夢見町の史
Let’s どんまい!
June 04
うむ、今日も盗まれていないな。
よかった。
この仕事後のお弁当がささやかな楽しみでね。
というわけで、頂きますよーっと。
弁当を喰えるって、本当に幸せなことだ。
いやね、たまに弁当が盗まれる時があるんだよ。
犯人は解ってる。
間違いなくトメの仕業だ。
そう。
あの不良社員のトメ。
奴とは中学からの腐れ縁なんだ。
トメの野郎、思い出しただけで眼球を触ってやりたくなるぜ。
ある日ね?
俺は夜食用にチキンカツ弁当を注文していたんだよ。
仕事が終って、いそいそと弁当の蓋を開けるだろ?
そしたらさ、明らかにカツが小さいんだ。
正式名称はビッグチキンカツなのに、あんまりビッグじゃないの。
真ん中の、1番でかいパーツだけ喰われていたんだ。
空いたスペースは、両サイドのカツを寄せることで埋められていた。
まるで「最初からこのサイズのカツですよ」といわんばかりだった。
なんだその芸の細かい浅はかな工夫は!
バレバレなんだよ!
しかもあの野郎!
申し訳ない気持ちからなのか、他の弁当から竹の子を盗んで、カツの代わりに俺の弁当に入れやがって!
俺は竹の子が苦手なんだよ!
あ、すまん。
取り乱しちまった。
でもさ、トメに弁当を盗まれたのって、これだけじゃないんだよ。
高2の時かな?
昼飯にしようと思ってカバンから弁当を出したら、やたら弁当箱が軽くってさ。
慌てて蓋を開けてみたら、案の定中身が空っぽになってて、紙切れが1枚だけ入ってたんだ。
なんて書いてあったと思う?
「ごちそうさま。ルパン3世」
どこの世界にルパンに弁当盗まれる高校生がいるんだよ!
「あああーッ! ルパンに弁当盗まれたー!」
思わず現実離れした悲鳴が出たっつうの!
「おのれェい! ルパーン!」
ちょっと銭型チックに怒鳴りながら、トメの教室に駆けつけてさ、問い質したんだ。
「テメー、ルパンだろ!」
どんな言いがかり?
そんな目を周りからされたよ。
「トメお前、俺の弁当喰っただろ!」
「俺じゃねえよ~」
「あの書き置きはどう考えてもお前っぽい発想だろうが! 筆跡鑑定するからこれに『ごちそうさま。ルパン3世』って書いてみろ!」
「んあ? いいぜ~」
「いや、やっぱいい。どうせ筆跡を変えて書くんだろ? 他の手でお前がルパンだって証明するからいい」
「いや、書くって~」
「いいよ、時間の無駄だ」
「いいから書かせろよ~」
俺、何度も「書かなくていい」って言ったんだぜ?
でもトメがどうしても書くって言って聞かないから、筆記用具を渡したんだ。
「ほら、書いたぜ? これで誰が犯人か判るだろ~?」
「ルパンが残したメモと全く同じ字なんですけど」
「な?」
「なにが『な?』だ! やっぱりテメーがルパンなんじゃねえか!」
なんでトメ、あんなに強引に筆跡鑑定を受けたんだろう。
やらなきゃいいのに。
とにかく、そういったことがあったからさ、俺にとって弁当ってすっごく貴重な物なんだよ。
盗まれただけでなく、強引に奪われたこともあったから。
どうした?
肩、震えてるよ?
そうか。
俺のために泣いてくれているのか。
なあに、人にはそれぞれ、暗い過去の1つや2つあるものさ。
でも、ごめんな?
重い話、しちまって。
でもたまには、こういった俺の陰の部分も見てもらいたく、え?
違うって何がだ。
June 03
ネット仲間から届いたメールには、そのようにあった。
そんなの出たいに決まってるっつーの!
そっちの業界に疎いので女優さんのお名前は存じなかったけれど、そうか。
AVな女優さんと一緒に麻雀大会か。
どこか甘美でおセクシーなイメージが超広がる。
そんな素敵極まりない大会、めくるめくアレな予感が隠し切れない。
「リーチ!」
「いやーん」
そんなやり取りだけで今年1番の思い出になりそうだ。
ちなみに今の想像では、「いやーん」って嬉しそうに嫌がっているのが俺だ。
俺、負けたら脱衣麻雀ゲームみたいに脱ぎますか?
