夢見町の史
Let’s どんまい!
2009
August 15
August 15
何やら恐ろしげなタイトルですが、内容はちっとも怖くないのでご安心を。
高校時代のお話です。
俺たち空手道部は日曜の午後、電車の中でずっと談笑に熱を上げていました。
試合の帰りだったので張り詰めていた空気も緩和され、くつろぎモードです。
車内はガラガラに空いていて、俺たちは全員着席する事に成功していました。
少し広めに感じるその車両には、俺たちの他は中年の男性が1人。
「おい。妬むなよ」
突然、その男性が言い放ちました。
しかも何故か真っ直ぐ俺に向かって。
俺は聞き間違えたのかと思い、「え?」と訊くと、そのおっさんは「妬むなよ」と親切にリピートしてくださいました。
聞き間違いではないようです。
嫌すぎる。
しかもこのおっさん、主語がありません。
笑いのあった風景は、一瞬で凍りつきました。
おっさんはもう1度、
「妬むなよ」
すっかりお馴染みになったフレーズを口にします。
なんで変な人って、いつも俺に声をかけてくださるのでしょうか。
おっさんは立ち上がり、再び口を開きました。
「俺は妬まれてる。社会が俺を妬んでるんだ」
おじ様?
言ってることの規模がもの凄く大きいです。
何にせよ、俺だけを見て言うのはやめていただけませんでしょうか。
他にも部員がいっぱいいるじゃないですか。
彼らにも是非。
おっさんはそんな俺からのテレパシーを見事に全て受信しないと、再びイスに腰かけました。
さっき立ち上がったのは何のためだったのでしょうか。
しかし1つ気になったことが。
このおっさん、片足を引きずっているのです。
怪我をしているのは明白でした。
おっさんは痛めていると思われる自分の右足を示し、また俺を見ます。
「コレはな、さっき社会の怨念にやられたんだ」
マジで!?
そんな抽象的な相手に、よくここまで物理的にやられたもんです。
いいから早く病院に行きなさい。
2つの意味でな。
あと、そろそろ矛先を俺以外の人に向けてみませんか?
次の駅で降りたいとか思いません?
「俺は戦ってるんだよ、社会の怨念と!」
俺のテレパシーはまたしても綺麗にシカトされていました。
この辺りから空手部員の何割かは、必死に笑いをこらえている様子。
こいつらが何を面白がっているか、俺には手に取るように解ります。
「なんて強大な敵と戦ってるんだ、このオヤジー!」
「俺、初めて見たよ。こんな不思議な絡み方!」
「駄目だ! たまらん!」
「打倒、社会の怨念!」
「めさにもっと絡め!」
仲間達からの熱い応援に、おっさんは応えます。
「社会が俺を妬むから、俺はさっき、社会の怨念と戦ったんだ!」
さっき、戦った?
具体的に、何とどうやって戦ったのさ!?
おっさんは足をかばいながら、再び立ち上がりました。
「俺が町を歩いていたら、車が急に来た! 俺はその車とぶつかったんだ!」
車に轢かれただけじゃねえか!
怨念、まさかの無関係!
電車じゃなくて救急車に乗ってくれ。
あとあなた、誰とも戦えてないです。
一方的に轢かれただけです。
「俺は弾き飛ばされた! こういう風に!」
痛い足で無理して座席にダイブするおっさん。
誰かこの人を止めてくれ。
そろそろ俺も限界みたいだ。
笑いたい。
何もかも忘れて大声で笑いたい!
素直に「車に轢かれた」と言わないこのおっさんは、その後も延々と社会の怨念について語り、とある駅であっさりと降りてしまいました。
「お前も気をつけるんだぞ!」
彼は最後に、そう言い残してくださいました。
はい、車には気を付けます。
おっさん、あれから足の具合はいかがですか?
社会の怨念とはまだ戦っているのでしょうか?
