夢見町の史
Let’s どんまい!
2007
March 09
March 09
あの瞬間にあの曲を耳にしたことが運命めいていて、だからこの話を再び持ち出すことにした。
4年前の今頃、涙を流しながら綴った文章だ。
今回紹介致しますエピソードは、楽しいものではありません。
ある決意があり、書き記す事に致しました。
俺の姉貴分にあたる女性と、その子供に捧げます。
N美さんは俺より年上で、お酒が大好きで豪快で明るくて素敵な女性でした。
あるバーで知り合い、気が合って仲良しになった俺とN美さんは、いつも楽しく飲んでいました。
誤解がないように書き記しておきますが、俺もN美さんも決して互いに恋愛感情はなく、体の関係にも発展し得ない付き合いをしていました。
N美さんは俺を弟のように可愛がってくれましたし、俺もN美さんを実の姉のように慕っていました。
「めさと仲がいいね、N美ちゃんは」
「うん! だってあたしの弟だもん!」
俺には今、N美さんを思い出すと涙が出る理由があります。
N美さんはもう他界しているのです。
車の交通事故でした。
N美さんの友人から電話で知らせを受けた翌日から俺は葬儀に出席し、いつも会っていたバーの空席に彼女の好きな酒を置きました。
N美さんは、ビールが大好きでした。
恥ずかしい話ですが、酒の勢いに任せて号泣した事もあります。
それから月日が流れ、2年後。
鋭い霊感を持つ、ある女性が俺に尋ねてきました。
「めさ君てさ、N美ちゃんと仲良かった?」
俺が「兄弟レベルの仲だった」と応えると、その霊感の持ち主は神妙な面持ちになり、言います。
「N美ちゃん、亡くなった時に妊娠していたみたいだよ。でも、誰もその事を知らないから、お葬式はN美ちゃんの分だけだったでしょう? N美ちゃん、子供の為にまだ天国に行けないみたいなの。でね? めさ君に何か言いたい事があるみたいなのよ」
かなりの衝撃を受けました。
N美さんが妊娠していた事など、全く知りませんでした。
もちろんN美さんのご家族も知らないでいるのでしょう。
俺にも多少の霊感がありますし、その女性も嘘を言う人ではありません。
勘違いなどではなく、N美さんが妊娠していたのは事実であると確信が持てました。
ただ、N美さんが俺に対して、一体どんな用件があるのかが誰にも分からないのです。
ではどうすれば良いのか?
俺は色々と思案に暮れました。
N美さんの家族にこの事実を告げ、子供の葬儀を改めて執り行ってもらうにしても、N美さんのご家族は引っ越してしまい、誰に訊いても住所が分かりませんでした。
また、インターネットで墓地の電話番号を調べ、片っ端から電話を掛けましたが、N美さんに該当する人物はいないとの事です。
N美さんが眠っている場所は、もっとずっと遠くなのでしょう。
図書館にも訪れ、当時の新聞も調べましたが、結局は無駄足でした。
そもそも、N美さんの子供はどうすれば成仏出来るのでしょうか?
俺は考える方向を変えてみました。
子供が成仏出来ない理由を解消すれば、きっと親子は浮かばれると思ったのです。
まだ生まれていない子供が持つ不満とはなんだろう?
外の景色が見たかった?
いや、亡くなった後でも景色ぐらいは見れそうだ。
愛情に飢えているとか?
それも違う。
N美さんに愛情があるからこそ、N美さんは自分の子供の為にさ迷っているんだ。
その時点で母の愛情は充分に見受けられる。
そもそも葬儀が2人分でさえあれば、おそらく子供は成仏出来たんだろうな。
子供は自分の儀式をされていない。
無視されたんだ。
…無視?
俺の中で「無視された」というキーワードが浮上し、重要になり、やがて1つの思いが確信に変わります。
存在を認めて欲しいんだ!
きっとそうだ。
よし!
俺がお前の存在を認めてやるぜ!
俺はN美さんの子供に名前と、名付けのパパをプレゼントする事にしました。
俺は親友の子供に名前を付けました。
未来、と。
来世での幸せを祈って、一生懸命考えた名前です。
そして仕上げに、ある約束を果たすべく俺はお金を貯めました。
「めさー、いつかさあ、夜景が綺麗なバーで、カッコ良く飲もうよ」
「お! いいね! カッコ良く飲もう! 俺、スーツ着てくるからさ!」
2002年、母の日。
俺はスーツを着込み、ジンの家を訪れました。
ジンにN美さんの事を話し、彼にもスーツを着てもらいます。
親友と談笑する俺の元気な姿を、N美さんに見てもらおう。
ランドマークタワー70階にある、世界一標高が高いバー、シリウスに出発です。
俺達はシリウスの入り口で「4名です」と告げ、席に案内してもらいました。
「注文なんですが、まだ来ていない2人の分も頼んでいいですか? 2人はそこと、この席に座ると思います」
俺はN美さんと未来ちゃんの席と飲み物を注文しました。
俺はブランデー。
ジンはカクテル。
N美さんは大好物の生ビール。
未来ちゃんは当然ミルクです。
飲み物が届くと、俺達は乾杯します。
ジンがちゃんと2人にもグラスを合わせてくれたので、俺は感動しました。
フォークギターとグランドピアノが奏でる心地良い音楽を聴きながら、俺達4人は楽しく飲みました。
俺にも多少の霊感はありますから、N美さんと未来ちゃんの存在を感じる事が出来ます。
2人は、来てくれていました。
そして演奏曲が変わり、偶然でしょうか? 映画「ゴースト」の主題曲「アンチェンド・メロディー」が店内に流れたのです。
俺は涙をこらえました。
やがてシリウスを後にすると、俺はジンに礼を言い、持ち合わせがあるので「この後1杯奢るよ」と告げました。
ジン、普通だったらおかしいと思われても仕方ない頼み事を、あっさり聞いてくれて、本当にありがとうな。
N美さん、夜景はどうだった?
