夢見町の史
Let’s どんまい!
2010
November 23
November 23
動けない。
目が覚めているし、体勢は中腰だというのに、俺と悪友はすっかり金縛り状態だ。
「トメ、なんか喋れよ」
俺が促すと悪友は、
「お~」
それだけ言って再び黙り込んだ。
俺たちの視線の先には、空のロックグラスが2つ置いてある。
彼の母親は、実の息子でもない俺たちを本当に可愛がってくれていた。
高校時代は特に大食漢だったというのに、ジンのおふくろさんは当たり前のように、家族以外の夕食をいつでも用意してくれる。
「うちの子よりも食べるなんて。あんたたちのせいで、また家計に大打撃だわ」
その言葉は不思議と嫌味に聞こえない。
放課後はだいたい、俺はトメと一緒にジンの家で遊んでいた。
それこそ毎日のように、夜分までだ。
団地であるにもかかわらず無遠慮にげらげらと大声で笑う俺たちは、思い返してみればうるさいと叱られたことがない。
当時のトメは、なんというか、不良?
いや、そんな不良を次々とぶっ飛ばしてしまうような、派手な悪ガキだった。
俺は俺でハードにヘビーな家庭環境だったりもしたから、2人してなかなか痛快な評判を立てられていたものだ。
だから、ジンの家にこのような電話がかかってくるのも、仕方のないことなのかも知れない。
「お宅のジン君、めさ君と仲がいいみたいだけど、大丈夫ですか?」
「あのトメ君が、ジン君と遊んでいるみたいで、心配になって電話しました」
その告げ口に、ジンの母は堂々と胸を張ったのだそうだ。
「ジンの友達を選ぶのは、私じゃなく、ジンですから」
高校2年の昼休み。
弁当を平らげてのんびりしていると、校内放送が耳に入る。
空手道部顧問、K先生の声だ。
「空手道部員、めさとトメ、中庭に集合しなさい。繰り返します――」
なんで神妙な声色なのだと、俺はトメと一緒になっておろおろするばかりだ。
「トメ、俺たち最近、なんか怒られるようなこと、したっけ!?」
「わっかんねえよ~、どれのことだかよ~。取り合えずオメー、先に行って謝っとけよ~」
「やだよばか! テメーも一緒に来い!」
よく解らんが怒られる。
どの悪さがバレたのか解らんが、何かがバレた。
そうとしか考えられなかった俺にもトメにも、K先生の言葉は意外だった。
「もうすぐ母の日でしょ」
なんじゃそりゃ。
と、内心首を傾げる。
K先生は、不思議そうな顔をしている俺たちに構わず、続ける。
「あんたたち、ジンの家にいつもお世話になっているんでしょう? こないだね、個人面談でジンのお母さんと話したんだけど」
そういえばK先生は、ジンのクラスの担任でもあった。
「ジンのお母さんね、あんたたちのこと、実の息子と同じぐらい可愛いって言ってたわよ」
例えばケーキが1つしかなかったとする。
そうなったらジンのおふくろさんは、そのケーキを綺麗に3等分して、ジンと、トメと、俺に与えるのだと、K先生は直接、おふくろさんから聞いたのだそうだ。
「そんぐらい想ってもらってんだから、あんたたち、次の母の日にぐらい、花かなんか買って、渡してやりなさい」
それだけを伝えるために全校放送を使ったK先生も凄いが、ジンのおふくろさんの慈愛も凄い。
俺たちは「はい!」と勢いよく返事をし、その場を後にした。
俺とトメは、相も変らずジンの家でメシを喰う。
「おかわり、いいっすか」
「若いうちは遠慮しちゃいけないの」
「じゃあ俺も!」
「お前ら、なんでいつも俺より多く喰ってんだよ、このクソガキ!」
賑やかな食卓だ。
こうして満腹になり、満ち足りた顔をして俺とトメは家路につく。
ジンのおふくろさんは、江戸切子というガラス細工が好きだと耳にしたことがある。
それはそれは綺麗なグラスなのだそうだ。
だけどそれは非常に高価で、高校生に買えるような代物じゃない。
ではやはり花を買うべきか。
考えてみれば初めてのプレゼントだから、形に残る品が好ましいのだが。
悩んでいるうちに、翌月。
ふとした疑問があって、トメに訊ねる。
「なあトメ」
「あ~ん?」
「あのさ、母の日っていつ?」
「俺が知ってるわけねえだろ~」
「だよなあ」
重たい話だから原因は端折るが、とにかく俺にもトメにも母の日に物を贈る習慣が元々ない。
何月何日が母の日なのか、どちらも素で知らなかったのである。
知らなかったのだが、1つだけ間違いなく言い切れることがあって、俺は口を開いた。
「母の日、たぶんもう過ぎたぞ」
「俺もそんな気がしてたよ~」
ここまでばかな少年たちも、年月さえ過ぎれば成人する。
二十歳を迎える頃は、俺もトメを給料を貰うようになっていた。
母の日がいつなのかも人から教えてもらって覚えた。
遅れてしまったが、K先生からされた指導を実行するのは今しかなかろう。
トメと酒を飲みながら、ふっと切り出してみる。
「今度よ、江戸切子買いに行かねえ?」
「おう、いいぜ~」
前々からおふくろさんが欲しがっていた、江戸切子のロックグラス。
これを渡せば、少しぐらい安心してくれるのではないか。
「俺たち、これが買えるぐらい、仕事頑張ってます」
江戸切子は、そんなメッセージをおふくろさんに伝えてくれそうな気がした。
お金をたくさん用意して、トメと一緒に高級百貨店へ。
そこはきらびやかな、なんだかよく解らん商品が輝きを放っていて、俺たちを威嚇しているかのようだ。
油断したら肉体ごと蒸発させられてしまいそうである。
ガラス細工や食器、壷などの売り場なのに、何故かいい匂いまでするし、わけが解らん。
店が凄いのか俺たちが駄目なのかも解らん。
倒れる前に先を急ごう。
やがて、目的の品がショーウインドウの中で光っているのを見つけ、足を止める。
江戸切子のロックグラスは2種類あった。
どちらも赤と青のペアグラスだ。
俺とトメは無言で頷き合う。
