夢見町の史
Let’s どんまい!
2008
August 29
August 29
日常生活には思いの他、多くの英語や和製英語が浸透している。
テレビやパソコン。
ライター、ナイフにフォーク。
挙げたらキリがないほどだ。
そういったいわゆる「カタカナ語」を一切使用禁止にしたら、会話は果たしてどうなってしまうのか。
「今から一定時間、英語とか、カタカナで表記するような単語を使ったら駄目ね!」
酒の席にて、そのようなゲームを、いや、間違えた。
遊戯を行うことになった。
ルールはシンプル、じゃなかった。
取り決めは単純だ。
「英語を口にしたら、お酒を一気飲み!」
酒場らしい罰である。
かくして、職場のスナック「スマイル」改め、酒場「笑顔」ではスタートではなく、「始め!」の合図が発令される。
「こないだ、あの映画を見たんだ。地上波を受信して映像を映し出す機械で」
テレビと言ったら負けなので、皆それぞれ気を張って喋る。
「どんな映画?」
「欧米の少年が宮城さんに出会って空手を習う映画!」
「ああ、最上少年ね!」
ベストキットと、言いたくても言えない。
ただ、最初はぎこちなかった会話だったが、いつの間にかみんな慣れてきたらしく、いつしか口調も軽やかに。
「五輪、見た?」
「見た見た!」
「あの選手、惜しかったよね。もうちょっとで金のこういう、丸くてデカいやつ取れそうだったのに」
たまに禁句を口にしてしまい、罰としての酒を飲む者もちらほらといたが、談笑としては盛り上がってきている。
そんな最中、酒場「笑顔」の店主、K美ちゃんがカウンターに両手を着く。
自信満々に、いきなり叫んだ。
「エビフライ!」
そんなに飲みたかったのだろうか。
発音も「エビフリャーッ!」といった気合いの入り具合だ。
すぐ隣で見ていたが、叫ぶ必要などまるでなかった。
ここまで見事な負けっぷりを、俺は今まで見たことがない。
ただの「エビフライ」が、俺には別の言葉に聞こえたほどだ。
「我が人生に一片の悔い無し!」
しかしK美ちゃんは頭を抱え、「もー!」などと悶えている。
何がどう違うのか解らないが、彼女は「違うの! 名古屋の話だったから!」などとわけの解らない言い訳をしていた。
それでも負けは負けなので、K美ちゃんは潔く、勝利を収めた英雄のように酒を飲み下す。
負け方といい飲みっぷりといい、実に男らかった。
試合に負けて勝負に勝つとは、まさにこのことである。
「ご馳走様でした!」
K美ちゃんは、涙目になっていた。
いえいえ、こちらこそ、日記のネタをご馳走様でした。
テレビやパソコン。
ライター、ナイフにフォーク。
挙げたらキリがないほどだ。
そういったいわゆる「カタカナ語」を一切使用禁止にしたら、会話は果たしてどうなってしまうのか。
「今から一定時間、英語とか、カタカナで表記するような単語を使ったら駄目ね!」
酒の席にて、そのようなゲームを、いや、間違えた。
遊戯を行うことになった。
ルールはシンプル、じゃなかった。
取り決めは単純だ。
「英語を口にしたら、お酒を一気飲み!」
酒場らしい罰である。
かくして、職場のスナック「スマイル」改め、酒場「笑顔」ではスタートではなく、「始め!」の合図が発令される。
「こないだ、あの映画を見たんだ。地上波を受信して映像を映し出す機械で」
テレビと言ったら負けなので、皆それぞれ気を張って喋る。
「どんな映画?」
「欧米の少年が宮城さんに出会って空手を習う映画!」
「ああ、最上少年ね!」
ベストキットと、言いたくても言えない。
ただ、最初はぎこちなかった会話だったが、いつの間にかみんな慣れてきたらしく、いつしか口調も軽やかに。
「五輪、見た?」
「見た見た!」
「あの選手、惜しかったよね。もうちょっとで金のこういう、丸くてデカいやつ取れそうだったのに」
たまに禁句を口にしてしまい、罰としての酒を飲む者もちらほらといたが、談笑としては盛り上がってきている。
そんな最中、酒場「笑顔」の店主、K美ちゃんがカウンターに両手を着く。
自信満々に、いきなり叫んだ。
「エビフライ!」
そんなに飲みたかったのだろうか。
発音も「エビフリャーッ!」といった気合いの入り具合だ。
すぐ隣で見ていたが、叫ぶ必要などまるでなかった。
ここまで見事な負けっぷりを、俺は今まで見たことがない。
ただの「エビフライ」が、俺には別の言葉に聞こえたほどだ。
「我が人生に一片の悔い無し!」
しかしK美ちゃんは頭を抱え、「もー!」などと悶えている。
何がどう違うのか解らないが、彼女は「違うの! 名古屋の話だったから!」などとわけの解らない言い訳をしていた。
それでも負けは負けなので、K美ちゃんは潔く、勝利を収めた英雄のように酒を飲み下す。
負け方といい飲みっぷりといい、実に男らかった。
試合に負けて勝負に勝つとは、まさにこのことである。
「ご馳走様でした!」
K美ちゃんは、涙目になっていた。
いえいえ、こちらこそ、日記のネタをご馳走様でした。
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2008
August 25
August 25
「フッ! また今夜も靴が履けないぜ」
胸を張って、俺はソファにふんぞり返る。
「酔って靴が履けなくなるぐらいの男は、俺ぐれえしか居ないんじゃねえかな。みんな見ろよ。完璧に履けねえ」
情けなさ絶好調だ。
だいたい、酔うとなんですぐに靴を脱ぐのか。
「俺ぐらいになると、もちろん履けないのは靴だけじゃないぜ? お見せできないのが残念だけど、他のも色々と履けなくなる」
お前もう黙れ。
5週連続で行っているオフ会。
劇団「りんく」のメンバーたちも、参加者様たちも、楽しい人ばっかりだ。
いつか異性に言われてみたいセリフは何?