いやマジな話、作家志望としてインタビューなど色々してみたい。
そして他のことも色々してみたい。
なんて赤面しつつキーボードを打つ俺は、今何を書こうとしていたのだろうか。
アグレッシブな下ネタを書けない自分が好きだ。
メールの詳細に目を通す。
麻雀大会の日取りは土曜とあった。
土曜は仕事じゃないか。
俺の脳内に、呼ばれてもいないのに天使と悪魔がしゃしゃり出る。
悪魔「仕事? ンなモンは関係ねえ。サボっちまえよ」
天使「いけません! ちゃんと報告して休みを取るべきです! AV女優と麻雀したいので休みますって言え」
俺「お前たちの意見は分かれているようで分かれていませんね。結局参加したいんじゃないか。でも駄目ー! どこの世界にそんな不埒っぽい理由で休む会社員がいるんですか!? いや別に、いやらしい大会じゃないんだろうけどさ」
悪魔「じゃあオメー、諦めるのかよ?」
天使「生でAV女優ですよ?」
俺「天使ともあろうお方が、その言い方はどうかと」
悪魔「いいから考え直せよ。モニター越しのAV女優じゃなくって、ちゃんとした人間の細胞でできたAV女優だぜ?」
俺「ちゃんとした人間の細胞って何だよ! だいたい真面目な話、行きたい理由は取材的な目的なんだっつーの! 下心を誘発するような説得は無駄だね!」
天使「ウザってえなテメーは。31にもなってカマトトぶってんじゃねえよ。本性さらけ出せよ」
俺「お前が先に本性出してどうする」
悪魔「しかしよぉ、滅多にある機会じゃねえのは確かだろ?」
俺「まあねえ。麻雀大会ってだけでも俺にとっては珍しいイベントだよ」
天使「全くです。麻雀大会になど、そうお呼ばれされませんからね。だってお前は、麻雀のルールを覚えられるほど賢くないのだから」
俺「どこまで毒舌なんだこの天使」
悪魔「おい待て! 土曜に仕事があるとか以前にお前!」
俺「ん?」
悪魔「麻雀のルール知らねえじゃねえか!」
俺「ああーッ!」
不参加決定。
天使「昭和のバラエティ番組を彷彿させるリアクションしか取れないお前にがっかりしました」
俺「うっせえ!」
リーチとロンとポン。
あと他に何があったっけ、麻雀って。
めさでした。
違うの。
賭け事なんか嫌いなの。
堅実に仕事で稼ぎたい人なの。
だから麻雀なんて、麻雀なんて。
ごめん。
強がりました。
May 31
「飲むー!」
毎度お世話になっているバー「イージーバレル」に妹を呼び出した。
まずは乾杯だ。
「なあモンブラン。お前、『相田みつを』って知ってるか?」
「知ってるー!」
相田みつを氏とは、一風変わった字体で一言メッセージを描く偉人だ。
その内容は読んだ者を元気づける物ばかり。
「つまづいたっていいじゃないか にんげんだもの みつを」
有名なこの作品を目にした方も多いのではなかろうか。
「モンブラン、相田みつをの作品、好き?」
「すっごい好きー!」
そうか、好きか。
よかった。
俺は色紙を手にした。
「お前へのプレゼントはな、そんな相田みつをさんの作品だ」
「マジ!?」
「おう、マジだ。ほら」
4枚の色紙を妹に手渡す。
瞬間、妹が椅子から崩れ落ちた。
「オメーの字じゃん! オメーの字じゃん!」
大泣きしながら大笑いしているので、他に言葉が選べない様子だ。
「オメーの字じゃーん!」
それしか言えてなかった。
「いいから読んでみろよ。癒されるぞ?」
床にべったりとくっ付いている妹を救い、椅子へと戻す。
彼女は1枚1枚、目に涙を溜めながら色紙を一読した。
「所詮、この世は金が全て。みつを」
「先にシャワー浴びてこいよ。みつを」
「合コン!? いついつ!? みつを」
そして最後の1枚は、なかなかの長文だ。
これはセリフの応酬といった形式で、相田みつを作品にしては珍しい構成となっている。
「渋谷ってさ、人多いよね」
「え? ああ、多いね」
「俺、スクランブルエッグが渡れなくってさあ」
