思わなかった。
まともにバンド活動してない俺が、なんでCLUB24なのよ。
俺の中で「ひゃっほう! 初ライブハウス!」っていう浮かれと、「マジで!? 初ライブハウス!?」っていう戸惑いが戦い始めた。
そもそも練習時間がない。
死刑宣告に近い電話をいきなりくださったギターの彼と、ベースの彼と、俺。
3人とも忙しいだろうし、それぞれ職場が違うから、音合わせ1つにしても会うのは難しそうだ。
演奏予定の曲は2曲だけだそうだが、うち1曲は大急ぎで作詞して、空で唄えるように覚えなきゃならない。
最低でも1ヶ月は欲しい。
だけれども、俺は電話口に了承の意を伝えてしまっていた。
他ならないK美ちゃんの結婚式だからだ。
あれからどれくらい経っただろう
あなたは美しいままで
世界を愛しながら
夢を信じながら
差し伸べられた彼の手を握り締めた
音源は、すぐにギターの彼が持ってきてくれた。
しかし俺は忙しく、結局3日間は別のことから手が離せないままだった。
結婚式まで、あと10日。
最初にやる曲は、以前に何度も演奏したことがあるので問題はない。
ところが2曲目はというと、歌詞もアレンジもまるで決まっていないのである。
どうしよう。
「もしもし、めさ君? 詩、出来上がった?」
「忙しくってまだ! 今から書く! 今夜中に完成させる!」
電話を切り、お祝いの気持ちを精一杯込めて、パソコンに向う。
式ではおそらく、もっと深く、もっと多くの祝福で溢れかえるに違いない。
おめでとう
今日は新しい愛のバースデイ
あなたたち2人なら
これからくる人生のトラブルなんてぶっ飛ばせる
2人が包まれる
たくさんの笑顔に
新郎新婦の姿、性格、雰囲気を思い浮かべる。
あなたたちが人から愛されるのは
あなたたちこそが人を愛しているから
ありがとう
2人が出逢ってくれて
ありがとう
2人、元気でいてくれて
それにしても、独身仲間が、また1人減ってしまうのか。
めでたいんだけど、なんかアレだな。
ま、いいけどさ。
とっとと先に進んだらいいさ。
なんて正直なことも考えた。
そりゃちょっとぐらいなら寂しいとか
切ない気分もあるけれど
もっと確かな気持ちは
揺るがない気分は
嬉しくて
僕らこそが幸せで
なんだかんだで、歌詞は夜中になってやっと完成した。
バンドメンバーに詩をメールして、床につく。
眠い時に書いた詩だから、なんか心配である。
翌日になって読み返してみたり、口ずさんでみたり。
自分贔屓かもしれないけど、悪くないように思えた。
歌はこれでいこう。
変更はなしだ。
2人の門出に、これを唄おう。
新しい幸せ作りの旅が今始まる
たくさん出来上がるでしょう
寒い夜
冷たい風
余裕で乗り越えて
無敵の2人でありますように
結婚式当日。
その日になって初めて、自分たちのバンド名を無理矢理につけることになる。
グループ名がないと、司会の人が俺たちの呼び名に困っちゃうからだ。
「いきなり無茶な段取りを強いられたから、バンド名は『無茶振り』でいいんじゃない?」
「じゃあそれで!」
なんとも微妙なネーミングセンスである。
ローマ字で「MUTYABURI」なのか、カタカナで「ムチャブリ」なのか全く不明だが、そこが気になる人はいないだろう。
俺たちも特に決めてない。
初ステージという緊張感。
早く唄いたくてたまらないという乗り気。
なんだかそわそわしながら、舞台に立つ。
演奏が始まる。
どきどきしつつも、マイクに向って祝いの心を込める。
おめでとう
今日は新しい愛のバースデイ
あなたたち2人なら
これからくる人生のトラブルなんてぶっ飛ばせる
2人が包まれる