そんな話題が発展し、ベッタベタな展開は最高に萌えるといった方向に、会話は白熱する。
「やっぱ主人公とヒロインが幼馴染みっていう設定も王道でしょ」
「最高ーッ!」
「家が隣同士で、窓を開けると相手の部屋がすぐそこにあるの!」
「きゃー!」
「で、主人公は双子で、しかも野球部!」
「それは著作権の問題になりそうだからナシ!」
というわけで俺は参加者様たちと一緒に、即興でベタなラブコメを作ってしまった。
「ユウスケー!」
あたしは窓を開けると同時に、幼馴染みの名を叫ぶ。
あたしの部屋の窓と、ユウスケの部屋の窓は向かい合っているから、普段何かと重宝している。
「な、なんだよ! お前かよ!」
パジャマ姿のユウスケは、いつもと同じような慌て方だ。
「ノックぐらいしろよな!」
「なーに言ってんの」
あたしはお姉さんぶって、腕を組んで見せた。
「だったら窓に鍵ぐらいかけておきなさいよ」
「だからっていきなり窓開けるか? 普通」
ユウスケはテレビゲームに夢中だったらしく、落としたコントローラーを持ち直している。
「やられちまったじゃねえか」
どうやら格闘ゲームらしい。
「だいたい、何の用だよ今日は。こないだの宿題だったら、もうノート返したろ?」
「ちょっと、相談したいことがあってね」
ユウスケは再びキャラクターを選び、画面には「ラウンド1」と表示される。
「相談?」
「そう。あのさ、あんたのクラスに二階堂君って、いるでしょ?」
「ああ、あの学級委員の?」
「そう。スポーツ万能で成績優秀で、家がお金持ちの、あの二階堂君」
「それがどうした?」
「あたし、二階堂君に、告白されちゃった」
テレビから、派手な爆発音がした。
どうやらユウスケは、また敵キャラにノックアウトされてしまったらしい。
「そ、そんなの、なんで俺に言うんだよ」
「ねえ、どうしたらいいと思う?」
「し、知らねえよ」
「ちょっと何? その態度。もうちょっと親身になってくれたっていいでしょ?」
「そんなの、お前の問題だろ? なんで俺がわざわざアドバイスしなきゃいけねーんだよ」
「あっそ。あたしが二階堂君と付き合っても、いいんだ?」
「し、知らねえって言ってんだろ? か、勝手にすりゃいいじゃねえか」
「来週の土曜にね? あたし、二階堂君に返事しなきゃいけないの。彼、『交際してくれるのなら来てほしい』って」
「どこにだよ?」
「ピロティ。ずっと待っててくれるんだってさ。あたし、行っちゃおうかなあ」
「か、勝手にすりゃいいじゃねえかよ」
「ふうん? 止めないんだ?」
「なんで俺が! だいたい土曜は俺、バスケの試合だぜ?」
「あっそ。じゃ、あたし、二階堂君にOKしちゃうんだからね! あんたと違って二階堂君、カッコイイし優しいもん」
「うるせえな! なんでそんな話、俺にするんだよ! お前の好きにしたらいいだろ!?」
「何よ! もう知らない! あんたなんて、大ッ嫌い!」
ピシャリと窓を閉め、乱暴にカーテンを引く。
怒っていいのか悲しんでいいのか判らなくて、あたしは握ったカーテンを離すことができなかった。
「あの鈍感、ホント大ッ嫌い」
最高じゃね?
