夢見町の史
Let’s どんまい!
2009
July 12
July 12
身が縮む想いとはまさにこのことだ。
ここ最近、サインを書く機会に恵まれている。
俺が編集をした寝言本が先日発売されたので、それを購入した友人知人から記念にサインを求めていただけるのである。
なんだけど、俺は字がめちゃくちゃ下手クソだ。
サインをするときは緊張もしているから、飲んでいてもいなくても手が震えそうになる。
そもそもサインをするという行為だけで「俺なんかがサインなんておこがましくってごめんなさい」と涙ながらに謝罪し、その場を走り去りたい衝動に駆られてしまう。
まず「何々さんへ」の時点で字が汚い。
サインそのものも慣れてないのでバランスが悪く、簡潔にいえば醜い。
パソコンで書いては駄目なのだろうか。
いっそのことプリントアウトで済ませてしまいたい。
直筆に関するセンスがまるで無いだけに、また自分がサインを書くという行為がまるで有名人ぶっているようにさえ思えてしまい、俺は毎回凄まじく申し訳ない気分になるのである。
なんで俺は「めさ」などというシンプルな名で活動してしまったのか。
ひらがな2文字。
普通に崩しにくい文字だ。
ネットで検索しても俺ではなく「しめさば」とか出てくるし。
そんな「めさ」のサインを考えてくれたのは男友達のチーフだ。
「こんな感じでいいんじゃない?」
ノートに刻まれた走り書きには非常にセンスの良い、サインっぽい文字が。
「め」の部分はそのままひらがなで、「さ」が小文字アルファベットの筆記体でいい感じに記されている。
「おおー! それいい! パクっていい?」
俺のサインが完成した瞬間である。
ところが自分で書くと、どうやってもチーフのように恰好良く決まらない。
どう見ても「ハエの軌道をなぞりました」って感じだ。
ダイイングメッセージみたいなことになっている。
うちに遊びに来た彼女でさえ俺が書いたサインではなく、チーフが書いたほうの俺のサインを写メに収めて帰っていった。
おかげで先日の出版記念パーティでサインを求められたときも、俺は平静を装ってはいたものの、内心では大声で訴え続けていた。
「誠に申し訳ございません!」
聞けば本へのサインというのは、例えそれが作者直筆のものであったとしても汚れと同様に扱われてしまい、古本屋では引き取ってくれなくなるらしい。
だから俺は寝言本にサインする直前にこう告げる。
「サインしたら古本屋で売れなくなりますよ?」
そもそも書くのは俺なんだから、それはサインというより本当に汚れである。
いつでも消せるように鉛筆を使用してあげるべきだった。
俺のサインを目にすると、人によっては「なんか変!」と笑いながら指摘してくれるのだが、気を遣っているのか微妙な笑顔のまま黙ってしまう方もいらっしゃる。
家が恋しくなる瞬間だ。
「いや、ほら、アレですよアレ」
フォローしようと俺は必死になる。
「俺の初期のサインは貴重ですよ?」
感じが悪くなっただけだった。
昨日も職場のスナックで、飲みに来ていた友人が寝言本を買ってくれた。
やはり「記念ですから」とサインを求められる。
同じく飲みに来ていたチーフに、俺は本能的にマジックと本を渡していた。
「チーフ! 俺のサイン書いて!」
冗談だと思った人がほとんどのようだったが、俺の目はマジだった。
それでも書かないわけにはいかず、俺はなるべく丁寧に「H君へ。めさ」の文字と今日の日付けを書く。
H君はそれを見て、
「チーフさん、めささんのサイン書いてもらっていいですか?」
お気に召されていなかった。
だいたいなんだ、俺のサインを他の人に書いてもらうって。
熱いものが俺の頬を伝わるぞ?
チーフは「いやいや、俺がめさのサインを書くわけにはいかないよ」などと断らないと、別の空白ページに俺のサインをさらりと書く。
なんか日付けとか斜めに書いたりして、様になっている。
どうして上手いのだ。
肝心の「めさ」の部分なんてバランスとセンスが良くて、ある種のオーラすら感じさせる。
俺のと違って、一目でそれがサインであると解った。
俺が書いたやつはなんだ?
