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夢見町の史

Let’s どんまい!

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2024
March 19
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2011
December 17
 どうやら2回で、僕のプロポーズは成功したみたいだ。

「僕が、君のお婿さんになってあげる」
「なんか男らしくないー」

 それならと、僕は僕なりに頭を捻る。
 じゃあ、これならどうだろう?

「…一生、君を守るよ」
「それだったら、まあ、いいかな」

 あの頃は毎日のように遊んでいたっけ。
 僕の初恋はとても早くて、当時はまだ3歳だった。
 お相手は近所に住む同い年の子で、名前はさっちゃん。
 黒いふわふわの髪が印象的な、明るい女の子だ。

 マセているというか、あの時は子供ながらに相思相愛で、結婚の約束までしてたっけ。

「あたしが16歳になったら結婚しよー!」
「ダメだよ、さっちゃん。男は確か、18歳にならないと、結婚できないんだよ」
「じゃあ、なおくんが18歳になったらね!」
「うん!」
「いつなるの?」
「えっとね、えっとね、今3歳だから、ずっと先の3月!」
「どんぐらい先?」
「わかんない。18歳になったら!」

 それで、近所の大桜の根元に2人で作った婚約指輪を埋めたんだった。
 懐かしいなあ。
 今もまだ埋まっているんだろうか。

 さっちゃんは、元気にしてるかなあ。

------------------------------

 なおくん、今頃どうしてるのかなあ。
 凄くカッコよくなってたりして。

 あの頃、あたしのせいで肩を大怪我しちゃってたけど、傷になってないかな。

 女の子ってゆうのはどんなに幼くても女の子だ。
 まだ3歳だったけど、あたしはそのときからお洒落するのが大好きで、いつもお気に入りの帽子を被っていた。
 なおくんという同い年の男の子のことが大好きで、その帽子も彼のために身に付けていたものだ。

 当時、あたしたちは両想いで、今となっては恥ずかしいんだけど、いつでも一緒にくっついて遊んでた。
 公園なんかにも行ったし、近所の高校の裏に丘があって、そこでもちょくちょく探検ごっこしてたっけ。
 桜の花びらがまるで大雪みたいに降ってて、凄く綺麗だった。

「あっ!」

 突然吹いた風に、お気に入りの帽子が飛ばされる。
 帽子はふわふわと空に上って、やがてゆっくりゆっくり、木の葉みたいに右に左にと揺られながら落ちてきた。
 崖から突き出た岩に、ふわっと帽子が着地して、あたしは泣き出しそうになる。
 大人でも手が届かないぐらいの高さに、帽子が引っかかってしまったからだ。

「ちょっと待ってて、さっちゃん」

 なおくんが迷うことなく崖にしがみついた。

「いいよう! なおくん、誰か呼ぼうよう!」
「大丈夫! すぐ取るから待ってて!」

 落ちたら死んじゃう!
 なんて、今となっては有り得ない危機感を、その時は持ったものだ。
 それでも当時は幼いながらも真剣に心配してて、あたしはずっと声を張り上げ続けた。

「もういいよう! なおくん! 降りてきてよう!」
「平気平気! 落ちるわけな…!」

 そして彼は落ちた。
 なおくんは帽子を取るときに手を伸ばしすぎたせいで、バランスを崩してしまったのだ。
 なおくんの左肩から血が滲んでいるのを見て、あたしは帽子のことなんかどうでもよくなって、大泣きしながら大人の人を呼びに走り回った。

 何針縫ったとかなんとか。
 後日になって、親がお詫びのために、あたしと一緒になおくんの家まで行ったんだったなあ。

 なおくんは怪我をしたにもかかわらず、いつも通りの笑顔で、「はいこれ!」って帽子を返してくれた。

 あたしたちは絶対に結婚するんだって、お互い決めてて、それは運命なんだって当たり前のように思ってて…。
 でも、そうじゃなかった。

 あたしのパパが転勤することになって、この町を引っ越さなきゃいけなくなった。

「なおくん、ごめんね。ごめんね」
「やだ! さっちゃんが遠くに行っちゃうの、やだよ! いつか帰ってくる?」
「わかんない…」
「じゃあ僕が18歳になっても結婚できないじゃん! さっちゃんなんて、嫌いだ!」
「なおくん…」

 あれが最後の大喧嘩だったなあ。

 向かい合わせになった電車の席に座り、あたしはママの横でしょんぼりと下を向いていた。
 この町を出ることなんかよりも、大好きななおくんにもう逢えないことと、そのなおくんに嫌われてしまったことが悲しくて悲しくて、とてもじゃないけど顔を上げることができなかった。
 目を閉じると、今にもなおくんの声が聞こえてきそうな気がする。

「さっちゃーん!」

 そう。
 なおくんはいつもあたしの名を呼んでくれてた。

「さっちゃーん!」

 よほどなおくんに逢いたいのか、錯覚の声が大きくなってきているような気がする。

「さっちゃーん!」

 え?
 本当に聞こえてる…?