「最高にベタベタです! めささん!」
しかも前日あたり、実は二階堂君、主人公に対して宣戦布告をしちゃってんの。
男前の二階堂君は、実は何気にズルをしない奴でさ。
「あ~。いるいる、そういうキャラ」
じゃあここで、ちょっぴり男目線ね?
「ったく、ゲームするような気分じゃなくなっちまったぜ」
俺は電源を落として、ベットに横になる。
「二階堂の奴、マジで告白したのか」
自然と、昨日のことを思い返す。
「ユウスケ君」
二階堂に呼び出され、俺は屋上に来ていた。
「突然、呼び出してすまない」
「なんだよ、急に」
「ユウスケ君。単刀直入に訊こう。君はユウコさんのことをどう思っているんだい?」
「な! なんだよ、急に!」
「真面目な話なんだ。真剣に答えてくれ」
「あんな奴、ただの腐れ縁だよ! ただの幼馴染みなのに噂されて、いい迷惑だぜ」
「そうか、ならよかった」
「ん? どういうことだ?」
「僕がユウコさんに告白しても、問題ないということだね?」
「はあ!? お前、あんな奴のことが好きだったのか!?」
「ああ、好きだ。僕は彼女に交際を申し込もうと思っている」
「へ? あ、ああ、そう? も、物好きな奴だなあ、お前も」
「もう1度訊く。君は本当に、ユウコさんのことを何とも思っていないんだな?」
「し、しつけえ野郎だな! あんなのただの友達だって言ってんだろ!?」
「そうか。それを聞いて安心したよ」
で、ついに土曜日になっちゃうわけ。
「ユウコはどうするんです?」
もちろん、ピロティに行くよ。
「え!? だって、ピロティに行くってことは、二階堂君とOKってことじゃないですか!」
それが、そうじゃないんだなあ。
「二階堂君」
「やあ、ユウコさん。来てくれると信じていたよ。僕と付き合ってくれるんだね」
「それが、ごめんなさい!」
「え?」
「今日は、二階堂君にお礼を言いに来たんです」
「お礼?」
「あたしなんかを好きになってくれて、本当にありがとうございました!」
「ちょ、待ってくれ、ユウコさん。まさか、他に好きな人でもいるのかい?」
「うん。そうなんだ。ぶっきらぼうで、乱暴者で、デリカシーなんて欠片もないような奴」
「そうか。やっぱり君は、ユウスケ君のことを」
「本当にごめんなさい! あんなどうしようもない奴なんだけど、好きなんです! なんであたし、あんな奴のこと、好きになっちゃったんだろう。今日のことも言ったんだけど、あいつ今日はバスケの試合とかで、あたしを止めるつもりないみたい」
「そうでも、ないみたいだよ?」
「え?」
二階堂君が指差す先に、あたしは視線を走らせる。
そこには、ユニフォーム姿の人影が。
こちらを目指して、走ってきている。
「ユウスケ! なんで!?」
ちなみにユウスケ君は、バスケの試合に出てたんだけど、ユウコのことが心配でたまらない感じになっててさ。
試合に全然集中できないんだよ。
で、ハーフタイムに先輩に怒られるんだ。
「おい、ユウスケ! なんださっきのプレーは!」
「す、すみません、先輩!」
「ったく、どうせ例の件でユウコちゃんのことが心配なんだろう?」
「い、いえ、そんなことないです!」
「バカが。バレバレなんだよ。本当は駆けつけたいんだろうが! 正直に言ってみろ!」
「す、すみません! 後半は試合に集中します!」
「バカヤロウ! そんな半端な選手、うちには要らねえんだよ!」
「本当にすみません! これからは気をつけます!」
「駄目だ。お前みたいな軟弱野郎を、これ以上試合に出すわけにはいかん」
「そ、そんな!」
「罰として、みんなの飲み物を買ってこい!」
「そんな! お願いします! 試合に出させてください!」
「駄目だ駄目だ! いいから早くジュース買ってこい! 学校の、ピロティでな!」
「先輩!」
「早く行ってやれよ」
「すみません! ありがとうございます!」
「おい、ユウスケ!」
「はい!?」
「俺はコーラだ。炭酸が抜けないように、ゆっくり戻って来いよ?」
「はい! 解りました!」
俺はもう駄目だ。
楽しくて恥ずかしくて、もう書けん。
ちなみにオフ会の最中。
夢中になって喋っている間、友人チーフが驚くぐらい冷たい目で俺を見ていたんだけれど、冷静になりたくなかったので気づかないフリをしていました。
胸を張って、俺はソファにふんぞり返る。
「酔って靴が履けなくなるぐらいの男は、俺ぐれえしか居ないんじゃねえかな。みんな見ろよ。完璧に履けねえ」
情けなさ絶好調だ。
だいたい、酔うとなんですぐに靴を脱ぐのか。
「俺ぐらいになると、もちろん履けないのは靴だけじゃないぜ? お見せできないのが残念だけど、他のも色々と履けなくなる」
お前もう黙れ。
5週連続で行っているオフ会。
劇団「りんく」のメンバーたちも、参加者様たちも、楽しい人ばっかりだ。
いつか異性に言われてみたいセリフは何?