あなたが電車を降りたあと、みんなで心配していたんですよ。
「あの調子だと、また別の車に轢かれてそうじゃねえか?」
皆さんも、車には充分気をつけてくださいね。
もしかしたらそれは、社会の怨念かも知れません。
高校時代のお話です。
俺たち空手道部は日曜の午後、電車の中でずっと談笑に熱を上げていました。
試合の帰りだったので張り詰めていた空気も緩和され、くつろぎモードです。
車内はガラガラに空いていて、俺たちは全員着席する事に成功していました。
少し広めに感じるその車両には、俺たちの他は中年の男性が1人。
「おい。妬むなよ」
突然、その男性が言い放ちました。
しかも何故か真っ直ぐ俺に向かって。
俺は聞き間違えたのかと思い、「え?」と訊くと、そのおっさんは「妬むなよ」と親切にリピートしてくださいました。
聞き間違いではないようです。
嫌すぎる。
しかもこのおっさん、主語がありません。
笑いのあった風景は、一瞬で凍りつきました。
おっさんはもう1度、
「妬むなよ」
すっかりお馴染みになったフレーズを口にします。
なんで変な人って、いつも俺に声をかけてくださるのでしょうか。
おっさんは立ち上がり、再び口を開きました。
「俺は妬まれてる。社会が俺を妬んでるんだ」
おじ様?
言ってることの規模がもの凄く大きいです。
何にせよ、俺だけを見て言うのはやめていただけませんでしょうか。
他にも部員がいっぱいいるじゃないですか。
彼らにも是非。
おっさんはそんな俺からのテレパシーを見事に全て受信しないと、再びイスに腰かけました。
さっき立ち上がったのは何のためだったのでしょうか。
しかし1つ気になったことが。
このおっさん、片足を引きずっているのです。
怪我をしているのは明白でした。
おっさんは痛めていると思われる自分の右足を示し、また俺を見ます。
「コレはな、さっき社会の怨念にやられたんだ」
マジで!?
そんな抽象的な相手に、よくここまで物理的にやられたもんです。
いいから早く病院に行きなさい。
2つの意味でな。
あと、そろそろ矛先を俺以外の人に向けてみませんか?
次の駅で降りたいとか思いません?
「俺は戦ってるんだよ、社会の怨念と!」
俺のテレパシーはまたしても綺麗にシカトされていました。
この辺りから空手部員の何割かは、必死に笑いをこらえている様子。
こいつらが何を面白がっているか、俺には手に取るように解ります。
「なんて強大な敵と戦ってるんだ、このオヤジー!」
「俺、初めて見たよ。こんな不思議な絡み方!」
「駄目だ! たまらん!」
「打倒、社会の怨念!」
「めさにもっと絡め!」
仲間達からの熱い応援に、おっさんは応えます。
「社会が俺を妬むから、俺はさっき、社会の怨念と戦ったんだ!」
さっき、戦った?
具体的に、何とどうやって戦ったのさ!?
おっさんは足をかばいながら、再び立ち上がりました。
「俺が町を歩いていたら、車が急に来た! 俺はその車とぶつかったんだ!」
車に轢かれただけじゃねえか!
怨念、まさかの無関係!
電車じゃなくて救急車に乗ってくれ。
あとあなた、誰とも戦えてないです。
一方的に轢かれただけです。
「俺は弾き飛ばされた! こういう風に!」
痛い足で無理して座席にダイブするおっさん。
誰かこの人を止めてくれ。
そろそろ俺も限界みたいだ。
笑いたい。
何もかも忘れて大声で笑いたい!
素直に「車に轢かれた」と言わないこのおっさんは、その後も延々と社会の怨念について語り、とある駅であっさりと降りてしまいました。
「お前も気をつけるんだぞ!」
彼は最後に、そう言い残してくださいました。
はい、車には気を付けます。
おっさん、あれから足の具合はいかがですか?
社会の怨念とはまだ戦っているのでしょうか?
あなたが電車を降りたあと、みんなで心配していたんですよ。
「あの調子だと、また別の車に轢かれてそうじゃねえか?」
皆さんも、車には充分気をつけてくださいね。
もしかしたらそれは、社会の怨念かも知れません。
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2009
August 15
August 15
中学からの腐れ縁である、悪友のジン。
彼の結婚が決まったのは俺たちが22歳の頃でした。
めでたいことです。
「俺たちン中で、誰が1番先に結婚すんだろうな~」
以前そのような話をしたことが、なんだか懐かしく思えました。
同じく昔からの悪友であるトメを、俺は呼び出します。
友人の人生の転機を祝うべく、贈り物の相談を始めました。
せっかくだから、忘れられない品物を選んで贈りたいよなあ。
どういうのがいいかな~?
「なるべくデカいのがいいんじゃねえ?」
そうだな。
デカくて重いのがいいな。
「で、なんの役にも立たなくてよ~」
お前ホント頭いいな。
そうそう。
誰にも必要とされない、ただ邪魔なだけの物質って感じの品物がいい。
「それでいて、捨てるに捨てられねえ物だったらよ~、もう最高じゃねえ?」
あはははは!
