夢見町の史
Let’s どんまい!
July 31
もし前回のラウンド2を読んで「やりすぎじゃね?」と感じられた方は、今回のは読んじゃダメです。
過去最大の、それこそ最終決戦です。
友達からは聖戦扱いをされました。
そもそも俺とトメは互いに腹を立てたわけでもないのに、どうしてマジ決闘などするのでしょうか。
まあ当時は「怪我をするけどゲームと一緒」みたいな感覚ではありました。
だからまあ、読まなくっていいんですけれど、もし読んじゃったら「ギャグ漫画のあらすじか何かだろう」と思ってやってください。
でも実話。
さて、俺もトメも 23歳になりました。
2人で飲んだ後、ラーメン屋で食事をしています。
空手の話題で盛り上がる一時。
「なあトメ。そろそろさ、ホントに決着つけねえ?」
「ん~? いいぜ? まだ寒いから、3ヶ月後にしようぜ~」
「そうだな。それまで走り込んで、体力取り戻しておくか」
夏の対決が決定。
「どこでやる? 学校使わせてもらうと、また先生が危ない危ないってうるさいぜ?」
「どっか別の場所でも借りようぜ~」
こうして俺達は、近所のK公園で対決することにしました。
どこも借りられなかったのです。
この頃になると俺もトメも、もう前回ほどギラギラしてはいません。
「一応、グローブだけ装着しようか」
ちょっと甘いことを言い出す俺。
「おう。いいぜ」
トメは恰好良く即答していました。
どうせどう頑張っても、結果的にトメは倒せないといった嫌な予感が、俺の頭から離れません。
それでも取り合えず、俺はトメの父上に土下座で、「あなたの息子さんを殺したのは俺です!」と謝るイメージトレーニングを無理矢理しておきました。
トメはトメで、前回の勝負がよほどショックだったらしく、
「人間は俺が思っている以上に、倒れねえ生き物なのかも知れねえ」
いくら殴っても倒れない奴と戦う悪夢にうなされたと文句を言っていました。
10年来の友人から、まさかのトラウマ扱いです。
「おう、めさ?」
対決の日取りを決めるために、トメが電話をよこしてきました。
適当にヒマな日を選びます。
「ところでめさ、道着で来る?」
「いや? さすがに場所が公園だから、ジャージ買っといたけど」
「オメー、何考えてんだよ~。俺達の決闘はいつも道着だったじゃねえかよ~。公園だろうが関係ねえ。俺は道着で行くぜ」
男らしいトメの言葉に、俺は熱い男気を感じ、嬉しくなりました。
「そうだな! お前とやる時はいつも道着だったもんな! 確かにそうだ! 目が覚めたよ! 俺も道着で行く!」
決闘当日になると、話を聞きつけた友人らが見物しにK公園に揃います。
最初にやって来たのは、やはり中学からの悪友、ジンでした。
「普通の友達が欲しい」
ジンの第一声がこれです。
「道着姿で公園で待ったりとか、ケンカしてる訳でもないのに友達と本気で殴り合う奴なんかでなくて、俺は普通の友達が欲しい」
「だって、トメも道着で来るって言うんだもん。俺たちの正装は道着なんだよ」
「だからってお前、あれ?」
ジンが駐車場の方角を指差します。
「あのタチ悪そうなの、トメじゃねえ?」
ジンの視線を追うと、そこにはダルそうな歩き方でこっちに近づくトメの姿が。
俺は、見間違いかと思って、何度も何度も目を擦りました。
トメは、白いジャージを着ていました。
「トメお前! 道着じゃ!?」
「あん? おいおい、やンめてくれよな~めさ。公園で変な格好すンなよ~」
ハメられた!
なんでもアリのルールとはいえ、いきなり心を傷つけられるとは想定外だ!
つい今しがたの俺のセリフを返せ!
ちょっとカッコつけてジンに放った言葉を取り戻したい!