おふくろさん、パパ殿とお酒飲むの好きだし、これはペアグラスのほうがよろしかろう。
パパ殿にもお世話になっているからな。
「問題は、どっちのペアグラスにするか、だけど」
「それも答え出てんだろ~」
トメの言う通り、悩むまでもなかった。
2種類あるペアグラス。
片方は1万程度と安いが、色が単調である。
もう片方は見事なまでの淡い美しさで、それぞれ優しげな桜色と空色がキラキラしている。
金額を見ると、べらぼうに高い。
自分用には絶対に買わない額だ。
「安いほうは、安い」
と、トメは当たり前のことを口にする。
「なんだけどよ~、こっちのすげーやつ見ちまったら、高えほう買ってくしかねえだろ~」
同感だった。
安いほうは単純な柄で納得がいかない。
俺たち2人の金を足せばどうにか手が届くこともあるし、このやたら高いほうを買おうと、心から決めることができた。
ただ、俺たちはどちらも店員さんを呼びに行こうとしない。
あまりにも高いので、購入するのに心の準備が必要なのだ。
「そろそろ店員さん呼ぶ?」
「いや、まだ早えだろ~」
「だよな! 俺もそう思ってた」
俺とトメは30分ほど、店の中を見渡したり、深呼吸を繰り返したり、曲げようと念じるかのようにグラスをじっと眺めたりした。
どうにか魂を振り絞るかのように財布から現金を振り絞ると、俺とトメはなんだか肩の力が抜けてしまっていた。
2人して虚ろな目をし、上空を見るともなく見る。
「なあトメ」
「あ~?」
「高え買い物したついでにさ、パーっといいメシ喰って帰らねえ?」
「ああ~、いいぜ~」
「じゃあ店は俺に任せろ。こないだお客さんに連れてってもらったとこが、なんか豪華で美味かったんだ。そこ行こうぜ」
「いいぜ~」
ところがそこは「なんか豪華」どころではなく普通に高級料亭で、メニューを見ると飛び上がりたくなるようなお高い食事ばかり。
二十歳そこそこの小僧どもが辺りを見渡すと、客の誰もがスーツ姿で全員政治家にしか見えない。
「見ろよトメ。海原雄山がいっぱいいるぞ」
「オメーよぉ~、ちょっといいどころじゃねえじゃねえかよ、この店よ~」
「俺が連れてきてもらったときはご馳走になるって立ち位置だったから、ここまで高えって知らなかったんだよ!」
「どうすんだよ、注文よ~」
「『やっぱいいです』って帰るのは果てしなく恥ずかしいな。江戸切子返品しに行く?」
「冗談言ってる場合じゃねえよ~。どうすんだよ、マジでよ~」
「今ある金で食えるもん頼むしかねえだろ」
こうして俺たちは2人でビール1本と枝豆を仲良くつつき、店の人に聞こえるように「あ、そろそろ社長んとこ行かねえと」などとわざとらしくほざくと、ぐーぐー鳴る腹の音を聞かれながら店を後にした。
「――なんていう苦労をして、トメと一緒にこれを買ってきましたよ」
母の日にプレゼントを渡すと、ジンのおふくろさんはとても喜んでくれた。
「ありがと。じゃあさっそく使おうかしらね」
ただの焼酎も、グラスがいいと美味しそうに見える。
おふくろさんは「ありがと」ともう1度言ってくれた。
あれから10数年。
空色のほうのグラスは割れてしまったけれど、おふくろさんは半身不随になってしまったけれど、今でも息子たちを心配してくれている。
トメも俺も、正月は自分の実家ではなく、ジンの実家に顔を出ようことが自然な儀式となっている。
自分の家にはちょくちょく帰っているけれど、ジンの実家には正月という名目があったほうが伺いやすいからだ。
「お、いらっしゃい。どうぞ」
「お邪魔します~」
「明けましておめでとうっす、パパ殿。おふくろさんいます?」
「いるよ。お~い! めさとトメ来た」
「あら、いらっしゃい」
「明けましておめでとうございます~。これ、酒買ってきましたよ~」
「こっち氷! 割る用の氷!」
「じゃあ飲む用意しなきゃねえ」
「あ! 俺やりますよ! グラスどこですか?」
「そこ。その棚の上から2番目」
示されたそこに手を伸ばすと、桜色が淡い輝きを放っていて、それはそれはとても綺麗な江戸切子だ。
「じゃあかんぱーい!」
「今年もよろしくお願いしまーす」
「ってゆうかジンはどこ行ってんだよ、あいつ~」
「だよな! 実の息子がいないでどうするって話だよなあ」
パパ殿も、おふくろさんも、にこにこと俺たちの漫才のような会話を聞いて微笑を浮かべている。
「トメお前、もしかして今日、連絡もしないでいきなりここに来たの!?」
「おう、アポなしだよ~」
「ばかか! おふくろさんとパパ殿がどっか出かけてたらどうすんだよ!」
「勝手に入って待ってるつもりだったよ~」
「どこのピッキング犯だお前は! もうパパ殿、電話番号教えてください! 来年は俺から電話1本入れてから来ます!」
にこにこと俺たちの漫才のような会話を聞いて微笑を浮かべている、俺たちの母さん。
彼女の手元では桜色が淡い輝きを放っていて、それはそれはとても綺麗な江戸切子だ。
目が覚めているし、体勢は中腰だというのに、俺と悪友はすっかり金縛り状態だ。
「トメ、なんか喋れよ」
俺が促すと悪友は、
「お~」
それだけ言って再び黙り込んだ。
俺たちの視線の先には、空のロックグラスが2つ置いてある。
彼の母親は、実の息子でもない俺たちを本当に可愛がってくれていた。
高校時代は特に大食漢だったというのに、ジンのおふくろさんは当たり前のように、家族以外の夕食をいつでも用意してくれる。
「うちの子よりも食べるなんて。あんたたちのせいで、また家計に大打撃だわ」
その言葉は不思議と嫌味に聞こえない。
放課後はだいたい、俺はトメと一緒にジンの家で遊んでいた。
それこそ毎日のように、夜分までだ。
団地であるにもかかわらず無遠慮にげらげらと大声で笑う俺たちは、思い返してみればうるさいと叱られたことがない。
当時のトメは、なんというか、不良?
