夢見町の史
Let’s どんまい!
2009
July 30
July 30
前回のエピソードをご覧になってちょっぴり引いた方は、これ以降は絶対に読まないほうがいいです。
回を重ねる毎に戦い、というか怪我が派手になっていくからです。
なんていうか、ある意味18禁です。
最初のエピソードでは奥歯が欠けたぐらいで済みましたけれど、今回は試合終了後、徒歩で移動ができない感じになってしまいます。
一応アップはするけども、忠告したかんね!
さて。
前回のラウンド1からおよそ1年後の夏。
俺とトメは、神奈川県は三浦半島まで来ていました。
夏合宿でコーチをやってくれと、再びK先生が声をかけてくださったのです。
「先生、あのですね、お願いがあるんですけど」
俺の言葉に、K先生は「ん?」という顔をします。
「トメと決着をつけたいんですよ。俺とトメの勝負の時間、作って頂いてもいいですかね?」
もちろんトメも戦う気満々で、必殺技を用意したなどとほざいていやがります。
それを聞いた先生は、「練習時間を割くのは構わない」とおっしゃってくださいました。
「私は審判をやればいいの?」
「いえ、最初のスタートの合図だけお願いします」
「というと、どういうルール?」
「どっちかが倒れるまで、戦い続けるって感じですね」
天下一武道会?
そう言いたげに、先生は目を丸くしました。
「防具は?」
「要りません。そんなのつけてたら、喰らわんでいい攻撃まで喰らってしまいます」
「でもそれだと、さすがに危険でしょ!?」
「できれば、グローブも外したいぐらいです。大丈夫です」
何が大丈夫なのでしょうか。
K先生は、副顧問のS先生と相談し始めました。
「いくらなんでも、危険では」
「いやいや、本人達がやりたがってるんだから、やらせてあげましょうよ」
「じゃあ、せめてラウンド制にして、3ラウンドだけっていう形に」
「そうですね。それでも危ないようだったら、止めに入りましょう」
結果、グローブ着用、防具なしの倒し合い。
時間は2分間の3ラウンド、またはどちらかが倒れるまで。
何をしても反則は取らないという、即興のルールが決定しました。
ルールがある時点で気に入らないけども、とにかくこれでトメと決着がつけられます。
合宿の最終日、試合コートの向こうには、ドス黒いオーラを立ち昇らせるトメの姿がありました。
相変わらず魔王みたいな気配です。
足場は道場のような木の床ではなく、教室などに使われるような固いタイル。
それだけでも、双方が無事には済まない予感がします。
「勝負、始め!」
両者の瞳が熱く、残酷に光りました。
勝負開始早々、またトメが変なことをしました。
何故かジャンプをし、宙に舞ったのです。
はしゃぎたい年頃なのでしょうか。
それでも、あまり良い予感がしなかったので、俺はバックステップで距離を取ります。
ぶおん!
トメは背面からカカトを振り回す形で、空気を混ぜました。
これはソバットという足技です。
空中での、腰を入れた後ろ回し蹴り――。
てめえはテレビゲームか!
どうやら、これがトメの新しい必殺技なのでしょう。
着地したトメが、「どうだ?」というような顔をしました。
どうもこうも、こんな派手な技が通じるか!
素人じゃないんだから!
しかも会得したばかりだからか、どこか不恰好だし、なんかガッカリだ。
なんの工夫もなしに大砲打ちやがって、当たると思っているのでしょうか。
俺は前傾姿勢になり、奴の足をへし折るつもりでローキックを連発します。
高校生の頃は、正式な大会で禁じられているので使えなかったローキック。
この攻撃を受けた経験は、トメにはないはずです。
奴の足を破壊し、動けなくしてしまえば俺の勝ちだ!
ふはははは!