「渡る必要ないだろ」
これの最後に「みつを」とサインがしてある。
妹の肩は、ずっと震えていた。
「ゼッテーみつを、こんなこと描かねえよう!」
有名な芸術家に対し、「みつを」と呼びつけ。
どうして妹は偉人と目線が対等なのだろうか。
「斬新なメッセージだろ? どうやら初期の作品みたいでな」と言っても、聞きやしない。
「もー! オメーの字じゃーん!」
「面白かった? できれば筆で描きたかったんだけど、あいにく油性ペンしかなくってさあ」
「オメーの字じゃーん!」
「これ、会社で書いたんだけどさ、凄い人気で、最初に書いた作品は他の社員に持っていかれちゃったよ。さすが相田みつをさん」
「オメーの字じゃーん!」
泣き笑いで、妹は紙に何かを書き出す。
礼状でもしたためているのだろうか。
「なに書いてんの? 見して」
そこには妹の丸文字で、こうあった。
「あにきの なみだ みえもしない モンブラン」
なに一句詠んでるのだろうか。
今度は俺が椅子から崩れ落ちた。
May 24
「めさ、B‘z好きだろ? 『OCEAN』って唄える?」
「オーシャン? いや、ごめん。わかんないや」
「じゃあ覚えろ! 今から俺が唄うから! すっげーいい曲なんだって! とにかく歌詞がいい!」
数年ぶりに会った親友は、相変わらず落ち着きがない。
気持ち良さそうにカラオケを唄うところなんかも、昔のまんまだ。
「な!? いい曲だっただろ!? お前、ぜってー覚えろよ!?」
いい感じに酔って、熱く語るところも変わっていない。
俺は「気が向いたらCDを買うよ」と、その場を誤魔化しておいた。
今から半年ほど前の話だ。
タカシとは、もう10年以上の腐れ縁になる。
いつもカラオケに行って、酒を飲んで、語り明かし、笑い合った。
5月22日。
スーツを着込み、電車に乗り込む。
あのタカシが今日、結婚式を挙げる。
なんで給料日前に式を挙げるのか。
ご祝儀なんて用意できないぞ。
というわけで、ご祝儀袋には葉っぱを5枚ほど入れておいた。
本当はもっとたくさん包んでやりたかったのだが、木が可哀想なのでやめた。
人間界では絶対に使えないご祝儀。
これを最初に確認する人物がご親戚の方などではなく、タカシ本人だったらいいな。
そう切に思う。
封筒には俺の個人情報を正直に記載してしまったからだ。
なんで匿名にしなかったのだろうか。
金額面にも「5枚」と、円じゃない通貨を書いてしまった。
用意したセリフはちなみに、「あんまり入れてやれなくって、ごめんな」である。
10年来の友情が、今日で終るかも知れない。
もうなんか、どっきどきだ。
さっさと受付でご祝儀を提出し、何もかも忘れ、式場内へ足を進める。
式は退屈なものだとばかり思っていたのだけれど、やはり新たな夫婦誕生の瞬間を見られるわけで、それが親友だったりするものだから、それなりに感慨深い。
らしくないけど、見ているこっちまで幸せな心地になれた。
なんで俺は、こんなにめでたい日に葉っぱなんて包んでしまったのだろうか。
「22という数字は、お2人にとって縁が深いようです」
司会の女性はさすがプロだけあって、美しい声をしておいでだ。
「タカシさんのお母様の誕生日、お2人の入籍日、全て22日のようですね」
だから給料日前、しかも平日の今日に式を挙げたわけか。
納得だ。
「そして今日、5月22日は新婦の誕生日でもあります」
おおー!
タカシの嫁さん、今日が誕生日だったのか。
急遽、皆でハッピーバースデイを合唱する。
単純なもので、俺はそれでさらに気分が良くなった。
「さて」
司会者が再びマイクを持つ。
「今の『おめでとう』は新婦の誕生日に向けられた『おめでとう』でした。なので今度は『結婚おめでとう』という意味で、お2人にもう1度、皆さんで『おめでとう』を言ってあげてください。大きな声でお願いします。いいですね? せーの!」
おめでとー!
