夢見町の史
Let’s どんまい!
2010
September 14
September 14
とても文字では表せられない俺の悲鳴が大音量で轟く。
視線の先には、首から上が馬で、体が人間といったミノタウロスの親戚みたいな奴が無言で立っていた。
俺の部屋に、なんでこんな怪物が!?
前触れなくフスマが勝手に開いたかと思うと、こいつがいた。
友人らがうちへの襲撃を計画していたことは知っていたが、まさかウマタウロスが来るとは予想外だ。
パソコンでの作業を中断し、俺は威圧するかのように男らしく怪物に怒鳴りつける。
「誰ぇ~?」
馬の後ろからは小柄な女友達が現れて、クナイを構えるなどしてからスッと消える。
いつか手裏剣で攻撃されかけたことがあったけど、あの子までそっちの人だったのか。
ってゆうか馬の人、誰?
「お邪魔しました~」
誰かの声がし、馬がペコリと頭を下げる。
フスマが閉められた。
一瞬にして帰るの!?
もうちょっとうちで何かやってけよ!
腰が抜けていたけれどなんとか立ち上がり、連中の後を追う。
「どうも、お疲れ様です。散らかってるけど、どうぞ」
改めて部屋に招き入れると、うちを襲撃したのは3人と1匹であることが解る。
友人夫婦とうら若き女友達。
あと人と合成された馬というか、馬と合成された人みたいことになっている男子。
その正体が誰なのかさっぱり読めない。
「あの、こちらはどなたなの?」
しかしその質問に誰も答えない。
ホント誰!?
その言葉を5回ぐらい繰り返したところで、ようやく馬の被り物に手がかかる。
彼がゆっくりとお面を外した。
「君は…!」
馬面の下に隠されていた覆面レスラーのようなマスクに対し、俺は驚愕の声を上げる。
「結局誰だよ!?」
青年はお面を二重に被っていた。
覆面も脱がせる。
男はようやく素顔になって、清々しい笑顔を俺に向けた。
「俺ですよ」
見覚えがなくて、俺は「結局誰だよ!?」と再び叫んでいた。
その青年の顔を、俺は写真でしか見たことがなくて、まさか彼が隣の県に住むネット仲間の1人だとは気づけなかったというわけだ。
襲撃者の1人が俺に重たそうな箱を差し出す。
「これ、お土産です」
「わざわざどうも」
受け取ると、俺は自分の目を疑った。
様々な漫画の単行本が並んでいる。
冊数を数えると、合計22冊だ。
しかしタイトルはおろかジャンルまでバラバラで、この漫画の共通点が見当たらない。
強いていえば、どれもこれも第7巻だ。
1巻でも最終巻でもなく、全部7巻なのだ。
試しに1冊手に取ってみる。
出だしにこうあった。
「ネエ…、どーゆーコト…? どーゆーコトよコレ!? アタシぜんぜんわかんないヨ! …ネエ!?」
俺だって全然解らない。
一体今まで何があったのだ。
他の漫画にも手を伸ばしてみる。
「予定外の干渉があったようですね」
知るか。
お前のそのセリフのほうが予定外である。
ミステリー漫画は犯人が解らないまま終わってるし、これ全部読まなきゃいけないのだろうか。
ただ、非常にありがたい土産もあった。
焼き肉用の牛肉たちだ。
俺はせかせかと食器やホットプレートを用意し、嬉しそうに固まる。
「ねえ。野菜は?」
「ないです」
「じゃあ焼き肉のタレは?」
「ないんですか?」
「ないです」
「じゃあ買ってきてください」
今までの人生でこれ以上酷い仕打ちがあっただろうか。
思わずツイッターでつぶやきを投稿する。
「襲撃された! 最初馬だったんだけど結局誰だよって話でレスラーが人に! 格7巻が22冊あって、肉焼きにくいかも知れません。完璧な説明だ」
これで俺の支離滅裂さが大勢に伝わったことと思う。
タレは結局、買い出しに行くのが面倒だったので適当に配合して作り、野菜は無しということで話をまとめる。
お手製のタレを部屋に運ぶと、いきなりクラッカーを鳴らされて何もかもをこぼしそうになった。
折り紙で作られたカラフルな鎖状の飾りが部屋を彩っているし、俺は今日誕生日なのだろうか。
「クラッカー選び、結構大変だったんですよ」
襲撃者は満面の笑みだ。
「1番部屋が散らかるタイプの物を用意しました」
客人にこんな乱暴な口を効くのは非常に心苦しいのですが、お前らばかなんですか!?
