夢見町の史
Let’s どんまい!
2009
March 07
March 07
あの電話さえなければ、こんなことにはならなかった。
2009年元旦。
俺はお世話になっている飲み屋さんのママとマスターから挨拶を受けていた。
律儀なことに、わざわざ電話をかけてきてくれたのだ。
「めさ君、今年もよろしくね」
「いえいえ、こちらこそですよ」
そのような他愛のないやり取りをしていると、ママさんが意外なことを言い出す。
「チーフが何か考えてるみたいだよ? だから近々またねー。チーフとサプライズやるから」
記憶違いでなければ、そのようなセリフだったと思う。
チーフが俺にサプライズ?
言われてみればもうすぐ俺の誕生日だ。
チーフというのは男友達で、考えてみれば以前「誰かにサプライズをやったことはあるけど、されたことはない」なんて話をしたことがある。
間違いない。
チーフは俺のために、バースデイサプライズを企画しているのだ。
カレンダーを見ると誕生日当日は俺が休みの日だし、絶対そうに決まっている。
ママさんはなんだか嬉しそうな声だ。
「だからめさ君、また今度ね」
「え、あ、はい」
サプライズをやるだなんてこと、俺に言ったら駄目じゃないか?
全くママさんは天然でいらっしゃる。
なんて浮かれたことを思いつつ、通話を終える。
電話を置くと、俺は誕生日当日のことを想像し始めていた。
結果から先にいえば、このときから俺は勘違いをしている。
誰も俺にサプライズなんて用意していなかったのである。
ママさんが何故「サプライズ」なんて言ったのかは未だに解らないが、少なくとも俺の誕生日とは全く関係のないことだったのだろう。
そんなことも露知らず、俺はノリノリで心の準備をしていないフリをするために、心の準備を始めていた。
「えー!? なんでみんな集まってるのー! うっそ! 俺の誕生日!? もー! やめてよー! 俺そういうのホント弱いんだからー!」
弱いのはお前の頭である。
それでも俺は大真面目で、当日の様子を何度も何度も試行錯誤し、シミュレーションを重ねていった。
主役が驚いてあげなくては、せっかくのサプライズが台無しになってしまう。
実は最初からサプライズの計画なんてないわけだから台無し以下なんだけど、この時点ではそんなこと知らない。
俺は演技が下手だから、何も知らないフリを完璧にできるように練習しておかなくちゃ。
それでみんなから「生まれてくれてありがとう」的なことを言ってもらって、俺は俺で「今までで最高の誕生日です」とか言ってわざと泣くのだ。
それぐらい喜んでやれば来年からも祝ってもらえるであろう。
2009年のめさは、腹黒キャラでいかせていただく。
「えええええ!?」って大きく驚くのと、びっくりしすぎて固まってしまうのと、どっちのほうが真に迫っているだろうか。
そのような計算を本気でしながら、1日1日が過ぎていく。
友達からの電話でも、俺の痛々しさは絶好調だ。
「もしもし、めさ? 11日にさ、そっちに2人で遊び行ってもいい?」
「あ、その日はね、俺は大丈夫なんだけど、もしかしたらチーフから呼び出し喰らうかも知れないんだ。そうなった場合、近所の飲み屋さんに行くことになるんだけど、それでもいい?」
「いいよー」
「いやね、実はチーフが俺にサプライズを企画してくれてるみたいでさあ」
可哀想にもほどがある。
存在しない企画を楽しみにしすぎだ。
しかもバースデイ当日、なかなか呼び出しの連絡がないために、俺は自分からチーフにメールまで送っているのである。
「チーフ、今夜は何してるの?」
チーフからの返信は驚くべきことに、たったの2文字だった。
「夜勤」
これ以上のサプライズが他にあるだろうか。
本当にびっくりした。
33歳になった日、俺は静かに泣き寝入る。
2009年元旦。
俺はお世話になっている飲み屋さんのママとマスターから挨拶を受けていた。
律儀なことに、わざわざ電話をかけてきてくれたのだ。
「めさ君、今年もよろしくね」
「いえいえ、こちらこそですよ」
そのような他愛のないやり取りをしていると、ママさんが意外なことを言い出す。
「チーフが何か考えてるみたいだよ? だから近々またねー。チーフとサプライズやるから」
記憶違いでなければ、そのようなセリフだったと思う。
チーフが俺にサプライズ?
言われてみればもうすぐ俺の誕生日だ。
チーフというのは男友達で、考えてみれば以前「誰かにサプライズをやったことはあるけど、されたことはない」なんて話をしたことがある。
間違いない。
チーフは俺のために、バースデイサプライズを企画しているのだ。
カレンダーを見ると誕生日当日は俺が休みの日だし、絶対そうに決まっている。
ママさんはなんだか嬉しそうな声だ。
「だからめさ君、また今度ね」
「え、あ、はい」
サプライズをやるだなんてこと、俺に言ったら駄目じゃないか?
全くママさんは天然でいらっしゃる。
なんて浮かれたことを思いつつ、通話を終える。
電話を置くと、俺は誕生日当日のことを想像し始めていた。
結果から先にいえば、このときから俺は勘違いをしている。
誰も俺にサプライズなんて用意していなかったのである。
ママさんが何故「サプライズ」なんて言ったのかは未だに解らないが、少なくとも俺の誕生日とは全く関係のないことだったのだろう。
そんなことも露知らず、俺はノリノリで心の準備をしていないフリをするために、心の準備を始めていた。
「えー!? なんでみんな集まってるのー! うっそ! 俺の誕生日!? もー! やめてよー! 俺そういうのホント弱いんだからー!」
弱いのはお前の頭である。
それでも俺は大真面目で、当日の様子を何度も何度も試行錯誤し、シミュレーションを重ねていった。
主役が驚いてあげなくては、せっかくのサプライズが台無しになってしまう。
実は最初からサプライズの計画なんてないわけだから台無し以下なんだけど、この時点ではそんなこと知らない。
俺は演技が下手だから、何も知らないフリを完璧にできるように練習しておかなくちゃ。
それでみんなから「生まれてくれてありがとう」的なことを言ってもらって、俺は俺で「今までで最高の誕生日です」とか言ってわざと泣くのだ。
それぐらい喜んでやれば来年からも祝ってもらえるであろう。
2009年のめさは、腹黒キャラでいかせていただく。
「えええええ!?」って大きく驚くのと、びっくりしすぎて固まってしまうのと、どっちのほうが真に迫っているだろうか。
そのような計算を本気でしながら、1日1日が過ぎていく。
友達からの電話でも、俺の痛々しさは絶好調だ。
「もしもし、めさ? 11日にさ、そっちに2人で遊び行ってもいい?」
「あ、その日はね、俺は大丈夫なんだけど、もしかしたらチーフから呼び出し喰らうかも知れないんだ。そうなった場合、近所の飲み屋さんに行くことになるんだけど、それでもいい?」
「いいよー」
「いやね、実はチーフが俺にサプライズを企画してくれてるみたいでさあ」
可哀想にもほどがある。
存在しない企画を楽しみにしすぎだ。
しかもバースデイ当日、なかなか呼び出しの連絡がないために、俺は自分からチーフにメールまで送っているのである。
「チーフ、今夜は何してるの?」
チーフからの返信は驚くべきことに、たったの2文字だった。
「夜勤」
これ以上のサプライズが他にあるだろうか。
本当にびっくりした。
33歳になった日、俺は静かに泣き寝入る。
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