ただ、蹴りで人の足を折るには、自分の足が折れても構わないという覚悟と勢いが必要です。
したがって、俺は自分の足とトメの足を引き替えにするイメージがありました。
今にして思うと、俺もどうかしていました。
トメの足を壊せる頃には、自分の足も駄目になってるに決まってんじゃない。
足を足で狙う俺と、たまに宙に舞うトメは、なんか楽しそうに、それでいてピヨピヨと必死こいておいででした。
「やめ!」
1ラウンド目が終了。
1分の休息の後、2ラウンド目が始まります。
びしびし!
ぶおッ!
殴る蹴るを織り交ぜながらも、基本的な展開は1ラウンド目と同様でした。
俺はトメの太股の、内側も外側も蹴りまくります。
奴はインパクトの瞬間、たまに足に手を沿えて衝撃を和らげていましたが、その程度で防げる程度の打撃ではありません。
トメは相変わらず、たまにぴょんぴょん跳ねて、頑張って空気を蹴っておいででした。
やる気はあるのでしょうか。
この調子なら、3ラウンド目あたりで、トメの足の破壊は完了するな。
そう思って、俺は嬉しくなりました。
※その頃には、めさの足の破滅も完了しています。
大根で大根を折ろうという発想のバカと空気を蹴るのが大好きなバカは、それでも大真面目な形相で頑張っておいででした。
そして、最終ラウンド。
トメに接近した時に何かが起こり、俺は吹っ飛び、体勢を崩しました。
しかし見ると、トメはもっと体勢を崩しています。
奴はこちらに背を向けて、地面に手をついていました。
大チャンス!
よく解らない原因で飛ばされていた体を立て直し、俺はトメに走り寄りました。
拳に全ての気を集結させます。
このまま後頭部を殴りつけ、固い地面に顔面を叩きつけてやる!
本気の下段突きを、それも後頭部に向かって突き下ろしました。
今なら病院で済むぜ!
ズギャッ!
トメは後ろ向きのままなのに、首を傾げるような動作で、俺の突きをよけやがりました。
エスパーかお前は!
同時に、右手の小指に激痛が走ります。
どうやら、トメが動いたせいで、小指だけで頭を殴ってしまったようです。
小指がイッた!
鋭い動作で体勢を整えるトメ。
「やめ!」
しばらくして、先生の声が響きます。
どうやら、また引き分けてしまったようです。
どっちも倒れはしませんでした。
それが悔しくて、さっさと退場しようとすると、
「握手ぐらいしなさい」
K先生が言いました。
コート中央に戻り、トメの右手を握ります。
心の中で、俺は敬語で叫びました。
「おああああ! 小指がッ! 俺の小指がーッ! トメさん、あんまり握らないでください」
試合が終わると、痛みも感じます。
心の中で、密かにのた打ち回りました。
改めて、俺は皆の意見を求めます。
「どっちが勝ってました?」
「引き分けにしか見えん」
「それより、めさ先輩、顎は大丈夫なんですか?」
「そうだ。大丈夫かめさ? 顎は」
小指を自己診察し、骨に異常がないことを確かめながら聞いていると、後輩やら先生やらが心配してくれました。
でも、何故に顎を?
