夢見町の史
Let’s どんまい!
January 04
続・永遠の抱擁が始まる 1
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「ねえ、それ、なんの話?」
3人の遺骨と関係のなさそうなことを彼が言い出すものだから、あたしは素直な疑問を口にしていた。
「コールセンターなんて、5000年前はなかったじゃん」
彼はというと、何事もなかったかのように前菜に手を伸ばしている。
「これは屁理屈だけどね」と、彼は前置きを入れた。
「5000年前にコールセンターが無かったなんて証明はされてないじゃないか。もしかしたら、あったかも知れない」
「ホントに屁理屈だ」
「まあね。そもそも僕はさ、何についての話をするとか、まだ何も宣言していないよ?」
「まあ、そうだけど」
何か引っかかる。
彼が遺骨と無関係の話を持ち出すとは思えない。
しかし彼の話には女性が登場していないのだ。
今の物語が、果たして何に結びつくのだろうか。
できれば仲良し親子が抱き合って天国に行くといったような、素敵な終わり方をする話が聞きたい。
それを話してほしい理由が、あたしにはあるのだ。
あたしは攻め方を変えた。
「じゃあ、してよ、宣言」
「そうきたか」
「あの3人のお話をするって、宣言して」
「仕方ないな」
彼はフォークを置くと、そっと口元を拭う。
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<阿修羅のように1>
ぶっきらぼうな印象の馬車乗りに料金を支払い、私は故郷の地に足を降ろす。
埃っぽい風が、私のスカートをはためかせた。
仕事の依頼がなかったら、自らここを訪れることはなかっただろう。
ここには様々な思い出がある。
楽しいこともたくさんあったが、それらを帳消しにするような不幸も、ここで味わった。
「まだ10歳だったなあ」
独り言が自然に出て、私は1人、苦笑する。
懐から手紙を取り出し、差出人の名に目をやると、今回の依頼人は男性であるようだ。
指定された広場へと、私は歩を進めた。
私は様々な物語を数多く覚えていて、それらを大衆に語ることによって生計を立てている。
いわゆる語り部というやつだ。
イベントという形で自ら人を集めて喋ることもあれば、今回のように依頼を受け、出向くこともある。
上手に話すことに関してはまだまだ修行の必要を感じるが、生活出来る程度の収入ならあって、そこそこに名も広がってきている。
女が語り部をやっていることも、片腕が無いことも珍しいのだろう。
同情されるのか、私に定期的に依頼してくれる固定客までいる。
広場に着く。
遊具やベンチが設置されているところを見ると、小さな公園であるようだ。
兄弟らしき小さな子供が2人、ブランコに乗って遊んでいた。
依頼者は、まだ到着していないのだろう。
私はベンチに腰を下ろす。
「お姉ちゃん!」
ブランコに乗っていた子供たちが、私のほうに駆け寄ってきた。
女の子と男の子だ。
6歳と3歳の兄弟といったところか。
姉らしき少女が目を輝かせている。
「お姉ちゃん、お話聞かせてくれる人?」
「え? そうだよ」
この子たちはどうやら依頼人の関係者らしい。
子供と接すると、自然と笑顔になる。
私は兄弟たちに微笑んだ。
「ねえ、お嬢ちゃん。クラークさんは、いつぐらいになったら来るかしら」
「もう来てるよ!」
「え?」
さっと辺りを見渡す。
それらしき人物は、どこにも見当たらなかった。
「どこかしら?」
「ほらここ。クラークだよ。クラークの、クラちゃん」
「え?」
少女は、自分の弟らしき少年を示している。
私は思わず目を見開いた。
「この子が? 手紙は、大人の人が書いたみたいだけど」
「いえ、とんでもない。あの手紙は僕が書きました」
少年から発せられた大人びた口調に驚く。
どう見ても3歳ぐらいなのに、この子があんなしっかりとした文章で、あたしに仕事の依頼を?
「本当に? 君がお手紙で、あたしにお話を頼んでくれたの?」
懐から依頼状を取り出し、クラーク少年に見せる。
「これを、君が書いたの?」
「はい、僕からの依頼です」
「はあ」
最近の子はどうなっているのだろう。
マセているどころのレベルではない。
彼から感じる知性や品格は何事なのだ。
このクラーク少年が本当に依頼状をしたためたのだとしても納得いきそうに思えることが不思議でならない。
「報酬についてはご心配なく。手紙にあった額をきちんとお支払いしますので」
「はあ」
「お姉ちゃん、早くお話して!」
少女が嬉しそうにピョンとジャンプした。
「でも、ちょっと待って」
私はベンチから腰を上げ、2人の前でしゃがむような体勢を取った。
「お金なんだけど、それって、どこから持ってきたの? お父さんやお母さんに貰ったの?」
クラーク少年は、静かに口を開いた。
「僕らには両親がいません」
「あ、そうなの。ごめんね」
「いえ。ちなみに今回用意したお金なんですが」
「うん」
「元々蓄えてあったものです」
「あ、そうですか」
まさか3歳児に敬語を使う日が来るとは思わなかった。
「じゃあ、今日のお客さんは、君たち2人ってことでいいのかな?」
「ええ、そうですね」
「そう! お話してー!」
「そっか」
子供から料金を頂戴することに、なんだか複雑な気分になる。
話し終えたあと、報酬額は半分ぐらいに負けておこう。
「じゃあ、2人ともベンチで座って聞いてね。どんなお話がいい?」
すると依頼者、クラーク少年はわずかに目を伏せる。
「失礼を承知でお願いします」
「はい?」
「あなたが既に知っている物語ではなく、あなたが想像しながら物語を作り、それを聞かせていただけませんか?」
「え?」
どういうことだろう。
そんな依頼は初めてだ。
私は正直、戸惑いを隠せなかった。
「あたしがストーリーを作るの? いや、そういうのはやったことが」
「是非、お願いします。報酬を倍にしてくださっても構いません」
「いや、ちょ、それはいい!」
「お願い、お姉ちゃん!」
少女が泣きそうな顔で横槍を入れた。
「お願いします」
クラーク少年も真剣な眼差しだ。
「解った! 解ったよ!」
私は大袈裟に片手を挙げて、降参の意を示す。
「でも、つまらない話になると思うよ? いいの?」
「構いません」
「構わないんだ…」
なんだか不思議な依頼である。
子供らしい子供から頼まれたなら、それはただの気まぐれによる依頼だと判断できる。
だがこのクラーク少年、何か他に真意がありそうで怖い。
「じゃあ」
あたしはある種の覚悟を決め、改めて2人を前にする。
「どんなお話がいい?」
「無礼や失礼を承知でお願いします。気に障ってしまうとは思うのですが、どうしてもお話していただきたいことが」
「ん?」
クラーク少年は、痛みに耐えるかのような、辛そうな表情を浮かべている。
彼から発せられた次の言葉は、私の頭を一瞬だけ真っ白にした。
「片腕の女性が主人公で、失った腕が蘇るような結末にしてください」
続く。
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