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夢見町の史

Let’s どんまい!

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2017
June 29
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2010
August 05

【第1話・出逢い編】
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/380/

【第2話・部活編】
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/381/

【第3話・肝試し編】
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/382/

【第4話・海編】
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/383/

【第5話・無人島編】
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/384/

【第6話・文化祭編】
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/385/

【第7話・恋のライバル編】
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/386/

【第8話・クリスマス編】
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/387/

【第8.5話・恋のライバル編Ⅱ】
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/506/

------------------------------

 顔も手もエプロンも、真っ黒でベタベタだ。
 それでもあたしは一生懸命、鍋の中をかき回し続ける。

 初めての挑戦とはいえ、あたしは明らかに苦戦をしていた。
 あたしの背後には数々の失敗作が山盛りになっている。

「うーん…」

 今まで作ったやつの中で最もマシと思われるそれを眺め、あたしは悩む。
 一応ハートっぽい形にはなっているけど、それでもどこか美しくない。
 これだと確実に手作りだってことがバレてしまうだろう。

「でもまあ、いっか!」

 あたしは不恰好なチョコレートを小箱に入れて、不器用ながらも梱包してゆく。

------------------------------

 1年の中で男子生徒が最もそわそわする日が今日だろう。
 少なくとも俺にとってはそうだ。

 佐伯の奴は果たしてチョコなんて用意するのだろうか。
 あの性格だ。
 ないかも知れない。
 直接「俺にチョコあるのか?」なんて恥ずかしくて訊けないし、訊いたところで答えはないだろう。
 一緒に初詣に行ったときも、そうだった。

「なあ、やたら長いこと手ェ合わせてたけど、なにをお参りしたんだ?」
「んふふ。内緒っ!」

 なんでいつも教えてくれないんだ、あいつは!

 登校中での会話は普通だったし、下駄箱の中には当然のように上履きしか入っていない。

 いや別に、俺は最初から期待なんてしてねえし、今後もしねえけどな!

 内心強がってみたものの、どうにも気分が落ち着かないから不思議だ。

------------------------------

 問題は渡し方だ。
 考えてみたらあたしは今日、全くのノープランなのだ。
 緊張せずに済み、かつ想いが届くような、それでいてさり気ない渡し方ってないものだろうか。
 そもそもなんて言って渡せばいいんだろう。
 これが義理チョコだったら簡単だったのに。
 あいつと話していると、ついいつもみたいに言い合っちゃうこともハードルの1つだ。
 難しいなあ。

 なんて悩んでいたら、あっという間に昼休みになってしまった。
 いつチャンスがあるか解らない。
 あたしは誰にも見られないように、小箱をブレザーのポケットに忍ばせた。

「春樹ー!」
「おう」

 向こうから「チョコくれよ」とねだられるのが1番楽だ。
 あたしはわざと今日のことを口にする。

「そ、そういえば今日、バレンタインだね」
「え!?」

 春樹が小さく飛び上がる。

「そ、そうだったっけ!? いやあ、気づかなかったなあ!」

 わざとらしく見えるのはあたしの気のせいだろうか。

 ヒューヒューと、誰かが口笛を鳴らした。
 突然の音に、あたしたちはぎょっとなる。

 春樹は口笛の主に「そんなんじゃねえよ!」と、どんなんだか解らない言い訳をした。

 駄目だ。
 教室だと人目がありすぎる。

「春樹、屋上行こ」
「え、お、おう。別に、俺は別に構わねえぜ?」

 あたしたちの背に再び口笛が浴びせられる。

------------------------------

 屋上に出ると、佐伯はもじもじと俺に小箱を差し出した。

「春樹、これ…」
「これは、なんだい?」
「い、言わせないでよ。その、バレンタインの、チョコレート。あんたのために、あたし、頑張って作ったんだ」
「これを? 俺にかい?」
「うん。あたし、ずっと前から春樹のことが好きだったの」
「えええーッ!? なんだってェ!?」
「春樹! 大好き! だから、あたしと付き合ってください!」
「フッ! まあ、お前がそこまで言うんなら、俺は構わないぜ?」

 なんていう妄想が止まらない。

 佐伯の奴、やっぱり俺にチョコくれるのか…?
 これはそう考えていいんじゃねえか?
 だって屋上だぜ?
 誰もいない屋上に誘うってことは、これはもうチョコしかないんじゃねえか?

