夢見町の史
Let’s どんまい!
January 16
続・永遠の抱擁が始まる 1
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続・永遠の抱擁が始まる 2
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続・永遠の抱擁が始まる 3
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続・永遠の抱擁が始まる 4
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続・永遠の抱擁が始まる 5
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続・永遠の抱擁が始まる 6
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続・永遠の抱擁が始まる 7
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続・永遠の抱擁が始まる 8
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<エンジェルコール・ラスト>
ぶっちゃけ僕は、裁判官のおじちゃんよりも、地球上の誰よりも長く生きている。
僕は霊的な存在で、肉体なんて無いわけだから、そもそも寿命なんてものがないんだ。
人間が思う「生きる死ぬ」とはまた違った概念になるんだろうけど、とにかく僕はかなり長いこと生きてきた。
その超長い人生の中で、ここまでびっくりしたのはさすがに初めてだ。
「ありえないよう!」
モニターに向かって思わず泣き叫びそうになっちゃった。
画面には、とんでもない事実が映し出されている。
おじちゃんから頼まれた調べ物をすればするほど、今度は僕個人の疑問が湧いちゃって、それで必要以上に調査しまくっちゃった。
16年後に起こる地球規模の大破壊。
色んな惑星の軌道がおかしくなって、それは地球にも凄いダメージを与えることになる。
月が落ちかけるもんだから地軸がずれて、北も南も変な方向にいっちゃうし、環境だってしっちゃかめっちゃかだ。
全土を襲う大地震、大洪水のレベルだって半端ない。
でも、そりゃそうだ。
地球の自然が起こす通常の天災なんかじゃなく、これは地球そのものが被害を受ける災害なんだもん。
星を水槽に例えれば、そこに悪ガキが5人ぐらい突っ込んでくるっていえばいいのかな。
要するにとにかく凄い。
運命調査班は、こんな報告を残してる。
「たった1日で大陸がバラバラですよ。遥か上空から見れば、スローモーションで割れるお皿みたいになっていたでしょうね。目に見えるスピードで陸地が移動していました。といってもその頃は大洪水が地表の全てを覆っている最中ですんで、動く大陸を目撃できる人間なんていないでしょうね」
散らばった大陸は少しずつ、長い年月をかけて速度を落とし続けて、それでいつか今以上に文明が発達する日が来るんだって。
でも、大破壊を乗り越える人が少なすぎてちゃんとした記録が残ってないから、誰もが「プレート移動は年間数センチだから逆算すると大陸が1つだったのは何億年も昔」って信じちゃってるんだってさ。
運命調査班のお兄さんは、さらにこう続けてた。
「大陸が少しでも動く時点で、それは過去に地表が割れたことがあるっていう証なんですがね。ちょっと見てきたんですが、人類は時に議論していましたよ。ムー大陸がどうのこうのって。元々自分らが住んでいた土地を幻の大陸呼ばわりしていました。まあ、破壊の規模が大きすぎて伝承や状況証拠しか残っていないわけだから、そうなるのも仕方ないんですけどね」
これから起こる大災害はつまり、人間にとって間違いなく人生に刻まれるぐらいの一大事に違いないよ。
でも僕にとっては、今このモニターに映し出されている現実のほうがよっぽど衝撃だ。
日付は16年後で、画像には死を覚悟して抱き合う3人の親子がクローズアップされている。
何度か見たはずなのに、今まで気づかなかった。
どういうことなんだ、これは。
どうしてこうなっているんだ。
過去を変えられないように、未来も変わることはない。
僕が未来の、この情報を見てしまうこともきっと運命に組み込まれたことなんだろう。
つまり、僕がこれに気づいてしまったからこそ、この親子は抱き合って死ぬってことだ。
でも、運命だからってそれは解せない。
どうすればいいんだ僕は。
「虫としての人生も、やってみれば案外悪くないかも知れん」
またしても、おじちゃんのあの言葉が脳裏に浮かぶ。
不思議と気が軽くなる自分がいた。
肩の力を抜いて、僕はゆっくりと背もたれに身を委ねる。
「あ」
リラックスしたからだろうか。
あることに思い当たった。
もしかして、僕は自分の意思に従っちゃって正解なんじゃ?
