夢見町の史
Let’s どんまい!
2011
April 24
April 24
M子がうちのカーテンレールを壊した。
なんでそんな酷いことを。
だいたい「俺は帰る」って何度も、それこそ10回ぐらい主張したのだ。
それなのに帰宅時刻はというと、なんと朝の10時半。
夜から飲んでいたのに帰りは10時半。
考え方によっては、この時刻は昼とも表現できる。
俺もM子もTちゃんもその時間まで飲み続けていたわけだから、3人ともべろんべろんである。
2人の女の子は当然のように、うちに転がり込んできていた。
そもそもこのM子というは俺の元同僚で、職場のスナック「スマイル」で共に働いていたことがある。
なかなかの腐れ縁だ。
そんなM子が、Tちゃんという女の子と一緒にスマイルに飲みに来た。
俺は初対面だったのだが、このTちゃんという大人しげな子も、以前はこのスマイルでフロアレディをやっていたとのこと。
M子と違って物静かな女性である。
スマイルではこの日、俺の弟や妹まで飲みにきていて、それはそれで賑やかだった。
午前4時に終わるはずのスマイルが、気づけばもう5時だ。
俺はお客さんたちや従業員たちを見送ると、そのまま店の後片付けを始めた。
酔ってふらふらになりながらも、お尻のポケットから細かな振動を感じ取る。
携帯電話が鳴っていることに気がついた。
「はいよ、もしもし?」
「めさちゃーん!」
妹からだった。
「めさちゃん! 今どこ!?」
「スマイルで後片付けしてるよ?」
「それ終わったら飲みにおいでよ! みんな次の店にいるから!」
「眠いからやだ」
俺は電話を切った。
すると、また振動。
今度はM子だ。
「あんたなにやってんの。早く来なさいよ」
「やだよ。眠いもん」
「せっかく誘ってやってんのに?」
「どこから目線なんだお前は。なんの立場での物言いだ、それは」
「いいから早く! いつもの店にいるから!」
「嫌だってば! 俺はもう帰るの!」
「もー! いいから来いってば! しつこい!」
「お前がな!」
「うるさい! 早く来な!」
スッポンは、一度獲物に噛み付くと、雷が鳴るまで決して離さないという。
スマイルを出て見上げると、夜空は晴れ渡っていた。
俺は「マジで帰る」と何度も口にしつつ、楽しい仲間がぽぽぽぽ~んな2件目に歩を進める。
で、およそ昼。
そんな時間までやっている店も店だが、変らぬペースで飲み続けられた俺たちも無駄に凄い。
弟と妹は既に限界を向かえ、早朝に帰っていってたし、他のお客さん方もそうだ。
我ながら思うけれど、よくぞまあ、そんな何ガロンも飲めたものである。
歩道で振り返ってみると、M子とTちゃんは帰るためのエネルギーと気力が見事に足りないことが解った。
夢遊病患者のような足取りだが、当たり前のように俺ン家に向かっている。
完全にうちで寝る気だ。
めさ邸に到着すると、短パンとTシャツを2人に与える。
着替え終わった頃に部屋に入ると、そこでM子が悲劇を起こした。
信じられない。
M子は立ち上がろうとする際、カーテンを掴んで、全体重を預けた。
こいつ、自分ン家では絶対そんなことしないクセに、カーテンにぶら下がる格好で立ち上がろうとしやがった!
ばり!
