夢見町の史
Let’s どんまい!
March 09
毎度行きつけになっているバーの玄関をくぐる。
今回は珍しく1人じゃない。
女の子と一緒だ。
こいつが実の妹でなかったら、もっと良かったのに。
妹は、「オメー、ブラコンですか!?」と突っ込みたくなるぐらい、俺や次男のことを好いている。
何かと心配し、世話を焼きたがり、ちょっと感じのいい女性を見つけると、「うちのお兄ちゃんと結婚しませんか!?」などと余計な縁談を持ちかける。
おかげで何度、告白してもいない人からフラれたことか。
妹は笑顔で、美味そうに酒を飲む。
「でもさ、めさちゃんが1番凄いよね」
え、何が?
「うち、昔は家庭の事情がアレで、すっごい大変だったじゃん。だからめさちゃん、あたしとスヴェンちゃん(次男)を守るために空手始めたんでしょ?」
誰がそんなことを言った。
「え、違うの!?」
全然違う。
俺が空手をやったのは、悪友に「練習が楽だ」って騙されたからだ。
「うそー!」
ホントだ。
実際は練習キツくってさ、だから辞めたかったんだけど、先生や先輩に怒られそうで、怖かったから続けた。
「ええー! そんなの聞きたくなかったよう! こないだスヴェンちゃんとその話になって、2人で感動して泣いてたのに!」
勝手に俺を美化するな。
お前んトコの長男はな、楽ちんが大好きだ。
「くふふぅ! もう聞きたくないー!」
お前今、泣いたらいいのか笑ったらいいのか分からなくなってるだろ。
でもさ、いいじゃん。
ことのついでに守ってんだから。
「ことのついで!? もー嫌! 騙されてたー!」
俺は何も騙してない。
むしろ、騙されたのは俺のほうだ。
楽とは程遠い、地獄のような日々だった。
そんな空手部に入ったのは、お前らを守るためじゃない。
俺が騙されたからだ。
「ふふふぅ! 聞きたくなかったあ!」
両手で耳を覆い、泣き笑いになっている妹が面白くって、つい酒が進む。
それにしても不思議だ。
誰にも話したことない動機だったのに、なんでバレてたんだろう。
照れて誤魔化しちゃったけど、妹よ。
この日記のタイトルを、もう1度見よ。