ガバッと身を起こし、腕まくりをする。
いつも以上に素早くリズミカルに、指先がキーボードを叩いていった。
調べたいのは、3人の死後だ。
おじちゃんに電話を入れたのは、僕が悩みに悩んでスッキリした翌日になってのことだった。
「もしもし、ロウでございます」
「ああ、待っていた。調査結果は出たかね?」
メモ帳には「ドS口調がこいつの望み」って書いておいたし、両隣の仕事仲間が通話状態に入ったことも確認済み。
準備オッケーだ。
「ええ、調査結果は全て上がっております」
「ありがとう。ポイントを消費して構わんから、聞かせてくれないか?」
「かしこまりました。それでは3名の人生がどれだけ充実していたか、報告させていただきますね」
僕はモニターを読み上げる。
「例の親子は3名とも、幸福を感じながら絶命しております。死因は土砂による窒息死なのですが、不思議なことに肉体的苦痛さえ一切感じておりません」
「何? 苦しんでない? 痛みも感じていないのか? 土砂に埋もれるのに」
「はい。これはわたくしにとっても謎なのですが、3人とも安らかでございました。わたくしの見解では、死を前にした緊張感が脳内麻薬を分泌したと見ております」
「まあ、そういうこともあるだろうな」
3人が苦しんでいない理由は正直、僕にも解らなかった。
普段だったら気を利かせて調べるところなんだけど、昨日は自分のことで夢中になっちゃってた。
ごめんね、おじちゃん。
と、内心謝る。
「続きまして、ルイカ様のご子息と思われるお子様ですが、この2名はルイカ様の実の子ではございません」
「なに、そうなのか?」
「ええ。ルイカ様は独身のまま、孤児を引き取ったようでございます」
「そうか。相変わらず優しい子だな」
「同感でございます。しかもですね、幸福度を調べましたところ、孤児2名よりも若干、ルイカ様のほうが強く幸せを感じて日々を送っていたようなんですね」
「ほほう」
「もちろん子供たちの幸福度も充分に高いのですが、ルイカ様にはそれがさらに喜びに繋がっているようなんですね。ルイカ様お1人では、こうはならないでしょう」
「そうか。なら、よかった」
「ところでお客様」
僕の口調が穏やかだったのは、きっと本当に口元がにんまりしていたからだろう。
「その他の報告の前に、私から進言したいことがございます」
「ほう、珍しいな。どんなことだ?」
「先日、わたくしが若返りについての説明をさせていただいた日の会話を覚えていらっしゃいますでしょうか?」
「ああ、もちろんだ。つい先日のことだからな。もしかして、叶えてほしい願い事ができたのかね?」
「ああいえ、それとはまた別でございます。その件は必ずお願い致しますので、もう少々お待ちいただければと思います」
「そうなのか。じゃあなんだ」
「はい、単刀直入に申し上げます」
とここで、少し間を置く。
真の取り引きを持ちかけるとき以上の緊張感と、微笑ましい気分が混ざったようなむずがゆい心境だ。
僕は、聞き返されないようにゆっくりと、はっきりと喋った。
「お客様は、若返るべきだと、わたくしは考えます」
「ふむ。まあ、それは今まだ興味が――」
「わたくしは、天使に戻る決意を致しました」
「何! 本当か!」
「ええ、おかげさまで。お客様とお話させていただいた際、自分にとっての幸福とは何かを考えさせていただきました。ですのでこの決断は、お客様あってのことでございます。誠に感謝しております」
「そんなことはいい! そうか、戻ることにしたのか! よかったな、それは!」
「お客様も、もうそろそろ自分のことを考えてもよろしいのではありませんか?」
僕が急に冷たい口調になったから、その温度差にびっくりしたんだろう。
おじちゃんは絶句している。
「お客様、失礼を承知で、わたくし、今から素の口調でお話させていただきます」
「え? あ、ああ。それは構わんが」
「では、失礼致します」
僕は小さくうなずき、コホンと咳払いをする。
「おじちゃんさあ」
「え? おじちゃん?」
「そう。おじちゃん。あんたいっつもいっつも自分のことは置いといて、人のことばっかりじゃん」
コールセンターには相応しくない荒い声に驚いたのだろう。
両隣の同僚が見開いた目を僕に向ける。
用意してあったメモに手を伸ばしながら、僕は続けた。
「他人優先するそんな生き方してさ、あんたは、あんたを見守る人を心配にさせるって思ったことないの? そんなに人の幸せ願うなら、まずオメーが幸せになれよ。僕に心配かけんじゃねえよ」
メモ用紙を見せながら、僕は仲間たちにウインクをする。
「ドS口調がこいつの望み」の文字を見て、同僚らは勝手に納得をしながら、それぞれのモニターに意識を戻していく。
「いつも見てる奴だっているんだよ! そいつに心配かけてんじゃねえよ!」
言い切ってから、ふうと息を吐く。
お客様から、怒られてしまうだろうか。
でも、構うもんか。
僕を怒ってみろ。
僕はもっと怒ってやるぞ。
「なあ、ロウ君」
「はい、すみませんでした。言い過ぎました」
「いや、いい。ありがとう。だが君に3つ言いたいことがある」
「はい、なんでございましょう?」
「1つは、私は今のところ、若返りに興味がないんだよ」
「存じております」
「2つ目。そこまで怒ってくれるなら、そろそろ私を名前で呼んでくれてもいいんじゃないのかね? お客様やおじちゃんではなく、本名でな」