いや、そんな不良を次々とぶっ飛ばしてしまうような、派手な悪ガキだった。
俺は俺でハードにヘビーな家庭環境だったりもしたから、2人してなかなか痛快な評判を立てられていたものだ。
だから、ジンの家にこのような電話がかかってくるのも、仕方のないことなのかも知れない。
「お宅のジン君、めさ君と仲がいいみたいだけど、大丈夫ですか?」
「あのトメ君が、ジン君と遊んでいるみたいで、心配になって電話しました」
その告げ口に、ジンの母は堂々と胸を張ったのだそうだ。
「ジンの友達を選ぶのは、私じゃなく、ジンですから」
高校2年の昼休み。
弁当を平らげてのんびりしていると、校内放送が耳に入る。
空手道部顧問、K先生の声だ。
「空手道部員、めさとトメ、中庭に集合しなさい。繰り返します――」
なんで神妙な声色なのだと、俺はトメと一緒になっておろおろするばかりだ。
「トメ、俺たち最近、なんか怒られるようなこと、したっけ!?」
「わっかんねえよ~、どれのことだかよ~。取り合えずオメー、先に行って謝っとけよ~」
「やだよばか! テメーも一緒に来い!」
よく解らんが怒られる。
どの悪さがバレたのか解らんが、何かがバレた。
そうとしか考えられなかった俺にもトメにも、K先生の言葉は意外だった。
「もうすぐ母の日でしょ」
なんじゃそりゃ。
と、内心首を傾げる。
K先生は、不思議そうな顔をしている俺たちに構わず、続ける。
「あんたたち、ジンの家にいつもお世話になっているんでしょう? こないだね、個人面談でジンのお母さんと話したんだけど」
そういえばK先生は、ジンのクラスの担任でもあった。
「ジンのお母さんね、あんたたちのこと、実の息子と同じぐらい可愛いって言ってたわよ」
例えばケーキが1つしかなかったとする。
そうなったらジンのおふくろさんは、そのケーキを綺麗に3等分して、ジンと、トメと、俺に与えるのだと、K先生は直接、おふくろさんから聞いたのだそうだ。
「そんぐらい想ってもらってんだから、あんたたち、次の母の日にぐらい、花かなんか買って、渡してやりなさい」
それだけを伝えるために全校放送を使ったK先生も凄いが、ジンのおふくろさんの慈愛も凄い。
俺たちは「はい!」と勢いよく返事をし、その場を後にした。
俺とトメは、相も変らずジンの家でメシを喰う。
「おかわり、いいっすか」
「若いうちは遠慮しちゃいけないの」
「じゃあ俺も!」
「お前ら、なんでいつも俺より多く喰ってんだよ、このクソガキ!」
賑やかな食卓だ。
こうして満腹になり、満ち足りた顔をして俺とトメは家路につく。
ジンのおふくろさんは、江戸切子というガラス細工が好きだと耳にしたことがある。
それはそれは綺麗なグラスなのだそうだ。
だけどそれは非常に高価で、高校生に買えるような代物じゃない。
ではやはり花を買うべきか。
考えてみれば初めてのプレゼントだから、形に残る品が好ましいのだが。
悩んでいるうちに、翌月。
ふとした疑問があって、トメに訊ねる。
「なあトメ」
「あ~ん?」
「あのさ、母の日っていつ?」
「俺が知ってるわけねえだろ~」
「だよなあ」
重たい話だから原因は端折るが、とにかく俺にもトメにも母の日に物を贈る習慣が元々ない。
何月何日が母の日なのか、どちらも素で知らなかったのである。
知らなかったのだが、1つだけ間違いなく言い切れることがあって、俺は口を開いた。
「母の日、たぶんもう過ぎたぞ」
「俺もそんな気がしてたよ~」
ここまでばかな少年たちも、年月さえ過ぎれば成人する。
二十歳を迎える頃は、俺もトメを給料を貰うようになっていた。
母の日がいつなのかも人から教えてもらって覚えた。
遅れてしまったが、K先生からされた指導を実行するのは今しかなかろう。
トメと酒を飲みながら、ふっと切り出してみる。
「今度よ、江戸切子買いに行かねえ?」
「おう、いいぜ~」
前々からおふくろさんが欲しがっていた、江戸切子のロックグラス。
これを渡せば、少しぐらい安心してくれるのではないか。
「俺たち、これが買えるぐらい、仕事頑張ってます」
江戸切子は、そんなメッセージをおふくろさんに伝えてくれそうな気がした。
お金をたくさん用意して、トメと一緒に高級百貨店へ。
そこはきらびやかな、なんだかよく解らん商品が輝きを放っていて、俺たちを威嚇しているかのようだ。
油断したら肉体ごと蒸発させられてしまいそうである。
ガラス細工や食器、壷などの売り場なのに、何故かいい匂いまでするし、わけが解らん。
店が凄いのか俺たちが駄目なのかも解らん。
倒れる前に先を急ごう。
やがて、目的の品がショーウインドウの中で光っているのを見つけ、足を止める。
江戸切子のロックグラスは2種類あった。
どちらも赤と青のペアグラスだ。
俺とトメは無言で頷き合う。
おふくろさん、パパ殿とお酒飲むの好きだし、これはペアグラスのほうがよろしかろう。
パパ殿にもお世話になっているからな。
「問題は、どっちのペアグラスにするか、だけど」
「それも答え出てんだろ~」
トメの言う通り、悩むまでもなかった。
2種類あるペアグラス。
片方は1万程度と安いが、色が単調である。
もう片方は見事なまでの淡い美しさで、それぞれ優しげな桜色と空色がキラキラしている。
金額を見ると、べらぼうに高い。
自分用には絶対に買わない額だ。
「安いほうは、安い」
と、トメは当たり前のことを口にする。
「なんだけどよ~、こっちのすげーやつ見ちまったら、高えほう買ってくしかねえだろ~」
同感だった。
安いほうは単純な柄で納得がいかない。
俺たち2人の金を足せばどうにか手が届くこともあるし、このやたら高いほうを買おうと、心から決めることができた。
ただ、俺たちはどちらも店員さんを呼びに行こうとしない。
あまりにも高いので、購入するのに心の準備が必要なのだ。
「そろそろ店員さん呼ぶ?」
「いや、まだ早えだろ~」
「だよな! 俺もそう思ってた」
俺とトメは30分ほど、店の中を見渡したり、深呼吸を繰り返したり、曲げようと念じるかのようにグラスをじっと眺めたりした。
どうにか魂を振り絞るかのように財布から現金を振り絞ると、俺とトメはなんだか肩の力が抜けてしまっていた。
2人して虚ろな目をし、上空を見るともなく見る。
「なあトメ」
「あ~?」
「高え買い物したついでにさ、パーっといいメシ喰って帰らねえ?」
「ああ~、いいぜ~」
「じゃあ店は俺に任せろ。こないだお客さんに連れてってもらったとこが、なんか豪華で美味かったんだ。そこ行こうぜ」
「いいぜ~」
ところがそこは「なんか豪華」どころではなく普通に高級料亭で、メニューを見ると飛び上がりたくなるようなお高い食事ばかり。
二十歳そこそこの小僧どもが辺りを見渡すと、客の誰もがスーツ姿で全員政治家にしか見えない。
「見ろよトメ。海原雄山がいっぱいいるぞ」
「オメーよぉ~、ちょっといいどころじゃねえじゃねえかよ、この店よ~」
「俺が連れてきてもらったときはご馳走になるって立ち位置だったから、ここまで高えって知らなかったんだよ!」
「どうすんだよ、注文よ~」
「『やっぱいいです』って帰るのは果てしなく恥ずかしいな。江戸切子返品しに行く?」
「冗談言ってる場合じゃねえよ~。どうすんだよ、マジでよ~」
「今ある金で食えるもん頼むしかねえだろ」
こうして俺たちは2人でビール1本と枝豆を仲良くつつき、店の人に聞こえるように「あ、そろそろ社長んとこ行かねえと」などとわざとらしくほざくと、ぐーぐー鳴る腹の音を聞かれながら店を後にした。
「――なんていう苦労をして、トメと一緒にこれを買ってきましたよ」
母の日にプレゼントを渡すと、ジンのおふくろさんはとても喜んでくれた。
「ありがと。じゃあさっそく使おうかしらね」
ただの焼酎も、グラスがいいと美味しそうに見える。
おふくろさんは「ありがと」ともう1度言ってくれた。
あれから10数年。
空色のほうのグラスは割れてしまったけれど、おふくろさんは半身不随になってしまったけれど、今でも息子たちを心配してくれている。
トメも俺も、正月は自分の実家ではなく、ジンの実家に顔を出ようことが自然な儀式となっている。
自分の家にはちょくちょく帰っているけれど、ジンの実家には正月という名目があったほうが伺いやすいからだ。
「お、いらっしゃい。どうぞ」
「お邪魔します~」
「明けましておめでとうっす、パパ殿。おふくろさんいます?」
「いるよ。お~い! めさとトメ来た」
「あら、いらっしゃい」
「明けましておめでとうございます~。これ、酒買ってきましたよ~」
「こっち氷! 割る用の氷!」
「じゃあ飲む用意しなきゃねえ」
「あ! 俺やりますよ! グラスどこですか?」
「そこ。その棚の上から2番目」
示されたそこに手を伸ばすと、桜色が淡い輝きを放っていて、それはそれはとても綺麗な江戸切子だ。
「じゃあかんぱーい!」
「今年もよろしくお願いしまーす」
「ってゆうかジンはどこ行ってんだよ、あいつ~」
「だよな! 実の息子がいないでどうするって話だよなあ」
パパ殿も、おふくろさんも、にこにこと俺たちの漫才のような会話を聞いて微笑を浮かべている。
「トメお前、もしかして今日、連絡もしないでいきなりここに来たの!?」
「おう、アポなしだよ~」
「ばかか! おふくろさんとパパ殿がどっか出かけてたらどうすんだよ!」
「勝手に入って待ってるつもりだったよ~」
「どこのピッキング犯だお前は! もうパパ殿、電話番号教えてください! 来年は俺から電話1本入れてから来ます!」
にこにこと俺たちの漫才のような会話を聞いて微笑を浮かべている、俺たちの母さん。
彼女の手元では桜色が淡い輝きを放っていて、それはそれはとても綺麗な江戸切子だ。
PR
2009
August 26
August 26
俺が高校を卒業して数年の月日が流れる頃。
空手道部の顧問でいらっしゃるK先生が俺たちの母校から離任され、他の学校に移ってしまうことになりました。
当時高校生だった俺たちはK先生に幾度となく叱られ、また叱り以上の激励や教えを受けています。
照れくさい言葉になるけれど、K先生は恩師です。
俺たちは空手道部に所属していた卒業生たちをできるだけ呼び集め、皆でK先生の離任式に参加することにしました。
名付けて、K先生を泣かせよう大作戦。
みんなで道着を色紙代わりに寄せ書きをしたり、道場に飾り付けを施しました。
式の後、K先生を道場にお呼びして盛大に盛り上げてやるぜ!
