夢見町の史
Let’s どんまい!
January 04
続・永遠の抱擁が始まる 1
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/186/
続・永遠の抱擁が始まる 2
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/187/
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「ちょっと待ってよ」
珍しく、あたしは彼の話を遮っていた。
「あの3人のお話をするって、あんた言ったじゃない」
すると彼は「言ったよ」と、やはり涼しげな顔のままだ。
その平然とした態度が、なんとなく癇に障る。
「だったら」
気づけば、あたしは目の前の紅茶を飲むことさえ忘れている。
「噺家の女の人、なんで腕が片方ないの? 発見された3体の遺骨は、全員腕が2本ずつあるのに」
「まあまあ。今日の君はせっかちだな」
「だってさあ」
あたしは頬を膨らませた。
「最初はいきなり関係の無い話とか始められるし、そんなの聞かされたらさ? あたしだって『ちゃんと話してくれるの?』って不安にもなるよ」
「関係ない話?」
「そう。コールセンターの話とか、いきなり始めたじゃん」
「関係ない話なんて、僕はしてないぞ?」
「え?」
「関係、大いにあるんだ」
「え、ホントに?」
「ホントに」
すると彼は頬杖をついて、「聞いていれば解るさ」と自信に満ちた目をあたしに向ける。
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<エンジェルコール2>
裁判官のおじちゃんは、僕に色んなことを確認してきた。
彼が特にこだわったのが、夢の内容についてだ。
「ロウ君、あれは本当に起こる未来なのか?」
「はい、残念ながら事実でございます」
よほど怖い「世界の終末」を見たのだろう。
「私に見せたあの夢なんだが、誰の視点かね?」
「視点は何度か変わったかと思うのですが」
「うむ、確かに」
「前半は主に、各地で暮らす人々の視点でございますね。後半はより広く被害をご覧いただくため、鳥の目線でお送りさせていただきました」
「君たち天使が私以外の者にこういった大災害の夢を見させた場合なんだが、夢の内容は私と全く同じものになるのかね? それとも、人によって内容は微妙に違ったりするのか?」
ん?
この人、なんでそんなことを気にするんだ?
まあ、いっか。
「夢の内容はですね」
僕は相変わらず丁重に、また余計な疑惑を持たれないように、言葉を選ぶ。
「録画のようなものでございます。どなたがご覧になっても、夢の内容は細部に置いて全く同じ内容、景色でございます」
「そうか…」
僕らは悪魔なんだけど、基本的に嘘をついちゃいけない決まりになっている。
だから16年後に天変地異が起こるっていうのも、魂の調整が取れないっていうのも、本当のことだ。
お客様に夢を利用して見せる「大災害当事の様子」もだから、全くのホント。
そうやってお客様の信用を得ることが第一だって、魔王ラト様は判断してる。
とってもいい営業方針だと、僕も思う。
最初に「天使だ」って名乗っちゃったけど、天使も悪魔も同じ生き物だもん。
人間が勝手に呼び分けてるだけなのね。
だからまあ、苦しいけど僕が天使だってことも、ある意味ホント。
「気になるシーンがあった」
裁判官のおじちゃんは、あくまで夢にこだわってる。
「その人物が誰かなどの詳しい情報が知りたい」
「さようでございますか。ただ、そういった情報の提供でございますと、それは『願いを叶える』の範疇になってしまうんですね。ですので――」
「解った」
「はい?」
「願いとして、君に頼みたい」
「と、いいますと、来世では微生物や虫に生まれ変わってしまっても」
「構わん」
思わぬところで契約取れちゃった。
こんなオッケーの貰い方、初めてだ。
でもラッキー。
お給料アップの予感だ。
「かしこまりました」
僕は浮ついてることを隠し、穏やかな口調をキープする。
「それでは形式的ではありますが、願いのポイントを発行するために、いくつかこちらからご説明させていただきますね」
「うむ」
1つでも納得してもらえなかったら、契約破棄って形になっちゃう。
僕は詰めを誤らないよう、緊張感を高めて色々なことをお話しした。
来世はやっぱり人にしてくれとか、そういった生まれ変わりについてのお願い事はできません、とか。
それと同じように魂を扱う願い事には応じられない場合がございます、とか。