 右足と右手が同時に出て、歩きにくい。

 屋上へと続く扉を押し開けると、俺と佐伯は同時に「あ」と気マズくなった。

 そこには点々と生徒がいて、女子が恥ずかしそうにチョコを差し出し、照れながら男子がそれを受け取っている。

「も、戻ろっか」

 と佐伯が言い、

「そ、そうだな」

 と俺が答える。

------------------------------

 教室に戻ろうと、あたしたちは並んで廊下を行く。

 緊張しすぎて、なんだか疲れた。
 とりあえず、今渡すって計画は置いておこうかな。
 考えてみれば、夜に春樹の部屋を襲撃したっていいわけだし。

 あたしは肩から力を抜いた。

「春樹」
「ん?」
「あんたまだ誰からもチョコ貰ってないでしょ」
「バ、バカ言えよ! も、もう結構貰ったぜ!?」
「ふうん、いくつ?」
「ひゃ、ひゃ、ひゃ、100個ぐらい?」
「あはは!」

 明らかな嘘に、あたしはつい噴き出す。

「あんたさっき、今日がバレンタインデーだってこと、気づかなかったなんて言ってたクセに!」
「う、うるせえな!」
「やっぱり貰ってないんだ?」
「やっぱりってなんだよ!? ったく、女どもは見る目がねえからな」
「モテない男ってみんなそう言いそう」
「うるせえな! 別にチョコなんて貰ったって嬉しくなんかねえよ!」
「強がり言っちゃって」

 と、ここでふと思う。

 あれ?
 もしかして、今ってチャンス?
 あたしの中に次のセリフが浮かんだ。

「どうせ誰からも貰えないんでしょ? 可哀想だからあげる」

 それよ!
 これならさらりと渡せる!

 あたしは意を決してポケットの中の、小さな箱に手を添える。

「ど、どうせ誰からも貰えないんでしょ? か、可哀想だから、あ、あげ」
「春樹せんぱーい!」

 いきなり後ろから女の子の声が。
 2年生の美香ちゃんだ。

「春樹先輩、探しましたよ!」
「へ? 俺を?」

 美香ちゃんは春樹に飛びつきそうな勢いだ。

「先輩! ちょっとこっち来てください!」
「え? え? え?」

 ずるずると美香ちゃんに引きづられるようにし、春樹がどこかに連れ去られてしまった。
 あたしはその場に立ち尽くし、ただぽかんと「可哀想だから、あげる…」と口をぱくぱくさせている。

 可哀想なのは自分のような気がしてならない。

------------------------------

 空気の読めない奴ってのはどこにでもいる。
 うちのクラスだと、山田がそれだ。

 帰りのホームルームが終わって、帰り支度をしていたときのことだった。
 山田の鞄が当たって、俺の鞄を床に落とす。

「あ、ごめん春樹」

 しかし時既に遅く、俺の鞄は中身をぶちまけてしまっていた。
 教科書やノートとは別に、さっき美香から貰ったチョコレートと手紙までもが床に広がっている。
 その2つは大急ぎで鞄の中に戻したが、やはり何人かに見られてしまったみたいだ。
 男子生徒たちが大騒ぎを始める。

「今慌てて隠したのって、チョコかよ春樹!?」
「手紙もあったよな!? 今!」
「おーい、全員注目ー! 春樹がチョコ貰ってたぞー!」
「佐伯からかー!?」
「ひゅーひゅー!」
「う、うるせえな! そんな騒ぐんじゃねえよ!」

 必死になって皆を静めていると、山田が不思議そうに首を傾げた。

「でも春樹、お前昔っから甘いの苦手じゃん」

 馬鹿野郎!
 それだけは今日1番言ったら駄目な情報だろ!
 美香には悪いけど、チョコは内緒で近藤に喰ってもらおうと思ってたんだ!

