夢見町の史
Let’s どんまい!
2009
March 02
March 02
年頃の女の子が思いっきり歯を食い縛り、尋常ではない形相で顔を天井に向けている。
出産?
みたいな勢いだ。
そのような画像が、俺のケータイにも大切に保管されている。
職場のスナック「スマイル」で、お客さんによって撮影されたものだ。
その晩は誰もが酔っ払っていた。
従業員たちももちろんそうで、俺がHちゃんに対して何かしらの軽口を叩いたんだったと思う。
そこの記憶は曖昧だが、きっと「お前の前世は戦国武将」とでも言ったのだろう。
フロアレディのHちゃんは激昂し、俺に物理的に襲いかかってきた。
殺されると判断し、俺はシリアスな顔になって悲鳴を上げ、大真面目に逃げ出す。
カンフー映画の如くテーブルを飛び越えたところで捕まり、このザマだ。
Hちゃんの腕が俺の喉に回され、そのまま締め上げられる。
チョークスリーパーは腕が細いほうが有利なのだ。
血管など色々と塞がれ、意識が遠くなる。
「マジごめんなさいマジごめんなさい!」
叫びながらタップするのだが、力が緩まる気配がまるでない。
「マジ無理マジ無理! 死ぬ死ぬ! ホントやめてホントやめて!」
しかしHちゃんは無情で、お客さんに「カウント取って!」と指示を出す。
カウントも何も、俺はとっくにギブアップしてるのに。
ちなみにカウントを頼まれたお客さんは、はしゃぐ孫でも見るかのように微笑んでケータイを取り出し、カメラを起動させている。
カウントが進まないものだから、Hちゃんは攻撃の手を緩めない。
俺の顔色が見る見るうちに青ざめてゆく。
「この感覚は死!」
今までの思い出が走馬灯のように巡り出す。
Hちゃんは仕方なく、自分でカウントをし始めた。
俺の降参宣言は受け入れない方針らしい。
「ワーン! ツー! スリー! うおりゃあ!」
フォーの代わりに気合いを入れ直すHちゃん。
いい感じに魂が抜け始める俺。
とてもスナックの光景とは思えない。
Hちゃんもしこたま飲んでいたために、早くも記憶が抜けているようだ。
再び「ワーン!」とカウントをリセットし、始めから数え直している。
人の命を何だと思っているのだろうか。
しかもスリーから先に絶対に進まない。
10までの道のりは果てしなく長い。
結局、Hちゃんが疲れるまでずっと俺は首を絞められ続け、終わる頃になると俺は屍と化して動けないでいた。
Hちゃんが勇ましく両手でガッツポーズを取る。
お客さんのケータイには、きっとそのときの画像も残っているに違いない。
続けてHちゃんは、お客さんに怒り出す。
「カウント取れっつってんの! 写メ撮ってどうすんスか!」
幽体離脱の状態で、俺はその声を遠くから聞いていた。
後日。
Hちゃんは不思議そうな面持ちで、自分のケータイを俺に見せてくる。
そこには冒頭にあったような構図の、めちゃめちゃ力んでいる彼女の顔が大きく映し出されている。
苦しんでいる俺はというと、画面の外にいて映ってはいない。
言うに事欠いて、彼女は被害者に対して次のような疑問を投げかける。
「こないだお客さんからこんな画像が送られてきたんですけど、なんであたし、こんな顔になってんスか?」
信じられない。
なんでピンポイントで俺に訊ねてくるのだ。
明らかに殺人未遂だったのだから、忘れないでいただきたい。
「このときあたし、何してんスか?」
俺にチョークスリーパーをかけていた。
この表情からして、よほどマジだったんだね。
何度タップしても外してくれなかったし。
「あたしが!? めささんに!? なんで!?」
脳に行くはずだった血液を止められたせいで覚えてない。
「あっはっはっは! あたしかー!」
Hちゃんは、それはそれは楽しそうに大笑いしておいでだった。
追記・この日記を書くにあたって、俺はHちゃんの留守番電話にメッセージを残し、断りを入れておいた。
その内容が日常的には珍しいものだったので、記念に記しておくことにする。
「Hちゃん、おはようございます。めさです。チョークスリーパーの件なんだけど、日記に書かせていただきます。じゃねー」
チョークスリーパーの件て!
