夢見町の史
Let’s どんまい!
2011
September 16
September 16
ハイキングに行ったのだが新鮮味がなかったと、お客さんは言う。
子供の頃から何度も行っている場所がハイキングコースであったため、感動がなかったのだそうだ。
「へえ。ちなみにどこに行かれたんですか?」
訊くと、痩せ型の中年男性がグラスを持ったまま「三渓園」と答えた。
さんけいえんって、どこそれ。
キツい、汚い、危険な炎?
いやちげーよ。
3K炎じゃねえよ。
自問自答するよりも訊ねたほうが早い。
俺はお客さんに恐る恐る疑問を口にした。
「あのう、勉強不足ですみません。さんけいえんって何県ですか?」
この日もスナック「スマイル」は閑散としていて、我ながら職場の行く末が心配になる、そんないつもの夜のことだった。
お客さんは尚もグラスを持ったままで、氷固まる。
「めさ君、横浜出身じゃないの!?」
「ええ。生まれも育ちもこの街ですよ?」
「それで三渓園知らないの!?」
どこに住んでいても知らないものは知らないので、正直に「知らないですね」と胸を張った。
「それは話にならない!」
お客さんの言いようはまるで、「こいつ人知を超えた銀河系馬鹿だ!」とでも言いたそうな様子だ。
だけれども、今までたまたま見聞きしなかったことを知っていることのほうがおかしいじゃないか。
「もの凄い確率で、僕が生まれてから今日までずっと、誰も三渓園については触れてきませんでしたね」
「めさ君、それはね! 横浜に住んでて山下公園を知らないのと一緒だよ!」
要するに、日本に住んでて富士山を知らないのと同じようなものらしい。
でも、知らないもんは知らんもの。
なんで俺が怒られるのよ。
携帯電話を取り出し、密かに「さんけいえんってどんな字?」と、俺は仲間に訊いた。
調べてみると、意外や意外。
すぐにでも行けるような近場にそれはあって、画像には五重の塔やお寺のような日本的な建築物。
それらは自然と調和していて、カメラマンの腕も良いのだろうがすこぶる美しく写っている。
秋には紅葉も楽しめるのだそうだ。
「これはいい! いいこと知った! 俺今度ここ行ってきますよ!」
喜んでいると、お客さんは呆れたように「横浜出身で三渓園知らないなんてありえない」と現実を認めようとしない。
「まあまあお客さん、そう言わずに。僕が三渓園を知らなかったのは過去のことです。でも今はもう知っちゃったもん。なのでなので、この店に三渓園を知らない従業員は1人もいなくなりました」
「そういう問題じゃない!」
「さようなら、三渓園を知らなかった自分。こんにちは、三渓園を知った自分」
「誤魔化せてないよ!」
そうこうしていると、遅出のフロアレディCちゃんが出勤してきて、今日も元気に「おはようございまーす」といい笑顔を見せる。
そんな彼女を、俺は呼び止めた。
「おはようCちゃん。あのさ、Cちゃんもさ、横浜生まれだよね?」
「ええ、そうでーす! 育ちも横浜ー!」
「だよね? でさ、Cちゃん。三渓園って知ってる?」
「知ってますよー。ってゆうか横浜に住んでて三渓園知らない人なんて、いないんじゃないですか?」
「え!? あ、ああ! そ、そそそ、そうだよね!? ですよねえ! あの三渓園を知らない奴なんているわけないよね!? そんなんありえないありえない! 横浜に生まれて三渓園を知らないなんて、山下公園を知らないのと一緒!」
「どうしたんですか? めささん、口数いつもより多い~」
「そんなこたァないっ! でもこれは日記に書くからいずれバレるな…」
「え? 今なんて~?」
「いやこっちの話!」
実に嫌な汗をかいた。
話題は変わり、先ほどのお客さんが気分良さげに言う。
「めさ君はブログとかやってるけど、僕ぁね、検索して調べるためにネットを使うんだよね」
「ネットって便利ですもんね。お客さんほどじゃないですけど、僕もたまに検索しますよ。三渓園とか」
「横浜に生まれて三渓園を知らないなんて本当に信じられない!」
いっけね。
ぶり返しちゃった。
どんまい俺!