「ああ」

 と、俺は頭を抱えて机に突っ伏す。

 背後から、佐伯の鋭い視線を感じる。

------------------------------

 あたしはもう焦るのをやめた。
 チョコを渡すのを諦めたら、気が楽になった。

 昨日あれだけ頑張ったあたしがバカみたいじゃない。
 甘い物が食べられないなら食べられないで、ちゃんと前もって言っておきなさいよ、バカ。

 帰り道。
 スタスタと歩いていると、春樹があたしの後から着いてくる。

「佐伯、なんか怒ってるか?」
「怒ってなんかないわよ」

 美香ちゃんからの手紙にはなんて書いてあったの?
 なんて、怖くて訊けない。

 あたしは少し、歩くペースを上げた。

「おい、佐伯」
「うるさいわね」
「やっぱり怒ってるだろ、お前」
「怒ってないったら!」
「なんだよ? お前、もしかして妬いてるのか?」
「ち、ちが…!」

 そういうこと普通、ストレートに訊く?
 なんてデリカシーのない男なんだろう。
 無神経さに呆れて溜め息が出る。

 あたしはふうと息を吐いた。

「あーあ~。なんであたし、こんな奴のこと、好きになっちゃったんだろ…」
「ん? なんか言ったか?」
「なんでもない!」

 あたしはさらに歩調を強めた。
 すると、春樹もそれに合わせてくる。

 もう!
 なんで着いて来るのよ!

 段々と腹が立って、あたしはついに駆け出した。

「おい、佐伯! さっきからなに怒ってんだよ!」

 春樹の足音と声が背後から聞こえる。

「おい、佐伯ったら!」
「知らない!」
「おい、待てよ!」
「やだ!」
「ちょっと待てったら!」
「嫌ったら嫌!」
「あれ? おい! お前、なんか落としたぞ?」
「へ?」

 振り返ると、あたしは「げ!」と青ざめる。
 春樹が赤い小箱を手にし、首を傾げている。

「なんだこりゃ」
「か、返して!」

 顔を真っ赤にして、あたしは春樹に詰め寄る。
 チョコを奪い返すと、恥ずかしさに耐えられなくって、あたしは顔を伏せた。
 そんなあたしの顔を、春樹は覗き込む。

「もしかして、それ…」
「なんでもないったら!」

 逃げ出したくなって、あたしは再び走り出そうと足を前に出す。
 気が急いていたらしく、その足がもつれた。

「危ねえ!」

 そこからはまるでスローモーションのように、あたしにはゆっくりと見えた。

 転倒しそうになったあたしの両腕を、春樹の両手が力強く掴む。
 手首のあたりを持たれて、あたしは万歳をするような恰好になった。
 頭の中が空っぽになって、あたしの口は半開きになり、すぐそこにある春樹の顔から視線を外すことができない。

 春樹は、真剣な顔をしていた。

 あたしの手から、小箱がするりと抜け、落ちる。
 箱はガードレールにこんと当たって、道路側へと弾む。
 それがぽとりとアスファルトに落ちたところで、時間の流れは元に戻った。