たくさんの笑顔に
唄っていて、最高に気持ちがよかった。
音楽をやっている人の気持ちを、さらに知れたような心地だ。
2曲とも、どうにか無事に終ることができて、俺はもう1度だけマイクを口元にやる。
「おめでとう」
客席から「ありがとー!」と、聞き慣れた元気な声がした。
September 13
ある知人が作った牛乳の歌。
メロディは各自、自由にご想像ください。
牛、乳♪
美味いぞ牛、乳♪
凄いぞ牛、乳♪
ゴックンゴックン飲ーむー♪
牛乳♪
にゅにゅにゅ~♪
鬼才現る。
あれだけある牛乳の長所から、味についてしか拾わないとは。
「にゅにゅにゅ~♪」で終るところもイカしてる。
くっそう。
なんか負けた気分だ。
皆さん、おはようございます。
よく意外に思われるんですが、俺は1人でいることが好きなんですよ。
人と一緒にいることももちろん好きなんですけれど、基本的には1人でいたい派です。
一人旅もそう。
絵や文章を書くことだってそう。
果ては1人鍋やエアデートなどといった、ある意味幸せな1人プレイを編み出す始末。
よくいえば、ソロ活動。
ただ孤独ってのも寂しいから、そういうのを紛らわすためにも、何か他に1人じゃなきゃ出来ないことでも考えよう。
どれだけ友達のいない人みたいな発想なのでしょうか。
もちろんこれは、自分会議によって出されたアイデアです。
様々な特徴を持った自分たちを脳内に呼び出し、ある議題についての相談をする。
それが自分会議。
ちなみに脳内のめさは、日々増殖の一途を辿っています。
新しいタイプの自分がいつの間にか紛れ込んでいたりして、発見もある感じ。
「ある感じじゃねえよ。1人で出来ることなんて、いっぱいあるじゃねえか」
「例えば?」
「晩酌、妄想、睡眠、独り言に一人芝居、読書に哲学」
「反復横跳び」
「人知れず反復横跳びやって何が楽しいのでしょうか」
「1人合コン、自分サプライズ、孤独チャット、フェイント結婚」
「切ねえ! なんか可哀想で涙出てきた」
「気の合う仲間と飲みたいよう」
「どんな仲間であろうと、所詮は他人だ。心に壁を作って、ある程度の距離を置いたほうがいい。理解がされたいのなら、永久に無理だから諦めろ。恋人も作るな」
「悲しいこと言うなよ~」
そんな感じ。
「そんな感じじゃねえよ。なに勝手に締めくくってんだよ」
「ねえねえ、あと、あれは? 1人フェスティバル!」
「具体的に、何をやるんだそれは」
「勝手に盛り上がるの! 恐竜のマネとかして!」
「ほう。それは興味深いね。試しにやってみてくれる?」
「おんぎゃーす! おんぎゃーす!」
「似てる!」
「なんで解るんだよ!」
ちゃんちゃん♪
「ちゃんちゃんじゃねえよ。効果音が古いんだよ」
「他、なんかある?」
「あとはねえ、爆弾処理とか?」
「それは確かに1人だけでやるべきだ!」
「いや、それだと心細いから、大勢に見守ってもらおうぜ」
「駄目すぎて物も言えないよ。だいたい、そこまでして無駄に命を賭けるメリットって何? 爆弾はどっから用意するのさ?」
「爆弾処理が駄目なら、爆弾発言ってのはどうよ?」
「全国ネットでか!」
「皆さん聞いてください! 俺、結婚します!」
「今日って4月1日?」
めさでした。
「めさでしたじゃねえよ。ワンパターンなんだよ」
「あと、1人マジックショー!」
「びっくりしたよ。お前の発想にびっくりして、耳がでっかくなっちゃったー!」
「上手いじゃん! その耳、どこで買った?」
「東急ハンズ」
なんか盛り上がってる。
めさでした。
酔ったときの口癖が「靴が履けなぁい」って俺、1人じゃ駄目じゃん。