最高!
最低です、この2人。
しかし、ジンだって酷いんですよ。
奴は俺たちの妨害を勝手に恐れ、結婚式を秘密裏に挙げていたんですから。
大親友であるはずの俺たちを式に呼ばないなんて、いい判断です。
さて。
話は戻ってプレゼントの選択なんですが、上で挙げた条件を満たした品が1つだけ、俺には思い当たりました。
俺は当時、熱帯魚屋の店員だったのですが、ここの社長が水槽内のレイアウト用にと、グランドキャニオンの岩を仕入れてきやがったんですよ。
この岩、やたら大きいので、一体何メートルの水槽を用意すればいいのか解りません。
さらに素晴らしいことに、どんな角度から眺めても、ちっとも美しくないから完璧でした。
文句無しで、これに決定です。
店長に岩の値段を尋ねると、
「ああ、アレか。社長は定価6万とか言ってたけど、あんな物に値札付けるのも恥ずかしいからな。邪魔だからタダでいいぞ」
岩はボロクソに言われました。
ってゆうか、やったー!
デカくて重く、邪魔だけど高価であるという不思議な物体を、無料で頂戴することに成功いたしました!
トメも大喜びで、いつになく幸せそうに微笑んでいます。
俺はそんな彼を見て、自分の結婚式にトメだけは呼ばない決意を固めました。
ところでこの岩、大きすぎてラッピングは無理に思えたので、せめて取り扱い説明書を作成し、付け足しておくことに。
一生懸命作った、岩の取り扱い説明書。
まさかワープロも、岩なんて物の説明を打つ羽目になるとは思わなかったことでしょう。
内容は、以下の通りです。
★あなたの結婚生活を、多大な存在感で見守ってくれます。
★奥様の帰りが遅くて寂しい夜、そっと話しかけてください。
岩は黙って聞いてくれます。
★なんと、余った部屋のスペースを埋める機能付き!
★商品には万全の注意を払っておりますが、万が一不備がありました場合、謝ります。
上出来だ!
寂しい夜に岩しか話し相手がいないジンを思い浮かべ、俺はニヤニヤしました。
問題は、プレゼントの渡し方。
俺やトメでも、死ぬ気になってやっと3メートル運べるぐらい重い岩。
こんな無駄に重たい物を、素手で渡すわけにはいきません。
どうやら無断でジンの車に積み込むしかなさそうだ。
俺は携帯電話を耳に当てました。
「もしもし、ジン? 祝ってやるから、あとで車で来いよ。プレゼントもあるぜ。トメと俺からのな。驚くぜ~? なんせ定価6万ぐらいの品だからな」
「なんだその6万『ぐらい』って」
なかなか痛いところを突いてくる男です。
しかし、その場はなんとか誤魔化し、ジンの呼び出しには成功しました。
当初の打ち合わせ通りにジンの隙を突き、トメと力を合わせて岩をトランクへ。
俺が作成した変な説明書も一緒に入れておきました。
後は3人で車に乗り込み、どっかへ遊びに行くだけです。
車が発車する際、岩の重みでウイリーしないか心配でした。
翌日。
ジンからの電話がありました。
「なんだよ、あの岩は!」
開口1番に出てきたのは、やはり文句でした。
「当店では苦情を受け付けておりません」
「ったく、捨てるのえれえ苦労したんだぞ!」
「嘘! 捨てたの!? せっかく運んだのに!」
「うるせえ! このクソガキ!」
「ちゃんと説明書読めよな!」
「読んだけど、なんなんだよアレは! 話しかけてどうしろって言うんだよ!」
「面白かった?」
「やかましい! なにがグランドキャニオンの岩だ!」
「あ、そこは本当だよ?」
「うるせえ! あんなの悪魔の岩だ!」
苦労に苦労を重ね、やっとプレゼントした岩は捨てられた挙げ句、悪魔の岩呼ばわりされました。
凄く頑張ったのに。
でもですね、それでもどこか正直に、ジンの幸せを願う俺がいるのも事実なんです。
結婚生活、楽しくやれよジン!
