夢見町の史
Let’s どんまい!
July 04
移動の最中は皆がパジャマだから通行人たちからの視線が痛い。
今さらながら、牛柄のパジャマは目立つ。
ガチャピンやピンクパンサーの気ぐるみを身に着けた男子たちも俺と同じく、堂々と歩いたらいいのか恥じらったらいいのか判断がつかない様子だ。
挙動不審になっている。
俺は赤面しつつ、空を見上げた。
「へっ! 普通の服を着てるような連中に俺の気持ちなんて解んねーよ」
どこの世界の不良も発しないであろう不思議な一言だ。
居酒屋に入るときは示し合わせたかのように俺は1人きりにされ、どシラフの店員さんと対決させられた。
「あれ? 予約入っていませんか? ひらがなで、めさって名前で予約が」
入っているはずの予約が入っていなかったこと。
パジャマ姿で1人ぼっちにさせられたこと。
どう見ても日本人なのに「めさ」と名乗りを上げていること。
俺を辱めるには充分な環境である。
表からこちらを見守っている参加者さんたちを小刻みに手招きし、「早く来て!」と大音量でテレパシーを送る。
同時に店員さんに「今から大人数なんですけど入れますか?」と引きつった笑顔で問い、入店に必死だ。
みんなー!
誰か1人でいいから俺のそばに来いよォ!
なに玄関先から俺のテンパった様子を観察して楽しんでだよォ!
店員さん!
なんであんたら「どうしてパジャマをお召しで?」の一言が言えねえんだよ!
不思議だろうが、こんな三十路!
訊ねろよ!
そういうイベントやったんですってちゃんとした理由を説明させて!
俺が可哀想だろうが!
めさって、何それ?
本名?
みたいな顔はもっと陰でやってくれー!
様々な思惑により、このときの俺は相当あたふたとしていた。
俺は今までこんなに怪しい奴を見たことがない。
そのような、普通だったらしなくてもいい苦労をしてなだれ込んだ居酒屋にはステージなどないわけだから、俺は参加者様たちと同じテーブルを囲い、同じ目線で会話を楽しむことができる。
ピンクパンサーの彼が後半、たまらなくなったらしくトイレで私服に着替えたのを叱ったりした。
「なんで着替えるんだよ、もー! 空気読めよー!」
「めささんだってジンベエに着替えてるじゃないですか! いつの間に!?」
「ばか! 恥ずかしいからに決まってんだろ!」
イベント中よりもさらに饒舌になって、俺は散々喋り倒す。
挙句、最後のほうで俺は、
「せっかくのお台場だから海を見たい」
彼女のようなセリフを口にしていた。
「ねえ、海ってどっち?」
「基本的にはどっちに進んでもいつかは海には着きます」
「なるほど! 確かに! じゃあ最短の海はどっち?」
「最短の海、とは?」
日本語の難しさを実感しつつ、ほろ酔い加減の一行は浜辺へ。
レインボーブリッジやホテル、屋形船の明かりが綺麗だ。
しかもお台場に砂浜があることを知らなかったため、夜の砂地に俺のテンションは急上昇する。
「海だー! うおー! 浜辺スゲー! きゃっはーい!」
たまに自分で疑問に思う。
俺は本当に33なのか。
この嬉しくてたまらない感じは一体なんだ。
遠くでわずかに光る東京タワーもいい感じである。
夏の夜。
綺麗な夜景と目前の海。
ここは1つ、クサいセリフの1つも放つべきであろう。
ところが。
「めささーん! 海のほう、もっと景色がいいですよ! 行ってみて!」
「めささん、ちょっと座りましょうよ。そろそろ疲れてきたでしょ? さあ、どうぞここへ!」
俺を海に落とそうとする者、砂に埋めようとする者が多すぎだった。
バラエティ色ばっかりで、素敵さゼロだ。
試しに砂場であぐらをかいてみると、俺は一瞬にして取り囲まれる。
即行で足首に砂がかけられ、俺の素足は見えなくなった。
「なにすんの!」
「足首だけ、足首だけ」
「え~? まあ、足首だけなら…」
なんで俺はいつも気色の悪い許可の仕方をするのだろう。
初デートの処女みたいだ。