そんな話題が発展し、ベッタベタな展開は最高に萌えるといった方向に、会話は白熱する。
「やっぱ主人公とヒロインが幼馴染みっていう設定も王道でしょ」
「最高ーッ!」
「家が隣同士で、窓を開けると相手の部屋がすぐそこにあるの!」
「きゃー!」
「で、主人公は双子で、しかも野球部!」
「それは著作権の問題になりそうだからナシ!」
というわけで俺は参加者様たちと一緒に、即興でベタなラブコメを作ってしまった。
「ユウスケー!」
あたしは窓を開けると同時に、幼馴染みの名を叫ぶ。
あたしの部屋の窓と、ユウスケの部屋の窓は向かい合っているから、普段何かと重宝している。
「な、なんだよ! お前かよ!」
パジャマ姿のユウスケは、いつもと同じような慌て方だ。
「ノックぐらいしろよな!」
「なーに言ってんの」
あたしはお姉さんぶって、腕を組んで見せた。
「だったら窓に鍵ぐらいかけておきなさいよ」
「だからっていきなり窓開けるか? 普通」
ユウスケはテレビゲームに夢中だったらしく、落としたコントローラーを持ち直している。
「やられちまったじゃねえか」
どうやら格闘ゲームらしい。
「だいたい、何の用だよ今日は。こないだの宿題だったら、もうノート返したろ?」
「ちょっと、相談したいことがあってね」
ユウスケは再びキャラクターを選び、画面には「ラウンド1」と表示される。
「相談?」
「そう。あのさ、あんたのクラスに二階堂君って、いるでしょ?」
「ああ、あの学級委員の?」
「そう。スポーツ万能で成績優秀で、家がお金持ちの、あの二階堂君」
「それがどうした?」
「あたし、二階堂君に、告白されちゃった」
テレビから、派手な爆発音がした。
どうやらユウスケは、また敵キャラにノックアウトされてしまったらしい。
「そ、そんなの、なんで俺に言うんだよ」
「ねえ、どうしたらいいと思う?」
「し、知らねえよ」
「ちょっと何? その態度。もうちょっと親身になってくれたっていいでしょ?」
「そんなの、お前の問題だろ? なんで俺がわざわざアドバイスしなきゃいけねーんだよ」
「あっそ。あたしが二階堂君と付き合っても、いいんだ?」
「し、知らねえって言ってんだろ? か、勝手にすりゃいいじゃねえか」
「来週の土曜にね? あたし、二階堂君に返事しなきゃいけないの。彼、『交際してくれるのなら来てほしい』って」
「どこにだよ?」
「ピロティ。ずっと待っててくれるんだってさ。あたし、行っちゃおうかなあ」
「か、勝手にすりゃいいじゃねえかよ」
「ふうん? 止めないんだ?」
「なんで俺が! だいたい土曜は俺、バスケの試合だぜ?」
「あっそ。じゃ、あたし、二階堂君にOKしちゃうんだからね! あんたと違って二階堂君、カッコイイし優しいもん」
「うるせえな! なんでそんな話、俺にするんだよ! お前の好きにしたらいいだろ!?」
「何よ! もう知らない! あんたなんて、大ッ嫌い!」
ピシャリと窓を閉め、乱暴にカーテンを引く。
怒っていいのか悲しんでいいのか判らなくて、あたしは握ったカーテンを離すことができなかった。
「あの鈍感、ホント大ッ嫌い」
最高じゃね?
「最高にベタベタです! めささん!」
しかも前日あたり、実は二階堂君、主人公に対して宣戦布告をしちゃってんの。
男前の二階堂君は、実は何気にズルをしない奴でさ。
「あ~。いるいる、そういうキャラ」
じゃあここで、ちょっぴり男目線ね?
