夢見町の史
Let’s どんまい!
2010
July 31
July 31
【第1話・出逢い編】
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/380/
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「部活、ですか?」
新しい教科書を受け取るために職員室を訪れると、担任の安田先生があたしに提案をしてくれた。
「先生実はサッカー部の顧問をやっているんだけどな、マネージャーが足りなくて困ってるんだ。佐伯はもう3年生だけど、うちの部の3年生は秋まで引退しないから、是非と思ってな」
「でもあたし、マネージャーなんてやったこと…」
「なあに、誰だってみんなそうだ。どうだ? 思い出作りに」
「そういうことなら、まあ」
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シュート練習を終えて休憩していると、同期の近藤が俺の隣に腰を降ろした。
「ねえ春樹、転校生の佐伯さんっているじゃん」
「え? あ、ああ」
「お前、彼女とどんな関係なんだ?」
こいつはクラスが同じだし親友でもあるんだが、変な方向に好奇心を持つのが難点だ。
にやけ顔の近藤に、俺は拳をぶつける振りをする。
「あ、あんな奴、俺とはなんの関係もねーよ! ただ家が隣ってだけで…! だいたいなんでそんなこと訊くんだよ!?」
「なんだか仲いいなーって思ってね」
「ち、そんなんじゃねえよ! 俺は麗子さん一筋なんだから!」
「クラスのマドンナ、白鳥麗子さん、か。春樹には高嶺の花だな」
「うるせえな!」
しかし近藤の言う通りで、麗子さんは綺麗すぎてまともに声すらかけたことがないのが現状だったりする。
いや、綺麗なだけじゃない。
品性があって、おしとやかで、佐伯なんかとは雲泥の差ってやつだ。
「はあ。いいよなあ、麗子さん」
気づけば俺は声に出していた。
「あんな人がマネージャーだったら、俺めちゃめちゃシュート決めまくれるのに。品性があって、おしとやかで、佐伯なんかとは雲泥の差ってやつだ」
「品性なくって悪かったわね」
ぎょっとして振り返ると、なんと俺の真後ろには佐伯が怒りの表情で仁王立ちになっているじゃないか。
「お前、いつから!?」
「俺は麗子さん一筋なんだから! のところから」
どうやら俺は最高に恥ずかしい話を聞かれてしまったらしい。
軽く凹んでいると、パンパンと手を叩く音がする。
「お前たち、喜べー。我が桜ヶ丘学園サッカー部に新しいマネージャーが入ったぞ」
安田先生がにこやかに部員たちを集合させた。
「3年生の佐伯優子君だ。最初は解らないことも多いだろうから、みんなでフォローするようにな」
「あたしやっぱり辞めようかしら」
ドスの効いた佐伯の声がしたと同時に、俺は尻をつねられる。
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マネージャーとしての仕事はすぐに覚えられた。
選手の男子たちも、春樹以外はよくしてくれる。
なんだけど、1人だけあたしに対し、妙に感じの悪い子がいる。
あたしの気のせいだったらいいんだけど、2年生の美香ちゃんには嫌われているような気がして、なんだか苦手だ。
いつも春樹と口喧嘩をしていると睨んでくるし、仕事をサボっているように見えるのかな。
この部であたし以外の女の子は美香ちゃんだけだから、できれば仲良くしたいんだけど。
2チームに分かれて練習試合をしている部員たちを眺めながら、あたしはふうと息を吐く。
「あ!」
隣の美香ちゃんがベンチから立ち上がった。
その目を追うと、どうやら選手が転んで怪我をしたらしい。
あたしは救急箱を掴むと、コートの中央目がけて走り出す。