「次回の結婚式には出席させろよ!」
そんな冗談を言ったりもしましたが、思いもよりませんでした。
まさか2年後、本当にジンが離婚するとは。
ジンは立派なバツイチに生まれ変わりました。
次は誰が結婚するのか、非常に楽しみな今日この頃。
彼の結婚が決まったのは俺たちが22歳の頃でした。
めでたいことです。
「俺たちン中で、誰が1番先に結婚すんだろうな~」
以前そのような話をしたことが、なんだか懐かしく思えました。
同じく昔からの悪友であるトメを、俺は呼び出します。
友人の人生の転機を祝うべく、贈り物の相談を始めました。
せっかくだから、忘れられない品物を選んで贈りたいよなあ。
どういうのがいいかな~?
「なるべくデカいのがいいんじゃねえ?」
そうだな。
デカくて重いのがいいな。
「で、なんの役にも立たなくてよ~」
お前ホント頭いいな。
そうそう。
誰にも必要とされない、ただ邪魔なだけの物質って感じの品物がいい。
「それでいて、捨てるに捨てられねえ物だったらよ~、もう最高じゃねえ?」
あはははは!
最高!
最低です、この2人。
しかし、ジンだって酷いんですよ。
奴は俺たちの妨害を勝手に恐れ、結婚式を秘密裏に挙げていたんですから。
大親友であるはずの俺たちを式に呼ばないなんて、いい判断です。
さて。
話は戻ってプレゼントの選択なんですが、上で挙げた条件を満たした品が1つだけ、俺には思い当たりました。
俺は当時、熱帯魚屋の店員だったのですが、ここの社長が水槽内のレイアウト用にと、グランドキャニオンの岩を仕入れてきやがったんですよ。
この岩、やたら大きいので、一体何メートルの水槽を用意すればいいのか解りません。
さらに素晴らしいことに、どんな角度から眺めても、ちっとも美しくないから完璧でした。
文句無しで、これに決定です。
店長に岩の値段を尋ねると、
「ああ、アレか。社長は定価6万とか言ってたけど、あんな物に値札付けるのも恥ずかしいからな。邪魔だからタダでいいぞ」
岩はボロクソに言われました。
ってゆうか、やったー!
デカくて重く、邪魔だけど高価であるという不思議な物体を、無料で頂戴することに成功いたしました!
トメも大喜びで、いつになく幸せそうに微笑んでいます。
俺はそんな彼を見て、自分の結婚式にトメだけは呼ばない決意を固めました。
ところでこの岩、大きすぎてラッピングは無理に思えたので、せめて取り扱い説明書を作成し、付け足しておくことに。
一生懸命作った、岩の取り扱い説明書。
まさかワープロも、岩なんて物の説明を打つ羽目になるとは思わなかったことでしょう。
内容は、以下の通りです。
★あなたの結婚生活を、多大な存在感で見守ってくれます。
★奥様の帰りが遅くて寂しい夜、そっと話しかけてください。
岩は黙って聞いてくれます。
★なんと、余った部屋のスペースを埋める機能付き!
★商品には万全の注意を払っておりますが、万が一不備がありました場合、謝ります。
上出来だ!
寂しい夜に岩しか話し相手がいないジンを思い浮かべ、俺はニヤニヤしました。
問題は、プレゼントの渡し方。
俺やトメでも、死ぬ気になってやっと3メートル運べるぐらい重い岩。
こんな無駄に重たい物を、素手で渡すわけにはいきません。
どうやら無断でジンの車に積み込むしかなさそうだ。
俺は携帯電話を耳に当てました。
「もしもし、ジン? 祝ってやるから、あとで車で来いよ。プレゼントもあるぜ。トメと俺からのな。驚くぜ~? なんせ定価6万ぐらいの品だからな」
「なんだその6万『ぐらい』って」
なかなか痛いところを突いてくる男です。
しかし、その場はなんとか誤魔化し、ジンの呼び出しには成功しました。
当初の打ち合わせ通りにジンの隙を突き、トメと力を合わせて岩をトランクへ。
俺が作成した変な説明書も一緒に入れておきました。
後は3人で車に乗り込み、どっかへ遊びに行くだけです。
車が発車する際、岩の重みでウイリーしないか心配でした。
翌日。
ジンからの電話がありました。
「なんだよ、あの岩は!」
開口1番に出てきたのは、やはり文句でした。
「当店では苦情を受け付けておりません」
「ったく、捨てるのえれえ苦労したんだぞ!」
「嘘! 捨てたの!? せっかく運んだのに!」
「うるせえ! このクソガキ!」
「ちゃんと説明書読めよな!」
「読んだけど、なんなんだよアレは! 話しかけてどうしろって言うんだよ!」
「面白かった?」
「やかましい! なにがグランドキャニオンの岩だ!」
「あ、そこは本当だよ?」
「うるせえ! あんなの悪魔の岩だ!」
苦労に苦労を重ね、やっとプレゼントした岩は捨てられた挙げ句、悪魔の岩呼ばわりされました。
凄く頑張ったのに。
でもですね、それでもどこか正直に、ジンの幸せを願う俺がいるのも事実なんです。
結婚生活、楽しくやれよジン!