「うそー!」
不吉な破壊音と共に、カーテンとM子が畳みに落ちる。
アルミ製のカーテンレールも道連れになっていた。
ささやかなこのアパートに引っ越してきた当時を思い出す。
この部屋の窓にはそもそも、カーテンレールが付いていなかった。
そこをどうにか工夫して、色々と頑張って、やっと装着させたカーテンレールが、取れた。
そういえば昔、このカーテンレールを壊した奴が他にもいたっけ。
思わず遠い目になる。
引っ越し祝いにと飲みに来た妹は、何かにつまずき、カーテンを掴んだまま派手にコケた。
カーテンレールはそのときも、根元から取れていた。
カーテンレールが取れたといってもそれは片側だけで、反対側だけはどうにか壁に付いたまま、ぷらんぷらんと揺れている。
カーテンを掴んだままで、妹が叫んだ。
「あたし直すから!」
人ン家のカーテンを両手で鷲づかみにし、豪快に振り回す妹。
俺も叫んだ。
「それ以上壊さないでくれ!」
後日、泣きそうになりながらカーテンレールを直し、散らかった部屋を片付けた。
一通りの再現シーンを脳内で終え、意識が現実に戻ってくる。
デジャヴかこれは。
M子はカーテンを両手で掴み、ぐりぐりと回転させながら、わずかに付いたままでいるカーテンレールをもぎ取ろうとしていた。
「あたし直すから!」
「それ以上壊さないでくれ!」
どうしてなんでこういうタイプの奴は、こういうことをするのだろうか。
M子と俺の妹は血でも繋がっているのだろうか。
親兄弟の顔が見たい。
その後になっても、M子の大暴走は留まることを知らない。
アウトドアグッズの1つである焼き網をM子に見せると、取っ手の部分を豪快にひん曲げ、「意味わかんない!」と意味の解らないことを言った。
頑張って取っ手を真っ直ぐに直しながら、俺は涙目になってM子を睨む。
「もう寝ろォ!」
数時間ほど眠り、やがて起きる。
M子もTちゃんも、これは俺もそうだが激しい二日酔いのため、すこぶる気分が悪い。
俺はよろよろと台所まで歩くと、味噌汁を3人分作った。
「まな板から包丁の音がする~。あいつは新妻か!」
その一声が、味噌汁を与える気を失くさせる。
それにしても具合が悪い。
もうお酒なんて見るのも嫌な心地だ。
俺はだらだらとベットに潜り込み、再び眠ることにした。
Tちゃんの声が遠くから聞こえる。
「なんかジュース飲みたい。近くに売ってない?」
するとM子は「この家を出て右に真っ直ぐ進むと自動販売機があるよ」と嘘をついた。
誰の家と間違えているのだろうか。
俺ン家を出て右に真っ直ぐ進むと、電柱があるだけだ。
M子がごろりと横になる。
「ねえねえ、めさ~」
「ん~?」
続くM子の言葉は、これを書いている今でも信じられない内容だった。
「あんたン家ってさ、なんでカーテンないの? 眩しいんだけど」
「完全にお前の功績だよ!」
「あたしなんかした~? すぐあたしのせいにする」
「お前みたいな酷い奴を見るのは初めてだ!」
かくして、俺の2度寝は泣き寝入りといった形になった。
夕方に起きると、M子とTちゃんは帰ったらしい。
置手紙と後片付けの痕跡が少しもないところが彼女らしい。
「ったく」
軽く呪いながらベットから起き出す。
焼き網を仕舞おうとアウトドアグッズを拾い上げた。
「あいつ…ッ!」
寝る前に一生懸命に直した取っ手の部分は、再び大きく折り曲げられている。
「M子ォーッ!」
俺の悲痛な叫び声がアパート全体にこだました。
なんでそんな酷いことを。
だいたい「俺は帰る」って何度も、それこそ10回ぐらい主張したのだ。
それなのに帰宅時刻はというと、なんと朝の10時半。
夜から飲んでいたのに帰りは10時半。
考え方によっては、この時刻は昼とも表現できる。
俺もM子もTちゃんもその時間まで飲み続けていたわけだから、3人ともべろんべろんである。
2人の女の子は当然のように、うちに転がり込んできていた。
そもそもこのM子というは俺の元同僚で、職場のスナック「スマイル」で共に働いていたことがある。
なかなかの腐れ縁だ。
そんなM子が、Tちゃんという女の子と一緒にスマイルに飲みに来た。
俺は初対面だったのだが、このTちゃんという大人しげな子も、以前はこのスマイルでフロアレディをやっていたとのこと。
M子と違って物静かな女性である。
スマイルではこの日、俺の弟や妹まで飲みにきていて、それはそれで賑やかだった。
午前4時に終わるはずのスマイルが、気づけばもう5時だ。
俺はお客さんたちや従業員たちを見送ると、そのまま店の後片付けを始めた。
酔ってふらふらになりながらも、お尻のポケットから細かな振動を感じ取る。
携帯電話が鳴っていることに気がついた。
「はいよ、もしもし?」
「めさちゃーん!」
妹からだった。
「めさちゃん! 今どこ!?」
「スマイルで後片付けしてるよ?」
「それ終わったら飲みにおいでよ! みんな次の店にいるから!」
「眠いからやだ」
俺は電話を切った。
すると、また振動。
今度はM子だ。
「あんたなにやってんの。早く来なさいよ」
「やだよ。眠いもん」
「せっかく誘ってやってんのに?」
「どこから目線なんだお前は。なんの立場での物言いだ、それは」
「いいから早く! いつもの店にいるから!」
「嫌だってば! 俺はもう帰るの!」
「もー! いいから来いってば! しつこい!」
「お前がな!」
「うるさい! 早く来な!」
スッポンは、一度獲物に噛み付くと、雷が鳴るまで決して離さないという。
スマイルを出て見上げると、夜空は晴れ渡っていた。
俺は「マジで帰る」と何度も口にしつつ、楽しい仲間がぽぽぽぽ~んな2件目に歩を進める。
で、およそ昼。
そんな時間までやっている店も店だが、変らぬペースで飲み続けられた俺たちも無駄に凄い。
弟と妹は既に限界を向かえ、早朝に帰っていってたし、他のお客さん方もそうだ。
我ながら思うけれど、よくぞまあ、そんな何ガロンも飲めたものである。
歩道で振り返ってみると、M子とTちゃんは帰るためのエネルギーと気力が見事に足りないことが解った。
夢遊病患者のような足取りだが、当たり前のように俺ン家に向かっている。
完全にうちで寝る気だ。
めさ邸に到着すると、短パンとTシャツを2人に与える。
着替え終わった頃に部屋に入ると、そこでM子が悲劇を起こした。
信じられない。
M子は立ち上がろうとする際、カーテンを掴んで、全体重を預けた。
こいつ、自分ン家では絶対そんなことしないクセに、カーテンにぶら下がる格好で立ち上がろうとしやがった!
