夢見町の史
Let’s どんまい!
2011
January 26
January 26
俺の中で彼は、よく逢う人ランキング10位内に確実に入っている。
ここでは仮にSさんとしておこう。
なかなかのご高齢で、酒やタバコは一切やらない。
女子プロレスラー豊田真奈美さんの大ファンだ。
「こんばんは」
「Sさん、いらっしゃいませ!」
俺の職場であるスナック「スマイル」を、豊田真奈美さんは手伝ってくれている。
したがってこのSさん、真奈美さんが出勤する日は必ず顔を出してくれるのだ。
真奈美さんが飲めるようにとボトルを入れ、それを毎回俺に飲まれる。
「Sさん、こんばんは。めさです。お待たせしました」
「誰もめさ君なんて待ってない! どっかに行ってなさい」
「その話、詳しく伺いたいのでお邪魔しまーす」
「なんで勝手に座るんだ!」
そうこうしていると、真奈美さんが俺のグラスにSさんの酒を注いでくれるのである。
Sさん、俺にお酒あげたくないのに。
だからだろうか。
Sさんの、俺に対する扱いはとてもとても酷い。
「なんでめさ君にお酒あげなきゃいけないんだ。私は豊田さんに逢いに来てるのに」
そこで俺は優しげに微笑んで、ある話を口にする。
「Sさん。愛屋烏に及ぶ、ということわざをご存知ですか?」
「あいおく、うにおよぶ?」
「そうです。意味、解りますか?」
「解らないよ」
「愛する人が住む家の、屋根に止まった鳥すらも愛しく想える、という意味なんですよ。好きな人のことが愛しすぎて、その人の家に止まった鳥さえも好ましく感じてしまう。つまり、『坊主憎けりゃ袈裟(けさ)まで憎い』の逆の言葉ですね」
「ほうほう。それで?」
「Sさんが大好きな真奈美さん。そんな真奈美さんが勤めるスナックにいる、めさのことも愛しい」
「愛しくないよ! なんでちょっと上手いこと言って誤魔化そうとするんだ!」
「というわけで、いただきまーす!」
「あげないよ! だいたい、ちょっと聞きなさい!」
「はい?」
「もしもね? めさ君が好きな女性に逢うために飲みに行って、そこにボーイさんが来たとしよう」
「はい」
「そのボーイが『愛屋烏に及ぶ』がどうのこうの言って人の酒を飲もうとしたらどうする?」
「すっげえ腹立ちますね! 飲んで忘れましょう」
「だから飲むなっつうの!」
結論だけ書いて、この日記を終わりにしよう。
Sさん、毎週毎週、ご馳走様です。
ここでは仮にSさんとしておこう。
なかなかのご高齢で、酒やタバコは一切やらない。
女子プロレスラー豊田真奈美さんの大ファンだ。
「こんばんは」
「Sさん、いらっしゃいませ!」
俺の職場であるスナック「スマイル」を、豊田真奈美さんは手伝ってくれている。
したがってこのSさん、真奈美さんが出勤する日は必ず顔を出してくれるのだ。
真奈美さんが飲めるようにとボトルを入れ、それを毎回俺に飲まれる。
「Sさん、こんばんは。めさです。お待たせしました」
「誰もめさ君なんて待ってない! どっかに行ってなさい」
「その話、詳しく伺いたいのでお邪魔しまーす」
「なんで勝手に座るんだ!」
そうこうしていると、真奈美さんが俺のグラスにSさんの酒を注いでくれるのである。
Sさん、俺にお酒あげたくないのに。
だからだろうか。
Sさんの、俺に対する扱いはとてもとても酷い。
「なんでめさ君にお酒あげなきゃいけないんだ。私は豊田さんに逢いに来てるのに」
そこで俺は優しげに微笑んで、ある話を口にする。
「Sさん。愛屋烏に及ぶ、ということわざをご存知ですか?」
「あいおく、うにおよぶ?」
「そうです。意味、解りますか?」
「解らないよ」
「愛する人が住む家の、屋根に止まった鳥すらも愛しく想える、という意味なんですよ。好きな人のことが愛しすぎて、その人の家に止まった鳥さえも好ましく感じてしまう。つまり、『坊主憎けりゃ袈裟(けさ)まで憎い』の逆の言葉ですね」
「ほうほう。それで?」
「Sさんが大好きな真奈美さん。そんな真奈美さんが勤めるスナックにいる、めさのことも愛しい」
「愛しくないよ! なんでちょっと上手いこと言って誤魔化そうとするんだ!」
「というわけで、いただきまーす!」
「あげないよ! だいたい、ちょっと聞きなさい!」
「はい?」
「もしもね? めさ君が好きな女性に逢うために飲みに行って、そこにボーイさんが来たとしよう」
「はい」
「そのボーイが『愛屋烏に及ぶ』がどうのこうの言って人の酒を飲もうとしたらどうする?」
