夢見町の史
Let’s どんまい!
2008
April 24
April 24
「バーベキュー会場の下見なんて、わざわざ二日酔いで苦しむ休日に行くもんじゃないでしょ~?」
それが俺の言い分だった。
この意見を、チーフがたった一言で全否定する。
「下見しとかねえと、当日ぐだぐだになるだろ!」
全くですよねー。
すっごく同感。
こうして当日、漲る二日酔いに負けそうになりながら、俺は7日目のセミみたいなコンディションでチーフに電話を入れる。
もしもしぃ~。
チーフ~?
生~き~て~る~?
「おう、駄目だ。飲みすぎた。正直、どこにも行きたくない」
やっぱり?
でも行くの~!
実は昨日、チーム「りんく」の仲間らとうちで飲んでたんだけどね?
さっき俺が起きたら、みんな帰ってて、誰もいなくなってんの。
寂しくて泣きそう。
誰か人に会わなければ、俺はもう死んじゃいます。
「お前は小動物か。っつーかマジで行くのかよ~。下見なんて、どうでもいいじゃねえかよー!」
あのね?
毎度同じ指摘ですみません。
チーフが言い出した企画です。
さて。
下見の主な目的はいくつかある。
バーベキュー当日に迷子にならないよう、正しい道順の記憶。
食料を確保するための販売店がどこにあるのかを把握しておくこと。
現地の雰囲気を確認。
駅を降りて、俺はすぐに酒屋を発見した。
「チーフ、お酒売ってる!」
「酒の確保、OK!」
「あそこにあるの、スーパーじゃね?」
「食料、OK」
「チーフ! メガネも売っとる!」
「メガネOK! おや? めさ、ドーナッツも売ってるぞ」
「ドーナッツは要らない」
メガネは必要なのに、ドーナッツは外されてしまう。
俺たちは一体、どのようなバーベキューを目指しているのだろうか。
「チーフ! お弁当屋さんもある! これで現地では料理しなくて済むね!」
「おう、そうだな」
「お! 病院もあるよ!」
「動物病院、か。まあ大丈夫だろう」
ここまでくると、おかしなことに突っ込んではいけない暗黙のルールみたいなものが発生している。
目的地に到着すると、そこは大自然をそのまま利用している雄大な公園だ。
「すげーいい!」
「なんか、最高だな」
森林や池。
土の道を歩くのも久し振りだ。
公園内というより、のどかな田舎を旅しているかのような錯覚に陥る。
「なんか、撮影とかで使われてそうだな」
チーフも俺と同様、公園に来たおかげで何故か二日酔いが治っている風だ。
「そうだ、めさ。ここで自作映画みたいな感じで、何か撮ったら面白そうじゃねえ?」
楽しそう!
思い浮かぶのは、創造性豊かな仲間たちの顔。
シンガーぴぃのプロモーションビデオなんて、撮ってみたいな。
または役者である、かづき君の一人芝居とか。
そうだ!
かづき君には、ぴぃのマイクスタンド役として活躍してもらうか。
曲の合間合間で、彼にはセリフを言ってもらおう。
「主役やるの、ホンマ大変」
なんて生意気なマイクスタンドだ。
「なあ、めさ」
チーフの声が、俺を現実に引き戻す。
彼は、少女の銅像を指差していた。
丸い石の上で、全裸の少女が伸び伸びと座っている。
両手で股間を覆い隠し、背筋を少し寝かせかけているような体勢だ。
「恥じらいがあるんだか、ないんだか解らねえ」
相槌を打つと同時に、俺にあるアイデアが舞い降りる。
「そうだチーフ! 自作映像の内容、浮かんだ!」
「どんなの?」
「かづき君に、この銅像にマジ告白してもらうの! 初の共演者が、銅像」
「それ、素晴らしいな!」
それではここで、かづき君のために、そのシナリオの全貌を記しておくことにする。
「いきなり呼び出して、ごめんな」
かづき君、銅像相手に気を遣う。
「はは。なんか、やっぱ緊張するわ」
かづき君、絶対に動かない相手に気を張る。
「あんな? 俺、お前にな? 言いたいこと、あってん。あ、そうだ。そんな格好じゃ寒いやろ?」
銅像に上着をかけ、優しさを見せるかづき君。
「お前、気づいとった? その、なんていうか、俺の気持ち?」
ここで銅像の顔、アップ。
何が言いたいのか解らない表情だ。
ポケットに両手を入れ、銅像に背を向けるかづき君。
何故か空を見上げている。
「俺、お前のことをさ? 前から、ずっとな? …好きやった」
沈黙。
かづき君は無言になり、銅像も引き続き喋らない。
「俺、今やってるマイクスタンドの仕事も頑張るよ! 今度やる劇なんて俺、主役やることになったんやで? ワカメの役や。俺、ワカメの役だったら自信あんねん」
逆に拝見したいお仕事である。
「だから、結婚しよ? 子供はさ、2人欲しいな」
なんか突っ込むのも面倒だ。
かづき君は、ここで大声を張り上げる。
「お前じゃないと駄目なんや! 俺、お前のこと、大好きやー!」
銅像を背後から抱きしめるかづき君。
「頼む! 俺と、結婚してくれ!」
再び静寂。
つい立ち止まり、それまで成り行きを見守っていた通行人のおばあちゃんが、手を合わせて祈る。
「え? ホンマか?」
驚きの表情で、銅像を直視するかづき君。
あ、もう書かなくていいですか?
