夢見町の史
Let’s どんまい!
2007
July 01
July 01
ある音楽レーベルの企画に参加させていただくことになりました。
ちょっとした創作活動です。
今回は実験ということで、試しに「音楽」というお題で短文を書くことになりました。
記念にここに載せておきますね。
それではフィクションの短い物語、2つ続けてお楽しみください。
<せめて何か持て>
スポットライトの光と熱気。
逆光だからといって、ステージから客席が見えないなんてことはない。
僕らの音楽は、今夜も大勢を奮い立たせている。
「ではここで!」
エコーを絞ったマイクに、僕は声を通す。
「メンバー紹介をしたいと思います! まずはドラム! タカシ!」
心臓に直接響いてきそうな打撃音が打ち鳴らされる。
タカシのドラムソロはいつ聴いても熱く、激しい。
「続いてベース!」
タカシのドラムに、心地よい低音がリズミカルに加わった。
「ユタカ!」
小刻みなドラムと全く同じリズムで、ユタカは弦を弾く。
言いたくはないけれど、さすがだ。
「続いて!」
僕はヒロシをちらと見て、彼を手で示す。
「エアギター! ヒローシ!」
ヒロシが、まるでそこにギターがあるかのように、何もない宙を強くかきむしる。
素晴らしくスピーディで、心が込められている。
最高に熱く、激動的で、ヒロシのそれは、まるで獅子が咆えるかのようだった。
無音の雄たけびだ。
ヒロシは鋭く頭を上下させ、やがて恍惚とした表情を浮かべると、力尽きたかのようにその場にしゃがみ込む。
同時に、客席から歓声と拍手が盛大に起こった。
「サンキュー!」
手ぶらのまま、ヒロシが叫んだ。
再び盛大な拍手。
なんで盛り上がるんだろう、うちのバンド。
<地球の名曲>
「人類最大の発明は何だと思う?」
友からの唐突な問いかけに、僕は戸惑う。
「急に言われても…。えっと、なんだろう。お金かなあ」
なんだか違うような気がするけれど、でも、正しいと思われる解答がなかなか思い浮かばない。
なんだろうなんだろう。
きっと身近な物に違いない。
「あ! 解った!」
突然閃き、僕は確信を口にする。
「言葉だ!」
自信のある答えだった。
しかし友はというと、フンと鼻を鳴らせただけだ。
「言葉? 確かに言語は優れた発明だ。しかし、使いこなせる人間は少ない」
彼女らしい、シビアな演説が始まる。
「相手に理解させるための説明ができる奴は極めて少ない。相手からの説明を理解できる奴など、さらに稀少だ。人類に言葉など、まだ早い。宝の持ち腐れだ」
相変わらず手厳しい。
では友は、何こそが人類最大の発明だと言うのだろうか。
「間違いなく、音楽こそが人類の宝だろうな」
言い切るからには彼女のことだ。
何かしらの根拠があるのだろう。
「生物学的には、生きることに音楽は必要ない。音楽が無いせいで滅ぶことなどないだろう。人が音楽に興じるということはつまり、生物として余裕があるということだ。他の生物だったら生きるだけで精一杯で、音楽どころじゃないだろうからな。音楽の発明は、人類が余裕のある生物であることを証明している」
なんだか難しいけれど、なるほどなあ、と思う。
でも同時に、そうかなあ、とも思う。
音楽は、人類だけのものではないような気がしたのだ。
僕らは例えば、恋愛をする。
それは種族繁栄のためを思ってするのでは、当然ない。
ある鳥は求愛のために鳴くとされているけれど、訊ねてみれば案外、「自分の声が好きでね。鳴きたいから鳴いているのさ」なんて、さらりとした答えが返ってくるかも知れない。
僕は立ち上がり、窓に手を伸ばす。
「何をしている?」
「君に、聴いてもらいたい曲があってね」
唄う当人たちにしてみれば、それは奏でることを楽しんでいるだけなのかも知れない。
音を楽しんでいるのなら、それはもう立派な音楽だ。
窓を開けると、秋の風が、鈴虫の音色を部屋に招き入れる。
「どうだい? 人間の他にも、優秀な音楽家がいるだろう?」
「ふむ、確かに」
珍しく友は自説を曲げたようだ。
僕らは長椅子に背を預け、ゆっくりと目を閉じる。
ちょっとした創作活動です。
今回は実験ということで、試しに「音楽」というお題で短文を書くことになりました。
記念にここに載せておきますね。
それではフィクションの短い物語、2つ続けてお楽しみください。
<せめて何か持て>
スポットライトの光と熱気。
逆光だからといって、ステージから客席が見えないなんてことはない。
僕らの音楽は、今夜も大勢を奮い立たせている。
「ではここで!」
エコーを絞ったマイクに、僕は声を通す。
「メンバー紹介をしたいと思います! まずはドラム! タカシ!」
心臓に直接響いてきそうな打撃音が打ち鳴らされる。
タカシのドラムソロはいつ聴いても熱く、激しい。
「続いてベース!」
タカシのドラムに、心地よい低音がリズミカルに加わった。
