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夢見町の史

Let’s どんまい!

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2017
May 28
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2011
April 30
 目次&あらすじ
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/435/



      3

「で、涼、どうだったよ~?」

  和也が友人らの顔を見渡す。

  アメリカンを意識した木造の内装と、マスターが煎れた特製コーヒーの良い香りが、今日も部活動の疲れを緩和させていた。
  夕日が差し、照明を助けている。

  大地は今朝の模様を思い返す。

「遺伝子について悩んでるみたいだった」
「違うよ」

  由衣がちょいちょいと手を振った。

「一目惚れについて考えてたんだよ、涼は」
「全体的に様子がおかしかったんだけど」

  小夜子が首を傾げる。

「古代のギリシャがどうとか言ってたから、歴史について悩んでたんじゃないの~?」

  和也は相変わらずのんびりとした調子だ。

「あいつ、俺には本を読まねえと駄目だとか言ってたぜ~?」
「結局あいつ、何について悩んでんだ?」

  大地のつぶやきに、誰もが「さあ」と不思議そうに首を捻る。

  今日の客は大地たちだけだ。
  一番奥のボックス席がいつもの場所で、そこに由衣と小夜子が先にいたのは確率の高い偶然だった。
  ほんの十分ほど前、大地は和也と一緒にルーズボーイにやってきていた。

「やあ」

  マスターはいつもと同じように手短な挨拶をし、「2人、もう来てるぞ」と咥え煙草を奥に向けた。

  このバーには大地たち専用の特別裏メニューが存在していて、大地が「俺スペシャル」と頼めば餅がメインのチーズグラタンが出てくるし、和也が「俺スペシャル」と注文すればハチミツ入りのパフェが登場する。
  ダブルとかトリプルなどと付け加えれば、これらは信じられないぐらい大盛りにされる。
  大地と和也のオーダーは今日も、そんな俺スペシャルのトリプルだ。

「君たち、たまには裏メニュー以外の物も食べたらどうだ?」

  煙が入ったのか、マスターは目を細める。

「あと、飲み物も頼んでくれ」
「んじゃあ、グレープフルーツジュースで」

  と和也。

「俺、アイスミルクティお願いします。ってゆうか客に注文を促すマスターって、珍しいっすよね」

  大地はつい顔を緩める。

「しかも、いつも咥え煙草で」
「君らに気ィ遣ってたら、疲れるからだ。普段はちゃんとしている」

  マスターは小さく鼻を鳴らし、伝票を書いた。
  そんな無礼さがフレンドリーに思えて、どこか嬉しく大地は感じる。

「ねえねえ、あのさ」

  由衣が口を開いた。

「もしかして涼、好きな人できたんじゃない?」

  一同の動きが、それでピタリと停止した。

「まさか」

  最初に動いたのは大地だ。

「もしそうだとしたら、判りやす過ぎだろ」
「涼って、好きな人できたら、ああなるの~?」

  これは小夜子が訊いた。

「さあ」
「わっかんねえ」

  和也が言うと同時に、大地も首を傾ける。

「もし恋だったら面白いよね」

  由衣が、取りようによっては失礼なことを言い出した。

「だって涼ってさ、いつもツッコミ役で、クールぶってるじゃん?」

  今まで発生したことがない恋愛の話題が新鮮なのだろう。
  由衣こそが胸をときめかせているように見えた。

  マスターがグラスを2つ持ってやって来る。

「そのクールぶったツッコミ役なら、今来たぞ」

  4人が反射的に目を走らせる。
  カウンターには幸の薄そうな雰囲気を纏った涼がいつの間にか座っていて、ちょうど溜め息をついているところだった。
頬杖をついた体勢が、なんだか思春期の乙女のようだ。

  テーブルの上に飲み物を置いて、マスターがカウンターの内側まで戻り、涼の正面に立つ。

  誰かがごくりと唾を呑んだ。
  成り行きを見守らなければならないような、妙な緊張感が漂う。

「マスター」

  涼が静かに顎を上げた。
  続く言葉は、なかなか衝撃的だった。

「マスター、何か、何か……、胸の痛みを和らげる飲み物を下さい。……下さい」

  どうして2回言ったのだろうか。

  大地が紅茶を盛大に吹き出す。
  和也のグラスを持った手はピタリと止まり、小夜子は口を半開きにさせて固まった。
  由衣の瞳孔が開く。
  全員が涼に見入った。

  マスターがズボンのポケットから煙草を取り出し、火を点ける。
  ゆっくりと煙を吐いた。

「薬局に行け」
「この痛みは、薬じゃ癒せないんです。……癒せないんです」

  無言のままでマスターはゆっくりと深く頷いた。
  ウォッカのボトルを手に取り、ショットグラスに注いで涼の前に置く。

「未成年者に飲ませられない物だが、内緒にするなら私が奢ろう」
「いただきます」

  高校生は制服姿のまま、グラスを一気に煽った。

  涼たち5人が高校3年生になったばかりの4月。
  この町にはまだ散り終えていない桜が目立っている。

  赤ん坊が消えたのは、この翌日のことだ。
  涼がうっとりとした目で、再び溜め息をついた。



  続く。

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プロフィール
HN:
めさ
年齢:
41
性別:
男性
誕生日:
1976/01/11
職業:
悪魔
趣味:
アウトドア、料理、格闘技、文章作成、旅行。
自己紹介:
 画像は、自室の天井に設置されたコタツだ。
 友人よ。
 なんで人の留守中に忍び込んで、コタツの熱くなる部分だけを天井に設置して帰るの?

 俺様は悪魔だ。
 ニコニコ動画などに色んな動画を上げてるぜ。

 基本的に、日記のコメントやメールのお返事はできぬ。
 ざまを見よ!
 本当にごめんなさい。
 それでもいいのならコチラをクリックするとメールが送れるぜい。

 当ブログはリンクフリーだ。
 必要なものがあったら遠慮なく気軽に、どこにでも貼ってやって人類を堕落させるといい。
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