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夢見町の史

Let’s どんまい!

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2009
January 08

 続・永遠の抱擁が始まる 1
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/186/

 続・永遠の抱擁が始まる 2
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/187/

 続・永遠の抱擁が始まる 3
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/188/

 続・永遠の抱擁が始まる 4
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/189/

--------------------------------

 小出しに運ばれてくるいくつもの料理に舌鼓を打つ。

 キャンドルに灯った小さな炎がわずかになびき、それがあたしには喜びに震えているように見えた。
 このような錯覚を起こすあたり、自分は単純なのだろう。

「展開からしてさ」

 テーブルの上に指を組んで、あたしはそこに顎を乗せる。

「まだ続くんでしょ? その話」

 ワインで少し頬を赤くしながら、彼は頷く。

「もちろん」

 キャンドルの炎が、また小さく揺れる。

--------------------------------

<エンジェルコール3>

 裁判官のおじちゃんは、懺悔すると宣言しておきながら、なかなか最初の一言を切り出そうとしない。
 お客様が話しやすくするために、僕からフォローを入れなきゃ駄目みたいだ。

 僕は微笑みかけるように問う。

「お客様のようなお仕事の場合、一般的には珍しいケースに遭遇することもおありではございませんか?」
「ああ、まあ、そうかも知れないな」

 何でもいいから喋らせれば、人間はいつの間にか饒舌になってゆく。
 僕はその習性を利用するために、わざとどうでもいい話題を口にさせる。

「例えば、どのような?」
「ロウ君は、私のことを見守っていたのではないのかね?」
「見守るといっても期間がございましたし、お客様のプライバシーに関わりそうなことには触れぬよう注意しておりました」
「そうか」
「ですので、お客様がどのような体験をなさったのか、全てを知っているわけではないんですね」
「まあ、そうだろうな。すまん」
「いえいえ、とんでもございません」

 僕は再びモニターに向かって頭を下げた。

 裁判官のおじちゃん曰く、ほとんどの公判は「どちらか一方が悪い」っていう事件は少ないらしい。
 だいたいは揉めてる両方に何かしら、それぞれの非があるんだって。
 なんだけど例外もたまにあって、おじちゃんの印象に残っているのは、ある小学校の土地の権利を争った裁判だって言ってた。

「あれは楽だったな」
「と、申しますと?」
「被告も原告も、どちらも嘘を言わないんだ」
「ほう。それはまた何故でございましょう?」
「解らん。学校を守るための訴えを起こした教師側が正直なのは解るが、何故だか不正行為を犯していた土地貸しまで嘘を言わない。嘘をついたとしても、自ら『嘘だけど』と口を滑らせてしまうんだな。もちろん学校側の大勝利で幕を閉じた」
「それは審議が楽でございましたでしょうね」
「皆、ああだったらいいんだがな」

 おじちゃんは少し苦笑した。
 いつも苦労してるんだろう。

 僕は再び、優しげな声を出す。

「懺悔の内容というのも、やはりお仕事に関することでございますか?」
「関係なくはないが、話はもっと前まで遡る」
「さようでございますか」
「ああ。私が妻と死別しているのは知っているかね?」

 ええ、存じております。
 って応えたら、おじちゃんは声のトーンを暗くした。

「妻は、重い病にかかっていた」

 あえて相槌を打たず、僕は黙って続きを待つ。

「脳にまで影響があったんだろうな。末期になると、実際には無い記憶を持つようになっていった。錯乱状態というべきか」
「実際には無い記憶、といいますと?」
「自分の鼻の穴は10個以上あったはずだとか、まえからあった家よりも巨大な剣士の像が無くなっているとか、それはまあ色々と騒いでいたよ」
「それはご苦労なさったことでしょう」
「いやなに。ただ、最も厄介だったのが『幼い娘がいる』という記憶だった」
「お嬢様が?」
「いや、うちは子宝に恵まれなくてな。娘なんて最初から居ないんだ」
「ええ、さようでございますよね」
「その記憶だけはなかなか消えてくれない」
「と、なりますと」
「ああ。毎日のように妻は『娘はどこだ』と探し出そうとするんだ。最初から存在していない娘をな」