「なあんだ、あんたか」
輪になっている選手たちをかき分けて怪我人の元に行くと、「いてて」と足を押さえているのは春樹だった。
「転んだの? ったく、ドジねー」
「なんだよ、うるせえなー。名誉の負傷ってやつだろ?」
「はいはい。ちょっと待ってて。今手当て…」
あたしが言えたのはそこまでだった。
後ろからドンと誰かに押され、あたしは小さく横にはじかれる。
美香ちゃんがあたしを押しどけたのだ。
「春樹先輩、大丈夫ですか!?」
「え、あ、ああ」
美香ちゃんは春樹の上半身を抱きかかえるようにして足の怪我を案じている。
「今、手当てしますから!」
そう宣言すると、美香ちゃんはあたしから救急箱を奪い取る。
同時に、彼女は怒ったような目であたしを見た。
「佐伯先輩。春樹先輩頑張ってるのに、その言い方はないんじゃないですか?」
明らかな敵意を感じ、あたしは思わず言葉に詰まる。
春樹の怪我は軽い捻挫だったけど、あたしの心は重くなった。
練習が終わったあと、女子更衣室で着替えている瞬間は特に重たい雰囲気だ。
美香ちゃんと2人きりだから、あたしはどうにか空気を変えようと口を開く。
「美香ちゃん、あのさ、さっきはごめんね?」
「いえ、こちらこそ、すみません」
その言葉とは裏腹に、美香ちゃんの態度はツンとしている。
あたしは、あえて笑顔を作った。
「春樹の怪我、たいしたことなくってよかったね」
「佐伯先輩」
「はい?」
美香ちゃんの目が、まっすぐにあたしへと向けられる。
「佐伯先輩は、春樹先輩のこと、どう思ってるんですか?」
「ちょ、やだなー。あんな奴、別にどうとも思ってなんか…」
「あたし、春樹先輩のこと、本気ですから」
「え!? いや、そんな、美香ちゃん、なんか勘違い…」
「失礼します」
着替え終えた美香ちゃんはそそくさと部屋を後にする。
------------------------------
夕食後の格闘ゲームを楽しんでいたら、いきなり窓ががらがらと開いて俺を驚かせた。
佐伯がまた勝手に俺の部屋に入ってくる。
大吾郎がにゃーと嬉しそうに佐伯に飛びついた。
「な、なんだよ! またお前かよ!? 勝手に入ってくんなよな!」
「だって鍵かかってないんだもん。あ、大吾郎ー。ちょっと大きくなったねー。ご主人様のネーミングセンスが悪くなければもっとよかったのにねー」
「うるせえな! 何しに来たんだよ!」
佐伯は断りなく人のベットに腰を下ろすと、大吾郎を抱きながらまじまじと俺の顔を見つめる。
これじゃあゲームに集中できない。
「な、なんだよ」
「こんな奴のどこがいいんだろ?」
「え…?」
「ううん、なんでもないっ!」
「変な奴だな」
すると佐伯が「あのさ」とかしこまる。
「あんたさ、好きな子とかっているの?」
その質問に、不覚にもドキッとしてしまった。
「な、急になんだよ」
「やっぱり麗子さん?」
「べ、別にいいだろ?」
「麗子さんとあんたじゃ釣り合わないよ」
「余計なお世話だ! だいたいお前はどうなんだよ!?」
「知ーらないっ! じゃあね」
言うと同時に佐伯は腰を挙げ、大吾郎を降ろす。
窓から自分の部屋へと帰っていった。
さっぱり意味が解らない。
あいつ、一体なんの用事があったんだ?
「ったく、おとなしく宿題でもしてりゃいいのに」
改めてゲームのコントローラーを握り直すと、俺はハッとなってすぐにそれを放り投げる。
「そうだ! 宿題!」
俺は大慌てで窓を開け、佐伯の部屋に踏み込んだ。
「佐伯! ノート貸してくれ! 宿題やるの忘れ…」
「きゃあ!」
脱いだシャツで胸を隠し、佐伯がその場でうずくまる。
俺の顔は一瞬にして赤くなった。
どう見ても着替え中だ。
「っこの、バカーッ!」
全力で殴られる。
足の怪我より酷い重症を負わされたんじゃないか?
