夢見町の史
Let’s どんまい!
2010
August 14
August 14
「どうぞー。散らかってるけど」
「お邪魔します」
女の人を部屋に招き入れる。
彼女とは数年前から知り合ってはいるものの、逢うのは今日が初めてだ。
めごさんといえば、解る人もいるのではないか。
めごさんは俺や友人の絵を想像で描き、メールで送りつけてきた、元はといえばブログの読者様だ。
その絵というのが奇抜というか斬新というか、とにかく凄い。
俺の想像図なんて絶妙で、素晴らしくキモいというか、なんか腹立つ。
こんな奴が実際にいたら全力でつねっているところだ。
めごさんは偶然にも俺の知人と接点があったし、ついでに過去、俺の日記に知らない人として登場している。
そんなこんなでメールや電話で話すことがたまにあったのだけど、今まで直接逢ったことはなかった。
俺は今、仲間を集めてオリジナルのボイスドラマを作ろうとしている。
ちょっとした声優を素人の中から集め、楽しく練習に励む毎日だ。
ヒロインである佐伯優子役がまだ現れていなかった当時。
俺はツイッターでさらに声優募集の声を上げた。
「深刻な佐伯不足。どっかにいい佐伯はいませんかー? 佐伯! 俺はお前が欲しい」
すると、めごさんからの返信が。
「ふふ。佐伯をお探しですか?」
俺は冗談半分に「めごさん、やってよ」と返した。
すると一言だけ、「はい」と。
ところが、めごさんはパソコン同士で無料通話ができるスカイプができない状況にある。
スカイプがなければ、合同練習も収録もできない。
どうしたものか。
めごさんに電話をし、参加意思の強さを訊ねてみると、
「佐伯でもいいし、猫の大吾郎でもいいです」
相変わらず不思議な人だ。
ツイッターを見ると、めごさんは練習開始といいつつ、にゃーにゃーとつぶやいている。
猫の鳴き声なら、とっくに効果音としてパソコンに入っているのに。
「めごさん、猫の練習はしなくていいから! あ、そうだ。明日うちに来てよ。明後日でもいいけど」
ツイッター上で誘ったので、めごさんから公然ワイセツ扱いをされたのは言うまでもない。
初対面の異性ではあったけれど、昔から知っている人なので部屋に上げることに抵抗感は全くなく、俺は2人分の夕飯にとリゾットを作り、失敗した。
スカイプでは既に数人ががやがやと雑談に明け暮れている。
「みんな、ただいま。めごさん連れてきたよ」
「おおー!」
俺はヘッドセットをし、めごさんの前に別のマイクを置く。
「じゃあめごさん、自己紹介お願いしていい?」
すると、めごさんは首と手をぶんぶんと振り、テレパシーを使って俺の心に直接話しかけてきた。
「無理です」
なんで無理なのか。
人見知りが激しすぎだ。
数時間経っても、めごさんは一切口を開かない。
これでは猫の大吾郎役でさえ任せられそうもない。
スカイプだって言ってんのに、めごさんは画面に向かってジェスチャーで相槌を打ったり、俺にカンペを書いて読ませたりしている。
もしかしたら、俺は画面の向こうにいるみんなに、「めささん実は最初から1人なんじゃないか?」なんて思われているかも知れない。
結局めごさんは夕方まで何も喋らず、帰りの時間が訪れた。
駅までの送り道。
めごさんはケータイを開き、俺に見せてくれている。
彼女にメールを送ったのは、共通の友人である悪魔王子の兄貴だ。
そこには「めさを暗殺しろ」とか、物騒なことが色々と書かれてある。
「あたし一応、手裏剣を持ってきました」
喋られる時代のめごさんが、そういえばさっき、鉄製の手裏剣を見せてくれたっけ。
「で、今きた兄貴からのメールはこれです」
「どれどれ?」
俺はそれを読み上げる。
「その手裏剣を、めさの足に落とせ」
ふと自分の足に目をやると、雪駄だ。
素足がむき出しになっている。
背筋が凍った。
「ダメダメダメダメ!」
鞄の中をごそごそと探しているめごさんに、俺は精一杯の意思表示をした。
「ダメだからね!? もしかしてめごさん今、手裏剣探してるの!? ダメだからね!?」
「ちょっとこれ持ってて」
ペットボトルを持たされる。
めごさんの手の自由度が上がった。
鞄の中から手裏剣という、なんだか時代遅れな武器が姿を現す。
俺の足の運命やいかに!?