「次回の結婚式には出席させろよ!」
そんな冗談を言ったりもしましたが、思いもよりませんでした。
まさか2年後、本当にジンが離婚するとは。
ジンは立派なバツイチに生まれ変わりました。
次は誰が結婚するのか、非常に楽しみな今日この頃。
2009
August 15
August 15
あれはいつだったでしょうか。
以前、友人たちと海に行った帰りに、ある町によりました。
小腹がすいたので、ラーメンでも食べていこう、というわけです。
適当に見つけて入ったそのラーメン屋はとても規模が小さく、10人もお客さんが入れそうもありません。
「誰もいねえな」
お客さんもいなければ、どういうわけか店の人間までもが不在。
奥にあると思われる厨房にも、人の気配がありませんでした。
一応「すみませーん!」とか「ごめんくださーい!」とかって声はかけたんですよ。
でも、いない者が返事を返せないのも道理。
俺達は諦めて店を出ました。
すると、遠くから走りよってくる人影が。
中年の男性です。
「ごめーん! 散歩してた!」
お前か店長は!
暖簾(のれん)を出したまま、散歩するか普通!?
俺たちは、このおっさんが気に入ってしまいました。
再び店内へ。
皆、それぞれが好きなように注文をし、おやじさんは早速ラーメンを作りにかかりました。
ラーメンを作りながら、おやじさんは笑顔を見せます。
「うちのラーメンはね、世界一ウマいよ! なんせ水が最高だから!」
話好きらしいおやじさんは、頼まれてもいないのにラーメンのレクチャーを始めてくれました。
それによると、このお店ではマジで素晴らしい浄水機を使用しているので、それによって水が澄んで、ラーメンが美味しくなるのだとか。
「水が世界一だから、その水で作るラーメンも世界一美味いんだ」
どうやら、俺たちがたまたま入ったラーメン屋は、なんと世界一のラーメン屋だったみたいです。
凄い。
もう晩飯時だというのに、客は俺たちしかいない世界一のラーメン屋。
凄い。
そして、世界一のラーメンの作り手であるこのおやじさんは、営業中に散歩をするという異例の快挙を成し遂げている。
凄い。
俺たちはワクワクしまがら待ちました。
世界一のラーメンを。
完成した世界一のラーメン。
観察してみると、スープの色が薄く、水を大切にしているのが解ります。
では、いただきまーす!
ところが、おやじさんが急に叫びました。
「ちょっと待って!!」
なんだろ?
おやじさんに目をやる俺たち。
おやじさんはニカッと爽やかに笑います。
「ごめんごめん! 味、入れ忘れてた!」
味を入れ忘れた?
どういうこと?
俺の聞き間違い?
注・ここから先の話は非常にショッキングな内容になります。
覚悟はよろしいでしょうか?
おやじさんは俺たちのドンブリを一旦下げると、普通の態度で粉末のスープを入れました。
どう見てもインスタントラーメンか何かの粉です。
世界一の秘密は水じゃなくって、粉じゃん!
おやじさんはドンブリを俺たちに返すと、とどめを刺さんばかりの一言を放ちます。
「よく混ぜてねー!」
まさかのセルフサービス!
色んな意味でお腹一杯になりました。
でも不思議なことに、味は良かったです。
何の粉だろ、あれ。
以前、友人たちと海に行った帰りに、ある町によりました。
小腹がすいたので、ラーメンでも食べていこう、というわけです。
適当に見つけて入ったそのラーメン屋はとても規模が小さく、10人もお客さんが入れそうもありません。
「誰もいねえな」
お客さんもいなければ、どういうわけか店の人間までもが不在。
奥にあると思われる厨房にも、人の気配がありませんでした。
一応「すみませーん!」とか「ごめんくださーい!」とかって声はかけたんですよ。
でも、いない者が返事を返せないのも道理。
俺達は諦めて店を出ました。
すると、遠くから走りよってくる人影が。
中年の男性です。
「ごめーん! 散歩してた!」
お前か店長は!
