夢見町の史
Let’s どんまい!
2010
August 18
August 18
「もう! 鈍いなあ! あたしを抱っこしててほしいの!」
と、あたしは叫ぶ。
すると、めささんが「喜んで!」と返してきた。
違うでしょ。
そこは「なんだってェ!? だだだ、抱っこだと!? いやでも、こ、怖いんなら仕方ねえ」でしょ。
なに素になってんの、この大人。
「めささん、NG~!」
誰かが楽しそうにそう言った。
めささんがブログ上で「ベタ物語をボイスドラマにしたいから、声優やってみたい人、大募集!」みたいなことを言っていて、声優に憧れてたことがあったあたしとしては「気軽そうだしいい機会だな」なんて思い、応募をしてみた。
あたしが演技をしているときの声を聞いたメンバーたちは、めささんも含めて「ヒロイン役、決定だな」と口を揃える。
あたしなんかでいいのだろうか。
と正直に思ったけれど、意見としては満場一致で、嬉しいような申し訳ないような、なんだか複雑な心境だ。
「いやあ、NG出しちゃったな~俺」
練習中、めささんは嬉しそうな声を出す。
「いやしかし、練習中とはいえ、NGはよろしくありません。やり直そう。秋燈ちゃん、もう1回、『もう! 鈍いなあ! あたしを抱っこしててほしいの!』のとこからお願いします」
なんでそこからなのか。
いや、まあ、いいけど。
あたしは意識を高め、ヒロインと同じ心理になり切って声を出す。
「もう! 鈍いなあ! あたしを抱っこしててほしいの!」
「ああ…」
めささんや、他の男性メンバーの溜め息が聞こえた。
「秋燈ちゃん、ちょっと気になることがある」
と、真剣な声色のめささん。
「次のセリフを読み上げてってもらっていい?」
「あ、はい。どこですか?」
「今、送る」
スカイプのチャット欄に、次々とセリフが打ち出されていく。
「もう、鈍感…」
「どうせ、あたしに興味なんてないクセに…」
「どうしよう…。あたし、あなたのこと、好きになっちゃった…」
「あたしとじゃ、嫌…?」
なんだこの痛い男の願望セリフ。
しかし、男性陣は気持ちが悪いぐらい真面目な声だ。
「これは、作品作りにとっても大事なことなんだ」
「そうそう! 決して個人的に聞いてみたいとかじゃなくって」
「うむ。やはりベタなストーリーなわけだから、こういったセリフを言い慣れてもらわないとね」
なんだか妙な説得力だ。
でもまあ仕方ない。
あたしは普段だったら絶対に言わないであろう言葉を続けざまに口にしていった。
「もう、鈍感…」
「どうせ、あたしに興味なんてないクセに…」
「どうしよう…。あたし、あなたのこと、好きになっちゃった…」
「あたしとじゃ、嫌…?」
めささんが「嫌なんかじゃないさ!」と勝手に続いてきた。
他の男性メンバーは「めささん、ありがとう!」などと、着いていけない盛り上がり方だ。
「まあ冗談はさて置き、練習に戻ろうか」
まさか今の、冗談だったの!?
この男、主催者って立場を利用してた!?
「ではでは、次のシーンは、ここを練習しようか?」
指定されたのは、無人島で寝入るヒロインに、主人公がキスを迫るシーンだ。
「おい、寝てんのか?」
「ん」
「お前、そんな無防備だと、ほら、な?」
「んん」
「おいおい、起きろって」
「んー」
「起きろよ」
「ン…」
「起きねえとお前、キ、キスしちまうぞ?」
「ん」
「起きろって。本気だぞ?」
「ん…」
「い、いいんだな? ホントにやるぞ? お、お前がいいって言ったんだからな?」
「んんっ」
で、ナレーターが「ええい、もうどうにでもなれ!」と続く。
「ここのシーンは重要だ」
と、めささん。
「主人公の声、男役はじゃあ、君にやってもらおうかな。ナレーターは俺が言おう。ヒロインのセリフは引き続き秋燈ちゃんで。ではスタート!」
合図がして、演技が始まる。
「おい、寝てんのか?」
「ん」
「お前、そんな無防備だと、ほら、な?」
「んん」
「おいおい、起きろって」
「んー」
「起きろよ」
「ン…」
「起きねえとお前、キ、キスしちまうぞ?」
「ん」
「起きろって。本気だぞ?」
「ん…」
「い、いいんだな? ホントにやるぞ? お、お前がいいって言ったんだからな?」
「んんっ」
ところが、ナレーションの「ええい、もうどうにでもなれ!」の声がしない。
代わりに聞こえたのは、めささんの、
「ふむ。なんか引っかかるな」
不服そうな声だ。
「秋燈ちゃん、ここのセリフは『ん』しかないけど、できるだけエロく頼む。いやこれは職権乱用とかじゃ決してない!」
口元が緩んで聞こえるのは何故だろう。
まあ、いいけど。
男性役の人が再びセリフを読み上げ、あたしはそれに合わせる。