「俺たちの正装は道着なんだよ」
それがどうだ。
トメ曰く「変な格好すンなよ~」ときた。
トメだって男らしく言ってたじゃん。
「公園だろうが関係ねえ。俺は道着で行くぜ」
果てしなくジャージじゃん。
「果てしなくジャージじゃーん!」
涙目でトメを見ました。
ひとしきり友人たちが笑い転げたあと、俺はいよいよトメにグローブを手渡します。
「ほらよ。お前の分だ」
いよいよ対決の時が迫っている、そんな雰囲気を誰もが感じました。
笑い声が止まります。
しかし、トメの心境はこんな感じです。
「対決はやっぱ今度にしてえなあ。めさが面白い格好してきやがるから、やる気なくしたよ~」
一方、俺の心境はこうです。
「ああ嫌だ。恥ずかしいったらありゃしない。俺だけ道着って、どういうことだ。みんなもいるし、このままカラオケにでも行ってしまいたい」
双方やる気なし。
それでも、集まった友人達は、俺とトメの殺し合いを楽しみにしておいでです。
対決するなんて、こいつらに教えるんじゃなかった…。
そうすれば、トメには「今日はやっぱ飲みに行こうか」って言えたのに…。
お互い、やる気がないのは初めてのことでした。
相手の怖さを、さすがに知ってしまっているからです。
それでも、俺達は公園の特に広いエリアに場所を移しました。
「ここら辺でいいかな」
「あ~。いいんじゃねえ? じゃあやるかあ」
「ズルい! クツを脱げトメ! 俺だって素足なんだから!」
「マジかよ~。今日のために買ったのによ~」
「俺だってジャージを買っといた! 誰かが道着で来るって言わなければ、俺だってジャージで来てた!」
まずは軽く口喧嘩。
気持ちウォーミングアップです。
「じゃあ、いい加減とっとと始めよう。早く終わらせて、ごはん食べたい」
言って、俺はジンに合図を頼みました。
「始め」
ようやく戦闘開始です。
俺のイメージトレーニングの中では、トメは速攻で無残で切ない姿になる予定でした。
ところが、彼の構えを見て全てを悟ります。
「駄目だこりゃ。こんなのすぐに倒せねえや」
ただでさえ隙を見せない上に、いつの間にかガタイが良くなっていらっしゃるトメ。
軽量級の俺とは、およそ10キロの体重差がありました。
足場は雑草だらけ。
凸凹だらけです。
これでは素早い移動が難しく、得意のフットワークも使えません。
「今回はちょっと不利だなあ」
それでも、殺気を放って相手を牽制します。
気圧されたトメは、簡単には攻めてきませんでした。
しばらく、どちらも動けずにいます。
「なんでどっちも動かないの?」
見物していた友人の1人が、そうジンに言ったのだそうです。
「お前はバカだ。動かないんじゃねえ。動けねえンだ。2人を囲む闘気の輪が見えねえのか?」
格闘漫画の解説キャラみたいなセリフを返す、素人のジン。
まるで「今にめさの手からビームが出るぞ」とか言い出しそうです。
恥ずかしい。
けどまあ、闘気の輪というのは間違った表現ではありません。
両者はじりじりと、ほんのわずかにだけしか動かないので、遠目には止まって見えたことでしょう。
俺とトメの間を、犬の散歩をしているおじちゃんが横切りました。
※嘘です。
俺のテリトリーとトメのテリトリーは球状に展開し、その球が相手の球に触れました。
当たり判定は、ミリ単位です。
テリトリーを侵されたトメが、俺に襲いかかりました。
この球同士が触れるかどうかの微妙な距離を、互いはずっと探り合っていたのです。
俺は近眼で、相手のパンチなんて良く見えません。
動体視力も悪いです。
しかし、攻撃をよけられないわけではありません。
相手の雰囲気、わずかな挙動、ちょっとした仕草から、次の攻撃が判るのです。
タイミングを合わせれば、ガードするなりよけるなり、カウンターを取るなり好き放題。
トメが右拳を下げました。
ガードが早過ぎてもいけません。
攻撃を読んでいたことがバレて、警戒されるからです。
今だ!
