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夢見町の史

Let’s どんまい!

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2024
November 23
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2010
August 04

【第1話・出逢い編】
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/380/

【第2話・部活編】
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/381/

【第3話・肝試し編】
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/382/

【第4話・海編】
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/383/

【第5話・無人島編】
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/384/

【第6話・文化祭編】
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/385/

------------------------------

「文化祭では迷惑をかけたね」

 秋の風が伊集院の髪を乱す。
 俺は「別にいいよ」とさらりと言った。

 伊集院はわざわざ、そのことを詫びるためだけに俺をここに呼び出したのだろうか。

 校舎の屋上に出ていると風が強く、わずかに寒い。
 俺はぶるっと身震いをする。

「伊集院、盲腸はもういいのかよ?」

 手櫛で髪を整えると、伊集院は「おかげさまでね」とはにかむ。

「退院してからは順調そのものだよ」
「そりゃ何よりだ」
「春樹君」
「ん?」
「君に訊きたいことがあるんだ。真剣に答えてくれ」
「なんだよ、急に改まって」
「君と佐伯さんは、どういう関係なんだい?」
「な…!」

 思いがけない質問だった。
 反射的に焦って、俺は強がりを見せる。

「べ、別にあいつとはなんにもねーよ! あいつとはただの腐れ縁で…! たまたま家が隣ってだけで…!」
「それを聞いて安心したよ」
「え? なにが」
「僕が佐伯さんに交際を申し込んでも、問題ないということでいいんだね?」
「え? いや、まあ、お、おう」

 ついいつものクセで、俺は胸を張る。

「あ、あいつがいいって言えば、いいんじゃねえか?」
「そうか」

 伊集院が再び「それを聞いて安心したよ」と髪をかき上げる。

------------------------------

 いつものように、あたしは自室の窓から手を伸ばし、春樹の部屋の窓を勝手にあける。
 春樹はまた格闘ゲームをやっていた。
 コントローラーを持って「なんだよ、またお前かよ」と毎度のセリフを口にしている。

「お邪魔するよー」
「ったく、せめてノックぐらいしろよな!」
「なによ今さら。いいでしょ? 別に」

 あたしは足元に擦り寄ってきた猫を抱き上げ、定位置である春樹のベットに腰を下ろす。
 ただ呆然と、あたしはゲーム画面を眺めていた。
 筋肉質のレスラーと、線の細いチャイナ服の女の子が、時折手から光線のようなものを発射しながら戦っている。

「今日はなんの用だよ」

 あたしが黙り込んだままでいたからだろう。
 画面に注目したまま、春樹がそう訊ねてきた。

「あのさ?」

 あたしは静かに、大吾郎の頭を撫でる。

「あたし、伊集院君から告白されちゃった」

 ちゅどーん。
 と、テレビから音がした。
 画面には「ゲームオーバー」と表示されている。
 春樹はどうやら負けてしまったようだ。
 コントローラーをかちゃかちゃと操作しながら、コンテニューを選択している。

「で、なんて答えたんだよ?」
「ううん、返事はまだ。『もし交際してくれるなら、次の日曜に学校のピロティまで来てほしい』って言われただけ」
「次の日曜って、3年の引退試合の日だぞ。マネージャー休むのかよ」

 自分が動かすキャラクターを選ぶと、春樹はポンとボタンを押した。
 その横顔を見ながら、あたしは溜め息混じりに口を開く。

「あたし、どうしたらいいかな?」
「そ、そんなの、お前の好きにしたらいいじゃねえか。なんで俺に訊くんだよ」

 こっちに顔すら向けないその春樹の態度に、あたしは少しカチンとくる。

「なによ!」

 テレビが「ファイッ」と戦闘開始を合図した。

「あたしが伊集院君と付き合ってもいいって言うの!?」
「そんなのお前の問題だろ!? 俺が決めることじゃねえじゃねえか!」
「なによそれ!? 春樹はあたしが誰と付き合おうが関係ないんだ!?」
「そういうことじゃなくて!」
「じゃあどういうことよ!」