「ったく、ゲームするような気分じゃなくなっちまったぜ」
俺は電源を落として、ベットに横になる。
「二階堂の奴、マジで告白したのか」
自然と、昨日のことを思い返す。
「ユウスケ君」
二階堂に呼び出され、俺は屋上に来ていた。
「突然、呼び出してすまない」
「なんだよ、急に」
「ユウスケ君。単刀直入に訊こう。君はユウコさんのことをどう思っているんだい?」
「な! なんだよ、急に!」
「真面目な話なんだ。真剣に答えてくれ」
「あんな奴、ただの腐れ縁だよ! ただの幼馴染みなのに噂されて、いい迷惑だぜ」
「そうか、ならよかった」
「ん? どういうことだ?」
「僕がユウコさんに告白しても、問題ないということだね?」
「はあ!? お前、あんな奴のことが好きだったのか!?」
「ああ、好きだ。僕は彼女に交際を申し込もうと思っている」
「へ? あ、ああ、そう? も、物好きな奴だなあ、お前も」
「もう1度訊く。君は本当に、ユウコさんのことを何とも思っていないんだな?」
「し、しつけえ野郎だな! あんなのただの友達だって言ってんだろ!?」
「そうか。それを聞いて安心したよ」
で、ついに土曜日になっちゃうわけ。
「ユウコはどうするんです?」
もちろん、ピロティに行くよ。
「え!? だって、ピロティに行くってことは、二階堂君とOKってことじゃないですか!」
それが、そうじゃないんだなあ。
「二階堂君」
「やあ、ユウコさん。来てくれると信じていたよ。僕と付き合ってくれるんだね」
「それが、ごめんなさい!」
「え?」
「今日は、二階堂君にお礼を言いに来たんです」
「お礼?」
「あたしなんかを好きになってくれて、本当にありがとうございました!」
「ちょ、待ってくれ、ユウコさん。まさか、他に好きな人でもいるのかい?」
「うん。そうなんだ。ぶっきらぼうで、乱暴者で、デリカシーなんて欠片もないような奴」
「そうか。やっぱり君は、ユウスケ君のことを」
「本当にごめんなさい! あんなどうしようもない奴なんだけど、好きなんです! なんであたし、あんな奴のこと、好きになっちゃったんだろう。今日のことも言ったんだけど、あいつ今日はバスケの試合とかで、あたしを止めるつもりないみたい」
「そうでも、ないみたいだよ?」
「え?」
二階堂君が指差す先に、あたしは視線を走らせる。
そこには、ユニフォーム姿の人影が。
こちらを目指して、走ってきている。
「ユウスケ! なんで!?」
ちなみにユウスケ君は、バスケの試合に出てたんだけど、ユウコのことが心配でたまらない感じになっててさ。
試合に全然集中できないんだよ。
で、ハーフタイムに先輩に怒られるんだ。
「おい、ユウスケ! なんださっきのプレーは!」
「す、すみません、先輩!」
「ったく、どうせ例の件でユウコちゃんのことが心配なんだろう?」
「い、いえ、そんなことないです!」
「バカが。バレバレなんだよ。本当は駆けつけたいんだろうが! 正直に言ってみろ!」
「す、すみません! 後半は試合に集中します!」
「バカヤロウ! そんな半端な選手、うちには要らねえんだよ!」
「本当にすみません! これからは気をつけます!」
「駄目だ。お前みたいな軟弱野郎を、これ以上試合に出すわけにはいかん」
「そ、そんな!」
「罰として、みんなの飲み物を買ってこい!」
「そんな! お願いします! 試合に出させてください!」
「駄目だ駄目だ! いいから早くジュース買ってこい! 学校の、ピロティでな!」
「先輩!」
「早く行ってやれよ」
「すみません! ありがとうございます!」
「おい、ユウスケ!」
「はい!?」
「俺はコーラだ。炭酸が抜けないように、ゆっくり戻って来いよ?」
「はい! 解りました!」
俺はもう駄目だ。
楽しくて恥ずかしくて、もう書けん。
ちなみにオフ会の最中。
夢中になって喋っている間、友人チーフが驚くぐらい冷たい目で俺を見ていたんだけれど、冷静になりたくなかったので気づかないフリをしていました。
2008
August 10
August 10
今まで色んな言いがかりをつけられてきたけれど、今回のものが最も酷い。
「めさ君、めちゃめちゃDVなんだって?」
DVとは、いわゆるドメスティックバイオレンス。
つまり女性をグーでぶっちゃうとか、そういう反則技を使いこなす奴のことである。
自慢じゃないが、俺は女の人に勝てないぞ。
そりゃ子供の頃は兄弟喧嘩で妹と殴りあったりもした。
でもそんなの、中学に上がる頃には自然になくなった。
当たり前だけどそれ以降、女の人をぶったことなんてない。
逆に俺が女子からボコボコにされる始末だ。
そんな俺が、なんでDV?
言いがかりをつけてきたのはHさん。
彼は俺の職場、スナック「スマイル」の常連客だ。
「めさ君は、こう見えて本当に酷い男だよ」
え、なんで?
「めちゃめちゃDVだからね」
なにDVって。
毒々しいヴォーカル?
「またまたそんな、しらばっくれちゃって。めさ君、女の子とか相当殴ってるんだって?」
なんじゃそりゃ!?
マジ知らないっすよ!
「めさ君、ここは素直に認めたほうが男らしいって」
なんでやってもいないことを認めなきゃいけないの!
「あ~、見苦しくあがいちゃって、みっともないなあ」
そういうこと言う!?