「じゃあまたー」
「はーい、お疲れ様ー!」
結局めごさんは手裏剣での攻撃を思い留まってくれて、俺の足は無事に俺を駅まで運んでくれた。
手を振って、俺はその小さな背を見送る。
やがて俺は振り返り、家へと歩き出した。
みんなまだ、雑談を交えながらも練習をしていることだろう。
急がなくっちゃ。
ふと、俺は目を細め、空を見上げる。
めごさん、何しに来たんだろう。
「お邪魔します」
女の人を部屋に招き入れる。
彼女とは数年前から知り合ってはいるものの、逢うのは今日が初めてだ。
めごさんといえば、解る人もいるのではないか。
めごさんは俺や友人の絵を想像で描き、メールで送りつけてきた、元はといえばブログの読者様だ。
その絵というのが奇抜というか斬新というか、とにかく凄い。
俺の想像図なんて絶妙で、素晴らしくキモいというか、なんか腹立つ。
こんな奴が実際にいたら全力でつねっているところだ。
めごさんは偶然にも俺の知人と接点があったし、ついでに過去、俺の日記に知らない人として登場している。
そんなこんなでメールや電話で話すことがたまにあったのだけど、今まで直接逢ったことはなかった。
俺は今、仲間を集めてオリジナルのボイスドラマを作ろうとしている。
ちょっとした声優を素人の中から集め、楽しく練習に励む毎日だ。
ヒロインである佐伯優子役がまだ現れていなかった当時。
俺はツイッターでさらに声優募集の声を上げた。
「深刻な佐伯不足。どっかにいい佐伯はいませんかー? 佐伯! 俺はお前が欲しい」
すると、めごさんからの返信が。
「ふふ。佐伯をお探しですか?」
俺は冗談半分に「めごさん、やってよ」と返した。
すると一言だけ、「はい」と。
ところが、めごさんはパソコン同士で無料通話ができるスカイプができない状況にある。
スカイプがなければ、合同練習も収録もできない。
どうしたものか。
めごさんに電話をし、参加意思の強さを訊ねてみると、
「佐伯でもいいし、猫の大吾郎でもいいです」
相変わらず不思議な人だ。
ツイッターを見ると、めごさんは練習開始といいつつ、にゃーにゃーとつぶやいている。
猫の鳴き声なら、とっくに効果音としてパソコンに入っているのに。
「めごさん、猫の練習はしなくていいから! あ、そうだ。明日うちに来てよ。明後日でもいいけど」
ツイッター上で誘ったので、めごさんから公然ワイセツ扱いをされたのは言うまでもない。
初対面の異性ではあったけれど、昔から知っている人なので部屋に上げることに抵抗感は全くなく、俺は2人分の夕飯にとリゾットを作り、失敗した。
スカイプでは既に数人ががやがやと雑談に明け暮れている。
「みんな、ただいま。めごさん連れてきたよ」
「おおー!」
俺はヘッドセットをし、めごさんの前に別のマイクを置く。
「じゃあめごさん、自己紹介お願いしていい?」
すると、めごさんは首と手をぶんぶんと振り、テレパシーを使って俺の心に直接話しかけてきた。
「無理です」
なんで無理なのか。
人見知りが激しすぎだ。
数時間経っても、めごさんは一切口を開かない。
これでは猫の大吾郎役でさえ任せられそうもない。
スカイプだって言ってんのに、めごさんは画面に向かってジェスチャーで相槌を打ったり、俺にカンペを書いて読ませたりしている。
もしかしたら、俺は画面の向こうにいるみんなに、「めささん実は最初から1人なんじゃないか?」なんて思われているかも知れない。
結局めごさんは夕方まで何も喋らず、帰りの時間が訪れた。
駅までの送り道。
めごさんはケータイを開き、俺に見せてくれている。
彼女にメールを送ったのは、共通の友人である悪魔王子の兄貴だ。
そこには「めさを暗殺しろ」とか、物騒なことが色々と書かれてある。
「あたし一応、手裏剣を持ってきました」
喋られる時代のめごさんが、そういえばさっき、鉄製の手裏剣を見せてくれたっけ。
「で、今きた兄貴からのメールはこれです」
「どれどれ?」
俺はそれを読み上げる。
「その手裏剣を、めさの足に落とせ」
ふと自分の足に目をやると、雪駄だ。
素足がむき出しになっている。
背筋が凍った。
「ダメダメダメダメ!」
鞄の中をごそごそと探しているめごさんに、俺は精一杯の意思表示をした。
「ダメだからね!? もしかしてめごさん今、手裏剣探してるの!? ダメだからね!?」
「ちょっとこれ持ってて」
ペットボトルを持たされる。
めごさんの手の自由度が上がった。
鞄の中から手裏剣という、なんだか時代遅れな武器が姿を現す。
俺の足の運命やいかに!?
「じゃあまたー」
「はーい、お疲れ様ー!」
結局めごさんは手裏剣での攻撃を思い留まってくれて、俺の足は無事に俺を駅まで運んでくれた。
手を振って、俺はその小さな背を見送る。
やがて俺は振り返り、家へと歩き出した。
みんなまだ、雑談を交えながらも練習をしていることだろう。
急がなくっちゃ。
ふと、俺は目を細め、空を見上げる。
めごさん、何しに来たんだろう。
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