 そんな折り、おじちゃん夫妻は病院で、栗毛の綺麗な女の子と出逢ったんだって。
 女の子は予防接種か何かで病院にいたみたい。
 奥さんは、その女の子を「私の子だ」って思い込んじゃって、大変だったらしい。

「よその子に、妻は泣きながら抱きつくんだ。自分で名付けたであろう架空の娘の名前を叫んでな」

 あれは奇跡のような子供だったって、おじちゃんは言う。

「その子は妻の様子と、慌てている私の顔を見て、何かを察してくれたんだと思う」

 女の子は、おじちゃんの奥さんに「心配かけてごめんね、お母さん」って、確かに言ったんだって。

「賢いのか、妻の迫力のような気配に流されたのかは解らないが、まだ小さな女の子が、妻に対して『お母さん』と」

 それがどれだけ私と妻を救ったのか計り知れない。
 って、半分泣き声でおじちゃんは言った。

「女の子がしてくれたのは、それだけじゃない」
「ほほう」
「既に入院状態だった妻に、毎日逢いに来てくれた。妻は嬉しそうに、その子に本を読んで聞かせていたよ」
「それはまた、心が洗われるようなお子様でございますね」
「全くだ。結局その子は、妻を看取ってまでくれた。私と一緒に涙まで流してくれたよ」

 で、それから数年後。
 つまり最近のことだ。
 ある事故が起きちゃったらしい。
 どっかの大富豪が乗っていた大型の馬車が暴走して、通行人に突っ込んでしまったんだって。

「大通りでのことだったから、被害者は大勢いてね。裁判は長引くことが予想された。なんせ大事故だ。富豪は腕のいい弁護士を雇い、慰謝料を抑えようとする。『不可抗力の事故』として処理しようとするわけだ。被害を受けた側は、仕方なかったでは納得できない」
「そういうものでございましょうね」
「被害者のリストを見て、私は愕然としたよ」
「あ、まさか」
「ああ。妻が娘と信じた、あの子の名があった」

 あの子は両親も兄弟も、右腕も失っていたよ。
 おじちゃんは沈んだ調子で、そう言った。

「その裁判は、まだ続いているのでございますか?」
「いや、先日、終えた」
「結果は…」
「私は、法を守る立場にある。いかなる理由があろうとも、個人的な判断による判決は出せない」

 事故の原因になったお金持ちは結局、慰謝料を最低限に抑えることに成功しちゃったみたい。

「女の子は、もう10歳になっていた」
「お逢いには、なられたんですか?」
「1度だけ、本人確認の意味もあって見舞いにな。確かにあの子だった。最も昏睡状態で話は出来なかったが」

