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夢見町の史

Let’s どんまい!

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2009
August 15
 みなさんは前回アップしたエピソード、「ニコラス・ケイジ」はもうご覧になられたでしょうか?
 内容は、「めさが俳優のニコラス・ケイジをニコラス刑事だと勘違いしていた」という恥ずかしい話です。

 俺はこの件以来、固有名詞と役職を混合して考えないようにしていたんですよ。
 もう恥ずかしい思いをしたくはありませんからね。

 そんなある日のこと、俺の耳にある人物の名前が飛び込んできました。

 K1選手、ミルコ・クロコップ。

 テレビでよくK1を観戦するのですが、俺はなかなか選手個人に興味を待ちません。
 興味があるのは、どんな戦い方があるのかとか、どんな場面でどういった戦術が有効なのか、俺にも習得出来そうな技があるのか等々です。

 したがって俺、ミルコ・クロコップ選手がまさか本当に警察官だとは知らなかったんですね。

「ミルコ・クロコップ? はは~ん。その人、コップとかいっといてデカじゃねえな。ニコラス刑事の件がなかったら危うく騙されるとこだったぜ」

 ところが、このミルコ・クロコップ選手は本当にお巡りさんなのでした。

 ある日、友人がこんなことを言い出します。

「いやあしかし、ミルコは強えなあ」

 ん?
 ああ、あの色白の選手?

「おう。お前知らねえの? ミルコ・クロコップ」

 バッカだなあ、微妙に知ってるよ。

「なんだ微妙って。いや、でもあの試合は凄かったなあ。あんなのが警察にいたら俺、絶対に犯罪とか怖くて出来ねえよ。凄いよな、警官までこなすだなんてさ」

 ハッ!
 こいつはホントにバカですね。
 まあ正直、俺も以前は似たような間違えをしたことがあったからな。
 こいつも俺と同じような勘違いの1つや2つはするかも知れん。
 ここは1つ、友として彼の間違いを正しといてあげますかね、はいはいと。

「なあ、笑ってもいい?」

 俺はにやにやとムカつく笑みを浮かべ、友を諭しにかかります。

「お前ミルコの事を警察官だと思ってねえか? アホだろお前。そんなことは他の奴に言っちゃ駄目だぜ? ニコラス・ケイジを刑事だと思ってる奴と一緒のレベルだぜ」
「はあ?」
「だ、か、ら! 名前が名前だから仕方ないのかも知れないけどさ、コップは刑事じゃねえよ。ミルコなんだよ」

 …続き、もう書かなくてもいいですか?

 俺は頑なに「ミルコ・クロコップは警察関係者ではない」と無駄に頑張って言い張り続けました。
 警官だっつうの。

 説教じみた俺の熱弁は続きます。

「正直言うと俺さあ、ちょっと前にニコラス・ケイジをデカだと思ってたんだよ。でもニコラス、デカじゃないじゃん、俳優じゃん。それと一緒だよ、お前の勘違いは」
「勘違いしてるのはお前だよ! ミルコ・クロコップは本当に警官だ!」
「あっはっはっはっは! ナイスジョーク!」
「ジョークじゃねえよ! ホントだって!」
「ふふふッ! お前も面白いなあ。ホントに警官?」
「ホントに警官」

 2002年、始めの頃のお話でした。

拍手[2回]

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2009
August 15
 皆さんは、ハリウッドスターのニコラス・ケイジという方をご存知でしょうか。
 とても知名度の高い俳優さんなので、知っている方がほとんどでしょうね。
 ところが俺は26歳になるまで、彼の事を全く知りませんでした。

 俺はスマイルというスナックで、ボーイとして勤務しています。
 そんなスナックでのある日の事、店の女の子とお客さんが映画の話で盛り上がっておいででした。

 俺は映画に詳しいというわけでもないので、おとなしく聞き入っていると、話題はニコラス・ケイジの話に。

「ニコラス刑事ってさー」
「ああ、いいよねー、ニコラス刑事」

 刑事…?

 コイツら何を言っているのだ。
 俳優の話をしていたクセに、刑事の事を誉めてどうする。
 だいたいニコラス刑事って何者だ?

 俺の疑問をよそに、女の子とお客さんは、しきりにどっかの刑事を絶賛していました。

 で、俺は何気なく尋ねてみる事に。

「ねえねえ、あのさ、なんでさっきまで俳優の話してたのに、刑事の話題になってんの?」
「は?」
「いや、言ってたじゃん。刑事がどうのこうのって」
「がはははは!!」

 突然される大笑い。
 みんなが何故ウケているのか、サッパリです。

 みんなの笑いの意味が分からず、俺の頭上にあった「?」マークはさらに1つ増加するのでした。

 女の子が、なんとか笑いをこらえつつも口を開きます。

「め、めさ君それはね? ぷッ! くすッ! そ、それ、刑事じゃな、ぷぷッ! 刑事じゃなぁーい! あはははは!」

 何を言ってんのか全く解らん。
 刑事じゃなくねえだろ。
 さっきまで刑事刑事言ってたじゃんか。

 しかしこのあと俺は丁寧に「ニコラスというのは刑事ではなく、『ケイジ』というセカンドネームを持つ俳優さんだ」と教えられたのでした。

 しこたま天然扱いを受けたことは言うまでもありません。

 恥ずかしいので、追記を少々。

 その後、俺はフロアレディからニコラス・ケイジ主演の映画をお借りし、観賞致しました。

 深みがある瞳、味がある演技。

 非常に素晴らしい俳優さんでした。
 とても警察関係者とは思えません。

 しつこいようですが、ニコラスは刑事ではなく、ケイジです。
 職業は俳優さんですので、ご注意ください。

拍手[3回]