 次の瞬間。
 1台のトラックがあたしたちの横を、チョコの上を通り過ぎる。

「あ!」

 思わず叫ぶ。

 箱は無残にもぺちゃんこに潰れ、平たくなってしまった。

「ああ…」

 あたしはこれ以上崩れないように、両手でゆっくりとチョコだった物体を拾い上げる。
 歩道に戻ると、春樹は神妙な面持ちだ。

「それ、チョコか?」

 あたしは泣くのを我慢して「うん」と答えた。

「ちょっと貸してみ?」
「え? うん…」

 あたしから赤い残骸を受け取ると、春樹はそれをまじまじと見つめた。

「お前が作ったのか? これ」
「そ、そうだけど…」
「そうか。その、誰に…?」

 その問いに、あたしの顔は急激に熱くなる。
 もじもじと指を組んで、「一応、あんたに」と言葉を絞り出す。

「あんたが甘いの苦手だって、あたし知らなかったから…」

 春樹はというと、包装紙を丁寧に、細かく破いている。

「ただでさえ不恰好だったのに、さらに酷くなっちまったな」
「う、うるさいわね! どうせたいした出来じゃなかったわよ! とにかくそれ、返して。あたし捨てとくから…」
「やだね」
「なんでよ?」
「捨てるぐらいなら、くれよ」
「…え?」

 唖然としていると、春樹はいつの間にか箱まで破いていて、粉々になっている黒い物体を次から次へと口に運ぶ。

「ちょ、ちょっと春樹! お腹壊すよ!?」
「うるせえ! お前のチョコなんて受け取れる奴、俺ぐらいしかいねえだろ?」

 ガツガツと、春樹はチョコを頬張る。
 あっという間に全てを平らげてしまった。
 箱の裏に着いたチョコの粉末までさらさらと口に入れ、春樹はにかっと笑う。

「お前のチョコ、すげー美味いな!」
「バカ…。甘いの駄目なのに、無理しないでよ」
「こんなの無理でもなんでもねえよ」

 言うと、春樹は鞄を背負い直して歩き出す。

「待ってよ」

 あたしは春樹の後を追った。

 気温が低い割に、あたしの胸はなんだかポカポカしている。
 春は、もうすぐそこなんだろうなあと、あたしは感じた。

 最終話に続く。
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/389/

拍手[13回]

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べた最高ww
きゃー☆
素敵ですね!!!
ばたぁ: 2010.08/05(Thu) 21:14 Edit
ディズニーランドからこんばんは
いいっすねーバレンタイン 「いつもお世話になってるからそのお礼と…あとは自分で考えてよ」みたいな手紙書いて渡したことを思い出しますわ
sun: 2010.08/05(Thu) 21:41 Edit
sunさん!
 それいい!
 ちきしょう、使いたかった!(笑)
めさ: URL 2010.08/05(Thu) 21:43 Edit
最強のべた/////
もう2828が止まりませんね///

バレンタインは本当に大事なイベント。
チョコ落とすところがべただけど、
それを食べちゃうところもべたで、

もう一気にべた好きになってしまいましたwww

めさ著最高です!

春樹マジ天使!
黒猫月(くろねこづき): 2012.08/03(Fri) 22:12 Edit
無題
春樹君マジイケメン!!
正義感あって、行動力あって、最高!
ニヤニヤが止まらない....!

ちょっぴり不器用な佐伯ちゃんも可愛いですね。
そこだ!いけっ!と応援したくなります。

今回も執筆お疲れさまでした(○´∀`○)
こころ: 2012.08/25(Sat) 16:19 Edit
[393] [392] [391] [390] [389] [388] [387] [386] [385] [384] [383]
プロフィール
HN:
めさ
年齢:
41
性別:
男性
誕生日:
1976/01/11
職業:
悪魔
趣味:
アウトドア、料理、格闘技、文章作成、旅行。
自己紹介:
 画像は、自室の天井に設置されたコタツだ。
 友人よ。
 なんで人の留守中に忍び込んで、コタツの熱くなる部分だけを天井に設置して帰るの?

 俺様は悪魔だ。
 ニコニコ動画などに色んな動画を上げてるぜ。

 基本的に、日記のコメントやメールのお返事はできぬ。
 ざまを見よ!
 本当にごめんなさい。
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