暖簾(のれん)を出したまま、散歩するか普通!?
俺たちは、このおっさんが気に入ってしまいました。
再び店内へ。
皆、それぞれが好きなように注文をし、おやじさんは早速ラーメンを作りにかかりました。
ラーメンを作りながら、おやじさんは笑顔を見せます。
「うちのラーメンはね、世界一ウマいよ! なんせ水が最高だから!」
話好きらしいおやじさんは、頼まれてもいないのにラーメンのレクチャーを始めてくれました。
それによると、このお店ではマジで素晴らしい浄水機を使用しているので、それによって水が澄んで、ラーメンが美味しくなるのだとか。
「水が世界一だから、その水で作るラーメンも世界一美味いんだ」
どうやら、俺たちがたまたま入ったラーメン屋は、なんと世界一のラーメン屋だったみたいです。
凄い。
もう晩飯時だというのに、客は俺たちしかいない世界一のラーメン屋。
凄い。
そして、世界一のラーメンの作り手であるこのおやじさんは、営業中に散歩をするという異例の快挙を成し遂げている。
凄い。
俺たちはワクワクしまがら待ちました。
世界一のラーメンを。
完成した世界一のラーメン。
観察してみると、スープの色が薄く、水を大切にしているのが解ります。
では、いただきまーす!
ところが、おやじさんが急に叫びました。
「ちょっと待って!!」
なんだろ?
おやじさんに目をやる俺たち。
おやじさんはニカッと爽やかに笑います。
「ごめんごめん! 味、入れ忘れてた!」
味を入れ忘れた?
どういうこと?
俺の聞き間違い?
注・ここから先の話は非常にショッキングな内容になります。
覚悟はよろしいでしょうか?
おやじさんは俺たちのドンブリを一旦下げると、普通の態度で粉末のスープを入れました。
どう見てもインスタントラーメンか何かの粉です。
世界一の秘密は水じゃなくって、粉じゃん!
おやじさんはドンブリを俺たちに返すと、とどめを刺さんばかりの一言を放ちます。
「よく混ぜてねー!」
まさかのセルフサービス!
色んな意味でお腹一杯になりました。
でも不思議なことに、味は良かったです。
何の粉だろ、あれ。
2009
August 15
August 15
2002年、俺は26歳でした。
この歳になって大量のアルコールを飲むと、記憶をなくすことが珍しくなくなるんですよ。
幸い、人様に迷惑をかけるような酔い方はしてはいないようで、その点では勝手に安心しています。
ただ、自分がどのように酔っ払っていたのかを、人から改めて聞くのはやはり恥ずかしいわけで。
スナックでの勤務を終え、その帰り道のでのこと。
シラフのママが運転する車内には、看板娘Kちゃんと1人の酔っ払い。
その酔っ払いは既に、記憶が飛んでいる状態です。
もちろん、それが俺。
で、Kちゃんが不意に、こんな疑問を口にしたのだそうです。
「そういえばさー、豆腐屋さんって何であんなに朝、早いんだろうねえ。店にもよるんだろうけど、早いトコは夜中の2時とか3時に電気つけて、何かしてるじゃん」
別に俺に訊ねたのではないのでしょうけれど、酔っ払いが応えました。
「しょれはしゃ~、アレだよう。『豆腐の素』が、早く届くからだよう~」
豆腐の素!?