俺は小指が心配なのに。
しかし、さらにトメや皆からの話を聞いて、俺はある事実を知るに至りました。
トメの供述を、次に記しておきます。
勝負が始まったからよ~、苦手な左のソバットを見せて、めさを油断させたんだあ。
おう。
本当は逆回りの、右のソバットが本命だったんだよ~。
※トメのソバットがどこか不恰好に見えたのは、わざと不得手な左回りで蹴っていたからでした。
んでさあ、3ラウンド目が始まったから、そろそろいいかと思ってよ~。
お前が攻めてきた時に、こうフェイントで殴るフリして、お前が顔を引いてよけようとした瞬間に、右のソバットをカウンターで入れてやったんだよ~。
バッチリの手応えだったし、顎に入れてやったからよ~、勝ったと思って、着地に失敗したけど安心してコケてたよ~。
※俺の体が吹っ飛び、トメがしゃがんでいたのは、そのためでした。
あまりに見事にジャストミートしたから、「今頃、めさは泡吹いて倒れてンだろうなあ~」って確信してさあ~、のんびり立ち上がろうと思ってたのによ~。
何故か、今まで感じたことねえぐらいデカい殺気が背後から迫ってきやがるからさあ~、スゲー不思議に思ったよ~。
めさは泡吹いて倒れてるはずだったから、殺気の持ち主が誰だか解らなかったよ~。
※俺です。
で、「なんだか解んねえけど、とにかくやべえ!」って思って、こう首を曲げたらさあ、スゲー勢いの拳が俺の顔の左側から突き出てきやがってよ~。
なんでお前、無事なんだよ~。
※なんでよけれたのかを、逆に問い正したいです。
とにかく話を総合すると、俺はトメの大技をモロに喰らっていたのでした。
あんなに派手な技を喰らう奴は恥ずかしいと思っていながら、ものの見事に喰らっていました。
誰が見ても、「めさが入院する」と思われるほど、その直撃は凄まじかったのだそうです。
「お前、覚えてねえのかよ~?」
トメが不満そうに言いました。
「うん。覚えてないってゆうか、解ってない。今も顎にダメージ感じてないし」
「おかしいと思ってたんだよな~」
「なにが?」
「お前殴っても、いつも痛そうな顔しねえからよ~」
「だって痛くねえんだもん」
「後輩がパタパタ倒れる時の俺の突き、半分程度の力なんだぜ~?」
「後輩は倒すな。ってゆうか、そうだったの? 手加減が下手なだけかと思ってた。俺ン時は?」
「100%だよ~」
自分の取り柄は素早さだと思っていたのに、実は打たれ強さが売りでした。
それはそれでショック。
「そっかあ。俺って鈍感な人だったんだあ。なんか切なくなっちゃったよ。でもお前、後頭部への突き、よくよけたよなあ」
「あれだけの殺気だったら、寝ててもよけるよ~」
「そうか。今度から、ああいう時は殺気を消すように気をつけるよ」
こうして俺達は再び、からからと笑い合いました。
笑っていられなくなるのは、次からです。
合宿も終わり、解散するとき。
整列して正座し、礼を終えた後です。
「それでは、解散!」
K先生が声を張りました。
俺も声を張ります。
「足が痛くて立てなぁい」
トメも騒ぎ始めました。
「あああああッ! 足があッ! 足があッ! なんで俺がこんな目に!」
自分の足を犠牲にする覚悟で、俺はトメの足を狙いました。
おかげで俺のスネの皮膚は潰れ、擦り減って出血し、スネ毛が生えるのに4年ほどかかりました。
その頑張りの甲斐あって、俺達は困ったことに。
歩けない。
でも、トメも歩けてない。
作戦成功だ。
そんな作戦立てたことは失敗だけれども。
「おうトメ、早えよ。もっとゆっくり歩けよ」
「ここまでスローモーションで歩いてんのにかよ~」
そんな俺達を、どっかのおばあちゃんが追い越しました。
帰り道のコンビニに寄る際、車から降りるためにドアを開けたはいいけれど、ちっとも動けないので「車内の空気を全力で入れ替えています」みたいな光景になっていました。
まともに歩けるようになるのに、3日かかりました。
失敗失敗。
ちなみに後日談なんですけれど、俺の小指はやっぱり折れていたみたいです。
骨は大丈夫って勝手に思っていたのですけれど、がっつり折れておいででした。
だけど気づいていなかったので病院には行かず、そのまま骨は変な形のままくっつき、今では右手の小指がおかしな角度です。
失敗失敗。
次回予告。
先生に立ち会い人をやってもらうと、「防具を着けろ」とか「ラウンド制にしろ」とかうるさいから、公園でこそこそやることに!
でも、この頃になると、そろそろお互い相手が怖い!
本当は決闘なんてやめて、みんなでカラオケにでも行きたい!
今までで1番ボコボコになるから、ホント笑って頂けるのか解りません!
ホントごめんなさい!
もう2度とお前とはやらねえと、お互いが指を差し合ったトメVSめさ・ラウンド3「もうお前とはやりません」カミングスーン!
