夢見町の史
Let’s どんまい!
March 09
今日の現場は、悪友トメと一緒に行った。
やたらデッカイ工場。
そこから出た廃棄物を回収する。
ブツをチラ見すると、どうやら木の台だ。
大きくて、このままではトラックに積めない。
「チェーンソーを持って来てって指示、受けませんでした?」
工場の責任者らしき男性は、何度も何度も「チェーンソーが必要なんで、そう伝えておいたのに」などと心配そうな顔をする。
このおっさんは、なんでそこまでチェーンソーにこだわるんだろう。
俺とトメは一瞬目を合わせ、念で語る。
「お前、チェーンソーのことなんて、誰かから聞いた?」
「いや? 聞いてねえぜ」
心の中で頷き、おっさんに胸を張った。
俺ら一応プロだぜ?
どんなにデカい木台でも、要するにバラバラに解体して積み込めばいいんだろうが。
余計な心配は無用。
あんたは積み込んで欲しいブツがどれなのかだけ、教えてくれればいいさ。
まあ見てろって。
木台の真横にトラックを停める。
作業開始だ。
ターゲットを確認。
最初に、すっごく驚いた。
これって、こんなにデカかったでしたっけ?
それに、なんでここまで頑丈に作ったんですか?
家でも乗せるつもり?
しかも、2つもあるじゃないですか。
いきなり無口にさせられる。
トメと一生懸命、ボルトを開け、釘を抜き、人知を超えた大きなハンマーで木を叩き、ちまちまと解体していく。
たまに責任者が様子を見に来た。
作業は全然はかどっていない。
言おうかどうしようか迷った。
「これ、時間かかりますね。だってチェーンソーがないんだもん」
しかし結局、おっさんの存在には気がつかないフリをした。
おっさんの顔に、こう書いてあったからだ。
「お前らA型? 凄くコマメですよね。おたくの会社では、皆さんそういった原始的な作業をお好みで?」
ちなみに木は、最も太い部分で俺のウエストの3倍ぐらい。
そいつが4メートルの長きに及んでいる。
大自然の脅威。
こんなの、どうやって手で運ぶんですか。
さっき自分で発した心の声を思い出す。
「まあ見てろって」
やっぱり、あんまり見なられたくない。
「さっきっから俺ら、スーパー地球人になってるっていうのに…」
「コアを完全に破壊しねえと駄目だ」
悪友と冗談を言い合うしかなかった。
可能な限りボルトや釘を外し、分解しても限度がある。
1番デカいパーツだけは、切断しないとお持ち帰りできない。
トメは素晴らしいスピードでさっそく諦め、会社に電話した。
「1日じゃ終わンねえよ~」
ついでに電動のノコギリを届けてもらえるよう、要請している。
でも会社にある電ノコは、刃が円形だ。
これでは刃が、向こう側まで達しない。
それほどまでに、木は太い。
待てよ!?
思い出した。
確か作業員のFさんが、小型のチェーンソーをどこかに仕舞っていなかったか!?
「トメ、届けてくれる人に言ってくれ! 出る前に、Fさんに声をかけるように! チェーンソー、あるかも!」
届いたチェーンソーは、やっと引き抜けた伝説の剣に見えた。
スイッチを入れる。
最終兵器始動!
ウイーン!
これでも喰らえ!
がりがりがりがり。
「どう、切れそう?」
「うん。なんかね、ハワイがちょっとずつ日本に近づいてくる感じに似てる」
刃がボロッボロだった。
最終兵器は、木に細かい傷をつけただけに終わった。
工場の責任者が再び、様子を見にやってくる。
その表情が、ちょっぴり輝いた。
「お! やっとチェーンソー使う気になりましたか。今更遅い気もしますが、まあ頑張って文明に追いついて下さい」
そういう目だった。
しかし何を考えているのか、俺とトメはチェーンソーに触れようともしない。
丸ノコで切り目を入れ、手に持つ普通のノコギリでこつこつとダメージを追加。
最後にハンマーでトドメを刺した。
それを見ていたおっさんは、「君達、何時代から来たの?」とテレパシーを送ってくる。
ばか!
このチェーンソーは誰よりも優しいんだ!
こいつはもう、何も傷つけたくないんだよォ!
ほっといて下さい。
結局、そのまま閉館時間となる。
半端な形でお仕事は終了。
帰り道。
トメが俺に見せたのは、ちっちゃいスパナだった。
「Fさんがよ~、『これは大事だから、絶対に失くすな』だってよ~」
コレがどう大事なの?
「チェーンソーのカバーがたまに外れかけて、ガタガタいうんだってよ~。その時は、このスパナで直せってさ~」
他に直すべき箇所があるだろうが!
刃をどうにかしろよ!
なにカバーって!?
ってゆうか次、あの現場に行く人が心配だ。
ちゃんとチェーンソーとスパナ、渡しておかなくちゃ。