ばり!
「うそー!」
不吉な破壊音と共に、カーテンとM子が畳みに落ちる。
アルミ製のカーテンレールも道連れになっていた。
ささやかなこのアパートに引っ越してきた当時を思い出す。
この部屋の窓にはそもそも、カーテンレールが付いていなかった。
そこをどうにか工夫して、色々と頑張って、やっと装着させたカーテンレールが、取れた。
そういえば昔、このカーテンレールを壊した奴が他にもいたっけ。
思わず遠い目になる。
引っ越し祝いにと飲みに来た妹は、何かにつまずき、カーテンを掴んだまま派手にコケた。
カーテンレールはそのときも、根元から取れていた。
カーテンレールが取れたといってもそれは片側だけで、反対側だけはどうにか壁に付いたまま、ぷらんぷらんと揺れている。
カーテンを掴んだままで、妹が叫んだ。
「あたし直すから!」
人ン家のカーテンを両手で鷲づかみにし、豪快に振り回す妹。
俺も叫んだ。
「それ以上壊さないでくれ!」
後日、泣きそうになりながらカーテンレールを直し、散らかった部屋を片付けた。
一通りの再現シーンを脳内で終え、意識が現実に戻ってくる。
デジャヴかこれは。
M子はカーテンを両手で掴み、ぐりぐりと回転させながら、わずかに付いたままでいるカーテンレールをもぎ取ろうとしていた。
「あたし直すから!」
「それ以上壊さないでくれ!」
どうしてなんでこういうタイプの奴は、こういうことをするのだろうか。
M子と俺の妹は血でも繋がっているのだろうか。
親兄弟の顔が見たい。
その後になっても、M子の大暴走は留まることを知らない。
アウトドアグッズの1つである焼き網をM子に見せると、取っ手の部分を豪快にひん曲げ、「意味わかんない!」と意味の解らないことを言った。
頑張って取っ手を真っ直ぐに直しながら、俺は涙目になってM子を睨む。
「もう寝ろォ!」
数時間ほど眠り、やがて起きる。
M子もTちゃんも、これは俺もそうだが激しい二日酔いのため、すこぶる気分が悪い。
俺はよろよろと台所まで歩くと、味噌汁を3人分作った。
「まな板から包丁の音がする~。あいつは新妻か!」
その一声が、味噌汁を与える気を失くさせる。
それにしても具合が悪い。
もうお酒なんて見るのも嫌な心地だ。
俺はだらだらとベットに潜り込み、再び眠ることにした。
Tちゃんの声が遠くから聞こえる。
「なんかジュース飲みたい。近くに売ってない?」
するとM子は「この家を出て右に真っ直ぐ進むと自動販売機があるよ」と嘘をついた。
誰の家と間違えているのだろうか。
俺ン家を出て右に真っ直ぐ進むと、電柱があるだけだ。
M子がごろりと横になる。
「ねえねえ、めさ~」
「ん~?」
続くM子の言葉は、これを書いている今でも信じられない内容だった。
「あんたン家ってさ、なんでカーテンないの? 眩しいんだけど」
「完全にお前の功績だよ!」
「あたしなんかした~? すぐあたしのせいにする」
「お前みたいな酷い奴を見るのは初めてだ!」
かくして、俺の2度寝は泣き寝入りといった形になった。
夕方に起きると、M子とTちゃんは帰ったらしい。
置手紙と後片付けの痕跡が少しもないところが彼女らしい。
「ったく」
軽く呪いながらベットから起き出す。
焼き網を仕舞おうとアウトドアグッズを拾い上げた。
「あいつ…ッ!」
寝る前に一生懸命に直した取っ手の部分は、再び大きく折り曲げられている。
「M子ォーッ!」
俺の悲痛な叫び声がアパート全体にこだました。
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