しかし、足首だけなら埋めてもいいなんて言ったのは普通に失敗で、俺は次の瞬間「約束が違う!」と声を荒げていた。
俺を埋めようと集まった有志の者が多すぎだった。
ものの数秒で俺の下半身は砂の下に。
「ちょっ! やめてよう!」
「いいからいいから」
「なにがいいんだよ、もー!」
「ここまできたら一緒でしょ。めささん横になってください」
「やだよ!」
「あ、そっか。あぐらをかいたまま横になるのは難しいかー」
「ううん、平気。ほら。俺、変なとこだけ体が柔らかいんだ」
俺はバカなのだろうか。
自慢げに体を横たえると、もはや顔だけを残し、あっという間に全身に砂をかけられてしまった。
いや、かけられるなんて生易しいものではない。
お台場は埋立地。
俺も今から埋立地だ。
気がつけばそこは、つまり俺はちょっとした山と化している。
グーグルアースからも確認できそうだ。
取り合えず口にしてみた胸キュン台詞も、
「あ~あ。来年もきっと、お前と一緒なんだろうな」
まるで説得力がなかった。
せっかくだからここで、埋められている最中の俺のつぶやきを記念に列挙しておこうと思う。
「俺、海パンじゃないのに。ジンベエなのに」
「夜の浜辺で埋められるとさー、マフィアに始末された死体の気分になれる」
「ねえ、早くない? 早くない? 人間を埋めるのってこんなに素早くできるもんだったの? ねえ、早い早い」
「海を見に来たのに、曇った夜空しか見えないんですけど」
何にせよ、滅多にできない貴重な体験ではあった。
砂山から脱出すると、皆自然と輪になって、めさ埋立地跡にさらに砂をかけ始めている。
砂の山はさらに大きさを増していった。
海そっちのけで俺も夢中になる。
「なんか楽しい。ねえ、みんな! エアーズロック作ろうぜ!」
世界最大の岩山、エアーズロック。
ゴールが見えない。
その間、それぞれは人を海に落とそうとしたり、倒して埋めようとしたり、野生の狩りのように走り回ったりと楽しそうに人間関係を悪化させている。
結局、浜辺では2時間ほど遊んでいただろうか。
ツワモノどもが夢の跡。
エアーズロックを残して一行はその場を後にした。
ジンベエのポケットに入っている砂を払いながら、俺たちは駅に向かう。
「楽しかったねー」
「ねー」
皆の声を耳にしつつ、さっそく寝言本のページをめくってみた。
普通に致命的な誤植を発見してしまったので本を閉じる。
俺のミスだと思われたらたまらないので、明日にでも出版社に連絡しておこう。
次にイベントの様子を回想する。
ミスパジャマ、やってなくね?
なんで誰も気づかなかったのだ。
俺もだ。
反省点はポケットに入っていた砂の数ほどありそうである。
次回はもっと楽しく、「大人の馬力で本気で枕投げをやると人はどうなるのか?」とか「男だけ参加可能の飲み会を開催したらどれだけ人が来ないのか」とか、喰いつきの良さそうな企画を立てる所存だ。
皆で持ち寄ったペットボトルのキャップだけでピラミッドを作って記念撮影をし、帰りにキャップを寄付し、発展途上国の子供たちのワクチンにしてもらうのも良さそうである。
次は何やるかねー。
追伸・ご来場の皆様、本当に楽しかったです。
わざわざ足を運んでくださって、ありがとうございました。
次の機会がありましたら、是非またいらしてやってくださいませ。
その日を楽しみにしています。
みんな最高でした!
http://www.amazon.co.jp/gp/aw/d.html/ref=aw_mp_1/?a=4880961787&uid=NULLGWDOCOMO
ちなみに今このコメントはケータイから。
もうすぐ工事してネット環境が整いますんで、誕生日を迎えられた方々、お祝いはもう少しだけお待ちください。
遅くなって本当にすみません!
家で色々と書き溜めしておきますね。
めさでした。
着ぐるみで居酒屋ってすごい…笑
店員さん目線でその光景をみてみたいです。
「大人の枕投げ」ってめちゃめちゃ楽しそうです!
あったらマジでいきたいですねー。