 そこで突然、変な音が耳元で鳴った。
 ヘッドフォンが壊れたのか、通信障害でも起きたのかって思っちゃったけど、それはおじちゃんの泣き声だったんだ。

「私と妻の心を救った恩人に、私は何もしてやれなかった!」

 猛獣が吠えるみたいな大泣きだ。
 ここまで涙を流す成体なんて、初めて。

「ロウ君、お願いだ。あの子を救ってほしい」
「かしこまりました。わたくしにお任せください」

 よーし、魂ゲットのチャンスだ。
 ここは精一杯恩を売るぞ。

 僕は内心、両拳を天に突き立てる。

「今後のためにお客様のポイントを最小限に抑えつつ、その子が救われるような手はずを整えましょう」
「あの子の家族は、生き返らせられないんだったな」
「はい、残念ながら。腕の再生に関しましても、凄まじいエネルギーを必要とします。とても1000ポイントでは足りません」
「ではせめて、あの子から苦痛を取り除いてやってくれないか?」
「かしこまりました。ただ精神的な苦痛を取り除いてしまいますと、今後少女が冷たい人間に育ってしまう可能性がございます。ですので今回は、一時的に肉体的な痛みのみを取り除きましょう」
「しかし彼女はまだ10歳だぞ? 家族を失った精神的ダメージに耐えられないのではないか?」
「そこもお任せください。傷が完治した後、少女はすぐに施設に送られると思うのですが」
「ああ、そうなるだろうな。私が引き取っても構わないんだが、家族愛で癒してやることが私1人では難しいと思うんだ。正直、どこで暮らすことが少女にとって幸せなのか、悩んでいる」
「さようでございますよね。では、こうしてはいかがでしょう? わたくしがすぐ、少女が暮らすに適した環境を捜索致します。基準は、『少女の将来性を高めること』と『少女が幸福感を得られること』を前提と致します」
「うむ」
「もちろん、お客様のご自宅も選択肢の中に含んだ上で、彼女にとっての1番を探させていただきますのでご安心ください」
「そうか、すまん」
「とんでもございません。ただですね? お客様のご自宅が選考から漏れてしまった場合は」
「解っている。了承しよう」
「ありがとうございます」

 それではすぐに理想的な施設を探し出し、そこに入れるよう手配させていただきます。
 おじちゃんにそう伝えると、彼はまた泣いた。

 もう大人なのに、よく泣く人だなあ。
 でも、なんかいい人だな。

「ありがとう、ロウ君。本当にありがとう」
「いえ、そんな、とんでもございません!」

 見えてないのに、慌てておじぎをして返す。

 ありがとうってたくさん言われちゃった。
 いいことすると、なんか気持ちいいなあ。

 僕はちょっとだけ、ほっこりした気分になった。

 おじちゃんはというと、懺悔も済んでスッキリしたんだろうね。
 さっきとは全く逆で、ご機嫌な声色になっている。

「ロウ君。次の願いなんだが、今決めたよ」
「今、でございますか? 慎重になったほうがよろしいですよ?」
「ああ。慎重だし、冷静だとも」

 続けておじちゃんは願い事を言う。
 それを聞いて、僕は思わず「ええ!?」って大きな声を出しちゃっていた。

 ヘッドフォンをしたまま、改めて広大なオフィスを見渡す。
 数え切れないぐらい、もの凄い数の悪魔たちがお仕事してる。

 周りの仕事仲間たちに聞こえないよう、おじちゃんには忠告を何度も残した。
 でも、意思は固いみたい。
 僕はペコペコとおじぎをしながら回線を切る。

 これだけいるオペレーターの中でも、きっと僕が初めてだろう。
 当コールセンター史上初の願い事を、おじちゃんは次に叶えようとしている。

 続く。
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/191/

拍手[5回]

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ハッピーバースデイ♪
 厄払いを兼ねた初詣で10年ぐらい愛用していたペンダントを落とし、おみくじで凶を引き、正月早々自転車を盗まれたのに、初夢は富士山ってどういうこと?
 めさです。
 皆さん、おはようございます。

 さて、いつものように、遅れがちではありますがお祝いさせていただきますよー!

1/4 ジン、誕生日おめでとう!

1/4 じゅんさん、誕生日おめでとうございます!

1/4 チャリンコ三郎さん

1/6 なほみさん、誕生日おめでとうございます!

1/6 てぃてぃさん、誕生日おめでとうございます!

1/7 ゆうぞうさん、誕生日おめでとうございます!

 明けましてめでたく、誕生日もおめでたい。
 良いことはたくさん続いたほうが良いですね。
 この1年も、素晴らしい思い出がたくさんできますように。
 皆さん、お誕生日、本当におめでとうございます!

 占い師さんによると運気は今年から回復するんだとか。
 マジかスゲー!
 やったー!

 生きる希望が簡単に湧き上がる、めさでした。
めさ: URL 2009.01/08(Thu) 23:09 Edit
続き…
めっちゃ気になる!!前の永遠の…とリンクしてたりするとなんか嬉しいですね。

早く更新待ってまーす。

ちなみに自分のおみくじは相棒と一緒に『大吉』でした(笑)
nufan: 2009.01/08(Thu) 23:27 Edit
感想
毎回楽しく読ませていただいてます。
続きがとても楽しみです。
takeuma: 2009.01/09(Fri) 14:15 Edit
無題
ぐおぉおぉぉぉおっ!!何て所で話が・・・!!