俺はやっぱり麗子さんみたいな清楚な人がいい。
続く。
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新しい教科書を受け取るために職員室を訪れると、担任の安田先生があたしに提案をしてくれた。
「先生実はサッカー部の顧問をやっているんだけどな、マネージャーが足りなくて困ってるんだ。佐伯はもう3年生だけど、うちの部の3年生は秋まで引退しないから、是非と思ってな」
「でもあたし、マネージャーなんてやったこと…」
「なあに、誰だってみんなそうだ。どうだ? 思い出作りに」
「そういうことなら、まあ」
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シュート練習を終えて休憩していると、同期の近藤が俺の隣に腰を降ろした。
「ねえ春樹、転校生の佐伯さんっているじゃん」
「え? あ、ああ」
「お前、彼女とどんな関係なんだ?」
こいつはクラスが同じだし親友でもあるんだが、変な方向に好奇心を持つのが難点だ。
にやけ顔の近藤に、俺は拳をぶつける振りをする。
「あ、あんな奴、俺とはなんの関係もねーよ! ただ家が隣ってだけで…! だいたいなんでそんなこと訊くんだよ!?」
「なんだか仲いいなーって思ってね」
「ち、そんなんじゃねえよ! 俺は麗子さん一筋なんだから!」
「クラスのマドンナ、白鳥麗子さん、か。春樹には高嶺の花だな」
「うるせえな!」
しかし近藤の言う通りで、麗子さんは綺麗すぎてまともに声すらかけたことがないのが現状だったりする。
いや、綺麗なだけじゃない。
品性があって、おしとやかで、佐伯なんかとは雲泥の差ってやつだ。
「はあ。いいよなあ、麗子さん」
気づけば俺は声に出していた。
「あんな人がマネージャーだったら、俺めちゃめちゃシュート決めまくれるのに。品性があって、おしとやかで、佐伯なんかとは雲泥の差ってやつだ」
「品性なくって悪かったわね」
ぎょっとして振り返ると、なんと俺の真後ろには佐伯が怒りの表情で仁王立ちになっているじゃないか。
「お前、いつから!?」
「俺は麗子さん一筋なんだから! のところから」
どうやら俺は最高に恥ずかしい話を聞かれてしまったらしい。
軽く凹んでいると、パンパンと手を叩く音がする。
「お前たち、喜べー。我が桜ヶ丘学園サッカー部に新しいマネージャーが入ったぞ」
安田先生がにこやかに部員たちを集合させた。
「3年生の佐伯優子君だ。最初は解らないことも多いだろうから、みんなでフォローするようにな」
「あたしやっぱり辞めようかしら」
ドスの効いた佐伯の声がしたと同時に、俺は尻をつねられる。
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マネージャーとしての仕事はすぐに覚えられた。
選手の男子たちも、春樹以外はよくしてくれる。
なんだけど、1人だけあたしに対し、妙に感じの悪い子がいる。
あたしの気のせいだったらいいんだけど、2年生の美香ちゃんには嫌われているような気がして、なんだか苦手だ。
いつも春樹と口喧嘩をしていると睨んでくるし、仕事をサボっているように見えるのかな。
この部であたし以外の女の子は美香ちゃんだけだから、できれば仲良くしたいんだけど。
2チームに分かれて練習試合をしている部員たちを眺めながら、あたしはふうと息を吐く。
「あ!」
隣の美香ちゃんがベンチから立ち上がった。
その目を追うと、どうやら選手が転んで怪我をしたらしい。
あたしは救急箱を掴むと、コートの中央目がけて走り出す。
「なあんだ、あんたか」
輪になっている選手たちをかき分けて怪我人の元に行くと、「いてて」と足を押さえているのは春樹だった。
「転んだの? ったく、ドジねー」