 大吾郎があたしの膝から降り、ベットの下へと避難する。
 気づけばあたしは立ち上がっていて、ゲームを続ける春樹を見下ろす形になっていた。

「あんたっていつもそう! 人の気も知らないで!」
「なんだと!?」
「なによ!」

 あたしは乱暴に窓をガラガラと開け放つ。

「もういい! あたし次の日曜、試合見に行かないから!」

 自分の部屋の窓も開けて、あたしは淵に足をかけた。

「どういうことだよ!?」

 背後からした春樹の声に、あたしは勢い余って断言をする。

「伊集院君はあんたと違って頭もいいしカッコイイし紳士的だし、せっかく日曜待っててくれるんだからピロティまで行ってくる!」

 テレビがまた「ちゅどーん」と音を立てた。
 黙り込んでしまった春樹を尻目に、あたしは窓をまたいで部屋へと戻る。
 荒々しく窓を閉め、しゃっとカーテンを引いた。

 なによ、あいつ。

 握っていたカーテンを離し、あたしはそこに寄りかかる。

「もう、鈍感なんだから」

 その晩は、なかなか寝つけなかった。
 あたしは悩みに悩んだ末、1つの決心をして布団に潜り込む。

 翌日。
 あたしは練習の後に、顧問の安田先生に時間を作ってもらっていた。
 先生が体育教官室のドアを開ける。

「なんだ佐伯、先生に相談って」
「実は、次の日曜なんですけど…」

 サッカー部の3年生たちによる高校最後の引退試合は、親交の深い他校にて行われる。
 あたしはその日、用事があってそこには行けませんと先生に告げた。

「休むのは構わんが、どうしたんだ佐伯? 顔色が良くないぞ?」
「いえ、なんでもありません」
「まあ、入れ」

 教官室に招き入れられ、あたしは椅子を勧められる。
 先生がコーヒーを淹れてくれた。

「ほら、飲め。砂糖とミルクはそこにあるから」
「あ、ありがとうございます」

 ふうふうと冷ましながらカップに口をつける。
 先生は何も言わず、あたしの正面に椅子を持ってきて座った。

「美味いか?」
「はい」

 あたしは顔を伏せ、黙ってコーヒーをいただく。
 そうしていたら、両手で抱え込むようにして持たれているカップに、ポタリと雫が落ちた。
 ポタリ。
 ポタリ。
 またポタリ。

 いつの間にか、あたしは肩を小刻みに上下させ、ひっくひっくと顔をくしゃくしゃにしている。

「やっぱり悩みがあるんだな? そういうのはな、佐伯。誰かに聞いてもらうだけでも、楽になるもんだ」

 下を向いていたので見えなかったけど、先生はきっとこのとき、優しげに微笑んでいた。

------------------------------

 あれから眠れない日が続いたせいか、今日のコンディションは最悪だ。
 シュートをミスるどころか、ろくにパスも回せないし、なんだか足が上手く回転しない。

 あいつそろそろ、ピロティで伊集院と逢うんだろうな。

 佐伯の顔が、どうしても頭から離れないでいる。
 ぼんやりしていると俺の目の前をボールが通り過ぎ、それを相手チームの選手がさらっていった。

「春樹ー! なにやってんだ!」

 安田先生の怒声がして、俺はハッとなる。

「す、すみません!」

 すると、あっけなく前半戦の終了を告げるホイッスルが鳴り響いた。

「春樹、ちょっと来い」

 ハーフタイム中、先生がグランドの隅に俺を呼び出す。

「さっきのプレイは一体なんなんだ!?」
「すみません!」

 深々と頭を下げたが、先生の怒りは収まりそうもない。

「あんなんじゃ、チームの足を引っ張るだけだ!」
「はい! 後半戦は気をつけます!」
「後半戦?」

 先生はフンと鼻を鳴らす。

「お前みたいな奴は、後半戦に出せん」
「そんな! お願いします! 今後は気をつけるんで出させてください!」
「駄目だ駄目だ! 佐伯から聞いたぞ。お前どうせ、佐伯のことが気になって試合に集中できなかったんだろ? そんな軟弱な精神の奴を試合に出すことはできん!」
「いえ、もう大丈夫です! 試合に集中します! だからプレイさせてください!」
「駄目だと言っているだろう! 前半でみんなの足を引っ張った罰だ」

 先生は尻のポケットから財布を取り出すと、千円札を何枚か取り出して俺に握らせる。

「これでみんなの分のジュースを買ってこい! …桜ヶ丘学園のピロティまでな」
「…え?」
「俺、コーラな。先生、そこで売っているコーラしか口に合わないんだ」
「先生…」