なにその謎の物質。
とても26歳の社会人の発言とは思えません。
脳の弱い26歳は、その後も続けて同じ様な事を力説したのだそうです。
「早く着くでしょ~? 豆腐の素は~。だかりゃ~、豆腐屋しゃんも~、早いの」
頼むから、もう黙ってくれ自分。
ママはおそらく、「この子はもう手遅れだ」とでも思ったのでしょう。
たしなめるように口を開きます。
「そうよねえ。私も聞いた事あるよ~。『豆腐の素』って、届くのが早いんだよね~」
早かろうが遅かろうが、絶対にそんな変な原料は届くまい。
ってゆうか、豆腐屋に「豆腐の素」が届くというのは、一体何系の発想なのでしょうか。
次の日、その話を聞いて俺は凹みました。
何故ならば、「めさは豆腐の原料が大豆であるということも解らなくなくなっちゃう奴だ」と証明されてしまったからです。
豆腐の元は大豆だっつうの。
この歳になって大量のアルコールを飲むと、記憶をなくすことが珍しくなくなるんですよ。
幸い、人様に迷惑をかけるような酔い方はしてはいないようで、その点では勝手に安心しています。
ただ、自分がどのように酔っ払っていたのかを、人から改めて聞くのはやはり恥ずかしいわけで。
スナックでの勤務を終え、その帰り道のでのこと。
シラフのママが運転する車内には、看板娘Kちゃんと1人の酔っ払い。
その酔っ払いは既に、記憶が飛んでいる状態です。
もちろん、それが俺。
で、Kちゃんが不意に、こんな疑問を口にしたのだそうです。
「そういえばさー、豆腐屋さんって何であんなに朝、早いんだろうねえ。店にもよるんだろうけど、早いトコは夜中の2時とか3時に電気つけて、何かしてるじゃん」
別に俺に訊ねたのではないのでしょうけれど、酔っ払いが応えました。
「しょれはしゃ~、アレだよう。『豆腐の素』が、早く届くからだよう~」
豆腐の素!?
なにその謎の物質。
とても26歳の社会人の発言とは思えません。
脳の弱い26歳は、その後も続けて同じ様な事を力説したのだそうです。
「早く着くでしょ~? 豆腐の素は~。だかりゃ~、豆腐屋しゃんも~、早いの」
頼むから、もう黙ってくれ自分。
ママはおそらく、「この子はもう手遅れだ」とでも思ったのでしょう。
たしなめるように口を開きます。
「そうよねえ。私も聞いた事あるよ~。『豆腐の素』って、届くのが早いんだよね~」
早かろうが遅かろうが、絶対にそんな変な原料は届くまい。
ってゆうか、豆腐屋に「豆腐の素」が届くというのは、一体何系の発想なのでしょうか。
次の日、その話を聞いて俺は凹みました。
何故ならば、「めさは豆腐の原料が大豆であるということも解らなくなくなっちゃう奴だ」と証明されてしまったからです。
豆腐の元は大豆だっつうの。
2009
August 15
August 15
俺が高校生だった頃、ある日の夕暮れ。
いつものように2人の悪友と共に帰路についている途中。
友人らが交わしている会話の内容が、その日はどうも変でした。
「しっかしさぁ、あんなデカいビン、どうやってケツに入れるんだろうなー?」
「ああ、入んねえだろアレは~」
「そうだよなー、無理だよな。あんなデカいビン、どうやってもケツ入られねえよな」
「ああ。もう物理的に無理だよ~」
「全く、あのビンはデカ過ぎる」
「ケツに入るサイズじゃねえよ~」
ケツに何を入れるだって?
2人は構わず続けます。
「無理矢理入れるんじゃねえ?」
「ズボッ! って?」
「ははははは! ケツが裂けちまうぜ」
さっきから何を言っているのだこいつらは!
街中で、それも人通りが多い中で喋っていい内容じゃ間違いなくねえぞ!?
だって大きなビンを尻に、だなんて!
入れなきゃいいじゃん!
ばかー!
俺はもう、たまらず赤面します。
「おい! さっきっからなんて話してんだよ! 通行人とかいっぱいいるのに!」
ところが2人は「は?」とか言って不思議そうにしていやがりました。
不思議そうにしたいのはこっちだ。
俺はあたふたと、手足をジタバタさせます。
「いいか? そうゆうアブノーマルな話はだな、せめて2人きりの時にしろよな! いや待って! それも危ないッ!」
すると、悪友の片方が尋ねてきます。
「お前、さっきっから何言ってんの?」
それは俺が訊きたいことだがまあいい。
説明ぐらいはしてやろうじゃないか。
「だからあ、デカいビンをケツに入れるとかって話題で盛り上がるなって言ってるわけ! 通行人もいっぱいいるし、恥ずかしいじゃん! 入れなきゃいいじゃん!」
すると、何故か2人はゲラゲラと笑い初めます。
この人達、なんか怖ーい!
すると悪友が、
「ウイスキー・ヒップスっていうウイスキー、知ってるか?」
知らん。
「あるんだよ」
あるのか。
「小さいビンで、ジーパンのケツポケに入るように、真上から見ると丸みを帯びた三日月ってゆうか、まあ分厚いサイフみたいな形してんだよ」
それがどうした?