2009
July 31

 もし前回のラウンド2を読んで「やりすぎじゃね?」と感じられた方は、今回のは読んじゃダメです。
 過去最大の、それこそ最終決戦です。
 友達からは聖戦扱いをされました。

 そもそも俺とトメは互いに腹を立てたわけでもないのに、どうしてマジ決闘などするのでしょうか。
 まあ当時は「怪我をするけどゲームと一緒」みたいな感覚ではありました。
 だからまあ、読まなくっていいんですけれど、もし読んじゃったら「ギャグ漫画のあらすじか何かだろう」と思ってやってください。

 でも実話。

 さて、俺もトメも 23歳になりました。
 2人で飲んだ後、ラーメン屋で食事をしています。
 空手の話題で盛り上がる一時。

「なあトメ。そろそろさ、ホントに決着つけねえ?」
「ん~? いいぜ? まだ寒いから、3ヶ月後にしようぜ~」
「そうだな。それまで走り込んで、体力取り戻しておくか」

 夏の対決が決定。

「どこでやる? 学校使わせてもらうと、また先生が危ない危ないってうるさいぜ?」
「どっか別の場所でも借りようぜ~」

 こうして俺達は、近所のK公園で対決することにしました。
 どこも借りられなかったのです。

 この頃になると俺もトメも、もう前回ほどギラギラしてはいません。

「一応、グローブだけ装着しようか」

 ちょっと甘いことを言い出す俺。

「おう。いいぜ」

 トメは恰好良く即答していました。

 どうせどう頑張っても、結果的にトメは倒せないといった嫌な予感が、俺の頭から離れません。
 それでも取り合えず、俺はトメの父上に土下座で、「あなたの息子さんを殺したのは俺です!」と謝るイメージトレーニングを無理矢理しておきました。

 トメはトメで、前回の勝負がよほどショックだったらしく、

「人間は俺が思っている以上に、倒れねえ生き物なのかも知れねえ」

 いくら殴っても倒れない奴と戦う悪夢にうなされたと文句を言っていました。
 10年来の友人から、まさかのトラウマ扱いです。

「おう、めさ?」

 対決の日取りを決めるために、トメが電話をよこしてきました。
 適当にヒマな日を選びます。

「ところでめさ、道着で来る?」
「いや? さすがに場所が公園だから、ジャージ買っといたけど」
「オメー、何考えてんだよ~。俺達の決闘はいつも道着だったじゃねえかよ~。公園だろうが関係ねえ。俺は道着で行くぜ」

 男らしいトメの言葉に、俺は熱い男気を感じ、嬉しくなりました。

「そうだな! お前とやる時はいつも道着だったもんな! 確かにそうだ! 目が覚めたよ! 俺も道着で行く!」

 決闘当日になると、話を聞きつけた友人らが見物しにK公園に揃います。
 最初にやって来たのは、やはり中学からの悪友、ジンでした。

「普通の友達が欲しい」

 ジンの第一声がこれです。

「道着姿で公園で待ったりとか、ケンカしてる訳でもないのに友達と本気で殴り合う奴なんかでなくて、俺は普通の友達が欲しい」
「だって、トメも道着で来るって言うんだもん。俺たちの正装は道着なんだよ」
「だからってお前、あれ?」

 ジンが駐車場の方角を指差します。

「あのタチ悪そうなの、トメじゃねえ?」

 ジンの視線を追うと、そこにはダルそうな歩き方でこっちに近づくトメの姿が。

 俺は、見間違いかと思って、何度も何度も目を擦りました。
 トメは、白いジャージを着ていました。

「トメお前! 道着じゃ!?」
「あん? おいおい、やンめてくれよな~めさ。公園で変な格好すンなよ~」

 ハメられた!
 なんでもアリのルールとはいえ、いきなり心を傷つけられるとは想定外だ!

 つい今しがたの俺のセリフを返せ!
 ちょっとカッコつけてジンに放った言葉を取り戻したい!

「俺たちの正装は道着なんだよ」

 それがどうだ。
 トメ曰く「変な格好すンなよ~」ときた。

 トメだって男らしく言ってたじゃん。

「公園だろうが関係ねえ。俺は道着で行くぜ」

 果てしなくジャージじゃん。

「果てしなくジャージじゃーん!」

 涙目でトメを見ました。

 ひとしきり友人たちが笑い転げたあと、俺はいよいよトメにグローブを手渡します。

「ほらよ。お前の分だ」

 いよいよ対決の時が迫っている、そんな雰囲気を誰もが感じました。
 笑い声が止まります。

 しかし、トメの心境はこんな感じです。

「対決はやっぱ今度にしてえなあ。めさが面白い格好してきやがるから、やる気なくしたよ~」

 一方、俺の心境はこうです。

「ああ嫌だ。恥ずかしいったらありゃしない。俺だけ道着って、どういうことだ。みんなもいるし、このままカラオケにでも行ってしまいたい」

 双方やる気なし。
 それでも、集まった友人達は、俺とトメの殺し合いを楽しみにしておいでです。

 対決するなんて、こいつらに教えるんじゃなかった…。
 そうすれば、トメには「今日はやっぱ飲みに行こうか」って言えたのに…。

 お互い、やる気がないのは初めてのことでした。
 相手の怖さを、さすがに知ってしまっているからです。
 それでも、俺達は公園の特に広いエリアに場所を移しました。

「ここら辺でいいかな」
「あ~。いいんじゃねえ? じゃあやるかあ」
「ズルい! クツを脱げトメ! 俺だって素足なんだから!」
「マジかよ~。今日のために買ったのによ~」
「俺だってジャージを買っといた! 誰かが道着で来るって言わなければ、俺だってジャージで来てた!」