「すっげえ腹立ちますね! 飲んで忘れましょう」
「だから飲むなっつうの!」
結論だけ書いて、この日記を終わりにしよう。
Sさん、毎週毎週、ご馳走様です。
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2011
January 17
January 17
「俺、四捨五入したら20っすよ」
「俺なんて四捨五入したら30だぜ?」
四捨五入する必要がどこにある。
なんでわざわざ実年齢を大雑把な数字に置き換えるのだ。
そんなの自分を苦しめる考え方じゃないか。
2011年1月11日。
俺は35回目の誕生日を迎えた。
四捨五入をすれば、およそ40歳だ。
遠い目で夕日を眺めたくなる。
でもまあ100歳よりは断然に若いのでいいか。
誕生日当日は、友人が訪ねてくれたり、ちょっとしたサプライズがあったり、前々から欲しかった物をプレゼントしてもらったりと、いいことがたくさんあった。
メールやネット上でも多くの祝辞をいただいたし、本当にありがたいことだ。
「めさ、はいこれ」
友人チーフも、俺にビニール袋を差し出した。
「ありがとチーフ! 開けてもいい?」
「いいよ」
こうして俺は猫のエサを取り出して固まった。
「なにこれ?」
「誕生日プレゼント」
「こういうのは猫にあげたらいいじゃない!」
他にも、袋の中にはまだ必要のない老眼鏡なども入っている。
ただ、ダシの元や観葉植物など、微妙に喜ばしい品も見受けられた。
どんなリアクションを取ったらいいのか微妙だ。
さて。
俺の苗字は少々珍しい。
ここでは仮に「山枝」とでもしておこう。
チーフから受け取った袋の中には、見逃してしまうような小さな筒状の物もあった。
小指ぐらいサイズだ。
「ねえチーフ。これは何?」
「よく見ろ。印鑑だ」
なるほど。
底と思われる面を見ると、そこには「山村」と知らない人の名が刻まれている。
「あのさ、チーフ。山村さんて誰?」
「お前の苗字は珍しいから印鑑が売ってなかった。仕方ないから1番近いやつを買ってきた」
山枝なのに、貰ったのは山村のハンコ。
2文字目が木辺なとこまでは当っている。
「まあせっかくだから、これ回覧板を見ましたよの印をつけるときにでも使うよ」
「駄目だ。実印にしろ」
まさか誕生日に改名を余儀なくされるとは思わなかった。
追伸・心のどこかで「おめでとう」と少しでも思ってくれた方々へ。
ありがとう!
「俺なんて四捨五入したら30だぜ?」
四捨五入する必要がどこにある。
なんでわざわざ実年齢を大雑把な数字に置き換えるのだ。
そんなの自分を苦しめる考え方じゃないか。
2011年1月11日。
俺は35回目の誕生日を迎えた。
四捨五入をすれば、およそ40歳だ。
遠い目で夕日を眺めたくなる。
でもまあ100歳よりは断然に若いのでいいか。
誕生日当日は、友人が訪ねてくれたり、ちょっとしたサプライズがあったり、前々から欲しかった物をプレゼントしてもらったりと、いいことがたくさんあった。
メールやネット上でも多くの祝辞をいただいたし、本当にありがたいことだ。
「めさ、はいこれ」
友人チーフも、俺にビニール袋を差し出した。
「ありがとチーフ! 開けてもいい?」
「いいよ」
こうして俺は猫のエサを取り出して固まった。
「なにこれ?」
「誕生日プレゼント」
「こういうのは猫にあげたらいいじゃない!」
他にも、袋の中にはまだ必要のない老眼鏡なども入っている。
ただ、ダシの元や観葉植物など、微妙に喜ばしい品も見受けられた。
どんなリアクションを取ったらいいのか微妙だ。
さて。
俺の苗字は少々珍しい。
ここでは仮に「山枝」とでもしておこう。
チーフから受け取った袋の中には、見逃してしまうような小さな筒状の物もあった。
小指ぐらいサイズだ。
「ねえチーフ。これは何?」
「よく見ろ。印鑑だ」
なるほど。
底と思われる面を見ると、そこには「山村」と知らない人の名が刻まれている。
「あのさ、チーフ。山村さんて誰?」
「お前の苗字は珍しいから印鑑が売ってなかった。仕方ないから1番近いやつを買ってきた」
山枝なのに、貰ったのは山村のハンコ。
2文字目が木辺なとこまでは当っている。
「まあせっかくだから、これ回覧板を見ましたよの印をつけるときにでも使うよ」
「駄目だ。実印にしろ」
まさか誕生日に改名を余儀なくされるとは思わなかった。
追伸・心のどこかで「おめでとう」と少しでも思ってくれた方々へ。
ありがとう!