「そのウイスキー・ヒップスのデケえサイズのやつが売ってんだよ。相当デカいンだけどさあ、形がケツポケにフィットする形のままなんだ」
要するに、お尻のポケットに入れて持ち運ぶという前提で作られたウイスキーがあるそうなんですよ。
それで名前がウイスキー・ヒップス。
で、ですね、その前提をくつがえし、形状はそのままなのにサイズだけが大きくなったウイスキー・ヒップスが売られていたのだそうで、彼らはその商品に対して突っ込んでいたと言うんですね。
確かに分厚いサイフみたいな形状は、お尻のポケットに入れる為の筈なのに、でっかくしてどうする。
と、ツッコミたい気持ちは解りました。
しかし、既に略されている「ケツポケ」を、さらに略して「ケツ」って言うな!
バカッ!
紛らわしいったらありゃしません。
さて、誤解が解けたところで友人からの一言。
「めさお前、一体何と勘違いしてたんだ?」
俺はこの質問に対し、さらに顔を赤らめたのでした。
ビンは入らないよねえ…。
いつものように2人の悪友と共に帰路についている途中。
友人らが交わしている会話の内容が、その日はどうも変でした。
「しっかしさぁ、あんなデカいビン、どうやってケツに入れるんだろうなー?」
「ああ、入んねえだろアレは~」
「そうだよなー、無理だよな。あんなデカいビン、どうやってもケツ入られねえよな」
「ああ。もう物理的に無理だよ~」
「全く、あのビンはデカ過ぎる」
「ケツに入るサイズじゃねえよ~」
ケツに何を入れるだって?
2人は構わず続けます。
「無理矢理入れるんじゃねえ?」
「ズボッ! って?」
「ははははは! ケツが裂けちまうぜ」
さっきから何を言っているのだこいつらは!
街中で、それも人通りが多い中で喋っていい内容じゃ間違いなくねえぞ!?
だって大きなビンを尻に、だなんて!
入れなきゃいいじゃん!
ばかー!
俺はもう、たまらず赤面します。
「おい! さっきっからなんて話してんだよ! 通行人とかいっぱいいるのに!」
ところが2人は「は?」とか言って不思議そうにしていやがりました。
不思議そうにしたいのはこっちだ。
俺はあたふたと、手足をジタバタさせます。
「いいか? そうゆうアブノーマルな話はだな、せめて2人きりの時にしろよな! いや待って! それも危ないッ!」
すると、悪友の片方が尋ねてきます。
「お前、さっきっから何言ってんの?」
それは俺が訊きたいことだがまあいい。
説明ぐらいはしてやろうじゃないか。
「だからあ、デカいビンをケツに入れるとかって話題で盛り上がるなって言ってるわけ! 通行人もいっぱいいるし、恥ずかしいじゃん! 入れなきゃいいじゃん!」
すると、何故か2人はゲラゲラと笑い初めます。
この人達、なんか怖ーい!
すると悪友が、
「ウイスキー・ヒップスっていうウイスキー、知ってるか?」
知らん。
「あるんだよ」
あるのか。
「小さいビンで、ジーパンのケツポケに入るように、真上から見ると丸みを帯びた三日月ってゆうか、まあ分厚いサイフみたいな形してんだよ」
それがどうした?
「そのウイスキー・ヒップスのデケえサイズのやつが売ってんだよ。相当デカいンだけどさあ、形がケツポケにフィットする形のままなんだ」
要するに、お尻のポケットに入れて持ち運ぶという前提で作られたウイスキーがあるそうなんですよ。
それで名前がウイスキー・ヒップス。
で、ですね、その前提をくつがえし、形状はそのままなのにサイズだけが大きくなったウイスキー・ヒップスが売られていたのだそうで、彼らはその商品に対して突っ込んでいたと言うんですね。
確かに分厚いサイフみたいな形状は、お尻のポケットに入れる為の筈なのに、でっかくしてどうする。
と、ツッコミたい気持ちは解りました。
しかし、既に略されている「ケツポケ」を、さらに略して「ケツ」って言うな!
バカッ!
紛らわしいったらありゃしません。
さて、誤解が解けたところで友人からの一言。
「めさお前、一体何と勘違いしてたんだ?」
俺はこの質問に対し、さらに顔を赤らめたのでした。
ビンは入らないよねえ…。