 車窓を押し上げ、身を乗り出す。
 そこには、息を切らせたなおくんの姿が。

「なおくん!? なんで!?」
「さっちゃん、これ!」

 なおくんが手渡してくれたのは、茶色いクマのぬいぐるみだ。

「プレゼント! 大事にしてね」
「なおくん…」
「また逢えるよね? それまで寂しいと思って、ぬいぐるみ」
「なおくん! 大好きだよ! また逢おうね! 絶対絶対逢おうね!」
「うん! 待ってるよ! 元気でね! …元気でね、さっちゃん!」

 発車を知らせるベルがなって、やがて電車が進み始める。
 なおくんは、電車の速度に合わせて駆け足になった。
 あたしも座席から降りて、車内を進行方向とは逆に走り出す。
 手を、大きく大きく振りながら。

 あれから14年、かあ。
 懐かしいなあ。

 今になって彼のことを思い出す理由が、あたしにはあった。

「間もなく~、桜ヶ丘~、桜ヶ丘~」

 またまたパパの都合で、あたしたち一家は元の町、この桜ヶ丘に戻ってくることになったのだ。

 さすがに街並みは昔のままじゃない。
 なおくんの家も、どの辺りなのか思い出せないし、すぐに見つかるとも思えない。
 けど、逢えたらいいな。

 なんてことを葉書に書き連ね、ポストに投函する。
 これがラジオに採用されて、運命の人に聴いてもらえますようにと祈りを込めて。

 あたし、帰ってきたよ、なおくん。

------------------------------

「ちょ、やめてくださいっ!」
「ああ~ん? いいじゃねえかよ~? ちょっと付き合えよ、ね~ちゃ~ん、コラァ~」

 なんだか穏やかじゃない声を聞いたような気がして、反射的に僕はビルとビルの間を覗き込んだ。
 思わず息を呑む。

 女の子が、2人組の不良に絡まれているじゃないか!

「お茶しに行こうぜ~? カワイコちゃ~ん。あっあ~ん?」
「やめてください! は、離して…!」

 女の子は壁に背を付けていて、2人がそれに覆いかぶさるような体勢になっている。
 不良の片方が彼女のメガネを取って地面に放る。

「ちょ…! なにするんですか!?」
「言うこと聞かねえと、もっと酷いぜ~? コラァ~」

 は、早く止めに入らないと!

 僕は震える足をガクガクさせながら前に出した。

「や、やめなよ! 嫌がってるじゃないか!」
「ああ~ん?」

 不良たちが僕に注目する。
 このままどうにか2人をおびき寄せて、女の子が逃げられるようにしないと…!
 僕はごくりとツバを飲んだ。

「嫌がってるのを無理矢理連れて行くのは、よくないよ」
「なんだあ? テメー、生意気じゃねえかコラァ!」
「ぶっ飛ばすぞコラァ!」

 胸ぐらを掴まれ、壁に押し付けられる。
 横目をやると、女の子は胸の前で手を組みながら、その場でおろおろと佇んでいる。
 なにやってんだ!
 そのままどっかに逃げてくれ!

「テメー! よそ見してんじゃねえぞコラァ!」

 僕を壁に押し付けている男が拳を振り上げた。
 ばきっ!
 という音が頭の中に響いて、僕は地面に尻餅を付く。

「いてて…」
「カッコ付けてっからそういう目に合うんだコラァ!」
「西高の風神テツと雷神カズをナメんじゃねえぞコラァ!」

 そのとき、「ピー!」と甲高い高音が鳴り響く。

「こらー! お前ら、そこで何やってる!?」

 お巡りさんだ!
 助かった!
 不良たちがうろたえる。

「やっべえ! ポリ公だ!」
「お、覚えてやがれ!」

 警察官に追われ、不良たちはどこかに走り去っていった。

「あの…」

 胸の前で手を組んだまま、女の子がこちらに歩み寄ってくる。
 彼女はハンカチを取り出すと、それをおずおずと僕に差し出してくれた。

「痛い、ですよね? すみませんすみません」
「いやいや、僕は大丈夫。それより、君は? 乱暴なこと、されなかった?」
「あ、あたしは大丈夫です」
「そっか、ならよかった…」

 女の子を見ると、彼女はさっき外されたメガネを拾ったらしい。
 いつの間にか分厚くてまん丸なメガネをかけている。
 かなり目が悪いようだ。

「痛く、ないですか?」
「大丈夫大丈夫!」

 差し出されたハンカチで僕は口元を拭い、よろよろと立ち上がる。

「あの、ありがとう、ございました」

 うつむいたまま、彼女は小声でそう言った。
 自分のせいで僕が殴られてしまったのだと、責任を感じているんだろう。
 暗い声色だった。

「大丈夫だよ、僕は。あ、ごめん。ハンカチ、汚しちゃったね。洗って返すよ」
「いえ! 大丈夫です!」

 あまりに強く言い切られてしまい、ついハンカチをそのまま返す。

 じわじわと、危機が去ったことを実感した。
 なんだか安心してしまい、僕は思わず本音を口にする。

「無事に済んでよかった。…けど、怖かった~」

 その一言に彼女はクスリと笑い、やがて僕らは2人で大笑いした。

------------------------------

「あの、お名前、教えてください」

 訪ねると彼は、

「いやいや、そんな! 名乗るほどの者じゃないよ! たいしたことできなかったしね」

 そう遠慮して、そそくさとどこかに行ってしまった。

「あ、待ってくだ…!」

 しかし言うのが遅くて、彼の後ろ姿はあっという間に雑踏へと消えた。

「なんでもっとちゃんとお礼言えなかったのよ~! あたしのばか~! …あれ?」

 さっき彼が転んでいたところに、何か落ちてる。
 なんだろう?