2010
December 14
December 14
あのスナックのボーイ、めさ君やったっけ?
あいつにな?
もう何年も前から「女紹介せえ。女紹介せえ」って亡霊みたいに言い続けてんねん。
なのにあいつ、俺にちっとも女紹介しようとせん。
「俺の女友達って、みんな結婚してたり彼氏がいたり、遠くに住んでたりしてるから紹介すんの難しいですってば」
「そんなん構わん! 俺はな? ただ楽しく酒が飲めればそれでいいねん」
「でもT内さん、そこまで女女って言うってことは、奥さんに内緒で、できれな深い仲になりなーとかって思ってるんでしょ?」
「そりゃそうや」
「俺の女友達に不倫するような奴いねえから!」
客に対してなんつう口の利き方すんねん。
男心の解らん奴や。
昨日も、めさ君に文句言ったった。
「お前はいつになったら女紹介すんねや!」
「仕方ないなあ」
めさ君はケータイ取り出してな?
「これ、たった今、真美って子から来たメールなんですけど」
って、俺にメール画面を見せてきたんや。
件名の、「今夜、泊めてもらっていいかな?」の文字に鼻血噴き出そうになったわ!
よっしゃ!
俺が泊めたる!
どこの女や!
「じゃあ一応、読み上げますね」
おう!
「いきなりごめんなさい。さっき家出しちゃって、泊まるとこがなくって、困ったのでメールしました」
家出したってことは、若い子っぽいやん!
それでそれで!?
「もうお金も残り少なくてかなりヤバイ状況なので、よければ家に泊めてくれませんか?」
ええで!
全力で泊めたるわ!
「泊めてくれたらご飯とか作れるから料理もするし、真美にできることなら何でもするよ?」
ななな、なんでもォーッ!?
いよっしゃあー!
めさ君!
その子紹介せえ!
「解りました。じゃあ今からURLを言うんで、そこにアクセスしていただきまして」
ふんふん。
「掲示板になってると思うんで、そこから真美ちゃんに返事書いてあげてください」
おっしゃ、解った!
掲示板にアクセスしてポイント買うて、何度か真美ちゃんとやり取りすればええんやな!?
よーし、プロフィール気合い入れて書くでー!
始めまして、T内です。
ってアホかーい!
それただの迷惑メールやん!
もうおのれには頼まん!
ぬか喜びや!
どんだけええタイミングで迷惑メール受けてんねん。
あいつにな?
もう何年も前から「女紹介せえ。女紹介せえ」って亡霊みたいに言い続けてんねん。
なのにあいつ、俺にちっとも女紹介しようとせん。
「俺の女友達って、みんな結婚してたり彼氏がいたり、遠くに住んでたりしてるから紹介すんの難しいですってば」
「そんなん構わん! 俺はな? ただ楽しく酒が飲めればそれでいいねん」
「でもT内さん、そこまで女女って言うってことは、奥さんに内緒で、できれな深い仲になりなーとかって思ってるんでしょ?」
「そりゃそうや」
「俺の女友達に不倫するような奴いねえから!」
客に対してなんつう口の利き方すんねん。
男心の解らん奴や。
昨日も、めさ君に文句言ったった。
「お前はいつになったら女紹介すんねや!」
「仕方ないなあ」
めさ君はケータイ取り出してな?