誤解を解くことが難しそうでもあったので、俺は開き直ることにした。
「だったら言ってやるよ! 俺ァDVだよ! 泣かせた女の数!? 100から先は覚えてねえよ!」
Hさんは本当に楽しそうに、ゲラゲラと笑い転げている。
「確かに俺ァ、強え奴には弱えよ! でもな! 俺ァ弱え奴には強えンだよ!」
Hさんは腹をかかえつつも、「めさ君、右手で殴るの? 左手で殴るの?」などと訊いてくる。
「そんなのワンツーだよ! 連続攻撃だよ! 必殺だよ!」
ここまで来ると、俺まで楽しくなってくるから不思議だ。
夜も更け、Hさんが帰宅のために立ち上がる。
俺は会計を受け取り、おつりを渡す。
Hさんが顔を近づけ、小声で言ってきた。
「めさ君、さっきは面白おかしく言ってたけど、女の人は殴っちゃ駄目だぞ」
だからホントはそんなことしてないんだってば!
だいたい、誰が俺をDVだなんて言ったんですか!
「めさ君の妹」
あの阿呆か!
妹よ。
俺が何をした。
「めさ君、めちゃめちゃDVなんだって?」
DVとは、いわゆるドメスティックバイオレンス。
つまり女性をグーでぶっちゃうとか、そういう反則技を使いこなす奴のことである。
自慢じゃないが、俺は女の人に勝てないぞ。
そりゃ子供の頃は兄弟喧嘩で妹と殴りあったりもした。
でもそんなの、中学に上がる頃には自然になくなった。
当たり前だけどそれ以降、女の人をぶったことなんてない。
逆に俺が女子からボコボコにされる始末だ。
そんな俺が、なんでDV?
言いがかりをつけてきたのはHさん。
彼は俺の職場、スナック「スマイル」の常連客だ。
「めさ君は、こう見えて本当に酷い男だよ」
え、なんで?
「めちゃめちゃDVだからね」
なにDVって。
毒々しいヴォーカル?
「またまたそんな、しらばっくれちゃって。めさ君、女の子とか相当殴ってるんだって?」
なんじゃそりゃ!?
マジ知らないっすよ!
「めさ君、ここは素直に認めたほうが男らしいって」
なんでやってもいないことを認めなきゃいけないの!
「あ~、見苦しくあがいちゃって、みっともないなあ」
そういうこと言う!?
誤解を解くことが難しそうでもあったので、俺は開き直ることにした。
「だったら言ってやるよ! 俺ァDVだよ! 泣かせた女の数!? 100から先は覚えてねえよ!」
Hさんは本当に楽しそうに、ゲラゲラと笑い転げている。
「確かに俺ァ、強え奴には弱えよ! でもな! 俺ァ弱え奴には強えンだよ!」
Hさんは腹をかかえつつも、「めさ君、右手で殴るの? 左手で殴るの?」などと訊いてくる。
「そんなのワンツーだよ! 連続攻撃だよ! 必殺だよ!」
ここまで来ると、俺まで楽しくなってくるから不思議だ。
夜も更け、Hさんが帰宅のために立ち上がる。
俺は会計を受け取り、おつりを渡す。
Hさんが顔を近づけ、小声で言ってきた。
「めさ君、さっきは面白おかしく言ってたけど、女の人は殴っちゃ駄目だぞ」
だからホントはそんなことしてないんだってば!
だいたい、誰が俺をDVだなんて言ったんですか!
「めさ君の妹」
あの阿呆か!
妹よ。
俺が何をした。
2008
August 07
August 07
こんなことを自分で書くのもアレだけど、俺、めっちゃカッコよかった。
3日に行ったオフ会には12名のお客様と、飛び入り参加の悪友や飲み仲間。
劇団「りんく」のメンバーたちでお迎えし、盛大に盛り上がった。
俺は本来、人から好かれるのが大好きだ。
だから、やたら意識した。
主催側に気を遣ってのことか、自ら氷を取りに行こうとしたり、皆のお代わりを作ってくれようとする参加者様。
そんな彼女を、きっちりと制する。
「働かなくていいよ。あなたはお客様なんだから、楽しんで飲んで」
どこまで優しい一言を言えちゃう人なのだろうか、俺は。
俺が俺だったら俺に惚れるぞ。
ところが彼女にとっては、気を遣うことが自然であるようだ。
俺に頼めばいいものを、灰皿など取り替えている。
「働かなくっていいって言ってんの!」
時には物事を言い切る意思の強さが必要だ。
俺は高々と断言した。
「俺はね!? みんなのお酒を作ったりとかして、『めささんは主催者なのにとてもよく動くなあ』って思われたいの! 何もかも好感度のためなのね!? だから、あなたは働かないでいいの! 俺的には営業妨害だ!」
胸の内を全て曝け出す大胆さに、我ながらクラクラしそうだ。
最高に輝いてる、俺。
酒が進んでも、俺の素晴らしさは止まらない。
「みんな聞いてー! 俺、もうすぐ酔うからー! だから1時間後ぐらいには働かなくなってまーす!」
アルコールを摂取した状態でも、俺はここまで自分自身を冷静に分析できる男なのだ。
先見の明もありまくっている。
酔ったら酔ったで、俺は何故か靴を脱ぐ習性がある。
日本人らしくって素敵。
椅子の上であぐらをかいた。
と、ここで普段だったら、へろへろになりながら再び靴を履こうとし「靴が履けなぁい」などと甘えた声など出すのだが、オフ会ともなると、さすがにそうはいかない。
「フッ! 今夜も靴が履けないぜ」
なんてニヒルな奴なのだ俺は。
ここまでカッコよく靴が履けない男が他にいるだろうか。
ちなみに今、書いていて謝りたくなっている自分がいる。
さて、感謝状。
3日のオフ会に参加してくださった皆さん、本当にお疲れ&ありがとうございました!