離任式は母校で行われるのですが、聞いた話によると生徒以外、例えば俺たちのような卒業生でも参加できるとのことだったので、作戦その1実行です。
<ミッション1・「やっぱ基本は花だろ」>
みんなでK先生に花を贈ろうという計画です。
花束をまとめて1回で贈るのではなく、1人1人が花を1本だけ用意し、それぞれが自分の手で花を先生にお渡しすることに話はまとまりました。
離任式当日、空手道部のOB連中はそれぞれが花屋で買ったらしい1輪だけの花を手にしています。
しかしトメだけが、どっかの観葉植物から妙にでっかい葉っぱをもぎ取って来やがっており、1人だけ間違い探しの一部分みたいなことになっています。
トメ、お前が持ってきたそれは花じゃねえ。
葉っぱだ。
離任式が終わると、離任される先生方が体育館を後にします。
俺たち元空手道部のみんなはさっと花道を作り、1人1人がK先生に花を渡しました。
しかしトメだけが「バサッ」という効果音付きでデカい葉っぱを渡したので、K先生は「どうして葉っぱを?」と不思議そうな顔に。
俺は俺で、何故か全く知らない教員の方が俺から花を受け取ろうとしたので、思わず間違えて渡しそうになってしまいました。
さて、後は先生を道場に呼び出すだけです。
<ミッション2・「汗を流したあの場所で」>
俺たちは道場に入ると大急ぎで道着に着替えて整列をし、正座でK先生が来るのを待ちました。
間もなくK先生が到着。
背筋を伸ばし、ビシッと整列している俺たちを見て、恩師は少し照れたように笑いました。
感極まったのか、声を張り上げるK先生。
<ミッション3・「こりゃ計算外」>
「では、これより最終稽古を行います!」
K先生は有無を言わさず、そのように断言しやがりました。
稽古って、引退してからずっとダラダラし、体力の何もかもを失った俺たちが?
本来だったらこの後、1人1人が順々に贈る言葉を述べたりする予定だったのですが、何故か始まる空手の稽古。
みんな結構衰えているので、誰もがヒーヒー言っています。
「じゃあ次はバトルの体勢!」
生き生きした瞳で仕切るK先生。
ちなみにバトルとは「バトルロイヤル」の略です。
1つのコートに全員が入り、みんなで戦うのです。
自分以外の全員が敵なわけですね。
「1番早く負けた者は拳立て180本! その次に負けた者は170本! そういう形で早く負けた者にはぺナルティがつくからね!」
拳立てとは、拳でやる腕立て伏せのことを指します。
これは負けちゃいけません。
「で、優勝者には私からのキーッス!」
K先生は女性ですけれど、どんな方向から眺めても女性には見えない方。
これは勝っちゃいけません。
だいたい、どうして勝った奴が1番手厳しい扱いを受けなければならないのでしょうか。
先生が考えたルールだと、手を抜いても嫌な肉体労働が課せられます。
つまり、丁度良い瞬間に負けるのが丁度良いわけです。
よーし!
頑張って丁度良いところで負けるぞ!
こうしてバトルスタート。
試合用コートの中は修羅場と化しました。
いやしかし、いい空気だなぁ。
俺は組み手が大好きだ。
楽しくなってきた。
ふはは。
楽しくなってきたぜ!
てめェら全員、かかって来ォーい!
もっと全力でぶつかって来い!
以上、めさの心変わりの模様でした。
気がついたら頑張ってしまいました。
俺のバカ。
コートの中はいつの間にか俺と2人の後輩のみ。
片方の後輩は昔から今も道場に通う空手バカ。
もう一方が主将に任命された実力者。
相手に不足はありません。
戦闘シーンは省略しますけれど、俺は先輩の意地と元K高校最速の男としてのプライドで、何とかこの強敵2人に勝利することができました。
いい勝負だったぜ。
久し振りに本気を出したから体力も限界だ。
疲れたー!
K先生が悪魔のような笑みを浮かべます。
「じゃあ、めさが私とキスね」
忘れてたー!
頑張っちゃ駄目だった!
あ、そうだトメは!?
あいつ俺と互角のクセして、何やってんだ!?
瞬時にトメを探すと、彼は一生懸命拳立てに励んでおいででした。
後でトメから聞いた話によると、こいつはどうしても優勝したくなかったのでもの凄く手を抜き、その手の抜き方が思いの他もの凄かったのだそうで、思いの他もの凄い早さで負けてしまったのだそうです。
「拳立てがキツかったよ~」とトメ。
知るかッ!
K先生が俺につま先を向けます。
俺は正々堂々と逃走を試みました。
すると何故か追ってくる負け犬連中。
来るなバカども!
お前らの血は何色だ!