なるべく色気というやつを意識してみた。
「おい、寝てんのか?」
「ん」
「お前、そんな無防備だと、ほら、な?」
「んん」
「おいおい、起きろって」
「んー」
「起きろよ」
「ン…」
「起きねえとお前、キ、キスしちまうぞ?」
「ん」
「起きろって。本気だぞ?」
「ん…」
「い、いいんだな? ホントにやるぞ? お、お前がいいって言ったんだからな?」
「んんっ」
そして、めささんのナレーション。
「ええい! 録音しておけばよかったーッ!」
「めささん!」
怒ったような男性メンバーの声。
さすがに悪ふざけが過ぎると、めささんを注意してくれようとしている。
「めささんは年上だし、主催者だけど、一言だけ言わせてください!」
「なあに?」
「あんた、最高のシナリオ書いてくれたぜ!」
「でしょでしょ!? 俺はもしかしたら、今日この日のためにベタ物語を書いたのかも知れない」
…バカだ。
男って、みんなバカだ。
バカばっかりだ。
なんて肩を落としていたけれど、めささんは言う。
「女性陣のみんな、安心してくれ」
この空気のどこに安心できる要素があるってのよ。
「主人公役の彼の声、めちゃめちゃカッコイイだろ?」
ああ、確かに彼は上手いし、声がもの凄くいい。
「あの彼には、次のセリフを読み上げてもらって、そいつは録音してみんなに送ろう」
めささんが再びカタカタとキーボードを打った。
次のセリフが現れる。
「ほら、来いよ」
「お前、ほんとバカだな。…でも、お前みたいなバカ、嫌いじゃないぜ」
「俺は生まれ変わっても、必ずお前を見つけ出す!」
「お前のことが、好きだ」
どうだ?
と、めささん。
きゃー!
あたしもう、このチーム大好き!
めささんは、「このメンバーにチーム名をつけるとしたら『萌え部』だな」とつぶやいた。
それでいいと思います。
と、あたしは叫ぶ。
すると、めささんが「喜んで!」と返してきた。
違うでしょ。
そこは「なんだってェ!? だだだ、抱っこだと!? いやでも、こ、怖いんなら仕方ねえ」でしょ。
なに素になってんの、この大人。
「めささん、NG~!」
誰かが楽しそうにそう言った。
めささんがブログ上で「ベタ物語をボイスドラマにしたいから、声優やってみたい人、大募集!」みたいなことを言っていて、声優に憧れてたことがあったあたしとしては「気軽そうだしいい機会だな」なんて思い、応募をしてみた。
あたしが演技をしているときの声を聞いたメンバーたちは、めささんも含めて「ヒロイン役、決定だな」と口を揃える。
あたしなんかでいいのだろうか。
と正直に思ったけれど、意見としては満場一致で、嬉しいような申し訳ないような、なんだか複雑な心境だ。
「いやあ、NG出しちゃったな~俺」
練習中、めささんは嬉しそうな声を出す。
「いやしかし、練習中とはいえ、NGはよろしくありません。やり直そう。秋燈ちゃん、もう1回、『もう! 鈍いなあ! あたしを抱っこしててほしいの!』のとこからお願いします」
なんでそこからなのか。
いや、まあ、いいけど。
あたしは意識を高め、ヒロインと同じ心理になり切って声を出す。
「もう! 鈍いなあ! あたしを抱っこしててほしいの!」
「ああ…」
めささんや、他の男性メンバーの溜め息が聞こえた。
「秋燈ちゃん、ちょっと気になることがある」
と、真剣な声色のめささん。
「次のセリフを読み上げてってもらっていい?」
「あ、はい。どこですか?」
「今、送る」
スカイプのチャット欄に、次々とセリフが打ち出されていく。
「もう、鈍感…」
「どうせ、あたしに興味なんてないクセに…」
「どうしよう…。あたし、あなたのこと、好きになっちゃった…」
「あたしとじゃ、嫌…?」
なんだこの痛い男の願望セリフ。
しかし、男性陣は気持ちが悪いぐらい真面目な声だ。
「これは、作品作りにとっても大事なことなんだ」
「そうそう! 決して個人的に聞いてみたいとかじゃなくって」
「うむ。やはりベタなストーリーなわけだから、こういったセリフを言い慣れてもらわないとね」
なんだか妙な説得力だ。
でもまあ仕方ない。
あたしは普段だったら絶対に言わないであろう言葉を続けざまに口にしていった。
「もう、鈍感…」
「どうせ、あたしに興味なんてないクセに…」
「どうしよう…。あたし、あなたのこと、好きになっちゃった…」
「あたしとじゃ、嫌…?」
めささんが「嫌なんかじゃないさ!」と勝手に続いてきた。
他の男性メンバーは「めささん、ありがとう!」などと、着いていけない盛り上がり方だ。
「まあ冗談はさて置き、練習に戻ろうか」
まさか今の、冗談だったの!?