「ユタカ!」
小刻みなドラムと全く同じリズムで、ユタカは弦を弾く。
言いたくはないけれど、さすがだ。
「続いて!」
僕はヒロシをちらと見て、彼を手で示す。
「エアギター! ヒローシ!」
ヒロシが、まるでそこにギターがあるかのように、何もない宙を強くかきむしる。
素晴らしくスピーディで、心が込められている。
最高に熱く、激動的で、ヒロシのそれは、まるで獅子が咆えるかのようだった。
無音の雄たけびだ。
ヒロシは鋭く頭を上下させ、やがて恍惚とした表情を浮かべると、力尽きたかのようにその場にしゃがみ込む。
同時に、客席から歓声と拍手が盛大に起こった。
「サンキュー!」
手ぶらのまま、ヒロシが叫んだ。
再び盛大な拍手。
なんで盛り上がるんだろう、うちのバンド。
<地球の名曲>
「人類最大の発明は何だと思う?」
友からの唐突な問いかけに、僕は戸惑う。
「急に言われても…。えっと、なんだろう。お金かなあ」
なんだか違うような気がするけれど、でも、正しいと思われる解答がなかなか思い浮かばない。
なんだろうなんだろう。
きっと身近な物に違いない。
「あ! 解った!」
突然閃き、僕は確信を口にする。
「言葉だ!」
自信のある答えだった。
しかし友はというと、フンと鼻を鳴らせただけだ。
「言葉? 確かに言語は優れた発明だ。しかし、使いこなせる人間は少ない」
彼女らしい、シビアな演説が始まる。
「相手に理解させるための説明ができる奴は極めて少ない。相手からの説明を理解できる奴など、さらに稀少だ。人類に言葉など、まだ早い。宝の持ち腐れだ」
相変わらず手厳しい。
では友は、何こそが人類最大の発明だと言うのだろうか。
「間違いなく、音楽こそが人類の宝だろうな」
言い切るからには彼女のことだ。
何かしらの根拠があるのだろう。
「生物学的には、生きることに音楽は必要ない。音楽が無いせいで滅ぶことなどないだろう。人が音楽に興じるということはつまり、生物として余裕があるということだ。他の生物だったら生きるだけで精一杯で、音楽どころじゃないだろうからな。音楽の発明は、人類が余裕のある生物であることを証明している」
なんだか難しいけれど、なるほどなあ、と思う。
でも同時に、そうかなあ、とも思う。
音楽は、人類だけのものではないような気がしたのだ。
僕らは例えば、恋愛をする。
それは種族繁栄のためを思ってするのでは、当然ない。
ある鳥は求愛のために鳴くとされているけれど、訊ねてみれば案外、「自分の声が好きでね。鳴きたいから鳴いているのさ」なんて、さらりとした答えが返ってくるかも知れない。
僕は立ち上がり、窓に手を伸ばす。
「何をしている?」
「君に、聴いてもらいたい曲があってね」
唄う当人たちにしてみれば、それは奏でることを楽しんでいるだけなのかも知れない。
音を楽しんでいるのなら、それはもう立派な音楽だ。
窓を開けると、秋の風が、鈴虫の音色を部屋に招き入れる。
「どうだい? 人間の他にも、優秀な音楽家がいるだろう?」
「ふむ、確かに」
珍しく友は自説を曲げたようだ。
僕らは長椅子に背を預け、ゆっくりと目を閉じる。
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裏話のコーナーですよ。
ちなみに2つめの短編「地球の名曲」に登場する2人は、「永遠の抱擁が始まる2(http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/18/)」のエリーと教師だったりします。
この会話、いつか書きたいなあって思ってたんです。
書けたので満足。
この会話、いつか書きたいなあって思ってたんです。
書けたので満足。
目に浮かぶ様です。
名曲の方のふたりが
窓際で話す様子、
虫達の声がまるで聞こえてくる様でした。
エアギターを上手く絡めて笑わせてくれるのも、さすがです(^□^)
いつもどこかに必ず笑いや涙のスパイスを利かせるめささんが、モノを創造する時の私にとっていつもお手本になってます(^_^)
窓際で話す様子、
虫達の声がまるで聞こえてくる様でした。
エアギターを上手く絡めて笑わせてくれるのも、さすがです(^□^)
いつもどこかに必ず笑いや涙のスパイスを利かせるめささんが、モノを創造する時の私にとっていつもお手本になってます(^_^)
はじめまして。
めさサンのファンです。
面白すぎです。
前から読ませて頂いてたんですけど書き込みはせず・・。
でも今回の「エアギター」には本当にやられたので書き込みました。
これからもすんごい楽しみにしてます!
面白すぎです。
前から読ませて頂いてたんですけど書き込みはせず・・。
でも今回の「エアギター」には本当にやられたので書き込みました。
これからもすんごい楽しみにしてます!