クラッカーの炸裂音には本当に心臓を止められそうになったので、再びつぶやく。
「追記。俺の部屋に入るにはノックが必要でした。何故ならクラッカーが俺の今までの記憶を走馬灯のように。そして今も! つぶやいてただけなのに! 酷い! お米は4合炊いてます」
自分で書いた文章に訳をつけるのは複雑な心境だが、仕方ない。
手作りの焼き肉のタレを一生懸命作っていたら、襲撃者たちに「めささん、戻るときはノックしてください」と命じられ、その通りにしたら人に向けるなと注意書きがされているはずのクラッカーをめっちゃこっちに向けられ、パソコンに向かってキーボードを叩いていたらまたしてもクラッカーを鳴らされた。
おかげで俺は出航するフェリーぐらいリボンまみれだ。
ちなみにお米は4合炊いた。
「じゃあ、さっそく見ましょうか」
なにが「じゃあ」なのか。
とっても怖いと評判のホラー映画。
そのDVDを手に、友人がにやりと笑った。
「ふわあ…! ああッ! もう無理ぃ! 無理ぃ! 死んじゃうよう! あああああッ!」
その声だけを聞かれたら近所の人から誤解をされそうである。
皆から「めささんの叫び声のほうが怖い」と怒られながら、映画を見続ける。
映画の出来はとても良く、7巻だけではないので起承転結がまとまっていた。
ただ、俺は要らぬ想像ばかりしているので、油断してもいいシーンでも油断をしない。
おかげで、普通に場面が変っただけでも「ふああッ!」とか叫び、少しでも物音がしたら「ひゃあ!」と飛び上がる。
いざというときのために模造刀を手にして見ていたけれど、それだけだと心細い。
ペットボトルを2本抱きかかえ、事なきを得た。
明らかに平和なシーンでは自分の周囲にそのペットボトルを配置し、猫よけみたいにしておいた。
効果のほどは知りません。
「この映画が終わったら俺、肉焼くんだ…。牛だぜ牛。楽しみだなあ」
「それ死亡フラグです。でも、めささんって、ホントに怖がりなんですね。動画で見てるときは多少演技してるのかと思ってました」
「ばかか! 俺を怖がらせたかったら、手加減してても大丈夫だからもっと手を抜け! も~! もっと楽しい映画見ようよ~!」
ホラー映画が終わって、肉を焼く。
野菜がないので「肉肉野菜、肉野菜の順で食べろ」などと仕切れない。
それにしても幸せな肉だ。
焼き肉なんて久しぶりだし、手作りのタレも適当に混ぜただけの割には成功している。
本当に美味しかった。
しかし、俺はまだ知らない。
自室にある様々な武器。
模造刀、大小二振りの木刀、友達が持参してきたクナイ。
その全てがこの後、俺に襲いかかることになる。
最後にそのときの俺の音声を再現してこの日記を終えよう。
「危な、危な…! ちょっと! 俺丸腰! 俺にもなんか武器ちょうだいよ! あ、そうだ! かっちゃん! 本棚の上に木刀が2本あるから取ってきて! そうそれ! って、なんでお前らが使うんだよォ! いって! ねえ見て! 刀が刺さったとこ、血が出た! あはははは! もう無理ー! さばき切れねえよばか! お、それ使ってもいいの!? よーし、これさえあれば! ってこれ、折り紙の鶴じゃないかー! どこの達人だよ俺は! っつーか俺の声がうるさい! 近所迷惑でしょ!? やめてくれやめてくれ。ぎゃあ!」
みんな、満ち足りた顔をして帰っていきました。
視線の先には、首から上が馬で、体が人間といったミノタウロスの親戚みたいな奴が無言で立っていた。
俺の部屋に、なんでこんな怪物が!?
