夢見町の史
Let’s どんまい!
April 20
待ち合わせの駅で腕時計を確認し、俺は15分早く来てしまったことを後悔する。
改札口を行き交う人々の中に、見覚えがある顔はない。
俺は心の中で大きく叫ぶ。
「その記憶は遥か忘却の彼方に!」
つまり俺は、 空手部の連中に時間を守る奴が1人もいないことを忘れていた。
高校時代、共に汗を流した仲間たちと俺は今日、久々に逢う。
空手部の皆と飲み会なんて、かれこれ10年振りだ。
その間、母校であるK高校は廃校となり、今では専門的な学校の校舎に生まれ変わっている。
俺たちの場所だった道場も、噂によれば教室に作り変えられているらしい。
母校は3両編成のローカル線で5駅目。
当時は練習後、あえてそれには乗らず、歩いて帰り、お喋りを楽しんだものだ。
そこで俺は待ち合わせ場所に皆が集合したあと、提案するつもりだった。
「今から校舎を見に行かないか? そこから当時のルートを歩いて戻ってさ、街並みがどう変わったのか見ようよ。飲む店はその途中で適当に決めようぜ」
当時、必ず買っていた焼き鳥の屋台はまだあるだろうか?
お気に入りのコーンポタージュを置いていた自販機は、今は春だから売り物を変えているだろうな。
そんなことを思っていた。
俺は自然と微笑みを浮かべる。
あいつらなら、俺の提案に反対しないだろうな。
ただ、待ち合わせ時刻に誰も来ないとは計算外だ。
17時にあの改札口で。
奴らにそのままの時間を伝えたのは失敗だった。
16時って言えばよかった。
ばかばっかりだ。
悪友であるトメにいたっては、17時ちょうどに俺に電話をよこし、
「今日って何時集合だっけ?」
言葉を失うほどびっくりさせられた。
お前!
昨日ちゃんと確認の電話入れただろうが!
後輩が「トメさん夕方の6時集合だって思ってますよ」って言ってたから、俺電話したじゃん!
6時じゃないぞ、5時だぞって!
あのときのお前の「解った」って返事は幻か!?
「その電話のせいで俺、6時だと思ったんだよ~」
意味わかんねえ!
不思議すぎて突っ込めねえよ!
自分の腕のなさを実感させられたわ!
こうして「10分遅れます」とメールをくれた後輩は20分後に到着し、「15分遅れます」と言ってた奴は30分後に来た。
それでもまだ「1時間後に行く」とかちゃんとしてない奴ばっかりで、俺は早々と校舎見学を諦める。
トメに至っては、予想到着時刻すら知らせてこない。
みんな、相変わらず自由で何よりだ。