「はい、かしこまりました」
「3つ目。君ね、素の口調とはいえ、さっきの言い方はなんだ。女の子なんだから、もう少しそれなりの喋り方をしなさい。なんだね『僕』って」
「まあ、癖のようなものでございます」
しかしお客様、と口が滑りかけ、僕は慌てて言い直す。
「しかしクラーク様、わたくしが進言した若返りには他の理由がございます」
「他の理由?」
「はい。クラーク様の大好きな、他人のためでございます」
「フフ。鼻につく言い方をするようになったじゃないか」
「ええ、先ほど言いたいことを言ってしまったので、吹っ切れたようです」
「さっきのは気持ちがよさそうだったからな。私も今度誰かにやってみよう」
あはは。
と、僕は久しぶりに声に出して笑った。
「クラーク様、先ほどわたくしが申し上げた報告内容が重要でございます」
「ほう」
「報告の中に『ルイカ様は子供がいたからこそ幸せだった』といったニュアンスがございましたよね?」
「ああ、あったな」
「クラーク様も以前、幼いルイカ様を引き取ろうとなさいました」
「うむ。それぐらい感謝しているからな」
「つまり、一緒に暮らしても構わないわけですよね?」
「ん? 何が言いたい?」
「16年後、3名の親子は死に至ります。全員の魂を調べましたところ、最年少と思われる少年は、クラーク様でございました」
「え? なんだって? 私? どういうことだ?」
「クラーク様、最も安いポイント消費量でご案内させていただきます。今の体を捨て、孤児としてルイカ様のところに行きましょう」
「ちょっと待ってくれ。なんの話か解らない」
「わたくしもご一緒させていただきます」
「なんだって!?」
「悪魔のルールを破り、悪魔をクビになるだけです」
悪魔にとっての不正行為。
それは俗にいう「良い行い」だから問題ない。
人間にされちゃうけど「虫としての人生も、やってみれば案外悪くないかも知れん」の精神だ。
「クラーク様、我々は兄弟ということに致しましょう。わたくし、見た目は人間と変わりありませんし、年齢にしてだいたい6歳ぐらいの容姿でございます。クラーク様に合う新しい肉体も必ず入手致しますし、その体を使用することで他者に迷惑がかかることもないように致しますので、どうぞご安心ください」
「おいおい、私に考える余地はないのかね?」
「ございません。運命です。それより聞いてください。わたくし、いや、もう僕でいいや」
「僕はやめろと言ったろうに」
「うっさいハゲ。僕悪魔だからさあ、霊子体から肉体に変換するのにだいたい10年から15年ぐらいかかるのね? だからクラちゃん、それまでに身辺整理してさ、どっかで仮死状態になっててよ」
「軽く言わないでくれ! 今までのように丁寧に説明してくれないと、私は今頭が混乱している!」
「いいからいいから。全部僕に任せて」
人間の子供になったら、まずはルイカさんを故郷にでも呼び出して、腕を生やしてあげよう。
肉体の再生にはとんでもないエネルギーが必要だけれども、本人のイメージの力が強ければ実は意外と少ないポイントでも可能なんだ。
クラちゃんの残りのポイントで、たぶんどうにかなるだろう。
腕が生えるイメージなんてどうやって想像させたらいいのかわかんないけど、クラちゃんと僕ならきっといい作戦が浮かぶはず。
「それにしても、あの親子のさ? 大きいほうの子が僕だったって知ったときは、ホント焦ったよ。僕は人間になりたくない派だったのに、意味わかんない」
「今意味が解っていないのは私だ」
「取り合えず、詳しくはまた電話するね。それがラストコールになるからー」
「待て! 待ってくれ!」
「うるさいなあ。僕、これから色々と忙しいんだよ。もう切るよ」
「ちょ、待て、この、悪魔めが!」
「とんでもございません、クラーク様」
回線を切断するまえに、僕はそれこそ天使のようににっこり微笑む。
「わたくしの将来は天使でございます」
――エンジェルコール・了――
阿修羅のように・ラストに続く。
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/195/
長編にもかかわらず、目を通してくださっている皆さん、本当にありがとうございます。
今日も心より、皆さんのバースデイを一緒に喜ぼうと思います。
1/13 ちゃきんさん、誕生日おめでとうございます!
1/14 SASSYさん、誕生日おめでとうございます!
1/14 よっち、誕生日おめでとう!
1/16 はにさん、誕生日おめでとう!
1/16 ハチさん、誕生日おめでとうございます!
1/16 ψHoneyψさん、誕生日おめでとうございます!
生まれてくれてありがとうって言葉を生まれて初めて耳にしたときは感動して涙が出ましたけれど、最近ではよく聞く言葉になっていますよね。
皆にすぐ浸透してしまうほど、それは素晴らしい言葉だったのでしょう。
皆さん、生まれてくれてありがとう。
ハッピーバースデイ!
寝込んでいる最中、妹との会話。
「もしもし、モンブラン?」
「うん、どうしたの?」
「1つお願いが。俺、熱出て動けん。スマイル行くまえに食べ物買って、うちに届けてくんない?」
「あたし今日スマイル入ってないよ?」
「ですよねー」
相変わらず曜日を間違える、めさでした。