出産?
みたいな勢いだ。
そのような画像が、俺のケータイにも大切に保管されている。
職場のスナック「スマイル」で、お客さんによって撮影されたものだ。
その晩は誰もが酔っ払っていた。
従業員たちももちろんそうで、俺がHちゃんに対して何かしらの軽口を叩いたんだったと思う。
そこの記憶は曖昧だが、きっと「お前の前世は戦国武将」とでも言ったのだろう。
フロアレディのHちゃんは激昂し、俺に物理的に襲いかかってきた。
殺されると判断し、俺はシリアスな顔になって悲鳴を上げ、大真面目に逃げ出す。
カンフー映画の如くテーブルを飛び越えたところで捕まり、このザマだ。
Hちゃんの腕が俺の喉に回され、そのまま締め上げられる。
チョークスリーパーは腕が細いほうが有利なのだ。
血管など色々と塞がれ、意識が遠くなる。
「マジごめんなさいマジごめんなさい!」
叫びながらタップするのだが、力が緩まる気配がまるでない。
「マジ無理マジ無理! 死ぬ死ぬ! ホントやめてホントやめて!」
しかしHちゃんは無情で、お客さんに「カウント取って!」と指示を出す。
カウントも何も、俺はとっくにギブアップしてるのに。
ちなみにカウントを頼まれたお客さんは、はしゃぐ孫でも見るかのように微笑んでケータイを取り出し、カメラを起動させている。
カウントが進まないものだから、Hちゃんは攻撃の手を緩めない。
俺の顔色が見る見るうちに青ざめてゆく。
「この感覚は死!」
今までの思い出が走馬灯のように巡り出す。
Hちゃんは仕方なく、自分でカウントをし始めた。
俺の降参宣言は受け入れない方針らしい。
「ワーン! ツー! スリー! うおりゃあ!」
フォーの代わりに気合いを入れ直すHちゃん。
いい感じに魂が抜け始める俺。
とてもスナックの光景とは思えない。
Hちゃんもしこたま飲んでいたために、早くも記憶が抜けているようだ。
再び「ワーン!」とカウントをリセットし、始めから数え直している。
人の命を何だと思っているのだろうか。
しかもスリーから先に絶対に進まない。
10までの道のりは果てしなく長い。
結局、Hちゃんが疲れるまでずっと俺は首を絞められ続け、終わる頃になると俺は屍と化して動けないでいた。
Hちゃんが勇ましく両手でガッツポーズを取る。
お客さんのケータイには、きっとそのときの画像も残っているに違いない。
続けてHちゃんは、お客さんに怒り出す。
「カウント取れっつってんの! 写メ撮ってどうすんスか!」
幽体離脱の状態で、俺はその声を遠くから聞いていた。
後日。
Hちゃんは不思議そうな面持ちで、自分のケータイを俺に見せてくる。
そこには冒頭にあったような構図の、めちゃめちゃ力んでいる彼女の顔が大きく映し出されている。
苦しんでいる俺はというと、画面の外にいて映ってはいない。
言うに事欠いて、彼女は被害者に対して次のような疑問を投げかける。
「こないだお客さんからこんな画像が送られてきたんですけど、なんであたし、こんな顔になってんスか?」
信じられない。
なんでピンポイントで俺に訊ねてくるのだ。
明らかに殺人未遂だったのだから、忘れないでいただきたい。
「このときあたし、何してんスか?」
俺にチョークスリーパーをかけていた。
この表情からして、よほどマジだったんだね。
何度タップしても外してくれなかったし。
「あたしが!? めささんに!? なんで!?」
脳に行くはずだった血液を止められたせいで覚えてない。
「あっはっはっは! あたしかー!」
Hちゃんは、それはそれは楽しそうに大笑いしておいでだった。
追記・この日記を書くにあたって、俺はHちゃんの留守番電話にメッセージを残し、断りを入れておいた。
その内容が日常的には珍しいものだったので、記念に記しておくことにする。
「Hちゃん、おはようございます。めさです。チョークスリーパーの件なんだけど、日記に書かせていただきます。じゃねー」
チョークスリーパーの件て!
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