「いやったー! ありがとう! 俺、一生お前のこと大事にするわ!」
銅像をですか。
気がづけば、通行人たちが足を止めている。
1人が拍手を始めると、他の者も釣られて手を叩き出す。
その拍手はやがて盛大な祝福となって、1人と1体に降り注いだ。
ハッピーエンドだ。
「できれば、土砂降りの中で撮影したいな」
「めさ、それ撮ったらさ、ニコニコ動画とかでアップすればいいじゃん」
「それ、サイコー!」
最低である。
でも、凄く見たいので撮影は実行することにした。
役者本人の意向は訊いてないけど、まあ大丈夫だろう。
それにしても困ったものだ。
バーベキューの下見で、バーベキューよりも楽しげなことを思いついてしまった。
かづき君による、迫真の演技に期待大だ。
それが俺の言い分だった。
この意見を、チーフがたった一言で全否定する。
「下見しとかねえと、当日ぐだぐだになるだろ!」
全くですよねー。
すっごく同感。
こうして当日、漲る二日酔いに負けそうになりながら、俺は7日目のセミみたいなコンディションでチーフに電話を入れる。
もしもしぃ~。
チーフ~?
生~き~て~る~?
「おう、駄目だ。飲みすぎた。正直、どこにも行きたくない」
やっぱり?
でも行くの~!
実は昨日、チーム「りんく」の仲間らとうちで飲んでたんだけどね?
さっき俺が起きたら、みんな帰ってて、誰もいなくなってんの。
寂しくて泣きそう。
誰か人に会わなければ、俺はもう死んじゃいます。
「お前は小動物か。っつーかマジで行くのかよ~。下見なんて、どうでもいいじゃねえかよー!」
あのね?
毎度同じ指摘ですみません。
チーフが言い出した企画です。
さて。
下見の主な目的はいくつかある。
バーベキュー当日に迷子にならないよう、正しい道順の記憶。
食料を確保するための販売店がどこにあるのかを把握しておくこと。
現地の雰囲気を確認。
駅を降りて、俺はすぐに酒屋を発見した。
「チーフ、お酒売ってる!」
「酒の確保、OK!」
「あそこにあるの、スーパーじゃね?」
「食料、OK」
「チーフ! メガネも売っとる!」
「メガネOK! おや? めさ、ドーナッツも売ってるぞ」
「ドーナッツは要らない」
メガネは必要なのに、ドーナッツは外されてしまう。
俺たちは一体、どのようなバーベキューを目指しているのだろうか。
「チーフ! お弁当屋さんもある! これで現地では料理しなくて済むね!」
「おう、そうだな」
「お! 病院もあるよ!」
「動物病院、か。まあ大丈夫だろう」
ここまでくると、おかしなことに突っ込んではいけない暗黙のルールみたいなものが発生している。
目的地に到着すると、そこは大自然をそのまま利用している雄大な公園だ。
「すげーいい!」
「なんか、最高だな」
森林や池。
土の道を歩くのも久し振りだ。
公園内というより、のどかな田舎を旅しているかのような錯覚に陥る。
「なんか、撮影とかで使われてそうだな」
チーフも俺と同様、公園に来たおかげで何故か二日酔いが治っている風だ。
「そうだ、めさ。ここで自作映画みたいな感じで、何か撮ったら面白そうじゃねえ?」
楽しそう!
思い浮かぶのは、創造性豊かな仲間たちの顔。
シンガーぴぃのプロモーションビデオなんて、撮ってみたいな。
または役者である、かづき君の一人芝居とか。
そうだ!