俺はそのまま捕獲され、床に大の字で押さえつけられると、めでたくK先生に唇を奪われてしまったのでした。
これにて俺とK先生の関係は、アルファベットで言うとAです。
教師と生徒の一線、越えちゃった…。
ぐったりと起き上がれない俺から満足気に去っていくK先生と部員達。
俺はその場で「お母さ~ん!」と泣いていました。
主役であるはずの先生ご自身の活躍により、K先生を泣かせよう大作戦は大失敗だったとさ。
俺が泣かされるとは思いませんでした。
空手道部の顧問でいらっしゃるK先生が俺たちの母校から離任され、他の学校に移ってしまうことになりました。
当時高校生だった俺たちはK先生に幾度となく叱られ、また叱り以上の激励や教えを受けています。
照れくさい言葉になるけれど、K先生は恩師です。
俺たちは空手道部に所属していた卒業生たちをできるだけ呼び集め、皆でK先生の離任式に参加することにしました。
名付けて、K先生を泣かせよう大作戦。
みんなで道着を色紙代わりに寄せ書きをしたり、道場に飾り付けを施しました。
式の後、K先生を道場にお呼びして盛大に盛り上げてやるぜ!
離任式は母校で行われるのですが、聞いた話によると生徒以外、例えば俺たちのような卒業生でも参加できるとのことだったので、作戦その1実行です。
<ミッション1・「やっぱ基本は花だろ」>
みんなでK先生に花を贈ろうという計画です。
花束をまとめて1回で贈るのではなく、1人1人が花を1本だけ用意し、それぞれが自分の手で花を先生にお渡しすることに話はまとまりました。
離任式当日、空手道部のOB連中はそれぞれが花屋で買ったらしい1輪だけの花を手にしています。
しかしトメだけが、どっかの観葉植物から妙にでっかい葉っぱをもぎ取って来やがっており、1人だけ間違い探しの一部分みたいなことになっています。
トメ、お前が持ってきたそれは花じゃねえ。
葉っぱだ。
離任式が終わると、離任される先生方が体育館を後にします。
俺たち元空手道部のみんなはさっと花道を作り、1人1人がK先生に花を渡しました。
しかしトメだけが「バサッ」という効果音付きでデカい葉っぱを渡したので、K先生は「どうして葉っぱを?」と不思議そうな顔に。
俺は俺で、何故か全く知らない教員の方が俺から花を受け取ろうとしたので、思わず間違えて渡しそうになってしまいました。
さて、後は先生を道場に呼び出すだけです。
<ミッション2・「汗を流したあの場所で」>
俺たちは道場に入ると大急ぎで道着に着替えて整列をし、正座でK先生が来るのを待ちました。
間もなくK先生が到着。
背筋を伸ばし、ビシッと整列している俺たちを見て、恩師は少し照れたように笑いました。
感極まったのか、声を張り上げるK先生。
<ミッション3・「こりゃ計算外」>
「では、これより最終稽古を行います!」
K先生は有無を言わさず、そのように断言しやがりました。
稽古って、引退してからずっとダラダラし、体力の何もかもを失った俺たちが?
本来だったらこの後、1人1人が順々に贈る言葉を述べたりする予定だったのですが、何故か始まる空手の稽古。
みんな結構衰えているので、誰もがヒーヒー言っています。
「じゃあ次はバトルの体勢!」
生き生きした瞳で仕切るK先生。
ちなみにバトルとは「バトルロイヤル」の略です。
1つのコートに全員が入り、みんなで戦うのです。
自分以外の全員が敵なわけですね。
「1番早く負けた者は拳立て180本! その次に負けた者は170本! そういう形で早く負けた者にはぺナルティがつくからね!」
拳立てとは、拳でやる腕立て伏せのことを指します。
これは負けちゃいけません。
「で、優勝者には私からのキーッス!」
K先生は女性ですけれど、どんな方向から眺めても女性には見えない方。
これは勝っちゃいけません。
だいたい、どうして勝った奴が1番手厳しい扱いを受けなければならないのでしょうか。
先生が考えたルールだと、手を抜いても嫌な肉体労働が課せられます。
つまり、丁度良い瞬間に負けるのが丁度良いわけです。
よーし!
頑張って丁度良いところで負けるぞ!
こうしてバトルスタート。
試合用コートの中は修羅場と化しました。
いやしかし、いい空気だなぁ。
俺は組み手が大好きだ。
楽しくなってきた。
ふはは。
楽しくなってきたぜ!
てめェら全員、かかって来ォーい!
もっと全力でぶつかって来い!
以上、めさの心変わりの模様でした。
気がついたら頑張ってしまいました。
俺のバカ。
コートの中はいつの間にか俺と2人の後輩のみ。
片方の後輩は昔から今も道場に通う空手バカ。
もう一方が主将に任命された実力者。
相手に不足はありません。
戦闘シーンは省略しますけれど、俺は先輩の意地と元K高校最速の男としてのプライドで、何とかこの強敵2人に勝利することができました。
いい勝負だったぜ。
久し振りに本気を出したから体力も限界だ。
疲れたー!
K先生が悪魔のような笑みを浮かべます。
「じゃあ、めさが私とキスね」
忘れてたー!
頑張っちゃ駄目だった!
あ、そうだトメは!?
あいつ俺と互角のクセして、何やってんだ!?
瞬時にトメを探すと、彼は一生懸命拳立てに励んでおいででした。
後でトメから聞いた話によると、こいつはどうしても優勝したくなかったのでもの凄く手を抜き、その手の抜き方が思いの他もの凄かったのだそうで、思いの他もの凄い早さで負けてしまったのだそうです。
「拳立てがキツかったよ~」とトメ。
知るかッ!
K先生が俺につま先を向けます。
俺は正々堂々と逃走を試みました。
すると何故か追ってくる負け犬連中。
来るなバカども!
お前らの血は何色だ!
俺はそのまま捕獲され、床に大の字で押さえつけられると、めでたくK先生に唇を奪われてしまったのでした。
これにて俺とK先生の関係は、アルファベットで言うとAです。
教師と生徒の一線、越えちゃった…。
ぐったりと起き上がれない俺から満足気に去っていくK先生と部員達。
俺はその場で「お母さ~ん!」と泣いていました。
主役であるはずの先生ご自身の活躍により、K先生を泣かせよう大作戦は大失敗だったとさ。
俺が泣かされるとは思いませんでした。
2009
August 26
August 26
俺の最終学歴は高校と思われがちですけれど、正確には職業訓練学校と呼ばれる1年制の専門学校のような学校でした。
この学校に入学した理由は実をいっちゃうと、「定員割れしているから」とか「履歴書に空欄を作りたくなかったから」などという不純な動機からです。
学費も一切かからない学校でしたしね。
悪友トメとジンと3人で受けに行ったのです。
しかし、いくら定員割れしている学校だからといっても当然試験はあるわけで、今回はこの職業訓練学校の入試試験について触れたいと思います。
国語の試験って大抵の場合、問題用紙に小説か何かの一部分が本文として記載されていますよね。
で、「アンダーライン1の文で、主人公はどのような心境だったのか答えよ」みたいな問題が出てくるじゃないですか。
この「何かの小説の一部分」なんですが、文体その物は純文学風で、難しい言葉使いとか昔の単語とかが出まくりでした。
間違いなく難解な文章です。
俺はビビりつつも、まずは本文に目を通し、ストーリーの理解に努めました。
なになに?
どうやら主人公は若い男の子であるようだな。
近所のお祭りに参加しているらしい。
お!
女の子登場。
ボヘミアンネクタイをした可憐な女子、か。
ボヘミアンネクタイって何じゃろか?
ほう、この主人公、変なネクタイを絞めた見知らぬ女の子のことが気になる様子であるぞ?