 まずは軽く口喧嘩。
 気持ちウォーミングアップです。

「じゃあ、いい加減とっとと始めよう。早く終わらせて、ごはん食べたい」

 言って、俺はジンに合図を頼みました。

「始め」

 ようやく戦闘開始です。

 俺のイメージトレーニングの中では、トメは速攻で無残で切ない姿になる予定でした。
 ところが、彼の構えを見て全てを悟ります。

「駄目だこりゃ。こんなのすぐに倒せねえや」

 ただでさえ隙を見せない上に、いつの間にかガタイが良くなっていらっしゃるトメ。
 軽量級の俺とは、およそ10キロの体重差がありました。
 足場は雑草だらけ。
 凸凹だらけです。
 これでは素早い移動が難しく、得意のフットワークも使えません。

「今回はちょっと不利だなあ」

 それでも、殺気を放って相手を牽制します。
 気圧されたトメは、簡単には攻めてきませんでした。
 しばらく、どちらも動けずにいます。

「なんでどっちも動かないの?」

 見物していた友人の1人が、そうジンに言ったのだそうです。

「お前はバカだ。動かないんじゃねえ。動けねえンだ。2人を囲む闘気の輪が見えねえのか?」

 格闘漫画の解説キャラみたいなセリフを返す、素人のジン。
 まるで「今にめさの手からビームが出るぞ」とか言い出しそうです。
 恥ずかしい。
 けどまあ、闘気の輪というのは間違った表現ではありません。

 両者はじりじりと、ほんのわずかにだけしか動かないので、遠目には止まって見えたことでしょう。
 俺とトメの間を、犬の散歩をしているおじちゃんが横切りました。

※嘘です。

 俺のテリトリーとトメのテリトリーは球状に展開し、その球が相手の球に触れました。
 当たり判定は、ミリ単位です。
 テリトリーを侵されたトメが、俺に襲いかかりました。
 この球同士が触れるかどうかの微妙な距離を、互いはずっと探り合っていたのです。

 俺は近眼で、相手のパンチなんて良く見えません。
 動体視力も悪いです。
 しかし、攻撃をよけられないわけではありません。
 相手の雰囲気、わずかな挙動、ちょっとした仕草から、次の攻撃が判るのです。
 タイミングを合わせれば、ガードするなりよけるなり、カウンターを取るなり好き放題。

 トメが右拳を下げました。

 ガードが早過ぎてもいけません。
 攻撃を読んでいたことがバレて、警戒されるからです。

 今だ!

 トメのパンチの軌道を読んで、俺はガードを上げました。
 完璧だ!

 ズガン!

 な?
 喰らっただろ?

 インパクトの瞬間も判っていたので、俺は咄嗟に顔を回転させ、衝撃を逃しました。

 でもおかしいぞ?
 どうしてパンチが顔に達した?

 思い返せば、トメのパンチはよく、相手のガードをすり抜けて打撃を与えます。

 まさか、もしかして…。

 トメの再びの攻撃。
 タイミングを合わせてガード。
 ガードした瞬間に、俺からも突きをカウンターで入れてやる!

 ズゴン!

 な?
 また俺が喰らっただろ?

 いや、間違いない。
 トメは攻撃の瞬間、全てがスローに見えていやがる!
 突きを放つ一瞬でさえ、状況に合わせてパンチの軌道を変えていやがる。
 こりゃよける努力も無駄に終わる。
 よけても、またパンチの軌道が変わって、結局は顔に入る。
 鋭い動作も、この足場だと無理だ。
 パンチが届くまでのギリギリまで待ったとしても、

 バキッ!

 ほーら、間に合わなかっただろ?

 さらに、トメが地面を蹴りました。
 空中で回転しながら、背面からカカトを放ってきます。

 右のソバット!

 俺は両腕を揃え、顔の高さまで上げました。
 トメのカカトが、その両腕を直撃します。
 同時に、その強い衝撃に俺の上半身はのぞけりました。

 前回の俺は、こんなん喰らってたのか。
 なるほど、俺が倒れないことを不思議に思ってたわけだ。
 腕が折れるかと思ったぜ。

 俺は体勢をすぐに立て直し、着地した瞬間のトメの顔を蹴りにかかります。
 雑草が舞いました。
 足には確かな手応えを感じましたが、当たったのは顔ではなく、奴の上げた腕でした。

 俺の心境は「ちッ! そう簡単にはいかねえか」
 トメの心境は「なんでこいつ、口から血ィ流しながらピンピンしてんだよ~」

 ちょっと面倒に思っています。

 さて、最初に思った通り、やはりスピードが出せない俺が不利な展開になっています。
 この時点で、血とかも結構出ていました。
 このままいけば、俺は倒されてしまうでしょう。
 しかし、前回の対決の時に、学んだこともありました。

 トメは殺気に敏感だ。
 これでも喰らいやがれ!

 焚き火にガソリンを撒いたような勢いで、俺は闘気を放出しました。
 温度を出さない、見えない炎に、トメが後ろに下がります。

 じり。

 半歩にじり寄ると、トメは同じ距離だけ下がりました。

「もう疲れたから、帰ろうぜ~」

 トメのアイコンタクトをシカト。
 さらに近づきます。
 じりじりと移動を繰り返して、トメは広い公園の、端まで追いやられていきます。

 俺は内心、にやりと笑みます。

「まだまだイケるぜ!」

 さらなる殺気を放ちました。
 トメが警戒の表情を濃くします。

 今だ!

