夢見町の史
Let’s どんまい!
March 28
ご飯を食べに行ったら、友達の女の子がいた。
韓国出身の天然ボケ兵器、通称みんちゃんだ。
みんちゃんは、常連さん達が作る輪の一部として楽しそうに飲んでいる。
俺は普段、大きなシルバーのネックレスをしている。
韓国ではネックレスを、「もっこり」と発音する。
彼女は俺のことを、それでもっこりさんと呼ぶ。
どんなに日本語が上手になっても、もっこりさん。
本名を教えても、もっこりさん。
事情を知らない人が大勢いても、もっこりさん。
女の子が人前でそんなこと言っちゃいけませんって叱っても、もっこりさん。
「あー! もっこりさーん!」
やはり今日もか。
でも残念だったな、みんちゃん。
俺は今日、丸首の服だから、ネックレスが隠れている。
以前のように、「もっこり大きい」とか「もっこりの形がいい」とか「いつももっこりしてる」とか、ギリギリなことは言えないであろう。
言えるものなら言ってみよ。
「あれ? 今日はもっこりしてないね」
言えちゃいましたか。
「もっこりしてないの?」
いや、今日もしてるよ?
隠れて見えないだけで、ちゃんともっこりして…、否!
もっこりなどしてはいない!
「もっこりしてるの? してないの? どっち?」
してはいる。
でも、もっこりしてるわけじゃない!
「ふうん、やっぱりもっこりさんだ!」
なんで今、わざわざ店中に聞こえるような大声を出しました?
実に恥ずかしい。
知らない人もいっぱいいるのに、もっこり呼ばわりだ。
ご飯食べに来ただけなのに、なんでこんな目に。
そっちのもっこりじゃないことを皆さんにアピールしなくては、とっても恥ずかしい。
俺は店内を見渡した。
「違うんです! 俺、あの、もっこりしてるからもっこりさんって呼ばれているんです! だから違うんです!」
何がどう違うのか解らない説明をする。
「それでもっこりさんなんだけど、でも、もっこりしてるわけじゃないんです!」
説明がテンパった。
「ねえ」
再びみんちゃんだ。
「ちゃんともっこりしてるか、見せて」
なんだその純粋な瞳は!
そんな綺麗な目で、発言がギリじゃねえか!
「いいから見せて。もっこり」
なんでそこだけ意地でも韓国語なんだ!
そんなにもっこりが好きか!
ならば見せてやる!
これが俺のもっこりだー!
もはや俺までネックレスって言わなくなっていた。
お客さん達は、何故か俺を見ないようにしていました。