顔が見たくて後をつけ出した。
ネクタイが見れて、どうして顔が見れてねえんだ、こいつは。
それと、後をつけるな後を。
そいう行動が犯罪とかに発展するんだぞ。
あ!
こいついきなり女の子を見失いやがった。
尾行の下手クソな人だ。
まあいい。
読み進めてみようか。
何!?
「熊から喰らった一撃のせいで肩が痛む」って書いてある!
この人、一体何者だ。
いつの間に熊と戦ったのだ?
祭りを楽しんだり女の後をつけたりしているところを見ると、怪我はたいしたことがないのか。
すげえ。
読み進めていくと、この主人公は病院にも行かずに頑張って「ボヘミアンネクタイの女の子」を再発見し、再び尾行に励んでいます。
俺はそんな個所より、熊との戦闘シーンが読みたかったです。
主人公が「痛い」で済んでるってことは、熊には勝ったのでしょうか?
まあいいや。
物語をさらに追ってみましょう。
女の子は夜店から離れて、暗い森の道を1人で歩いているみたいです。
無防備だな、この子。
熊が出ても知らんぞ。
あ、 女の子がある家の前に到着したぞ。
熊やストーカーから襲われなくて何より。
おや?
主人公はこの家に見覚えがあるみたいだぞ?
なんでだ?
君は昔、ここに来た経験があるのか?
そう思っていた矢先、俺の目にはとんでもない一言が。
「それは我が家であった」
てめぇン家かよ!?
そりゃ見覚えの1つや2つ、余裕であるだろうよ!
気づくの遅いんだよ!
でも待てよ?
どうしてボヘミアンネクタイの彼女は貴様の自宅に入ってっちゃうのだ?
熊の仇討ち?
で、主人公は不思議がりながらも彼女の後を追って、自宅に入るのですが、俺はもう笑ってしまうかと思いました。
「ボヘミアンネクタイの女子は、彼自身の妹であった」
主人公が怪我の治療よりも優先させたのは、いつでも会える肉親の尾行だったのです。
小説の名は解りませんが、これを書いた方とそのファンの皆様、ごめんなさい。
作者の意図が全く読めません。
それにしてもこんな常軌を逸した問題だらけの問題文を読んで、どうしてみんなは平気で試験に励めるのでしょうか?
これは何?
笑いをこらえるための精神力を見るテスト?
あ!
そうだ!
ジンとトメは!?
俺の席は後ろの方だったので、悪友2人の様子を観察することができます。
彼らは案の定、肩を震わせていました。
よかった!
笑いたいのは俺だけじゃなかった!
奴らのことだ。
主人公が熊に勝っていることまで見抜き、だからこそ笑いたいに違いない。
俺が教員だったらその想像力に敬意を表し、笑いたくてたまらないお前たちをみんな合格にしている。
つまり俺も合格だ!
やったー!
密かに拳を握りました。
ちなみに試験はですね、ピアスを付けたまま面接に望んだジン以外は全員合格しました。
めでたし。
この学校に入学した理由は実をいっちゃうと、「定員割れしているから」とか「履歴書に空欄を作りたくなかったから」などという不純な動機からです。
学費も一切かからない学校でしたしね。
悪友トメとジンと3人で受けに行ったのです。
しかし、いくら定員割れしている学校だからといっても当然試験はあるわけで、今回はこの職業訓練学校の入試試験について触れたいと思います。
国語の試験って大抵の場合、問題用紙に小説か何かの一部分が本文として記載されていますよね。
で、「アンダーライン1の文で、主人公はどのような心境だったのか答えよ」みたいな問題が出てくるじゃないですか。
この「何かの小説の一部分」なんですが、文体その物は純文学風で、難しい言葉使いとか昔の単語とかが出まくりでした。
間違いなく難解な文章です。
俺はビビりつつも、まずは本文に目を通し、ストーリーの理解に努めました。
なになに?
どうやら主人公は若い男の子であるようだな。
近所のお祭りに参加しているらしい。
お!
女の子登場。
ボヘミアンネクタイをした可憐な女子、か。
ボヘミアンネクタイって何じゃろか?
ほう、この主人公、変なネクタイを絞めた見知らぬ女の子のことが気になる様子であるぞ?
顔が見たくて後をつけ出した。
ネクタイが見れて、どうして顔が見れてねえんだ、こいつは。
それと、後をつけるな後を。
そいう行動が犯罪とかに発展するんだぞ。
あ!
こいついきなり女の子を見失いやがった。
尾行の下手クソな人だ。
まあいい。
読み進めてみようか。
何!?
「熊から喰らった一撃のせいで肩が痛む」って書いてある!
この人、一体何者だ。
いつの間に熊と戦ったのだ?
祭りを楽しんだり女の後をつけたりしているところを見ると、怪我はたいしたことがないのか。
すげえ。
読み進めていくと、この主人公は病院にも行かずに頑張って「ボヘミアンネクタイの女の子」を再発見し、再び尾行に励んでいます。
俺はそんな個所より、熊との戦闘シーンが読みたかったです。
主人公が「痛い」で済んでるってことは、熊には勝ったのでしょうか?
まあいいや。
物語をさらに追ってみましょう。
女の子は夜店から離れて、暗い森の道を1人で歩いているみたいです。
無防備だな、この子。
熊が出ても知らんぞ。
あ、 女の子がある家の前に到着したぞ。
熊やストーカーから襲われなくて何より。
おや?
主人公はこの家に見覚えがあるみたいだぞ?
なんでだ?
君は昔、ここに来た経験があるのか?
そう思っていた矢先、俺の目にはとんでもない一言が。
「それは我が家であった」
てめぇン家かよ!?
そりゃ見覚えの1つや2つ、余裕であるだろうよ!
気づくの遅いんだよ!
でも待てよ?
どうしてボヘミアンネクタイの彼女は貴様の自宅に入ってっちゃうのだ?
熊の仇討ち?
で、主人公は不思議がりながらも彼女の後を追って、自宅に入るのですが、俺はもう笑ってしまうかと思いました。
「ボヘミアンネクタイの女子は、彼自身の妹であった」
主人公が怪我の治療よりも優先させたのは、いつでも会える肉親の尾行だったのです。
小説の名は解りませんが、これを書いた方とそのファンの皆様、ごめんなさい。
作者の意図が全く読めません。
それにしてもこんな常軌を逸した問題だらけの問題文を読んで、どうしてみんなは平気で試験に励めるのでしょうか?
これは何?
笑いをこらえるための精神力を見るテスト?
あ!
そうだ!
ジンとトメは!?
俺の席は後ろの方だったので、悪友2人の様子を観察することができます。
彼らは案の定、肩を震わせていました。
よかった!
笑いたいのは俺だけじゃなかった!
奴らのことだ。
主人公が熊に勝っていることまで見抜き、だからこそ笑いたいに違いない。
俺が教員だったらその想像力に敬意を表し、笑いたくてたまらないお前たちをみんな合格にしている。
つまり俺も合格だ!
やったー!
密かに拳を握りました。
ちなみに試験はですね、ピアスを付けたまま面接に望んだジン以外は全員合格しました。
めでたし。
2009
August 26
August 26
今回のキーワードは「座禅」です。
みなさんは経験ありますでしょうか?