ポイントが配布されたら、使い切る前に死んじゃったとしても、来世は人にはなれませんよ、とか。
タイムワープなどの時間操作や死者を生き返らせることは不可能です、とか。
もちろん「ポイントを増やせ」なんて願い事は論外でございます、とか。
他、細かいこと色々。
「さて、以上でございます。全てご了承いただけましたら、今すぐに願いを叶えるためのポイントを1000点、付与させていただきます」
「解った、了承しよう」
「ありがとうございます。それではですね、願い事ができましたら、わたくしまでお電話いただけますと、なるべく早く叶えさせていただきますので気軽にご連絡ください」
「解った」
「さっそく、先ほどの願いをお叶えになりますか?」
「ああ、頼む」
「先ほどお客様が口にされた願い事は情報収集に該当しますので、その情報の持つ重要度から消費ポイントを計算致します。納得のいかない場合は願いをキャンセルさせていただきますので、ご安心くださいませ」
「解った」
「それでは、知りたい内容を詳しくお聞かせください」
「あの夢では、天変地異の瞬間、抱き合って人生を終える親子らしき3人がいたね。他にも肌が変色する病にかかった若い男女なんてのもいたが」
「はい、おりましたね」
「その親子のほうだ。あの母親の名が知りたい」
「はい、かしこまりました。名前だけでよろしいのですか?」
「ああ、今はな。場合によっては、さらに色々と調べてもらうことになるが」
「もちろん構いません。ちなみにですね、それだけの情報でございますと、1ポイントのみの消費で叶えさせていただきます。よろしいでしょうか?」
「ああ、頼む」
「了解致しました。それでは調査致しますので、少々お待ちください」
挨拶をして、電話を切る。
あの女の人の名前が知りたいなんて、なんでだろ?
ちょっと気になって、僕はモニターに映し出されているお客様の個人情報に改めて目を通す。
奥さんとは死別してて、愛人さんは無し。
妹さんとか娘さんとか、そういう女の人も無し。
親しい女友達も見当たらない。
じゃあ、なんでだろ。
気になるなー。
ま、いっか。
続けて僕は「大破壊の夢」のデータベースに入る。
あの母親の人は、と。
あったあった。
彼女の名前はルイカ、26歳か。
一応このルイカさんの個人情報も目を通したけれど、裁判官のおじちゃんとの接点がなさそうに思える。
僕は再びマイク一体型のヘッドフォンを装着した。
「もしもし? ロウでございます」
「ああ、どうだった?」
「はい。例の女性のお名前が判明致しました。お伝えしますと1ポイント消費されますが、よろしいしょうか?」
「ああ、構わん」
「それではお伝え致します。彼女の名はルイカ、と申します」
「そうか、やはりな」
「お知り合いでございますか?」
好奇心から訊いてみた。
だけどおじちゃんは上の空で、「似ているからもしやと思ったが」とか「ならあの腕は義手か」とか「立派になって」とか、ぶつぶつつぶやいている。
僕は黙って、おじちゃんが現実に戻ってくるのを待った。
「なあ、ロウ君。次の願いなんだが」
「はい、何でございましょう?」
おじちゃんの願いは、僕のオペレーター人生の中で初めてのものだった。
「私の懺悔を聞いてほしい。どれぐらいのポイントが必要かね?」
「懺悔? わたくしに、でございますか?」
「そうだ。どのぐらいかかる?」
意外なことを言い出す人だなあ。
僕は笑顔が伝わるよう、優しく伝える。
「それでは申し上げますね。その願いは、0ポイントでございます」
「本当か」
「ええ、もちろんでございますよ。わたくしでよければ、いくらでもお話しください」
そしたらおじちゃんは、心から言ってるような感じで「ありがとう」って言った。
とんでもございませんと、僕は見られてもいないのに頭を下げる。
僕ら悪魔の本当の目的は、1万ポイントあげる代わりに魂を貰うことだもん。
そのために来世がどうのこうの言って、1000ポイント分の願いを叶えさせ、「願い事が叶う中毒」にしちゃうわけ。
だから親身にもなるよ。
話ぐらいタダで聞いて信用を得たほうが、後々に本当の取り引きに持っていきやすいじゃん。
モニターにはない個人情報も手に入るし、一石二鳥だね。
「恥じらいなどもおありとは思うのですが、わたくしでよろしければ、是非お話しになってください」
僕は再びモニター越しにおじぎをし、にやりと笑む。
続く。
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/189/