ホント皆様の反応が心配です。
冒険しようと思ったの。
ごめんなさい。
みんなが引いていませんように!
続く。
回を重ねる毎に戦い、というか怪我が派手になっていくからです。
なんていうか、ある意味18禁です。
最初のエピソードでは奥歯が欠けたぐらいで済みましたけれど、今回は試合終了後、徒歩で移動ができない感じになってしまいます。
一応アップはするけども、忠告したかんね!
さて。
前回のラウンド1からおよそ1年後の夏。
俺とトメは、神奈川県は三浦半島まで来ていました。
夏合宿でコーチをやってくれと、再びK先生が声をかけてくださったのです。
「先生、あのですね、お願いがあるんですけど」
俺の言葉に、K先生は「ん?」という顔をします。
「トメと決着をつけたいんですよ。俺とトメの勝負の時間、作って頂いてもいいですかね?」
もちろんトメも戦う気満々で、必殺技を用意したなどとほざいていやがります。
それを聞いた先生は、「練習時間を割くのは構わない」とおっしゃってくださいました。
「私は審判をやればいいの?」
「いえ、最初のスタートの合図だけお願いします」
「というと、どういうルール?」
「どっちかが倒れるまで、戦い続けるって感じですね」
天下一武道会?
そう言いたげに、先生は目を丸くしました。
「防具は?」
「要りません。そんなのつけてたら、喰らわんでいい攻撃まで喰らってしまいます」
「でもそれだと、さすがに危険でしょ!?」
「できれば、グローブも外したいぐらいです。大丈夫です」
何が大丈夫なのでしょうか。
K先生は、副顧問のS先生と相談し始めました。
「いくらなんでも、危険では」
「いやいや、本人達がやりたがってるんだから、やらせてあげましょうよ」
「じゃあ、せめてラウンド制にして、3ラウンドだけっていう形に」
「そうですね。それでも危ないようだったら、止めに入りましょう」
結果、グローブ着用、防具なしの倒し合い。
時間は2分間の3ラウンド、またはどちらかが倒れるまで。
何をしても反則は取らないという、即興のルールが決定しました。
ルールがある時点で気に入らないけども、とにかくこれでトメと決着がつけられます。
合宿の最終日、試合コートの向こうには、ドス黒いオーラを立ち昇らせるトメの姿がありました。
相変わらず魔王みたいな気配です。
足場は道場のような木の床ではなく、教室などに使われるような固いタイル。
それだけでも、双方が無事には済まない予感がします。
「勝負、始め!」
両者の瞳が熱く、残酷に光りました。
勝負開始早々、またトメが変なことをしました。
何故かジャンプをし、宙に舞ったのです。
はしゃぎたい年頃なのでしょうか。
それでも、あまり良い予感がしなかったので、俺はバックステップで距離を取ります。
ぶおん!
トメは背面からカカトを振り回す形で、空気を混ぜました。
これはソバットという足技です。
空中での、腰を入れた後ろ回し蹴り――。
てめえはテレビゲームか!
どうやら、これがトメの新しい必殺技なのでしょう。
着地したトメが、「どうだ?」というような顔をしました。
どうもこうも、こんな派手な技が通じるか!
素人じゃないんだから!
しかも会得したばかりだからか、どこか不恰好だし、なんかガッカリだ。
なんの工夫もなしに大砲打ちやがって、当たると思っているのでしょうか。
俺は前傾姿勢になり、奴の足をへし折るつもりでローキックを連発します。
高校生の頃は、正式な大会で禁じられているので使えなかったローキック。
この攻撃を受けた経験は、トメにはないはずです。
奴の足を破壊し、動けなくしてしまえば俺の勝ちだ!
ふはははは!
ただ、蹴りで人の足を折るには、自分の足が折れても構わないという覚悟と勢いが必要です。
したがって、俺は自分の足とトメの足を引き替えにするイメージがありました。
今にして思うと、俺もどうかしていました。
トメの足を壊せる頃には、自分の足も駄目になってるに決まってんじゃない。
足を足で狙う俺と、たまに宙に舞うトメは、なんか楽しそうに、それでいてピヨピヨと必死こいておいででした。
「やめ!」
1ラウンド目が終了。
1分の休息の後、2ラウンド目が始まります。
びしびし!