この男、主催者って立場を利用してた!?
「ではでは、次のシーンは、ここを練習しようか?」
指定されたのは、無人島で寝入るヒロインに、主人公がキスを迫るシーンだ。
「おい、寝てんのか?」
「ん」
「お前、そんな無防備だと、ほら、な?」
「んん」
「おいおい、起きろって」
「んー」
「起きろよ」
「ン…」
「起きねえとお前、キ、キスしちまうぞ?」
「ん」
「起きろって。本気だぞ?」
「ん…」
「い、いいんだな? ホントにやるぞ? お、お前がいいって言ったんだからな?」
「んんっ」
で、ナレーターが「ええい、もうどうにでもなれ!」と続く。
「ここのシーンは重要だ」
と、めささん。
「主人公の声、男役はじゃあ、君にやってもらおうかな。ナレーターは俺が言おう。ヒロインのセリフは引き続き秋燈ちゃんで。ではスタート!」
合図がして、演技が始まる。
「おい、寝てんのか?」
「ん」
「お前、そんな無防備だと、ほら、な?」
「んん」
「おいおい、起きろって」
「んー」
「起きろよ」
「ン…」
「起きねえとお前、キ、キスしちまうぞ?」
「ん」
「起きろって。本気だぞ?」
「ん…」
「い、いいんだな? ホントにやるぞ? お、お前がいいって言ったんだからな?」
「んんっ」
ところが、ナレーションの「ええい、もうどうにでもなれ!」の声がしない。
代わりに聞こえたのは、めささんの、
「ふむ。なんか引っかかるな」
不服そうな声だ。
「秋燈ちゃん、ここのセリフは『ん』しかないけど、できるだけエロく頼む。いやこれは職権乱用とかじゃ決してない!」
口元が緩んで聞こえるのは何故だろう。
まあ、いいけど。
男性役の人が再びセリフを読み上げ、あたしはそれに合わせる。
なるべく色気というやつを意識してみた。
「おい、寝てんのか?」
「ん」
「お前、そんな無防備だと、ほら、な?」
「んん」
「おいおい、起きろって」
「んー」
「起きろよ」
「ン…」
「起きねえとお前、キ、キスしちまうぞ?」
「ん」
「起きろって。本気だぞ?」
「ん…」
「い、いいんだな? ホントにやるぞ? お、お前がいいって言ったんだからな?」
「んんっ」
そして、めささんのナレーション。
「ええい! 録音しておけばよかったーッ!」
「めささん!」
怒ったような男性メンバーの声。
さすがに悪ふざけが過ぎると、めささんを注意してくれようとしている。
「めささんは年上だし、主催者だけど、一言だけ言わせてください!」
「なあに?」
「あんた、最高のシナリオ書いてくれたぜ!」
「でしょでしょ!? 俺はもしかしたら、今日この日のためにベタ物語を書いたのかも知れない」
…バカだ。
男って、みんなバカだ。
バカばっかりだ。
なんて肩を落としていたけれど、めささんは言う。
「女性陣のみんな、安心してくれ」
この空気のどこに安心できる要素があるってのよ。
「主人公役の彼の声、めちゃめちゃカッコイイだろ?」
ああ、確かに彼は上手いし、声がもの凄くいい。
「あの彼には、次のセリフを読み上げてもらって、そいつは録音してみんなに送ろう」
めささんが再びカタカタとキーボードを打った。
次のセリフが現れる。
「ほら、来いよ」
「お前、ほんとバカだな。…でも、お前みたいなバカ、嫌いじゃないぜ」
「俺は生まれ変わっても、必ずお前を見つけ出す!」
「お前のことが、好きだ」
どうだ?
と、めささん。
きゃー!
あたしもう、このチーム大好き!
めささんは、「このメンバーにチーム名をつけるとしたら『萌え部』だな」とつぶやいた。
それでいいと思います。
PR