前触れなくフスマが勝手に開いたかと思うと、こいつがいた。
友人らがうちへの襲撃を計画していたことは知っていたが、まさかウマタウロスが来るとは予想外だ。
パソコンでの作業を中断し、俺は威圧するかのように男らしく怪物に怒鳴りつける。
「誰ぇ~?」
馬の後ろからは小柄な女友達が現れて、クナイを構えるなどしてからスッと消える。
いつか手裏剣で攻撃されかけたことがあったけど、あの子までそっちの人だったのか。
ってゆうか馬の人、誰?
「お邪魔しました~」
誰かの声がし、馬がペコリと頭を下げる。
フスマが閉められた。
一瞬にして帰るの!?
もうちょっとうちで何かやってけよ!
腰が抜けていたけれどなんとか立ち上がり、連中の後を追う。
「どうも、お疲れ様です。散らかってるけど、どうぞ」
改めて部屋に招き入れると、うちを襲撃したのは3人と1匹であることが解る。
友人夫婦とうら若き女友達。
あと人と合成された馬というか、馬と合成された人みたいことになっている男子。
その正体が誰なのかさっぱり読めない。
「あの、こちらはどなたなの?」
しかしその質問に誰も答えない。
ホント誰!?
その言葉を5回ぐらい繰り返したところで、ようやく馬の被り物に手がかかる。
彼がゆっくりとお面を外した。
「君は…!」
馬面の下に隠されていた覆面レスラーのようなマスクに対し、俺は驚愕の声を上げる。
「結局誰だよ!?」
青年はお面を二重に被っていた。
覆面も脱がせる。
男はようやく素顔になって、清々しい笑顔を俺に向けた。
「俺ですよ」
見覚えがなくて、俺は「結局誰だよ!?」と再び叫んでいた。
その青年の顔を、俺は写真でしか見たことがなくて、まさか彼が隣の県に住むネット仲間の1人だとは気づけなかったというわけだ。
襲撃者の1人が俺に重たそうな箱を差し出す。
「これ、お土産です」
「わざわざどうも」
受け取ると、俺は自分の目を疑った。
様々な漫画の単行本が並んでいる。
冊数を数えると、合計22冊だ。
しかしタイトルはおろかジャンルまでバラバラで、この漫画の共通点が見当たらない。
強いていえば、どれもこれも第7巻だ。
1巻でも最終巻でもなく、全部7巻なのだ。
試しに1冊手に取ってみる。
出だしにこうあった。
「ネエ…、どーゆーコト…? どーゆーコトよコレ!? アタシぜんぜんわかんないヨ! …ネエ!?」
俺だって全然解らない。
一体今まで何があったのだ。
他の漫画にも手を伸ばしてみる。
「予定外の干渉があったようですね」
知るか。
お前のそのセリフのほうが予定外である。
ミステリー漫画は犯人が解らないまま終わってるし、これ全部読まなきゃいけないのだろうか。
ただ、非常にありがたい土産もあった。
焼き肉用の牛肉たちだ。
俺はせかせかと食器やホットプレートを用意し、嬉しそうに固まる。
「ねえ。野菜は?」
「ないです」
「じゃあ焼き肉のタレは?」
「ないんですか?」
「ないです」
「じゃあ買ってきてください」
今までの人生でこれ以上酷い仕打ちがあっただろうか。
思わずツイッターでつぶやきを投稿する。
「襲撃された! 最初馬だったんだけど結局誰だよって話でレスラーが人に! 格7巻が22冊あって、肉焼きにくいかも知れません。完璧な説明だ」
これで俺の支離滅裂さが大勢に伝わったことと思う。
タレは結局、買い出しに行くのが面倒だったので適当に配合して作り、野菜は無しということで話をまとめる。
お手製のタレを部屋に運ぶと、いきなりクラッカーを鳴らされて何もかもをこぼしそうになった。
折り紙で作られたカラフルな鎖状の飾りが部屋を彩っているし、俺は今日誕生日なのだろうか。
「クラッカー選び、結構大変だったんですよ」
襲撃者は満面の笑みだ。
「1番部屋が散らかるタイプの物を用意しました」
客人にこんな乱暴な口を効くのは非常に心苦しいのですが、お前らばかなんですか!?