 ニヤリと笑ったかと思うと、先生は踵を返す。
 すたすたと遠ざかってゆく安田先生の背中に、俺は精一杯に頭を下げた。

「すみませんでした! 行ってきます!」

 俺に背を向けたまま、先生がひらひらと片手を挙げる。

「行きのタクシー代も持たせたけどな、帰りは炭酸が抜けないようにゆっくり戻ってこいよ」
「はい!」

 ユニフォーム姿のまま、俺は走り出す。

------------------------------

「待ってたよ、佐伯さん」

 自販機横のベンチに座っていた伊集院君が、すっと立ち上がってあたしに歩み寄る。

「ここに来てくれたってことは、僕と交際してくれるんだね?」

 あたしは手を前で軽く組み、つま先を見つめている。
 口を開かないあたしに、伊集院君は「どうかしたのかい?」と優しく訊ねた。

 あたしは意を決し、バッと頭を下げる。

「ごめんなさい! 今日は、伊集院君にお礼を言いに来たんです」
「お礼?」
「はい。こんなあたしなのに好きになってくれて、ありがとうございました!」

 しばらくの静寂。
 あたしはゆっくりと頭を上げる。
 なんだけど申し訳ない気持ちばっかりで、またしても自分のつま先に目がいってしまう。

 伊集院君が「そうか」と溜め息をついた。

「そんなことだろうと思っていたよ。君は、やっぱり春樹君のことが好きなんだね」

 あたしはゆっくりと顔を上げ、しっかりと伊集院君の目を正面から見据える。

「はい、好きです」

 はっきりと答えることが、せめてもの誠意だと思った。

「参ったな」

 伊集院君が自嘲気味に笑う。

「やっぱり君たちの絆には敵わなかったってわけか」
「絆なんて、そんな!」

 あたしは手をぶんぶんと振った。

「あいつきっと、あたしに興味なんてないんですよ」

 泣きたくなるのをこらえながら、あたしはへらへらと笑ってみせる。

「あいつ、今日のことだって話したのに無関心だったんです。あたしを引き止めてくれなかったし…。だからこれ、あたしの片想いなんです」
「そうでも、ないみたいだよ?」
「え?」

 伊集院君が指差す方向に目をやる。
 遠く、学校の外にタクシーが止まっていて、見慣れたユニフォームが代金を支払っているのが見えた。

「さてと、邪魔者は退散しますか」

 気取った素振りで肩をすぼめると、伊集院君があたしに右手を差し出す。

「佐伯さん、素敵な恋だった。ありがとう」

 あたしはその手を握る。

「はい」
「お幸せに」

 手を離すと、伊集院君は颯爽と歩き出し、タクシーとは逆方向へと去っていった。

「おーい!」

 遠くから聞きなれた声がする。

「佐伯ー!」
「なによー」

 あたしは後ろ手を組んで、てくてくと春樹に向かって歩き出す。

「あんた、試合はどうしたのよ?」

 春樹はぜいぜいと肩で息をさせている。

「そんなことより、伊集院は?」
「もう帰ったよ」
「そうなのか。それで、どうなったんだ?」
「どうなったって、なにがー?」

 あたしは意地悪く笑う。
 春樹は「だから、その、付き合うことになったのか?」とおろおろするばかりだ。

 あたしは春樹の手を取った。

「行こ」
「え、でも、その」
「まだ試合、終わってないんでしょ?」
「え、ああ、そうだな。先生と、あとみんなにジュース買って戻らねえと」

 春樹が自販機に千円札を入れる。

 大量のスポーツドリンクと、コーラを1本。
 袋も鞄もないのに、そのジュースどうやって運ぶのよ。
 全くバカねと、あたしは春樹の腰を叩いて、そして笑った。

 続く。
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/387/

拍手[17回]

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ピロティ理解w
この小説を見直して思い出して、
ピロティをうぃきで調べましたw

実はピロティの意味を全く知らないで
朗読を聞いていたので
やっと意味がわかってすっきりしましたw

・・・と話は変わって。

佐伯ちゃん、ぐいぐいきてますね。
春樹の鈍感さにもう佐伯ちゃん以上に

んぐぅぅぅぅとなりながら読みましたww

もう本当に伊集院ちゅどーんしたいですねw

でも、二人にとっては重要人物ですよね。

個人的には、先生に恋しそうですww
黒猫月(くろねこづき): 2012.08/03(Fri) 21:38 Edit
個人的に
伊集院君みたいに周りを見渡せる人が好きです。
私としては伊集院君編を期待してやまないのですが(笑)。

学生の頃の「なぜか素直になれない甘酸っぱい恋」って、全国共通なのでしょうか。
ムフムフしっぱなしです( ´艸`)

執筆お疲れさまでした。(●´∀`●)
こころ: 2012.08/25(Sat) 15:40 Edit
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プロフィール
HN:
めさ
年齢:
48
性別:
男性
誕生日:
1976/01/11
職業:
悪魔
趣味:
アウトドア、料理、格闘技、文章作成、旅行。
自己紹介:
 画像は、自室の天井に設置されたコタツだ。
 友人よ。
 なんで人の留守中に忍び込んで、コタツの熱くなる部分だけを天井に設置して帰るの?

 俺様は悪魔だ。
 ニコニコ動画などに色んな動画を上げてるぜ。

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