姿まで見れる訳じゃないから、俺、分からなかったんだけど、ちゃんとドレスは着てきましたか?
俺が死んだら、あの世でまた飲もうぜ。
未来ちゃん、もう寂しくないか?
誰もが君を無視するなんて事は、もうないよ。
優しいママだっていることだし、大丈夫だろう。
君の名付けの親は俺ですよ。
感謝しとけよっ。
そして、この文章は君がいるから書いたんだぜ。
君が立派に存在するという証拠です。
安心出来ましたか?
そしてみなさん、ここまで読んで下さって、本当にありがとうございました。
俺の大切な親子の事を、心のどこかに留めて下されば幸いです。
この文章を、N美さんと未来ちゃんに捧げます。
ランドマークタワーを訪れてから、もう4年が経った。
風邪薬の代わりに酒を飲んで、もう帰ろうかという時に、有線が曲目を変えなかったら、ここは普段通りの馬鹿日記だ。
つい先ほどだ。
マスターが席を外したわずかな間に、アンチェンド・メロディが流れた。
聴いた瞬間に、今日は母の日なのだと気がつく。
カーネーションを買った。
N美さん、4年振り。
いつの間にか、俺のほうが年上になっちゃったね。
この花、買ったはいいけれど、どこに届けたらいいのか、まだ考え中なんだ。
でも、母の日にカーネーションなんて初めてだべ?
とびっきりのポイントまで届けるよ。
未来ちゃん、元気か?
俺や、俺の仲間達は、今でも全員が君の幸せを願っている。
これからも、絶対に忘れない。
2人とも、今日は久々だぜ。
カッコ良くスーツを着込んで、思いっきりキザに、花を届ける名づけの親の勇姿を見よ。
2006年5月14日、著。
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無題
感動しました。
産まれたくても産まれる事が出来なかった子供……
その不満は存在を認めて欲しい事……
僕は貴方の言葉に共感しました。
貴方の文章のお陰で、僕も未来ちゃんの存在を知る事が出来ました。
僕も忘れません。
貴方と未来ちゃんを繋ぐ、この文章を……
産まれたくても産まれる事が出来なかった子供……
その不満は存在を認めて欲しい事……
僕は貴方の言葉に共感しました。
貴方の文章のお陰で、僕も未来ちゃんの存在を知る事が出来ました。
僕も忘れません。
貴方と未来ちゃんを繋ぐ、この文章を……
無題
はじめまして、こんにちは。沙耶と申します。
動画サイトからめささんのことを知り、動画内のお話でこちらの文章のことを聞いたので、拝読させて頂きました。
他人の身で大切な文章にコメントさせて頂くことに躊躇しましたが、感動しましたという旨だけお伝えすることをお許し下さい。
存在を認めてくれる人が居る。誰かが思いやってくれている。それがどんなに幸せなことなのか、思い出させて頂きました。
私はこの文章を読んだことを忘れません。めささんと、大切なご友人方の幸せをお祈り申し上げます。
動画サイトからめささんのことを知り、動画内のお話でこちらの文章のことを聞いたので、拝読させて頂きました。
他人の身で大切な文章にコメントさせて頂くことに躊躇しましたが、感動しましたという旨だけお伝えすることをお許し下さい。
存在を認めてくれる人が居る。誰かが思いやってくれている。それがどんなに幸せなことなのか、思い出させて頂きました。
私はこの文章を読んだことを忘れません。めささんと、大切なご友人方の幸せをお祈り申し上げます。
無題
はじめまして。私も沙耶さんと同じように、動画サイトのお話しから読ませていただきました。
読み終わったあと、涙がとまりませんでした。
コメントをせずにはいられませんでした。
めささんのやさしさが伝わってくる文で綴られた
このお話に出会えたこと、そして未来ちゃんとN美さんを知ることができてほんとうによかったです。
どうか、めささんとそのご友人方が幸せでありますよう。
読み終わったあと、涙がとまりませんでした。
コメントをせずにはいられませんでした。
めささんのやさしさが伝わってくる文で綴られた
このお話に出会えたこと、そして未来ちゃんとN美さんを知ることができてほんとうによかったです。
どうか、めささんとそのご友人方が幸せでありますよう。