後日メールで挨拶くださった皆さん、1人1人に返信できなくって、すみません。
調子こいて、お昼の仕事を入れまくっちゃってたの。
オフ会は山賊の宴を思わせる騒ぎ具合になりましたが、皆さんとお話できて楽しかったですよ。
主催者の頭がちょっぴりアレで恐縮ですが、これに懲りずまた遊びに来てくださいませ。
参加者の皆さん、どうもありがとう!
3日に行ったオフ会には12名のお客様と、飛び入り参加の悪友や飲み仲間。
劇団「りんく」のメンバーたちでお迎えし、盛大に盛り上がった。
俺は本来、人から好かれるのが大好きだ。
だから、やたら意識した。
主催側に気を遣ってのことか、自ら氷を取りに行こうとしたり、皆のお代わりを作ってくれようとする参加者様。
そんな彼女を、きっちりと制する。
「働かなくていいよ。あなたはお客様なんだから、楽しんで飲んで」
どこまで優しい一言を言えちゃう人なのだろうか、俺は。
俺が俺だったら俺に惚れるぞ。
ところが彼女にとっては、気を遣うことが自然であるようだ。
俺に頼めばいいものを、灰皿など取り替えている。
「働かなくっていいって言ってんの!」
時には物事を言い切る意思の強さが必要だ。
俺は高々と断言した。
「俺はね!? みんなのお酒を作ったりとかして、『めささんは主催者なのにとてもよく動くなあ』って思われたいの! 何もかも好感度のためなのね!? だから、あなたは働かないでいいの! 俺的には営業妨害だ!」
胸の内を全て曝け出す大胆さに、我ながらクラクラしそうだ。
最高に輝いてる、俺。
酒が進んでも、俺の素晴らしさは止まらない。
「みんな聞いてー! 俺、もうすぐ酔うからー! だから1時間後ぐらいには働かなくなってまーす!」
アルコールを摂取した状態でも、俺はここまで自分自身を冷静に分析できる男なのだ。
先見の明もありまくっている。
酔ったら酔ったで、俺は何故か靴を脱ぐ習性がある。
日本人らしくって素敵。
椅子の上であぐらをかいた。
と、ここで普段だったら、へろへろになりながら再び靴を履こうとし「靴が履けなぁい」などと甘えた声など出すのだが、オフ会ともなると、さすがにそうはいかない。
「フッ! 今夜も靴が履けないぜ」
なんてニヒルな奴なのだ俺は。
ここまでカッコよく靴が履けない男が他にいるだろうか。
ちなみに今、書いていて謝りたくなっている自分がいる。
さて、感謝状。
3日のオフ会に参加してくださった皆さん、本当にお疲れ&ありがとうございました!
後日メールで挨拶くださった皆さん、1人1人に返信できなくって、すみません。
調子こいて、お昼の仕事を入れまくっちゃってたの。
オフ会は山賊の宴を思わせる騒ぎ具合になりましたが、皆さんとお話できて楽しかったですよ。
主催者の頭がちょっぴりアレで恐縮ですが、これに懲りずまた遊びに来てくださいませ。
参加者の皆さん、どうもありがとう!
2008
July 27
July 27
違うの。
職場の椅子が壊れかけてたから、直そうと思ったの。
だから俺、いつもよりちょっぴり早めにスナック「スマイル」に出勤したのね?
ちょっとした工夫だけで椅子の故障を軽減できたもんだから、何度も「俺って天才じゃね?」ってつぶやいたさ。
ついでにお店の看板も点けて、お客様を早めに招き入れる体制も整えてね。
頑張り屋さんじゃね?
でもね、誰も来ないの。
お客さんどころか、ボスやフロアレディのみんなも、来る気配がないの。
俺が自分の意思で、勝手に努力しているのに!