「これ、たった今、真美って子から来たメールなんですけど」
って、俺にメール画面を見せてきたんや。
件名の、「今夜、泊めてもらっていいかな?」の文字に鼻血噴き出そうになったわ!
よっしゃ!
俺が泊めたる!
どこの女や!
「じゃあ一応、読み上げますね」
おう!
「いきなりごめんなさい。さっき家出しちゃって、泊まるとこがなくって、困ったのでメールしました」
家出したってことは、若い子っぽいやん!
それでそれで!?
「もうお金も残り少なくてかなりヤバイ状況なので、よければ家に泊めてくれませんか?」
ええで!
全力で泊めたるわ!
「泊めてくれたらご飯とか作れるから料理もするし、真美にできることなら何でもするよ?」
ななな、なんでもォーッ!?
いよっしゃあー!
めさ君!
その子紹介せえ!
「解りました。じゃあ今からURLを言うんで、そこにアクセスしていただきまして」
ふんふん。
「掲示板になってると思うんで、そこから真美ちゃんに返事書いてあげてください」
おっしゃ、解った!
掲示板にアクセスしてポイント買うて、何度か真美ちゃんとやり取りすればええんやな!?
よーし、プロフィール気合い入れて書くでー!
始めまして、T内です。
ってアホかーい!
それただの迷惑メールやん!
もうおのれには頼まん!
ぬか喜びや!
どんだけええタイミングで迷惑メール受けてんねん。
2010
December 11
December 11
バーのカウンター席で、男と男が無言のまま見つめ合う。
なんて書いたら誤解されてしまうだろうか。
行き着けのバーのマスターが誕生日を迎えられた。
仕事を終えた俺は祝うべく、BCBGの玄関をくぐる。
悪友トメが眠たそうに飲んでいたり、後からボスのK美ちゃんが来たりもした。
友人チーフは俺の隣に腰を下ろす。
俺の何かしらの発言にツッコミたいのか、衝動的に文句を言いたくなったのか解らないけれど、チーフが無言で俺の目をじっと見つめた。
何事かと思い、チーフが喋るまで俺も彼の目を正面から捉える。
2人とも、しばらくそのままの体勢でいた。
チーフが何も言わないものだから、俺の口が自然と開く。
「見つめ合うと、素直に、お喋りできない」
どっかの歌詞みたいな言葉にチーフは反射的に「うるせえよ!」と返してきた。
しばらく後。
またもやチーフの視線を感じ、見つめ合う。
「見つめ合うと、素直に、お喋りできない」
「次それ言ったらひっぱたくからな!」
チーフは桑田佳祐氏にトラウマでもあるのだろうか。
3度目。
俺とチーフの視線は交差しているのだが、やはり何も語ろうとしない。
俺が口を開こうとする。
同時に、チーフが平手打ちの準備をした。
なんで解ったのだろうか。
人は涙見せずに大人になれない。
なんて書いたら誤解されてしまうだろうか。
行き着けのバーのマスターが誕生日を迎えられた。
仕事を終えた俺は祝うべく、BCBGの玄関をくぐる。
悪友トメが眠たそうに飲んでいたり、後からボスのK美ちゃんが来たりもした。
友人チーフは俺の隣に腰を下ろす。
俺の何かしらの発言にツッコミたいのか、衝動的に文句を言いたくなったのか解らないけれど、チーフが無言で俺の目をじっと見つめた。
何事かと思い、チーフが喋るまで俺も彼の目を正面から捉える。
2人とも、しばらくそのままの体勢でいた。
チーフが何も言わないものだから、俺の口が自然と開く。
「見つめ合うと、素直に、お喋りできない」
どっかの歌詞みたいな言葉にチーフは反射的に「うるせえよ!」と返してきた。
しばらく後。
またもやチーフの視線を感じ、見つめ合う。
「見つめ合うと、素直に、お喋りできない」
「次それ言ったらひっぱたくからな!」
チーフは桑田佳祐氏にトラウマでもあるのだろうか。
3度目。
俺とチーフの視線は交差しているのだが、やはり何も語ろうとしない。
俺が口を開こうとする。
同時に、チーフが平手打ちの準備をした。
なんで解ったのだろうか。
人は涙見せずに大人になれない。
2010
December 09
December 09
コンビニの売り物で最も高価な品は何か?