 それまで放っていた殺気を、俺は一瞬でピタリと消し去りました。
 そして、右ストレート一閃。
 トメの頭部が後ろに吹っ飛びました。
 それまでの大量の殺気は威嚇ではなく、全てがこの1発に賭けたフェイントだったのです。

 反撃に転じようとしたトメに、俺は再び刺すような殺気を大量に、ド派手に放出しました。
 するとトメは嫌な気配を察し、攻撃を思い留まります。

 殺気に敏感なトメだからこそ、殺気によってこいつの動きを封じられます。
 奴はきっと、「今攻撃したら、なんだか解らんけど、なんかやべえ」とでも思っているのでしょう。
 そして殺気を消してやりさえすれば、

 ゴッ!

 奴の脳からアドレナリンが出ないせいで、俺の突きがスローに見られることもありません。

 しかし、お互い1発入れるだけにも結構な苦労をしています。
 トメは雑草の根にカカトを乗せて、いつでも動ける体勢を密かに作り、今までにない鋭い突きを俺に喰らわせたりしました。

 10分か、もしかしたら15分も経っていたかも知れません。
 俺達がやっていた流派の空手は、他の武道よりもさらに腰を落として行動します。
 普通に空気椅子みたいな状態で戦うので、体力がなくなりつつある23歳達は、やがて腕さえも上がらない可哀想なことに。

 俺は殺気の他にテレパシーも放ちました。

「隊長! 自分は体力がないであります!」

 トメの心の声も丸聞こえです。

「これ以上、今の俺達に何ができるんだよ~」

 再びトメが「もうどうでも良くねえ?」と、目で言ってきました。

 そうだね。
 このままやってたら、怪我しちゃうしね。

※もう手遅れです。

「おいトメ、まだ動けるか?」
「おう。もちろん動けねえぜ?」
「やめよっか?」
「おう」

 それで2人で、その場に大の字書いて、ばたりと倒れました。
 結局、ダメージではなく、体力がないせいで倒れてしまいました。
 もちろん勝敗は引き分け。
 まんべんなく情けない。

 起き上がって、俺はトメに声をかけました。

「メシでも喰いに行こうかー!」

 これにて、皆様から引かれることを覚悟してリメイクしたマジ勝負シリーズは完結です。
 ラウンド4はありません。
 もしかしたらやるかも知れないとか思い、俺は一応抜き手を会得したりもしましたが、やはり両者は戦闘を避けています。

「めさとやると、自信なくすよ~」
「俺だって、もうお前とはやらん! ジャージ着て来るし!」

 血だらけのままデニーズ行って、文句を言い合いました。

「見てみろよトメ! 俺の顔、もう腫れてるー! 人間って、こういう色に変色するんだなあ」
「おう、見たことねえ色になってンぞ、オメーよ~」
「あっはっは! ってゆうか、笑うと肋骨に響く! この感じは、ああ。ヒビが入ってるね」
「ンああああッ!」
「どうした?」
「ケチャップが持てねえ!」
「なんで?」
「後輩とやる時のクセで、めさの蹴りを片手で防いだからだよ~。ヒジから変な音聞こえたもんよー」
「だからお前、中盤以降は左手使わなかったんだ!?」
「がはははは!」
「普通の友達が欲しい…」

 お客さん達がちらちらと、血に染まった白いジャージと道着の男を見ていました。

 後日談。

 勝負の夜、布団で横になったら鼻血が出た!
 トメからの蹴りをよける際、顔を引いたら鼻だけが間に合わず、かすったからだ!
 後から鼻血が出たのは初めてだ!
 そして半年後、雨の日に寝ていても鼻血が出た!
 後遺症だ間違いない!
 他にも色んな細胞が駄目になったのが解る!
 頬骨を押したら「ぐじゅ」って変な音がした!
 肋骨のヒビのせいでくしゃみも安心してできない、大変な目に!
 ホントもう戦いません!
 ごめんなさい!

 こんなの読んで、楽しんで頂けていれば良いのですが、どうなんだろう、マジで。
「うわあ…!」って思っちゃった方、本当にすみませんでした!
 これからは、いつも通りの楽しいエピソードを紹介させて頂きます。

 良い子の皆さん、俺とトメの真似はしないで下さいね。

 ――了――

拍手[4回]

2009
July 30
 前回のエピソードをご覧になってちょっぴり引いた方は、これ以降は絶対に読まないほうがいいです。
 回を重ねる毎に戦い、というか怪我が派手になっていくからです。
 なんていうか、ある意味18禁です。
 最初のエピソードでは奥歯が欠けたぐらいで済みましたけれど、今回は試合終了後、徒歩で移動ができない感じになってしまいます。

 一応アップはするけども、忠告したかんね!

 さて。
 前回のラウンド1からおよそ1年後の夏。
 俺とトメは、神奈川県は三浦半島まで来ていました。
 夏合宿でコーチをやってくれと、再びK先生が声をかけてくださったのです。

「先生、あのですね、お願いがあるんですけど」

 俺の言葉に、K先生は「ん?」という顔をします。

「トメと決着をつけたいんですよ。俺とトメの勝負の時間、作って頂いてもいいですかね?」

 もちろんトメも戦う気満々で、必殺技を用意したなどとほざいていやがります。
 それを聞いた先生は、「練習時間を割くのは構わない」とおっしゃってくださいました。

「私は審判をやればいいの?」
「いえ、最初のスタートの合図だけお願いします」
「というと、どういうルール?」
「どっちかが倒れるまで、戦い続けるって感じですね」

 天下一武道会?
 そう言いたげに、先生は目を丸くしました。

「防具は?」
「要りません。そんなのつけてたら、喰らわんでいい攻撃まで喰らってしまいます」
「でもそれだと、さすがに危険でしょ!?」
「できれば、グローブも外したいぐらいです。大丈夫です」

 何が大丈夫なのでしょうか。

 K先生は、副顧問のS先生と相談し始めました。

「いくらなんでも、危険では」
「いやいや、本人達がやりたがってるんだから、やらせてあげましょうよ」
「じゃあ、せめてラウンド制にして、3ラウンドだけっていう形に」
「そうですね。それでも危ないようだったら、止めに入りましょう」