と読み終えた後に叫んでしまい、うちの犬が逃げてしまいました(笑)
初めまして。
続き、凄く楽しみにしています☆
アゴ割れ: 2009.01/09(Fri) 22:08 Edit
無題
めささんの書くお話はプロの方が書くお話より大好きです!
続き楽しみですっ
: 2009.01/10(Sat) 00:57 Edit
無題
所々前作とリンクしているのがいいですね~(^_^)
続きが楽しみです。


どうでもいい話ですが、ロウェイの容姿を想像すると「からくり」の鳴海が出て来ます。
めささんは誰かわかるかな?
おっくん: 2009.01/10(Sat) 14:27 Edit
無題
続きがとても気になりますね…!
いつも構成力に感動します^^

あ、めささん、
タイトル、No.184が2つになってますよ^^;
たいしょう: 2009.01/10(Sat) 20:09 Edit
場違いですが…
めささん!誕生日おめでとうございます!

今年1年、体に気を付けて元気に過ごしてくださいね.*

では、また(^^)ノシ
hiromi: 2009.01/11(Sun) 09:46 Edit
!!
なんつうとこで切るんですかー!
そのめささんテクニック…惚れてまうやろー!!


続き、楽しみです。ぜひ書籍化してほしいですー
パンコロ: 2009.01/11(Sun) 10:30 Edit
お誕生日おめでとうございます☆
今年がめささんにとって良い年になりますように。。。

続きがいつ出るのかと毎日やきもきしてます!!
赤猫: 2009.01/11(Sun) 12:40 Edit
ハッピーバースデイ!
誕生日おめでとうございます!
年始で起こった悪い出来事は、今年分の不幸を全て凝縮したものだと思いましょう(笑)
これからは良い運が巡ってきますように☆
そしてめささんにとって
素敵な1年になることを祈ってます。

小説楽しみにしてますね!
: 2009.01/11(Sun) 14:32 Edit
お誕生日おめでとうございます
めささん、生まれてきてくれてありがとうございます(>ω<*)
めささんは、私の価値観を変えてくれた尊敬すべき方です(´ω`*)
そんなめささんにとって今年も素晴らしい一年になりますように(-人-*)
スズチ: 2009.01/11(Sun) 17:20 Edit
HAPPY BIRTHDAY☆

おめでとうございます(^^)
めささんの2009年は
右肩あがりでよくなってきますよ~
寒いけどお体に気をつけてください

あたしはセンターまであと1週間…
がんばります(@>ω<)ノ★゛
ゆりえ: 2009.01/11(Sun) 21:20 Edit
HAPPY BIRTHDAY!!
 少し遅れてしまいましたが、お誕生日おめでとうございます。この一年がめささんにとって実り多いものとなりますように。
遊星: 2009.01/12(Mon) 07:13 Edit
ハッピーバースデイ!
遅ればせながら、誕生日おめでとうございます。

厄なんかぶっ飛ばして、ずっと元気でいてくださいませ。
そんでもって世界を笑わせまくってください。
ぜん: 2009.01/12(Mon) 07:39 Edit
無題
遅くなりましたが、お誕生日おめでとうございます
今年もめささんにとって良い一年となりますよう
ダミアン: 2009.01/12(Mon) 08:47 Edit
無題
めさ様お誕生日おめでとうございます今年もめさ様の生活にネタが降り掛かるように祈っております
ちなみに、女装した強盗が捕まったニュースがありましたが…
たか: 2009.01/12(Mon) 09:43 Edit
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プロフィール
HN:
めさ
年齢:
48
性別:
男性
誕生日:
1976/01/11
職業:
悪魔
趣味:
アウトドア、料理、格闘技、文章作成、旅行。
自己紹介:
 画像は、自室の天井に設置されたコタツだ。
 友人よ。
 なんで人の留守中に忍び込んで、コタツの熱くなる部分だけを天井に設置して帰るの?

 俺様は悪魔だ。
 ニコニコ動画などに色んな動画を上げてるぜ。

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 ざまを見よ!
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