あのあぐらの変形みたいな難解な座り方です。
お寺でよくお坊さんがやっているアレですね。
空手道部顧問の先生には夏合宿のときに「心を無にしろ」と意味の解らないことを言われました。
「心を無にする」だなんて今の俺にもできないようなことを、高校時代の俺にできるわけがありません。
おそらく他の部員達にとっても似たような心境だったことでしょう。
顧問のK先生だってお寺の和尚さんじゃないんだから、「心の乱れ」なんて見抜けないはずです。
にも関わらずK先生はスリッパ片手に暗い部屋の中をうろうろしていました。
姿勢が悪くなってくる部員の背を叩く役目なのです。
合宿時、座禅のために割り振られた時間は30分。
その間に姿勢の崩れない奴なんていませんでしたから、皆スリッパで背中を叩かれます。
不意に「パァーン!!」とでかい音が響くので、俺や他の部員はビックリして悲鳴を上げそうになっておりました。
しかし30分もの間、暗くした部屋にただ座って目を閉じているのは正直言って暇です。
そこで妄想開始。
当時は少年ジャンプで「ドラゴンボール」がまだ連載中で、俺は「サイヤ人がスーパーサイヤ人に変身すると金髪になるけど、ただの角刈りになっちゃたらカッコ悪いであろう」などと勝手に想像をし、笑いをこらえるためにプルプルと震え、先生にスリッパで叩かれました。
座禅終了後、俺は同期の悪友と話が盛り上がります。
「座禅の最中よ、笑いこらえンの大変じゃねえ?」
「おう。参っちゃうぜ~。サイヤ人を散髪したトコを想像してたらよ~、たまらず吹き出しそうになって、先生にスリッパで叩かれたよ~」
悪友までドラゴンボールの変な想像に励んでいたことが発覚。
この頃の俺たちにとって座禅とは、笑ってはいけないスリルを楽しむ場であったのです。
ところが卒業後になると立場は一転。
今度は俺たちOBが後輩たちを指導する「監督」という立場で合宿に参加するのです。
ある夏の合宿ではみんな暇だったのか俺も含め、かなりの卒業生が集結しました。
夜は例年通り、座禅タイムです。
今度は俺たちがスリッパ係。
誰かがプルプルしていたら、俺は目ざとく発見するぜ!
座禅の最中は部屋の明かりを全て消しています。
知らない人が窓の外からその光景を見ると、かなりの恐怖であるに違いありません。
ふと目がいった暗い部屋の中にはたくさんの人間が無言で座り、その内4、5人がどういうわけかスリッパ片手に無言のまま行ったり来たりしているんですから。
座禅の最中、外からの悲鳴が聞こえました。
「うわッ! 何かいる!」
「きゃあ!」
「おわ! 人か!?」
「ビックリしたあ、人間だよ人間」
「何かいる!」とか「人間だよ人間」などとコメントされたのは後にも先にもこのときだけです。
俺たち、勝手にビビられてる!
絶対に「こんな多人数で部屋に閉じこもり、電気まで消して何をしているの!? どうして無言なの!?」って思われてる!
恥ずかしい!
そして笑いたくてたまらん!
どうやらスリッパ係になっても座禅の間は笑いに耐えなくてはならないようです。
そんな中、卒業生の1人が後輩に聞こえないぐらいの小声で俺に声をかけてきます。
「めさ! ちょっと来て!」
「どうした?」
「Tの目が開いてる!」
「マジで!?」
おそるおそる後輩Tの顔を覗き込むと、俺はTとバッチリ目が合ってしまったので、フルスウィングでTをスリッパで引っ叩きました。
笑わすな!
それにしても、いつもと違ってスリッパ係が多い今、1人が不穏な動きを取ると、卒業生たちは飢えたピラニアの如くその後輩に襲いかかります。
以下、その時の効果音をどうぞ。
ピクッ!(←姿勢の悪い後輩に気付く卒業生たち)
スタタタタ!(←一斉に走り出す卒業生たち)
スパパパァン!(←気の毒なほど、後輩を皆で叩く卒業生たち)
パァン!(←遅れて来た卒業生のトドメの1発)
この後、後輩に言われました。
「先輩、酷いっすよ~。なんとか笑いをこらえてんのに、先輩たちの笑い声が耳に入っちゃって大変でしたよ~」
俺は、「うるせえ! 座禅の時は目を閉じとけ!」と逆ギレしておきました。
心を無にできるのはいつになることやら。
みなさんは経験ありますでしょうか?
あのあぐらの変形みたいな難解な座り方です。
お寺でよくお坊さんがやっているアレですね。
空手道部顧問の先生には夏合宿のときに「心を無にしろ」と意味の解らないことを言われました。
「心を無にする」だなんて今の俺にもできないようなことを、高校時代の俺にできるわけがありません。
おそらく他の部員達にとっても似たような心境だったことでしょう。
顧問のK先生だってお寺の和尚さんじゃないんだから、「心の乱れ」なんて見抜けないはずです。
にも関わらずK先生はスリッパ片手に暗い部屋の中をうろうろしていました。
姿勢が悪くなってくる部員の背を叩く役目なのです。
合宿時、座禅のために割り振られた時間は30分。
その間に姿勢の崩れない奴なんていませんでしたから、皆スリッパで背中を叩かれます。
不意に「パァーン!!」とでかい音が響くので、俺や他の部員はビックリして悲鳴を上げそうになっておりました。
しかし30分もの間、暗くした部屋にただ座って目を閉じているのは正直言って暇です。
そこで妄想開始。
当時は少年ジャンプで「ドラゴンボール」がまだ連載中で、俺は「サイヤ人がスーパーサイヤ人に変身すると金髪になるけど、ただの角刈りになっちゃたらカッコ悪いであろう」などと勝手に想像をし、笑いをこらえるためにプルプルと震え、先生にスリッパで叩かれました。
座禅終了後、俺は同期の悪友と話が盛り上がります。
「座禅の最中よ、笑いこらえンの大変じゃねえ?」
「おう。参っちゃうぜ~。サイヤ人を散髪したトコを想像してたらよ~、たまらず吹き出しそうになって、先生にスリッパで叩かれたよ~」
悪友までドラゴンボールの変な想像に励んでいたことが発覚。
この頃の俺たちにとって座禅とは、笑ってはいけないスリルを楽しむ場であったのです。
ところが卒業後になると立場は一転。
今度は俺たちOBが後輩たちを指導する「監督」という立場で合宿に参加するのです。
ある夏の合宿ではみんな暇だったのか俺も含め、かなりの卒業生が集結しました。
夜は例年通り、座禅タイムです。
今度は俺たちがスリッパ係。
誰かがプルプルしていたら、俺は目ざとく発見するぜ!
座禅の最中は部屋の明かりを全て消しています。
知らない人が窓の外からその光景を見ると、かなりの恐怖であるに違いありません。
ふと目がいった暗い部屋の中にはたくさんの人間が無言で座り、その内4、5人がどういうわけかスリッパ片手に無言のまま行ったり来たりしているんですから。
座禅の最中、外からの悲鳴が聞こえました。
「うわッ! 何かいる!」
「きゃあ!」
「おわ! 人か!?」
「ビックリしたあ、人間だよ人間」
「何かいる!」とか「人間だよ人間」などとコメントされたのは後にも先にもこのときだけです。
俺たち、勝手にビビられてる!