三渓園には、今度行ってみようと思います。
子供の頃から何度も行っている場所がハイキングコースであったため、感動がなかったのだそうだ。
「へえ。ちなみにどこに行かれたんですか?」
訊くと、痩せ型の中年男性がグラスを持ったまま「三渓園」と答えた。
さんけいえんって、どこそれ。
キツい、汚い、危険な炎?
いやちげーよ。
3K炎じゃねえよ。
自問自答するよりも訊ねたほうが早い。
俺はお客さんに恐る恐る疑問を口にした。
「あのう、勉強不足ですみません。さんけいえんって何県ですか?」
この日もスナック「スマイル」は閑散としていて、我ながら職場の行く末が心配になる、そんないつもの夜のことだった。
お客さんは尚もグラスを持ったままで、氷固まる。
「めさ君、横浜出身じゃないの!?」
「ええ。生まれも育ちもこの街ですよ?」
「それで三渓園知らないの!?」
どこに住んでいても知らないものは知らないので、正直に「知らないですね」と胸を張った。
「それは話にならない!」
お客さんの言いようはまるで、「こいつ人知を超えた銀河系馬鹿だ!」とでも言いたそうな様子だ。
だけれども、今までたまたま見聞きしなかったことを知っていることのほうがおかしいじゃないか。
「もの凄い確率で、僕が生まれてから今日までずっと、誰も三渓園については触れてきませんでしたね」
「めさ君、それはね! 横浜に住んでて山下公園を知らないのと一緒だよ!」
要するに、日本に住んでて富士山を知らないのと同じようなものらしい。
でも、知らないもんは知らんもの。
なんで俺が怒られるのよ。
携帯電話を取り出し、密かに「さんけいえんってどんな字?」と、俺は仲間に訊いた。
調べてみると、意外や意外。
すぐにでも行けるような近場にそれはあって、画像には五重の塔やお寺のような日本的な建築物。
それらは自然と調和していて、カメラマンの腕も良いのだろうがすこぶる美しく写っている。
秋には紅葉も楽しめるのだそうだ。
「これはいい! いいこと知った! 俺今度ここ行ってきますよ!」
喜んでいると、お客さんは呆れたように「横浜出身で三渓園知らないなんてありえない」と現実を認めようとしない。
「まあまあお客さん、そう言わずに。僕が三渓園を知らなかったのは過去のことです。でも今はもう知っちゃったもん。なのでなので、この店に三渓園を知らない従業員は1人もいなくなりました」
「そういう問題じゃない!」
「さようなら、三渓園を知らなかった自分。こんにちは、三渓園を知った自分」
「誤魔化せてないよ!」
そうこうしていると、遅出のフロアレディCちゃんが出勤してきて、今日も元気に「おはようございまーす」といい笑顔を見せる。
そんな彼女を、俺は呼び止めた。
「おはようCちゃん。あのさ、Cちゃんもさ、横浜生まれだよね?」
「ええ、そうでーす! 育ちも横浜ー!」
「だよね? でさ、Cちゃん。三渓園って知ってる?」
「知ってますよー。ってゆうか横浜に住んでて三渓園知らない人なんて、いないんじゃないですか?」
「え!? あ、ああ! そ、そそそ、そうだよね!? ですよねえ! あの三渓園を知らない奴なんているわけないよね!? そんなんありえないありえない! 横浜に生まれて三渓園を知らないなんて、山下公園を知らないのと一緒!」
「どうしたんですか? めささん、口数いつもより多い~」
「そんなこたァないっ! でもこれは日記に書くからいずれバレるな…」
「え? 今なんて~?」
「いやこっちの話!」
実に嫌な汗をかいた。
話題は変わり、先ほどのお客さんが気分良さげに言う。
「めさ君はブログとかやってるけど、僕ぁね、検索して調べるためにネットを使うんだよね」
「ネットって便利ですもんね。お客さんほどじゃないですけど、僕もたまに検索しますよ。三渓園とか」
「横浜に生まれて三渓園を知らないなんて本当に信じられない!」
いっけね。
ぶり返しちゃった。
どんまい俺!
三渓園には、今度行ってみようと思います。
PR