店側の人間まで来ないとは、一体どういうことさ!
普段は穏便な俺も、さすがにこれには鬼ギレですよ。
毅然と奮い立って、女の子たちに片っ端から電話をかけてやったの。
あのときの俺は、まるで鬼神を思わせる激怒っぷりだったね。
「もしもし? あのさ、今電話、平気? あのさ、今日ってさ、スマイル休み? なんかね? 誰も来ないの」
「マジすか、めささん。お店開けちゃったんすか。スマイル今日、休みっすよ。ププッ」
軽く笑われる。
「もしもし? めさ? さっき電話もらったみたいなんだけど」
「違うの。スマイル休みなのかなあ? って思って」
「休みって聞いてなかった? 今日は絶対に営業しないよ」
ですよねー。
泣きながら看板の電気を消したよ。
その次の日はね、隠れ家にしているハワイアンバーでお茶しながら、ノート広げて色々と作業をしていたのさ。
お気に入りの席からはね、小さな時計が見えるわけ。
「この時計って、合ってます?」
「合ってるよ」
「じゃあ、スマイル開店まで、まだ時間あるな。コーヒーおかわりくーださい」
で、いそいそとご出勤よ。
道路から職場を見るとね、珍しくお店の看板が点いてるの。
どうやら誰かが、俺より早くに来たみたいでさ。
開店準備を手伝おうと思って、急いでご入店よ。
そしたらさ、予想を超えた展開がそこに!
って感じだったよ。
女の子が出勤しているどころか、もう既にお客さんが飲んでいらっしゃる。
今日は何?
俺の誕生日か何か?
とにかくサプライズ。
「どうしたの、みんな!」
「どうしたじゃないよ! めさ、今もう11時だよ!?」
「何ッ!」
時計を見て、びっくりしたよ。
1時間丸々、俺、遅刻してんの。
隠れ家の時計は綺麗に1時間、遅れていたらしい。
「ホントすんませんっしたァー! 休みの日に勝手にお店開けたり、1時間も遅刻したり、ホントすんませんっしたァー!」
もう俺、カレンダーとか時計とか、信じられない。
職場の椅子が壊れかけてたから、直そうと思ったの。
だから俺、いつもよりちょっぴり早めにスナック「スマイル」に出勤したのね?
ちょっとした工夫だけで椅子の故障を軽減できたもんだから、何度も「俺って天才じゃね?」ってつぶやいたさ。
ついでにお店の看板も点けて、お客様を早めに招き入れる体制も整えてね。
頑張り屋さんじゃね?
でもね、誰も来ないの。
お客さんどころか、ボスやフロアレディのみんなも、来る気配がないの。
俺が自分の意思で、勝手に努力しているのに!
店側の人間まで来ないとは、一体どういうことさ!
普段は穏便な俺も、さすがにこれには鬼ギレですよ。
毅然と奮い立って、女の子たちに片っ端から電話をかけてやったの。
あのときの俺は、まるで鬼神を思わせる激怒っぷりだったね。
「もしもし? あのさ、今電話、平気? あのさ、今日ってさ、スマイル休み? なんかね? 誰も来ないの」
「マジすか、めささん。お店開けちゃったんすか。スマイル今日、休みっすよ。ププッ」
軽く笑われる。
「もしもし? めさ? さっき電話もらったみたいなんだけど」
「違うの。スマイル休みなのかなあ? って思って」
「休みって聞いてなかった? 今日は絶対に営業しないよ」
ですよねー。
泣きながら看板の電気を消したよ。
その次の日はね、隠れ家にしているハワイアンバーでお茶しながら、ノート広げて色々と作業をしていたのさ。
お気に入りの席からはね、小さな時計が見えるわけ。
「この時計って、合ってます?」
「合ってるよ」
「じゃあ、スマイル開店まで、まだ時間あるな。コーヒーおかわりくーださい」
で、いそいそとご出勤よ。
道路から職場を見るとね、珍しくお店の看板が点いてるの。
どうやら誰かが、俺より早くに来たみたいでさ。
開店準備を手伝おうと思って、急いでご入店よ。
そしたらさ、予想を超えた展開がそこに!
って感じだったよ。
女の子が出勤しているどころか、もう既にお客さんが飲んでいらっしゃる。
今日は何?
俺の誕生日か何か?
とにかくサプライズ。
「どうしたの、みんな!」
「どうしたじゃないよ! めさ、今もう11時だよ!?」
「何ッ!」
時計を見て、びっくりしたよ。
1時間丸々、俺、遅刻してんの。
隠れ家の時計は綺麗に1時間、遅れていたらしい。
「ホントすんませんっしたァー! 休みの日に勝手にお店開けたり、1時間も遅刻したり、ホントすんませんっしたァー!」
もう俺、カレンダーとか時計とか、信じられない。