チーフのと比べると、こんなのインクまみれのミミズが這った跡ではないか。
試しに他のお客さんに俺のサインとチーフの偽サインを見比べてもらうことにした。
あえて説明をせず、いきなり見せてみたのだ。
チーフの偽サインを見たお客さんの反応は「おおー! いい感じじゃん」と好評だった。
続けて俺が書いた本物のサインを見せてみる。
お客さんは絶句し、普通に言葉を失っておいでだった。
その顔にはこう書いてある。
「実に見苦しい」
心に響くノーコメントであった。
「めさ、あのさ」
ボスのKちゃんは親切心で、自分なりに考えた俺のサインをメモ帳に書いてくれていた。
「めさのサイン、こういう感じでさ、『め』の部分も崩して書くのってどう?」
見ると、それは普通にアリだった。
簡単には解読できない感が増して、Kちゃんが書いてくれたそれはサインとしての完成度を高めている。
「これもいいね! いや普通にいい! こういう手もあったかー」
ひとしきりの感心をして、俺はKちゃんにしか聞こえないように声を潜める。
「Kちゃん、このメモ、持って帰っていい?」
練習しておこうと心に決めた。
でも上手くなる日は来るのだろうか。
ここ最近、サインを書く機会に恵まれている。
俺が編集をした寝言本が先日発売されたので、それを購入した友人知人から記念にサインを求めていただけるのである。
なんだけど、俺は字がめちゃくちゃ下手クソだ。
サインをするときは緊張もしているから、飲んでいてもいなくても手が震えそうになる。
そもそもサインをするという行為だけで「俺なんかがサインなんておこがましくってごめんなさい」と涙ながらに謝罪し、その場を走り去りたい衝動に駆られてしまう。
まず「何々さんへ」の時点で字が汚い。
サインそのものも慣れてないのでバランスが悪く、簡潔にいえば醜い。
パソコンで書いては駄目なのだろうか。
いっそのことプリントアウトで済ませてしまいたい。
直筆に関するセンスがまるで無いだけに、また自分がサインを書くという行為がまるで有名人ぶっているようにさえ思えてしまい、俺は毎回凄まじく申し訳ない気分になるのである。
なんで俺は「めさ」などというシンプルな名で活動してしまったのか。
ひらがな2文字。
普通に崩しにくい文字だ。
ネットで検索しても俺ではなく「しめさば」とか出てくるし。
そんな「めさ」のサインを考えてくれたのは男友達のチーフだ。
「こんな感じでいいんじゃない?」
ノートに刻まれた走り書きには非常にセンスの良い、サインっぽい文字が。
「め」の部分はそのままひらがなで、「さ」が小文字アルファベットの筆記体でいい感じに記されている。
「おおー! それいい! パクっていい?」
俺のサインが完成した瞬間である。
ところが自分で書くと、どうやってもチーフのように恰好良く決まらない。
どう見ても「ハエの軌道をなぞりました」って感じだ。
ダイイングメッセージみたいなことになっている。
うちに遊びに来た彼女でさえ俺が書いたサインではなく、チーフが書いたほうの俺のサインを写メに収めて帰っていった。
おかげで先日の出版記念パーティでサインを求められたときも、俺は平静を装ってはいたものの、内心では大声で訴え続けていた。
「誠に申し訳ございません!」
聞けば本へのサインというのは、例えそれが作者直筆のものであったとしても汚れと同様に扱われてしまい、古本屋では引き取ってくれなくなるらしい。
だから俺は寝言本にサインする直前にこう告げる。
「サインしたら古本屋で売れなくなりますよ?」
そもそも書くのは俺なんだから、それはサインというより本当に汚れである。
いつでも消せるように鉛筆を使用してあげるべきだった。
俺のサインを目にすると、人によっては「なんか変!」と笑いながら指摘してくれるのだが、気を遣っているのか微妙な笑顔のまま黙ってしまう方もいらっしゃる。
家が恋しくなる瞬間だ。
「いや、ほら、アレですよアレ」
フォローしようと俺は必死になる。
「俺の初期のサインは貴重ですよ?」
感じが悪くなっただけだった。
昨日も職場のスナックで、飲みに来ていた友人が寝言本を買ってくれた。
やはり「記念ですから」とサインを求められる。
同じく飲みに来ていたチーフに、俺は本能的にマジックと本を渡していた。
「チーフ! 俺のサイン書いて!」
冗談だと思った人がほとんどのようだったが、俺の目はマジだった。
それでも書かないわけにはいかず、俺はなるべく丁寧に「H君へ。めさ」の文字と今日の日付けを書く。
H君はそれを見て、
「チーフさん、めささんのサイン書いてもらっていいですか?」
お気に召されていなかった。
だいたいなんだ、俺のサインを他の人に書いてもらうって。
熱いものが俺の頬を伝わるぞ?
チーフは「いやいや、俺がめさのサインを書くわけにはいかないよ」などと断らないと、別の空白ページに俺のサインをさらりと書く。
なんか日付けとか斜めに書いたりして、様になっている。
どうして上手いのだ。
肝心の「めさ」の部分なんてバランスとセンスが良くて、ある種のオーラすら感じさせる。
俺のと違って、一目でそれがサインであると解った。
俺が書いたやつはなんだ?
チーフのと比べると、こんなのインクまみれのミミズが這った跡ではないか。
試しに他のお客さんに俺のサインとチーフの偽サインを見比べてもらうことにした。
あえて説明をせず、いきなり見せてみたのだ。
チーフの偽サインを見たお客さんの反応は「おおー! いい感じじゃん」と好評だった。
続けて俺が書いた本物のサインを見せてみる。
お客さんは絶句し、普通に言葉を失っておいでだった。
その顔にはこう書いてある。
「実に見苦しい」
心に響くノーコメントであった。
「めさ、あのさ」
ボスのKちゃんは親切心で、自分なりに考えた俺のサインをメモ帳に書いてくれていた。
「めさのサイン、こういう感じでさ、『め』の部分も崩して書くのってどう?」
見ると、それは普通にアリだった。
簡単には解読できない感が増して、Kちゃんが書いてくれたそれはサインとしての完成度を高めている。
「これもいいね! いや普通にいい! こういう手もあったかー」
ひとしきりの感心をして、俺はKちゃんにしか聞こえないように声を潜める。
「Kちゃん、このメモ、持って帰っていい?」
練習しておこうと心に決めた。
でも上手くなる日は来るのだろうか。
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