 拾い上げてみる。
 それは生徒手帳だった。
 手帳には見覚えがある。
 あたしと同じ、桜ヶ丘学園の生徒手帳だからだ。
 彼のかも知れないと思って中を開くと、案の定。
 優しげな目をしたあの人が写っている。

「近藤、直人…?」

 まさかね。
 あの人が実はなおくんだった、なんて話が出来すぎてる。

 あたしはクスリと笑って、歩き出す。
 手帳にある住所に向かって、さっきのヒーローに落し物を届けるために。

------------------------------

 生徒手帳を届けてくれた彼女は畑中早苗と名乗った。

「わざわざ、ありがとう」
「いえ、とんでもないです!」

 彼女はあたふたと両手をバタバタ降って、その振動でズレたメガネを慌ててかけ直す。

「助けてもらったのに、ちゃんとお礼できなくてすみません!」
「そんな! 気にしないでよ。なんだか僕のほうが恐縮しちゃうからね」
「あ、はい! そうですよね!? すみません!」
「いやいやいやいや」
「じゃああたし、これで失礼しますっ! さっきは本当にありがとうございました!」

 ガバッと勢い良くおじぎをして振り返ると、そのまま走って、彼女は行ってしまった。
 とっても慌ただしい子だなあ、とその時は思ったものだ。

 本来ならこの縁はここで終わるんだろうけど、でもそうじゃなかった。

 2年生の秋。
 印象的なメガネを廊下で見かけ、ふと立ち止まる。

「あ、あの時の…」

 廊下で同時に口をポカンと開け、しばらく2人とも固まってたっけ。

「桜ヶ丘の生徒だったんだ」

 と、僕。
 すぐ隣の教室に畑中さんがいたことを、当時の僕は知らなかったのだ。

「あたし、転校してきたばかりなんです」
「あ、そうだったんだね」

 廊下の真ん中で彼女は指をもじもじと絡ませ、うつむいていた。

 そんな時、次の授業を知らせるチャイムの音が。

「あ、教室に戻ら…、きゃあ!」

 焦って急ぎ足になったからなのか、彼女は何もない床につまずいて転んだ。
 その反動で、畑中さんのメガネが落ちる。

「大丈夫!?」

 手を貸すために、僕はしゃがみ込んだ。

「ありがとう」

 その目を見て、胸が激しく高鳴る。

 こんなに可愛らしい目をしていたなんて、メガネが厚いせいでちっとも知らなかった。
 彼女の綺麗な瞳が真っ直ぐ僕に向けられている。

「あの、あたしの、メガネ…」
「え!? あ、ああ! あそこだ! はい、これ」
「あ、ありがとうございます」

 人前で転んでしまったことが恥ずかしかったのか、彼女はそのまま教室へと駆け込んで行く。
 僕はポカンとその場に取り残された。

 畑中早苗さん、か…。

 ふと、初恋の人が頭をよぎる。
 さっちゃんの「さ」は、早苗の「さ」…?
 なんて、まさかね。
 そんな上手い話、あるわけがない。

 僕は苦笑いをしながら自分の教室へと戻る。



 第2話「募る想い」に続く。
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/458/

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 参照リンク。
【ベタを楽しむ物語】春に包まれて
http://yumemicyou.blog.shinobi.jp/Entry/380/

拍手[14回]

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無題
めささんの小説は毎回楽しみにしてます。
 
不良の「あっあ~ん?」に爆笑してしまいました。

続きを期待してます(*´∇`)

沙和: 2011.12/17(Sat) 20:04 Edit
はじめまして、
こんにちは。
めしさんの動画、いつも楽しく拝見しています。

小説は初々しくて、続きが気になります。

では、お身体に気を付けて。
春風: 2011.12/18(Sun) 15:54 Edit
無題
こりゃすごいですね。
自分も小説書いてみたいと思っているのですが、
参考になります!
続き楽しみにしています。
cry: 2011.12/19(Mon) 18:14 Edit
無題
良いですねぇ〜さすがめささん!
不良がトメさんにしか見えなかった笑
今後の展開に期待してます!
hhirrobright: 2011.12/23(Fri) 10:40 Edit
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プロフィール
HN:
めさ
年齢:
48
性別:
男性
誕生日:
1976/01/11
職業:
悪魔
趣味:
アウトドア、料理、格闘技、文章作成、旅行。
自己紹介:
 画像は、自室の天井に設置されたコタツだ。
 友人よ。
 なんで人の留守中に忍び込んで、コタツの熱くなる部分だけを天井に設置して帰るの?

 俺様は悪魔だ。
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 本当にごめんなさい。
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