現役の女子プロレスラーが不意にそのような疑問を口にした。
生粋のドMであるI君が飲みに来ていて、彼はニューボトルを入れるお金がないからと、コンビニに現金を下ろしに行くという。
「めさ君、俺さ、ちょっとお金下ろしに行ってくるよ」
「あ、代わりに俺が行こうか? カード貸して」
「え!? ええ!? えーっ!?」
「冗談だよ。行ってらっしゃい」
彼が戻ってきて、話題は冒頭にあったような内容に移るのである。
お店を手伝ってくれている豊田真奈美さんが声を張り上げた。
「あのさあのさ! コンビニで売ってる物で1番高いのって何なの!?」
チケットや折り菓子の類以外で、とのことだ。
つまり、客が自分の手で取れるような、商品棚に置かれている品物の中から選ばないといけないらしい。
天然娘と見せかけて実はドSのフロアレディ、M嬢が身を乗り出す。
「I君、それを4つ買ってきて!」
店内にいる女子が4名。
つまり「女の子全員にコンビニで最も高い品を奢れ」と命じるとは、Mちゃん、怖い子だ。
「え~」
嬉しそうに嫌がるなI君。
それにしてもコンビニで1番高い物って何だろう。
生理用品とか避妊具だったらどうしよう。
I君、それらを4つも買わなきゃいけないのか。
そんなん恥ずかしい。
しかも普通に散財だ。
I君、何も悪いことしてないのに。
俺は気の毒になってしまい、そっと彼の肩に手を置く。
「I君、俺が代わりにお金下ろしに行こうか? カード貸して」
「いいよ、俺が行くよ!」
嫌そうに喜びながら店を出るI君。
なかなか珍しいパシられ方だ。
それにしても、彼は果たして何を買ってくるのだろうか。
生理用品だろうと避妊具だろうと、そんなん4つも買い溜めるなんて面白すぎる。
そんな俺の期待は、ものの見事に裏切られることになった。
「買ってきたよ! はい!」
「きゃー! ありがとー!」
I君はコスメグッズをそれぞれに手渡している。
化粧品かよ。
ちぇ。
コンビニで1番高い物じゃなくて、1番恥ずかしい物だったらよかったのに。
そしたら今度は俺が行こう。
現役の女子プロレスラーが不意にそのような疑問を口にした。
生粋のドMであるI君が飲みに来ていて、彼はニューボトルを入れるお金がないからと、コンビニに現金を下ろしに行くという。
「めさ君、俺さ、ちょっとお金下ろしに行ってくるよ」
「あ、代わりに俺が行こうか? カード貸して」
「え!? ええ!? えーっ!?」
「冗談だよ。行ってらっしゃい」
彼が戻ってきて、話題は冒頭にあったような内容に移るのである。
お店を手伝ってくれている豊田真奈美さんが声を張り上げた。
「あのさあのさ! コンビニで売ってる物で1番高いのって何なの!?」
チケットや折り菓子の類以外で、とのことだ。
つまり、客が自分の手で取れるような、商品棚に置かれている品物の中から選ばないといけないらしい。
天然娘と見せかけて実はドSのフロアレディ、M嬢が身を乗り出す。
「I君、それを4つ買ってきて!」
店内にいる女子が4名。
つまり「女の子全員にコンビニで最も高い品を奢れ」と命じるとは、Mちゃん、怖い子だ。
「え~」
嬉しそうに嫌がるなI君。
それにしてもコンビニで1番高い物って何だろう。
生理用品とか避妊具だったらどうしよう。
I君、それらを4つも買わなきゃいけないのか。
そんなん恥ずかしい。
しかも普通に散財だ。
I君、何も悪いことしてないのに。
俺は気の毒になってしまい、そっと彼の肩に手を置く。
「I君、俺が代わりにお金下ろしに行こうか? カード貸して」
「いいよ、俺が行くよ!」
嫌そうに喜びながら店を出るI君。
なかなか珍しいパシられ方だ。
それにしても、彼は果たして何を買ってくるのだろうか。
生理用品だろうと避妊具だろうと、そんなん4つも買い溜めるなんて面白すぎる。
そんな俺の期待は、ものの見事に裏切られることになった。
「買ってきたよ! はい!」
「きゃー! ありがとー!」
I君はコスメグッズをそれぞれに手渡している。
化粧品かよ。
ちぇ。
コンビニで1番高い物じゃなくて、1番恥ずかしい物だったらよかったのに。
そしたら今度は俺が行こう。