「なんだよ、うるせえなー。名誉の負傷ってやつだろ?」
「はいはい。ちょっと待ってて。今手当て…」
あたしが言えたのはそこまでだった。
後ろからドンと誰かに押され、あたしは小さく横にはじかれる。
美香ちゃんがあたしを押しどけたのだ。
「春樹先輩、大丈夫ですか!?」
「え、あ、ああ」
美香ちゃんは春樹の上半身を抱きかかえるようにして足の怪我を案じている。
「今、手当てしますから!」
そう宣言すると、美香ちゃんはあたしから救急箱を奪い取る。
同時に、彼女は怒ったような目であたしを見た。
「佐伯先輩。春樹先輩頑張ってるのに、その言い方はないんじゃないですか?」
明らかな敵意を感じ、あたしは思わず言葉に詰まる。
春樹の怪我は軽い捻挫だったけど、あたしの心は重くなった。
練習が終わったあと、女子更衣室で着替えている瞬間は特に重たい雰囲気だ。
美香ちゃんと2人きりだから、あたしはどうにか空気を変えようと口を開く。
「美香ちゃん、あのさ、さっきはごめんね?」
「いえ、こちらこそ、すみません」
その言葉とは裏腹に、美香ちゃんの態度はツンとしている。
あたしは、あえて笑顔を作った。
「春樹の怪我、たいしたことなくってよかったね」
「佐伯先輩」
「はい?」
美香ちゃんの目が、まっすぐにあたしへと向けられる。
「佐伯先輩は、春樹先輩のこと、どう思ってるんですか?」
「ちょ、やだなー。あんな奴、別にどうとも思ってなんか…」
「あたし、春樹先輩のこと、本気ですから」
「え!? いや、そんな、美香ちゃん、なんか勘違い…」
「失礼します」
着替え終えた美香ちゃんはそそくさと部屋を後にする。
------------------------------
夕食後の格闘ゲームを楽しんでいたら、いきなり窓ががらがらと開いて俺を驚かせた。
佐伯がまた勝手に俺の部屋に入ってくる。
大吾郎がにゃーと嬉しそうに佐伯に飛びついた。
「な、なんだよ! またお前かよ!? 勝手に入ってくんなよな!」
「だって鍵かかってないんだもん。あ、大吾郎ー。ちょっと大きくなったねー。ご主人様のネーミングセンスが悪くなければもっとよかったのにねー」
「うるせえな! 何しに来たんだよ!」
佐伯は断りなく人のベットに腰を下ろすと、大吾郎を抱きながらまじまじと俺の顔を見つめる。
これじゃあゲームに集中できない。
「な、なんだよ」
「こんな奴のどこがいいんだろ?」
「え…?」
「ううん、なんでもないっ!」
「変な奴だな」
すると佐伯が「あのさ」とかしこまる。
「あんたさ、好きな子とかっているの?」
その質問に、不覚にもドキッとしてしまった。
「な、急になんだよ」
「やっぱり麗子さん?」
「べ、別にいいだろ?」
「麗子さんとあんたじゃ釣り合わないよ」
「余計なお世話だ! だいたいお前はどうなんだよ!?」
「知ーらないっ! じゃあね」
言うと同時に佐伯は腰を挙げ、大吾郎を降ろす。
窓から自分の部屋へと帰っていった。
さっぱり意味が解らない。
あいつ、一体なんの用事があったんだ?
「ったく、おとなしく宿題でもしてりゃいいのに」
改めてゲームのコントローラーを握り直すと、俺はハッとなってすぐにそれを放り投げる。
「そうだ! 宿題!」
俺は大慌てで窓を開け、佐伯の部屋に踏み込んだ。
「佐伯! ノート貸してくれ! 宿題やるの忘れ…」
「きゃあ!」
脱いだシャツで胸を隠し、佐伯がその場でうずくまる。
俺の顔は一瞬にして赤くなった。
どう見ても着替え中だ。
「っこの、バカーッ!」
全力で殴られる。
足の怪我より酷い重症を負わされたんじゃないか?
俺はやっぱり麗子さんみたいな清楚な人がいい。
続く。
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