 結果、グローブ着用、防具なしの倒し合い。
 時間は2分間の3ラウンド、またはどちらかが倒れるまで。
 何をしても反則は取らないという、即興のルールが決定しました。

 ルールがある時点で気に入らないけども、とにかくこれでトメと決着がつけられます。

 合宿の最終日、試合コートの向こうには、ドス黒いオーラを立ち昇らせるトメの姿がありました。
 相変わらず魔王みたいな気配です。

 足場は道場のような木の床ではなく、教室などに使われるような固いタイル。
 それだけでも、双方が無事には済まない予感がします。

「勝負、始め!」

 両者の瞳が熱く、残酷に光りました。

 勝負開始早々、またトメが変なことをしました。
 何故かジャンプをし、宙に舞ったのです。
 はしゃぎたい年頃なのでしょうか。

 それでも、あまり良い予感がしなかったので、俺はバックステップで距離を取ります。

 ぶおん!

 トメは背面からカカトを振り回す形で、空気を混ぜました。
 これはソバットという足技です。
 空中での、腰を入れた後ろ回し蹴り――。

 てめえはテレビゲームか!

 どうやら、これがトメの新しい必殺技なのでしょう。
 着地したトメが、「どうだ?」というような顔をしました。

 どうもこうも、こんな派手な技が通じるか!
 素人じゃないんだから!
 しかも会得したばかりだからか、どこか不恰好だし、なんかガッカリだ。
 なんの工夫もなしに大砲打ちやがって、当たると思っているのでしょうか。

 俺は前傾姿勢になり、奴の足をへし折るつもりでローキックを連発します。
 高校生の頃は、正式な大会で禁じられているので使えなかったローキック。
 この攻撃を受けた経験は、トメにはないはずです。

 奴の足を破壊し、動けなくしてしまえば俺の勝ちだ!
 ふはははは!

 ただ、蹴りで人の足を折るには、自分の足が折れても構わないという覚悟と勢いが必要です。
 したがって、俺は自分の足とトメの足を引き替えにするイメージがありました。

 今にして思うと、俺もどうかしていました。
 トメの足を壊せる頃には、自分の足も駄目になってるに決まってんじゃない。

 足を足で狙う俺と、たまに宙に舞うトメは、なんか楽しそうに、それでいてピヨピヨと必死こいておいででした。

「やめ!」

 1ラウンド目が終了。
 1分の休息の後、2ラウンド目が始まります。

 びしびし!
 ぶおッ!

 殴る蹴るを織り交ぜながらも、基本的な展開は1ラウンド目と同様でした。
 俺はトメの太股の、内側も外側も蹴りまくります。
 奴はインパクトの瞬間、たまに足に手を沿えて衝撃を和らげていましたが、その程度で防げる程度の打撃ではありません。

 トメは相変わらず、たまにぴょんぴょん跳ねて、頑張って空気を蹴っておいででした。
 やる気はあるのでしょうか。

 この調子なら、3ラウンド目あたりで、トメの足の破壊は完了するな。

 そう思って、俺は嬉しくなりました。

※その頃には、めさの足の破滅も完了しています。

 大根で大根を折ろうという発想のバカと空気を蹴るのが大好きなバカは、それでも大真面目な形相で頑張っておいででした。

 そして、最終ラウンド。

 トメに接近した時に何かが起こり、俺は吹っ飛び、体勢を崩しました。
 しかし見ると、トメはもっと体勢を崩しています。
 奴はこちらに背を向けて、地面に手をついていました。

 大チャンス!

 よく解らない原因で飛ばされていた体を立て直し、俺はトメに走り寄りました。
 拳に全ての気を集結させます。

 このまま後頭部を殴りつけ、固い地面に顔面を叩きつけてやる!

 本気の下段突きを、それも後頭部に向かって突き下ろしました。

 今なら病院で済むぜ!

 ズギャッ!

 トメは後ろ向きのままなのに、首を傾げるような動作で、俺の突きをよけやがりました。

 エスパーかお前は!

 同時に、右手の小指に激痛が走ります。
 どうやら、トメが動いたせいで、小指だけで頭を殴ってしまったようです。

 小指がイッた!

 鋭い動作で体勢を整えるトメ。

「やめ!」

 しばらくして、先生の声が響きます。
 どうやら、また引き分けてしまったようです。
 どっちも倒れはしませんでした。
 それが悔しくて、さっさと退場しようとすると、

「握手ぐらいしなさい」

 K先生が言いました。
 コート中央に戻り、トメの右手を握ります。

 心の中で、俺は敬語で叫びました。

「おああああ! 小指がッ! 俺の小指がーッ! トメさん、あんまり握らないでください」

 試合が終わると、痛みも感じます。
 心の中で、密かにのた打ち回りました。

 改めて、俺は皆の意見を求めます。

「どっちが勝ってました?」
「引き分けにしか見えん」
「それより、めさ先輩、顎は大丈夫なんですか?」
「そうだ。大丈夫かめさ? 顎は」

 小指を自己診察し、骨に異常がないことを確かめながら聞いていると、後輩やら先生やらが心配してくれました。
 でも、何故に顎を?
 俺は小指が心配なのに。

 しかし、さらにトメや皆からの話を聞いて、俺はある事実を知るに至りました。
 トメの供述を、次に記しておきます。

 勝負が始まったからよ~、苦手な左のソバットを見せて、めさを油断させたんだあ。
 おう。
 本当は逆回りの、右のソバットが本命だったんだよ~。

※トメのソバットがどこか不恰好に見えたのは、わざと不得手な左回りで蹴っていたからでした。

 んでさあ、3ラウンド目が始まったから、そろそろいいかと思ってよ~。
 お前が攻めてきた時に、こうフェイントで殴るフリして、お前が顔を引いてよけようとした瞬間に、右のソバットをカウンターで入れてやったんだよ~。
 バッチリの手応えだったし、顎に入れてやったからよ~、勝ったと思って、着地に失敗したけど安心してコケてたよ~。