と、出席者全員の声が暖かく揃う。
皆の声の大きさや響きから、何かが伝わったのだろう。
盛大な祝福を聞いた瞬間、タカシは目頭を押さえ、泣いた。
新郎新婦が退場する際、タカシが俺にハイタッチをしてくれたことが嬉しい。
いつの間にか、俺も目に涙を溜めていた。
「もしもし、タカシ? 今どこ? 俺今、お前のご友人と近くの店で飲んでるんだ」
ご祝儀が葉っぱだったので、2次会3次会の費用は俺が持とうとは最初から決めていたことだ。
半ば強引に新しい夫婦を呼び出す。
「なあ、これからカラオケ行こうぜ!」
どうしても彼らと行きたかった。
もう既にぐでんぐでんに酔っていたが、俺はどうにか選曲をする。
B‘zは以前、バースデイソングも作っていた。
まずはとっても手のかかる男と結婚してしまった女性に対して、それを贈る。
「誕生日おめでとう!」
このバースデイソングは、タカシの好きな『OCEAN』が入っているアルバムに収録されていた。
だから覚えることができたのだ。
しばらく後、再び俺の番がくる。
前奏が流れ、タカシが小さく反応する。
「あれ? めさ、これって…」
「おう、OCEANだ。今日のために覚えてきたんだっつーの! がはははは!」
次のおめでとうは、2人に対して、だ。
酔っ払いが精一杯、親友の大好きな曲を唄い始める。
May 16
なんで何も出来ない俺を相談役として選んじゃうのか、サッパリだ。
ここ最近、知人友人から、何かしらの相談を受けることが多い。
俺なんてアレだぞ?
自分のことさえ、ちゃんと出来ない人なんだぞ?
そう正直に言っても聞きゃしない。
悩みが過ぎて、相談相手の選別にまで頭が回らなくなっているのだろうか。
今回は、過去に受けた相談とか愚痴に対して、俺がどのようなリアクションを示したのかを綴っておくとしよう。
そうしよう。
同じようなことを悩んでいらっしゃる方にとって、参考にぐらいはなるかも知れない。
なったらいいな。
それでは、ゴーだ。
「男の人の気持ちがわかんない」
俺だってわかんない。
「どうやって距離を縮めたらいいと思う?」
まずは2人きりになろうだなんて狙わずに、グループ行動からだな。
で、ある程度期が熟したら、そのメンバーで旅行の計画を立てるんだ。
夜、皆でわいわい飲んでる中、彼がそっと席を外したら大チャンス。
君は缶ビールを2本手に、海辺に行ってみるといい。
奴は絶対にそこにいる。
一丁前に、星など見上げているはずだ。
君は気配を殺し、背後から忍び寄れ。
彼のほっぺたに缶をピタっと付けてしまうといい。
「な、なんだよ! お前かよ!」
「なーに黄昏てんのっ! はい!」
缶ビールを手渡し、彼の隣に座るんだ。
そこでさらに一言。
「夜の海も、なんかいいね」
きゃっほーう!
そんなの絶対落ちるってー!
「めさに聞いたあたしがバカだった」
俺もそう思う。
勉強になったね。
じゃあ次の人。
「あんの上司、かくかくしかじかでさ、スゲーむかつくよ!」
夜中に気配を殺し、背後から忍び寄るんだ。
コキャっとやっちゃえば?
冒険冒険。
そんなの絶対落ちるってー!
次。
「彼が別れてくれないんだよねえ。もー嫌!」
夜中に気配を殺し、背後から忍び寄るんだ。
コキャっとやっちゃえば?
冒険冒険。
そんなの絶対落ちるってー!
「もう他の男、作っちゃおうかなあ」
作っとけ作っとけ。
「どうやって?」
お前が考えろ。
次。
「最近、体の具合が悪くてさあ」
病院行け。
「めさって、実はドSだよね?」
俺の話はどうでもいいだろうが。
ばかが。
あ。
ホントにドSになってる。
許してちょ。
では次の方。
「不倫が原因でね? 慰謝料がアレなんだけど、子供がさあ」
そういった重たい内容は、ここではちょっと…。
「彼氏にフラれちゃったよー!」
がはははは!
ザマを見よ!
「明日って、雨降るっけ?」
予報見ろ。
「お金の相談なんだけど、いい?」
明日メールする。
「あいつ、ホントむかつく! めささんの言う通り、マジで背後からコキャってやっちゃおうかなあ」
そういう物騒な発想は良くないぞ?
もっと話し合おうよ!
「だってあいつ、○○○○で、しかも○○なんだよ!? ○○のこと○○○って言うしさあ」
その話、長い?
「もう自信ない…。めささ~ん! あたしのいいところを言って下さい!」
ねえよ。
いつか俺がコキャっとやられそうな気がします。
めさでした。
※このSっぷりは、反撃を期待しているM体質によるものです。
良い子の皆さんは危険ですから真似しないでくださいね。