かづき君には、ぴぃのマイクスタンド役として活躍してもらうか。
曲の合間合間で、彼にはセリフを言ってもらおう。
「主役やるの、ホンマ大変」
なんて生意気なマイクスタンドだ。
「なあ、めさ」
チーフの声が、俺を現実に引き戻す。
彼は、少女の銅像を指差していた。
丸い石の上で、全裸の少女が伸び伸びと座っている。
両手で股間を覆い隠し、背筋を少し寝かせかけているような体勢だ。
「恥じらいがあるんだか、ないんだか解らねえ」
相槌を打つと同時に、俺にあるアイデアが舞い降りる。
「そうだチーフ! 自作映像の内容、浮かんだ!」
「どんなの?」
「かづき君に、この銅像にマジ告白してもらうの! 初の共演者が、銅像」
「それ、素晴らしいな!」
それではここで、かづき君のために、そのシナリオの全貌を記しておくことにする。
「いきなり呼び出して、ごめんな」
かづき君、銅像相手に気を遣う。
「はは。なんか、やっぱ緊張するわ」
かづき君、絶対に動かない相手に気を張る。
「あんな? 俺、お前にな? 言いたいこと、あってん。あ、そうだ。そんな格好じゃ寒いやろ?」
銅像に上着をかけ、優しさを見せるかづき君。
「お前、気づいとった? その、なんていうか、俺の気持ち?」
ここで銅像の顔、アップ。
何が言いたいのか解らない表情だ。
ポケットに両手を入れ、銅像に背を向けるかづき君。
何故か空を見上げている。
「俺、お前のことをさ? 前から、ずっとな? …好きやった」
沈黙。
かづき君は無言になり、銅像も引き続き喋らない。
「俺、今やってるマイクスタンドの仕事も頑張るよ! 今度やる劇なんて俺、主役やることになったんやで? ワカメの役や。俺、ワカメの役だったら自信あんねん」
逆に拝見したいお仕事である。
「だから、結婚しよ? 子供はさ、2人欲しいな」
なんか突っ込むのも面倒だ。
かづき君は、ここで大声を張り上げる。
「お前じゃないと駄目なんや! 俺、お前のこと、大好きやー!」
銅像を背後から抱きしめるかづき君。
「頼む! 俺と、結婚してくれ!」
再び静寂。
つい立ち止まり、それまで成り行きを見守っていた通行人のおばあちゃんが、手を合わせて祈る。
「え? ホンマか?」
驚きの表情で、銅像を直視するかづき君。
あ、もう書かなくていいですか?
「いやったー! ありがとう! 俺、一生お前のこと大事にするわ!」
銅像をですか。
気がづけば、通行人たちが足を止めている。
1人が拍手を始めると、他の者も釣られて手を叩き出す。
その拍手はやがて盛大な祝福となって、1人と1体に降り注いだ。
ハッピーエンドだ。
「できれば、土砂降りの中で撮影したいな」
「めさ、それ撮ったらさ、ニコニコ動画とかでアップすればいいじゃん」
「それ、サイコー!」
最低である。
でも、凄く見たいので撮影は実行することにした。
役者本人の意向は訊いてないけど、まあ大丈夫だろう。
それにしても困ったものだ。
バーベキューの下見で、バーベキューよりも楽しげなことを思いついてしまった。
かづき君による、迫真の演技に期待大だ。
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ということで
これを撮影する際は、せっかくですのでエキストラを募集してみましょうか。
撮影は水曜日に行うことになると思いますので、改めて日時を決め、日記で告知をさせていただきますね。
撮影を終えたら、みんなでご飯でも食べに行きましょうか。
ちなみに、かづき君には了承済みです。
楽しみです。
撮影は水曜日に行うことになると思いますので、改めて日時を決め、日記で告知をさせていただきますね。
撮影を終えたら、みんなでご飯でも食べに行きましょうか。
ちなみに、かづき君には了承済みです。
楽しみです。
無題
はじめまして、東京在住タイラーと申します。
mixiのとあるめささんの作品を見て感動しました!しかも日記の情景を創造して、深夜に大爆笑しちゃったじゃないですかー!
最高です。なんか感謝してます(笑)
mixiのとあるめささんの作品を見て感動しました!しかも日記の情景を創造して、深夜に大爆笑しちゃったじゃないですかー!
最高です。なんか感謝してます(笑)
鬼才現る…
な、なんて素晴らしい物語なんだ…思わず大爆笑してしまった。
ニコニコ動画にアップしたら絶対に「才能の無駄遣い」「吹いたら負け」のタグがつきますね(笑)
名古屋在住ですが…エキストラやりたいです!
ニコニコ動画にアップしたら絶対に「才能の無駄遣い」「吹いたら負け」のタグがつきますね(笑)
名古屋在住ですが…エキストラやりたいです!