※俺の体が吹っ飛び、トメがしゃがんでいたのは、そのためでした。

 あまりに見事にジャストミートしたから、「今頃、めさは泡吹いて倒れてンだろうなあ~」って確信してさあ~、のんびり立ち上がろうと思ってたのによ~。
 何故か、今まで感じたことねえぐらいデカい殺気が背後から迫ってきやがるからさあ~、スゲー不思議に思ったよ~。
 めさは泡吹いて倒れてるはずだったから、殺気の持ち主が誰だか解らなかったよ~。

※俺です。

 で、「なんだか解んねえけど、とにかくやべえ!」って思って、こう首を曲げたらさあ、スゲー勢いの拳が俺の顔の左側から突き出てきやがってよ~。
 なんでお前、無事なんだよ~。

※なんでよけれたのかを、逆に問い正したいです。

 とにかく話を総合すると、俺はトメの大技をモロに喰らっていたのでした。
 あんなに派手な技を喰らう奴は恥ずかしいと思っていながら、ものの見事に喰らっていました。
 誰が見ても、「めさが入院する」と思われるほど、その直撃は凄まじかったのだそうです。

「お前、覚えてねえのかよ~?」

 トメが不満そうに言いました。

「うん。覚えてないってゆうか、解ってない。今も顎にダメージ感じてないし」
「おかしいと思ってたんだよな~」
「なにが?」
「お前殴っても、いつも痛そうな顔しねえからよ~」
「だって痛くねえんだもん」
「後輩がパタパタ倒れる時の俺の突き、半分程度の力なんだぜ~?」
「後輩は倒すな。ってゆうか、そうだったの? 手加減が下手なだけかと思ってた。俺ン時は?」
「100%だよ~」

 自分の取り柄は素早さだと思っていたのに、実は打たれ強さが売りでした。
 それはそれでショック。

「そっかあ。俺って鈍感な人だったんだあ。なんか切なくなっちゃったよ。でもお前、後頭部への突き、よくよけたよなあ」
「あれだけの殺気だったら、寝ててもよけるよ~」
「そうか。今度から、ああいう時は殺気を消すように気をつけるよ」

 こうして俺達は再び、からからと笑い合いました。

 笑っていられなくなるのは、次からです。

 合宿も終わり、解散するとき。
 整列して正座し、礼を終えた後です。

「それでは、解散!」

 K先生が声を張りました。

 俺も声を張ります。

「足が痛くて立てなぁい」

 トメも騒ぎ始めました。

「あああああッ! 足があッ! 足があッ! なんで俺がこんな目に!」

 自分の足を犠牲にする覚悟で、俺はトメの足を狙いました。
 おかげで俺のスネの皮膚は潰れ、擦り減って出血し、スネ毛が生えるのに4年ほどかかりました。
 その頑張りの甲斐あって、俺達は困ったことに。

 歩けない。
 でも、トメも歩けてない。
 作戦成功だ。
 そんな作戦立てたことは失敗だけれども。

「おうトメ、早えよ。もっとゆっくり歩けよ」
「ここまでスローモーションで歩いてんのにかよ~」

 そんな俺達を、どっかのおばあちゃんが追い越しました。

 帰り道のコンビニに寄る際、車から降りるためにドアを開けたはいいけれど、ちっとも動けないので「車内の空気を全力で入れ替えています」みたいな光景になっていました。

 まともに歩けるようになるのに、3日かかりました。

 失敗失敗。

 ちなみに後日談なんですけれど、俺の小指はやっぱり折れていたみたいです。
 骨は大丈夫って勝手に思っていたのですけれど、がっつり折れておいででした。
 だけど気づいていなかったので病院には行かず、そのまま骨は変な形のままくっつき、今では右手の小指がおかしな角度です。

 失敗失敗。 

 次回予告。

 先生に立ち会い人をやってもらうと、「防具を着けろ」とか「ラウンド制にしろ」とかうるさいから、公園でこそこそやることに!
 でも、この頃になると、そろそろお互い相手が怖い!
 本当は決闘なんてやめて、みんなでカラオケにでも行きたい!
 今までで1番ボコボコになるから、ホント笑って頂けるのか解りません!
 ホントごめんなさい!
 もう2度とお前とはやらねえと、お互いが指を差し合ったトメVSめさ・ラウンド3「もうお前とはやりません」カミングスーン!

 ホント皆様の反応が心配です。
 冒険しようと思ったの。
 ごめんなさい。
 みんなが引いていませんように!

 続く。

拍手[2回]

2009
July 30

 これから始まる3部作は、ぶっちゃけアップするのが怖いです。
 何故なら空手のライバルでもある悪友トメと「将棋でも打とうぜ」的なノリでマジ決闘をしたといった内容だからです。

 昔、サイトでアップしたことがあるのですが、賛否両論。
 女性読者さんの多くはドン引きでした。

 でも、友達が「アップしてくれ」ってたくさん言うからリメイクすることに。

 内容がマジ決闘なだけに、血が出たりします。
 痛々しい描写や暴力シーンのオンパレードです。
 そういうのが苦手な方は、今回のお話は華麗にスルーしてください。
 いやマジでお願いします。
 ちょっと大丈夫であってもスルーしちゃっていいです。

 初めてです。
 読むなって書いたの。
 でもホント痛々しいエピソードですから、今回はお控えください。

 ああもう、ここまで言ってるのにまだ読みますか。
 どうなっても知らないかんね!