トメのパンチの軌道を読んで、俺はガードを上げました。
完璧だ!
ズガン!
な?
喰らっただろ?
インパクトの瞬間も判っていたので、俺は咄嗟に顔を回転させ、衝撃を逃しました。
でもおかしいぞ?
どうしてパンチが顔に達した?
思い返せば、トメのパンチはよく、相手のガードをすり抜けて打撃を与えます。
まさか、もしかして…。
トメの再びの攻撃。
タイミングを合わせてガード。
ガードした瞬間に、俺からも突きをカウンターで入れてやる!
ズゴン!
な?
また俺が喰らっただろ?
いや、間違いない。
トメは攻撃の瞬間、全てがスローに見えていやがる!
突きを放つ一瞬でさえ、状況に合わせてパンチの軌道を変えていやがる。
こりゃよける努力も無駄に終わる。
よけても、またパンチの軌道が変わって、結局は顔に入る。
鋭い動作も、この足場だと無理だ。
パンチが届くまでのギリギリまで待ったとしても、
バキッ!
ほーら、間に合わなかっただろ?
さらに、トメが地面を蹴りました。
空中で回転しながら、背面からカカトを放ってきます。
右のソバット!
俺は両腕を揃え、顔の高さまで上げました。
トメのカカトが、その両腕を直撃します。
同時に、その強い衝撃に俺の上半身はのぞけりました。
前回の俺は、こんなん喰らってたのか。
なるほど、俺が倒れないことを不思議に思ってたわけだ。
腕が折れるかと思ったぜ。
俺は体勢をすぐに立て直し、着地した瞬間のトメの顔を蹴りにかかります。
雑草が舞いました。
足には確かな手応えを感じましたが、当たったのは顔ではなく、奴の上げた腕でした。
俺の心境は「ちッ! そう簡単にはいかねえか」
トメの心境は「なんでこいつ、口から血ィ流しながらピンピンしてんだよ~」
ちょっと面倒に思っています。
さて、最初に思った通り、やはりスピードが出せない俺が不利な展開になっています。
この時点で、血とかも結構出ていました。
このままいけば、俺は倒されてしまうでしょう。
しかし、前回の対決の時に、学んだこともありました。
トメは殺気に敏感だ。
これでも喰らいやがれ!
焚き火にガソリンを撒いたような勢いで、俺は闘気を放出しました。
温度を出さない、見えない炎に、トメが後ろに下がります。
じり。
半歩にじり寄ると、トメは同じ距離だけ下がりました。
「もう疲れたから、帰ろうぜ~」
トメのアイコンタクトをシカト。
さらに近づきます。
じりじりと移動を繰り返して、トメは広い公園の、端まで追いやられていきます。
俺は内心、にやりと笑みます。
「まだまだイケるぜ!」
さらなる殺気を放ちました。
トメが警戒の表情を濃くします。
今だ!
それまで放っていた殺気を、俺は一瞬でピタリと消し去りました。
そして、右ストレート一閃。
トメの頭部が後ろに吹っ飛びました。
それまでの大量の殺気は威嚇ではなく、全てがこの1発に賭けたフェイントだったのです。
反撃に転じようとしたトメに、俺は再び刺すような殺気を大量に、ド派手に放出しました。
するとトメは嫌な気配を察し、攻撃を思い留まります。
殺気に敏感なトメだからこそ、殺気によってこいつの動きを封じられます。
奴はきっと、「今攻撃したら、なんだか解らんけど、なんかやべえ」とでも思っているのでしょう。
そして殺気を消してやりさえすれば、
ゴッ!