ぶおッ!
殴る蹴るを織り交ぜながらも、基本的な展開は1ラウンド目と同様でした。
俺はトメの太股の、内側も外側も蹴りまくります。
奴はインパクトの瞬間、たまに足に手を沿えて衝撃を和らげていましたが、その程度で防げる程度の打撃ではありません。
トメは相変わらず、たまにぴょんぴょん跳ねて、頑張って空気を蹴っておいででした。
やる気はあるのでしょうか。
この調子なら、3ラウンド目あたりで、トメの足の破壊は完了するな。
そう思って、俺は嬉しくなりました。
※その頃には、めさの足の破滅も完了しています。
大根で大根を折ろうという発想のバカと空気を蹴るのが大好きなバカは、それでも大真面目な形相で頑張っておいででした。
そして、最終ラウンド。
トメに接近した時に何かが起こり、俺は吹っ飛び、体勢を崩しました。
しかし見ると、トメはもっと体勢を崩しています。
奴はこちらに背を向けて、地面に手をついていました。
大チャンス!
よく解らない原因で飛ばされていた体を立て直し、俺はトメに走り寄りました。
拳に全ての気を集結させます。
このまま後頭部を殴りつけ、固い地面に顔面を叩きつけてやる!
本気の下段突きを、それも後頭部に向かって突き下ろしました。
今なら病院で済むぜ!
ズギャッ!
トメは後ろ向きのままなのに、首を傾げるような動作で、俺の突きをよけやがりました。
エスパーかお前は!
同時に、右手の小指に激痛が走ります。
どうやら、トメが動いたせいで、小指だけで頭を殴ってしまったようです。
小指がイッた!
鋭い動作で体勢を整えるトメ。
「やめ!」
しばらくして、先生の声が響きます。
どうやら、また引き分けてしまったようです。
どっちも倒れはしませんでした。
それが悔しくて、さっさと退場しようとすると、
「握手ぐらいしなさい」
K先生が言いました。
コート中央に戻り、トメの右手を握ります。
心の中で、俺は敬語で叫びました。
「おああああ! 小指がッ! 俺の小指がーッ! トメさん、あんまり握らないでください」
試合が終わると、痛みも感じます。
心の中で、密かにのた打ち回りました。
改めて、俺は皆の意見を求めます。
「どっちが勝ってました?」
「引き分けにしか見えん」
「それより、めさ先輩、顎は大丈夫なんですか?」
「そうだ。大丈夫かめさ? 顎は」
小指を自己診察し、骨に異常がないことを確かめながら聞いていると、後輩やら先生やらが心配してくれました。
でも、何故に顎を?