 そもそも悪友のトメと俺は高校時代、一緒に空手道部に所属していました。
 現役だった当時は黄金期で、俺達の代からポツポツと大会で表彰されるなどし始め、中でもトメと俺は特に優秀な戦績を残すに至っていました。
 最初から強かったトメ、コツを知って戦闘に目覚めた俺は、同期の主将を簡単に置き去りにし、他校の空手家からも一目置かれるようになっていたのです。

「おうトメ、組手やろうぜ」
「いいよ俺はよ~。だってお前とやると、本気出さねえといけねンだもんよ~」

※発言だけを見ると強そうですが、どっちも8対2の割合でMです。

 そんなトメと俺は「殺すつもりでどつき合う」といった、他ではできないコミュニケーションを定期的に楽しんでいました。
 やり合う度に引き分けるので、いい加減どっちが強いのか白黒つけたいといった物騒な願望もありました。

 トメのパワーが勝つのか、俺のスピードが勝つのか――。
 今回から3部に渡り、彼と俺との格闘の模様を嫌でもお届けしたいと思います。

※何度も言いますが、当シリーズには、グロテスクな描写や暴力シーンが含まれています。

 あれは確か、俺達が20歳の頃でした。

「もしもし、めさ? ちょっとお願いがあるんだけど」

 前触れなく、空手道部顧問のK先生が電話をくれました。

「はい、どうしたんすか?」
「実はもうすぐ文化祭で、また空手の演舞をやることになってんだけど、イマイチね、今の現役が物足りないのよ」

 お!
 と思いました。
 また空手ができる!

 普段はコーチという形で、たまに学校を訪れて練習に励んでいましたけれど、試合をするのは2年振りです。

「そこで悪いとは思うんだけど、めさちょっと、トメと一緒に文化祭に出てくれない? OBが特別参加するって、学校には言っとくから」
「ホントすか! マジモードでやってもいいんですか!?」
「遠慮なくやっちゃいなさい」
「やったー!」

 組手とヌンチャクを披露してほしいと依頼された俺は、「トメには俺から電話しときますよ」と告げて、電話を切りました。

 ちなみに空手とヌンチャクは関係ありません。
 ヌンチャクは少林寺の武器です。
 でも何故か、うちでは演舞させられます。

「卒業以来だなあ、お前とやるのは」

 文化祭当日。
 寝不足の目を擦りながら、俺は運転席のトメに言いました。
 わくわくし過ぎて、一睡もできなかったのです。
 正式な大会ではなく、演舞という形でしたが、俺もトメも考えることは一緒でした。

 今日こそ息の根を止めてやる。

 お互いのイメージの中では、相手がかなり可哀想なことになっています。

「ちっとコンビニ寄ってくわ~」

 トメが車を停めました。

「おう。あ、そうだトメ! ついでに何か栄養ドリンク買ってきて! 眠気覚ましてえ」

 俺はトメに1000円札を手渡しました。

「ほらよ。買ってきたぜ」

 濃密で高価な栄養ドリンクが飲みたかったのに、トメは何故かタフマンを5本も買ってきやがりました。

「なんで質より量なんだよ! テメーも飲め!」

 タフマンの1番安いやつを2人でガブ飲み。

「お! 効いてきた!」

 気のせいを喜びながら、俺達はK高校に向かいました。

 演舞は昼にやる予定でしたが、朝方にも出番があります。
 朝礼代わりに、各出し物を紹介する時間が割り振られていたのです。
 全校生徒の前で、トメと一緒に軽くヌンチャクを振り回して、その後軽く殴り合い――。
 前座を頑張った後輩に対して、「私も突いてー!」とか「強そーう!」などとうるさかったギャルたちをオーラで黙らせました。

「いよいよ本番だなあ」

 何故か後輩まで黙っていましたが、俺もトメも、もうわくわくです。

「おう。めさオメー、死ぬなよ?」
「それ、これから死ぬ奴のセリフじゃねえぞ」

 後輩達が、どっかに行きました。

 空手といっても流派がまちまちです。
 俺達がやっていた空手は、高校生が部活動をするという名目もあって、寸止めが義務づけられていて、さらに事故を未然に防ぐための防具も着用しなければなりません。
 俺とトメは、寸止めも防具も嫌いでした。

 でももう卒業しちゃったし、大会に出ることもないから、怪我をしてもいいのだ。

「それでは、本日のメインイベントです。最後に、特別ゲストである卒業生に立ち会って頂きます!」

 マイクを通してK先生が宣言し、俺とトメは舞台に立ち、観客達に頭を下げました。

「あれ? あんた達、防具は?」

 ナレーションの立場を忘れた先生に、俺達が無言で首を横に振ると、

「血が出るかも知れません」

 師は観客達にフォローを入れてくれました。

「勝負、初め!」

 掛け声と同時に気合いの大声と、殺気を放出する両者。

 俺の心の声は「殺してやるぜ!」
 トメの心の声も「殺してやるぜ!」
 何か恨みでもあるのでしょうか。

 顔が鬼になったり、悪魔になったりしていました。

 試合開始から数十秒後。
 トメがおかしなことをしました。
 バックステップを取り、2人の間合いを広げたのです。

 なんだコイツ?
 その距離は俺の間合いなのに、なんでわざわざ自分から?

 そう思ったのもつかの間、恐ろしく強力な前蹴りが俺の腹部を突き刺し、全てがスローに見えました。
 ゆっくりと、ふわりと自分の体が浮いて、俺は色んなことを同時に考えました。

 奴のバックステップはこの攻撃のためだった。
 トメの前蹴りは、100キロの巨漢もすっ飛ばす威力。
 ってゆうか今、俺がすっ飛んどる。
 たらふくタフマン飲んでたぷたぷしてる腹に、この攻撃はキツい。
 おそらく約4メートルの飛距離を記録するであろう。
 体勢的に、綺麗に着地することは無理。
 倒れた俺が、トメのトドメをよけるのも無理。
 だってトメ、トドメが上手なんだもん。
 今どうにかしなきゃ、死ぬんじゃないでしょうか。

 どうにかしなきゃ!