クラッカーの炸裂音には本当に心臓を止められそうになったので、再びつぶやく。
「追記。俺の部屋に入るにはノックが必要でした。何故ならクラッカーが俺の今までの記憶を走馬灯のように。そして今も! つぶやいてただけなのに! 酷い! お米は4合炊いてます」
自分で書いた文章に訳をつけるのは複雑な心境だが、仕方ない。
手作りの焼き肉のタレを一生懸命作っていたら、襲撃者たちに「めささん、戻るときはノックしてください」と命じられ、その通りにしたら人に向けるなと注意書きがされているはずのクラッカーをめっちゃこっちに向けられ、パソコンに向かってキーボードを叩いていたらまたしてもクラッカーを鳴らされた。
おかげで俺は出航するフェリーぐらいリボンまみれだ。
ちなみにお米は4合炊いた。
「じゃあ、さっそく見ましょうか」
なにが「じゃあ」なのか。
とっても怖いと評判のホラー映画。
そのDVDを手に、友人がにやりと笑った。
「ふわあ…! ああッ! もう無理ぃ! 無理ぃ! 死んじゃうよう! あああああッ!」
その声だけを聞かれたら近所の人から誤解をされそうである。
皆から「めささんの叫び声のほうが怖い」と怒られながら、映画を見続ける。
映画の出来はとても良く、7巻だけではないので起承転結がまとまっていた。
ただ、俺は要らぬ想像ばかりしているので、油断してもいいシーンでも油断をしない。
おかげで、普通に場面が変っただけでも「ふああッ!」とか叫び、少しでも物音がしたら「ひゃあ!」と飛び上がる。
いざというときのために模造刀を手にして見ていたけれど、それだけだと心細い。
ペットボトルを2本抱きかかえ、事なきを得た。
明らかに平和なシーンでは自分の周囲にそのペットボトルを配置し、猫よけみたいにしておいた。
効果のほどは知りません。
「この映画が終わったら俺、肉焼くんだ…。牛だぜ牛。楽しみだなあ」
「それ死亡フラグです。でも、めささんって、ホントに怖がりなんですね。動画で見てるときは多少演技してるのかと思ってました」
「ばかか! 俺を怖がらせたかったら、手加減してても大丈夫だからもっと手を抜け! も~! もっと楽しい映画見ようよ~!」
ホラー映画が終わって、肉を焼く。
野菜がないので「肉肉野菜、肉野菜の順で食べろ」などと仕切れない。
それにしても幸せな肉だ。
焼き肉なんて久しぶりだし、手作りのタレも適当に混ぜただけの割には成功している。
本当に美味しかった。
しかし、俺はまだ知らない。
自室にある様々な武器。
模造刀、大小二振りの木刀、友達が持参してきたクナイ。
その全てがこの後、俺に襲いかかることになる。
最後にそのときの俺の音声を再現してこの日記を終えよう。
「危な、危な…! ちょっと! 俺丸腰! 俺にもなんか武器ちょうだいよ! あ、そうだ! かっちゃん! 本棚の上に木刀が2本あるから取ってきて! そうそれ! って、なんでお前らが使うんだよォ! いって! ねえ見て! 刀が刺さったとこ、血が出た! あはははは! もう無理ー! さばき切れねえよばか! お、それ使ってもいいの!? よーし、これさえあれば! ってこれ、折り紙の鶴じゃないかー! どこの達人だよ俺は! っつーか俺の声がうるさい! 近所迷惑でしょ!? やめてくれやめてくれ。ぎゃあ!」
みんな、満ち足りた顔をして帰っていきました。
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