絶対に「こんな多人数で部屋に閉じこもり、電気まで消して何をしているの!? どうして無言なの!?」って思われてる!
恥ずかしい!
そして笑いたくてたまらん!
どうやらスリッパ係になっても座禅の間は笑いに耐えなくてはならないようです。
そんな中、卒業生の1人が後輩に聞こえないぐらいの小声で俺に声をかけてきます。
「めさ! ちょっと来て!」
「どうした?」
「Tの目が開いてる!」
「マジで!?」
おそるおそる後輩Tの顔を覗き込むと、俺はTとバッチリ目が合ってしまったので、フルスウィングでTをスリッパで引っ叩きました。
笑わすな!
それにしても、いつもと違ってスリッパ係が多い今、1人が不穏な動きを取ると、卒業生たちは飢えたピラニアの如くその後輩に襲いかかります。
以下、その時の効果音をどうぞ。
ピクッ!(←姿勢の悪い後輩に気付く卒業生たち)
スタタタタ!(←一斉に走り出す卒業生たち)
スパパパァン!(←気の毒なほど、後輩を皆で叩く卒業生たち)
パァン!(←遅れて来た卒業生のトドメの1発)
この後、後輩に言われました。
「先輩、酷いっすよ~。なんとか笑いをこらえてんのに、先輩たちの笑い声が耳に入っちゃって大変でしたよ~」
俺は、「うるせえ! 座禅の時は目を閉じとけ!」と逆ギレしておきました。
心を無にできるのはいつになることやら。
2009
August 26
August 26
ある秋のこと、高校2年生になるめさは空手の早朝練習を終え、教室に向かっていた。
トメの野郎、昨日も練習サボった挙げ句、今日の朝練までバックレやがった。
そのようなことを考えつつ、めさは下駄箱に向かう。
前日、めさはトメの靴の裏に接着剤を塗り、その靴を下駄箱の中に固定して帰っていた。
まずはトメの下駄箱を開けて中を確認する。
悪友の靴がまだそこにあるのか、それとも見事に回収されてしまったのかが気になったのだ。
下駄箱の中には、靴底だけがベットリと貼り付けられていた。
「ふははははは! あの馬鹿力め! 靴を無理矢理剥がそうとして失敗してやんの! スッキリしたわ!」
めさは自分の仕事に満足していた。
続いて、めさは自分の下駄箱にも目をやる。
「なに!?」
思わず声が出る。
めさの下駄箱には南京錠がかかっていた。
もちろん、鍵はどこにも見当たらない。
「トメの野郎ォ!」
めさが犯人を割り出すのに要した時間は2秒で済んだ。
話はさかのぼり、前日の放課後。
何故か片足に壊れた靴を履いているトメは、ジンと共にめさの下駄箱に南京錠をかけた。
「よし! これでいいだろ~」
どこか嬉しそうにトメが言う。
「ジン~、この鍵どうするよ~」
めさに与える精神的苦痛を少しでも大きくしておきたい。
ジンは応じた。
「グランドにでも投げれば?」
「いいアイデアじゃねえかよ、オメーよ~」
トメは校庭まで足を運ぶと、力いっぱい鍵を投げた。
「飛んでけ、俺たちの青春!」といった感じだ。
これでめさの下駄箱にかけられた南京錠の鍵は誰にも見つけられない。
トメとジンは満足気にその場を去った。
話は戻り、めさの下駄箱の前。
いつものトラブル対策にと、めさが持ち歩いている多機能ナイフにはヤスリもある。
めさはこれを使って、一生懸命に南京錠を削っていた。
しかしこの南京錠、そう簡単に削れるものではなく、削っている間にめさは下級生や教師に声をかけられる。
「めさセンパーイ! おはようございまーす! 何してるんですかぁ?」
「いや、ちょっとね。いつものことだよ」
「お~い! めさー! もうホームルーム始まるぞー! お前、何やってんだ?」
「あ、おはようございます。何でもないです。すぐに行きます!」
めさは心中、「接着剤はまだあるな」と考えていた。
この件を境に、3人の間では地獄の様相を呈した報復合戦が始まることとなる。
めさはトメの靴の中にも接着剤を忍ばせたので、トメは靴も、靴下も脱げなくなっていた。
ジンはめさの弁当を無断で奪い、トメに渡す。
トメは受け取ったそれを全て胃に収めた。
友情って何だろうか。
トメの野郎、昨日も練習サボった挙げ句、今日の朝練までバックレやがった。
そのようなことを考えつつ、めさは下駄箱に向かう。
前日、めさはトメの靴の裏に接着剤を塗り、その靴を下駄箱の中に固定して帰っていた。
まずはトメの下駄箱を開けて中を確認する。
悪友の靴がまだそこにあるのか、それとも見事に回収されてしまったのかが気になったのだ。
下駄箱の中には、靴底だけがベットリと貼り付けられていた。
「ふははははは! あの馬鹿力め! 靴を無理矢理剥がそうとして失敗してやんの! スッキリしたわ!」
めさは自分の仕事に満足していた。
続いて、めさは自分の下駄箱にも目をやる。
「なに!?」
思わず声が出る。
めさの下駄箱には南京錠がかかっていた。
もちろん、鍵はどこにも見当たらない。
「トメの野郎ォ!」
めさが犯人を割り出すのに要した時間は2秒で済んだ。
話はさかのぼり、前日の放課後。
何故か片足に壊れた靴を履いているトメは、ジンと共にめさの下駄箱に南京錠をかけた。
「よし! これでいいだろ~」
どこか嬉しそうにトメが言う。
「ジン~、この鍵どうするよ~」
めさに与える精神的苦痛を少しでも大きくしておきたい。
ジンは応じた。
「グランドにでも投げれば?」
「いいアイデアじゃねえかよ、オメーよ~」
トメは校庭まで足を運ぶと、力いっぱい鍵を投げた。
「飛んでけ、俺たちの青春!」といった感じだ。
これでめさの下駄箱にかけられた南京錠の鍵は誰にも見つけられない。
トメとジンは満足気にその場を去った。
話は戻り、めさの下駄箱の前。
いつものトラブル対策にと、めさが持ち歩いている多機能ナイフにはヤスリもある。
めさはこれを使って、一生懸命に南京錠を削っていた。
しかしこの南京錠、そう簡単に削れるものではなく、削っている間にめさは下級生や教師に声をかけられる。
「めさセンパーイ! おはようございまーす! 何してるんですかぁ?」
「いや、ちょっとね。いつものことだよ」
「お~い! めさー! もうホームルーム始まるぞー! お前、何やってんだ?」
「あ、おはようございます。何でもないです。すぐに行きます!」
めさは心中、「接着剤はまだあるな」と考えていた。
この件を境に、3人の間では地獄の様相を呈した報復合戦が始まることとなる。
めさはトメの靴の中にも接着剤を忍ばせたので、トメは靴も、靴下も脱げなくなっていた。
ジンはめさの弁当を無断で奪い、トメに渡す。
トメは受け取ったそれを全て胃に収めた。
友情って何だろうか。