奴の脳からアドレナリンが出ないせいで、俺の突きがスローに見られることもありません。
しかし、お互い1発入れるだけにも結構な苦労をしています。
トメは雑草の根にカカトを乗せて、いつでも動ける体勢を密かに作り、今までにない鋭い突きを俺に喰らわせたりしました。
10分か、もしかしたら15分も経っていたかも知れません。
俺達がやっていた流派の空手は、他の武道よりもさらに腰を落として行動します。
普通に空気椅子みたいな状態で戦うので、体力がなくなりつつある23歳達は、やがて腕さえも上がらない可哀想なことに。
俺は殺気の他にテレパシーも放ちました。
「隊長! 自分は体力がないであります!」
トメの心の声も丸聞こえです。
「これ以上、今の俺達に何ができるんだよ~」
再びトメが「もうどうでも良くねえ?」と、目で言ってきました。
そうだね。
このままやってたら、怪我しちゃうしね。
※もう手遅れです。
「おいトメ、まだ動けるか?」
「おう。もちろん動けねえぜ?」
「やめよっか?」
「おう」
それで2人で、その場に大の字書いて、ばたりと倒れました。
結局、ダメージではなく、体力がないせいで倒れてしまいました。
もちろん勝敗は引き分け。
まんべんなく情けない。
起き上がって、俺はトメに声をかけました。
「メシでも喰いに行こうかー!」
これにて、皆様から引かれることを覚悟してリメイクしたマジ勝負シリーズは完結です。
ラウンド4はありません。
もしかしたらやるかも知れないとか思い、俺は一応抜き手を会得したりもしましたが、やはり両者は戦闘を避けています。
「めさとやると、自信なくすよ~」
「俺だって、もうお前とはやらん! ジャージ着て来るし!」
血だらけのままデニーズ行って、文句を言い合いました。
「見てみろよトメ! 俺の顔、もう腫れてるー! 人間って、こういう色に変色するんだなあ」
「おう、見たことねえ色になってンぞ、オメーよ~」
「あっはっは! ってゆうか、笑うと肋骨に響く! この感じは、ああ。ヒビが入ってるね」
「ンああああッ!」
「どうした?」
「ケチャップが持てねえ!」
「なんで?」
「後輩とやる時のクセで、めさの蹴りを片手で防いだからだよ~。ヒジから変な音聞こえたもんよー」
「だからお前、中盤以降は左手使わなかったんだ!?」
「がはははは!」
「普通の友達が欲しい…」
お客さん達がちらちらと、血に染まった白いジャージと道着の男を見ていました。
後日談。
勝負の夜、布団で横になったら鼻血が出た!
トメからの蹴りをよける際、顔を引いたら鼻だけが間に合わず、かすったからだ!
後から鼻血が出たのは初めてだ!
そして半年後、雨の日に寝ていても鼻血が出た!
後遺症だ間違いない!
他にも色んな細胞が駄目になったのが解る!
頬骨を押したら「ぐじゅ」って変な音がした!
肋骨のヒビのせいでくしゃみも安心してできない、大変な目に!
ホントもう戦いません!
ごめんなさい!
こんなの読んで、楽しんで頂けていれば良いのですが、どうなんだろう、マジで。
「うわあ…!」って思っちゃった方、本当にすみませんでした!
これからは、いつも通りの楽しいエピソードを紹介させて頂きます。
良い子の皆さん、俺とトメの真似はしないで下さいね。
――了――
あの熱い戦いを再び!
みたいな。
あの公園に行くと怪我をするイメージが拭えません。
ちなみにオフ会参加者様、まだ募集を締め切っていませんので、軽い気持ちで遊びにきてくださいねー!
自分もこのシリーズやクローズに影響されてどっちが強いかで一番の親友と殴り合ったものでした (∋_∈)
今となっては恥ずかしくてしょうがないっすね(笑)
まあ、結局はドシロウトなんですけどね
f^_^;