夢見町の史
Let’s どんまい!
May 10
舞台役者、土方威風氏はこう語る。
「めささん、俺な? 今度、京都に帰ろうと思ってん」
お前の実家は大阪である。
そう突っ込みたいところだがしかし、俺の中に強烈な羨ましさが湧き上がってしまい、言葉にならない。
俺も京都が大好きなのだ。
いつかチーム「りんく」の皆で旅行に行こうと計画まで立てた、約束の地。
そんな京都に、いふぅ君はどうして1人で行っちゃうのか。
なんかズルい。
俺は声を荒げた。
「だったら俺も京都に帰る!」
横浜出身の人間からも故郷にされて、京都もさぞかしいい迷惑であろう。
「だいたい、なんで急に帰るなんて?」
問うと、彼は「携帯電話を買い換えたい」などと、どこでも出来そうなことを言う。
意味がよく解らなかったので追求はしなかった。
「ってゆうかもう、信じられない!」
改めて彼に詰め寄る。
「みんなで行こうって言ってたのに、なんで1人で行っちゃうの? 俺も行きたい! いふぅ君が電車賃を出してください」
「嫌や」
即答される。
この青年に人の心はあるのだろうか。
取り合えず、せっかく考えた風変わりなカツアゲはどうやら失敗に終わったらしい。
「俺、自分のバス代でイッパイイッパイやから無理やって」
なんでそんな現実的なことを言うの?
不思議でならない。
でもまあ、俺もお金ないしね。
じゃあ、分かったよ。
2人仲良く自転車で行こう?
それなら足代タダだし、一緒に行ってあげてもいいぜ?
「チャリ!? 関東から京都まで人力!? しかもなんで恩着せがましいの!」
だって、1人でチャリは道のり長いから、寂しいよ?
だから、一緒に行ってあげるってば。
「めささん1人で行きなって! 俺は自分の交通費ぐらいはあるからバスで行くけど」
信じられない。
俺はただ黙って、いふぅ君の顔を驚愕の表情で凝視した。
いや、ちょ、いふぅ君?
おま、え?
マジで?
「こっちが訊きたいですよ! マジでチャリで行く気だったん!? そんなん1人で行ったらええやん!」
うわ、マジでチャリだったら嫌なんだ!?
うわあ…。
いや、ああ、そう~。
いやね?
俺、ポーズで嫌がってるんだと思ってたんだけど、うわあ、あ、そう~?
ホントに君、1人でバスで行く気だったんだ~?
あの、なんていうかね?
いふぅ君は、これからも全てから逃げ出しながら生きていくんだね…。
「ちょ、めささん!? なんでそんなに嫌な言い方するの!」
だ、大丈夫だよ。
俺ももう大人だし、いふぅ君の残念な人格は、みんなには黙っておいてあげるから。
いやしかし、マジでチャリだと行きたくないだなんて…。
駄目だ。
上を向いてないと、涙がこぼれちゃう。
「知らんて! めささんこそ、なんで1人で行こうとしないの!?」
だって、途中に山とかあんだぜ?
1人だと寂しくて死んじゃう。
「他のメンバー誘えよ! ってゆうか、めささん? あなた俺に迷惑かけたいだけでしょ?」
正直、返事はできなかった。
「じゃあさ、俺とめささんの他に、あと2人! あと2人がチャリで行くってなったら俺も一緒に行くよ! もー!」
マジで!?
やった!
つまり、いふぅ君と俺を含めて、4人集まればチャリなわけね!?
ひゃっほーう!
チャリで京都~♪
るりるりら~♪
「そんなに舞い上がってるけど、もう2人はどうすんの?」
ふはは。
お前は本当にばかだから、あの2人のことを忘れておいでです。
「え? 誰?」
我がチーム「りんく」の歌姫、空。
そして、その彼氏、ロリ君のことだ。
「え? あの2人? 来るって言うかなあ?」
言うさ。
あのカオスカップル、「コンビニの商品を全種類食い尽くす」とか「都会でマジの無人島ごっこ」とか「100人でやる超鬼ごっこ」とか、俺からしてもちょっとアレな企画を平気で立てる2人だぜ?
チャリで京都まで行くなんて、朝飯前であろうことよ。
「ああ! 言われてみれば、そんな気がするー!」
ふふん、もう遅いー!
あと2人参加させればチャリで行くって、君もう言ったもんねー!
いやっほーう!
へいへーい!
「でもさ? 名古屋から京都って、近くない?」
あ。
俺は大事なことを忘れていた。
空とロリ君は、基本的に名古屋で暮らしているのである。
東京にも空のマンションがあるにはあるが、そこには間違いなくチャリがない。
名古屋からチャリに乗られたら、関東から出発する俺は、結局しばらく寂しいではないか。
どうしよう。
「よかったー! 俺、ホントは普通にバスで行きたいもん! ホンマよかったー」
なんて嬉しそうな顔をするのだろう。
ますますバスを使わせたくない感じである。
そこで、一計を案じてみた。
これ以降を読んだら、いふぅ君はさぞかし青ざめるであろう。
今ここをご覧になっている、脚力に自信がある皆様。
横浜から京都まで、一緒にサイクリングしませんか?
参加資格は健康であることだけ!
一緒にいい汗かいて、京都で美味いものでも食べましょう。
定員数は、特にありません。
いふぅ君が断るに断れないぐらい大勢で、賑やかに!
みんなで夜の山道から恐怖を取り除きましょう!
皆様からのご応募、お待ちしています!
大丈夫です!
ふう。
これで良し、と。
※募集は冗談です。
でもいつか、そんなオフ会ツアーもやりましょうね。