 空中で、俺は自分の腹に突き刺さったままのトメの足を両手で掴んで持ちこたえ、事無きを得ました。

 でも、この後どうしよう。
 どうしよう、この掴んだ足。

 着地した後、さっきとは違って、今度は何も考えらません。
 関節技を知っていれば、手にした足は迷わず折りにかかるのですが、でもご存知ありません。

 えい。

 他にやりようが思いつかなかったので、取り合えず足は持ち主ごとぶん投げてみました。
 今度はトメが空中にほおり出されます。

※CGは一切使用していません。

 空中のトメにはさすがに隙ができたので、彼が着地をするより先に、今度は俺が回し蹴りを腹に入れます。
 バーカって心の中で言いました。

 タフマンをガブ飲みした後に腹を蹴られると効くんだバーカ!

 トメの咄嗟のガードは、さすがに勢いづいた足の力には敵わなかったらしく、弾かれます。

「やめ! 赤、技有り!」

 生まれて初めて、地面にいない相手から技有りを取りました。
 でも、ポイントの有無は関係ありません。

 俺は心の中で舌打ちをしていました。

 やはりまた互角か。
 どっちも腹部に40ポイント前後のダメージ。

※タフマンの功績も含まれています。

 その後、先生が「やめ!」と言うまで、トメとの本気のどつき合いは続きました。

 演舞が終わり、体育館から道場に戻った空手道部一同は、何故かこっちに近づいてきません。
 俺は口に入っていた砂をぺッと吐き出し、

「いやあ、あの中段蹴りの応酬は良かったなあ」
「お~。なかなか面白かったよ~」
「ドラマチックだったしね!」

 からからと笑い合いました。
 そのとき、砂がもう1つぶ、口に入っていることに気づきます。

 ってゆうか俺、校庭とか通ってないのに、おかしいな。
 どこで砂が入ったんだ?
 あ!
 もしかして!

 俺は口の中から、砂と思われるそれを慎重に取り出しました。

「おい見ろよトメ! 歯だよ歯! 奥歯が欠けてた! あっはっは!」
「マジ!? お、ホントに歯じゃねえかよ~」
「あの時だ、たぶん!」

 俺は拳を頬につけ、トメからの突きを表現しました。

「ああ、あの時かー!」

 と、どこか嬉しそうにトメ。

※従来のルールでは、顔を全力で殴っちゃいけません。

「あっはっは! 奥歯が欠けたの、初めてだー!」
「奥歯ってよ~、簡単に欠けるんだなあ」

 後輩達が、さらに1歩下がりました。

 その場には、俺達よりさらに上のT先輩がいらしていて、そんな現役達を整列させます。

「お前ら、トメとめさの試合の感想を言ってみろ」

 皆は口々に、

「凄い迫力でした」

 他に良かったところはないのでしょうか。

「だろう?」

 とT先輩。

「技がどうとか、ポイントばっかじゃないってことだ。覚えとけ」

 実は、それは俺もトメも、K先生も言いたいことでした。
 先生も暗に、「わざわざOBに足を運んでもらったのは、あんた達に足りないものがあるからよ」と言いたかったのです。
 朝、現役達に、ギャルから愉快ではない声援が贈られました。
 でも悪いのは、何もギャル達だけではありません。

 本番前、準備体操代わりに後輩と組手をやって、彼らを一蹴したトメはこう言いました。

「テクニック凄えなお前ら。殺気がねえけどよ~」

 いくら鍛えて武装しても、実際に戦えないなら意味がないのです。
 本物の戦闘は俺も経験がないけれど、おそらく命懸け。
 審判もいないし、武器だって使うだろうし、スタートの合図だってないし、多勢に無勢ってことだって有り得えます。

 それに比べたら俺達、まだまだ甘いんじゃないかな。

 そんな話を後輩たちにしたような記憶があります。

 防具やルールに甘えるクセをなくしたら、お前らもっと強くなっちゃうぜ。

 ところでお前たち、トメはどうか知らないけど、俺が殺気とマジ攻撃を放つ相手はトメだけだから、そんなに引かないでください。
 お願いだから、気さくに話しかけてください。
 だいたいこの程度で引いてたら、ラウンド2なんて読めないぜ?

 次回予告。

 めさとトメによる、さらに大袈裟な戦闘シーンが嫌でもあなたの前に!
 それで笑う人がいるのか心配だ!
 あと、もっと本格的に格闘技をやっていらっしゃる方は、効率の良い足の折り方を教えてください!
 俺の足が折れかけました!
 理由は次回!
 戦闘終了後に歩けなくなったトメVSめさ・ラウンド2「合宿のついでにいいじゃない」近日大公開!

 このシリーズ、誰にも引かれませんように。

 続く。

拍手[2回]

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プロフィール
HN:
めさ
年齢:
48
性別:
男性
誕生日:
1976/01/11
職業:
悪魔
趣味:
アウトドア、料理、格闘技、文章作成、旅行。
自己紹介:
 画像は、自室の天井に設置されたコタツだ。
 友人よ。
 なんで人の留守中に忍び込んで、コタツの熱くなる部分だけを天井に設置して帰るの?

 俺様は悪魔だ。
 ニコニコ動画などに色んな動画を上げてるぜ。

 基本的に、日記のコメントやメールのお返事はできぬ。
 ざまを見よ!
 本当にごめんなさい。
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