俺は小指が心配なのに。
しかし、さらにトメや皆からの話を聞いて、俺はある事実を知るに至りました。
トメの供述を、次に記しておきます。
勝負が始まったからよ~、苦手な左のソバットを見せて、めさを油断させたんだあ。
おう。
本当は逆回りの、右のソバットが本命だったんだよ~。
※トメのソバットがどこか不恰好に見えたのは、わざと不得手な左回りで蹴っていたからでした。
んでさあ、3ラウンド目が始まったから、そろそろいいかと思ってよ~。
お前が攻めてきた時に、こうフェイントで殴るフリして、お前が顔を引いてよけようとした瞬間に、右のソバットをカウンターで入れてやったんだよ~。
バッチリの手応えだったし、顎に入れてやったからよ~、勝ったと思って、着地に失敗したけど安心してコケてたよ~。
※俺の体が吹っ飛び、トメがしゃがんでいたのは、そのためでした。
あまりに見事にジャストミートしたから、「今頃、めさは泡吹いて倒れてンだろうなあ~」って確信してさあ~、のんびり立ち上がろうと思ってたのによ~。
何故か、今まで感じたことねえぐらいデカい殺気が背後から迫ってきやがるからさあ~、スゲー不思議に思ったよ~。
めさは泡吹いて倒れてるはずだったから、殺気の持ち主が誰だか解らなかったよ~。
※俺です。
で、「なんだか解んねえけど、とにかくやべえ!」って思って、こう首を曲げたらさあ、スゲー勢いの拳が俺の顔の左側から突き出てきやがってよ~。
なんでお前、無事なんだよ~。
※なんでよけれたのかを、逆に問い正したいです。
とにかく話を総合すると、俺はトメの大技をモロに喰らっていたのでした。
あんなに派手な技を喰らう奴は恥ずかしいと思っていながら、ものの見事に喰らっていました。
誰が見ても、「めさが入院する」と思われるほど、その直撃は凄まじかったのだそうです。
「お前、覚えてねえのかよ~?」
トメが不満そうに言いました。
「うん。覚えてないってゆうか、解ってない。今も顎にダメージ感じてないし」
「おかしいと思ってたんだよな~」
「なにが?」
「お前殴っても、いつも痛そうな顔しねえからよ~」
「だって痛くねえんだもん」
「後輩がパタパタ倒れる時の俺の突き、半分程度の力なんだぜ~?」
「後輩は倒すな。ってゆうか、そうだったの? 手加減が下手なだけかと思ってた。俺ン時は?」
「100%だよ~」
自分の取り柄は素早さだと思っていたのに、実は打たれ強さが売りでした。
それはそれでショック。
「そっかあ。俺って鈍感な人だったんだあ。なんか切なくなっちゃったよ。でもお前、後頭部への突き、よくよけたよなあ」
「あれだけの殺気だったら、寝ててもよけるよ~」
「そうか。今度から、ああいう時は殺気を消すように気をつけるよ」
こうして俺達は再び、からからと笑い合いました。
笑っていられなくなるのは、次からです。
合宿も終わり、解散するとき。
整列して正座し、礼を終えた後です。
「それでは、解散!」
K先生が声を張りました。
俺も声を張ります。
「足が痛くて立てなぁい」
トメも騒ぎ始めました。
「あああああッ! 足があッ! 足があッ! なんで俺がこんな目に!」
自分の足を犠牲にする覚悟で、俺はトメの足を狙いました。
おかげで俺のスネの皮膚は潰れ、擦り減って出血し、スネ毛が生えるのに4年ほどかかりました。
その頑張りの甲斐あって、俺達は困ったことに。
歩けない。
でも、トメも歩けてない。
作戦成功だ。
そんな作戦立てたことは失敗だけれども。
「おうトメ、早えよ。もっとゆっくり歩けよ」
「ここまでスローモーションで歩いてんのにかよ~」
そんな俺達を、どっかのおばあちゃんが追い越しました。
帰り道のコンビニに寄る際、車から降りるためにドアを開けたはいいけれど、ちっとも動けないので「車内の空気を全力で入れ替えています」みたいな光景になっていました。
まともに歩けるようになるのに、3日かかりました。
失敗失敗。
ちなみに後日談なんですけれど、俺の小指はやっぱり折れていたみたいです。
骨は大丈夫って勝手に思っていたのですけれど、がっつり折れておいででした。
だけど気づいていなかったので病院には行かず、そのまま骨は変な形のままくっつき、今では右手の小指がおかしな角度です。
失敗失敗。
次回予告。
先生に立ち会い人をやってもらうと、「防具を着けろ」とか「ラウンド制にしろ」とかうるさいから、公園でこそこそやることに!
でも、この頃になると、そろそろお互い相手が怖い!
本当は決闘なんてやめて、みんなでカラオケにでも行きたい!
今までで1番ボコボコになるから、ホント笑って頂けるのか解りません!
ホントごめんなさい!
もう2度とお前とはやらねえと、お互いが指を差し合ったトメVSめさ・ラウンド3「もうお前とはやりません」カミングスーン!
ホント皆様の反応が心配です。
冒険しようと思ったの。
ごめんなさい。
みんなが引いていませんように!
続く。
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